「あのー、由比ヶ浜さん居ます?」
俺は、昼休み、由比ヶ浜が在席しているクラスへと来ていた。
というのも、先日俺が奉仕部について比企谷本人と話した時に、他の奉仕部2人を俺が部室に呼び出すから、お前らでよく話せ。と言ったからだ。
なので教室に来てみたものの、誰も返事してくれない。
そこで、近くの男子に直接話しかけてみる。
「ごめん。由比ヶ浜さん呼んでくれる?」
「え?う、うん....」
誰?こいつ?ストーカー?みたいな目線を俺に向けながらも素直に呼びにいってくれる。
どうやら、珍しく1人でノートを書き写してるらしく、黙々と手を動かしている。すると、俺に気づいたのか、怪しみながらも俺に近づいてくる。
そういえば、これが初ガハマである。やっぱり実際目にしてみると、想像の何倍も可愛らしい。
片方に束ねたお団子も、ぱたぱたと足音がする足取りも、そのすべてが俺の思い描いていた由比ヶ浜結衣を象徴している。
「えっと、何?加藤君だっけ?転校生だよね。確か」
「あ、ああ。俺は後藤って言うんだけど....ちょっと今、時間ある?話したいことがあるんだけど」
すると、一瞬彼女の顔が赤らまる。
「え!えぇ!は、話したいこと!?いきなりすぎない!?もっと時間とかさ、あるじゃん!ほら!」
え、何を勘違いしてるん?とか、冷めた考えが出てきてしまった自分を殴りたい。これ、ファンの皆様が見たら悶絶もののかわいさだからな。マジで。
「え?いや、由比ヶ浜さんが思ってることとは、たぶん違うから大丈夫だよ」
「あ、そうなんだ....なんかごめんね。....じゃあ、いいよ。今はお昼に行くところ無いし」
そう言う彼女の顔は、とても悲しげで何かを探しているようにも見えた。
コミュ障でもいいじゃない。たかを。何て思いながら、渡り廊下の窓を開ける。それは、恥ずかしさから、俺の体温が上がってきたのを感じたからかもしれない。
いやぁやっぱり緊張しますね。最初が大丈夫だったからなめてたけど、1対1だとまだダメですね。ほらもう、手汗べっちょり。いやぁキモいなぁ....
するとしびれを切らしたのか、少しイラついたような声で由比ヶ浜は、俺に話しかけてくる。
「で、用事ってなんなの?」
「....ごめん。単刀直入に言う。イヤなら、無理して話さなくて構わないから」
「今日の放課後、奉仕部の部室に行ってほしい」
すると彼女は、俺の予想とは裏腹にただただぽかんとした顔をしており、そのあとに発せられた言葉は、とても間抜けなものだった。
「え?なんで?」
そりゃそうですよね。いや、どうしたものか。
でも、やっぱり俺にできるのは、正直に話すことだけしかない。
「由比ヶ浜さん、奉仕部員だよね?」
「う、うん。でも今は、あんまり活動してないんだけどね」
「詳しいことは必ずいつか話すけど、俺は奉仕部のことをずっと前から知ってたんだ。で、俺は奉仕部に憧れてた。でも、今の奉仕部は俺の知ってるものとは全然違う。だから、俺は取り戻したいんだよ」
「すごく勝手だし、自己満足的なのは理解してる。というか押し付けだとも思ってる。でも、由比ヶ浜さんも取り戻したいんじゃない?あの場所を」
「....正直キモいし、何をいってるのかさっぱり分かんない」
「けど、確かにあたしは、あの場所を取り戻したい」
「じゃあ、」
「でもね。無理なの。だってあの場所は、あたしが壊したから」
....きっと彼女は、あの時提案したお願いのことを言っているんだろう。比企谷が否定できず、その願いが通ってしまったから、あたしが壊したのだと。
だが、それを壊したと言ってはいけない。絶対に彼女が悪いのだとは言ってはいけない。
なぜなら、奉仕部を守ってきたのはいつも彼女だったから。その、皆を笑顔にしようとする直向きな行動が、奉仕部を変えてきたのだから。
「違うだろ。由比ヶ浜が壊したんじゃない」
つい、語気を荒げてしまう。
「由比ヶ浜さんはあの時、他の2人を信じて言ったんじゃないか?欺瞞を嫌う比企谷君なら、否定してくれると信じて」
