リストラおじさん、ゴップになる   作:寒原光雪

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タイトル通り、物語はU.C.0078 12月まで進みました。
元の歴史ならこの後何もかもが決定的に変わってしまう最後の平和なクリスマスです。


クリスマス・キャロル

()()()()()()()()()()()の話だが、我が家で暮らしてみんかね?」と私は質問した。

「え!?」と目を丸くするレヴァン。彼のこんな顔を初めて見た。恐らくはモニカ・ハンフリー

も見たことはあるまい。

 

そして、手のひらを見せ、首を横に振りながら「そんな…、畏れ多いことです。第一私は監視が

付いている身です」

「監視というより、警護だね、私の家にも警護が付いてるから省力化になるな。もうすぐ

戦争が始まる、省力化できるところはしないと。

それに、君は一人暮らしだと本当にシリアルとヨーグルトしか食べないだろ?

妻の負担を心配してくれるなら、ウチには妻を手伝ってくれるハウスキーパー兼任の従卒がいる、

心配することはないさ」と私は微笑みながら言う。

「それに勝手ながら、家内と娘に君が家に来てもいいか、聞いてみたんだよ」

 

レヴァンが退院し、勤務を始めてから数週間後、私は(キャシー)(ドロシー)にレヴァン・フウを我が家、

官舎だけど、に呼び一緒に暮らすことになってもいいか、と聞いた。

妻は彼を少年兵や犯罪被害者と同じ様に同情し、社会復帰の為に微力を尽くしたい、と

言ってくれた。NT能力はサヴァン症候群の一種、という理解のようだ。

 

娘は私からレヴァンがその能力の殆どを失い、普段はサイコ・リミッターにより残った能力も

封じられている、と聞くと「精々相手の感情が分かるくらい、なんでしょ?要するに人の

顔色見るのが物凄い上手いのよね、彼。いいじゃない、こっちが機嫌悪い時は話しかけて

こないとか普通の男よりずっとマシよ、弟欲しかったし」と笑いながらOK.してくれた。

 

ちなみに娘はダニーの単身赴任で「二人で分担してた家事を一人でこなすとか無理」と言って

私達と同居している。実のところ、娘夫婦をリクルートする時に同居するつもりで、三世帯が

住める広めの官舎を頼んでおいたんだよね。

 

そういう訳で、私の家族も君を歓迎している、とレヴァンに話すと、レヴァンは合掌・瞑目し、

頭を下げた。了解してくれたんだろうか?私はそうだろうと思って思って彼の肩に手を置き、

「では、早速引っ越し準備を始め給え、と言っても君は部屋に何も置いてなかったんだったな」

と言った。

 

私達を迎えに来たダグザ少尉に「レヴァンは今日から我が家で暮らすことになった。君は彼を

我が家まで警護してくれ」と命令すると、彼は「了解。レヴァン少尉が固辞されたら、バスク大尉

と自分の三人で一緒に住もうと誘うつもりだったのですが」と言う。一応「特務」が付いてるし、

年上なのでレヴァンには目上の者に対する態度だ。

ダグザはバスクと仲良くなり、独身寮の二人部屋に住んでいる。レヴァンが来たら三人部屋に

変えるつもりだったんだろう。レヴァンは「もう一人の自分」を知ってから一層バスクと仲良く

なった。彼らには何の咎もありはしないのだが。

 

「バスクに口うるさく『たんぱくを取れ』『糖質を取れ』と言われるよりウチに来たほうが

良かっただろ?」とレヴァンにウインクすると彼は少し困った顔で笑った。

 

レヴァンと一緒に食べる始めてのディナーはシリアル以外のレヴァンの好物を誰も(モニカ

ですら)知らないので、私の好物、オレンジチキンやローストポークを妻が作ってくれた。

今日は新しい家族が来るお祝いに食後の飲酒も許可してくれた。

私は「レヴァン、君はベジタリアンじゃなかったよね?」と言いレヴァンにも取り分けた。

彼は恐る恐るという感じで口に入れ、ゆっくりと「味わう」ということを思い出すように食べた。

 

食事が終わり、私は妻や娘のグラスにビールを注ぎ、「君もどうだね?」と聞くとレヴァンは

「誠にあいすいませんが、遠慮いたします。私の肝臓は強化されており、『酔う』ことが

できないのです」と頭を下げる。ロキめ、余計なことをしてくれたな。

 

すると娘が「その輪っかの電源切ったらさ、私達の酔っ払った感覚をアナタも共有できるん

じゃない?」と提案した。ドロシー、ナイスアイデアだ。

レヴァンは私の方を見て私が微笑みながら頷くと額のサイコ・リミッターに手を当て電源を

切った。

 

私達の酔いが進むにつれ、レヴァンも目元が赤くなってきた。気分も少し高揚してきたそうだ。

ごく近距離なら、私達の「酔い」が彼に伝わるのか。

 

娘は「程々のところで電源入れた方がいいわよ。じゃないと明日『二日酔い』も経験することに

なるから」と冗談めかして言う。

 

レヴァンは微笑みながら娘に頭を下げ、リミッターの電源を入れた。彼には妻がお茶、東洋の

なんとか茶だそうだ、を入れ彼は恭しく女王からの賜り物のように味わって飲んだ。

(キャシー)は(痛ましい)という表情で「そんなに畏まることないのよ」と言い、(ドロシー)は「それってアジア

のマナー?」と無遠慮に聞いた。

初日からリラックして、と言っても無理だろう。時間をかけるしかないだろうねぇ。

 

