果たしてゴップは彼に洗脳されAE.追討軍を送るのでしょうか?
タブレットに打ち込んだ文字を私に見せるレヴァン・フウ。
私はリー大尉に「私のタブレットを」と頼むとリーはベルトに着けた革製のタブレットケースごと
私に渡す。ちなみにこのケース、
「それでは、このタブに送ってくれればいい。電波を使って話そうじゃないか」
脳波通信はなしでオナシャス、と言ったようなもんだが、レヴァンは微笑みながら
「ありがとうございます」と返事をしてきた。結局、レヴァンが私のタブにチャットアプリで
文字を送り、私は声で答える形でまとまった。私、タイピング遅いんだよ。
「何か、足りないものはあるかね?あいにくだが、自由だけは君の能力については君より
知ってる我々には与えることはできないのは理解してくれるかな」
なんというかいつ起爆するか分からない核弾頭とチャットしてる気分だ。
私の方は声を出してるのでボイスチャットか。
「ゴップ大将閣下には感謝してもしきれません。私の命を救っていただき、なにより
妹弟達を救っていただきました。私の死後、あの子らの行く末だけが心残りだったので」
と打ち込み私に頭を下げるレヴァン。
そういや、彼はア・バオア・クーの近海でエルメスのビットとセクストン技官拾うまでは、
ひたすらに戦没者の慰霊を祈る男だったのだった。
そう思ってみると今の彼は悟りを開いた、みたいな透明感のある男に見える。
「当たり前のことをした、とは言えないのが連邦軍の現状だが、私はそれを少しでも変え
たいと思っている。言わば私のワガママなんだよ、これは。少しカッコつけすぎたかな」
とにっこり(人によっては、にたりに見える)と笑う私。
「私達はモニカ・ハンフリーという女人の執着や執念が産んだ落とし子といえるでしょう。
彼女が母だとすれば父はAE.という企業でしょうか」
ウェリントン執行役員は資金と設備、政治的な後ろ盾を提供していたが、研究には口を
出さなかったそうで、モニカは成果だけを報告していた、という内部証言が取れている。
ウェリントン、という個人がことさら外道だった訳ではなく、AE.という組織そのものが
「(違法)クローンだから何をやってもいい」という方針だった訳だが、この件を追求しても
何人か役員の首が飛ぶだけでカーバイン会長や黒幕であるビスト家には傷一つ付けられない
だろう。AE.=月面産業界、の構図がある現在、それは月面相手に戦争するのと一緒だ。
グリプス戦争のようにね。
「私は親とも言えるハンフリーに捨てられる寸前でした。死ぬまでデータを採取して記録する
方が研究の役に立ったと思いますが、彼女は最後に私が外の世界を知ってから死んでほしい、
と思ってくれたのです。そのことだけは彼女に感謝しています」
「そうか。彼女は君が生き延びたと知るや自分に研究させろ、と私に要求したよ。実験の指揮を
取れなくても実験データの解析だけでも大きな成果を挙げられる、と自信満々だった」
レヴァンは悲しげな顔になり、「彼女は『人工ニュータイプ』という妄執からいまだ解放されて
いないのですね」と打つと俯いた。
「実はね、Dr.ミノフスキーに今回の顛末を伝えたのだよ。彼には自分の発見がもたらした
そんな目に遭ってる子供達がいるのを大変気に病んでいた。自分の発見のせいで戦術が一変
してしまったせいだとね」モニターの中の博士は目頭を押さえ嗚咽を漏らしていた。
「確かに他所で行われている強化実験にはM粒子の影響はあるのでしょうが、
AE.は『宇宙時代の新人類』というジオン・ダイクンの理想の具現化が目的でした。
私達の境遇は博士の責任ではありません、とお伝えください」
恐らくはAE.の裏にいるビスト財団の目的でもあるのだろうな。自分たちに都合がいい
『新人類』を作ってあの石版を公開し、連邦の行政に参画させれば我が世の春、という訳だ。
そんな都合のいい奴をそうそう作れるわけないのは御存知の通り、UC.ガンダムの
NT-Dシステムだの真のNTとやらを判定するややこしい仕組みは「レヴァンの逆襲」が
それだけ連中にとって恐ろしかったからだろう。
「しかし、君はやさしいな。恨まれても仕方ない、と本人も思っているDr.ミノフスキーを
気遣うとは、すこし感動したよ」
「私には何もありません。やさしさも憎悪も怒りも。この上はどこかの僧院で祈りの日々を
続けせめて安らかな気持ちで逝こう、と思っていたのです」
「だが、君の悪性腫瘍は取り除かれ命を永らえた。そのことには何か意味があるのだ。
私はそう思う。将来はさておき、今はその『意味』について考えてはどうかな?
