ジェラルドVS雛森桃~もしジェラルド・ヴァルキリーが聖別されなかったら~ 作:ジェラルド・ヒナモリー
「やっと……倒せた」
ジェラルドがはるか上空へと飛んでいき、見えなくなったのを見届けた後、雛森桃は気が抜けたように膝から崩れ落ち倒れた。
「卍解……解除しないと」
だが……卍解を解除しようとした途端、雛森の体は炎に包まれた。
「いやああああああっ!」
同じくジェラルドが上空へと飛んでいくのを見ていた一角と弓親が雛森の悲鳴を聞いてそちらへ目を向ける。
「どうしたんだ! 雛森副隊長!?」
「弓親! うかつに近づくんじゃねえ!ありゃ卍解の暴走だ!」
近づこうとした弓親を引き留めて一角が言った。
「なんだいそれはっ!?」
「卍解をしまおうとしたときにたまに起きんだよ。雛森副隊長! 霊圧を徐々に下げるんだ! 霊圧を一気に下げて卍解を解除しようとすると暴走するぞ!」
「いやああああっ! 熱いよおおおお!」
一角が雛森に助言をするも、体にまとわりつく炎の苦痛で雛森の耳には届かない。
「くそっ! 火だるまになっていて俺のアドバイスを聞くどころじゃなさそうだ!」
「瑠璃色孔雀!」
弓親が雛森の霊圧を吸い取って暴走を抑えようとするが、瑠璃色孔雀のツタは雛森の体に届く前に炎に燃やされる。
「これでも駄目か……一角、ほかに方法はないのかい?」
「ぐっ……あの炎を消さねえことにはどうしようも……」
「そういうことなら俺に任せろ、あの炎を消せばいいんだな?」
「アンタは……!?」
後ろから声をかけられた一角と弓親が振り返ると、そこにいたのは子供の姿に戻った日番谷冬獅郎であった。
「日番谷隊長じゃないですか!? 御無事だったんで!?」
「無事じゃねえよ……だが寝ているわけにもいかなそうなんでな……」
そう言うと日番谷は氷輪丸を始解させて雛森に氷水を浴びせる。
だが炎はじゅあああっと音を立てて氷水を蒸発させ、まるで消える様子が無い。
「始解じゃだめか……やるしかねえな」
「病み上がりで卍解するつもりですか!? 無茶ですよ!?」
「アイツを倒すのに比べりゃ無茶でもなんでもねえよ。お前らは回道ができそうな奴を探してこい」
「それなら僕ができますよ日番谷隊長。それとこの花をどうぞ」
弓親が瑠璃色孔雀によって咲いた花を日番谷に手渡した。
「口に含めば多少は霊力が回復します」
「ありがとよ、感謝するぜ……」
「雛森副隊長のおかげでうちの隊長は負けずに済みましたからね……これぐらいはね」
「今助けてやるからな……雛森。
そう言うと日番谷は卍解を発動し、雛森のもとへと向かった。
懐かしい匂いがする。おばあちゃんちでよく嗅いだ匂い。なんだっけ……この匂い……?
そうだ……これは……シロちゃんの匂いだ……最近はなんだか……気まずくなっちゃっていたからな……。久しぶりだなあこの匂い……。
雛森桃が起きた時、最初に思ったことはそれであった。
辺りを見回す。抜けるような青い空。がれきに覆われた西洋風の町。
そして自分のそばには心配そうにこちらを見つめる日番谷冬獅郎がいた。
「おはよう……日番谷君」
「……起きるのが遅えよ。みんなもう帰っちまったぞ」
「みんなって……無事だったの!?」
「ああお前がアイツを倒してくれたおかげで無事とまでは行かねえがあの場にいた全員は助かった。涅のところの副隊長はペルニダって奴にやられたせいで長期療養しないといけなくなったらしいがな……」
「そんな……ネムさんが……」
「戦争だからな、そのぐらいで済んだだけ幸運だったというべきだろう。ユーハバッハも黒崎が倒してくれて戦いは終わった。」
「そう……だね……とにかく終わってよかったよ……」
安心したのか雛森はほおっと息をついた。
「夢……じゃないんだよね? 終わったのって……?」
「ああ……現実だ」
「これから……どうなるんだろう?」
「さあな。とりあえずあと半刻ぐらいでここは出て行かないといけねえ。そのあとの事はその時考えればいいんじゃねえか?」
「じゃあもう少しゆっくりできるね」
「ああ……そうしようぜ」
辺りはシーンと静まり返り、風の音以外何も聞こえない。
戦争が終わり、平和な時がやってきたのだと雛森は実感した。
「あたしさ……卍解習得したんだよ。卍解の力ってすごいね……。あたしほとんど振り回されていたよ」
「ああ……俺も制御するのに昔は苦労したぜ」
「今は苦労していないってこと? すごいなー日番谷君は。あたしが火だるまになったのも大紅蓮氷輪丸で助けてくれたんだよね。ありがとう。あっ、日番谷隊長って言った方が良かったね。あはは」
「火を消したのは俺だが、回道で治療してくれたのは弓親だから後でアイツにも感謝しとけよ……あと……今は二人きりだから……その……シロちゃんって呼んでくれ。桃」
