==== 月面 フォン・ブラウン市から約200kmの地点 U.C.0079 01.03 10:35
フォン・ブラウン攻略を目指す『第一混成旅団』の上空で戦闘が始まった。
『火力支援隊』、ミサイルフリゲート12隻が敵弾を察知したのか回避行動を始めたのだ。
旅団司令ノイエン・ビッター少将は自機に上空を見上げさせ、戦況を確認しようとした。
「一方的的ではないか…」12隻のフリゲートには数十発のミサイルが殺到し、フリゲートは
回避するか、短距離ミサイルかCIWSで迎撃しようとしていた。ミサイルはかなり大型の物
のようで迎撃し損ねたフリゲートは1発で船体がへし折れる。
「『アフリカ』から『マウザー』へ、直ちに連隊本部と合流せよ!敵は尋常ではない!」
フリゲート艦3隻がどこからか飛来した対艦ミサイルに「撃墜」された。既に3隻は骸を
月面に晒している。『アフリカ』は旅団、『マウザー』は「迫撃砲」フリゲート艦戦隊
の符丁である。
小型艦の機動性を生かし、かなり大きな回避機動を取ったフリゲートをミサイルは追随し、
横っ腹を食い破る。ビッターは視線を地上に戻すと、「散開!敵のミサイルが来る!」と号令し、
自身のザクをスラスター全開でジャンプさせた。
案の定、弾道軌道で何かが飛んでくる。ビッター機のセンサーは噴射炎を感知したので、ミサイル
かロケット弾のようだ。「何をしておるのだ!?」一個中隊9機が上空にザクマシンガンを向け
連射している。傍らの参謀機に「あのバカ者共はどこの隊か?」と詰問する。
参謀は「識別信号は反応が多すぎて判別困難ですが、マーキングから第2大隊第3中隊かと…」
「ええい!大隊長を呼び出せ!」「無線はだいぶ混信しておりますし、レーザーは相対位置が不明
で繋がりません」ビッターは直接足を止めている中隊のツノが生えた機体へレーザー通信を
入れた。「何をしておる!早く退避せんか!!」怒鳴りつけるが、
通信相手の若い将校は「我が隊は対空射撃を実施中!戦友の退避を援護します!」と返してきた。
ビッターは機体をジャンプさせながら腕に黄色い帯のあるザクから視線を外し、周囲を確認した。
(碌に命令も聞かん愚か者はあの者だけか。配下の兵こそ哀れよ…)
第2大隊第3中隊は10発を越える敵弾を空中で撃破したが、敵ミサイルが何かをばら撒き、その
何かは噴射炎を輝かせながら9機のザクに降り注ぐ。たちまち6機が炎を吹き上げながら斃れた。
ツノ付きの中隊長機は最後まで空に射撃していたが、右膝を子弾に砕かれ、前のめりに倒れた
ところを子弾が殺到し、爆発した。
「ミサイル攻撃」により、完全撃破されたのは例の中隊9機のみであったが、12機が脚を破損し、
進撃不可能、28機が頭や腕を破損、戦闘困難となった。ビッターは破損機に擱座機の搭乗員を
救助させると後方へ退避せた。
「オイゲン中佐!第3、第4大隊を掌握し、ここから200km下がれ。集合地点は送っておいた」
「は、ヨハネス・オイゲン中佐、第3、第4大隊を集合地点まで後退させます!」
「第1、第2大隊は我に続け!遺憾ながら作戦を見直す。この先、どんな奇術が出てくるか知れた
ものではない」生き残った4隻のフリゲートが下がってから後方と連絡が取れなくなった。
ビッターが焦れながら自機にジャンプを繰り返させていると、第101特科連隊から通信が入った。
連隊本部の重巡『リュッツオウ』からだ。
連隊長アンリ・シュレッサー准将自らモニターに出ている。
「ビッター閣下、マゼラアタック戦車は20両を失い、キュイAPCの被害は50両、サムソンMS
輸送車は60両、ザクタンカーMS輸送車は15両であります。
これらの被害は2度に渡る対地ミサイル攻撃で被ったものであります」沈痛な面持ちで
シュレッサーは後方隊の被害を報告した。
ビッターは「シュレッサー准将、すまぬが連絡艇、できれば私のザクごと貴艦に上がれるのを寄越
