戦闘シーンはありますが、実戦ではありません。
ララァ・スンはその夜、夢を見た。蓮の花の上に僧形の男が立っていた。
後光を背負いながら僧形の男は「少女よ、私の話を聞くのだ…」と彼女に話しかけてきた。
後光のせいか、ララァからは男の顔が見えなかったが、身なりから高貴な人物であることが
分かった。
「なんなりとおっしゃってください。いと尊き方…」ララァは跪いて男に語りかけた。
「では、私の言うことを聞くのだ、少女よ。このままではお前とあの男は不運に見舞われる。
そして男は世の人々を憎むようになり、大罪を侵す。お前はそれを防がねばならない」
「あの男とは…」聞き返す間もなくララァの意識は闇に落ちた。
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==== 月面 グラナダから200km地点の野戦陣地「出城」
「貴様も演習相手がうちの独立MS中隊ばかりじゃ相手に不足だろう。どうだ?俺が『アフリカ』
旅団から相手を借りてくるから貴様の大隊と対抗演習と洒落込もうじゃないか」ケラーネ旅団長
は悪ガキの様な表情を浮かべソンネン少佐に旅団対抗演習、その代表になれ、と持ちかけた。
(土木工事しか経験の無いウチの連中ではビッター少将麾下の精鋭に敵うべくもないが、本物の
戦闘で負けるより余程いい…)ソンネンはこの話を受けることにした。
「ええ、お願いします。ただし、演習場はウチが用意した所にさせて貰います」勿論タダで負ける
つもりはない。この一ヶ月の経験を生かして掩体壕を多数用意し、集中射と陣地転換でMS部隊
相手に戦うつもりだ。デメジエール・ソンネンは再び立ち上がろうとしていた。
==== 「出城」から50km地点
「旅団対抗演習」に向け戦車第一大隊は訓練と陣地構築に明け暮れていた。
マゼラアタックを収納する掩体壕を掘り、訓練では集中射と素早い陣地転換を行う機動を
何度もMSとギガンを標的に行い、接敵した途端に壊滅しない程度の練度になった、とソンネン
少佐は自己評価を下した。
「だが、距離があるうちは良いが、距離を詰められるとMSにはスラスタージャンプがある…」
重力の弱い月面ではMSはスラスターを吹かしVTOL攻撃機並の機動が可能である。
戦車が上からの攻撃に脆弱なのは月面でも変わらない。
「マゼラトップを迎撃に使うしか無いでしょう」ソンネンの傍らに立つデル少尉がとりあえず
の対策を大隊長に示すが、「MSに付き合って飛んだらトップの推進材がなぁ…」と
ソンネンは余り乗り気ではないようだ。「そうですなぁ。MSみたいな増加タンクが使えれば
いいんですが」デルも訓練中、自分のザクを追いかけて推進材を使い果たしたマゼラ・トップを
何度も見ており、砲塔がMSの迎撃には使えないことは分かっていた。
「ひとつ、思いつきがあるんだが少尉はどう思う?」ソンネンは再招集組の軍曹から少尉に野戦
任官させたデルにアイデアを開帳した。初戦で大隊幕僚の多くを失ったソンネンには叩き上げの
アドバイスは得難いものだった。また、デルは若い兵の面倒をよく見てくれており、隊内の人望
を集めていた。大隊の士気がなんとか保たれている功労者といってもいい働きを見せている。
デルも「グラナダ重工次第ですが、大気の中を飛ぶ航空機じゃありませんから、なんとかなるん
じゃないでしょうか」と同意した。
その日、グラナダ重工に旅団司令部を通じてある発注がなされた。
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==== エアーズ市
ブレイブ・コッド少佐が指揮する「906混成戦闘団」は「906MS戦闘団」に改変され、
『ニュー・ディサイズ』という二つ名を得て、再編成に取り掛かっていた。
駐屯地もエアーズ市内から近隣のクレーターに設営された基地へと引っ越していた。
