リストラおじさん、ゴップになる   作:寒原光雪

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今回も「戦前」が続きます。
タイトルは色々な意味を込めて付けました。


二人

==== U.C.0078 11.9 サイド1近海

 

ステルス艦「ノーチラス」の発令所で、艦長のイッセイ・マエバラ中佐はパッシブセンサーの情報

を艦の幹部や戦術オペレーター達を交え吟味していた。

 

「IRでは航路上に軍艦は発見できませんでした」「新型の駆逐艦はどうなんだ?ありゃあ小さい

炉を載せてるから民間船と区別つくまい」「あの艦はMSを載せて運ぶだけ、運用能力はない。

駆逐艦だけで行動はすまいよ」赤外線センサーの情報ではサイド1近海でジオン艦隊の動きはない

ようだ。

 

「仮装巡洋艦の可能性を考えてくれ。ムサイも元々は民生用の貨物船だ。貨物船に隠見式の

粒子砲だのランチャーだのを積んでる可能性だ。それと艦内の他の炉の反応、MSが稼働してる

か、確認してくれ」とマエバラが戦術オペレーターに確認を促す。

 

「今日確認できた船にMSらしき物を載せてるのは確認できません。仮装艦については、

粒子砲を発射すれば粒子反応と熱量で確認できますが…」

「ミサイルも同様か…、分かった。通信傍受の方はどうか?」

 

この質問にはノーチラスの通信長が答える。

「確認された暗号電は商船暗号通信だけです。暗号電、平文にも軍艦の動きを知らせる通信は

ありません」

副長が「そりゃあ、サイド1(こっち)に軍艦が向かってるのを目撃したら大騒ぎになってるだろうからな」

と言う。副長は航路上の民間船は推進剤に余裕があっても逃げる前に取り敢えず船会社に連絡を

とって指示を仰ぐだろうから通信回線が混み合うだろう、と推測した。

 

「センサーノードの情報は?」マエバラが尋ねる、とこれには戦術オペレーターが答える。

「レーダー、レーザーセンサー、IRセンサー、M粒子、いずれも軍艦らしき存在は確認

できません。

一度、民間のデブリ回収船が近づいて来ましたが、ノードのAIが『こちらは連邦宇宙軍

の資産也』とレーザー通信したら慌てて逃げていきましたよ。機雷と思ったんでしょうかね」

「センサーノード」とはノーチラスが航路上に「置いてきた」偵察ドローン、それの相互間

レーザー通信で構築したネットワーク、その端末を指す。

 

(ブッホの船なら大喜びで回収したろうがな…)マエバラ艦長は前世の記憶からこのサイド1に

本社を構える()()()()()の事を思う。ブッホ・ジャンク・インクはこの時既にコンツェルン

と言えるほどの規模の企業グループを形成している。U.C.0084に完成すると『F91』の設定に

あった「ブッホ・コロニー」の建設も既に始まっており、サイド1の『壁』の建設で大いに潤った

ブッホはコロニーを大型化する計画を建てたらしい。

経営者は10年も前に地球の没落貴族から家名を買って「ロナ」姓を名乗っている。

(どうせなら、『トクガワ』だの『タケダ』だの名乗ってくれれば面白かったのに…)

「ブッホ・インクCEOシャンホルスト・トクガワ」マエバラは一度会ったことがある実業家の頭に

チョンマゲを乗せた姿を想像し、ちょっとだけ笑う。

 

「それじゃ、そろそろ引き返すとするか」艦長が()()()監視任務の打ち切りを切り出す。

『戦前』の現在ではレーダーやレーザーセンサーなどアクティブセンサーを使うことはできるが、

マエバラ艦長はこの艦の存在をギリギリまで秘匿したい、と思っておりパッシブセンサーと航路上

に置いてきたデブリに擬装したセンサーノードだけが頼りだ。

それらが「異常ナシ」を告げてる以上、この宙域に留まる理由はなかった。

「なにせ、このフネは『見つかったら終わり』だからな」マエバラは肩を竦め一同の笑いを

誘った。

「ノーチラス」の咄嗟兵器、ロックオン無しで撃てるのは隠見式のレールガン砲塔だけである。

メガ粒子砲に比べ非常に射程の短い、粒子砲を槍とすれば脇差程度の代物である。

もっとも、このステルス艦の真価は他にあるのだが。

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====ジョアンナ・ジョンは施設を「卒業」し、ニ等整備兵として赴任する施設の先輩、

15歳になったばかりのマーティンと一緒に客船に乗ってルナツーまでやって来た。

マーティンは「わりぃな、ジョー。お前一人なら一等船室で来れたのにさ」と恐縮するが、

彼女にしてみれば一人ぼっちで何日も泊まるなど怖くてできない。

それに船内で知り合った子によると、一等船室の旅客たちは夜な夜なパーティをするのだという。

そんな所に着ていく服などない。

 

ジョー達が乗ってきた二等船室でも二人部屋、しかもベッドが二つある、なので施設の3段ベッド

より余程快適だし、食事はビュッフェ形式で好きなもの()()を食べられる。

マーティンは「基地じゃまた3段ベッド生活に逆戻りだよ…、早くジョブ兄ちゃ、じゃなくて

伍長みたいに出世してぇなぁ」と兄を以前のように「にいちゃん」ではなく「ごちょー」と

呼んだ。(マーティン、もう、軍人さんなんだね)とジョーは少し寂しかった。

 

ルナツーの港に到着し、ジョー達が船を降りると青い軍服に癖のある金髪、兄のジョブ

が迎えてくれた。兄の後ろの立っているのがメールにあった「隊長さん」達だろう。

背が高くきちんと立ってるのが「中隊長さん」で、その横の若くてにこにこ顔の方が

「小隊長さん」だと思う。

 