して欲しい。『リュッツオウ』からグラナダへ連絡を取りたい」と連隊長に「命令」した。
シュレッサーは「直ちに…」と答えるとモニターが消えた。
ビッターは第1大隊を率いるランス・ガーフィールド少佐を呼ぶと2個大隊の指揮を任せ、自分は
チベ級の寄越す大気圏突入艇と落ち合うべく、参謀一人を連れ後方にジャンプしていった。
機密性を鑑み『リュッツオウ』の提督室でビッターはシュレッサーから報告を受けることにした。
既に彼は来客用のソファーにもたれ掛かり、従卒の持ってきたコーヒーを飲んでいた。
「今日、初めて飲んだ温かいコーヒーだが、一際苦いな…」(これが敗北の味か…)
ビッターは人心地がつき改めて先程の敗北を噛み締めた。
シュレッサーは「当番兵が豆を煎り過ぎたようです」と微笑むと、すぐに真剣な顔になり、
「敵は弾薬、消耗品やパーツを搭載した輸送車を第一目標としていた節があります」と報告した。
ビッターは「都市攻略に不可欠な歩兵を乗せた車両でなく?」と聞き返した。
「ええ、一番後方に付いていた輸送車の車列がまずミサイル攻撃を受けました。生き残った
サムソンやザクタンカーの殆どは貨物を投棄しました。遺憾ながら旅団の兵站はグラナダから
輸送艦隊を呼び寄せねばままならなくなりましょう…」と報告した。
「空から後方を爆撃する、というのは戦の常道ではあるが、如何にして敵は輸送車を捕捉した
のであろう?」ビッターは当然の疑問を口にした。M粒子発見後の戦術常識を越えた事態に動揺を
隠せない。「軌道上に艦艇は確認できませんでした。本艦が敵ミサイル第一波を探知し、連隊に
回避行動を取らせつつ、同時に後方隊には警告を出したのですが。こちらを狙って来たミサイルは
全てチャフとレーザーを阻害するスモークを内蔵した目潰し弾でした。
連隊本部は前方の火力支援隊との連絡も付かず、目が潰された状態となりました…」
シュレッサーは敵の罠にまんまと陥り痛恨の極み、という顔になった。
「それで『壺』が飛び上がり火力支援隊に急報を告げたか…」ビッターは後を引き取り、その後
旅団を襲った事態についてシュレッサーに説明した。シュレッサーは麾下の8隻が散った状況を
聞かされ、「何故、敵はこちらにも実弾を撃ってこなかったのでしょう?」と口にした。
フリゲートを撃沈できる対艦ミサイルであれば、チベ級はともかくムサイ級もただでは済むまい。
「連邦の物量を鑑みれば弾頭の数が限られている、というのは考えにくいな」ビッターも
准将の疑問に同意した。不自然なことが多すぎる。
将官二人が首を捻っているところに公室のドアがノックされ、シュレッサーが入室を許可すると
通信士が電文を持ってきた。「101はグラナダに帰還せよ。『アフリカ』も万難を排し
グラナダへ転進せよ、とのことです」電文を読んだ准将はビッターに内容を伝えた。
「閣下は『リュッツオウ』でグラナダに一足先に帰還せよ、とのことです」追加してビッター
への帰還命令を伝える。
「すまんが、地上のオイゲン中佐に連絡したい、通信室を借りられるか?」と少将は旅団を
次席のオイゲンに任せることにした。
『リュッツオウ』と麾下の艦隊が反転した時、『ダブデ』からの連絡機が飛来した。
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==== 第48砲兵連隊 『アンマン・エアーズ ハイウェイ』路上 U.C.0079 01.03 10:45
「あんなので敵に当たるんでしょうかね…」ソニア中尉は砲手席から運転席のクリード大尉に
語りかけた。彼女が乗るRTX-65K 280mm自走砲、通称『ヘビー・ガンタンク』は肩の
155mm低圧砲に代えて100口径280mm砲1門を背中に背負った自走砲である。
両腕の機関砲は射撃時に車体を固定する
スペードはあるので、いかに主砲の反動が凄まじいかを物語っている。