本日ただ今をもって、君に回線を与えよう。ネットには宗教論や哲学論が浜辺の
砂の数ほどある。砂をさらってるうちに宝石が見つかるかもしれんよ」と私は下手な
ウインクをした。
レヴァンは深々と頭を下げる。
「すまんが、そろそろ面会時間は終わりらしい。近日中に君を他の病棟に移す。
人間の看護師が付くだろう。今みたいな看護ドロイドじゃなくてね」
レヴァンはまた頭を下げた。
病棟を出るとリーが「レヴァンですが、閣下の頭の中に話しかけてきましたか?」
と心配げに聞いてくる。
「ん~、私が鈍いのかもしれんけど、そういう感じは無かったなぁ。NT能力の
ある者なら例の効果線とか宇宙に浮かぶ島みたいのとか見えるのかもしれんけど」
と口をへの字に曲げながら答える。
「ま、閣下が感じ取れなくてもアルヴィースが持ってきたサイコ波検出器に
ログが残ってるでしょうから」と肩をすくめるリー。
私のオフィスに帰るとバスクが半泣きで「閣下!よくぞご無事で!」と抱き
ついてきた。「痛いよ」というと慌てて飛び退いたが。
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====ジョブ・ジョンは伍長になった。同期の訓練生がみな部隊に配属と
同時に兵長なったので繰り上げ式に昇進したのだ。
同時にエレメント(2機編隊)を組んでいた先輩が昇進して小隊長になったため、
彼は列機を持つことになった、ダニエル・シェーンベルク兵長機だ。
もう中隊には別の「ダニエル」がいるので名字と組み合わせて「ダンク」と
呼ばれている。
現在15歳だという彼は生真面目な敬礼をして大声で官姓名を名乗り、小隊長に
「そんなに固くならんでいいぞ、ジョブ伍長みたいになっても困るがな」と
笑っている。ジョブが「えぇ!?オレってそんないい加減スか?」と抗議すると、
「その~スか?ってのがダメだっての」と茶化す。
ダンクは2人の兄弟喧嘩めいたじゃれ合いに唖然としていた。
「こうしてめでたく列機を持ったジョブ君に試合の申し込みだ。
相手はお前の故郷、サイド4のエリート様だってよ、せいぜい鬱憤晴らしてこい」
ジョブからしたら、クソ施設の大人達はともかく、顔も知らないお貴族だかエリート
だかをそんなに恨んでいる訳でもないので、任務のひとつ、と割り切って了解!と
返事し元気よく格納庫へ向かった。ダンクが後を付いてくる。
ダンクは「伍長殿って模擬戦のベテランなんでしょう?
あの『野獣』とも戦ったそうですね!」と興味津々、という顔で彼の武勇談を
ねだった。「ダンク、宇宙軍は『殿』はいらないんだ。それに模擬戦を良く
申し込まれるのは俺らが珍しい機体に乗ってるからさ。別に俺が特別な訳
じゃない」と冷静に返す。ダンクは古参兵の風格がある一つ上の上官に
すっかり心酔したようだ。
確かにノボトニー中隊はBM-01Lという「高機動MS」を装備しているせいか
模擬戦の申込みが耐えない。模擬戦を繰り返す中でジョブはヤザンが言った
「脳に汗をかく」を実践していた。具体的には独自のマニューバを模擬戦で試し、
ブラッシュアップしていた。教導団出身の教官数人から「よくやってる」と
褒められたこともある、模擬戦はボロ負けしたが。
今日の対戦相手はイオ・フレミング少尉。士官学校出たての新品少尉らしい。
携帯端末には彼が
軍内部で出回る「非公認」アプリの情報だ。軍で生きていく上でこういった
情報は不可欠故、この手のアプリは人気がある。
格納庫では派手な塗装のBM-02の前にウニみたいなトンガリ頭の士官が
ヘルメットを小脇に抱えて立っていた。
「イオ・フレミングだ。ジョブ・ジョン伍長、その年でゴップ大将達に
腕前を披露したそうだね。君は
差し出すイオ。(コイツ怒らせたら