新基地はアポロ12号で船長を務めたピート・コンラッドにちなんで「コンラッド基地」と
命名された。MS格納庫が掩体となっている本格的な基地である。
なにせこないだまで団司令部が市内の中学校に間借りしていたのだから随分と軍隊らしく
なったと言えた。
団長副官はブレイブと付き合いの長い叩き上げ少尉、ゲンナジー・イノレフが就任した。
物腰が柔らかく世慣れたベテラン士官であり、ブレイブをよく補佐するものと期待される。
ブレイブの後任中隊長と異動を志願したドレイク・パーシュレイ大尉の後任には
ウッズ・オフショー大尉とストール・マニングス中尉がアームストロング基地から異動してきた。
オフショー大尉は連邦高官を輩出している名家の一員だが本人曰く「婿養子」だそうで、
ウッズという名前も元は「ジョシュア」というのだそうだ。嫡男である義弟も「ジョシュア」
なので旧姓のウッズをファーストネームにしたのだという。
マニングスはトッシュ・クレイの士官学校同期であり、気心の知れた相手だという。
ブレイブ・コッドは真新しいオフィスで書類と格闘していた。部隊の再編成には大量の
書類が動くうえに新基地への移動も重なり決裁せねばならない書類は彼にとっては「膨大」
だった。前任のバード中佐なら鼻歌交じりで片付けるのだろうな、とブレイブは思いながら
タブレットに表示される書類にサインをする作業を朝から続けていた。
ドアがノックされ、ブレイブが入室を許可すると基地司令コジマ大佐が入ってきた。
「どうだね?書類の方は?」と進捗を尋ねながらマグカップを両手に持っている。
「大佐、仰っていただければ参ったのですが」とブレイブは恐縮している。
「いやいや、それには及ばんよ、団長と話してくてな。飲むかね?」とマグカップを差し出す
コジマ。「頂きます」ブレイブはカップを受け取り濃い目に入れたコーヒーをぐい、と飲んだ。
「この調子じゃ書類仕事にだいぶ苦労しとるようだな?」と大佐。新任少佐は「はい、
中隊長の頃とは桁違いに多いので苦労しております」と正直に弱音を吐いた。
「いちいち全部読んどったら日が暮れちまうぞ。読み飛ばすつもりでいいんだ。
君の幕僚達が作った書類だ、彼らを信用すべきだな」とコジマ大佐は執務のコツをブレイブに
アドバイスする。
コジマ大佐はコンラッド基地のみならず、906とエルドシュ少佐が率いる108機械化混成大隊、
さらにアンマンに置かれた第48砲兵連隊と119機械化混成大隊からなる『月方面軍第1遠征旅団
(通称:コジマ旅団)』の司令官である。処理せねばならない書類の量はブレイブには想像も
できない量のはずだが、コジマは午前中には書類仕事を済ませ基地内をぶらぶら歩き回り、
部隊の各員、下士官や兵卒とも世間話をしている。彼なりの部隊掌握術らしい。
「それより、エアーズの州兵のことだが…」コジマは懸案のエアーズ市防衛隊について
一番理解しているブレイブの
前市長の「暴走」で月面防衛戦唯一の戦死者を出した防衛隊に向ける連邦軍の視線は冷たい。
さらにローティーンまで動員した「ホワイトフォース」大隊は即時解隊すべし、という声が
大きかったが、なまじ戦果を上げエアーズ市民の誇りとなってしまった同隊の解散に反対する
声が市民の中には大きく、なにより隊員の子供たちが反対していた。
「自分達の実力を思い知れば納得するんじゃないか」というトッシュ・クレイ大尉の発案で
ブレイブの率いる中隊は共同演習でホワイトフォース大隊に圧勝したのだが、それでも彼らは
へこたれず、解隊に応じるどころか再度の対戦を挑んできた。
もう3度も演習で叩きのめしているのだが、ナイアス・ヒューによれば隊の士気未だ旺盛との
ことでブレイブも頭が痛かった。
「無理やり解隊してMSでどっかに立て篭もられでもしたらなぁ、昔そういう映画あったろ?
