リストラおじさん、ゴップになる   作:寒原光雪

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新キャラクター続々登場です。今回ゴップさん、あまり出番ないかも。


完璧なる兵士

====UC.0079 10.12 特設空母 ニーズヘッグ 

 

『ニーズヘッグ』はパプア級輸送艦を改装した特設MS空母である。

「貨物」としてMS20機が搭載可能なパプアにMS冷却装置の増設と着艦設備(ネット)

などの改装を施し、MS二個中隊18機の「運用」能力を持たせた艦である。

とはいえ、主機の換装などは行われずムサイ級と艦隊運動などできない鈍足艦だ。

きたる艦隊決戦では宇宙攻撃艦隊の別働隊として同型艦や貨客船改造空母と航空艦隊

を編成する予定である。

 

ただ、恐らくその時は突撃機動軍のMS部隊を助っ人に呼ぶので、「MS大隊」とか

「MS梯団」とかいう部隊名になるだろう、というのが古参兵(ベテラン)達の推測だが、

17歳のフレデリック・ブラウン伍長と同期のクリスチャン・マイヤー伍長にはどうでも

いいことだった。

 

シャア・アズナブル中尉、僕らの小隊長。昨月20歳になったばかりの若手士官なのに軍上層

部とのパイプがあるのか、『専用機』が与えられ同じ中尉が機付き長として整備をしている

という凄い人だ。その凄い人の列機を務めているのが彼ら二人には誇らしかった。

実のところ、「若僧のくせに特製の機体に乗ってる」のが中隊長は気に入らず、古参兵を

下につけて貰えずに新兵二人のお守りをさせられている、というのが実態だったが。

 

もっとも、小隊長は「私は私の好きなように飛ぶ、貴様らはペアを組み相手からはぐれんよう

にしておけば生き残れるだろう。EMS-04を任される腕があるのだからな」

とあまり構ってくれない。むしろ機付長のマイ技術中尉が小隊長のMS-06Sを整備する傍ら、

彼等のEMS-04(ヅダ)のリミッターマージンを調整してくれたり、昼食に誘ってくれたり

色々と面倒を見てくれた。「あの人はいい人だ」が彼ら二人の統一見解である。

 

火傷の跡を隠す仮面を付け、規定違反の特別に誂えた赤い軍服を着る目立つ中尉の出自を

中隊、というかニーズヘッグ全艦で様々な推理や憶測が流れていた。

「サイド5のテキサスコロニー生まれだっていうが、誰ぞ偉いさんがテキサスコロニーに

バカンスに行った時の落し子じゃないかね?ありゃ」というのが事情通デニム軍曹の憶測だ。

 

生まれの高貴さ、みたいな空気は敬愛する上官から感じる。士官学校ではザビ家の末子という

王子にして「暁の蜂起」の英雄、ガルマ様の親友だった、と彼の同期生だった士官が話している

のを聞いたことがある。ガルマ様はわざわざ寮の部屋を変えて小隊長をルームメイトにしたのだ

という。件の士官は「おそらく、ガルマ様の幼馴染だったんじゃないかな」と推理していた。

高貴な人にいたく気に入られるくらいだから育ちはいいのだろう、とマハル程ではないが下町の

生まれのブラウンと中流家庭出身のマイヤーの意見は一致していた。

 

彼の出自はともかくその実力はニーズヘッグ所属の二個中隊随一を誇る。

主力機MS-06Cをも上回る推力と裏腹の操縦の難しさからEMS-04を運用しているニーズヘッグ

には腕自慢が多かったが、中隊長の大尉はおろか、古参の誰もシャア中尉のMS-06Sに追い付け

ない。演習では2機、3機がかりでも全く刃が立たず、頭に血が登った中隊長はシャア小隊以外の

中隊全員で、8対1の模擬戦をやろうとしたが流石に艦長に止められた。

シャア中尉の「スペシャルなザク」の性能故だ、同じ機体に乗っていれば負けない、と負け惜しみ

を言う者もいたが、デニム軍曹は「あいつらがあのイカれたザクを動かせるワケあるめぇよ」

と取り合わない。軍曹は長い軍隊生活で培った嗅覚で「コイツにだけは逆らってはいけない」

という匂いをシャアに感じたのだろう。

 