と思いながら愛想笑いを浮かべ「いや~、自分なんか全然ですよ~」と全然の
部分は本音だ、と新品少尉の手を握った。
模擬戦宙域に出るとジョブは相手の機体を確認する。
イオの
機種は知らない、がでかでかと描かれている。ジョブはそのヒコーキに見覚えが
あった。「ムーア市長のセガレ…そうかアイツらの一味か!」
アイツら、コロニーの中で爆音を響かせ、貴重な酸素を燃やして自分達が持っている
オモチャを見せびらかした奴ら。爆音に怯えぐずる妹をなだめながら、ジョブは
腹をすかせてコロニーの真ん中を我が物顔で飛ぶヒコーキを睨んでいた。
「こちとら、空気税に汲々としてるってのによ!」と恨めしそうな大人達の声が聞こえる。
さっき、イオと話していた整備士のメガネもアプリ情報だと故郷のお偉いさんの身内だ。
きっとあの時もあのヒコーキを整備していたのだろう。
「クソッタレ!接待プレイはナシだ!」母の名を冠した愛機のコックピットで闘志を
燃やすジョブ。
模擬戦はジョブの
ベムに迫るとビームライフルを乱射し、あっという間にEパックを空にしたベムがもたもた
と交換しているところをランサーのビームが貫いた。
「いやぁ、マイったマイった。もう一丁頼むよ」爽やかに負けを認め、再戦を要求するイオ。
(ああ、ギッタンギッタンにしてやんよ…)と内心で呟きながら「少尉、もうちょっと回避した
方がいいです。パックの交換はマニューバの途中でもオートでやってくれますから」と
アドバイスした。
2戦目はオート回避モードで逃げ回るベムの動きの上を行くランサーのマニューバに口笛を
吹いて感心するイオを背後から撃ち抜いた。「もう一丁」とイオ、「回避パターン・アルファは
訓練生だって先読みできます。パターンをこまめに切り替えて回避するといいですよ」と
アドバイスするジョブ。
3戦目は打ちのめすつもりで、ジョブの独自マニューバを見せた。イオのベムに真正面から
突っ込み、イオがビームライフルを向けた途端、ジョブのランサーは目の前から消えた。
ランサーは背中のスラスターを真上に向けを全開で吹かし、前方と下方の合成ベクトルで立った
姿勢のまま斜め下に急降下したのだ。そしてベムの下方にポジション取りすると、股ぐら目掛け
ビームを放つ、イオ機のコックピットに警告音と「致命的命中」の表示が正面モニターに
でかでかと表示される。
「ありがとうジョブ・ジョン伍長!これからは君を『ジョブ』と呼んでいいかい?
しかし、あの最後のは君のオリジナルだろ?凄いな、流石はヤザン先輩が認めただけはある!」
お坊ちゃんらしく、人との距離を無造作に詰めてくるイオにジョブは内心閉口しながら、
(こいつ、ヤザン知ってんのかよ…)とさらにげんなりした。
アプリ情報だと、ヤザンも地球じゃいいとこの出らしい、地球とコロニー、生まれは違えど
上流階級同士気が合ったのだろう、とジョブは一人合点した。
髪をジェルでかっちり固めた女士官になぜか自慢気にジョブを紹介するイオを見ながら
(こいつら、どうせ俺をテメェらの盾か
俺は絶対テメーラの盾にもERAにもならねぇからな!)愛想笑いしつつ内心で毒づくジョブ
だった。
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====サイド7、7バンチの基地グラウンドでアムロ達3人は何故かランニングしていた。
カイは「なんで、俺ら走らされてるワケ?おかしくね?モビルスーツの操縦が仕事だろ?」
とぼやく。スポーツ経験者のハヤトははるか先を走り、その後ろにアムロが腕にはめた
スマートウォッチを見ながら走っている。
先頭を走るチャーリー少佐はカイが追いつくまでその場で足踏みし、「カイ君、パイロット
は体力が資本だ。初めて乗った時は次の日筋肉痛に苦しんだだろ?