ジョーは一等船室に乗れる金額を兄が送ってきたのは紳士の方、「中隊長さん」が出してくれ

たのだとと思った。兄との再会を喜び合う前に「隊長さん」達に頭を下げるジョー。マーティン

は平服なのに敬礼している。大人二人はジョーの行儀の良さに驚いたようだった。

 

「ジョー!!無事に着いて良かったあぁ~!」と兄のジョブは半泣きでジョーに抱きついた。

「やぁ、ミス・ジョアンナ。俺はスミス・イワノフ、君の兄さんもいる小隊を預かっている」

にこにこしながら若い方の「隊長さん」が握手を求めてきた。ジョーは兄に抱きすくめられた

まま「小隊長さん」の手を握って「ジョアンナ・ジョン、11歳です。兄がいつもお世話に

なっています」と挨拶した。

スミス小隊長は「ジョー、と呼んでもいいかい?」と彼女に聞くのでジョーが頷くと

「ジョブったら君が船に乗ってる間心配のし通しでね、使い物になりゃしなかったんだよ。

こう見えても兄さんは中隊の重要な戦力だし、困ってたんだ」と苦笑しながら言う。

「すいません」とジョーが頭を下げると小隊長は慌てて「いや、君のせいじゃない、

ジョブのヤロウ、いや、兄さんがたるんでただけだ!」と釈明する。

 

「曹長、ミス・ジョアンナは兄の失態をわびたのさ。はじめまして、ミス。

私はウォルター・ノボトニー、兄さんがいるN中隊を預かっている」と紳士が微笑みながら

握手を求める、握手したジョーは「はじめまして、ジョアンナです。隊長さんが私の船賃を

出してくださったのでしょう?少し余ったからお返しいたします」とサロペットのポケット

から財布を出そうとするので、ノボトニー中隊長も慌てて「いや、中隊の皆で少しづつ出し

合ったんだ、余ったお金はPXで何か買うといいよ」と金の出処と返金する必要が無いこと

をジョーに説明した。(良くできた子だが、子供にそう振る舞わせる世間、というのは

やはり問題があるな…)士官教育を受けているノボトニーは心の片隅でこう思った。

ジョーと兄、兄の上官が話す間、マーティンニ等兵は直立不動の姿勢だった。

与圧されているが、待合室は無重力なのでレンタル磁力靴のお陰でキツくはなかったが。

 

「もう遅いから、ミスは私達夫婦の官舎に泊まるといい。妻も君に会いたがって

るんだ」ミセス・ノボトニーはジョブやダンク達少年兵達を気にかけ、時々、出勤する夫

に自作のクッキーなどを持たせていた。辺境の基地なせいか、ルナツーに配属された

ノボトニー中隊は家族意識が強く、隊員とその家族も含めた「ノボトニー・ファミリー」

を形成していた。そのせいでここの中隊の兵は昇進・転属をしたがらない、と人事局が

気を揉む事態となっていたが。

 

中隊長の持参したクッキーにジョブは礼を言い素直に受け取ったが、後でスミス曹長に

「オレ、16っスよ。オヤツって年じゃないスよ」と愚痴た。スミスは一口ご相伴に

預かりながら「ま、パイロット稼業はカロリー要るからな。奥さんもそれを分かってん

だろうさ。お、本物のバター使っててウマいぞ、これ」とミセスの意図を説明する。

ダンクはクッキーを頬ばりながら「これ、チョコ入ってるッスね。ウマいっス」と手作り菓子

の味を堪能している。下士官兵の使う食堂で出る菓子は栄養とコスト重視でレーションに入って

いるマズいチョコと大差ない代物なので少年兵、とくに女子は甘味に飢えている。

「コイツはナンパに使えるぜ」スミスは悪い顔で古参兵の知恵をジョブに披露し、

食い気より色気のジョブは顔を輝かせてダンクから焼き菓子をひったっくって女子が

固まっている一角へ走った。

サイド4出身だという女子に狙いを定め焼き菓子を渡したが、彼女はクッキーを頬ばり

ながら「アタシ、ムーアにカレシいるからさ。ごちそうさん」と餌だけ食べられてしまった。

 

このようにジョブをファミリーの子供と考えるミセスは妹で11歳のジョーが単身ルナツーに

来ると知り、()()到着した晩は自宅に誘うよう夫に()()した。

猛烈な対空砲火の弾幕も恐れないウォルター・ノボトニー大尉も妻には頭が上がらない。

ジョブも引っ越し荷物だらけの新居に妹を寝かせるのは忍びなく中隊長の好意に甘えること

にした。その夜、ノボトニー家では近所に住む中隊メンバーの嫁さんと子供達が集まり、

ホームパーティーが催された。ジョーは(こういうパーティーなら大歓迎だわ)と思った。

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向暑の候、皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。ゴップです。

前世でこんな書き出しで取引先にメールしたら、CC:に入れた若い人から「部長、最近はそう

いうの流行んないですよ」と言われたなぁ。相手もおじさんだからそういうの気にすると思う

んだけどねぇ。

久々に出てきていきなり愚痴ってしまいましたが、私は「D day」U.C.0079 01.03まで

2ヶ月余りのこの時、まさにてんてこ舞いだった。

 

ジオンに狙われるであろう、各サイドや月面都市、月面のマスドライバーや推進レーザー施設、

()()()()()()()の戦力を配置するのかの調整にここ数ヶ月は追われていたといえる。

畢竟、軍事とはこれに尽きる。必要な時・所に必要なだけ戦力を送り込めるか、であらかた

戦闘の勝敗は決まる。原作のルウム戦役は「ミノフスキー粒子」「モビルスーツ」という

技術的な奇襲が利いて数に勝る連邦艦隊は惨敗したが、艦艇のFCSをM粒子環境に対応させ

機関砲を積んだモビルポッドでも周りに浮かべておけばあそこまで負けなかった、かもしれない。

 