翌朝、朝食に現れたレヴァンは青い顔をしている。私が「もしかして、二日酔いかね?」と聞く

と、彼は「これが『二日酔い』なのですね。どうやら脳がアルコールを過剰摂取した、と錯覚

したようです」と自身の体調を分析した。気分が悪いのに微笑みを浮かべるレヴァンに私は

「大丈夫かね?」と顔を覗き込みながら聞くと、彼は「この感覚は借り物でない、私自身のもの

です。それが嬉しいのです」と青い顔で笑った。

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こうしてレヴァンと暮らすようになったある日、朝の散歩をしていた私は自宅の通用口から

マチルダ・アジャン中尉が出て来るのにばったりと出くわした。出勤前だったのか制服姿の

彼女は私に敬礼すると無言で足早に去っていった。妻のカウンセリングを受けにきたんだろうか。

 

妻はカウンセラーの倫理上、依頼者の事情を話せないが、花婿のウッディーは新型艦の設計、

という重要な任務に就いているし、なにより知り合いの若い人が不幸な目に合うのは耐えら

れないので、

「実は知り合いの若い人が今度結婚するんだが、花嫁さんが元気なかったら花婿は何をする

なり、言ったりすればいいんだい?」とぼけた顔で妻にアドバイスを求めた。

妻は苦笑しながら「あくまで一般論」のアドバイスをくれ、私は早速ウッディーにメールした。

 

私のメールが効いた訳じゃなかろうが、12月中旬の日曜日、ウッディ・マルデンとマチルダ・

アジャンの結婚式が盛大に行われた。私も意識して短いスピーチをした。

式後、花婿は若い人たちからもみくちゃに手荒い祝福を受け、胴上げされた。

花嫁が投げたブーケはレーチェル中尉がキャッチした。「私、まだ結婚考えてる人いないんです

けどね」と彼女は苦笑した。

 

花嫁と花婿の家族や友人達は「クリスマスを一緒に過ごしたい」という二人のたっての希望で

来年までジャブローに留まることになった。

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==== U.C.0078 12.10

一隻の白い軍艦がサイド7の港に入港している。『V作戦』の一部にして新型MSの母艦となる

ペガサス級強襲揚陸艦、その一番艦『ホワイトベース』である。

 

艦長のパオロ・カシアス大佐は「しかし、凄いフネだな、こいつは。大気圏をブースター無し

で離脱したと思えばサイド7まで無寄港で来れた。たいしいたもんだよ」と老大佐は新型艦の

性能を褒めちぎった。何度も何度も褒めちぎるうえ、それがほぼ同じ内容なので副長はじめ

ベテラン士官はまじめに相手にしてくれなくなった。今やブライト・ノア中尉(25)しか

話し相手がいない。なので、ブライト中尉に乗艦の自慢をしている艦長であった。

 

WB(ホワイトベース)艦長は上機嫌のまま「そうだ、中尉。君、MS開発部隊に連絡将校(リエゾン・オフィサー)に行ってくれんか?

先方から君を名指ししてきてね。私としても艦にも惜しいが、ひとつ頼まれてくれ」と命じた。

先方の指名というからは、思いつきではなく命令書も用意してあるのだろう。

ブライト中尉は敬礼して「了解。ブライト・ノア中尉、艦が入港し次第『V作戦R&Dセンター』

に連絡将校として赴任します」と命令を復唱した。

 

(しっかし、ぶっ弛み過ぎだろ、ここは…)サイド7の6バンチ『V作戦R&Dセンター』に出頭した

ブライトは民間企業のような雰囲気に辟易していた。AE.の制服らしきタイトスカート姿の女性

が闊歩し、技術士官らしき者も軍服をだらしなく着崩している。

 

センターの責任者、テム・レイ技術中佐の前に出頭し、WB(ホワイトベース)から連絡将校として赴任したことを

報告すると、中佐は「よく来てくれた。中尉には7バンチの実験小隊の方に駐在して貰うこと

になる」と『実験小隊』なる正体不明な部隊に行け、と言う。

ブライトは(試作機でも実際に動かしてるのか)くらいに思い、敬礼して復唱しその足で

7バンチに赴いた。

 

「なんだ、これは…」今度は口に出た。なんと子供が軍の秘密兵器に乗っている。周りの大人達

はそれを当たり前のように振る舞い、「お疲れさん」とか言っている。

ブライト・ノアは驚愕を顔に貼り付けたまま「第13独立実験隊」指揮官、ベッカーズ少佐の

オフィスに出頭し、赴任を報告した。少佐は「自分のことはチャーリー、と呼んでくれ。

貴官も目にしたと思うが、ここで実働試験としてRX-78に乗っているのはテム・レイ主任の

ご子息アムロ君とその同級生二人だ。三人とも腕の方はエース級だよ。

()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()に困惑することもあろうが、よろしく頼む」と爽やかに笑い

ながら手を差し出してきた。ブライトは少佐の態度に(陸軍出身だそうだが、これが陸式だろう)

と思いながら愛想笑いを浮かべて少佐の手を握った。

 

ブライトがここに赴任して一週間経った。彼はこの風変わりな部隊、MS4機編成なので小隊か、に

いい加減辟易していた。ケンプと名乗った小隊長の大尉はとにかく軽い奴でしょっちゅう子供達

相手に冗談を飛ばし、開発主任の息子であるアムロは自分を透明人間のように無視している。

カイとかいうタレ目のガキは大人を舐め腐っているし、唯一ブライトが上手くやっていけそう

だと思ったのは一番小さい子、ジュードーをやっていて礼儀正しいハヤトくらいだった。

 

弛みに弛んだ雰囲気にいい加減我慢がならなくなったブライトは(一発気合を入れてやろう)

と思い、タレ目のガキ、カイ・シデンを撫でて(平手打ちして)やるか、と思った。

艦隊の人間が技術士官や民間会社の人間を殴る訳にはいかないが、子供を撫でるくらいなら

文句も言われず、この弛んだ雰囲気も少しは締まるだろう。

この時点ではブライト・ノアはこの部隊の特殊性を理解していなかった。

 

