交響詩篇エウレカセブン パラライゼッド・オーシャン 〈B303 デビルフィッシュ開発秘話〉   作:オンドゥル大使

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ウォーヘッド

 

 コンパクドライヴからの逆流によってライダーの精神が汚染され、乗り手の意思以上の能力を発揮する現象のことだ。それは暴走と同義だった。

 

 その時、直上に上がって太陽を遮った影があった。モンスーノだ。アサルトライフルを構え、即時射撃モードにしているのが見て取れた。弾き出された弾丸はデビルフィッシュの肩口へと突き刺さる。デビルフィッシュの力が一瞬緩んだ。その隙を見逃さず、ピッグは推進剤を使って離脱する。モンスーノがデビルフィッシュへと突っ込んでいく。近接兵装のブーメランナイフが構えられる。デビルフィッシュは身体を開いて、モンスーノを迎え撃った。全身から四本のレーザーが撃ち出され、モンスーノへと襲いかかる。

 

 モンスーノはブーメランナイフを持つ腕を断ち切られ、脚を溶断され、頭部を貫かれた。

 

 バラバラになったモンスーノがスカブの大地へと吸い込まれていく。その背中へと送り狼のように、四本のレーザーが一挙に放たれた。背中からアーキタイプを貫き、腹から血が迸る。青いスパーク光を弾けさせ、モンスーノの姿が爆風と光の向こう側に消えていく。ピッグはスピアヘッドを上昇させながら、通信ウィンドウを開いて呼びかけた。

 

「ペインター? ペインター、応答してください。こちらピッグ」

 

『……ああ、駄目なんだ。何も見えない。どうなっているんだ、ピッグ』

 

 ペインターは錯乱状態にあるようだった。奥歯を噛み締め、ピッグはモニターしている本部へと入電する。

 

「……本部へ。武装の解放許可を申請します」

 

『止められるか?』

 

 息を詰めてモリタが問い返す。分からない。それでも、モンスーノ以外で止められるのは自分しかいない。

 

「やってみます」

 

『了解。武装の使用を許可する。言っておくがスピアヘッドには小口径レーザーが四基だけだ。泥仕合になる可能性が高い』

 

「それでも、やってみます」

 

 通信を切ると、武装がアクティブになっていた。小口径レーザー。デビルフィッシュと同じ装備だ。スピアヘッドは100を超えた高度で反転し、上空から四本のレーザーを撃ち放った。デビルフィッシュが最小限の動きで軽やかに避けて、応戦のレーザーを放つ。

 

 スピアヘッドは紙一重で回避し、身体を開いた。

 

 四基のレーザーは機体表面をフレキシブルに移動する。両手の甲へと移動させ、スピアヘッドは回転しながらレーザーを撃った。デビルフィッシュが推進剤で一気に上昇し、そちらも身体を開いてレーザー口を移動させつつ応戦の火花を咲かせる。すれ違い様に、二機は同時にレーザーを相手に向かって放った。どちらのレーザーも掠めるだけで致命傷には至っていない。

 

 コックピットが震える。

 

 操縦桿を思い切り引いた。

 

 スピアヘッドが即座に足を下に向け、推進剤で制動をかける。上空を仰いだ瞬間に、四本のレーザーが降ってきた。スカブの大地に突き刺さり、土煙が視界を覆っていく。

太陽光を反射させて、銀色の悪魔が降りてくる。

 

 スピアヘッドは肩口へとレーザーを移動させて目標へと放つ。土煙が円形に抉れ、渦を巻いた。

 

 スピアヘッドの機体が跳ね上がり、デビルフィッシュへと肉迫する。近接兵装は頭部にあるスピアだけだ。ほとんど体当たりする格好にならなければならない。だが、デビルフィッシュの機動はそれを許しはしない。ボードを盾のように翳してトラパーを弾けさせる。拡散したトラパーの波が一瞬だけスピアヘッドの視界を覆った。デビルフィッシュの姿がその一瞬で掻き消える。

 

「どこへ……」

 

 探ろうとしたピッグを激震が見舞った。背後からの接近警報が響き、照準警報がそれに重なる。スピアヘッドは咄嗟に背後へとレーザーを放つ。後ろに回っていたデビルフィッシュが回転しながら高度を下げていく。きりもみながら四本のレーザーが結界のように張り巡らされる。スピアヘッドは上昇に転じ、かろうじてレーザーの網目をくぐり抜けた。

 

『こちらモンスーノMS10、二番機。援護に入る』

 

 突然に耳朶を打った通信に、ピッグは声を張り上げた。

 

「馬鹿な。やめろ!」

 

 モンスーノで敵う相手ではない。その言葉を口から発する前に、モンスーノはスピアヘッドへと向かっていった。アサルトライフルを構え、ミサイルポッドの射出口を開く。薬莢を飛ばし、尾を引きながらミサイルがデビルフィッシュへと殺到する。

 

 デビルフィッシュは片手を払った。いつの間にか片手に集中していたレーザーが閃き、ミサイルを紙のように切り裂いていく。

 

 爆発の輪が広がり、空に光の牡丹を咲かせた。

 

