すいません(土下座)
この世界に来てから時々ふと思うのである。
奉仕部は壊れたのではなく、
壊されたのではないか、と。
そこに誰かの作為があるのではないか、と。
そんなことはない、と思いそこには目を背けてきた。
ただ、あれが神様のミスではないのだとしたら。
きっと奉仕部は誰かによって壊された。
しかし、そいつを見つける気なんてのはない。
きっと俺はこれ以上関わるべきではないから。
あとは、3人が作っていく物語だから。
俺はそう決意して、もう見慣れつつある正門をくぐっていく。
だが、得てしてそういう決意というのはすぐ無駄になるものである。
誰にでもルーティーンというのはあるもので、俺の場合はこの、三時限目の後のトイレ、だ。特に理由があるわけでもないのだがいつの間にかこうなっていた。そんなわけで今日もトイレに入ろうか、というところで呼び止められる。
「あ、後藤君。話があるんだけど、いいかな?」
そう俺を呼び止めたのは、金髪で高身長おまけにイケメンとかいうヤバい奴....つまり葉山隼人である。
実はこれが初葉山ではない。転校生ということもあって何回か話しかけてもらっていたりする。いや、「話しかけてもらった」とかの言葉から、俺の負け感がすごく出ていて虚しい。
「葉山くん。どうしたの話って?」
ただのルーティーンであり、大して尿意はないためここは、話にのってみる。
「それがさ、ちょっとここでは話にくいから放課後ここに来てくれる?」
そう言って俺は喫茶店の住所が書かれた髪切れを渡される。
え、なにこれ。俺今、不覚にもときめいちゃったんだけど。ヤバい顔めっちゃ赤い。葉山は、三浦ルートでも陽乃ルートでもなく俺ルートなの?ていうか奥の海老名さん倒れてるし!あ、これが普通か!
そんなくだらないことを考えてると返事が遅れる。
「あ、ああ、いいけど....」
「そうか。良かった。じゃあ、これで」
いや、マジでなんなんだ.....?
しまった!放課後、課題のことで残されて約束の時間に遅れてしまいそうだ。
そんな俺が指定された喫茶店に着いた頃には、とっくに葉山は席についていた。
「ごめん。おくれた。課題のことで残されちゃってさ」
「ああ、全然構わないよ」
彼はいたって平然と爽やかにそう言う。
こういうところがイケメンたる所以なんだろうなとか考えつつ席につく。
....おかしい。コーヒーが来てからおよそ5分。会話が発生しない。いや、何がおかしいかって俺のコミュ力じゃなくて、葉山が会話を作らないことだ。
葉山なら、気を使って会話ぐらい作りそうだけどな。
そんな甘い考えのまま、葉山にしゃべりかける。
「今日はなんの用事があったの?」
「いや、実は後藤君に聞きたいことがあってさ。
....なんであんなことをしたんだ?」
ん....?正直に質問の意味が分からなかったためもう一度問いかける。
「えー、それはどういう....」
その瞬間彼、葉山隼人の顔が苛烈なものになる。
「質問の意味が分からなかったか?僕は、なぜ奉仕部を元に戻したんだ、と聞いているんだ」
「え、葉山くん?」
「せっかく僕が彼を説き伏せ、あの状態までに仕上げたのに....本当に君は何をやっているんだ?」
おい、これってじゃあ....