ブライトは「貴様、シャキっとせんか!」と怒鳴り、カイの胸ぐらを掴もう、としてケンプ大尉に

腕を掴まれた。

 

「おい、水兵(セーラー)、この俺が預かってる子供に何の真似だ?テメェはいつかやると思ってたぜ、

その白目の無い目ン玉にそう書いてあったからな」ケンプからいつも軽い雰囲気は失せ、殺気を

放っている。

「ここで、子供の前で殴り合うのは教育上よろしく無いからな。ジムに行ってスパーリング

でもするか?テメェの得意種目でやってやんよ。軍艦でボタン押してるだけの水兵にパイロット

の怖さを教育してやる」とキマった目で凄むケンプ。それに気圧されたブライトは「い、いえ、

自分はちょっと注意しようと思っただけで私的制裁の意図などありませんでした」と釈明した。

 

 

ケンプはやっとブライトの腕を離し、「失せろ」とだけ言った。

ブライトはほうほうの体でその場を逃げ出し、カイの心の手帳の「ウィリー・ケンプ」のページ

が「面白兄ちゃん」から「絶対に逆らったらダメな奴、2位」に書き換えられた。

 

ブライトはチャーリー少佐に呼び出された。「私は『彼らとは仲良くしてほしい』と言った筈

だが、貴官は憶えてなかったのかね?ブライト・ノア中尉」と無表情で問いただされた。

「いえ、その、私的制裁のつもりは毛頭なくコミュニケーションといいますか…」少佐が

本気で怒っているのを感じたブライトは必死に釈明、というか言い訳した。

このハンサムな少佐が統合参謀本部議長ゴップ大将の腹心であることはアプリで予習済みだ。

 

「議論の余地など無い。私の部隊では『私的制裁』は禁止だ」と少佐。

「私のいう『制裁』には大声で威圧したり、ジムで無茶なシゴキをするのも含まれる。

彼らの訓練メニューは私が組んだものだ。追加のトレーニングは必要ない。

彼らにケガなどさせた瞬間、貴官のキャリアは終わったと思い給え」と判決を言い渡すように

命令する少佐。ブライトは「じゃあ、艦に帰ります。お世話になりました」と言うのを我慢して

敬礼し、「以後、慎みます!」と答えた。

 

参謀本部絡みの部隊に連絡将校として赴任したのだ。蹴飛ばして帰ってくれば、自分のキャリア

のみならず、カシアス艦長のメンツが丸つぶれになる。それだけは避けたかったブライトだった。

とはいえ廊下で「俺は指名されて来たんじゃないのか…」とボヤくのだけは我慢できなかった。

 

ブライトが逃げ出すように退出した直後、ウィリー大尉は部屋に入り、チャーリーに「あの水兵、

まだ鬱憤が溜まってそうでしたよ」とブライトが懲りてなさそうだと報告した。

「彼も艦隊士官なんだ『水兵』は止めてくれ」とチャーリーは苦笑しながら「あれは『文化』の

違いから来る摩擦なんだろうな」と中尉の行為を考察した。

「文化の違い」とは私的制裁が横行する艦隊と教導団をきっかけに私的制裁を排除したMS部隊

との違いだろう。

 

「子供達に手を出したら君は終わりだ、と脅しておいたからあの3人には手を出すまいが、若い兵

を殴ろうとしていたら『禁止事項に例外はない』と止めてくれ。今回よりは『紳士的』にな」と

苦笑いしながら命じるチャーリー。ウィリーはわざとらしく敬礼して「ウィリアム・ケンプ大尉、

ブライト・ノア中尉を()()()に制止します」と復唱した。

 

ここでチャーリーは真剣な顔になり、ウィリーに「中尉の件はこれで終わりだが、大尉、私の

懸念を聞いてくれないか?」と尋ねた。『元の話』を知っているウィリーの知識に期待したのだ

ろうか?「隊長が腹に何か抱えるのは気付いてました。俺で良けれ何でも聞いてください。

ただし、借金の申し入れだけはご勘弁を。月の俸給は全部酒代とバイクのパーツに化けちまう

ので」ウィリーは7バンチの基地中を改造電動バイクで走り回る癖があった。

だが、どうやら隊長、チャーリー少佐の懸念は別のところにあるらしい。

 

「私の心配はあの子達のことだ。未だ実戦は経験していないが、ジオンがここサイド7に

攻め寄せてきても一個大隊程度の敵は君達RX-78小隊で退けられるだろう。

問題はその後だ。もし、アムロ・レイ君のような特に能力がある少年が連邦の敵に回った時、

私達は何をすればいいのだろう。ホモ・サピエンスに滅ぼされたネアンデルタールのように

滅びを甘受するのか。数を頼りに彼らと戦うのか」

 

「後者はお勧めしないですな。アムロ君は戦えば戦う程強くなる。味方のうちに背中から

撃つくらいしか対策は思いつきませんが、かえって彼を敵に走らせる理由に成りかねない」

ウィリーはお手上げのポーズをした(あのアムロがリボンズ・アルマークみたいになる心配か、

「絶対にない」とは言えんよなぁ…)と天を仰ぎ考えるウィリー、が再びチャーリーに顔を

向けると笑いながら「絶滅したネアンデルタールとあと一種族の一部はホモ・サピエンスの

仲間入りしたそうで、現在の人類でも何%かはネアンデルタールのDNA持ってるそうです。

アムロ君達に憎まれてなきゃ自分達は生命の危険は無いかもしれません。あのブライト中尉

は愉快なことにはならないでしょうが。人類社会ってヤツを敵視するかは壮大過ぎて自分には

想像できませんな」

 

