俺がヒロイン 作:愛夢広入
程好くキメの細かい白い肌。手入れの届いたマゼンタ色の長い髪は艶やかに煌めく。鮮やかな赤の瞳は全てを惹き付け、吸い込んでしまう宝石のよう。どこか儚げであり、そしてどこか妖艶な少女。まるで物語から出てきたようだ、なんて在り来たりな言葉で形容する他ないほど美しい。誰もが一目見れば息を飲んでしまうような少女がいた。
「俺である」
鏡の前に立ち尽くす。目を瞑り、開くと寸分狂わず美少女がいた。正直に言えばかなりの好みであり、普段のキャラも忘れナンパしてしまいそうになるほどの美少女である。しかしそれは――
「――そう、俺である!」
俺だったのである。俺が動かした場所を鏡の中の美少女も動かす。美少女は揺るぎなく俺であった。
最近流行りのバーチャル的なことではない。鏡ではなく自身の体に視線をやるがそこには馴染みのある男の体ではなく華奢な体がある。服の隙間から男女其々のそれを確認してみれば、ないしある。下が引っ込み上が主張していた。上に手を当ててみると程よい感触と大きさであることが確認できる。何がとは言わないが色も完璧であろう。
「圧倒的だ……圧倒的な美少女がここにいる」
俺が俺と結婚できるならそうするレベルの美少女っぷりだ。過去一番と言っても過言では……いや、そうでもないか。
目を瞑り、過去を振り替える。これまでに接してきた少女達を思い浮かべていく。
ポニーテール大和撫子侍ガール、ツインテール中華元気っ娘、クールビューティーブラコン、イカれた天災ウサギシスコン、アイツの妹に後輩に先輩に未亡人に教師に――あれ、美少女多すぎでは?
しかしそれは当然と言えば当然であった。俺は兎も角、一夏も弾もイケメンである。一夏に至っては国宝レベルのイケメンだ。であれば集まってくる人の中にはそれ相応のレベルの美少女も混ざってくる訳である。
「待てよ、ということは俺は彼女らに勝たなければならないのか?」
もう一度鏡を見る。そこにいるのはやはり美少女であった。しかし、脳裏に浮かんだ美少女達と比べると断トツかどうかと言えばそうとは言えない。俺の好みではド真ん中ストライクであるが、それでは意味がないのだ。
俺がヒロインとして勝ち残るには奴の好みに合わせる必要がある。であれば、その好みに――
「そう言えば俺は一夏の好みを知らない」
振り返ってみれば恋バナと言うものを俺達はしたことがなかった。したことがないのは仕方ない。別の方法を考えるとする。
「だからと言って一夏がトキメいたところを見たことはない」
思い出そうとすればするほど、一夏と美少女が結び付かない。あれ、一夏ってばソッチ側の人間だったのか? なら女体化したのは悪手か? いや、俺はホモではない。男同士は趣味ではないのだ。やはり男女でするからこそのラブコメであろう。
それに、酔っ払った千冬さんにハグされて胸を押し付けられた時は赤面していたしやはり一夏がホモということはない。
「なら、千冬さんに似せるか?」
何故か色が変わり伸びてきた髪を後ろで縛り、キリッと鏡を睨む。眉を潜め、若干頬を赤らめる。そして部屋の隅にある束さんのコスプレ用タンスからスーツを取り出し身に纏う。
「ふむ」
タイトスカートから伸びるのは黒タイツで色香を振り撒く美脚。スリットから覗くそれは一際艶やかである。ラインの出やすいスーツだったので、女性らしいシルエットがこれまた美しい。スーツというカッチリとした服装と女性らしさのギャップが凄まじい効果を発揮している。髪がピンクいので人によってはそこまでではあるが、十分に美人だ。
「……しかしダメだ。ただの二番煎じでしかない」
下位互換、劣化でしかなくなる。できあがるのは千冬さん擬きだ。そんなもので美少女達に勝つのは難しいだろう。
「となるとこれまでにいなかった美少女を、キャラ設定を試すか」
◆
「――これだ」
ギャルがいた。動きに合わせ揺れる黒いシュシュで纏められたマゼンタ色のサイドテールが揺れ、女性特有の甘い香りが周りに漂う。その動きに合わせ、短いスカートが上下し男心を擽る。
