リオネス王城の一室。
伝説の騎士団〈七つの大罪〉は、リオネス国王子のトリスタンと対面していた。父親譲りの癖っ毛に母親譲りの顔立ちを持ち、その身に秘める潜在能力は計り知れない。こうして改めて顔を合わせてみると、子供ながらにして凄まじい強さを感じられる。
「んで団ちょ、なんだって俺らは集められてんだ?」
〈
「なに、トリスタンがじっくりお前らと話してみてえって言うからさ。付き合ってやってくれねえか?」
「僕は良いよー! トリスタンとお話しできるの嬉しいし!」
「ディアンヌが言うならオイラも構わないよ」
「俺もだな。〈七つの大罪〉の武勇伝を聞かせてやろう☆」
「俺も別に構わねえけどよ、聞くだけで楽しいのか〜?」
メリオダスの言に〈
「そこはあれだ、ゴウセルの魔力で当時の場面でも映し出しながらやれば良いんじゃねえか?」
「あー! それ楽しそう!」
「なるほどな、そりゃあ良い♫」
「よーし。そんじゃゴウセル、任せた」
「任された☆」
「よ、よろしくお願いします!」
きゃぴ、という擬音がつきそうな仕草と共にゴウセルが魔力を行使すると、全員の脳裏に映像が流れ始めた。
「あっ、これ懐かしい! たしか王都でヘンドリクセンと戦ったときだよね!」
「おお、懐かしいな」
「結構苦戦してたよな〜♪」
「当時のオイラたちの誰よりも強かったからね、この時のヘンドリクセンは」
「全員でかかってようやく互角ぐらいだったもんな」
各々が当時の感想を呟く中、トリスタンは怪訝そうな表情を浮かべていた。
「ヘンドリクセン……って、この灰色の人がヘンディさんなのですか!? それにキングさんの姿が無いですが……」
「ぶはっ♫」
トリスタンの何気ない一言に、バンは思い切り噴き出した。キングはバンに霊槍を思い切り叩きつけてやりたい気持ちを必死に抑え、努めて冷静にトリスタンへ告げる。
「これだよ……この霊槍を持ってるのがオイラさ」
「え……ええ!? で、でも……」
「分かるぜその気持ち♫ 完全に別人だもんな〜♫」
「ボクはこのときのキングも好きだよ?」
「ありがとうディアンヌ。バンは後で覚えといてね」
「おー怖っ♫」
「妖精族って……不思議なんですね……!」
よく分からない結論を出したトリスタン。
小太りの中年に変身できたりもしていたので、強ち間違いではないのだが。ここ10年ほどは変身していないのは心境の変化なのかどうか、それは分からない。
「それで結局……ヘンディさんはどうしてこんな姿に? なにやらとてつもなく邪悪な外見ですが……」
「この辺はちょっとややこしいんだが……簡単に言えば悪い奴に操られて化け物の血を飲んじまったせいだ」
「なるほど……」
「それで良いんだ……?」
その後はゴウセルの首が飛んだことにトリスタンが腰を抜かすなどあったが、恙無く王都決戦の観賞会は終わった。
「次はそうだな……せっかくだから、俺たち全員が共有している記憶じゃなくて、それぞれの記憶を見る?」
「おっ、良いなそれ。そうしよう」
「誰からやるの?」
「適当でいいんじゃない?」
「はいはーい! それじゃあボクから!」
「分かった」
ゴウセルの魔力を通じて、ディアンヌの記憶がゴウセルに流れ込む。何の変哲もない日常から、血を吐きながら戦った決戦の記憶まで巡回し、当たり障りなく、しかしインパクトのある記憶を探り当てる。関係のない記憶はディアンヌのプライバシーのため消去しておくことは忘れない。
「これだな☆」
「あっ、ドロール様になったときのだ!」
「グロキシニア様たちに課せられた試練か……」
「流石にドロールの体でこんな仕草されると反応に困るぞ」
「正直気色悪りぃな♫」
「ひっどーい!」
「ちなみにこの髭を蓄えた男が俺を造ったゴウセルだ」
「お、おお……!」