「彼らの言動は記録してゴップ閣下に送ってるんでしょ?あちらで専門家も交えた対策でも

考えてくれるんじゃないですかね。最近Dr.フウなる凄いのをゴップ閣下が手懐けたって

噂がありますから」

 

「私が閣下かから知らされてるのはレヴァン・フゥという男だ。君達の前世で流通してた

コミックのヴィランらしい。だが、実際の彼は穏やかで謙虚、同じ研究所の被検体達を

第一に考える男だったそうで、閣下は彼の後ろ盾になることを決心したそうだ。

 

「自分はそのフゥだかが、出てるコミックは読んだことがありませんでね。

まぁ、その彼がNT交感能力を持ってるなら、アムロ君たちがストライキでも起こした時

通訳を頼みましょうよ。何にせよ、コミュニケーション可能なんですから必要以上に

怖がる必要ないんじゃないですかね」元々楽観的なウィリー大尉はチャーリーの懸念は

杞憂だと思ったようだ。

「しかし、隊長の視点は軍にとって得難い物ですよ。G.C.のメンバーは自分を含めてどうしても

予断を持って見てしまいますから。だからこそ、ゴップ閣下は隊長をここに派遣されたので

しょう。なるべく判断の種になる情報を送るしか今のとこできることはない、と思いますがね」

 

「実は、次の戦闘、ジオンの各サイド奇襲を戦い生き延びた少年兵を選抜してここに来て

貰おうと考えているんだが、どうかな?」チャーリーは新しい方針をRX-78部隊を預かる

ウィリーに打診してみた。

「ま、同年代の兵がいたほうが、彼らが軍人になっても上手く適応できそうですな。

ただ、乗れる機体が現状試作5号機しかありませんよ」とウィリー。チャーリーは

「その件なら問題ない。新型機がもうすぐロールアウトするから追加の人員にはそれに乗って

もらう」とニヤリとしながら答えた。

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====サイド7 6バンチ U.C.0078 10.10

 

話はに2ヶ月前に遡る。フランクリン・ビダン技術大尉は妻のヒルダと共同で提出した

『RX-79 開発計画』を上司、テム技術中佐やアダムス技術少佐にプレゼンしていた。

「現状ここで建造されるRX-78向けに生産されたパーツのうち検品をパスして、実機に

組み込まれたり補修部品としてストックされるのは36%であります。つまり6割以上の

パーツが死蔵されているのであります。RGM-79量産の暁にはこれらを組み込んでの高性能化

が計画されていますが、むしろ検品から弾かれた部品を必要に応じてリビルドし、機体を

組んではどうでしょうか?RGM-79ではRX-78と編隊を組みにくい、という指摘がありますが、

『より近い』性能のMSなら可能でしょう」「私達はこれをRX-79と名付けました。

『78』のウイングマン専用機といいますか、支援機といいますか、そんな機体です。

AIもRX-78向けに開発中の物を流用します。78の成長とともに79も強くなるのです!」

と「余った材料でもう一品」みたいなことを発表した。

 

テムは手元の資料を検討しながらブツブツと何事か呟き、「いいだろう、ビダン君やり給え」

計画にGOサインを出した。RX-78との区別のため額の二本角が無くなり、アンテナを後頭部に

生やしたRX-79は12月時点で既に6機が建造されていた。この急ピッチの建造ペースはビダン

夫妻が予め使えるパーツを選定していたこと、RGM-79の生産手順を取り入れたことが理由に

挙げられる。夫妻は仕事が楽しくて仕方なくなり、彼らの長男であるカミーユ(8歳)は学童保育所

に預けっぱなし、夕食は一人で外食か、ボランティアの少女の家に招かれ食べたりした。

母親のヒルダは少し後ろめたくなったが、息子に「今度ボゥさんちに行くときはお土産を買って

行きなさい。口座には少し多めに入れておきます」とメールし、また仕事に没頭した。

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====サイド7、5バンチにある基地の周辺をRX-78の各部を簡略化したMSが行進していた。

連邦量産型MSの第二世代機といえるRGM-79『GM』である。機体はRX-78と同様にIフィールド

モーターで駆動し、BM-01、02とは比較にならない俊敏さと柔軟性を兼ね備えている。

 

少し離れた所では別のGMがビームライフルを最小出力で放っている。

その銃声はBM-02のライフルやビームスプレーガンと異なり、原型機ガンダムの主要兵装に近い。

銃身が多少短いので「ビームカービン」とでもいうべきか。

 

行進するGMの先頭機のコックピットでマット・ヒーリィ中尉は各種データ、特にレーザー回線

によるデータリンクの項目をチェックしながら、「『79(ナナキュウ)』もだいぶ仕上がってきたな」

と呟いた。

 

後続機から「それじゃあ、ギリギリで開戦に間に合いますかね?」と問われ、ヒーリィ中尉は

「そりゃ、無理だ。機体のハードが仕上がっても載せるAIが間に合わなきゃ意味がない。

AI無しじゃこいつは『ちょっと高級な『(BM-)02』に過ぎんからな」

「AIの方はまだ遅れ気味なんですかね?」と別の列機が質問をぶつける。

「一時よりだいぶ巻き返したようだが、少なくとも年内は無理だな。おそらくジオンが殴り

かかってくるのをBMシリーズで凌ぎ、反攻作戦に『78』と『79』が投入されるんだろう。

我々は一刻も早くコイツらを仕上げるのが任務だ。次はコロニーを出て空間機動のテストだ。

港まで飛ぶぞ!」

 

ヒーリィの掛け声でスラスターを吹かし4機のGMはドッキング・ベイを目指し飛んだ。

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====U.C.0078 12.17 ソロモン

 