幼年学校閉めるって言ったら生徒達が銃持って立て籠もった、ってのが」コジマは子供達の
武装蜂起すらあり得る、と言いブレイブをぎょっとさせた。
「い、いやそんな大それたことが出来るような子達では…」おろおろするブレイブに苦笑
しながら「あくまで最悪の事態だよ。あくまで、な。ただそうならん対策を用意するのも
彼らを戦場に駆り出した大人の責任ってもんだろう?」とコジマ。
ブレイブは上官の前だというのに目を閉じて腕を組み「そうですなぁ、なんとかせんと…」
と考え込んでいる。
コジマも考え込んでいたが、ふと何かに気づいた様に「そういえば、108にエアーズ出身の
女少尉がいたな。なんでも市始まって以来初の女将校だそうだ。彼女にあの子らの面倒見さ
せてみるか」とアイデアを捻り出した。
コジマのいうところの女少尉、マルセラ・スペンサー少尉はエアーズ市初の女性将校である。
男尊女卑の気風が残るエアーズで士官学校に進もう、という女子学生は少なく、更に士官学校
の入試をパスし、卒業する気概と知力と体力を持っていたのは「今のところ」彼女だけだった。
「そういえば、彼らはジオンの女搭乗員にいたく驚いておりました。ここの市民が
『人類の半分は女』というのを理解してない、とは思いたくは無いんですが…」ブレイブ自身、
教導隊でライラ・ミラ・ライラという天才パイロットに出会わなければ女性搭乗員に偏見を
持ったままだろう、ということには気づいていない。
「まぁ、ここの連中が『女に軍務など、ましてや指揮などできっこない』と思ってるのは間違い
ないだろうな。その
嫌気が差すんじゃないかね」コジマは悪い顔になって企みを明かした。
ブレイブも(あの子らが前線に出るよりマシだ)と思っているので「女教官でパワハラ大作戦」
に異論は唱えなかった。
マルセラ・スペンサー少尉の苦闘は本人の預かり知らない所で決定されたのである。
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次の夜もララァは夢を見た。すると、あの貴人がまた現れ「少女よ、聞くのだ。このままそこに
いればお前は戦で死に、あの男は悪しき因果に囚われ大量虐殺を目論む。大勢が死ぬだろう。
お前の身内も死ぬことになるやもしれぬ…」と予言したのだ。
貴人の言うことにララァは大層驚いた。戦死するのは戦場に行くのだから覚悟はしていた。
だが、「あの人」自分を救い出してくれた恩人がそのせいで虐殺を行う大罪人になる、というのは
捨て置けない。それで故郷に残した家族が犠牲になると言われれば尚更であった。
「いと尊き人、私はどうすれば良いのでしょう…」ララァは手を合わせて祈るようなしぐさで
彼女を待つ運命から逃れる方法を尋ねた。
「よかろう、よく聞け。お前は…せねばならぬ…」
そこでララァの意識は闇に落ちた。
「これでいいのでしょうか…」サイド6領海近くを航行する指揮管制艦『トリローチャナ』に
設けられた「オペレーション ルーム」でレヴァン・フウはカメラの向こうに立つ恰幅のいい士官に
話しかけた。
レヴァンが話しかけた士官はこの作戦の司令官、統合幕僚本部情報部のオクスナー・クリフ准将で
ある。「良かったよ、フウ大尉。あれで彼女の心をがっちり掴んだ。明日の夜まで彼女は君が
夢に現れるのを祈るような思いで待つだろうな」クリフは笑みを浮かべた。
「しかし、この様な格好をする必要があるのでしょうか?」レヴァンはシルクの袈裟など豪奢な
僧服を見ながら、衣装と作戦の関係を質す。
するとクリフの傍らに立つ眼鏡をかけた小男が「そりゃ、君、連邦軍の軍服着てたらかわいこ
ちゃんが怖がるだろ。その格好なら偉いお坊さんに見えるから彼女も話を聞いてくれる訳さ」
と人懐っこい笑顔を浮かべサムズアップした。
「私も軍服でララァ嬢の夢枕に立つつもりはなかったのですが、なにかCGかホロでも見せて
いただければ、それでいいと思うのですが…」レヴァンはやはり得心がいかない様だ。
「より、正確にイメージする為に必要だったのだよ。君を照らす照明も背景のブルーバック
と合成するCGもそうだ。君に蓮の花に立ってる自分の姿を見せて細部のディテールまで頭に
思い浮かべて貰うのが目的なんだ。この作戦では今後もその衣装で行くから食事の時は着替えて
くれ給えよ」とクリフ。
「イメージですか…。確かに全て想像では細部が上手く再現できかったかもしれません」
とレヴァン。
「准将閣下、ひとつ質問してもよろしいでしょうか?」ダグザ少尉が許可を求めた。
クリフの許可を得てダグザは「なぜ、何度も対象に接触するのでしょうか?