MS-06Sをひと目見ようと他所の部隊から士官が押しかけシャアに機体のことを聞くが、シャアは

「少々軽くして推進機を変えただけ、であります」とまともに相手してくれないので自然とマイ

技術中尉に質問が集中した。

人の良い技術中尉は()()()()()答えようとしていたが、「機体の装甲と構造体をグラム

単位で肉抜きをして、推進機も試作型の物を載せています」と答えるに留まった。

空母ニーズヘッグはヅダ専用と言われている艦なので、おおかたあの「赤いザク」も推進剤に

重元素を使っているのだろう、あの機動力はそのお陰だ、が視察(見物)に来た士官たちの結論

だった。

ブラウン達は「君達の小隊長は機密の塊に乗ってるんだよ…」とマイ中尉にぼやかれた事があり、

真紅のザクが何か凄い秘密を持っていることを知っている。

 

シャアに敵わない中隊の若い士官達は彼の部下であるブラウン達にキツく当たった。

若い下士官は軒並みシャアの信奉者となっていたのでますますである。なにせ自分の列機が

小隊長の気分を無視してシャアを褒め称えているのである。面白いはずがない。

 

彼等の小隊長を悪く言う上官に逆らって制裁を食らった(殴られた)こともあった。

そういう時、デニム軍曹のような古参下士官達が二人を庇ってくれた。

軍隊で古参下士官を敵に回したい奴はいない、いつしかブラウン達もシャア同様に

「中隊の腫れ物」になった。

デニムは「シャア中尉が大佐くらいになったらお前らも尉官に出世してるだろ?

したら、お前らどっちかが指揮する隊に入れてくれや」と笑っている。

 

実のところ、ブラウン機とマイヤー機は模擬戦で狙われまくるせいか、2機のコンビネーションは

練り上げられており、真紅のザクのマニューバの中でヅダで()()()()()()()()()ものを

拙いなりに真似てオリジナルのマニューバにしている。というか、ヅダは小回りが利かないので

自然と彼らのオリジナルになってしまう。

 

自分達の上達はマイ中尉がしてくれたチューンアップのお陰、と二人は技術中尉に礼を言ったが、

中尉は苦笑して「自分がやったのはただの調整だよ。あれは君達二人の実力だ」といつもの

気さくな感じで二人を褒めてくれた。あのシャア中尉の機付長はシャハト技術本部長の

秘蔵っ子だ、というのが古参情報である。そんな人に実力を褒められ二人はとても嬉しかった。

マイ中尉はとてもいい人だ。

 

今日は珍しく小隊長直々に二人を鍛えてくれるという、二人は喜び勇んで愛機に乗り、

宇宙(そら)に駆け出した。

 

「一度しか言わんからよく聞いておけ」と赤いノーマルスーツを着た小隊長が訓示を述べる。

「私が敵を一撃すれば敵の隊列は乱れる。貴様らはそのスキを付いて一撃せよ。一撃したら

欲をかかずに離脱だ。貴様らの攻撃直後、私が二撃目を放つ、その邪魔をするな」

 

「一撃したら、離脱。そのすぐあと隊長が二撃目、そのあとで自分達も二撃目を放って離脱。

これの繰り返し…」とブラウンはまるで霊験あらたかなお経か福音を唱えるように呟いていた。

近距離通信でマイヤーも同じ呟きをしているのが分かった。

 

真紅のザクは「あと、貴様らは雛鳥のように私の軌道をなぞるな。小回りの利かんヅダでは

死ぬぞ」とも警告した。

 

ブラウンは「自分の機動をすること…」とマイヤーと一緒に繰り返し唱えた。

 

シャア小隊の母艦を標的とした対艦攻撃訓練で護衛のガガウル級駆逐艦から

「照準が追いつかない!」という悲鳴めいた通信が空母のブリッジに入る。

赤いザクはもとより、それに続く2機のヅダにも狙いが付けられないらしい。

 

艦長の老中佐は「最後の戦に花を咲かせそうだな」とブリッジクルーが嬉しそうに上げる

「被害報告」を聞きながら独り言ちた。

結局、ニーズヘッグは訓練中12回撃沈された。内訳はシャアが10回、ブラウンが2回だ。

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====サウス・バニングはこの時34歳の中尉だった。18歳の訓練生から軍生活をスタートし、

以来16年搭乗者勤務に務めた結果、叩き上げとして一目置かれる存在になった。

自分の指揮するR中隊第4小隊もパイロットは全員叩き上げの下士官達で背中を預けられる連中だ。

来年早々に始まるという戦争もこいつらと共に戦うのだろう、と思っていた。

 