ジオン公国軍の最前線、宇宙要塞ソロモンでは来年早々と噂される出師の準備に大わらわだった。

特にMS整備場は正に蜂の巣をつついたような騒ぎで、ヘルメット内通信にはメカニック達の怒号

が行き交い、込み入った話をするには「お肌の触れ合い会話」に頼るしか無い。

 

オリヴァー・マイ技術中尉は(艦隊の全力出撃に加えて月からの増援一個連隊だからな、この

騒ぎも仕方がないのだろうが)と思いつつ、技術本部に館内通信の改善提案書を提出しよう、と

決めた。整備場の片隅に佇むマイ中尉の所に赤いパイロットスーツが飛んできた。

シャア中尉である。

 

読者諸氏には何か違和感がないだろうか?そう、この宇宙世紀のシャア・アズナブルはノーマル

スーツを着てMSに乗るのである。

「私はせっかちな質でな、機体を降りたら一刻も早くシャワーを浴び、食事をして飛行を検討

したいのだよ」と言う。スーツを着ていないと格納庫が与圧されるまで待たないといけない。

 

流石にノーマルスーツでは3倍の速度とは行かないシャアだったが、それでも腰のスラスターを

巧み操り最短距離でマイの所まで飛んできた。

「マイ中尉、頼みがあるのだが」いつもの調子でマイに無茶振りを始めようとするシャア。

マイは(今度は06Sのどこをいじれっていうんだろう?)と思いつつ、「御用の向きとは

シャア中尉?」といつもの調子で答える。

 

「実はな、ザクの右肩のシールドを外して欲しい。アレは重すぎる」徹底的に機体の軽量化に

こだわるシャアが今まで言い出さなかったのが不思議な要望を述べた。

マイは予想していたが、一応「シールドを外すと著しく防御性能が低下しますが…」と確認

する。 シャアは両腕を広げ「当たらなければどうということはない、ってところさ」と

気障ったらしく言う。(なんか、この人一々芝居じみてるんだよなぁ…)と思いつつ、

マイは「それではバランスを取るため右肩にもスパイクアーマーを装備しましょう」と提案し

シャアは即座に承諾した。「それと、外したシールドだが…」続きがあるらしい。

「予備のシールドも同様に手持ちのバーとスパイクを植えて手持ちシールドに仕立ててくれ、

ブラウン達に持たせたい」と彼にしては「本当に」珍しく列機を気にかけている。

「了解しました。中尉からのクリスマスプレゼントを彼らも喜ぶでしょう」とマイ。

「そういえば、そんな時期か」目の前の赤い男はサンタクロースの親戚のような格好をしながら

クリスマスが近いことを忘れていたらしい。

「それとな、本国から私専用にと送られて来たマシンガンとバズーカの試射をしたいのだが」

こちらもマイは予期して準備してたのですぐに叶えることができそうだ。

 

1時間後、赤いザク、MS-06Sはソロモン近海の暗礁空域にいた。後方には赤いままのシールドを

左手に握ったEM-04ヅダ2機が続く。腕のラッチにもシールドは装着されており、持ち手は

打突兵器として使う際に力を入れるために付けたようだ。

 

「マイ中尉によると、貴様達へのクリスマスプレゼントだそうだ。気に入ったか?」赤いザクから

通信が入ると2機のヅダは首のアクチュエーターがイカれそうな勢いで首を縦に振った。

 

「これから試射を始める。具合が良いようなら貴様らの分も取り寄せるから、よく見ておけ」と

赤いザク。「M-120C」と刻印された我々の知るMMP-80に似た120mmザクマシンガンを構え、

デブリに括り付けられたMS-05、中身は全部回収され今やドンガラ、に3発指切りで発射した。

侵徹体は旧ザクの胴体を背中まで貫通し、デブリに命中した。

 

「凄い!コレ凄いですね、小隊長!」と興奮するブラウン。マイヤーは想像を超えた威力に

呆然としている。

 

「マイ中尉は命中率が悪い、と言っていたが。要するに当たる距離まで近づけば当たる理屈だな」

とシャアは納得がいっているようだ。M-120Cが使用する新型弾は侵徹体が燃焼薬莢の底まで

埋め込れたテレスコープ構造である。強装弾の為、反動が大きく散布界が広い、が技術本部

の見解だが、シャアは意に介さないようだ。

 

「次はこれを試してみるか」と背中にマウントしたバズーカを取り出し肩で担いで発射した。

砲口から対艦用の三重貫通弾(タンデムHEAT+徹甲榴弾)が飛び出で、旧ザクのスクラップは

徹甲榴弾の爆発でバラバラになった。

 

「うむ。威力に不足はないが、いかんせん弾体が嵩張り過ぎる。弾倉に4発しか入らんとは」

新型バズーカは威力と引き換えに現在制式のH&L-SB25Kザクバズーカよりかなり大型の弾体を

使用する。要するにデカイ弾を使うから威力があるのである。

 

いつの間にか移動し、バズーカの弾頭が標的に着弾する様を録画したブラウンは二重の高圧ガスが

旧ザクの装甲を貫き、胴体に潜り込んだ徹甲榴弾が炸裂するところを何度もスロー再生した。

再生の度に「スゴイなぁ、スゴイなぁ」と呟いている。

 

ソロモンに帰投したシャアはマイ中尉に「中尉、アレをありったけ本国から移送してくれ。

列機にも持たせたい」と『要請』した。マイは「早速本部長に掛け合います」と答え、

ブラウン達には「M-120Cは反動が強い。片手撃ちでは満足に当たらないから左手でフォア

グリップを握って撃つんだ」とアドバイスした。

さっき見た驚異の新兵器を自分も撃てる、と知ったブラウン達はクリスマスと新年が一度に来た

ような気持ちになった。

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====U.C.0078 12.24 ズムシティ

 