対象を絞ったサイコウェーブ通信といえど、通信ですから傍受の危険があります。特に対象の
所在がNTを研究している施設なだけに他のNTにレヴァン大尉のメッセージを傍受される危険性は
無視できない、と愚考します」ダグザは思念による通信でも傍受されるリスクがあるのを指摘し、
通信を数回に分けて行う作戦について疑問を呈した。
クリフは「少尉の指摘はもっともだ。Dr.アルヴィースによればサイコウェーブが傍受される
危険性は低いそうだが、ゼロリスクとはいかんだろう。だが、リスクを冒してでも複数回
対象にメッセージを送る必要があるのだよ」と、講義の様な口調で話し始めた。
「まずは、対象、ララァ・スンに特務大尉を信用させる効果だ。なにせかなり大胆な要求を彼女に
することになるから大尉には何度も夢枕に立って貰って馴染んで貰う必要がある。
次に対象に考えさせる時間が必要だった。大尉の予言に対する反応で、対象が自分の生命より、
シャア・アズナブルのことを気にかけていることが分かった。自分より大事なシャアが大尉の言う
『悪しき因果』に囚われる、という予言の中身を彼女なりに考え、限られた情報を材料に頭の中で
怪物を作り上げるだろう。本作戦の成否は大尉の言うことがその怪物から逃れる唯一の術、と
考えるように対象の思考を誘導できるかにかかっている。君の衣装もCGも情報を小出しにする
のもその手段のひとつだ。ついでに、一回あたりの通信時間が減れば傍受のリスクは低くなる。
こんなところで良かったかな、少尉?」と微笑みながらクリフ。
この手の謀略を考えるのと手管を人に話すのが好きでしょうがないらしい。
ダグザは「つまらぬ質問をしました。本来なら立案段階ですべき質問でした」と頭を下げた。
レヴァンは恐る恐る手を上げ「あの…、閣下がそれを私に話してしまったら、私の思念を通じて
ララァ嬢に我々の目論見が露見してしまわないでしょうか?」と疑問を呈した。
「君は対象を救いたいんだろう?なら本気で彼女を救う聖者を演じ給え。私がタネを明かしたのは
途中で君が作戦に疑問を抱かない為だ。『嘘も方便』と言うじゃないか。君は良心の呵責を覚える
だろうが、それと引き換えに一人の少女と一人の男、後に起こる戦争で失われる幾多の命を救える
かもしれないんだ。安いものだろう?それと私のことは『クリフ』でいい。『閣下』と言われる
と、ゴップ大将の顔が浮かぶんでね」とクリフ。
レヴァンは「ゴップ閣下から後の世にジオン軍の残党が何度も大規模テロや軍事行動を起こす世界
についてうかがいましたが、准将はそれを防ぐ手立てがある、と仰るのでしょうか?」と
クリフに質した。
「ああ、計画はある。本作戦もその一部、という訳だ。ゴップ大将には私が書いた計画書を
G.C.(ガンダム・センチュリー)に諮った上でこれを認可して頂いた。延々と何世代にも渡って
殺し合う歴史を回避するプランだよ、これは。君はその中で非常に重要な役割を果たすんだ。
歴史の教科書に君の名が載るかもしれんよ」とクリフ。レヴァンは「私にはそのような名誉欲は
ありませんが、数多の命を救いたい、という欲は湧いて参りました。ささやかながら全力を尽くし
たく存じます」と合掌した。
オクスナー・クリフは笑みを浮かべ「そのポーズは了承した、ということだね。フウ大尉、
私には君の様な能力は無いし、ゴップ大将の様な『あり得た歴史』ガンダム・サーガの知識も
無い。だが、嘘の付き方とその使い途には通じているつもりだ。君の能力と私の悪巧み、