皮肉屋のベイト、大人しいアデル、それとツァリアーノ中佐曰く「イタリア男の恥晒し」の

ベルナルド・モンシア。彼はどこでもおおっぴらに飲酒をし、ワル仲間と所構わずカードをする。

営倉(独房)行きの常連、余りに酷い素行から教導団にスカウトされなかった男だ。

ベイトは「テメェのお陰で俺まで士官になりそこなったぜ!」と言うが一緒にカードをやってる

のだから仕方ない。アデルこそ完全にとばっちりだろう。

そんなはみ出し者達を集めた第4小隊だが、有効な小隊戦術をいくつか編み出し中隊長レイヤー

()()の評価は、勤務態度を除いて、高かった。

 

その日、バニングはレイヤー中隊長から話を持ちかけられた。

レイヤーは少佐に昇進して中隊を再編した501戦闘団を率いる。バニングも大尉に昇進するが、

彼の中隊、501戦闘団B(バニング)中隊を編成して欲しい、と。第4小隊を基幹隊員に選んで

構わないそうだ。

 

バニングは即座にベイトとモンシアを小隊長に、アデルを自分が直卒する小隊で補佐に付けること

を思いついたが、レイヤーはもう4機追加して増強中隊にしろ、と難題を言う。

何人かの士官が思いついたが、元戦闘機乗りのラリー・ラドリー中尉を加えることにした。

残りのメンバーはラドリーと相談しよう。

 

数日後、サウス・バニングは大尉に任官すると共に、「バニング中隊」第501戦闘団B中隊の

中隊長となった。

副隊長はラドリー中尉。彼は第4小隊を率いると共にバニングが指揮を取れない場合には中隊の

指揮権を継承することになっている。

 

問題児モンシアとベイトは准尉となった。モンシアは「どうせなら少尉が良かったですがねぇ…」

と言うが、バニングは人事局から彼の勤務評定を見せられ少尉にするのは諦め、「士官になり

たきゃ実戦で結果を出せ」とモンシアに言っておいた。

ベイトはカード仲間、モンシアは飲み仲間を小隊員に選んだようだ。

バニングが直卒する第1小隊はディック・アレン准尉とラバン・カークス軍曹、そしてチャップ

・アデル曹長だ。手堅い人事である。

 

スナイピングが十八番の第4小隊長ラドリー中尉機は『Blash・XBR-L-78』長砲身ビームライフル

を装備し、センサー性能の強化(モノアイの大口径化)などの改造が施されている。

列機のアニッシュ・ロフマン曹長機はBM-02の両肩にシールドを装備し、小隊長機の盾となって

も守り切る彼の心意気を現している。右手には標準ビームライフルを左手にはAR-YS77アサルト

ライフルを携帯している。観測手として視野を広くするためかモノアイを2基追加してBM-02

ロフマン機はますます化け物じみた外見になった。あとの2人はポリネシア系のカルモナ少尉と

中央アジア系のクマル軍曹だ。

 

こうしてU.C.0078 10.25 バニング中隊はスタートした。

夕べの中隊結成式で飲みすぎたモンシアは二日酔いが酷いらしい。バニングが罰として腕立て

50回を命じると、死にそうな顔になりながら腕立てしている。

バニングはその様子を監督しながら、昨日のレイヤー少佐との会話に思いをはせた。

 

「501戦闘団『ホワイト・ディンゴ』の主任務は第1・第4連合艦隊、中でも総旗艦『アナンケ』

の護衛だ。つまりは盾だな。鉾の方は第4艦隊をホームにする604戦闘団『セモベンテ』がやる。

ツァリアーノ中佐が元教導団の猛者共を呼び戻して編成した精鋭だからそっちは心配あるまい。

こちらの方が守りながらの戦いになる分きつい、と覚悟して貰わないとな」という団長にバニング

は「団長や自分も教導団出身ですよ、それにあの二人も」と笑いながら返す。

レイヤーはにやりとして「ああ、あの二人にはコンビで中隊を編成させてる。特に若い方には

『アナンケを餌にうようよジオンの色付きが集まってくるぞ』と煽ったらノリ気だったよ」と

ウインクしながら言う。

 

バニングはこの自分より若い、30歳手前の上官が好きだった。豪州人(オージー)らしい率直さと

明るさがある。指揮能力も申し分ない上に教導団に選抜される様に操縦も一級品だ。

 

しかし、戦闘団52機まるごと艦隊の護衛というのは少し多すぎないだろうか?

