夜と俺と宇宙と翼と 作:ワシじゃよ
空も青みがかって、この地面の向こうの向こう側が橙に染まり出す。
仲間達との暫定最後のどんちゃん騒ぎも終わり、俺は孤独感に苛まれていた。
この夜が終われば俺は暗闇から明るみに行かなければいかない。それが仲間達もそれを理解していて、いつもより一段と豪勢で、一層寂しいパーティーだった。
しょうがない。神様の悪戯か、それとも悪魔の嫌がらせか、俺は2人目に選ばれてしまったのだから。
それが俺、
スマホを見てみると、溜まりに溜まった不在着信やメールが俺の重要性を示していた。その中で一番上にある番号を押して、諦めとともにスマホを耳にあてがった。
「ども。迎えはいらないんでホテルで待っててください」
2人目を保護してくれるありがたい方々だ。慌てた声で今の場所を聞き出されて、なし崩しに迎えを待つ羽目になった。過保護だなんて思わない。俺だって自分自身の価値をわからないような馬鹿ではないのだから。
カラカラと笑いながら煙草を加えて火をつける。
「まあ……許してくださいよ。こっち側に来れるのは今日が最後だったんですから。後はもう、礼儀正しく行きますよ」
宙に吐き出されて、風にさらわれて消えてしまう。
薄い紫煙が俺の未来を暗示しているように思えた。
◇◆◇
「はい! じゃあ自己紹介を始めましょう! 五十音順で!」
IS学園。正式な名前をIS操縦者育成特殊国立高等学校。全世界に一つだけ存在するISの操縦を教える学校であり、世界中から凄まじい倍率を超えてエリートが集まるその学校の1-1の教室は神妙な雰囲気に包まれていた。
頭を抱える男と、頬杖をついて窓の外を眺める男。そしてその男達を穴が空かんばかりに凝視する女子達。無理もない。彼らはこの学園でたった2人の男子であるどころか、世界を見てもたった2人の男子なのだ。
自己紹介も進み、頭を抱えている方の男子の番だ。よっぽど切羽詰まっていたのだろう。副担任である
一言一句を聞き流すまいと女子達が身を乗り出し、それがさらに彼の緊張を加速させる。
「えっと……
彼こそが1人目の男子。その珍しさや姉のこともあり、多いにニュースを騒がせたものだ。当然その注目度は天井知らずで、女子達の反応もうなずける。
が、しかし。彼は言葉に詰まり、教室に不快な沈黙が流れる。
「……以上です!」
期待外れな言葉に、教室中がズコーッ! と、やたら古めかしい反応を取る。と同時に、彼の頭を何者かが叩いた。
間抜けな声を上げながら振り返る彼を見下すのはスーツを着た美しい女性だ。
「自己紹介もロクにできんのか、お前は」
「ち、千冬ねえ!?」
「学校では織斑先生だ!」
彼女が彼の姉、
彼女は自分へ向けて黄色い歓声を上げる女生徒達に軍隊のような言葉を浴びせかけるが、さすがは世界一の人気者、女生徒達はそんな言葉にも喜んで、歓声を上げる。
彼女はそんなクラスの有様に呆れて見せると、時計を確認しながら言う。
「さて、もうこの
「うす……」
さあ、今度は2人目に注目が集まる時だ。名前を呼ばれた彼は曖昧な返事をして、焦げ茶のドレッドヘアを後ろに撫でつけながらゆっくりと立ち上がった。
「あー……日向 小夜です。趣味は音楽観賞と……あと読書です」
180前後の身長と筋肉のついた体、さらに言うなら中々の悪人面からは想像もできないような大人しい趣味に眉を潜める生徒もいた。名前については散々ニュースで騒がれていたから、今更驚くようなものでもないだろう。
「人相とか、あとニュースで流れてたことで怖がってる人も居るかもしれないですけど、ほんとに怖い人間じゃないんで仲良くしてくれると嬉しいです!」
彼の言う通りに、ニュースでは随分と彼の悪行が垂れ流されていた。"2人目の男性操縦者は不良少年!? "って具合にだ。どこから見つけてくるのか、非行仲間との集まりの写真だとか喧嘩の動画だとかがプライバシーガン無視で公開されていたために、彼の評判は地に落ちていることだろう。