身体を鍛えなければ機体の限界性能を発揮できんぞ」と爽やかに笑いながら力こぶを作る。
根っからの子分肌なカイは目の前の士官がただの脳筋でないことを本能的に知っていたので
「そうっすね!おれ、いや僕がんばります!」と少しランニングのペースを上げた。
チャーリーは笑いながら「でも、オーバーワークには気をつけるんだ。君達には個別の
メニューを組んでるからね」と言った。
ハヤトは黙々と走り、アムロはスマートウォッチの指示を守り自分のペースで走る。
(アムロがネを上げなきゃ、コレ終わんねぇじゃんよぉ)とカイは今度は内心でぼやいた。
何しろアムロは彼等のVIPらしい、割と彼の希望は叶えられた。チャーリーが身体を鍛えろ、
と言った時も「僕は
カイは「パイロットって高給取りでねーちゃんにちやほやされる仕事じゃなかったのかねぇ…」
と今度は口に出してぼやいた。
実のところ、3人のうち2人はねーちゃん、女性陣にはちやほやされている。
アムロはもとより、小柄なハヤトも「かわいー」とか言われてマスコット的な可愛がられ方を
されている。カイの方に寄ってくるのは男ばっかりだ。
皆、なぜか決まって「声、再現度たけーな」とか言うのだが。
そういえば、バシットとかいう名前のでかくて筋肉もりもりな女整備士だけはカイをやたら
構った。子分肌のカイは彼女を「オバサン」呼びこそすれ割としたいようにさせている。
毎度「ご飯食べたかい?」「風呂は毎日入んな」と言われると鬱陶しいが母を早くに亡くした
カイにはこれがオフクロってやつなのかも、と思うのだった。
ランニングが終わるとジムで筋トレや格闘技のトレーニングだ。格闘技の習得はMSの白兵戦に
欠かせないモノらしい。ここでもスマートウォッチ、実はRX78-2のAIリサの端末、の指示で
マシントレーニングをするアムロ。ハヤトはチャーリー少佐にジュードーの技を披露し、投げで
イッポン取った。チャーリーは完璧な受け身を取ったので、ジュードー初心者ではないらしい。
今度はチャーリーが旧ロシア軍の「システマ」と各国の格闘術を組み合わせた連邦軍の格闘術を
ハヤトに懇切丁寧に指導している。「ハヤトのヤツ、
とカイは肩をすくめた。
次のカリキュラムはMSの構造を学ぶ。3人共理解度がまちまちなので、デスクの端末で
とカイが言うと、アムロが「機密情報なんですよ。ちゃんとセキュリティ対策取ってる
ここの端末じゃなきゃダメに決まってるじゃないですか」と分かりきったことを聞くな、
とばかりの口調で言われた。内心ムッとするが、VIPを怒らす訳にもいかず、
「あ、セキュリティ的なアレね」と調子を合わせる。
ハヤトはここでも黙々と自習している。時々、講師の技術士官を呼んで質問している。
「ハヤトもまぁ、待遇良くしようって必死だねぇ」とカイ。
実は大型特殊免許の持ち主で自ら改造したトラックでレースに出るくらい彼はメカに強い。
「休み時間」に基地のガンタンク(MS回収車)を乗り回すくらいだ。
カイは彼に課されたカリキュラムをさっさと片付けて愚痴っているのである。
講師を務める技術士官は(やっぱカイすげえな。こりゃカリキュラム組み直さんと
いかんなぁ)とカイの理解力と要領の良さに舌を巻いていた。
軽めの昼食と昼休みが終わるとRX-78に搭乗し、操縦訓練とAIのラーニングの時間だ。
「ウィリーと呼んでくれ」と訓練初日に言ったケンプ大尉と黄色いRX-78-1が教官となる。
1号機と2、3、4号機はレーザー通信でネットワーク化され相互にデータを交換していた。
「4姉妹の会話」とも言えるが、人間相手ではないので自然言語で話してる訳ではない。
勿論3人の操縦訓練と同時に、である。
人間の方の教官、ウィリー大尉は3人に「10日余りの訓練だが、君達は試乗の時とは
見違える程強くなった。この調子でやっていこう!」と彼等の上達ぶりを褒めた。
カイとハヤトは「いやぁ、それほどでも」と照れるが、アムロは「こんなんじゃ、まだ、
あの人には勝てない…」と2号機のシステムチェックしながら今日の訓練メニューを
予習していた。
「今日はまず昨日やった射撃のおさらいといこうか。足を止めて撃つのはこっちに気が
ついてない敵を狙撃する時だけ、普通は動きながらの射撃、行進間射撃、をするんだ。
走りながら、サイドステップやバックステップしながら、時には空を飛びながら射撃する
訳だな。コロニー戦は
って君等には常識だったな、ははは」とウィリーが射撃のコツを解説し、見本だ、