 デビルフィッシュが幾何学の軌道を描きながらミサイルを引き裂きつつ、モンスーノへと接近する。引き裂かれた煙がトラパーに混じって汚い緑色の渦を巻いた。

 

 モンスーノはアサルトライフルを連射モードにして撃ち放った。デビルフィッシュにはしかし、一発も掠らない。デビルフィッシュの肩口からレーザー光が迸り、モンスーノの右肩を切り裂いた。切断面を赤く照りつかせながら、ずるりと腕が落ちる。アサルトライフルがスカブの大地へと吸い込まれていく。

 

 ブーメランナイフを左手に保持しようとしたモンスーノへとレーザーの光が斜に走った。

 

 次の瞬間には、モンスーノの機体が袈裟斬りにされていた。

 

 青いスパークが走った機体へと追い討ちをかけるかのように四本の細い光条が貫く。内側からモンスーノは膨れ上がって爆発の光に呑み込まれた。デビルフィッシュが上を流れていく。

 

 スピアヘッドのコックピットに収まるピッグは唾を飲み下した。

 

 ――勝てない。

 

 ライダーの生死を顧みていないデビルフィッシュは無敵の強さを誇る。ならば、自分はどうするべきか。通信ウィンドウが開く。

 

『ピッグ。聞こえているか』

 

 モリタの声だった。ピッグは、「聞こえています」と返す。

 

『もう、ペインターは諦めるんだ。どちらにせよ、あのマニューバで無事では済んでいないだろう。デビルフィッシュの破壊を許可する』

 

「無理だ。このままじゃ、よくても相打ちになる」

 

『そうなってもいい。デビルフィッシュの破壊を最優先にするんだ』

 

 ピッグは一呼吸置いた後、聞き返した。

 

「それは自分に死ねと仰っているんですか」

 

 応じる声はなかった。ピッグはデビルフィッシュを見据える。この場で唯一残った標的へと赤い眼が向けられている。悪魔の瞳を見返して、ピッグは腹を決めた。

 

「――了解。デビルフィッシュを撃墜する」

 

 スロットルを開き、フットペダルを押し込む。推進剤と「サーカス・マニューバ」が最大限に発揮される。腰蓑のユニットが開き、トラパーをまさしく全身で捉えた。

 

 スピアヘッドは身体を開いて、小口径レーザーを全身に移動させる。レーザーの光が煌き、デビルフィッシュを襲う。

 

 デビルフィッシュは下へと流れて、直上のスピアヘッドへと応戦の火線を上げた。すれ違い様にお互いへとレーザーを放つ。

 

 流れた機体を押さえるために推進剤を焚いて制動をかけ、今度は同じ高度で合間見える。

 

 腕を振るって二本のレーザーを迸らせ、デビルフィッシュの機体の速度を削ごうとする。しかし、デビルフィッシュはさらに速度を上げて、スピアヘッドへと突っ込んできた。ピッグは思わず速度を落として相手との距離を取ろうとしたが、直前で思い留まって歯を食いしばる。逃げても消耗戦を続けるだけだ。ならば――。

 

 スピアヘッドはデビルフィッシュへと角を突き出して体当たりを仕掛けた。デビルフィッシュの放ったレーザー四本が空間を走る。スピアヘッドの両腕が肘から切り裂かれ、着弾した脚が弾け飛んだ。それでも速度を殺さず、スピアヘッドはデビルフィッシュへと猪突した。

 

「サーカス・マニューバ」システムが赤色光に塗り固められ耳障りな警告音を発する。推進剤ももう限界だった。ピッグはフットペダルを、軋みを上げるまで押し込む。

操縦桿を倒し、スピアヘッドの機体が吸い込まれるようにデビルフィッシュの銀色の機体へと突き刺さった。

 

 デビルフィッシュの胸部へと頭部のスピアが食い込む。

 

 ピッグはコックピットの中で雄叫びを上げた。

 

 機体が震える。

 

 デビルフィッシュと共にスカブの奈落へと落ちていく。

 

 デビルフィッシュが推進剤を噴かして応戦の火花を咲かせた。スピアヘッドの胴体部分が断ち切られる。「サーカス・マニューバ」システムが途切れ、スピアヘッドから力が失われていく。ピッグは、推進剤を最後の一噴きまで使いきった。

 

 轟、と空気が割れ、デビルフィッシュを大地へと押し込む。デビルフィッシュの背後にはパイルバンカーが突き立っていた。この地に最初に降り立った時に印象的だった秒針のようなパイルバンカーへと、デビルフィッシュは押し込まれた。コックピット内が激しく揺れ、ピッグはディスプレイに頭をぶつけた。額から血が流れる。

 

 デビルフィッシュは痙攣するかのように震えた後、四方へとレーザーを撃ち放った。スカブの大地から飛沫が舞い散り、割られた積層がむき出しになる。最後の足掻きだったのかもしれない。それっきり、デビルフィッシュは動かなくなった。ピッグは顔を上げる。デビルフィッシュのコックピットから喉元へとパイルバンカーが突き破っていた。スピアヘッドの状態を見やろうとするが、もう限界だった。

 

 ピッグの意識はほどなくして闇に没した。

 

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