話を戻すと、特に懸念されるのが「ジオンが()()()()()()()()()()()()()」問題だ。

ジオン、というよりソロモン要塞に近いサイド1とサイド4、地球に一番近いサイド5、原作で

狙われたサイド2、今に至るも確定情報が無かった。サイド4:ムーアには既に第3艦隊が進駐し、

政庁はパチもんOZで歓迎パレードまでする歓迎ぶりだそうだ、サイド4、サイド1のいずれに

ジオン宇宙攻撃艦隊が来襲しても対処できる体制を取っている。サイド1はマエバラ君が指揮

する新型艦が哨戒しているが、未だジオンは動きを見せていない。

 

エルランは()()の経験からサイド2に違いない、と睨み現在彼の指揮する第4艦隊は

サイド2に向け航行中だ。レビルの第1艦隊とティアンムの第2艦隊はサイド5:ルウムに

進駐し、サイド2、月面、サイド1・4方面のいずれにも動ける体勢を取っている。

 

ちなみにサイド7も忘れた訳ではなく、ルナツーの艦艇が毎日哨戒を行っている。

防衛隊もサイド7の少年達(ノア・ボーイズ)に負けじと演習に励み腕を磨いている。チャーリー少佐

によると、何度かアムロ達に共同演習や模擬戦の申し入れがあったが、断ったという。

まぁ、ケンプ大尉一人に一個中隊が始末されるくらいだから、練度が上がったとはいえアムロ相手

じゃサイド7を守る36機全機でかかっても惨敗だろう。カイやハヤトの練度も相当なもので、

チャーリーによれば二人で中隊を相手取れる程だと言う。

 

もっとも、3人共現在民間人なので、「一週間戦争」サイド7防衛戦に駆り出せるかというとグレー

だな。軍のパイロットスーツ着てガンダムに乗れば国際法はクリアーできると思うが、AE.の

ジオン派から情報を仕入れた敵が宣伝戦に使うかもしれない、という懸念はある。

何にせよ、「一週間戦争」に彼らを動員するつもりはないので、後で考えることになるねぇ。

 

そんな中、私は情報部の()()()()()()()から報告を受けた。原作ではジオンに内通して

いたエルランの繋ぎ役だったが、ここでは内通したはずのエルランに嵌められて二重スパイに

なっていた。ジュダックは本国から「各サイド、特にサイド2:ハッテへの艦隊派遣を妨害

せよ」「サイドへの艦隊派遣が決定されたらサイド5:ルウムへ派遣するよう誘導せよ」と

いう指令を受けたという。中佐の彼が妨害や誘導する訳はなく、「内通している」とジオンが

()()()()()エルランやその配下にやらせる気なんだろう。

 

つまり狙いはサイド2、サイド5は距離があるから取り敢えず放置、がジオン軍の作戦計画

ということか。サイド1・4にも陽動として奇襲を試みるだろうが、ワイアットがあの

にやけ顔をして敵にとってイヤな手を取ってくれるだろう。

 

統合参謀本部はサイド2:ハッテに第1艦隊を派遣、サイド1に第2艦隊の分艦隊を、サイド5に

旗艦「タイタン」を含めた第2艦隊主力をルウム奇襲への備えと第1 、第4連合艦隊の予備兵力

として配備することを決定した。U.C.0078 11.15のことである。

 

ワイアットにレーザー通信で彼に分艦隊を含めたサイド1・4方面艦隊の指揮を委ねる、と言うと

「私が二つもサイドを守るワケですか…」とお手上げのポーズを取りながら

「まぁ、現地自治体と連携して色々と仕掛けはしておりますがね」とドヤ顔で言った。

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====ニューホンコン、宇宙世紀の初期に全長10キロに及ぶ宇宙船打ち上げ用レールが

建設され、加盟国である中国から連邦政府が永久租借した宇宙への玄関口である。

「プロト・ゼロ」ゼロ・ムラサメはニューホンコン市街の中でも違法建築が立ち並ぶ

「ニュー・クーロン」と呼ばれる一角に潜伏していた。

 

この彼の感覚でも見取り図を脳内に描くのが難しい街は潜伏しながら武装や情報を入手

するのに都合が良かった。特にこの島を支配するルオ商会に関するものは貴重だ。

もっとも、一番欲しい会長ルオ・ウーミンに関する情報は容易に手が入らなかった。

拷問までして得た情報は「大人(ダァーレェン)の娘でもある秘書、ステファニーの連絡先を知ってる

者の名前」くらいだった。自身も裏社会でそこそこの勢力を持っていたそいつに接触し、そいつの

問題、対立組織、を片付けてステファニーの()()()()()()()()()アドレスをゲットした。

 

AE.と繋がりがあるルオ商会は話題の「ムラサメ研唯一の成功作」であるゼロに興味を示し、

商会の会長であるルオ・ウーミンへの「謁見」が許された。

 

中華風ではなく、むしろヴィクトリア様式のその部屋に袍服ではなく、仕立ての良い英国風

スーツを身に纏ってその老人は座っていた。

 

武装を全て取り上げられ、後ろ手に手錠をはめられたゼロは、そのイギリス趣味の部屋に

通され、老人の座る椅子のはるか手前で絨毯に下を向いて蹲った。

部屋に通される前、秘書のステファニーから「手錠をはめること」「絨毯に下を向いて

座り、決して会長を直接見ないこと」を条件に「謁見」を許された。

 

手錠は彼の強化された筋力なら容易に引きちぎれる、そして部屋の中の黒服にサングラスという

いかにもな連中も素手で皆殺しにできる、のだがそうすると目的が果たせないのでゼロは

下を向いて蹲っていた。

 