我々がチームを組めば無敵、という訳だ。今後ともよろしく頼むよ」と手を差し出した。
その手を握るレヴァン。
小男、ウェイラインは握手する2人を見て苦笑しながら肩をすくめ、ダグザは表情には出さな
かったが(この人がレヴァン大尉に悪さをしなければ良いが…)と友の身を案じていた。
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==== 月面 戦車第一大隊『ヒルドルブ』陣地
演習の対戦相手は第一混成旅団MS連隊の第一大隊だった。
大隊長はランス・ガーフィールド少佐。『アフリカ』旅団でも腕利きで鳴らす将校である。
「向こうはフル編成のMS54機か。こっちはマゼラアタック戦車が60、ギガン30、ザク15、
の精鋭である。月面戦車は対MS兵器ではなく、ギガンも火力はともかく機動性ではザクに数段
劣る。特に距離を詰められ白兵戦を挑まれるとほぼ無力だ。
「アレが上手いことハマればいいんだがな」ソンネンはMS対策に用意した「新兵器」に期待を
寄せている。
演習の対抗部隊、MS第1大隊の先鋒が陣地から2,000まで接近してきた。
ソンネン大隊長は「引きつける必要はない、全中隊射撃開始!」と応戦を命じた。
マゼラアタックとギガンは主砲をザクはバズーカを撃ち放つ、想定でFCSを演習モードで作動
させる。90両と15機による初撃は全て回避された。
「まぁ、この距離じゃ当たらんか」ソンネンは嘆息するが、即「足元を狙え。足がもげれば
MSはただの的になるぞ!」と指示を出す。2度めの砲撃で「敵」の先鋒は後退を始めた。
被害は無い様だ。「次は本隊と一緒に攻めかかってくるな…」ソンネンは新兵器の準備を
命じた。
「敵は陣地を構築、戦車、ギガンを含め車輌は全て半隠蔽状態か…」ランス・ガーフィールド少佐
は斥候からの報告を受けていた。対戦相手の『ヒルドルブ』は堅固な陣地を構築、そこに身を伏せ
せめかかるこちらを狙っているらしい。全高18m近いMSは大きい的だ、戦車の175mm砲や
ギガンの180mm砲をまともに食らえば撃破判定されるだろう。ガーフィールドの本部中隊の
各小隊長を兼ねる大隊幕僚達は敵陣の左右いずれかの地点に攻撃を集中して突破、という
戦術を提案した。
ガーフィールドは「大筋はそれでいいとして、問題はどうやってやるか、だな。今の我が大隊は
初年兵ばかりなんだから…」顎に手を当てて考えていると、『マルコシアス』中隊、総司令部から
派遣されている特殊部隊の指揮官、シュナイド大尉が「大隊長、現在研究中の新戦術を試して
みたくあります」と具申してきた。
「例のあの仕掛けか。うん、演習なのだから失敗してもよかろう。大尉、ザクを何機か壊すつもり
で手荒くやってくれ」と大隊長は具申を採用すると言った。
「残りの中隊は派手にスラスター・ジャンプして敵の目を引く。飛び上がったところを狙撃されん
様にな」第一大隊の方針は決まった。
敵はスラスターを盛大に吹かしてジャンプを繰り返している。ザクの他に見慣れないMSが2種類
混じっているようだ。グラナダ重工の「ドガ」と本国が送ってきた「グフ」とかいう新型だろう。
ソンネンは「陽動のつもりだろうが、ほっとくと兵が怯えちまうしな。…各中隊、上昇中のを
狙え。あと、着地の瞬間だ。テッ!」と指示を出した。
マゼラアタックは掩体からアクティブサスペションを使って砲塔を出来る限り上に向け、ギガン
もサスと砲の仰角を最大にジャンプ中のMSを狙い撃った。
