そして迎えた始業式の朝。まだ見慣れない部屋を見ることで、自分が俺ガイルの世界に転生してきたんだと改めて実感する。
顔、洗うか....
そう思うと俺はベッドから起き上がり洗面所へと向かった。
対照的に鏡には、見慣れた顔が写っている。言葉では表せないこの顔を無理やり表すなら、モブ・オブ・モブ。俺は生まれてこのかた、誰々ににてるね~。なんて言われたことがない。
ただ、俺はこの世界でイケメンになりたかったわけじゃない。さらに言うならば、この世界でヒロイン達にチヤホヤされたかった訳でもない。
じゃあなんでこの世界に来たんだ、と言われると、正直俺はこの世界に何か目的があってきたわけではないのだ。あの時は、とてもちゃんとした思考ができる状態じゃなかったし、きっと俺はただ単純に俺ガイルの世界に来たかっただけなのだと思う。
ならば、俺がこの世界でしたいこととは。
俺がこの世界でなすべきこととは。
そこまで思うと、俺はまだ自分が朝食を食べていないことに気づく。
そういえば昨日、明日は早めに来てね、と言われていた。
初日から遅れる訳にはいけない。
その後、急いで朝食を食べ制服に着替えると俺はすぐに家を出た。
やっべぇぇえ!めっちゃ緊張するぅぅぅ!
俺は編入先のクラスの扉の前でこれ以上ないほど、緊張していた。
だってこれから本格的に俺ガイルの世界へと入っていくんだぜ!?一昨日はたまたま三浦を見かけたけど、ちゃんと関わっていくのはこれが初だ。
ていうか、大丈夫か?俺。今までろくにクラスメートと話した事なんてないすよ。なのに、急に憧れのキャラ達と話せとか無理ですやん。さては、あの神、ハードモードにしたな?そっか、じゃあ俺がコミュ障発動してもしょうがないか!大丈夫だよ!俺!
「じゃあ、後藤君、入ってくれるかな」
担任の先生にそう声をかけられる。
よっしゃ気張れ俺。これが最初の1歩なんだ。今まで胸を張れない人生だったが、ここだけは堂々と入って行くんだ。この扉は喜びの扉だ。
そうして俺はクラスの扉に手をかけた。
「じゃあ名前と、好きなこととかでいいから。自己紹介してくれる?」
「は、はい!えー、転校生の後藤貴弘です!読書が好きです!えぇっと、、よろひ!、、あ、、よろしくお願いいします!」
「はい、拍手ー」
パチパチパチパチ....
くっそー....噛んだー....恥ずかしい....やべぇ立ち直れねぇよ....
「そしたら、後藤君は....比企谷の後ろに座ってもらえる?」
「あ、はい....」
.... おぉ、ヒッキー...!めっちゃ感動する!今、目の前にヒッキーがいる!ヤバい泣きそう!
比企谷の姿は、当たり前だが、原作そのままで目は腐ってるし、そこそこいい顔立ちも、全てが俺が読んでいた俺ガイル通りだった。
しかし、席について見ると何か違和感を覚える。なんだ、これ?なんか変な気がする....
あ、そうか葉山と海老名さんが居ないんだ。でも、確か、原作では高3に進級した時、ヒッキーと葉山と海老名さんが同じクラスで、ヒッキーが愚痴言ってたようなするんだけどな....
というか、そもそもおかしかったのは他にもある。
もう高校3年生なのに、まだ平塚先生がここにいるのだ。昨日、職員室で見たあの横顔は絶対に彼女のものだった。確かヒッキー達が高3になったときは平塚先生はもういなかったはず....何故だ?
そこで、チャイムが1時間目の終わりを告げる。
「じゃあ、後藤君、このあと職員室来てくれる?今後のことを色々聞きたいから」
そう言うと、担任の先生は教室を出ていく。
まぁ、いいか。考えるのは後だ。色々なキャラ達を見に行ったりしたいし、なんなら今目の前の比企谷にサインをもらいたいぐらいだか、今はとりあえず俺がするべきことをしよう。
そう思うと俺は椅子から立ち上がった。
「これが教材類で、これが年間行事予定表。そしてこれが、生徒手帳ね。今渡したものは絶対なくさないようにね」
俺は、渡されたばかりの、生徒手帳を開いてみる。
「あ、部活....」
奉仕部のことがちらついてか、つい声にでてしまう。
そういえば、奉仕部にもいってみたいなぁ....その思いすら声になっていたのか、すかさず先生が答える。
「奉仕部?後藤君、奉仕部に入りたいの?」
「え?あぁいやぁ、入りたいっていうか....」
実際、入りたいかと聞かれれば、まだハッキリとは答えられない。多分、怖いんだと思う。俺が奉仕部に拒絶されることが。でもまぁ何らかの形で関わりたいとは思っている。
「入りたいっていうか、ちょっと興味がある、みたいな感じですかね」
「奉仕部ねぇ....そう....でも確か今は、あまり活動してないって聞いてるけど。去年は、生徒会と色々してたらしいけどね」
「え?」
奉仕部が今は活動してない?どういうことだ?あれか?ただ部室で駄弁っているのを活動してないって言われてるだけか?それとも本当に?