280mm砲の最大射程は「地球上でも」旧世紀の『パリ砲』を凌駕する150kmを誇り、月面上
での最大射程は軍機として不詳とされてきた。
実際演習でも100kmを越える砲撃などしたことがない。月といえど、都市間にはハイウェイも
あれば鉱山もある。軌道上には民間船も行き交うし、流れ弾が来るから、と演習中それらを止める
訳にはいかなかった。
何よりそんな遠距離を観測し、諸元を割り出せるのは軌道上の艦艇くらいだし、わざわざ
重砲で間接砲撃するより巡洋艦なり、戦艦なりで軌道から直接攻撃すればいいはずだからだ。
「エアーズの方でドンパチ始まってないみたいだし、当たったんじゃないか」元戦車兵の
車長はバックモニターの映像や傍受した味方の通信内容からエアーズ市が戦闘に巻き込ま
れていないと推定、つまりは自分達の砲撃が敵を阻止したのだろうと判断していた。
彼らの所属する第48砲兵連隊はアジアに配置されていたのを昨年秋、連隊長となった
コジマ中佐に月に連れてこられ、3ヶ月間碌に実弾演習も行わずに今日の実戦と相成った。
真空での砲撃など初めてだし、1/6の重力など殆ど分からないことだらけだった。
なのに、コジマ中佐は「コンピューターシミュレーションは何万回とやっておる。
風が吹かん月面なら簡単なもんだろう」と嘯いていた。
ソニア中尉は諸元を見て(もしかして、軌道上の敵艦でも狙うのかしら?)と思ったが、
砲撃手席のモニターは150km先の月面に砲弾が到達することを示した。
アンマン市の連隊司令部から通信プローブを介して指示された座標に砲弾を発射すると、
着弾観測なしに大至急で再装填して2発目を放ち、射撃直後、アンマンに引き返す指示が来た。
黒猫を車体に描いたガンタンクの車内は正に狐につままれたような空気のままアンマンへの
帰路を全速力でひた走った。
彼女ら連隊の砲手たちが放った砲弾の「戦果」を聞いたのはアンマンに着いた後のことだった。
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======== 月面 フォン・ブラウン市から約200kmの地点 U.C.0079 01.03 11:40
「サイド2は無事だろうか…」シロー・アマダ少尉は月面上で故郷、サイド2の8バンチコロニー
『アイランド・イフィッシュ』を心配していた。 アームストロング基地を出撃する際に同郷の
幼馴染、ナカミゾ准尉に情報を掴み次第一報をくれ、と言って来たが下士官やシローのような
少尉がほぼリアルタイムにサイド2での戦況など分かるはずもないのがM粒子下の戦場である。
分からないので彼は気を揉んでいるのだ。
テリー・サンダースJr.軍曹は小隊長が気もそぞろなのを気にかけていたが、いかつい風貌とは
裏腹に「ちゃんと指揮してくださいよ!」とは言えない性格なので黙ってBM-02ベムを歩かせて
いた。小隊の最年少、アマダ少尉と同じサイド2出身のミケル・ニノリッチ伍長が「そんなこと
心配してもしょうがないじゃないですかー、隊長。僕だってB・Bのことが心配で心配で…」と
こちらも気もそぞろな口調で上官に不平を言った。
小隊残りの一人、ドゥーエ・イスナーン曹長は「あぁ、戦闘にならなそうでよかったぁ…」と
戦意ゼロで安堵のため息をついている。
テリーが「敵の、ザクの残骸があります!数は…9!」と報告するとアマダ少尉はやっと士官
らしいところを見せ「小隊全機、トラップに注意しながら接近、残骸を回収する!」と命じた。
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====地球、マイアミ U.C.0079 01.03 11:40
エレドア・マシスはマイアミの別荘で新年を過ごしていた。昨晩はグルーピー数十人を交えて
の乱痴気騒ぎだった。酒の飲みすぎ、草の吸い過ぎで頭がぼ~っとしている。