90発の砲弾は距離が詰まったこともあって、今度は命中弾が出た。それでも命中は5発で撃破判定
を受けた機体は4機だった。2種類の新型はいずれもサイドスラストを使って砲弾を回避している。
ソンネンが狙った白いグフも容易くギガンの180mm砲弾を回避している。
「ちっ、ビーム砲があればな」と無い物ねだりをしたくなる。
敵MSの反撃は戦車に対してはマシンガンで、ギガンに対してはバズーカで行われた。
マシンガンはマゼラアタックの車体や砲塔の上面に命中し、7台が撃破、3台が移動不能、の
判定を受けた。ギガンを狙ったロケット弾は右腕の75mmガトリング砲で迎撃し、被害はない。
MS隊を預かるデル少尉から報告が入る。「月面を高速で移動する機体があります!」
「ジャンプはこれの陽動だったのか。デル、MS隊で迎撃!」とソンネンはすかさず指示を出した。
「へへ、やっとおでましかよ」ギー・ヘルムート軍曹はこちら向かってスラスター・ジャンプで
向かってくるデル隊を視認し、舌なめずりした。
彼ら『マルコシアス』中隊12機はパイプで組まれた4輪バギーをMSに装着し、タイヤで月面を
移動していた。
グラナダ重工が開発した月面用オプション『セントール』である。このオプションを装着する
とMSが半人半馬のケンタウロスに見えることから付いた名だ。MSから供給される電力で
インホイールモーターを回し平原なら時速200km近い速度で移動が可能だった。
戦闘時の離脱と再装着も容易である。また、オプション装着時もセントールと繋がっていない
腕部は自由に使え射撃が可能だ。
これがシュナイド大尉の言う「新戦術」だった。
マルコシアス隊もフォン・ブラウンを前に戦闘すること無しに撤退しており、若い隊員達は
力を持て余している、という状態であった。MS適性試験で高いスコアを挙げた者を選抜した隊
でもあるためエリート意識を持っており、緒戦で惨敗したヒルドルブ大隊に対する蔑視も強い。
小隊長のヴィンセント・グライスナー曹長が「あっちはMSとの実戦を経験してる。舐めてかかれ
る相手じゃないぞ」と小隊に活を入れる。「だけど、旧式のC-6だぜ。俺達が乗ってるG型に敵う
もんかよ」ギーは自分達の機体、MS-06Gに自信を持っているようだ。
MS-06Gはグラナダ重工が設計した月面仕様のザクの改良型で、MS-08ドガの部品を何割か
共用し、セントール オプション装着を設計時から考慮されている。
デル隊のMS-06Cとは素のスペックも違うといえた。
隊長機を務める頭部に角を生やしたドガが「それなら、俺は手を出さん。貴様らだけであの
MS隊を突破してみせろ」と指示を出した。
ギーは「了解しましたぁ!やってやるぜ!」とテンションが高いが、ヴィンセントは
「敵の撃破にこだわらなくても良いのですね」と冷静に質問した。
隊長、ダグ・シュナイド大尉は「その通りだ。我々の任務は突破だ。抜いた後は、MSは後続に
任せ我が隊は敵陣を突破、包囲する。深追いしてやられるんじゃないぞ」と答えた。
デル少尉は「なんだアレは!?ザクが車に乗ってる…」と驚愕していた。
突破されたらC-6型は追いつけそうにない、この場で足を止めて撃ち合うしか無かった。
敵は足を止め2機か3機でこちらの1機を狙って射撃している。だが、G型は速度を生かし
急ブレーキやスラスターを吹かしてジャンプや急旋回など多彩な機動を取り、敵を寄せ付けない。
ヴィンセントは手近なザクをマシンガンで撃ち、そのまま距離を詰め、セントールから離脱すると