と言いながら華麗なステップを踏み、時はスラスターを吹かしてコロニーの空を飛びながら
標的に照準レーザーを次々命中させる1号機。
「『蝶のように舞い、蜂のように刺す』ってヤツだ。さ、やってみよう」
カイは割と危なっかしい足取りだが、命中率は高い。ハヤトは時たま機体を地面に転がし
ながら腹ばいで標的を射抜いている。カイは「なんでMSに歩兵のマネさせてるワケ?」
と呆れている。
アムロはスピードを微妙に変えながら、時には走りながら振り向きざまに、遂には
放り投げたシールドと一緒にジャンプし、隠れて撃つ、という芸当をやってのけた。
コロニーの空での飛行も真っ直ぐには飛ばず、微妙に角度を変えながら螺旋軌道を描き
標的を射抜く。
「
とウィリーはため息をついた。訓練の最後に行われる模擬戦で今日までアムロになんとか
勝ってきたが、いつも背中に汗をびっしょりかいた。幸いパイロット用オムツは濡らしていない。
リタは「過去の勝利動画を用意しとくわ、エンディングはアナタの敗北で〆ね」
とにべもない。(せめて気休めくらい言えよ、お前の負けでもあるんだぜ、リタ)と思う
ウィリーだった。
6バンチの「V作戦R&Dセンター」で訓練の様子、同時に2~4号機のコックピットの様子、
をモニターしていたテム・レイはAI開発のリーダー、ダニー・アトキンソン中佐にこう
問いかけた。「2号機のAIはやけに無口な気がするんだが?」確かに3号機のローラや
4号機のラナはカイを叱咤したりハヤトを激励したりしてるが、2号機のリサは報告や
警告をするだけ、アムロとの会話は必要最小限、といった具合だ。
ダニーは苦笑いしながら「実のところ、2号機の『リサ』は対人インタフェースに最小限
しかリソースを振り分けていないんです。そうしないと早晩ご子息、アムロ君の思考速度と
反応速度に追い付けなくなりますから」と肩をすくめる。
実はテムとダニーはRX-78開発会議で激論を戦わせたことがある。
機体の剛性確保のため、なるべくコックピットを小さく、安全装備も最小限、内部のモニター
も小さい物を、と主張するテムにダニーが「貴方はMSのハードの性能ばかりに注目し、
操縦する人間のことを考えてない!貴方のご子息、アムロ君が乗る機体なんですよ、78は!」
と猛反論したのだ。
「アムロが乗る機体」にはっとしたテムは以後RX-78のUIや操縦者の安全装備についても
留意するようになった。人間工学に配慮したハッチの配置やステンシルのお陰で機体の
整備性も向上した。
ダニーのチームは素人の少年達に如何に早く操作に習熟させるか、に知恵を絞り「お喋りAI」
と「チュートリアルモード」に繋がるのだが、そのダニーがUIを簡素化してでも処理速度を
最優先させている現状に我が息子ながら末恐ろしい、と思うテム・レイだった。
模擬戦の前にカイは「ウィリー大尉、俺が勝ったら例の『裏モード』の件、お願いしますよ!」と
また賭けを持ちかける。『裏モード』とは搭載AIがなんか色っぽい姿のホロ映像になってくれる、
というモードた。いやらしい笑みを浮かべたウィリーから「これはR-15情報だからな…」と
カイにだけ耳打ちしてくれたのだ。
ウィリーがAI開発スタッフに「自分のAIに愛着を持たせる為」と称して実装を主張し、彼のリタに
も実装されたモードだ。彼自身はリタの裸体を見て最初こそ喜んだものの、すぐに飽きてホロ
グラムを切ってしまった。RX-78を操縦する快感は何物にも替えがたい、やはり彼はパイロット
なのだ。
一方でカイは軍のイントラネットならどこかに裏サイトがあって成人向け動画だの写真だのが
あるに違いない、と睨み色々探ってきたが、なにせ高機能AIを拵える連中だけあってガッチリと
モデルの水着写真はいいのに、基地の女兵士がSNSに上げた自撮りの水着動画には謎の白い光で
修正がかかっていた。(せめてこうるさいAIの裸を鑑賞するくらい労働者の権利として認められる
べきだって!)とカイは思う。
ハヤトはカイの口調から『裏モード』がろくなものでない、ウィリーの軽い性格はここ10日
あまりでよく分かってる、と思いジト目をしている。
ラナに「ハヤトは私を見たい?」と言われ、頬を赤らめて「服を着ていれば、ね」と答えた。
アムロはカイの言うことだからGがきつくなる高機動モードではないと判断し、意識から
消している。
「チクショー!!」結局カイはあっさり負けてしまい、裏モードはお預けとなった。
「カイく~ん、もっと狙って撃たないと当たらんよぉ」とアドバイスするウィリー。