艦隊各艦には直掩機が付くのだが。マゼランやサラミスにもMS運用能力があるのはその為だ。

 

「指揮系統の問題だ」とレイヤーは彼の疑問にそう答えた。「直掩機は母艦を守るのが任務だ。

敵はどの艦を攻めるか、の決定権があるからどうしても局所的に数的不利な状況が発生する

だろう。敵のほうが練度は高いだろうからさらに不利だな。そこで我々が先に連中を探し出し、

撃滅する、サーチ&デストロイさ。勿論『アナンケ』を守りながら、ね」レイヤー団長は

機動防御、味方の艦隊に襲いかかる前のジオンのMS編隊を発見しこれを叩くという戦術

を取ると言うのだ。『アナンケ』のお守りは例のコンビに任せる、という。

 

「まぁ、旗艦の周りには直掩機や駆逐艦、艦対空ミサイル(SAM)を積み増しした防空巡がいる。

我々、3個中隊と本部小隊40機が取って返すくらいの時間は稼いでくれるさ」と団長は楽観的だ。

しかし、もし100機を越えるMSが一度に襲いかかってきたら?悲観的になるバニングだった。

 

「ジオンにもMS空母はあるらしい、その可能性は否定できないな。現にそうなったら総力戦

だね。『アナンケ』を守る為駆逐艦や巡洋艦、戦艦まで盾にして凌ぐしかない。だが、敵の

目標は艦隊だけじゃない、むしろコロニー攻撃や占領が第一だろうから、その分のMSは

温存しておく必要があるだろう。だって、戦闘で片腕や頭が無くなったザクでコロニーに

進駐したら住人はすぐさま武装蜂起するだろ?『アイツらは無敵じゃない』ってさ」と

レイヤー。バニングは(頭が無かったら、それはそれで首なし騎士(デュラハン)みたいで怖い)

と思うのだが。他ならぬ自分達のBM-02がそう呼ばれることを彼はまだ知らない。

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====アムロ達の宇宙での訓練とRX-78のAIの教育は2ヶ月目に突入した。

宇宙という3次元での機動や射撃はコロニー内部のそれよりパラメータは少ないが、速度は

桁違いに速い。

 

バルーンをデブリに見立てた機動訓練では、カイやハヤトが大きな回避機動でさえ操作が

間に合わずバルーンを割ってしまう中、アムロは最短経路でバルーンの間を抜けて行く。

ウィリーが「教育的効果」を狙ってランダムに少量の火薬をバルーンに設置したので、

といってもコックピットにアラームが鳴って、AIが警告するくらいだが、割とビクッ!

となる。

ウィリーは「ビビリなのはいいことさ。危険に鈍感なヤツは死ぬからな」とドヤ顔で言う。

カイは(俺はまだ軍人になるって決めてねぇっての…)と心のなかで呟いた。

声に出したらAI:ローラに聞かれるかもしれない。

 

「まるで頭の後ろとか足の裏にも目が付いてるみてぇ…」とカイは驚愕する。

「なんか宇宙で訓練するようになってアムロ変わりましたよね?」とハヤト。

落ちこぼれのカイ、ちびの自分と並んでクラスのイケてない組だった級友はにいつの間

にか常人離れしてしまっている。

 

M粒子環境下(ミッキーマウス)だってのにアムロのヤツ、どうやってバルーンの位置分かるんだろうなぁ?」

カイはウィリーから聞いた「ミッキーマウス」という言い回しが気に入ってよく使う。

なんかベテラン兵士っぽいではないか。「まだ、軍人になると決めてない」という先程の独白と

矛盾するようだが、そういう年頃である。大人のマネはしたいが、大人の思惑通り動かされる

のは嫌なのだ。

 

「IRセンサーには映らないですもんねぇ。光学とレーザーセンサーだけじゃ回避した先にある

バルーンとか判断と回避が間に合わない気がするんですよ」ハヤトも何度もこの訓練を繰り

返してるだけあってこの訓練の、というかウィリーの嫌らしいところを知っていた。

大きなバルーンを避けるとそのすぐ先に小さなバルーンが時には複数個置かれたりしている。

「『一難去ってまた一難』だよ諸君」ウィリーはにやにやしながら言う。

 

カイは自分のAIに話しかける「なぁ、ローラ。お前、リサと通信してアムロのコース取り

教えて貰えねぇかな。そしたらだいぶ楽じゃん」カンニングさせろ、と言ったのだ。

ローラは「とっくにしてるけど、教えないわ。アナタのためにならないもの」と自分の

オーナーである軍に課された任務を忘れていないことを表明した。

ローラはこの同年代より被ねた少年(アムロ、ハヤト比)を一人前のパイロットにしなけれ

ばいけない、それこそが自分の存在意義であることを認識していた。

 