「あの、活動してないっていうのは....」
「あぁなんかね。いつからか、部員が誰も部室に集まらなくなったらしいの。まぁ私もよくは知らないんだけどね」
部員が集まらない?あの彼らが?それっていうのは、つまり、本当に奉仕部がなくなったてことか?いやでもそんなわけないよな....
「あ、ヤバい!早く教室戻らないと!ほら、もう後、1分もないよ!」
「え、ほんとすか」
頭の中で理解出来ない情報が渦巻くなか、俺は教室へと戻った。
結局、次の時間も心ここに在らずといった感じで、気がつくと役員決めで俺は評議委員となっていた。なんでだよ。俺転校生だぞ?
今日が始業式ということもあり、もう次は終礼のホームルームだ。あの1時間もひたすら奉仕部のことを考えていたが、やはり答えは出そうにない。
何か確信を持てるような情報がほしい。それが吉でも凶でもあっても。だとするなら、それに直接関係している誰かに聞いた方がいいのではないのだろうか。例えば今目の前にいる彼とか。
そうやって、無理やり自分を落としこむ。
「えっと、比企谷君?ちょっといいかな?」
「ん?なんだ?あー....後藤?」
そうやって、彼は極めてめんどくさそうに、振り返った。
「俺、ここに来る前にホームページでみたんだけど、この高校、奉仕部ってある、よね?」
「........」
しまった....!地雷か?やっぱり本人に聞くのは不味かったか....
「ああ、ごめん!答えにくいなら答えないでいいんだけど....」
「奉仕部は、もうねぇよ。........入りたかったのなら、すまない。あきらめてくれるか」
その本人が言った一言が決定打となった。もうつまりここには、存在しないのだ。
そう言うと彼は全てを諦めたような顔でため息をつき、終礼が終わるとすぐに教室を出て行った。
もう彼はあの場所にはいかないのだろう。
俺はというと椅子に座ったまま動けないでいた。
いや、正直薄く危惧していた。この世界では所々原作と違うところがあったからだ。
原作と違うクラス分けになっており、
居ないはずの平塚先生がまだ居たり。
神が手紙の中で言っていた「ミス」とは、おそらくこのことであり。
そしてその中でも最大のミスというのがこれなのだろう。
つまり、よりにもよって。
もうここにあの部室はない
結局その後俺は、何を考えるでもなく、家路についた。
家に帰り、風呂に入ってもまだこの違和感は消えそうにない。
信じたくはないが、もうあそこには奉仕部は存在しない。そのことだけが俺の頭を埋め尽くしていた。
なんでよりにもよって........
というか、今日俺はそもそもヒッキーに奉仕部のことを聞くべきではなかった。彼ら彼女らの関係に足を踏み入れてしまうべきではなかったからだ。
踏み入れて、踏みにじって、踏み倒してしまうのは最低の行為だ。
風呂場の鏡を見るとふと朝のことを思い返す。
俺は何をしにこの世界に来たのだろうか....いや、俺は彼ら彼女らにどうなってほしいのだろうか。
元の奉仕部に戻ってほしい。
ただ素直にこう思った。元に戻ってほしい。それだけだ。
彼は、もうねぇよ、と言っていた。つまり、元々の奉仕部は確かに存在したのだ。そしておそらくどこかで間違ったのだろう。
そして同時に彼の顔を思い出す。
あの顔は、全てを諦めており、何かに後悔しており、何より悲しそうであった。
きっと戻りたいと思っているはず。表面では思っていなくても心の奥底で望んでいるはず。
きっとこれは押し付けだ。しかし、誠心誠意伝えよう
とすれば必ず伝わるはず。
少なくとも俺は、あの本にそう教えてもらった。
伝えられそうにない複雑な気持ちも、1つ1つ、言葉で、行動で表して行けば必ずつたえれる。
だから俺がこれからすることは。
俺がこの世界でなすべきことは。
あの奉仕部をとりもどす。