ハヤトは得意の白兵戦まで距離を詰める前にビームライフルで撃破される。
ウィリーは「ハヤト君、白兵戦が得意だからって射撃戦は逃げ回ってたら、ろくに距離は詰めら
れんぜ」と教官らしいことを言う。
メインイベントのアムロ戦、基地の全員が注目している、を前にウィリーは乾いた唇を舐める。
数週間、という開発スタッフの予想に反し、2週間たらずの間に彼はアムロに苦戦を強いられ
続けた。日に日に速くなる反応速度に加えて、放り投げたシールドに隠れる、など様々な戦術で
ウィリーは何度も追い詰められた。リタが機体制御だけでなくウィリーの話すガンダム知識を
戦術データベースに蓄積していなかったらとっくに負けていただろう。
「今日勝てても明日から始まる宇宙訓練じゃ、コンスコン隊のリックドムみたくチンチンにされる
だろうなぁ」とボヤくウィリー。
「NT能力は
とリタが茶化す。「よせやい、こちとら骨の髄までオールドさ。俺は2020年から来たんだぜ」
とウィリー。
両機が基地の両端、約4000m離れてから模擬戦は始まった。初っ端からスラスター全開で
コロニーの空を駆ける1号機、距離を取らなければ、アムロの反応速度と戦術の前に
クロスファイトは不利だ。ウィリーはコロニーの反対側まで飛んで距離を取るつもりだった。
アムロはそうはさせじ、と回避マニューバを交えながら後を追ってくる。
1号機は牽制射撃を交えながら反対側の地面に着地し、走行とホバーを織り交ぜながらジグザク
に進み追跡してきた2号機を狙撃しようとする。が、ロックオン直前、2号機は閃光弾、大音響
のオマケ付きのをばら撒きながら急上昇する。閃光に光学センサーと
一瞬2号機を見失い、ウィリーは慌てて1号機に回避機動を取らせたが、アムロは既に彼の癖を
見切ったのか、必殺の一撃を放つ。
カメラには照準レーザーが映らないので傍目にはライフルを向けただけのように見えたが。
「メインカメラとメインスラスター全損。アナタの負けよウィリー」リタは今までの勝利の
記録をコックピットに流しながら冷たく告げた。
「あ~あ、みじけぇ夢だった…」と上を見上げながらボヤくウィリー。
アムロは「フラッシュ・バンをいじったのが効いたのかな。宇宙だと閃光しか意味ないから
なぁ、中身を色々試してみようかな…」とリサと今回の戦闘の分析をしている。
「あの人」に思ったよりあっさり勝てて勝利の実感がわかないのであった。
あまり喜ばないアムロの代わりにテム・レイが飛び上がりながら「あれは私の息子なんだ!」と
基地の全員が知ってることを叫びながら喜ぶ。チャーリー少佐は少し難しい顔をしている。
訓練の後、チャーリー少佐はウィリー大尉を呼び、「シデン君に言った
苦言を呈した。「あの年頃の性的衝動を煽ってやる気にさせた結果を自分は嫌という程見てるのでね」
と少年兵が性犯罪の加害者になった光景を思い出し、口をへの字に結びながら肩をすくめる。
ウィリーは慌てて「カイ君のは『裏モード』と言ってもローラが水着姿になるだけですって。
チャイルド・ロックはちゃんとかけてますから」と弁明する。
チャーリーは「まぁ、ピンナップホロならいいか」と苦笑する。実はSNSに上がっている女性スタッフ
の自撮り写真や動画にチャイルド・ロックをかけるよう命じたのはチャーリーだ。
性犯罪というのは顔見知り程度の関係で頻発するのを彼は知っていた。
一方ウィリーは(ま、カイ君の頑張り次第でローラの水着は生地が小さくなるんだけどね)と
心の中でテヘペロをしていた。
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やっぱりアムロ強いねぇ。チョイ役のケンプ君も頑張ったけど、同じ機体じゃなかったら
一週間保たなかったんじゃないかな、ゴップです。
最初の面会から一週間後、私は一般病棟の個室、MP1個分隊が部屋の周囲を警備しているが、
に移ったレヴァン・フウと再び面会していた。
アルヴィースのサイコ波検出器はレヴァンがサイコ・ウェーブを発信していないこと示していた。
つまり彼が私を洗脳しようとしていなかったのが証明されたので、一般病棟に移されたのだ。
もっとも、VIP向けの病棟なので警備システムで固められ、MPの詰め所も四方にあるのだが。
彼はだいぶ回復し、普通に喋れるし食事も取っているようだ。ビタミン剤マシマシのシリアルに
ヨーグルトかけたのしか食べない、と主治医は嘆いていたが。彼って菜食主義だっけ?