「売れてよかったわ~、徴兵されて宇宙とかぜってームリだかんな…」とマリファナを口に咥え
独り言を漏らす。極度の閉所恐怖症の彼には「宇宙軍」なぞ、地獄の同義語だった。
エレドアは2年前に『
ここマイアミに別荘を持てる身分になった。
『P』は作詞、作曲しているのになぜか詞の権利とプロデュース料だけを取る、と言い本来なら
歌唱印税だけしか入らないエレドアに作曲者の権利をくれた。デビュー曲がミリオンを越える
DL数を稼ぎ、大勢のミュージシャンに『P』とコンビで曲を提供した。
名前を貸しただけのエレドアに膨大な財産を与えてくれた『P』に感謝こそすれ、悪く言えた義理
でないのは判るが、全くの打ち合わせなしでいつもいきなり曲と詞をもってきて「この曲は誰々
に歌わせる」とだけ告げる『P』を気味悪く思うエレドアだった。
さっきも『P』は新曲の入ったチップを持参してきた。ネットでは盗聴の危険がある、といつも
エレドアの所に直接チップを持ってくるのだ。
「へぇ~、新曲は『INVOKE』っていうのかぁ」とエレドアが話しかけても碌に返事をせず謎の男
は去って行った。「ま、いいけどさ…」エレドアはマリファナを吹かしながら恩人の正体について
詮索するのを止めた。(モビルなんちゃら、とかいうコミックかアニメのロボに乗せられるより
余程マシさ…)紫煙をくゆらせながら改めて(売れてよかったわ~)と思うエレドアだった。
今日もエレドアに「新曲」を渡してきた。毎度毎度他人様が作った曲をさも自分が作ったかのよう
にエレドアに渡し、作詞家兼『プロデューサー』として大金を頂くのは気が引けた。
だが、この宇宙世紀にいきなり転生して来てここでも同じ売れないミュージシャンだった彼には
前世の記憶を元にガンダムの劇中歌を再現し、パクるしか生きる術が無かった。
このままほぼ住所不定無職のままなら徴兵され前線で死ぬことになる。それだけは避けたかった。
幸い『08小隊』のエレドア・マシスとひょんなことから知り合い、エレドアの方もどうしても売れ
たい事情があり、彼にパクった曲を歌わせ、作曲家としてクレジットさせた。
自分は作詞の権利とプロデュース料だけを取ったが、パクった曲はミリオンとなり、莫大な印税が
彼の口座に振り込まれた。彼はまずその金で自分の身の安全を買った。
「ま、あっちで精々再生数100かそこらの『歌ってみた』動画作るよりずっといい暮らしできて
るしな」と『プロデューサー』も深く考えるのを止めた。
604MS戦闘団『セモベンテ』の母艦『ボイジャー』の格納庫でコックピットから曲を流しっぱなし
のライラ・ミラ・ライラ准尉にフィリップ・ヒューズ少尉が「ライラちゃ~ん、またいつもの
『Men of Destiny』?でも君ったら女の子じゃな~い~?」とからかった。
「『Men』ってのは『人間』って意味で性別とか関係ないですから」とライラが反論すると
クレア・キルマー中尉が「よしなさいよ、ライラ。ヒューズのバカ相手にしても酸素の無駄よ」
と可愛い後輩を窘めた。「ですね、ありがとうございます中尉」とすました顔でフィリップを
無視し、クレアと連れ立ってシャワールームへ急ぐライラに「ちょっとは相手してくれても
い~いじゃんよぉ~」とフィリップが情けない声を出した。サマナ・フュリス准尉はルーチン
ワークようなやり取りに呆れて肩を竦め、ユウ・カジマ大尉は少しだけ微笑んだ。
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==== グラナダ 『突撃機動軍臨時司令部』 U.C.0079 01.03 13:00
「ニュータイプだ」ユーリ・ケラーネ准将の報告を受け、ソンネン少佐が撮影した映像を見た
キシリア・ザビ突撃機動軍総司令はそう断言した。
「は?」眼前の上官にして自分の主君が言い出した突拍子もない結論にケラーネは思わずいささか