「も、もしかして葉山くんが....?」
そんな願うような俺の気持ちとは裏腹に彼は呆気なく答えてしまう。
「ああ、そうさ。僕が奉仕部を壊した」
恐らくこういうことなんだろう。あの水族館でのこと以前に葉山は比企谷にコンタクトして、結果そこで比企谷は考えを変えてしまった。だからあの時、それは欺瞞だ、と言い出せなかった。
「は?いや、なんで?」
悪い癖で、また語気が荒くなってしまう。
「....許せなかったんだよ。あの弱いところを肯定できたり、常に自分らしく正義を貫くその姿が」
ああ、きっとこれ以上葉山に奉仕部のことを問うのは間違いだ。
「でもなんで葉山がそこに介入するんだよ。ほっといて、関わらなければ良かっただろ」
しかし、その思いをかきけすほどに先に言葉が出てしまう。
そんな問いに葉山はここぞとばかりに俺を責めてくる。
「君も関わっていただろ。ずっと気づいていたさ。それに君は転校生だ。関わりあいなら僕の方が長い」
「君の方が変に関わっていたんじゃないか?」
「だから、今は関わらずに生活しているだろ。それにあの時は、助けたかったから助けただけだ。お前みたいに嫉妬からの行動じゃない」
不服とばかりに葉山が返す。
「は?嫉妬?僕は嫉妬なんかしてな」
「違うだろ。お前はずっと嫉妬している」
本当に間違いだ。あれほどもう関わらないと決意したはずなのに。今、葉山に反論したところで何も変わらないというのに。
だから、最早この行動を正当化するなんてことは、 絶対にしない。これはだれのためでもなくただのエゴだ。
「葉山、お前は奉仕部が許せないんじゃない。ただただ羨ましかったんだよ。奉仕部が、そしてその1人1人が」
「いやいや何を言ってるんだ?そんな分けないだろう」
それは、自責の念からか。俺はただ淡々と答える。
「お前はいつもみんなの期待に答えてきたからな。それがいつであっても。それは、みんなから葉山隼人らしく振る舞うようにと思われてたからだ」
「だから、羨ましく思ったんだよ。奉仕部が。もっと言うと比企谷君が。いつでもある意味自分らしい彼が」
「違う!絶対に違う!」
その怒号は店内に響きわたる。
心苦しいが追い討ちをかける。
「気付いてるだろ自分で。だから、こんな嫉妬ごときであの空間を傷つけるんじゃねぇよ」
うつむいたまま動かない彼を少しでも諭すようにと次は優しく語りかける。
「だいたい、葉山くんにもいるだろ?そういう奴が。サッカー部の彼とか金髪ロールの彼女とか」
こんな稚拙で諭しにもなっていないような言葉を受けると、うつむいたままだった葉山は立ち上がり店を出ていく。
....本当にやってしまった。だれのためでもないのにくだらない持論を展開してしまった。
関わらないと決めたのに、こういう場面になると本能のままに踏み入ってしまう。
挙げ句、なんの答えにもならないことを押し付け、自己満足して終わる。
こんなのは、まるであの頃の彼の様だ。いや、中途半端なぶん、俺の方が下だろう。
だから、もう本当の意味で関わらないと思う。より正確に言うと関われない、だろうか。
店を出て帰り道を歩いていると不意に笑いが込み上げてくる。
いやはや本当に何をしに来たんだろうか。ただ好きなラノベの世界に行って感動したかっただけなはずなのに、こんなことをしてしまうなんて。
そんな折、俺の携帯に連絡が入ってくる。
近くの広場のベンチに腰掛け携帯を開く。
送り主は....比企谷?
そうか、サイゼで連絡先交換したんだっけか。
そしてその画面にはとても業務的に、
お前、葉山に何をした?
と、だけ打たれている。
まずい.....!俺の言葉で葉山が触発されたのかもしれない。
俺は、急ぎ比企谷に返信を送る。
なんで?どうして?
そのまま2分ばかり待っているとその本人から電話がかかってきた。
「もしもし....?」
「質問に質問でかえすんじゃねぇよ」
「あ、ごめん」
「まあ、いいけどよ。で、何されたかだっけ?
....全力で謝られたんだよ。葉山に」
「え?ほんと?」
「ああ。で、気持ち悪かったから、なんでいきなりこんなことをしたのか聞いたら、後藤に聞け、つって切りやがったんだよ」
そうか。良かった。今回は、悪い方向には向かわなかったらしい。
だから、せめて何かを悟られないように、へらへらとしゃべってみせる。
「いや、ちょっとしゃべっただけだよ。それにもういいじゃん。終わったんだし」
「....?いや、俺にとっては結構重要で........まぁ、いいや。お前がそう言うなら」
「うん。じゃあまた今度」
そう言って電話を切ろうとすると、直前で呼び止められる。
「あ....待て。そういえば雪ノ下がお前に今度部室に来てほしいんだと。なんでもこの前のことを聞き出す、とか言ってたぞ。だから、明日でもこいよ。奉仕部」
この前のこと、とは、雪ノ下を部室に呼び出した時のことだろう。
だが、もう関われないと決めたのである。
「いや....ごめんそれは、無理かも」
「ん?なんでだよ。来いよ」
「ごめん、本当に無理なんだ」
「おいおい来いよ~そうやって人の好意を無下にしてると俺みたいになっちゃうゾ☆」
「だから!無理っつってんだろ」
本当にどうしようもない奴だ。こんなことで人に当たってしまうとは。
「ごめん....切る」