南洋同盟って東南アジア系の仏教なんで肉食はタブーじゃなかった気がするが。
僧侶の位持ってたMSパイロット達は肉食わんと身体保たんよねぇ。
「具合はどうだね?」と例のごとく気軽な感じで話しかける私。レヴァンは頭を下げながら
「お陰を持ちましてだいぶ良くなって参りました」と
私は、うんよかった、と頷きながら割と核心を突いた質問をする。
「今でも、手段さえ与えられればAE.に復讐したいかね?」
レヴァンは少しの間目を閉じ、目を開いて私の方に向き直ると
「死んだ兄弟姉妹のことを思えばAE.はやはり許せません。ですが、今は生き延びた妹や弟ら
がこの後、身の立つように考え行動するのが第一と思っております」つまり、復讐より研究所の
子供達の将来の生活が優先される、と言っている。
リリーとイースのシェリーナ姉妹、彼女等レヴァンのすぐ下の妹達は『サンダーボルト』劇中と
同種の能力、千里眼を発揮した。他の子達も程度の差こそあれNT能力の萌芽を示している。
まだ、大人達に力を示さねば
本音は分からないのだとしたらレヴァンだけが頼りだなぁ。彼は妹弟達の代弁者として生きて
いきたい、と言ってくれたのは好都合だといえばそうなるね。
NT能力を持つ子供達、なぞ連邦軍の他派閥にしてみれば「何故軍事利用しない?」と聞き
たくなる存在だろう。コリニー派の残党共は「宇宙人」に対する切り札ととして是非とも
確保したいと思うだろうし、レビル派にもペイルライダーとそのパイロットを使ってた外道
がいる。まぁ、そんなことは許さんがね。
「今日のところは帰るとするよ、いずれあの子達にも会わせよう」と私は病室を後にした。
レヴァンはずっと頭を下げていた。
「で、レヴァン・フウの能力はどれだけ残っておるのかね?」私には口をへの字の形にして
ローレン・ナカモトにレヴァンの能力について尋ねた。アルヴィースは同席していない。
まぁ、また彼に囚人のジレンマを味あわせている訳だね。まだ、私達が彼等の能力を
利用したいと思っている、と誤解したままのナカモトは「彼の能力でしたら、いまだ
サイコ・ウェーブ通信を利用した、『感情の共有』『感覚の共有』が可能です!」
それは大した能力ではないか!マズイんじゃないの?
「思考の読み取りや洗脳はできない、と思ってよいのかね?」とギロリをした目でナカモトを
見る私。ナカモトはちょっと貧乏ゆすりをしながら「研究が進み、新しい処置を取ればいずれは
可能となるでしょう。我々の被検体は他の研究所が作っているようなMSに誘導兵器の運用を可能
とさせる生体FCSなんてものじゃありません。指揮・通信・管制に革命を起こす存在を我々は
作ってきたのですよ!」とレヴァンを人間AWACSだと誇り、その開発と整備に自分を登用しろ、
と私に売り込んできた。
「生憎だがね、我々の希望はそういうのと逆なんだ。彼を普通の男に戻す方法はあるかね?
できれば身体の方も治してなるべく長生きして貰いたい」
ナカモトは「はぁ、脳の方はともかく、それ以外の臓器は内科医の領分だと思いますが…」
知らんがな、みたいな態度を取った。私は彼を公室から追い出した。
アルヴィースは我々の意向を理解していたので、ナカモトのように誇張したことは言わなかった。
「閣下が身につけられたサイコ波検出器はまた数値0を記録しています」
「ただ、可能性の話として他人のサイコ波を観測する能力はまだ残されているかも知れません」
「他人に自分の思考やイメージを伝えたり、はできないがそれを読み取ることはできる?と」
私は上目遣いでアルヴィースに尋ねる。ここまではナカモトと同じ見解だ。
彼は苦笑いして「オールドタイプ、言わば常人のは無理です。強いサイコ波を発信可能な
者の感情を認識することは可能ですが、複雑な思考は無理です。ただ、単語のひとつか
ふたつくらいは分かりますから通信には使えるかもしれません。もう1人被検体とペア
え組めばサイコ通信システムが構築できますが、それは閣下の本意ではないのでしょう?」
「まったくそうだな。私はレヴァンをはじめとする彼等を『普通』に戻したい、と思っている。
平穏な人生をおくれるように、ね」
アルヴィースは居住まいを正して私に真剣な目でこう訴えかけた「果たして『普通』が彼等に
とって本当の幸せなのでしょうか?」
「彼等をオールドタイプに
奪うことになります。社会、という彼等にとって未知の世界で1人で放り出された、と感じる
のではないでしょうか?強すぎる能力は彼等に不幸しかもたらさないでしょうが、近距離なら
あるいは遠距離でもワンセンテンスの励ましの言葉を届けるだけでだいぶ心強いと思います」
と、人工ニュータイプの研究を進めるのではなく、彼等の能力を奪わず社会に適応できる
程度にチューニングできないか、と彼は主張しているのだ。
「確かにそうだ。しかし、君、あるいはナカモトを含めたスタッフ達にそんな調整が可能
なのかね?」と私。強化実験を繰り返してきた連中がそう都合よく能力を抑える、なんて
ことが出来るのだろうか?