間の抜けた反応を返した。「『ニュータイプ』とはジオン・ダイクンが提唱した理念上の存在なの
ではないのですか?かのニーチェが唱えた『超人』のような」と見た目の割にインテリな所を
見せる准将にキシリアは「ジオンが唱えた『ニュータイプ』は確かに理念上の存在だが、超能力
じみた現象を引き起こせる『新人類』は実在する。最も現在確認されているその種の人間は我が国
ではなく、地球や月生まれなのだがな…」と『ニュータイプ』の実在を側近の将官に明かした。
「未確認情報だが、連邦では人為的な手段、手術や投薬、心理操作や訓練でNT能力を
発揮する人間兵器を開発しているという。お前達を叩いたのはその種の兵器かもしれぬ」
「だとすれば、アレは一回限りの奇策などではなく何度でも同じことが繰り返される、と?」
「そうだな。このグラナダとて危うい。敵はこちらの探知範囲の外から一方的に攻撃できる
のだからな。そなたの『アジア』旅団を出城とするのは良い策であった。褒めてつかわす」
「ははっ!ありがたき幸せ、ではありますが…」ケラーネは頭を下げた後、今後の方針を伺う
ような顔でキシリアを下から覗く。
「うむ、『あちら側』を担当するビッターも同じような目に遭ったそうだ。あちらはミサイル
だったようだが。『アフリカ』もグラナダに戻す。対策を講じんことには軍を動かせんな。
それと箝口令を敷く。グラナダで反乱が起きかねんし、なにより総帥府の知る所となれば、
突撃機動軍の組織そのものが危うい」キシリアは第一段階の『ディアーナ』作戦の完遂を
もって月攻略の緒戦は打ち切ることを宣言した。
「しかし、鉱山都市のアンマンと近傍のエアーズにはマスドライバーがあります。本国が攻撃
に晒されるのでは?」
ケラーネは2個『特科連隊』とグラナダの艦艇の火力をもってマスドライバー破壊を献策したが、
「必要ない。連邦が報復に質量弾攻撃を行えばソロモンとア・バオア・クーの戦力で迎撃すれば
よい。特にア・バオア・クーには無傷の総統親衛隊がいる。彼奴らにも働いて貰おう」
と返した。未だ『ブリティッシュ』作戦の目標サイド2を攻めているはずの艦隊から通信はない
が、敵がNTを実戦投入してくれば到底無事では済むまい。
(なにが『ディアーナ』だ!あの爺共私に恥をかかせよって!)キリシアは内心で本国に置いて
来た老臣たちに八つ当たりした。
(『フラナガン機関』にムチをくれてNTの戦力化を進めねばならんな…)彼女は側近にも秘密の
「切り札」を場に出す準備を進めることにした。
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==== 指揮管制艦『トリローチャナ』CIC U.C.0079 01.03 13:00
旧マゼラン級の艦橋を大型化させ、3つの大型艦橋を備える『トリローチャナ』はフォン・ブラ
ウン市のベイ・ブロックに入港した。指揮下の8隻のミサイルフリゲートも同時に入港している。
艦名は『3つの眼を持つ者』シヴァ神の異名である。
「もう、『リミッター』を切っても安心だよ」リー・ホワン少佐は傍らのレヴァン・フウ特務少尉
にサイコ・リミッターを切り、能力を発揮しても「死者に取り殺される」恐れは少ないと判断し、
許可を出した。レヴァンは瞑目し、手を合わている。戦死者の霊を弔っているのだろうか。
リーは邪魔をしては悪い、とばかりに指揮官席に座るコジマ中佐を声をかけた。
「いかがでしたか?『新しい戦争』は」コジマは両手でお手上げのポーズを取り、
「一気に私の若い頃に戻ったようですな。まぁ、着弾観測もせずに効力射をする、なんて
のは当時でもやりませんでしたが」統合参謀本部に席を置く少佐に丁寧な口調で話す。
彼はエアコンの風が嫌いでジャブローを避けていたが、ジオンとの関係が悪化の一途を
たどる中、自らの戦術構想を試すべく伝手を頼ってゴップ大将にプレゼンテーションを行った。