老人はその様子を見ると「やめよう。そういうのは」と娘であるステファニーに呆れた様子で

指示を出す。イギリス人女性との「恋愛結婚」の結果生まれた娘なのに一族の者たちの影響か、

多分に「中華的」なステファニーは老人の頭痛の種だった。部屋の中に立っている黒服も同様

に一族の中華志向の現れだ。老人は()()()ボディガードなど必要ない、部屋には対人レーザーや

セントリーガンなど過剰と言える密度で配置されている。もしゼロが飛びかかっても空中で肉片

へと姿を変えるだろう。だが、古老は人間をわざわざ立たせるのを商会の権威を象徴するという。

「なにも肖像画の目にレーザー仕込まくてもいいだろうに」とその古老から苦言を呈されたが、

ルオ・ウーミンの英国趣味的には必要だった。紳士たるもの肖像画の目には何か仕込むべきだ。

 

ゼロは他ならぬ「ルオ大人」の指示で手錠を解かれ、椅子に座らされた。

ただ、ステファニーから「お前から決して話しかけず、聞かれたことだけに答えること」と

耳打ちされた。

ゼロは脳内でこのまま娘を人質にして交渉するか、と演算したが、彼女の奥歯にスイッチが

あるのを視界の端に捉え、シミュレートを中断した。この女はいざというときは自分を道連れに

死ぬつもりだ。老人は部屋に設置された電磁装甲かなにかで無事だろう、とゼロは判断した。

 

「最近話題の『プロト・ゼロ』、君が我が家を訪れてくれて嬉しいよ」ウーミンは英国風の公用語

でこう言った。ゼロは「俺をその名で呼ぶな。『ゼロ』と呼ぶがいい」と返した。

部屋の空気が一気に緊張するが老人は手でそれを制し、「これは失礼したゼロ。君を試作品、と

呼んだことは謝罪しよう。で、私に何用があって来たのかね?」老人は微笑みながらゼロに訪問

の目的を尋ねた。

 

「俺はあんた達が抱えた『問題』を解決できる。その代わりに宇宙への切符を貰う。どこのサイド

でもいい、ルナツーでなければな」とニューホンコンを発進するシャトルへのチケットを要求した。

 

老人は「あいにくだが、私は『問題』など抱えてないので君の要望には答えられそうにない。

移民局を当たってみてはどうかね?」と最初の微笑みのまま皮肉を言った。

ステファニーが「謁見」を打ち切ろうとすると、ゼロは「彼女のアドレスを俺に教えた奴だ。

高々ギャング同士の抗争でアドレスを教えるような奴だが、あんた達の手下だろうから直接処理

する代わりにアカの他人の俺がやる」と自分にステファニーの連絡先を教えた者を「処理」すると

言った。流石のステファニーも顔を歪め嫌悪感を露わにするが、老人は破顔し「それは割のいい

取引だ。チャン君はやり過ぎた。損切りする時期だろう。チケット1枚なら安いものじゃない

かね?ステファニー」と娘に問うた。娘も「会長の仰る通りです」と同意する。

こうして、「裏切り者」の命とシャトルのチケットを引き換える取引が成立した。

 

ゼロは「経費」として装甲ブルドーザーと連邦軍制式小銃、対戦車ロケット数発を要求し、

ルオ商会は標的が空に逃げた場合を想定し、携帯対空ミサイル(MANPADS)も付けてくれた。

 

ゼロは「標的」の事務所に装甲ブルを走らせる。途中、騒ぎが起きるが地元警察は商会の手が

回っているのか出動しない。目撃者が写真を撮りSNSに上げ、その写真からブルの運転席に

ゼロがいるのを見つけた「標的」は自分が狙われているのに気がついたようだ。

 

防弾仕様のSUVが窓やサンルーフから突撃銃を、バンが軽機関銃を撃ちながらブルの進路を

塞ごうとするが、射手を全てゼロの射撃(ブルを運転しながら片腕での射撃である。このため

連邦軍制式の低反動ライフルを要求していた)で斃れ、SUVやバンは運転手を射殺されるか、

ブルに轢き潰された。

 

事務所ビルのエントランスにブルが突入した瞬間、ゼロは運転席を飛び降り、吹き抜けで

対戦車ロケットを構えている連中を小銃のフルオート射撃で一掃した。

エントランスでの待ち伏せに失敗した「標的」の手下共は逃げ出し始めたようで、以降

抵抗は止んだ。ゼロは無駄弾を撃つ気はなく逃げ出す者は放っておいた。

 

最上階近くでゼロの聴覚は屋上にヘリのローター音を捉えた。VTOL機で逃走するなら

MANPADSを使うつもりだったが、民生用ヘリなら使うまでもない。ロックオンの手間が

省ける分対戦車ロケットの方がいい。ゼロは対戦車ロケットを肩で担ぐと、ビルの屋上を

離陸したヘリに発射した。ロケットはヘリのキャビンに飛び込むと起爆し、成型炸薬が

生み出す高圧ガスはゼロの眼が捉えた「標的」の胴体を真っ二つにした。

 

この日の夜、軌道上の定期便ターミナルに向けて飛ぶシャトルにゼロの姿があった。

「プロト・ゼロ」は宇宙(そら)に昇ったのだ。

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====モニカ・ハンフリーはジャブロー地下の特別施設、彼女のために用意された地下牢、

で編み物をしていた。以前は空き時間を使って研究所の子供達の靴下やマフラーをよく編んだ

ものだ。ここでの暇つぶしにと思いダメ元で編み棒と毛糸を要求したが、驚く程あっさりと

彼女の希望は叶えられ、編み棒と毛糸が室内の食事が出てくるハッチから差し入れられた。

 