「カッカッカ♫ 逃げてやがる♫」
「なるほどなあ、こんなことがあったのか」
「流石ディアンヌだよ。オイラには思いつきもしなかった」
「こ、この人……すごくパパ上に似ています……!」
「お? 言ってなかったか? こいつはゼルドリス、オレの弟だ」
「ええっ!? パパ上の弟……つまりおじ上!?」
「おう。今度会ってみるか?」
「ぜ、是非!」
ディアンヌが試練を終えたところで、映像は切れた。
「ここまでで良いかな。次はどうする?」
「なら、オイラかな」
「了解した」
先ほどと同様の手段でキングの記憶を探り、これだというものを見つけてそれ以外を削除する。ざっと見ているだけだが、それでも山程濃い記憶が見つかる。こうして改めて記憶を見ていると、〈七つの大罪〉がどれだけ激しい戦いをしてきたか分かる。
「うん、これがいいな」
そう言うと同時に、新しい映像が映し出された。場所は、木々の生い茂る神秘の森──妖精王の森だ。
「わ、わっ! すごく大きい化け物が……!」
「アルビオンっつってな、大昔に魔神族が聖戦で用いた
「なんかやかましいと思ったらこんなやつがいたのか♫ でっけえなおい♫」
「ああっ! 樹が……!」
「神器解放……そういや中々使わなかったよな、キング」
「使いこなせなかった……っていう方が正しいね。このときは運良く上手くいったんだ」
「あの巨大な化け物を一撃で……!」
目を輝かせるトリスタンに、〈七つの大罪〉は暖かい視線を向ける。まだ子供であるトリスタンには大層かっこよく映ったのだろう。トリスタンのキラキラとした瞳に、キングはくすぐったそうに顔を背けた。
「こんなところかな」
「すごかったです……!」
「今じゃ大したことはねえけど、こうして見ると結構危なかったんだな」
「あのときはさしものオイラも焦ったよ」
「それでもやっぱ雑魚だろ♫ 何匹来たって負ける気はしねえな♫」
「お前と比べたら殆ど雑魚だっての」
「バンはもはや人間の範疇に収まっていないぞ?」
「お前らも大概だろうが♫」
互いにお前よりはマシだと言い合う〈七つの大罪〉。トリスタンから見ればどっちもどっちなのは言うまでもない。
「次は誰にする?」
「俺と団ちょので良いんじゃねえか?」
「オレとお前の? ……ああ、煉獄にいたときのか」
「団ちょはともかく俺はそんぐらいしかねえしな♫」
「決まりだな。やるぞ?」
「おう」
「パパ上の記憶……ドキドキします……!」
両手を握り込んで興奮を隠し切れない様子のトリスタンの脳裏に、砂嵐のような映像が流れる。初めは疑問に思ったが、徐々に砂嵐が晴れ──そこに映ったのは、荒廃した、というよりも腐れきった、という表現が似合いそうな場所だった。
「こ、こは……」
「煉獄だ。熱い、寒い、痛いの三拍子揃った地獄で、こっちでの一分が向こうでは一年にもなる。さしずめ死者の牢獄って言ったところか」
「マジに最悪な環境だったぜ♫」
「500年かそこらで、しかも生身のまま適応したくせに」
「やっぱりバンって人間という名のなにかじゃないの? 直接行ったわけじゃないのにゾクゾクするもん僕」
「あり得る……」
「ねーよ♫」
「あの……バンさんの実年齢って……?」
「さあな♫ 数えるのも面倒なくらいには生きてることは確かだぜ♫」
「まあでも、年長は間違いなく団長だよね〜」
「こっちで3000年、
「パパ上……」
「化け物を見るような目をやめろ」
「なんですかこの……猪……? 豚……?」
「うわ……これってホーク!?」
「んにゃ、ホークの兄らしい」
「兄っ!?」
「ワイルドだ」
「マジで師匠そっくりだよな〜♫」
「ホーク……って、一体誰ですか?」
「オレが酒場をやってたときの看板豚だ。なぜか喋れる不思議な豚でな」