彼の構想はミノフスキー博士の亡命、その欺瞞工作の一環で月面のスミス海で実施された。
だが、800発以上の砲弾を撃ち込んだにも関わらず、5機のジオンMSはこともなげに全弾
回避してのけた。弾着までのタイムラグがある以上、尋常な観測方法では間接砲撃でジオン
の侵攻を止めることは不可能であった。重力と地形の効果で機動が制限される地球上でなら
可能だろうが、戦前から本土決戦を想定した戦術など採用される見込みはないだろう。
コジマが観測方法で悩んでいると、ゴップ大将の情報幕僚、リー少佐から連絡を受けた。
彼の悩みを解消する手段がある、というのだ。そして、レヴァン・フウ特務少尉を紹介
され、リーと学者のような風貌の男が特務少尉の「能力」を生かして開発した観測・管制
システムを見せられた。
コジマはその「システム」に飛びついた。自らが指揮する第48砲兵連隊、36両の『ヘビー・
ガンタンク』の真価を発揮する方法が見つかったからだ。コジマはこのまま実戦となれば、
レーザーの通信可能範囲までガンタンクを前進させ、観測班が前線で着弾観測して砲撃、
というガンキャノンの方が向いてそうな運用を考えていたので正しく渡りに船、だったのだ。
現在彼は「システム」の一部にして指揮管制を担当する『トリローチャナ』艦上にあった。
今日の10:00時にはアンマン近郊のマスドライバーに据えられた艦から「システム」が
48連隊に砲撃目標を指示するのを見て、着弾観測も行わない内にマスドライバーから
射出され、ブースターを全開にした指揮管制艦は弾道軌道で月のこちら側まで30分弱で
到着した。コジマはその間ずっとCICに設けられたシートに座り、瞑想するかのように目を
つぶり合掌する特務少尉と、コンソールを操作するリー少佐達をぼんやりと見ていた。
「システム」の全容を掴もうと注目していれば訪れるであろう後難が恐ろしかったからだ。
「システム」が探知した2つに分かれた敵集団、その後方の敵に向けフォン・ブラウンの
すぐ上空に滞空していたレパント級ミサイルフリゲート、シヴァ神の眷属から名付けられた
8隻に目標を指示し、VLSから発射された『トライデント』弾道ミサイルにより、これを撃破、
ぞの頭上にいる艦隊にスモーク弾頭のトライデントを発射し、センサーと通信機能を殺し
無力化した。
敵の主力と思われる集団にもトライデントを発射、合計96発の弾道ミサイルはそれぞれ
12発の子弾、RIM-075対MSミサイルを流用した物を吐き出し1,000を越える弾頭が
100機を越えると推定される敵集団に襲いかかり、およそ10機を撃墜、40機近くを損傷
させ、敵集団はフォン・ブラウンから遠ざかり始めた。
「システム」から目標を指示され、アームストロング基地から発射された対艦ミサイルは、
敵集団上空のフリゲート艦8隻を撃沈した。
堂々たる大戦果だ。この作戦を「指揮したことになっている」コジマは勲章を授けられ、
昇進するだろう。実のところ、今日は何もしていなかった。事前の打ち合わせ、48連隊や
アームストロング基地やアンマンのミサイル部隊との調整こそやったが、肝心の「システム」
の全容は軍機であり、そこのところを胡麻化して話すのは骨が折れた。
目の前の彼と同じアジア系の幕僚は「それこそが重要なのですよ。戦というものはやる前に
8割方勝敗は決まっているものなのですから」とコジマの「調整力」を褒め称えるが、正直
そんなおだてに乗るほどコジマは若くなかった。実のところ数々の会議はコジマが指揮を取って
いる、と錯覚させるものだったのだろう。
(とんだ道化だが、勲章や昇進はその「口止め料」なのだろうな…)戦死せずにこの戦争を
切り抜けられれば准将にバンザイ昇進して退役できるだろう。M粒子の発見このかた傍流も
いいところの砲兵出身の将校としては破格の出世と言えるだろう。
「しかし、今日の『戦果』についてカバーストーリーはあるのでしょうかな?