今日の訓練を締めくくる模擬戦でウィリーはひとつ提案をした。

「アムロ君とやった後、次はカイ君ハヤト君二人がかりで来いよ。俺もさっさと引き上げて

ビール飲みたいからさ」と、にやついてながら言う。

(不良軍人…)と二人は思いながらカイは主に『裏モードのため』ハヤトは一度はウィリー

に勝ってAI:ラナに褒めてほしくその提案に乗った。

 

1分保たずにアムロ戦を終え、次は二人の番だ。カイは3号機で宙域の一点を指差してこう言った

「ハヤト、空間戦じゃベテラン相手は不利だ。あの『壁』使って戦おうぜ」

カイの指差す先には一見サイド建設に使われた資源衛星の残骸らしきデブリが固まっている

地点がある。

軍人たちはそれを『カラスの壁』と呼んでいる。カラス、は発案者の名前らしい。

ハヤトも「いいですね。あそこならEパックも補充できるから撃ち放題ですよ」と悪い顔で言う。

『壁』はサイド防衛のための障害物兼補給デポでもあった。

 

元々は各サイドに駐留する艦艇の数が足りないのを補うべく考案された防衛構想で、資源を掘り

尽くした資源衛星の残り滓の岩を一箇所に集め、慣性重量の重い大きな岩を重しとして4隅に

配置、それぞれの岩をカーボンナノチューブで繋いで幅と上下数キロの障害物とする。

有事には民間船も総動員して航路上にまで引っ張っていき、「置き石」とするのだという。

 

ジオンの艦隊がこの障害物を迂回する時は近くの艦艇から指令を出し「隕石ミサイル」を飛ばす

か、メガ粒子砲やミサイルを設置した岩から攻撃する。メガ粒子砲は最悪民間船を動力源として

使う。岩の中には擬装した補給品のデポがいくつかあり、MSが武装や弾薬、推進剤を補充する

ことができ、敵MSとの戦闘時には岩を盾にもできる。

 

「元々はわざわざ火星の向こう、小惑星帯から引っ張ってきた岩石です。有効活用しましょう」

「ジオンは我々を『陸式宇宙軍』と嘲笑いますが、ならば陸式を徹底しようじゃありませんか」と

発案者のカラス少佐はプレゼンをこう締め括り会場の笑いを誘った。

 

「通り道に置き石をする」という嫌がらせにワイアットは手を叩いて喜び賛成し、レビルと

ティアンムは艦艇の建造と乗組員の養成が計画より遅れていることと、岩を繋げただけの

代物で、粒子砲は廃艦から流用、ミサイルも旧型のリサイクル、と建設コストの低さから

賛成した。

エルランはこの構想の黒幕、カラスの思いつきを作戦書に纏めるよう煽ったので当然賛成、

ゴップは「この石ころに隠れれば、サイド4のパチもんリーオーでも何とか戦えるかな」と

思いながら賛成した。

 

こうして『カラスの壁』はサイド3と6を除く各サイドに設置工事が始められ、コロニー建設が

一段落ついて仕事にあぶれていたコロニー公社の下請け各社が特需に沸くこととなった。

辺境のサイド7にすらU.C.0078 10月現在、3箇所の『壁』が存在した。

開戦時、正規艦隊の進駐が難しいことが想定されるサイド5や、ジオンに近い1と4には9箇所

存在している。現在でも工事は続いていた。

 

サイド7にある『壁』はアムロ達の研修用なのか他のサイドの物よりいささか小さい幅約3km、

上下約2km、厚み500mの物だったが、1機相手に盾にするには充分な大きさだ。

MSが丸々隠れられる大きさの岩の裏側で光学とIR探知を防ぐシートを被った2機のガンダムは

黄色い1号機を待ち伏せていた。

 

「そろそろ、こっち来るはずなんだけどなぁ…」とカイが周辺警戒をしているいると、警報が鳴り

響きローラが「6時に高熱源!!」と警告する。ウィリーは『壁』の裏側から侵入したのだ。

岩の間にはナノチューブが張られており、ただ回避するだけでは事故りかねない。

1号機は慣れた様子で岩の「安全な」隙間をスムーズに進むと、慌てて動いたカイの3号機と

ハヤトの4号機を動体センサーで感知し、狙撃した。

 

「俺はここの警備部隊としょっちゅうここで演習してたんだぜ。岩の配置も全部知ってる、

リタがな」と模擬戦終了後ウィリーは笑って言った。

彼は試作1号機で警備部隊のBM-02(ベム) 4機、BM-01(バム) 8機の一個中隊を敵に回して勝利した

ことがあった。言動は軽いが凄腕なのだ。

「でも、『壁』を使おうってアイデアは良かった。ジオンはここの地形データなんざ持って

ないだろうからな」

『壁』の工事には曾孫受けまで情報部が調査し、ジオン系企業や関係企業を排除している。

従業員が目先の金に目が眩んでデータを持ち出す可能性はあるが、1社で担当する箇所は狭く

『壁』の全体像は把握できないよう考慮されていた。

 