ただ、編み棒は完全な絶縁体樹脂製だった。強度も足りず、ホロTVのプロジェクターに

突っ込んで細工をするのは無理そうだった。その代わり、食事の時ナイフで削り、先端を

鋭くするのは可能なようだ。自分で勝手に死ぬのは止めはしない、という態度だった。

 

(私が絶望して自裁するのをゴップ達は待っているのかもしれない)と思えば、意地でも

生きてやろうと思った。編み物をしてるのは単純作業に熱中して正気を保つためでもあった。

 

モニカが編み物を続けていると、突然ホロプロジェクタが起動し、室内にホログラムが投影

される。モニカは編み物の手を止め、そのホロを見上げると目を見開いた。

 

レヴァン・フウの姿が投影されていた。

 

レヴァンは「モニカ小母さん、お久しぶりです」と穏やかな表情のまま頭を下げた。

モニカは驚愕の余り、しばらく声が出せなかったが、「レヴァン、元気そうで安心したわ…」

と、やっとのことで声を絞り出した。

 

一度声が出ると(もし、レヴァンに会えたらこれを話そう)とこの禁錮生活で練ってきた

「計画」がモニカの口から溢れてきた。

「レヴァン、あなたこそ私達の最高傑作、ジオン・ダイクンの理想を体現した『新しい人類』

なのよ」「私達は『新人類』が連邦の統治に参画できる、という証拠を握っているわ。あなたが

望めば地球連邦の首相でもなんでも地位は思うがままよ」「ゴップ大将はあなたを囲い込んで

人間レーダーにでもするつもりなんでしょうけど、私と協力して逆に彼を取り込みましょうよ。

そうしたら連邦軍はあなたのコマになるわ。私はここから出してくれさえすればいいの」

「でも、あなたが『新しい人類』になるにはさらに処置が必要となるのよ。ナカモトはゴップ

から疎まれているようだけど、アルヴィースならあなたの力になってくれるわ。私は彼の集めた

データを解析してあなたの役に立てれば満足よ」

なにかに憑かれたような目でレヴァン(のホログラム)に彼を利用した自分の野望を語るモニカ・

ハンフリー。彼女のプレゼンはレヴァンの一言で打ち切られた。

 

「モニカ小母さん、もう止めましょう」レヴァン・フウは悲しげな顔でモニカのプレゼンテー

ションを止めた。モニカは驚愕を貼り付けた顔で「な、なにを言ってるの、

レヴァン… これは()()()()()()なのよ!」と叫んだ。ホログラムのレヴァンはますます

悲しい顔になった。

 

「モニカ小母さん、いや、ミズ・ハンフリー、さっき貴女が言ったことは全部私を道具にして

達成したい貴女やその仲間達の野望でしょう。連邦の統治云々はビスト財団ですか?

私はゴップ閣下から彼らが何を隠していたか、そしてそれが私達の境遇にどう影響したか、を

聞いています」さらにモニカは驚愕することとなった。AE.経営陣に近い筋がNTの輝かしい

未来を保障する『箱』を所有している、とは聞いたことがあったが、「ビスト財団」がそれ

を持っている、というのは初耳だ。

 

「それにビストが隠しているのは『宇宙環境に適応した新しい人類が現れれば参政権を

与える』という連邦憲章の消された条文です。私がNTに覚醒したら選挙に立候補出来る、

程度の話なのです。貴女のいう統治、政府を牛耳ることなど新人議員一人で可能でしょうか?

また、よしんば私が評議員になったとして、貴方達に都合のいい法案を提出する、と思い

ますか?」レヴァンはモニカに妄執を捨てさせようと彼女を説得していた。

額のサイコ・リミッターを切ってまでモニカに訴えかけている。

 

いつしかモニカはどこからか彼女を心配する気持ちが伝わってきて涙が出てきた。

だが、「あなたの言ったことが正しいとしても、まだ手はあるわ。他の子達も覚醒させ

政党を作るの。AE.の支援が得やすい月の選挙区がいいわね。あなたはフォン・ブラウン、

リリーはアンマン辺りかしら。イーリスは寝てばかりだけど、難病ということで全国枠

で出馬できるわねぇ、後はもう何人程必要かしら…」「そうだわ、南アジアの南洋宗を

取り込みましょう。幼い僧侶たちを私達の技術でNTに導いてあげるのよ。地球から

NTが発生すれば地球至上主義者も味方にできるわ」と己の野望を語るのを止めなかった。

 

止められなかった、という方が正確だろう。彼女の人生の大半を捧げてきた研究が無駄

になる、無価値とされるのは我慢がならなかった。若い頃クローン・ベイビー達を大量

に死なせ自分の良心が日々削れていく感覚はなんだったのか。自分を慕う子供達に過酷

な実験を課し、死なせたり廃人にしたりした日々はなんだったのか。

犠牲になった生命のためにも彼女の研究は無価値だった、と誰にも言わせない、

それを言うのが彼女の「最高傑作」だとしても。

 

ホログラムのレヴァンは涙を流していた。「分かって貰えたのね!レヴァン!」モニカ

は顔を輝かせてホログラムを仰ぎ見る。ホログラムは合掌し、頭を下げた。

「おそらくは兄弟姉妹達が死んだことを貴女が残念に思っているのは伝わって

きました。だが、現在の貴女からは罪の意識の『色』が見えません。

それと、リリーとイース、他の弟妹達を貴女の道具には決してさせません。

私の全存在を賭けて阻んでみせます」顔を上げたレヴァンは何事かを決意した男の

顔となっていた。

 

「違うわ!誤解しないで、レヴァン!私はあなた達のことを思って言ってるの。

違法クローンのあなた達がこの残酷な世界で生きていくには力がいるの。私はそれを

あなた達に用意しよう、と言ってるのよ」レヴァンに自分の意図が伝わっていない、

と思い込んだモニカは涙ぐみながら訴える。

 