今は手の内は明かせんのでしょう?キャストとしては台本をなるべく早く頂きたいのですよ」
コジマはリー少佐にせめてもの皮肉を言ったのだが、リーは微笑みながら「新型の『電子式』
観測機器と専用AIを組み合わせた新型偵察ポッドのお陰、ということになるでしょう。
中佐には近日中に『仕様』をお送りしますが、月面の関係各位への説明はよしなに…」と台本
の一端を明かしてくれた。
(確かに『新型』だろうさ…)目の前で瞑目して合掌している剃髪した青年将校、非公式
アプリにも一切情報がアップされない男。軍内で存在が噂される「
「ニュータイプ」「人間兵器」の類なのだろう。
中佐は冗談めかして「あまりしつこく勝利の秘訣を聞かれたら『ブッダが枕元に現れ、
お告げをしてくれた』とでもいいますかな」と言うと剃髪の青年は突然目を見開き、
「それだけは止めてください」と中佐に訴えた。
日系である中佐は(仏教徒だったのか…)と驚くと共に「あまりいい冗談とは言えません
でしたな。特務少尉も忘れてくれるとありがたいのですが…」と不用意な発言を謝罪した。
彼の生家には祖母が買った「ブツダン」が今もあり、年老いた母が毎日「オセンコー」を
上げているだろう。月に行った息子が生きて帰ってくるのを祖父と祖母の霊にお祈りしながら。
フウ特務少尉は合掌し、頭を下げたので中佐の謝罪は受け入れられたようだ。
(あやうく地雷を踏み抜くところだった…)中佐は背中に冷たいものが流れるのを感じた。
リー少佐は微笑んでいるが、ここ数日の付き合いで彼の微笑みが信用できないのは知っている
コジマ中佐であった。
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==== サイド2・サイド3航路上 U.C.0079 01.03 11:35
『ダックビル306』が「最優先目標」を発見してから既に15分が経過していた。
後席の偵察員が「軽巡からMSが発進しました!」とリュウ・ホセイ軍曹に報告した。
(どうする?ずらかるか、既に座標は送っているしな…)接触を続けるか、中断するかを
考えていると通信機が鳴り、「『ダックビル306』こちら『クルセイダーズ』、助っ人に
来たぞ!」とレーザー通信が入った。第2艦隊所属の402戦闘団『クルセイダーズ』が202
飛行隊『ラプターズ』に運搬されて救援に来てくれた。
「ふぅ、ずらかってたらショーを見逃すところだったな、メガネ。しかし、第2艦隊がこんな
所まで進出してたとはなぁ、ルウムはそんなに早くケリが着いたのかねぇ」とリュウは安堵の
ため息を漏らす。後席の「メガネ」は「凄い、MS4機がかりでザクを『解体』してますよ」と
望遠鏡が捉えた映像を前席のモニターに映した。BM-02の放つビームライフルでザクの頭や
両腕、両足を撃ち抜いている。軽巡は特徴的な機関部と船体を繋ぐブームを破壊され、航行
不能に陥った。敵MS 3機は瞬く間に行動不能になり、ムサイから這い出たザクが武装を捨て
手を上げた。投降を示す発光信号を上げている。ツノが生えているから隊長機だろう。
「最優先目標」である輸送艦にはベムがビームライフルを艦橋に突き付け投降させたようだ。
「402は24機ですね。ワルキューレ1機につきベム1機を運んできたようです。急いで来て
くれたんですねぇ」と「メガネ」が実況してくれた。輸送艦はザクを積んでいなかったようで、
軽巡1隻が詰めるザク6機ではベム24機、それも精鋭の402戦闘団にはかなうまい。
「しかし、ここまで大掛かりに鹵獲しようだなんて、あの輸送艦何積んでたんだろうな?」
リュウ・ホセイは偵察員に疑問を投げかけたが、彼は「コロニーを占領する歩兵でも積んで
たんじゃないでしょうか」と答えたが、リュウは(単艦で運べる人数じゃコロニー1基占領
するのが精々だよなぁ)と合点がいかなかった。
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今日は大勢の人が亡くなったので、おちゃらけた挨拶は無しです。ゴップです。
『宇宙世紀で一番長い日』U.C.0079 01.03は13時間あまりが経過し、どうやら我が軍はジオン軍
がもたらす『はずだった』大虐殺と大破壊を防いだようだ。特にサイド2に戦力を集中してきた
宇宙攻撃軍はソロモン要塞への帰路に着いたようだ。連合艦隊も損害が多く、レビル司令長官は
「遺憾ながら追撃は断念いたしました」と報告してくれたが、私は「長官はサイド2の市民の生命
と財産、そして『コロニー落とし』が為された時の地球市民の生命と財産を防衛したのです。
次に直接お会いするのは叙勲と元帥への昇進式でしょうな」とレビル大将を持ち上げに持ち