「なんだよ、知ってんなら最初からそう言えっての」カイはぶつくさ言っている。

ハヤトは「さすがに大尉さんは違うなぁ」と感心した。

 

「オバハン、帰ったぜ」7バンチ基地に帰還したカイはすっかりうちとけた「でかいオバハン」

整備士に声をかけた。

整備士は「カイ!何度でも言うけどアタシは21だよ!に・じゅう・いち!!」とノーマルスーツ

のヘルメット間通信のボリューム最大でカイを怒鳴りつける。

 

(そういうカーチャンみたいなとこがオバハンだっての!)とカイは思うが、声には出さない。

またどヤされるだろうから。

整備士はカイを捕まえるとヘッドロックをかけながら「いいからさっさとシャワー浴びて

メシ食いに行きな。パイロットは食うのも仕事だよ」などと言う。

(この人、ノーマルスーツじゃなくてもコレやるんだよなぁ…)カイはちょっとだけ閉口して

いる。アナハイムの綺麗なおねーさん達なら大歓迎なのだが、バシット整備士のヘッドロックは

彼女の筋肉故か、頭に何か当たる感触よりも痛みが先にくるのだ。

 

「なぁ、アンタ、なんで俺にそんな構うんだよ?」カイは聞いたことがある。

バシットは下を向き「アタシには弟がいてね…」と口ごもる。

「ゴメン!そんなつもりじゃなかった」とカイが慌てると

「今、アナハイム高専に通ってるけどね」と整備士は舌を出す。

「生きてんのかよ!!」

まぁ、カイが弟みたいで放っておけないのだと褐色の女整備士は笑いながら言う。

 

(要するに下町によく居るダメ亭主の肝っ玉カミさんタイプだな、この人)とカイは

サイド7に来る前に住んでいた町の情景を思い出しながら、モーラ・バシット整備士(21)

のプロファイリングを行った。

 

アムロ達がシャワーを済ませて食堂に行こうとすると基地の受付に見知った顔がいた。

ハヤトが「フラウ!」と声をかけ、カイも「あれ!?イインチョーじゃん、どしたの?」と軍事

基地には不似合いの級友の出現に目を丸くする。

 

フラウ・ボゥ、彼らのクラス委員長にしてアムロの隣人、カイ曰く「アムロくんの押しかけ女房」

である。彼女は小脇に抱えた大きな手提げ袋をアムロに押し付けた。

「これ、頼まれたやつよ。んもぅ、時々勝手に電源入ってモノレールでも『アムロ、アムロ』って

鳴るからスゴイ恥ずかしかったんだから…」と少しふくれている。

 

アムロは「ありがとう、フラウ。これでハロを改造(バージョンアップ)できるよ」と嬉しそうだ。

彼は基地のセキュリティ担当官を説得し、イントラネットに繋がないことを条件にハロの持ち込み

を許可してもらった。

AI開発の責任者、ダニー中佐の援護もあってのことだが。ダニーも舅から聞いたハロの性能に興味

があるらしい。プライベートの時間に見せてもらう約束をアムロに取り付けていた。

 

「フラウ、せっかく7バンチまで来たんだから、食事一緒にどう?」とハヤトが密かに思いを寄せ

る級友を誘う。アムロもさすがに気が引けたのか「なんかごちそうするよ。僕らここでは何をどれ

だけ食べてもタダなんだ」と隣人を誘った。

少女は赤くなり「じゃあ、ちょっとだけ、ね。わたし、近所の子供を預かるボランティアあるから

3時にはここ出なきゃいけないし…」ともじもじしている。

カイは「アムロくんさぁ、奢る時はそんな『全部タダだから』とか言っちゃダメだって」としたり

顔で説教してフラゥに睨まれた。

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==== U.C.0078 10.31 ニホン ヨコスカ

 

ヨコスカ市郊外にある大学の校舎を思わせるビルに完全武装した突入班が突入し、その後をスーツ

姿やジャケットをラフに羽織った男女が進む。その中にはサイド4でジョブ・ジョンの妹ジョー

達を救った捜査官の姿も見える。

 