ヒートマチェットでその胴体を両断した。演習なので、白熱化させず振っただけだが。
ギーともうひとりの小隊員、リベリオもザクを撃破し、ヴィンセントの小隊は3機を撃破した。
ヴィンセントはセントールを再装着すると、一度牽制射撃するとデル隊を置き去りにして
走り去った。
続いて中隊の残余8機が突破する。デル隊は5機が撃破判定、3機が頭部や腕部破損、無事なのは
半数以下の7機だ。「ズタズタにされた…、一時離脱!」と指示し、閃光弾を発射しスラスター・
ジャンプで離脱した。最後にドガが走り抜けていく。
「あいつら、俺の想定を超えていきやがった」とシュナイドは苦笑している。
陣地の正面では、ソンネン達戦車隊に第一大隊の本隊がスラスター・ジャンプで迫る。
ソンネンは「マゼラトップ隊射出!」とレシーバーに叫んだ。
すると陣地近傍のクレーターからマゼラアタックの砲塔、マゼラトップが打ち上げられる。
だが、砲塔には175mm砲が無い。その代わりに35mm機関砲が1門装備されている。
主翼は延長されており、翼には3連装ミサイルランチャーを4基搭載している。
胴体の側面にはコンフォーマルタンクを装着し、戦車の砲塔というより飛行機に見える。
ソンネンは手持ちのマゼラ・トップから175mm砲を全て下ろし、グラナダ重工に送って迎撃機
への改造を依頼した。機体の大部分を占める砲と砲弾を下ろしたこととタンクの装備で推進材の
容量は大幅に増え、継戦時間は大幅に伸びた。
残った主砲は防塵の為にありあわせの材料で作った即製砲塔を作りマゼラベースに搭載された。
砲塔内に動力を仕込めなかったので、主砲は前方に向け固定されていたが。
『ヒルドルブ』大隊は戦車60両と60機の攻撃機を装備しているのである。だが、短い期間では、
半数の30機しか改造が間に合わなかった。
マゼラトップ改造迎撃機はジャンプしているMS隊目掛けミサイルを発射する。突如現れた
小型迎撃機に面食らったザクが11機ミサイルの直撃を受け撃破判定された。迎撃機のミサイルを
回避して地上に降りたところを戦車隊に狙われる者も出て第一大隊の損耗が積み上がっていく。
ガーフィールドは自機に130mmマシンガンを両手撃ちさせ上昇してきた迎撃機4機を撃墜した
が、シュナイドの暗号電を受信すると一旦本隊を引き上げさせた。
結局、月面を高速移動してきた奇妙なオプションを付けたMS中隊に陣地を抜かれソンネンの
ギガンがシュナイドのドガに胴体を両断されて演習は終わった。
「結局、負けかぁ。MSってのは強いな…」ソンネンは独りごちた。
「すいません。足を引っ張りました」デルは済まなそうに頭を下げるが、「いや、中隊まるごと
新型なんて想定はしてなかった。少尉のせいじゃないさ」と大隊長。
対抗部隊の指揮官、ランス・ガーフィールド少佐の白いグフがこちらにやってきてレーザー通信を
入れてきた。「ソンネン少佐。貴隊の練度、感服しました。我が方の損耗率は3割を超え、演習
には直接参戦しないつもりのシュナイドに貴官を直接狙う指示を出さねばならなかった」
(褒めてくれてんだよな?これ)ソンネンはそう思いながらも「いや、こちらは陣地に籠もって
戦えばなんとかなると思っておりましたが、甘かった様です。あのオプション装備には驚かされ
ました。今後とも戦術研究など共同でできましたら…」と返すと「それはいい!是非ともお願い
したい」とガーフィールドは破顔しながら同意し、いつのまにか定期的に戦術検討会議を行う羽目