「これを見て下さい」とアルヴィースは私にリングを見せた。頭に嵌りそうな大きさで
孫悟空の頭に嵌ってる
緊箍児との違いは色が銀色なのと額の位置にLEDが埋め込まれてるところか。
「この『サイコ・リミッター』はレヴァン・フウに合わせて調整されています。
生体が発する微弱な電流を使って作動し、サイコ・ウェーブを遮断します。発信も受信も
できなくなるのです。実はこのリミッターの開発を巡ってハンフリーと対立し、私は研究所を
追われそうになっていたのです」と額のLEDは作動しているのを示すパイロットランプか。
なんというか希望が見えてきた気がする。
三度目の面会の数日後、レヴァンは病室の外を歩く許可を得て特別児童養護施設を訪問
することを許可され彼の妹や弟たちと久しぶりにあった。
大きな声ではしゃいでレヴァンに抱きつく男の子やじっと彼を見て微笑みを浮かべる女の子
もいる。レヴァンは彼女に微笑み返した。すやすや眠るイースは口元に笑みを浮かべている。
リリーや他の年かさの子達は長兄にサイコ通信を試みてるようだったが、レヴァンは「私はもう、
おまえ達の声が聞き分けられなくなっているんだ。話しかけるのは1人にしてくれないか」と
寂しそうに笑いながら言った。
彼等の様子を見て気がついたのが、レヴァンって割と感情が表に出てないか?
『サンダーボルト』劇中ではAE.への憎悪を口にしても表情が変わることがなかった、と
記憶している。彼は元々はこんな風に微笑むのが似合う男だったのだろう。
彼等の様子を少し離れたところから眺めながら計測機器をチェックしているアルヴィース
も嬉しそうだ。ナカモトではなく、彼に子供達の面倒を見せよう。
ナカモトには、他の使い途がある。ジオンが投入するだろうNT兵の解析と対策だ。
病室に帰ると、早速レヴァンに『サイコ・リミッター』を試して貰った。
「特に痛みは感じません…不安も感じませんね。むしろ頭の中のノイズが消えて
落ち着いた気分です」と彼は感想を声で伝えた。
アルヴィースはサイコ波検出器のモニターを見て「サイコ波検出できません。
実験は成功です」とにっこり笑って言った。
まずははレヴァン社会復帰への第一歩、といったところだね、うん。
レヴァンは「博士、これを瞑想する時に使ってもよろしいでしょうか?」と
サイコ・リミッターの使用許可を求め、レヴァンは涙ぐみながら「レヴァン、これは
君の物だ。何も持ってない、が口癖だった君の最初の所有物だよ…」と優しく言った。
今回の主役で初の「肉声の」台詞があったレヴァン・フウですが、彼はこの後も重要な役割を果たします。
ジョブがイオ達のエアレースに怒る、というのは彼等のキラキラした青春の1ページも
底辺から見たら眩しさより怒りを感じるのではないか、と思えたので、盾にされる学徒兵の本音を太田垣氏が描いた外伝をオマージュしました。
コロニー内部の酸素は有限ですから、車もバイクも電気がメインでガソリン車でレースするカイ達も白眼視されたでしょう。
もっとも、ガンダムはロケット/ジェット切替式のスラスターを付けてるのでコロニーの中を飛ぶとP-51とは桁違いに酸素を燃やします。
しかし、昨日のブルーの飛行、動画とか写真見ましたが凄かったですね。
病院の屋上で白衣の人たちが喜んでて良かった。
バズーカみたいなレンズ抱えたお医者さんにはミリオタ的に微笑ましかった。
イオ達もレースの収益を寄付したんだと思います。当時のジョブ兄妹は飲んだくれの親父と同居してましたので恩恵に被れなかったでしょうが。
アムロ達の訓練風景ですが、あくまでマイペース、でも常人には無理なペースで強くなるアムロ、
ひたすら地道に努力するハヤト、愚痴りながらも持ち前の要領の良さで乗り切るカイ、と
三者三様を表現したかったのですが、伝わったでしょうか。
ウィリーとカイのコンビは今後も漫才やコントを披露する予定です。
チャーリー少佐の視点はもうちょっと掘り下げてみたいと思っています。
次回はまた、別の研究所の強化人間が登場するかも、しれません。