上げた。そう、彼はもっと勝ち誇って良いのだ。55億もの人命を救ったのだから。人類史に残る
空前の大英雄だ。
レビル司令長官の通信と相前後して第2艦隊のティアンム提督から「最優先目標」を確保した、
という報告が入った。やった!ザビ家、ギレン・ザビの『戦争犯罪』の『物証』と『証人』を
手に入れたぞ!大々的に宣伝戦をやってやるぞ、待ってろよギレン。
私はフランシス・マーセナス議員にレーザー回線を繋ぎ、「『
宜しくお願いします」とだけ伝えた。ナチス・ドイツで絶滅収容所を運営、青酸ガスの
ガス栓を捻っていた組織がGGガスを運搬していた部隊のコードネームだった。
「政府と議会は任せてください。メディア対策はそちらのスタッフと協議のうえ、ということで」
と、頼もしい返事が帰ってくる。
第3艦隊のワイアット中将は「やはりこっちはハズレでしたよ。ソロモン攻略戦ではもっといい
配置に付けて欲しいですなぁ。なにせ、我が艦隊はほぼ無傷ですので」とドヤって来たが、今日は
全部赦せる気分なので私は微笑みながら「次は『マクロス』の出番があるだろうね。なにせ的が
でかい」と告げるとワイアットは「推進剤にもっと余裕があれば、要塞砲の射程ギリギリまで接近
してベイブロックの位置を確認できたのですがねぇ」ともっと補給を寄越せ、と言ってきた。
私は「月からそちらに送る手筈を取っている。次は思いっきり吹かして戦ってくれ」と彼を焚き
付けた。
第4艦隊のエルラン中将だけは深刻な表情で「『赤い彗星』まさに恐るべしです。
戦艦5隻、巡洋艦2隻、駆逐艦1隻が撃沈、MSも1個中隊が仕留められました。BM-02すら3機
落とされました。さらに憂慮すべきはシャアが随伴機を連れていたことです。2機のEMS-04は
巧みなコンビネーションでBM-01を3機、BM-02を1機撃墜しました。巡洋艦1隻と駆逐艦2隻
をやつらに食われました。『V作戦』やはりスピードアップすべきでしょう」と伝えてきた。
やはり、そうなったか。どうもシャアの乗るザクはかなり「スペシャル」な様で、戦闘データ
は既にサイド7の『V作戦R&Dセンター』に送られ解析されるだろうが、訓練を積んでレベル
アップしているはずのアムロ・レイは立ち向かえるだろうか? 一度宇宙に上がって彼の実力
を見てみたい、と思った。実際に彼を指揮するのはチャーリー少佐なんだけどね。指揮官を
激励するというか、そういう意味も含めて、ですよ。戦時ですからなるべく「現場」を見て
おかないとアレな訳ですよ。兎に角、サイド7の重要性はますます高まった訳で、私は至急
ルナツーのワッケイン少将に地球から増援を送る手筈を整え、サイド7にMS隊と艦艇を送る
よう命令書を書いた。
待ちに待った報告、リー少佐からのそれが入ったのは一番後、14:00時だった。
「月面防衛に成功しました。敵の戦力は2個旅団と推定されます。我が方の被害は突出した
エアーズ市の市民軍のみです」と報告したリーに私は(何か忘れてない?)という顔をした。
彼は微笑むと「レヴァン・フウ特務少尉は大戦果を上げました。彼の観測無しではとても
こんなキルレシオは無理だったでしょうね。あぁ、彼は無事です。身体も精神も、です」と
報告した。私は心底ほっとした顔で「それを最初に言って欲しかったなぁ…」とリーにこぼした。
「だと、思っていましたが、自分は勿体付ける性質なもので」とウインクするリー君に彼も
プレッシャーに耐えながら任務に邁進していたことを気付かされた。
戦果と被害をとりあえず取り纏めた報告書をウォーレン大佐が持ってきた。
私は反撃作戦の詳細を詰めるべく参謀本部の主だった幕僚を招集した。
この日の18:00時、地球連邦軍統合参謀本部は『ペイ・バック作戦』の発動を宣言した。
23話をお送りしました。月面での「魔術」のタネを一部公開しましたが、詳しくは次回以降に徐々に書いていこうと思っています。
タイトルは30年くらい前の曲のタイトルを捻りました。前回の「ゾンネン少佐」と同じく検索するまで「月の裏『側』で会いましょう」だと思ってたんですよねw
前回の反省を踏まえ検索してよかったです。
「サンダーボルト」の登場するガンタンク ペアが登場しましたが、クリード大尉のキャラを肉付けしている外伝「男と女」をWEBでチェックしていなかったので、早く単行本に収録されないかなぁと思ってます。
脳内のロラン・セアック君が「月の女王様はディアナ様ただお一人ですよ」と鉱山で鍛えた筋肉で作者を威嚇してきたのでキシリア少将にはグラナダだけで我慢して貰うことにしました。
次回は連邦の反撃『ペイ・バック作戦』と緒戦を潜り抜けた各キャラを追ってみる予定です。お楽しみに。