「しゃべ……え? 豚が?」
「このワイルドみてえにな」
「ええ……?」
「胡散臭いものを見るような目をやめろ」
「これ、魔神王なの?」
「ああ……そういやオレとゼルドリス……それとブリタニア自体に憑依した姿しか見たことなかったな。これが親父本来の肉体だ」
「クソでけえよな♫」
「へぇ〜……こんな姿だったんだ……あっ、ワイルドが吹き飛ばされた」
「"
「ん? ああ、そうだな♫」
「"
「自分の生命力を分け与える技だよ。今はそうほいほい使えねえけどな♫」
「へー、すごい!」
「ほら、そろそろ終盤だぞ」
「魔神王……やっぱり強いね……」
「オレたちが倒したのは、言うなれば片割れだしな。本来の力の半分程度しか出せてなかったはずだ」
「……もしかして結構危なかった?」
「割と」
「団長がいてよかった……」
「あっ! 団長が魔神王に捕まったよ!」
「それもだけど、ワイルドのあの変化……凄まじかったね。あの魔神王にダメージを与えるなんて……」
「魔神王の腕が消えた! もしかしてこれ、団長の魔力?」
「ああ」
「こんなことがあったんだね……」
魔神王がメリオダスに向かって叫んだところで映像は終わった。内容の濃淡で言えば、今までの記憶よりもずっと濃かった。飛ばし飛ばしとはいえ何百年分もの記憶を見たのだから当然と言えば当然だが。
伝説の騎士団、英雄とも呼ばれる〈七つの大罪〉の物語は華々しい冒険ばかりだと思っていたトリスタンは、煉獄や魔神王に恐れながらも、予想に反した地道な泥臭い旅にも目を輝かせていた。
「す、すごいです! パパ上は本当にすごいです!」
「いきなりどうした?」
「ママ上のおっぱいやお尻が大好きなダメダメパパ上という認識をもう一度改めます! パパ上は自慢のパパ上です!」
「おう、ありがとな」
「おっぱいとお尻が大好きなのは否定しないんだ……?」
「事実だろ♫」
「昔っからそうだったもんね」
「これからもだろうけどね」
間違いない、と全員が思った。
メリオダスという男は根っからのスケベなのだ。
「さて、そろそろお開きにするか。悪かったな、こんな時間まで付き合わせて」
「ううん、久しぶりにみんなと話せて楽しかったよー!」
「たまにはこういうのも良いね。また機会があったら呼んでほしいな」
「今度は酒でも用意しといてくれよな♫」
「うん、俺も楽しかった。トリスタン王子、また今度色々見せてやろう☆」
「は、はい! 楽しみにしてます!」
ワクワクした表情のトリスタンの頭を、一人一人撫でていく。その度に綻んでいくトリスタン表情を、メリオダスは微笑ましげに見ていた。そしてふと思いついたように手のひらをパン、と打ち付けた。
「そうだ、折角集まったんだし、宴会でもするか? 次がいつになるか分かんねえし」
「やるやるー!」
「良いね」
「久々に飲み比べしようぜ団ちょ♫」
「よっし、そんじゃあエリザベスに伝えてくる」
待ってましたと言わんばかりの身軽な動きで走り去っていくメリオダスの背中を見届けて、〈七つの大罪〉は立ち上がった。
「あれ? どこに行くんですか?」
その行動を疑問に思い問いかけたトリスタンを、バンが担ぎ上げる。バンの肩に座るような形になったトリスタンは、これからなにが起きるのかと視線を右往左往させた。
「えっ? えっ?」
「決まってんだろ♫ 先に始めちまうんだよ♫」
「いっぱい飲むぞー!」
「ほどほどにね、ディアンヌ」
「よっしゃ行くぞ♫」
「え、ええ!? ちょっとー!?」
抵抗も虚しく、トリスタンは既に酔っているのではないかと思ってしまうほどテンションの高いバンに連れ去られてしまった。
「助けてパパ上ー! ママ上ー!」
必死の叫びは届くことなく、トリスタンは朝までどんちゃん騒ぎに付き合わされたという。