この日連邦捜査局(FBI)の家宅捜索が『ムラサメ人間拡張研究所』を対象として行われた。

連邦裁判所が発行した礼状を明示しながら捜査官は研究所の中を進む。

殆どの研究員は武装したSWATを前に怯えるかデスクから追い払われ呆然と床に座っている。

逃げ出そうとして拘束される者も数人居た。

 

捜査官はオフィスからプロアスリートのドーピングの証拠や違法な遺伝子操作、遺伝病治療

以外の遺伝子操作は違法である、の証拠品を次々押収していく。コンピューターの類は全て

押収され、研究者達は個人所有の携帯端末まで押収された。

 

捜査員達はビル最上階の一室に入り、捜査員の一人が部屋の奥に座る老人、ムラサメ研究所の

所長、Dr.ムラサメに彼の逮捕状を見せてこう質問した。

「彼、『プロト・ゼロ』はどこにいますか?」

 

その少し前、研究所近くの5階建てのマンション、というより分厚い鉄筋コンクリートの塀と

その上に張られた高圧電線、トーチカのめいた警備員の詰め所など犯罪組織のアジトのような

そこにSWATが突入した。警備員達は既に銃を突き付けられて地べたに手を広げて腹ばいに

なっている。10数台以上いたドローンもマンションの前に停まったバンから電子戦を仕掛け

られ作動を停止していた。

 

ドアを爆破し、各部屋を素早く、だが慎重にクリアしていく突入班員たち。彼らに抵抗する者は

いなかった、というか部屋の中には上は10代前半、下は4、5歳児の子供たちと彼らの世話をする

近所に住むという数人の女性しかいなかった。SWATに同行した捜査員が彼女らの身元を確認する。

たしかにただの「素人」のようだ。軍歴のある者すらいない。子供たちは自由意志があるのかすら

定かでない目付きで部屋の一角を眺めたり、ぼんやりといきなり入ってきた大人たちを見ている。

 

捜査員の質問には答えたので、どうやら彼らは話せるらしい、ぼんやりしているのは薬物を投与

されているのか。子供たちは突入班員の誘導で装甲バスへと乗り込んだ。

捜査員が無線で「『対象』は存在せず。繰り返す。『対象』は存在せず、だ」とおそらくは研究所

の同僚に連絡していた。

 

ヨコハマ市の一角、旧世紀に「中華街」と呼ばれ、今は雑多な民族が入り交じる繁華街の裏通りに

『対象』「プロト・ゼロ」と呼ばれる彼、ゼロ・ムラサメは潜伏していた。

彼は家宅捜索(ガサ入れ)前日に以前から接触していた者達、その中には研究所の職員も含まれる、の

手引きでムラサメ研の被験体達を収容した「ゲージ」、あのマンションを脱出していた。

 

今はヨコハマ市の裏通りにある雑居ビル、その地下にある潰れたバーらしき一室に隠れている。

「子供の頃、カエルを解剖したことがあってな…」とカウンター席に座ったその男はいきなり

思い出を語りだした。

「カエルの次はネズミ、その次はネコ、そしてイヌを解剖し、俺は命の儚さみたいなものを

感じたのさ…」

 

「ヨハン・リーベルト」と名乗ったその男は連邦軍の中尉らしい。

ゲージを脱走した1時間後、この部屋で目出し帽を外したこの男から中尉の階級章を見せられた。

彼、ヨハンが階級章を取り出そうと内ポケットに手を入れた瞬間、ゼロは反射的に動き、彼の間接

を極めて床に這わせた。

ムラサメ研に潜入していたスパイが「この人は同志だ!」と慌てて止めたのでゼロは彼を離した。

 

「んだよ!ちゃんと言っとけよ、お前!」とスパイを小突くヨハンに(コイツ、小物だな…)と

ゼロは判定を下していた。

 

「…とにかくだ、お前、ゼロ・ムラサメを我々()救い出した。お前はその恩を返さねばならん。

あのカエルの大将が強化人間を手に入れたのであれば我々も保有せねばパワー・バランスが

崩れるからな」とヨハンはゼロには全く響かないことを言う。あの檻、ゲージを脱出するために

こいつらを利用しただけだ。恩など感じる義理はない。

 

「我々のために働くならお前を『モビルスーツ』に乗せてやる。軍の秘密兵器だぞ。

素直に従えば、お前をジオン、宇宙人の侵略から地球を守る英雄にしてやろう。栄誉も金も女も

くれてやるぞ」続けてヨハンは「次の戦争」は地球を守る聖戦だ、と演説を始めた。

ゼロはバカらしくなり聞き流した。

 