レヴァンは最後に冷徹な検察官のような顔になり「貴方がたは、私達にとって

『残酷な世界』そのものでしたよ…。さようなら、モニカ小母さん、もうこうして

お会いすることもないでしょう」と言うと通信を切った。

ホログラムは現れた時と同じ様に突然消えた。

 

「待って!レヴァン!話を聞いて頂戴!決してあなたの損にはならない!いえ、あなたは

全てを手に入れるのよ!違法クローンの!連邦の人民には勘定されていないアナタが!!」

部屋の天井に向け必死に訴えるモニカ。天井のどこかにある監視カメラに訴えているのであろう。

 

すると今度は平面のウインドウが現れ、その中にはゴップ大将がいた。

彼はその辺を散歩してたらたまたまモニカに会った、という顔で「やぁ、モニカ。元気かね?」

まさしく散歩中に会ったテンションで尋ねる。

 

モニカは眼前に現れた藁、というよりロープに縋り付くような目で「大将閣下!レヴァンに

会わせてください!仰ることは何でもいたします!だから!」と叫んでいた。

 

「スマンが、君に頼みたいことなど何もないねぇ」ゴップは散歩中にたまたま会った女から

借金を申し込まれたような顔をした。

「レヴァンの頭に嵌っていた輪っかを見たかね?アレは彼を『普通の男』に戻す機械だ。

君が疎んじて放逐しようとしたアルヴィースが作ったんだよ」

「す、素晴らしい発明ですわ。NTに対する旧人類の恐怖を和らげNTの社会進出に欠かせない物

となるでしょう」内心(折角の能力を凡人並にする枷など必要ない)と思うモニカだったが、

ここはゴップに調子を合わせておいた。

 

「まぁ、そういうワケで君の力は必要なくなった。だが、まだレヴァンに会いたいかね?」

彼女を見下ろすゴップをモニカは(まるで「蝿の王」だわ…)と思いながらも、

「はい!会いたいのです!何でも仰ってください!」と蝿の王に慈悲を乞うた。

 

「ん~、ではこうしよう。不定期にこの部屋に資料映像が流れる。君は私にその映像

を見た所見を述べてくれ。映像は恐らくジオンの同業者達の成果だ。私は強欲なので、

ジオンの被害者達も救いたいのだよ。君にはその手助けをして貰う。いいね?」

モニカは人工NTの研究にまた参画できると知り、顔を輝かせた。

「はい閣下!ジオンでしたら『フラナガン機関』や動力義肢の開発チームが人工NT開発

のトップを走っていますわね。その成果を拝めるなんて夢のようです!」

 

蝿の王、ゴップは「今日から君に科学chを見ることを許可する。歴史chの戦史番組も見せよう。

もしかしたら、ご褒美に君の『被害者達』と再会できる、かも知れんね」

とモニカを見下ろし、彼女の待遇改善に加え褒美も用意するという。

さらに続けて「資料映像を見てから12時間以内に5分前後の所管を部屋の壁にでも話してくれ。

有益なら1ポイント差し上げよう」と契約内容を説明する悪魔のような顔つきで条件を述べた。

 

モニカは鼻息荒く「ええ!承知いたしましたわ!一日も早く閣下のお役に立ちたいものです!」と

契約書にサインした。彼女は1ポイント、が何のなのか全く気にならなかった。

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MADと話すと小物の私は消耗が激しいなぁ。ゴップです。

しっかし、彼女、レヴァンに会った時「連邦乗っ取り計画」を得々と喋ってたけど、普段の

モニターされてるのを意識した行動とはエライ違いだったな。あんな野望を開帳してる途中で

部屋の中に毒ガス注入されてオダブツ、なんて可能性が頭を掠めなかったのだろうか。

そういう計算もできなくなるくらい興奮していたのか。心理学者の領分なので私は

それ以上モニカについて考えるのを止めた。

 

それより、レヴァンにはこの毒なことをした。

ある日、Dr.アルヴィースが携帯ポリグラフを付けたまんま私の前に現れ

「レヴァンは『母殺し』をせねばなりません。彼のグレートマザー、モニカ・ハンフリーと

決着を付け、決別する必要があるのです!」と訴えた。

私としては気が進まないが、わざわざポリグラフを付けて、バスクが確認したがちゃんと

作動してる本物らしい、他の意図が無いことを証明し、なおかつ彼とレヴァンを担当する

臨床心理学者とで相談した結果をプレゼンしに来たので無下にもできず、取り敢えず本人

にやるかどうかだけ聞いてみる、とだけ答えておいた。

レヴァンにモニカ・ハンフリーと話したいか、と聞くとが意外な答えが返ってきた。

 

「あの女人が私との対話でほんの少しでも自分の行いを悔いてくれれば私は彼女を赦せます。

それが彼女、モニカ小母さんの救いになるかはわかりませんが…」という答えだ。

レヴァン・フウという男はすごく『いいヤツ』なのではないか?とこの時初めて思った。

でも、その期待は見事裏切られた訳なのであるが…

 

特別施設専用のモニタールームで私の隣に座っているレヴァンを見るとしょげ返ってると

思いきや、さっぱりとした顔で目は決意に燃えていた。

「閣下、残念ですが。やはりあの女人は変わりませんでした。今より私が妹弟達を彼女の

いう『この残酷な世界』から守ることに長くない一生を捧げます」とグレートマザーとの

決別と家族を守ることに一生を費やす意表明をした。

 

私は努めて優しい表情をしながら「レヴァン、『守る』と言っても色々な方法があるんだ。

私達連邦軍がやろうとしてるのは力で虐殺を止め、市民たちを守ろうというものだ。

だが、もしかしたらサイド3の人々が公王制を廃止し、ザビ家を追い出すように仕向けた

方が良かったのかもしれない。ただ、その手段はそれこそ20年くらいかけて行わねば

ならないから現在の私達には取れない選択肢だったけどね。君にも言えることだが、

その時取れる選択肢とはいうのは限られているんだ。人は往々にしてその時点ではもう

取れないのを選んで失敗するのだがね」

 

