ジェラルドVS雛森桃~もしジェラルド・ヴァルキリーが聖別されなかったら~   作:ジェラルド・ヒナモリー

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あたしに力を貸して飛梅

 懐かしい匂いがする。おばあちゃんの家の近くに植わっていた梅の匂いだ。

 

 雛森桃が起きた時、最初に思ったことはそれであった。

 

 辺りを見回す。ゴロゴロと音を鳴らす黒い雷雲に覆われた空、どこまでも続いているかのように見える紅色の炎の花が咲いた梅林。

 

 そして自分のそばには流魂街の祖母の家に似た建物があった。

 

 

 

「ここは飛梅の……」

 

 

 

 雛森はこの世界に見覚えがあった。

 

 初めて飛梅の名前を知った時。

 敬愛していた藍染に裏切られて刺された時。

 藍染の幻覚に惑わされた幼馴染の日番谷冬獅郎に刺された時

 

 そういった時によく見た世界であった。

 

 

 

「よく来たわね桃」

 

 

 

 そう言って建物から天女のような姿をした女性が出てきた。

 

 

 

「あなたは……飛梅」

 

「そうよ。あなたがあの巨人の攻撃で気絶したから私のところに来たのよ」

 

 

 

 雛森の分身である斬魄刀、飛梅が不機嫌そうに言う。

 

 

 

「そうなんだ……じゃあ早く目覚めないと!」

 

「目覚めてどうするの? あなた何をするつもり?」

 

「何って……」

 

 

 

 雛森は逡巡し考え込んだ。

 

 正面から戦う? 駄目だ。黒棺ですらあいつには効かなかった。

 

 隠れて隙を伺う? 駄目だ。あいつは隠れていたヴァイザードの人たちにも正確に攻撃を加えられた。

 

 一旦撤退し助けを呼ぶ? 駄目だ。あの巨体のスピードは想像以上に速い。すぐに追いつかれてしまうだろう。大体誰に助けを呼べばあいつを倒せるのかがわからない。

 

 

 

「どうすればいいのよ……」

 

「しばらくここにいなさい。今アイツは十一番隊の連中と戦っているわ。幸いあなたは遠くまで吹っ飛ばされたから気絶していたらやりすごせるかもしれないわよ」

 

 

 

 穏やかな口調で飛梅が諭すように言う。だがそれは雛森にとって到底受けいられる提案ではなかった。

 

 

 

「そんなの……無理だよ。このままだとみんな死んじゃう」

 

「……現実を見なさい。何をすればいいかもわからず迷ったまま突っ走しったところでどうにかなることなんてほとんどないわ。むしろより事態を悪くするだけ。今までほとんどそうだったでしょ」

 

「……」

 

 

 

 確かにそうであった。

 

 藍染死亡事件で混乱した結果、どうしたらいいかもわからず学友であった吉良イヅルや幼馴染の日番谷冬獅郎に剣を向けてしまった。

 

 藍染が悪だと頭で理解しても心がついていかないまま参加した空座町の決戦では、松本乱菊をアヨンの魔手から守ることもできず倒れた挙句、藍染の身代わりの盾にされてしまった。

 

 唯一状況が好転した例と言えば、霊術院時代に先輩であった檜佐木修平を巨大虚の一撃から救ったことぐらいであったが、あれとて藍染や市丸がやってこなければ死体が増えていただけで終わったであろう。

 

 今の状況だってそうだ。いくら完全詠唱した黒棺とはいえ、日番谷冬獅郎、朽木白哉、更木剣八がかなわなかった相手に通用するわけがないとは思っていたのだ。その結果傷一つ付けることもできずに気絶してしまった。

 

 

 

「……そうね飛梅。あたしはずっと何をすればいいかもわからず突っ走って……何もできずに迷惑をかけてばかりだった」

 

「わかったかしら」

 

 

 

 だがそれでも雛森桃はこのままここに留まるわけには行かなかった。

 このままではあの巨人は確実にあの場にいた全員の命を奪うのだ。

 自分一人おめおめと助かるなどという選択肢は最初から頭に存在しなかった。

 

 

 

「だから……お願い飛梅。あたしにどうすればいいか教えて。力を貸して」

 

「……休みなさい」

 

「休んでどうなるのっ! あたしは助かってもこのままだとあそこにいる人は死ぬんだよっ! 朽木隊長も更木隊長も一角さんも弓親さんもヴァイザードの人たちも……シロちゃんもっ!……どうすればみんなが助かるのかあたしに教えてよっ!」

 

「……一つだけ方法があるわ。卍解をこの場で習得しそれでアイツを倒すのよ」

 

「それでみんなが助かるのね」

 

「……未熟な卍解がアイツに通じるかは賭けよ。おそらく十中八九あなたが無駄死にするだけで終わるわ。それでもやるの……?」

 

 

 

 飛梅が目を伏して心配そうに言った。

 

 

 

「少しでも可能性があるなら……それに賭けたい」

 

「……そうね。いくら私が心配してもあなたはそうするわよね。わかっていたことよね……」

 

 

 

 そう言った飛梅の声はどこか寂しそうであった。

 

 

 

「ごめんね飛梅。いつも心配かけさせて」

 

「ううん……気にしないで。私もいっしょに戦うから。……卍解は私ごとあなたが現実に戻れば発動できるわ。戻り方は……知っているわね?」

 

「ええ、あの黒雲に突っ込んでいけばいいのよね」

 

「そうよ……私は熱いけど我慢してね……」

 

 

 

 そう言うと飛梅は天女の姿から炎に包まれた七支刀の姿へと変化した。

 

 

 

「これがあなたの卍解なのね飛梅……ありがとう」

 

 

 

 ためらうことなく雛森は炎に包まれた刀をつかみ、手を焼き焦がしながら雷鳴とどろく空へと翔けて行く。

 

 

 

「行きなさい桃。大丈夫、向かう先がわかっているあなたを阻むことは何ものにもできないのだから……」

 

 

 

 梅林からそんな声が聞こえたが振り返ることも無く雛森は黒き雷雲を突き抜けて飛んで行った。

 

 

 




 今回は戦闘描写無しで卍解習得だけで終わりましたが次の話で決着がつきますのでもう少しだけお待ちください。



オリ要素の解説

〇飛梅の精神世界

 飛梅は雷神として有名な菅原道真由来のネーミングなので精神世界に雷雲ぐらいあるんじゃないかなと思ってこう設定しました。



〇卍解習得

 本来卍解は具象化した後に倒して屈服させないと習得できません。
 ですが状況が状況ですので持ち主思いの飛梅が具象化させたら自動的に屈服してあげるって感じでサービスしてくれました。

 メタ的に言えば作者が飛梅との戦いを思いつかなかったのと、
 ジェラルドの戦いのときに悠長に斬魄刀と戦ってるのってどうなのという理由でこうしました。
 それなら前から習得してたってことにすればいいじゃないかと言う人もいると思いますが
 作者が戦いの最中に覚醒みたいな展開が好きなのでこういう展開にしました。


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