「でも、もしそうだったとしても結果的にあたしが壊してしまったのは、かわらないよ....」
「だから。だから、取り戻しにいくんでしょ?今の由比ヶ浜さんは、由比ヶ浜さんらしくない。由比ヶ浜さんは、いつも自分の思ったことを素直に伝えれていたはずなのに」
由比ヶ浜は、何かを考えるようにうつ向いたかと思えば、またすぐに喋りだした。
「やっぱりキモい。しかも今年転校してきたのに、奉仕部とか、あたしのこと語り出すし、意味分かんない」
「アア。ソウデスネー」
ですよねー。今のはキモかったなー。
「....でもあたし、行くよ。奉仕部。そして全部言う。ぜーんぶ、ぶつけてくる!」
「え?ほんと!?ありがとう!」
「いや、ありがとうはこっちだよ。ほんとにありがとう。佐藤くん」
そう言うと彼女は、自分の教室へと駆けていった。
俺は後藤だよ?とか、今はどうでもいい。
とにかく、これで由比ヶ浜の方は大丈夫。
後は、もう1人。残るは怪物だ。
「あのー雪ノ下さん、居ます?」
昼休みもあと10分と言うところ。俺は、雪ノ下がいる国際教養科に居た。
しかし、やっぱり誰も返事をしてくれない。
え、マジで見えてないの?目、大丈夫?俺ほど浮いてて見易いやついないよ?
そこで、俺は近くの女子に話しかけてみる。
「ごめん。雪ノ下さん、呼んでもらっていい?」
「え?雪ノ下さんなら....」
その女子は、なに言ってんの?コイツ?見たいな眼差しのまま、俺の後ろを指差す。
「え?」
振り向いてみると、いつから居たのか、案の定雪ノ下が。
おお!初のん! 艶やかな黒髪、雪のような白い肌。やはり、そのすべてが俺の知ってる雪ノ下を象徴していた。
しかし、最初に抱いた感想は、かわいいではなく怖い、である。マジで三浦を凌ぐ威圧感を持っている。
先に口を開いたのは、彼女からだった。
「何の用かしら。お昼休みもあと10分程度だから、できるだけ早くして欲しいのだけれど」
「じ、じゃあ、はっきり言う」
「雪ノ下さん。今日の放課後奉仕部の部室に行って欲しいんだ」
「そう。わかったわ」
「え?」
え?あっさりすぎん?
「あの、俺が言うのもなんだけどもっと、なんで?とか、聞かないの?」
「何故、私がそんなことを聞かないといけないのかしら?」
「いや、奉仕部で少し何かあったんじゃないのかなぁとか....」
「というか何故あなたは、あの部活について色々知っているのかしら?確かあなた、今年の転校生だったはずよね?」
「え、まぁ、それは追々話すけども........いやだから、なんでそんなにあっさりとあの、部活に行こうとしてるの?」
「だって私には、取り戻さなければいけないものがあるもの」
「....というと?」
「あの、部活のことよ」
そう不敵に笑う彼女は、酷くキレイで耀いていた。
きっと彼女は、もう前を向いているのだ。それが何故か俺には到底分からないが、確実に前を向いている。
思えば彼女は、いつも強い風に立ち向かっていた。だから、今も高い理想に手を伸ばしているのだろう。
「....そうか。じゃあ、宜しく頼む」
「ええ。それに私からしても、丁度良かったから」
そう言って彼女は、教室へと入って行く。
そしてそれに続き俺も教室へと戻った。
もうこれで俺の仕事は終わり。
後は、あの3人なら元に戻れるだろう。
不思議と、確証はないのに自然にそう信じられる。
今さら、俺が言うのも何だが、俺は本来の奉仕部に関わるべきではない。
そこには、あの3人しか持ち得ないものが必ずあるから。
だから、恐らくもう奉仕部と関わることはない。後はこの世界で、「フヒ、ワレ今俺ガイルの世界にいるなり」とか、オタク全開で生きていこう。
もしかしてこの世界の奉仕部を取り戻すためにここに転生したんじゃないか。なんて変な考えすら頭をよぎってしまう。
ただ、この時の俺はまだ知らない。これから俺が最大の敵と関わっていくということを。