ガルマ・ザビはザビ家の末子である。現在20歳の彼を父である公王は溺愛し、「士官学校になぞ

入れねばよかった…」と繰り返している。彼が指揮を取った「暁の蜂起」は老齢の父にはひどく

ショッキングだったようだ。

 

お陰でドズル兄の艦隊にもキシリア姉の指揮する月面降下部隊にも従軍させて貰えなかった。

ドズル兄は「いい子で留守番しておれよ!ミネバとゼナはお前が守ってくれ!」と彼の肩を

力強く握り「痛いよ、兄さん」と彼が言うまで握りしめていた。

キシリア姉は「降下作戦は危険な任務だ、お前には適性がない」とバッサリである。

親孝行な彼女は父の意向を汲んでいたのだが。

最高指揮官の筈のギレン兄は「ドズルとキシリアが待機と言うなら、俺も待機と言うしかない」

「いつものように」二人のせいにして彼の請願を取り合ってくれない。

 

やることが無く宮殿で腐っていたら技術本部から「試作MSの視察」のお願いが来た。

王族の公務らしい仕事に鼻息荒く試験場までリムジンを飛ばして来たガルマ。

技術本部長シャハト少将は彼を愛想よく迎え、「ガルマ様に本日披露いたしますのは、

地上戦用MS、YMS-07『グフ』であります」と片眼鏡を輝かせて試験場に仁王立ちする

MSを紹介した。

 

試作機らしく灰色に塗られ、ところどころにステンシルが目立つそのMSには我々の知るMS-07

と違って両手が5本指だった。「YMS-07A-0 試作初号機」と書かれた看板が立っている。

 

「地上用?技術本部は我軍が地球に攻め込むと?」いくらガルマでも、地球という重力の

井戸に落ちたら補給もままならないことは分かる。なのになんで、「地上用」と銘打った

機体を作るのか。

 

シャハト少将は「いえ、実はYMS-07はコロニー内部や宇宙要塞のように狭い空間での

対MS戦闘を念頭に開発されたものであります。只今より、駆動試験を行います。

ガルマ様はこちろの退避壕の方へお越しください」

シャハトの言うがまま後をついていくガルマ。実は父から「本部長の指示に従うように。

できぬ、というなら宮殿から出さん」と言われていた。

 

退避壕は地上スレスレに設置され、ここからだとMSの巨大さがよく分かる。

「YMS-07の融合炉出力は1,034kW、コレはMS-06を大幅に上回ります。ただし、冷却の

問題から稼働時間はザクの半分であります」駆動系も一新されてるとかで確かにパワフルな

機体のようだ。

 

「武装はM-130Aマシンガン、現行のM-120の機構をスケールアップした物でして、120

の弾薬もスリーブを装着することで使用が可能です」このM-130Aもシャハトが連邦MSが

技術本部の想定以上に防護性能が高い、と危惧し用意していた「対策」の一つである。

装薬の増量で侵徹体を打ち出すM-120Cに対し、M-130AはザクマシンガンM-120Aの

設計を流用し、使用する弾薬に新開発の130mmタンデムHEAT弾頭を採用している。

 

下から見上げる130mmマシンガンの実弾射撃は凄いもので、標的のドンガラだけのザク

はたちまち穴あきチーズのようになった。ガルマは「へ~」と感嘆の声を上げた。

 

「お次は本機の目玉、左腕シールドに装備しました擲弾筒であります」シャハトが指を

鳴らすとYMS-07は標的のザクに左腕を向け、シールドに装着した筒から砲弾が飛び出し、

標的に向かっていく。

砲弾がザクに命中した瞬間、それが炸裂する。爆煙が収まると、ザクの上半身は消え失せて

いた。「凄い威力だ」ガルマが感心すると「開発中止された試作戦車の主砲弾を流用しました。

MSに積めるサイズの発射機ですとHEAT-MP弾しか使用できませんが、これを食らえばどんな

MSも一撃のもとにに打ち倒されるでしょう」と片眼鏡を光らせ試作の「秘密兵器」を解説する

シャハト。

 

最後に本機の格闘兵装をご覧にいれます。今YMS-07が手にしておりますのはヒートサーベル

「ZEONIC Type-γ」であります。ヒートホークと同じ原理で刀身を白熱化しておりますが、

炉の出力向上でここまで大きな刀身の運用を可能としています。

グフは先程破砕したのとは別のザクに向かうと袈裟懸けに切りつけた。

刀身はザクの胴体を両断し、斬られたザクは時代劇俳優のような大げさなモーション

で地面に斃れ伏した。斬られ役のザクは遠隔操縦されているのだろう。

 

「YMS-07の性能。その一端をお見せいたしましたが、いかがでしょうかガルマ様?」

「いかが?って言われてもなぁ。う~ん、これって要ります?それよりこの機体の技術で

MS-06の改良型開発するほうがいいと思うんですけど」相手は少将で、なおかつ彼の

仕事にケチを付けるのだからガルマはなるべく丁寧に喋った。

 

シャハトはその反応を待ってました、とばかりに満面の笑みを浮かべ「実は本機の技術を

応用したMS-06の改良型は既に存在するのです。シャア・アズナブル中尉のMS-06S

であります!」と彼の『親友』の専用機はこの機体の兄弟機だと語った。

「ガルマ様さえよろしければ、現在組み上げています試作2号機をガルマ様専用に

チューンアップし、献上いたしたいのですが…」とシャハトがガルマの顔色を覗う

ような目付きで提案する。

 

「貰いましょう!MS-07グフ。最高のクリスマスプレゼントですよ、シャハト少将!」

親友の専用機と兄弟機、しかも自分の専用機が手に入ると知って躍り上がって喜ぶ

ガルマ(20)であった。

 