そして浮かべる笑顔は小悪魔スマイル。露出させるところはとことん見せ、見せないところはとことん隠す。メリハリを利かせ、わざとらしいポーズを取っていく。
身につけたアクセサリーも服装もネイルも“あざと可愛い”ギャルそのものであった。
「これまで一夏に近づいてきたギャルはいない」
通っていた中学が比較的真面目なところということもあり、あまりギャルがいなかった。その中でも俺達に近付いてきたギャル曰く、爽やかイケメンの一夏よりもどちらかと言えば弾のようなイケメンの方が好みと言ってそっちにアピールしていたのだ。
であれば一夏にとっては新鮮な女性であり、印象に残るだろう。加えてギャルの性質上、露骨にアタックしやすい。
織斑一夏という男はこれでもかという程鈍感で、どれだけわかりやすい反応をしていても響かないのだ。それに、一夏が様々な意味でイケメン過ぎて直球に好意を伝えるような奴はいなかった。
一夏史上、もっとも近付いた中華娘ですら恥ずかしがって誤魔化すばかり。一夏の中では仲の良い幼馴染止まりだろう。
しかし、俺ならば臆することなくいくことができる。それに複数の幼馴染がいる一夏の中で、俺は出会った速度も一緒にいる長さも一番だ。ナンバーワン幼馴染と言っても過言ではない。
「では早速一夏にアタックしに行こう」
善は急げ、そう思い部屋から出ようとしたところで扉が開いた。
「お前、誰だよ?」
無表情の篠ノ之束がそこにいた。空気がピリつき、彼女が一歩近づく度に空気の重さが増していく。
「あーくんに呼び出されたからついでに、ここの整理でもしようかと思ってきてみれば……どうやって入ってきたかは知らないけど束さんの部屋に勝手に入るなんて、よっぽど命がいらないみたいだね」
「? 束さん、俺、俺」
「は? 対面で俺俺詐欺とか馬鹿じゃないの? ここまで虚仮にされたの束さん初めてだよ」
「いやいや、俺だよ? 愛賀飛鳥。さっきも会ったじゃん」
「はぁ、もういいよ。あーくんの名前まで出して。よっぽど苦しんで死にたいようだね。だいたいあーくんは男だし、嘘をつくにしてももっとマシな嘘をつけよ。お前みたいなピンク女があーくんの訳ないだろ。それとも何? あーくんが女になったとでも言――」
そこまで言ったところで束さんの動きが止まる。そしてガタガタと震え始め、どこからか取り出した機械を俺に向けて操作し始めた。
「いやいやいや、そんな確かに女体化とかいってたけど。そんな馬鹿な話が……ま、まだ早い。女になってる部分を除けば細胞レベルであーくんだけど、ク、クローンの可能性もあるから。……あっ、ダメだ脳の中身もあーくんだ。完全にこれあーくんだ。えー……どうなってるの……? そもそもどうやって? ま、まさかここに置いてあったプロトタイプのISコアを使って? そんなこと可能なの? 有り得ない話ではない……いや、有り得ない有り得ない。意味がわか――」
そして一通り終わったのかその場で頭を抱えてブツブツと呟き動かなくなった。
「じゃぁ、束さんまたね」
このままこの場にいても意味がないので立ち去ろうとしたが、束さんの横を通りすぎようとしたところで腕を捕まれた。
「俺、急いでるんだけど」
「良いからこい」
「いや、でも」
「良いからこい」
「で――」
「こい」
「はい」
そしてこのまま精密検査や諸々の手続きのため一年間拉致られることをこの時の俺はまだ知らない。
これが二話目でも良かったような気がする。
それはそうと、赤くなってビックリ。感想、お気に入り、評価ありがとうございますね。赤いのは思ったより嬉しいですね。
主人公の容姿描写を細かくいれようかなと思いましたが、断念。過去に書きなぐったTSものの描写をパクって持ってこようと思って見返してみたら変態描写しかなくてビックリ。私ビックリ。
なので容姿は好きに妄想してどうぞ。
チョロチョロ書いてくので、付いてこれる人はついてきてね。