「えっ……でもその呼び方子供っぽいから嫌って前に……」
恥ずかしそうに言った日番谷に雛森が驚いたかのように目を見開く。
「ついさっき老けたばっかだからな。少し若返りてえんだよ」
「ああ、あれか……かっこよかったよ。大人っぽくなったシロちゃん」
「結局俺はアイツには勝てなかったけどな……」
「そんなことないよ。
「……ありがとな桃」
笑顔で称賛の言葉を言う雛森に、日番谷は照れ臭そうに頭を掻きながら感謝の言葉を述べた。
「あたしさ……シロちゃんに桃って呼ばれるの好きだな。そう呼ばれるとおばあちゃんちに戻ったみたいでなんか安心できるよ」
「……俺も、シロちゃんとか日番谷君って呼ばれるの……本当はそんなに嫌じゃなかったぜ。恥ずかしいからみんなのいるところでは隊長って呼んで欲しいけどな」
「ふふ……わかったよシロちゃん」
「……久しぶりだな桃とこんなに長々と話すの」
「そうだね……なんか最近気まずかったからね……」
「……すまねえ。俺が以前お前を刺した時の事……ちゃんと謝ってなかったからだな……本当にごめんな桃。お前が立ち直ったら行こうって思っていたら……ずるずると先延ばししちまった……」
「いいよ。あれはシロちゃんのせいじゃないし……あたしの方こそ……シロちゃんに刀向けちゃったりして悪いことしちゃったからね。こっちこそごめんね」
ぽつりと日番谷が謝ると。雛森も謝る。
「それについては気にするなって言っただろう」
「じゃああたしを刺したことも気にしないでよシロちゃん」
「…………難しいな」
しばらく考え込んだあと日番谷がそう言った。
「でしょう? あたしはさ、シロちゃんに刀を向けたことを一生気にするつもりだよ。もう二度と刀を向ける先を間違えないようにするためにね」
「そうか……。俺も二度とあんなことが起こさないようにって……鍛えたからな」
「そのおかげでアイツを倒せたって思えば……良かったのかもね。あたしがシロちゃんに刺されて」
「んなわけないだろ! 馬鹿桃!」
「あはは」
日番谷のツッコミに屈託のない笑顔を雛森は返す。
「あたしも卍解をゲットしたけどまだまだ未熟だし、シロちゃんに追いつくことを目標にがんばるよ」
「なんで俺だ? 普通は直属の上官の平子じゃないのか?」
「うーん。平子隊長はすごい人だとは思うんだけど……あたしはああいうタイプの隊長にはなれなさそうだからね」
「まぁ……確かにアイツのひねくれたやり方はお前には真似できなさそうだな」
「それにあたしの方が元々はお姉さんだったんだからね。今はシロちゃんの方が隊長だからえらいけど、威厳を取り戻すためにもあたしもいつかは隊長になれるように頑張るよ」
「そうか……頑張れよ。もっとも桃が隊長になる前に俺は総隊長になっているから威厳は取り戻せないだろうがな」
「大きく出たねーシロちゃん」
「そりゃあ俺は大きくなりたいからな」
「あはは、そうだったね。一緒に頑張ろうねシロちゃん」
「ああ……頑張ろうぜ桃」
そういうと彼らは拳を合わせた。
「じゃあ……そろそろ帰ろうぜ。ばあちゃんも心配だしな」
「流魂街の住民は難を逃れたらしいけど……この目で見ないことには心配だからね」
「ああ……瀞霊廷に行く前に寄ってこうぜ」
「そうだね……」
ふと、雛森が空を見上げる。
「どうしたんだ桃、何か考え事でもあんのか?」
「うーんとね……あんな大きな戦いがあったのにあたしもシロちゃんも生き残れて……またこうやって前みたいにシロちゃんと話せて……よかったなぁって……」
「そうだな……奇跡ってのはこういうことを言うのかもな……」
「ふふ……うまいこというね。シロちゃん」
そうしてとりとめの話をしながら二人は霊王宮を離れ、平和な日常へと戻っていった。
これで今回の話はおしまいです。少しでも面白いと思っていただけましたら、評価やお気に入り登録をしてくだされば嬉しいです。
ジェラルド戦は原作ファンからは不評の声が大きい戦いなのですが、隊長格同士が連携して戦うあたりは結構好きなんで、ちゃんと決着をつけた所が見たいと思って書きました。
オリ要素解説
〇卍解の暴走
原作にはこういうのありませんが、強力な力をノーリスクで扱えるわけがないと思ったのと、日番谷を活躍させてあげたいなと思ったのでこういう設定を入れました。火だるまになるとか飛梅が心配するのも無理ないですね。
〇回道を使う弓親
作者の記憶では弓親が回道を使った描写はないんですが、瑠璃色孔雀の花を食べて回復っぽいことをしているんで、まぁ使えてもいいだろってことで使わせました。
〇日雛
原作で日番谷が雛森を刺してから二人での会話場面が無いので会話させました。
千年血戦編のアニメでは二人の関係がどうなったか補完して欲しいですね。