「君の場合、その能力や私と同志達のコネを利用して軍で出世し、君の家族に誰も手出し

できないようにする、という手段が取れるだろうね。だが、私はお勧めしないな。

軍内部の政治というは溝浚いのようなモノで君の繊細な心では耐えられないだろう。

出世する君を妬むあまり『ミュータントの軍乗っ取りだ!』と主張する者達の心を

覗いて君はどう思うだろう。人類に絶望しないだろうか?」

 

「現状のように私が同志と呼ぶ軍の派閥の庇護下で、この穴の中で息を潜め、世間から

隠れ住む方法もある。一見リスクが少ないが、私やエルラン中将が退役したり死んだり

した後で派閥はどう変わるかは私にも分からない。君達を軍事利用しようと目論む

かもしれない。そうしたら全部パァだ」

 

「3つ目の選択肢は。敢えて露出する。つまり世間に姿を表すが、違法かつ非人道的な

人体実験の被害者としてできれば匿名でメディアなどに露出する。

幸いメディア企業にも私達の同志はいる。彼らなら君をミュータントなどではなく

犯罪被害者として扱ってくれると私は信じている。私の『信じている』は違えた相手に

報復する、という意味だから安心してくれ。

 

そして、もうすぐ起こるであろう大戦に君が従軍し、連邦の同胞であることを示す。

なに、なにもMSに乗れ、戦艦の指揮をしろ、というんじゃない。後方で書類仕事

してくれれば、世論工作には充分だ。

 

戦後は、恐らく現れるであろうジオンの被害者達と手を取り世間に居場所を作る

んだよ。『残酷な世界』なのは否定できんが、それを構成しているのは意思の疎通が

可能な人間だ。なまじ意思を交わせるから争いも起きるが、君達に協力する人たちも

いるだろう。決して善意だけでは無いだろうが、そこは上手く条件闘争して貰うしか

ないなぁ。天然のNTと手を取り合うのは普通の人々より容易いかもしれんが、選民

思想に染まってたりしたら敵対することになるかもしれん。不確定要素ばかりだが、

リスクとリターンを鑑みて一番オススメなのがこの選択肢だ。

 

要は君が世間ってやつと取引、メディアにネタを、軍には広告塔を、その他企業、

例えば投資会社に情報を提供する代わりに君達の居場所を保証させる、ってのを

して欲しいんだ。善意に訴えても動くのはそれをするだけの余裕がある人間だけだが、

損得絡みなら遥かに大勢の人間が君を助けるだろう。まぁ、善人とだけ話す訳にも

いかんから多少キツイだろうがね」私はレヴァンに3つの選択肢を示した。

 

他にももっといい方法があるのかもしれない。ただ、とにかく彼らが支配される

のも彼らが支配するのも避けたかった。それは種族間の絶滅戦争に繋がるだろうから。

私は「彼ら」が人類社会と共生できることを望む、別に仲良く暮らせ、というので

はない。火星の衛星か小惑星帯にでも彼らの楽園を築いてもいい。資源を掘って

売ることで人類社会と関わりを持つだけでも偏見は存在しても実力行使には

至らないだろう。結局「遠くのこと」はあまり世間は気にしないのだ。

「木星人」が地球に攻めてくるまで木星圏にあまり関心を持たなかったように。

 

レヴァンは私の話を聞いた後、こう聞いた。

「閣下はなぜ、私達に良くしてくださるのでしょう?それと、ビスト財団がAE.の

人工NT研究の黒幕だ、という話の根拠なのですが、私にはとても閣下がブラフを

仰っているようには感じられませんでした」と。

 

そろそろ種明かしの時間だな。どのみち関わる人間が多いから彼にいつまでも隠せる

ものでもない。私はレヴァンにサイコ・リミッターを停止するよう頼み、話し始めた。

 

「レヴァン、君は仏教徒だから『輪廻転生』という概念を知っているだろう、私は

こことは別の世界、モビルスーツが活躍する宇宙戦争を描いたフィクションが存在する

世界から転生して来たんだ。ちなみに輪廻している者もいる、エルラン中将は私と同じ世界から

この世界に転生し、一度死に輪回して再びこの世界に生を得たんだ」

私の荒唐無稽な話を真剣に聞くレヴァン。

 

「そういう者は軍やその外にも結構居て『ガンダム・センチュリー』略してG.C.という組織を

形成している。先程話した同志とは彼らのことだ。君も見ただろうジオンの奇襲でコロニーが

破壊され、コロニーが一基地球に墜落する動画は私達が元いた世界のフィクションの記憶に

こちらで入手した情報で肉付けして同志達が制作したものなんだ。

 

ビスト財団財団の創始者が『ラプラス事件』の実行犯の一人で、その時手に入れた

『もうひとつ条項』が書き足された連邦憲章の記念モニュメントを使って連邦政府を脅迫、

財団を作り上げ宇宙世紀の黒幕の一人となっているのを知っていたのも、そういうフィク

ションがあったから知っていた。ビスト家所有のコロニービルダーのどこかでサイアム・ビスト

は冷凍睡眠を繰り返してまだ生きているのだろう」

 

レヴァンは「閣下が私にAE.へ復讐する気持ちがあるか、とお尋ねになったのもそうですね」

と私に聞いた。

彼には非常に残酷な話だが、彼に今の境遇を納得してもらうにはこれしかない、私は細部は

省略して彼に『ガンダム・サンダーボルト』の粗筋、特にレヴァン・フウに関わる下りを

話すことにした。

 