モビルスーツ、その人型兵器なら知っている。あのMAD、Dr.ムラサメが「MS(モビルスーツ)とは、強化された

肉体の更なる延長である」とか言ってたヤツだ。彼、プロト・ゼロはそれを操るために生まれたの

だとDr.は語った。

(俺には幼い頃の記憶が無い。記憶を消されたか、あるいは俺は誰かのクローンで、成長して

この大きさになるまで寝かされていたのだろう…)ゼロの己の正体に関する推測である。

 

ムラサメとその配下達はゼロに薬を投与し、洗脳教育を施し、肉体の鍛錬と戦闘訓練を繰り

返した。外科手術はされた記憶がなかったが、身体に傷跡はあるのでどうやら記憶がある時点の

前に処置されたようだ。

 

ジオン、連邦共に機密の塊だったモビルスーツの実物は手に入らなかったが、操縦シミュレーター

()()()研究所にあり、それで二本角の機体を操縦させられた。ビーム砲を弾き返す自分の機体の

3倍くらいありそうな巨大な二本角と戦わされたこともある。1機なのにゼロに十字砲火を浴びせる

機体とも戦った。Dr.は「駄目だ!自意識のない電脳相手にいくら戦っても無駄だ!」と言い、

今度は被検体が操る機体とシミュレーターで戦わされたが、コンピューターが操るより短時間で

対戦は終了し、何も成果の得られずムラサメはじめ研究所一同を落胆させた。

 

「脳力波の数値が規定に達しない被検体をいくらぶつけてもプロト・ゼロの完成には至らん。

他の被検体は薬剤の影響か洗脳教育の効果か、感情に乏しいが、ゼロにはまだ残っている。

感情というままならない機能を残しているからプロト・ゼロは、人で無いそれ以上の存在に

なれるのかもしれぬ…」Dr.ムラサメは他の被検体と異なりNT能力(超脳力)を発揮するゼロの

秘密についてこう推理した。

 

もっとも、感情を残された被検体達は自殺したり、暴れたり反乱を企んで「処理」されたり

したが。ゼロだけがテレメーターでは感情の動きを示しながらも、自傷行為もせず、反抗的

にもならなかった。彼は脳内で被検体達の檻から脱出するシミュレーションを何万回と繰り

返した結果「外部の協力者」というファクターにより昨日脱走に成功したのだ。

 

ヨハンの演説は終わったようだ。「話は終わりか?」とゼロはヨハンに尋ね、ヨハンが

答えようと口を開けた所にヨハンがアンクルホルスターに仕舞っていた22口径の拳銃を

口に突っ込みダブルタップした。

驚くスパイを振り返りざまに射殺すると「プロト・ゼロ」は悠々と潰れたバーから出て

ヨコハマの人混みの中に消えた。

 

「なにが完璧なる兵士(パーフェクト・ソルジャー)だ。俺は人間に()()()()()…」と呟きながら。

 

 




本作はフィクションであり、実在の芸能人、キャラクターとは関係ありません(迫真)
ゼロに射殺されたヨハン・リーベルトはティターンズのヨハン・イタクラ大尉とは別人です。ところで「ヨハン」ってインパルスのネタから来てるんですね。
youtubeで見て「あぁ!」ってなりました。

前回の反響が凄かった(自分比)ので、シャア達から話を始めてみました。
マイ中尉は本作ではずっとシャアに通常の3倍の勢いで振り回されます。
一年戦争からネオ・ジオンまで戦い抜いたブラウンはどこまでいけるでしょう?
「MS戦記」と「新MS戦記」のブラウンは別人だそうですが、作者は同一人物だと思ってます。

『ホワイト・ディンゴ』とバニング中隊が「D day」に向け発足しました。
アムロ達は「01.03」には間に合わなそう、大人達が間に合わせるつもりが無さそう、なので彼ら大人の兵や今回出演しなかったジョブ・ジョン達少年兵達が頑張ることになりそうです。
ところで0083見直したんですが、モンシアって呆れた兵隊ヤクザですね。
格納庫で酒をラッパ飲みするは女性整備士の尻触るは、通路でカードしながら着艦装置に細工するは、やりたい放題です。ガンダムAで連載されてるコミックでもやべー奴扱いですし。

「もしかしたら」アムロのヒロインになるかもしれないフラウ・ボゥも今回初登場です。

「プロト・ゼロ」ことゼロ・ムラサメとDr.ムラサメは某装甲騎兵リスペクトです。
ムラサメ博士はブラック魔王みたいな声なんでしょう(おっさん感)。

次回は、構想がまだ固まっていませんが、一週間はかからないかと、
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