宮殿に帰ると何食わぬ顔で父デギンに視察の報告をするガルマ。もちろん「専用グフ」

のことは黙っておいた。

絶対に父は額に青筋浮かべて「返してきなさい!そんな危ないモノ!」というからだ。

そして、父と二人きりの夕食、ギレン兄は公務とやらで外出中、を終え自室に下がった。

 

「さ~て、『キャロル&チューズデイ』のクリスマスライブは、っとサイド6のチャンネル

かぁ」ガルマの自室に置かれたホロプロジェクタはギターを弾きながら歌う白人の少女と

キーボードを引きながら歌う黒人の少女を投影し始めた。

 

『キャロル&チューズデイ』今、地球圏の若者層に絶大なといっていい人気を誇るデュオ

である。黒人のキャロルが戦火のアフリカを逃れコロニーに移り住んだ難民、白人の

チューズデイが連邦評議会議員の娘、という正反対の社会階層出身のコンビである。

オーディション番組で有名になり、昨年大晦日の著名なミュージシャンが集まった

「宇宙市民と地球市民の連帯を訴える」音楽パフォーマンスは全地球圏で話題になった。

 

ギレン兄は「出来の悪いプロパガンダだ。常日頃著作権がどうだのこうだの言っとる

ミュージシャンが損得抜きで集まる訳なかろう。連邦政府か、御用メディアの仕掛けだ、

これは」と一蹴したが、キシリア姉は「ああいうメッセージを送ってきた、ということ

は連邦が我が国を恐れている証拠でしょう」と別の見方をした。

ドズル兄は「恐れる余り先制攻撃されはせんだろうか?ア・バオア・クーは先日稼働

に持っていったばかり、グラナダは未だ軍事基地化できておらんし…」と身重の妻を

抱えて彼にしては珍しく気弱なことを言った。

ガルマは兄達や姉は自分の意見など求めていないのを知っているので黙っていた。

 

ホロTVでは、黒人の方のキャロルが『God Rest Ye Merry Gentlemen(世の人

忘るな)』を独唱している。キャロルの歌うクリスマスキャロルに会場の聴衆は

大盛りあがりだ。だが、ガルマは「へー、地球の宗教歌かぁ」と反応が薄い。

 

「それよりチューズデイのソロ無いかなぁ…」と普段から飲んでいるシャンパンの

グラスを傾けながらホログラムを眺めるガルマ。彼は白人の方、チューズデイの

大ファンだった。あんな(おとなしそうな)妹が欲しい、「にいさま」とか「兄上」とか

言われたら天にも昇る心持ちだろうな。ギターも何十本も何百本も買ってやろう。

たしか、マ・クベ中将がビンテージ楽器をコレクションしてた筈だ。

 

チューズデイのソロパートになるとガルマはホロを食いつくように眺め、足でリズムを

踏んでいる。

「いやぁ、やっぱチューズデイちゃんかわいいなぁ。サイド6にいてくれればウチの

攻撃にも巻き込まれないからしばらくいて欲しいなぁ」とどこからか『ブリティッシュ作戦』

作戦書を手に入れていたガルマであった。ミソッカスの彼にはだからこそ非主流派が近づき

色々便宜を図ってくれる。作戦書もそのひとつだった。

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====サイド4近海 U.C.0078 12・24

 

ジョブ・ジョン達第3艦隊所属の803戦闘団N中隊はサイド4に進駐していた。

人質(ジョー)を奪回し、縁を切ったはずの故郷のほうが追いかけて来た。とジョブはふくれ面だ。

スミス小隊長は「サイド4の市民だって立派な納税者だぜ。彼らを守るのが俺らの任務、お前が

どれだけ嫌っていようがな。とはいえ、俺も同じ立場なら四文字連発してるだろうなぁ」と

ニコチンガムを噛みながら言った。

 

シャバがクリスマスに浮かれるなか、ジョブ達は戦場になるサイド4近海で猛訓練に

明け暮れていた。時々、サイド4オリジナルMSレオやモビルポッド『キャンサー』を相手に

模擬戦をしたが、今では『カラスの壁』に上手く隠れるようになり、秒殺とはいかなかった。

足が無いためか機体が小さいキャンサーは中々発見できず、いきなり無反動砲の照準レーザー

を当てられ冷や汗をかいた。機体システムは発射された砲弾を回避、と判断し被害は無かったが、

ジオンもこのカニを侮ると痛い目に遭うだろう。

 

演習が終わると、ジョブだけなぜか空母「ビーハイヴ」に呼び出された。

アプリ情報だと「ビーハイヴ」サイド4:ムーアの献金で建造されたフネ、とある。

「まーたあの王子様の呼び出しかよ。俺を騎士様にでもしてくれんのか」とジョブは毒づく。

空母に着いたジョブは先方から指定された格納庫内の与圧ブロックに急いだ。

ジョーは取り戻したとはいえ、アイツを怒らせると今度は中隊に迷惑がかかる。

「渡世の義理ってやつかね」とジョブはスミスが言っていたフレーズで愚痴った。

 

重力はないが、空気はある与圧ブロックはヘルメット無しでいられる。

ジョブはヘルメットを外しながら床を目指し飛んでいると、見覚えのある声が響いた。

「諸君!我らムーア市民の誇り、ジョブ・ジョン軍曹だ!」

「ハァ?俺、伍長だぞ」あの王子様がジョブの階級を間違えたのだろうか。

ジョブが床につくとイオ・フレミング少尉が飛んできてジョブの首根っこを掴んで着地した。

そして上機嫌で整列したパイロットスーツ姿の少年少女に演説を始めた。

 