「君には非常にショッキングな話なので心を強く持って聞いて欲しい。

前世、私達が前に生きてた世界には君が登場するフィクション、コミックとアニメが存在する。

そこで君はジオンの技術者とNT応用兵器を偶然発見し、脳腫瘍を自分で治療して強大な能力を

手に入れる。他人と『交感』することで対象の精神を支配し、一度支配した対象を使って洗脳

対象をネズミ算式に増やし、NT能力の高い被洗脳者をルーターのようにしてサイコ・ネット

ワークを構築する。南洋宗の一派南洋同盟はこうして文字通り君の手足となり、ジオンの秘密

兵器、『サイコ・ザク』の量産に成功するのだ。それが連邦の知る所となり、討伐軍が編成

され君が本拠を構えるフィリピンに攻め寄せる、率いているのはハンフリー大佐、君の妹達も

一緒だ。

 

君は討伐軍にスパイを多数潜らせて、情報の有利を活かして戦うが、フィリピンの本拠は

壊滅する。だが、生産された30機余りの『サイコ・ザク』を宇宙に打ち上げることに成功し、

宇宙にいる君の私兵達が回収する。君も宇宙に上がり、次の目標をサイド3:ジオン共和国に

定め、公国が建造したコロニーを一基丸ごとレーザー砲にした『ソーラ・レイ』を奪取する

こと、その目的は月面のAE.の殲滅であることを洗脳するよりも同志となって欲しいジオンの

科学者に明かすんだよ。私が憶えているにはここまでだ、だが、ここまでの展開からどう

見てもハッピーエンドにはなるまい。特にヴィランであるレヴァン・フウには安らかな死

すら与えられないだろう…

 

私はね、この悲劇を未然に回避したくてAE.社内の人事に干渉し、ハンフリーを不法に監禁し、

君達を救助し、君の脳腫瘍を手術したんだ。私達は君達ばかりではない、他の人達も救いた

かったんだ。特に君はU.C.0078にはハンフリーから放逐されてしまう、そうなったら

手遅れなのでかなり強引な措置をするしかなかった」

 

レヴァン・フウは表面上は冷静に私の話を聞き、目を閉じて合掌した。

『サンダーボルト』劇中で死んだ者達の冥福を祈っているのだろうか。

「今話したのはあくまで前世で私が見聞きしたフィクションだ。現実に生きている君は全く

関係ない話だよ。君に私達の動機を説明するのに必要だったからこの『とても嫌な話』を

したんだ、すまない。重ねて言うがあくまでフィクションだ、君には何の関わりもないことだよ」

 

「ですが、閣下と同志の皆様がたが()()を憶えてくださったお陰で私は今、こうして生きて

います。関わりの無い話、で片付けたくはないのです」

レヴァンは合掌し頭を下げながらこう言った。

 

「正直に話すと、()()の記憶がある私は君の力に怯え、君を生物兵器にように扱った、

許して欲しい、とは言わない。()()()()()()()があった以上、対策を講じなければ人類の

絶滅さえあり得た。実際にこうして話している君はとても好感の持てる若者だが、あの時の

私や同志達にはそれが分からなかったのは理解して欲しい。納得してほしい、とは言えないがね」

シオシオに萎びれたカエルのような顔でレヴァンに釈明した私。

 

レヴァンは微笑みを浮かべ「私は感謝こそすれ、閣下や皆様を責める気など毛頭ございません。

()()()()()()は紛れもなく危険な()()でした。いえ、兵器ですら無く自分の怨念のため、他人様を

意のままに操り死に追いやる『悪鬼』でした。その因果よりお救い頂きましたこと、感謝しても

したりません」と言ってくれた。どうやら「もう一人の彼」を語る私から伝わる哀しさ、を彼は

感じ取ったようだ。

 

私の涙腺は決壊し、彼の手を握って「ありがとう…生きててくれてありがとう…」握った彼の手を

ぶんぶん振った。レヴァンは遠慮がちに「すいません、少し痛いのですが…」と言い、私は慌てて手を離した。

 

ふと、時計に目をやるともうすぐ迎えが来る時刻だ。私は最後にレヴァンにこう質問した。

()()()()()()()()()()()の話だが、我が家で暮らしてみんかね?」と。




17話は今週末投稿のはずが昨日なにか下りてきたので、2日がかりで1話書いてしまいました。

いよいよ開戦まで2日月を切りました。二重スパイのお陰でジオンの狙いが判明し戦力を配備できました。もっとも、ジュダック情報に頼り切りではなく、サイド6とか通じて色々裏取りはしてる、とことで。

ジョブとジョアンナ兄妹は一緒に暮らせることになりました。あと、ジョブの漫才の相方小隊長に名前が付きました。マーティン二等兵(15)が今後登場するかは未定ですが、ちとキャラ増えすぎたなぁ、と設定文を編集してて思いました。

ゼロの下りのルオ・ウーミンの趣味はこの作品らしく元ネタありです。きっとギミック満載のR&Rも持ってて幼かった娘と一緒にでかけてたかもしれません。
ゼロ無双のBGMは某装甲騎兵の「SCRAMBLE その2」であります。環境が許せば流しなあがら呼んでいただけますと幸いです。スコープドッグが次々に敵を屠ってく場面に流れるあの曲です。その2なのは作者がそっちの方が好きだからですw

モニカ小母さん、とうとうレヴァンから愛想尽かされましたが、ゴップから餌を吊るされすかさず食いつく辺りタフなMADです。

ゴップはレヴァンに彼が転生者なのを告げ、『ガンダム・サンダーボルト』のことも告白します。レヴァンは微かに残った能力からゴップの法螺や想像でないことを知ったようです。最後ゴップは「ウチ来ない?」と聞きますが、いかに。
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