「待てよ。今どこに居るんだ?」
それを無視して切ると、背後から声をかけられる。
「あ、武藤くん!」
「あら。後藤くんじゃない。あと、由比ヶ浜さん。この人は後藤くんよ」
....やはりこういう決意というのは、往々にして無駄になるものである。
そして神様は、そう簡単には俺の未練を消してくれたりはしないらしい。
5分も待っていると比企谷はやって来た。どうやら、ちょうど俺が電話を切ったあと雪ノ下に、電話をしたようだ。まぁ、そりゃバレるよね。
思えばここは、俺がこの世界に来たときに居た公園か。
白々しく、ぼーーっとしていると比企谷から問われる。
「で、なんで無理なんだよ。俺が小町以外で誰かのために外出するとか超レアだぞ」
彼は少し息を切らしながらそう言う。
「え?ヒッキーどういうことか説明してよー!」
「....実はな」
そう言うと比企谷は2人に説明を始める。
絶対に思ってはいけないのに。許されないはずなのに。
嬉しい。と。そう思っているこの心は果たして本心なのだろうか。
説明を終えると再び俺に問うてくる。
「なんでだ?なんでもう無理なんだよ」
「ごめん。本当に勝手だけどやっぱり説明は出来ない」
ありていに言うならばこの感情は、言葉では説明できない。もうそういうところにまで曲がってしまったのだ。
「....勝手だな。本当に」
その彼の言葉に俺は、口を開くことができずにいた。
「4月に転校してきたばっかりなのに奉仕部のことをやけに語るし、俺たちを復縁させようとしてくる。おまけにそこには立ち会わないときた。本当に勝手だよ」
「........ごめん」
「だがな、後藤。お前の行動で救われた奴もいるぞ」
その言葉に伏せていた顔をついあげてしまう。
「俺は、こんなんだからな。お前の後押しがなかったらあのまま何事もなく卒業してたと思う」
「そうだよ!後藤くんが居たから今の奉仕部があるみたいなものだよ!」
「だからな後藤。だまって来てみろ」
こんな言葉本来俺に向けられていいものじゃない。本当にこの言葉を素直に受けたらどれだけ楽だったろうか。
「でもやっぱり....」
「ああもう、めんどくせぇな!だいたいこうやってお前の言うとおり行動でも表してみてるんだよ。お前がそれを受け入れてやらないでどうすんだよ」
....理由を。理由を話そう。きっとこれで理解してくれるはず。それで終わりだ。
「俺は、本来奉仕部には、関われなかった。ただの憧れだった」
「でも、1つだけ奇跡が起きて奉仕部に関わる権利がもらえた。それで舞い上がっちゃって勝手に踏み入ってしまった。だからこれからは3人には、関わらない方が良いんだよ」
「は?なんだよそれ?」
「はぁ、頭が痛いわ....」
「えぇ、後藤くん、マジ?」
え、どういう反応だ?これ。
すぐに彼が優しく口を開く。
「後藤。お前はきっと怖がってるんだ。おれたちに拒絶されることが」
その言葉は、容易く俺の肺俯を貫く。
前もこんなことを思っていたのにな。いつから俺の心はめんどくさくなってしまったのだろうか。
「それにお前は勝手に俺らを復縁させただろ?だから、俺らも勝手に奉仕部に連れて行く。ただ、それだけのことだ。....正直感謝しているんだ。みんな。だからな関わらないなんて言うな。もうその憧れから逃げるな」
その言葉は、やけに気恥ずかしく目を反らしてしまう。
もし、こんなことが許されるなら。
こんな俺が居ても良いと言ってくれるのなら。
あともう少しだけこの幸せな夢を見せてくれていいだろう。
「それに、あなたが応えてくれないなら、むしろ私たちが傷つくかもしれないわね」
その笑顔は、白い肌とあいまってとても尊く見える。
確かに傷つけるのは悪いよな。
だとしたら俺は、俺ガイルオタクの誇りを胸にこの3人を守ろう。
それに、本来俺は死んでいる。せっかくチャンスを貰ったんだ。もう、怖がって逃げたりはしない。彼のようにそしていつかの自分のように正面から関わろう。
この言葉はとてもキザだと思いながらも決して躊躇わずに口にする。
「なんかごめん。俺、めっちゃめんどくさかったな。....なら、みんな。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げる俺は、3人にはどう映ったのだろう。
「ああ。こちらこそな」
「うん!よろしく!後藤くん!」
「ちょうど聞きたいことも色々あったことだしね」
....なんだ青春してるじゃねぇか。俺はもちろんだが、今は彼、比企谷八幡が。青春を嫌った彼がちゃんと青春しているのがとても嬉しく感じた。
本当の意味で俺にとってこの世界は今始まったと言えるだろう。
あまりにも始まりが遅かったせいか、実感が全然湧いてこない。
ただそれでも夕日に生える彼ら彼女らの笑顔だけが唯一、実感を沸かせてくれる。
だから、きっとこの青春が終わることはない。
どうも。引きこもりこと、くもりです。
自分自身にあまり時間がなく、超急いで書いたので展開がめちゃくちゃ早かったと思います。マジですまん。
1話の前書きにも書いたとおり、これが初めての投稿で見にくい部分もあったかと思いますがなんとか終わらせることができました。
この話を、見てくださった方々。
本当にありがとうございました!!!