「きたる戦いは我々の本土決戦だ!!諸君はその魁となる!自分は一兵卒として、我らが

故郷ムーアを守り最後の一瞬まで戦い抜く所存である!」

(たかが少尉が提督気取りで演説かよ、ワイアットの方がなんぼか気の利いたこと言うぜ)

ジョブは顔に笑みを浮かべながら毒づいた。

少年兵の何人かが、拳を突き上げイオに賛同した。

 

「建前はここまでにして」とイオは表情を和らげ「俺はモビルスーツが好きだ。自分が拡張

された気分にしてくれるこの機械がどうしようもなく好きで、全身の血が沸き立つくらい

好きだ。今ここにいるみんなもそうだろ?」と今度はきさくな兄貴のような態度で少年少女に

語りかけるイオ。ジョブは(それはそうだよな。MS乗りは一度やったら止められねぇ)と

ここは同感のようだ。

 

「MSっていっても俺の実家が造ってるアレ、レオは出来損ないだ。あんなのよりまだカニの

方がマシさ」と肩を竦めると、そこかしこで笑いがおきた。

 

「諸君らはハイスクールを休学して部隊に志願してくれた愛国者達だ。戦後、ムーア政庁、

いや、フレミング家は必ず諸君らに報いるだろう。武運つたなく戦死した者の遺族には

補償を約束しよう。だから後顧の憂い無く戦ってくれ!」

(フレミング家がケツを拭くから潔く死んでこい、ってか。どうせコイツが戦死したら

無かった話にされんだろうなぁ)ジョンはいい加減むかっ腹が立ってきた。これが中隊長

のいう「一部コロニーにはびこる封建制」ってヤツか。

 

目前に居並びイオとジョブを憧れの眼差しで見つめる自分と同じ年頃の男女をジョブは

(コイツら、どう見ても飛行時間が足りてねぇ。あの王子様、マジでコイツらを使い捨て

の爆発反応装甲にする気だ。何人生き残れるだろうな…)と冷めた目でみていた。

格納庫の機体の汚れ具合や母艦周辺での飛び方からジョブは彼らの練度を見積もっていた。

 

「俺を含め皆初陣だが、ここにいるジョブ・ジョン軍曹は地球でも戦った古参兵だ。

皆が前線を支えてくれればジョブ達『ランサーズ』が敵の母艦を沈め、ムーアは守られるだろう。

『鉄床とハンマー』っていう古代から続く戦法さ、ちょっと利口になったな」とイオ。

(オレが地球で戦ったのって何週間だと思ってんだよ。歩兵操典なんかもう忘れちまったよ)

とジョブ。

 

「しかし、敵が攻めてくるまでずっと訓練だけってのも味気ないな。今夜は決起集会を兼ねて

パーティと洒落込もう。別室に食事と飲み物を用意しておいた。スイーツもあるぞ」とイオが

ウインクしながら言うと今度は居並ぶ男女から大歓声が上がる。

 

「最後に略式だが、自分、イオ・フレミング少尉からジョブ・ジョン軍曹に階級章の授与を

行う。総員注目!」少年兵達が総員気をつけの姿勢を取り、リーゼントの女士官に促される

形でイオの前に出てきたジョブの肩に軍曹の階級章を付けながら「忙しい中すまなかったな。

政治的なショーが必要だったのさ…」と「お肌の触れ合い通信」で内幕を明かすイオ。

 

ジョブは(楽屋裏を見せてオレをオマエらの仲間に入れてくれるってか。ざけんな!)と内心で

毒づきながら、「パーティで余った料理包んで貰っていいスか?後輩に食わしてやりたいんで」と

愛想笑ししながら聞いた。イオは「残飯なんて精鋭中隊に失礼だよ。先程君達の母艦にノボトニー

大尉宛でソーセージやアイスバインを送っておいた。大尉はドイツ系だそうだから、喜んでくれる

と思う」とウィンクし、そつのない所を見せた。

 

(金持ちとはケンカするもんじゃねぇな)と思いながら、中隊の家族達が本物の肉にありつける

ならこの騎士叙勲じみた茶番も甘受しよう、と思うジョブだった。

 

ジョブはパーティで人生初といえるくらい女子にちやほやされた。小隊長から「腹一杯になったら

帰ってこい。外泊は許さんからな」というメールを貰い純潔を散らすことは叶わなかったが。

 




とうとう開戦直前、最後のクリスマスです。
レヴァンがゴップ家に同居することになりました。ゴップは「課題」としてモニカにレヴァンの好物を質問したのですが、答えられなかったので0ポイントです。

なんかヘイト集めそうなブライトさんですが、TVや劇場版の19歳の士官候補生、トニーたけざき氏曰く「コンパで酒のんでゲロ吐いてる年頃」なのであのテンパり方も分かるのですが、『THE ORIGIN』では25歳の中尉、しかも他に士官もいて相談できる状況だったのにテンパってますからね。「殴られもせんで一人前になった奴がいるか!」は本作では艦隊の風習、ということにしてます。彼には後々もツッコミ役として活躍してもらいます。

シャア専用装備の数々ですが、筆者はうっすいミリオタなのでおかしいところがあるかも知れません。「ガンダム二次創作」ということでご容赦ください。

ガルマとグフは二次創作だと避けて通れないネタなのでやってみました。一発ネタではなくMS-07グフは後の話にも登場する予定です。
『キャロル&チューズデイ』はタイトル思いついた時に出そうと決めました。

キラキラしたイオ少尉と笑いながら内心で毒づくジョブ・ジョン、という構図は今後も続けるつもりです。

次回はいよいよ『一週間戦争』です。果たしてコロニーの、月面の、地球の運命や如何に、お楽しみにしてくださると嬉しいです。
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