笑顔と共に軽く頭を下げて着席すると同時にチャイムが鳴り、少しは教室の雰囲気もマシなものになった。最後に千冬が次の授業の通知と行い、張り詰めたHRはお開きとなった。
さて、ここからが問題、もといここからも問題だ。
同じクラスの女子達だけでなく、同じようにHRを終えた他のクラスの女子達もこの教室の様子を覗き見に来て、彼らは教室の中と外から何百もの視線に晒される羽目になった。
「わ、私声かけてみよっかな!」
「行ってみなさいよ!」
「ちょっと! 抜け駆けは禁止!」
と言った具合で、軽い牽制合戦も始まっている。
その中で小夜は席を立ち、もう1人の男子、つまり一夏の方へと歩を進める。
いきなり喧嘩!? だのヤキ入れる気ね! だのと大声でヒソヒソと騒ぎが広まる。彼は気にした様子もなく、一夏の机にドカッと腰掛け───
「よっ! 一夏! 久しぶりじゃねーかこの野郎!」
───彼の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫で始めた。一夏は緊張から解放されたようで、パァッと笑顔になって小夜の胴を抱きしめる。
「小夜! やっぱり小夜なんだな! めっちゃ変わってたから声かけるか凄い迷ったんだぞ!?」
「へっへっへ! 幼なじみに酷いことを! てかそういうお前こそ男前になりやがったなぁ! 何年ぶりだろなこれ!?」
「えっとな、小五以来だから……四年ぶりだ!」
今度は不安と言うより、驚きが教室を包んだ。なんならさよいちだのいちさよだのベーコンでレタスなお話をしだす婦女子もいる始末だ。幼なじみ2人組はそんな周りを歯牙にも掛けず、再開を喜び合っていた。するともう1人、その2人に近づいていく女子がいた。黒の長髪をリボンで括った少女だ。
「本当に久しぶりだな、一夏、小夜」
「おう! 箒! まさかこんなところで2人に会えるなんてなぁ!」
「ああ、全く驚きだぜ! へへへ! 運命ってのはあるもんだ!」
「どうだ、こんな場所では積もる話もできやしない。三人で屋上にでも行こう」
それはいい! 名案だ! と同意した彼らは幼なじみ三人組で連れ立って教室を出て、入学パンフレットに載っている学内地図を見ながら屋上へ向かう。そんな彼らを邪魔できるわけもなく、ギャラリーは素直に退いて道を譲った。
「まるでモーセの海割りだったな!」
カラカラと笑う小夜につられて2人も笑い出す。その光景が彼らの仲の良さを表していた。
「いやしかし、ニュースを見たときは驚いたぞ」
「本当にな! 昔は喧嘩っ早かったけどそんなんじゃなかっただろ?」
「人生色々さ……俺だって驚いたんだぜ? まさか一夏がIS動かすなんてなあ」
「全く持ってその通りだ。初めて聞いたときは腰を抜かしそうになったぞ」
楽しげに話す三人組。タイプの違う彼らだが、妙にバランスが取れていてお似合いな雰囲気だ。
「そう言う箒だって、剣道の中学全国大会で優勝してたじゃないか」
「あ、それ俺も見たぜ。まさかそんなに強くなってるなんてなあ」
「ふ、2人とも知っていたのか!? 新聞の小さな記事に載ったくらいなのに……」
「俺は新聞ちゃんと読んでるからな!」
箒は頬を赤らめて、少し嬉しそうに照れて見せた。一夏はそれを純粋な嬉しさだと取ったが、箒が一夏に抱いている感情を悟っている小夜は小さくニヤリと笑う。
「俺の方は仲間が教えてくれてよ、やっぱり持つべきもんは友だわ。いやしかし、2人ともこの四年間はどうだった?」
「いろんなことがあったな……大変だったけど友達もいたし、楽しかったよ」
「私も色々だ……まあ、話せば長くなることだ。それより、今は再会を喜ぶ時だろう!」
と、その時に授業開始前の予鈴が鳴ってしまった。
三人は口惜しげに、しかし楽しく会話しながら教室へ戻った。