になった。
「まぁ、味方なんだし、いつまでも意地張っててもしょうがねぇか…」ソンネンは頭を切り替える
ことにした。
「あのヘンテコな見た目に騙されたぜ…」ギーは敵の指揮官機であるギガンに襲いかかった途端に
75mmガトリング砲の掃射を受けて撃破判定され、むくれていた。もっとも横着してセントールを
付けたまま、タイヤで走って襲いかかったので、機動を読みやすかったのだろうとシュナイド隊長
に講評され、評価が落ちたと思っているのだ。
セントールを外したリベリオも180mmの直撃を受け撃破、小隊長のヴィンセントも多少粘った
ものの撃破され、結局中隊長のドガが敵将を打ち取る、という結末になった。
「ソンネン少佐は実戦で敵MS複数を撃破している。甘く見たつもりは無かったが…」
ヴィンセントも思案顔である。
「お前等、戦争はMSでチャンバラするだけじゃないって分かって良かったな」とシュナイド
中隊長。彼自身もギガンの意外な強さに驚かされた一人である。
「連邦軍にも『ガンタンク』という大型戦車がある。旧型ならともかく改良型を送り込んで
くるかもしれん。お前達には定期的に戦車第一大隊と対抗戦をやって対戦車戦術を磨いて貰う。
大隊長のお達しだ」シュナイド自身も今度は最初から参加するつもりだ。
自身の技量も磨かねばならない。
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==== 月面 グラナダ市 低層階
月面都市は一般的に低階層、より地下の方が低所得者層の住居とされる。
地下の方が宇宙線の影響や災害時に安全かとも思われるが、
たがった。未だ最下層では鉱物の採掘や拡張工事を行っている都市も多く、低層階には騒音や
振動、粉塵などの公害があることや他の階層へのエレベーターの本数など交通の利便性も
関係しているのかもしれない。
とにかく、余り品のよろしくないグラナダの底近くのゴミゴミした街でクスコ・アル(20)は
育った。最下層で働く鉱夫や建設作業員向けの歓楽街である故郷で生まれた女は売春に手を染める
者が多い。彼女も街角に立ったが生来の負けん気と腕っぷしの強さで女衒を殺害し、街を仕切る
犯罪組織の直系構成員になって売春婦や愚連隊の元締めをしていた。自然彼女の周りには彼女を
頼り、また慕う十代の少女が集まり、「クスコ姐さん」と言えば街で知らぬ者のいない顔役だ。
「姐さん、どうしたのさ?さっきから難しい顔してさ」妹分のレコア・ロンド(16)がクスコの
顔を覗き込んでいる。
「レコア、今日は何かおかしいとは思わないかい?いつもなら道端に飲んだくれがクダ巻いてる
はずだってのに、ひとっこひとりいやしない」クスコが難しい顔のままでいると、目の細いアジア
系の少女が走り寄り「ねえさん!ジョージの店も客がいないよ!」と報告した。クスコは配下の
少女達を街の各所に偵察に出していたのである。黒人の少女が「アリスのババァの店にも客が
いない。あと、ババァがサツの手入れがあるから逃げろって…」と報告する。
「バァさんがそんなことをねぇ。これはしばらく身を隠した方がいいかもね…」とクスコは配下を
連れて根城にしている空きビルへ向かって歩いていると、金髪の少女が血相を変えて走ってきた。
「ねぇーさーんっ!!たいへんだよぅ、エレベーターのまわりにジューかついだケーカンで
いっぱいだ!アレ、スワットってんでしょ?アタシ、ゲームでしってんだ」と大声で叫んでいる。
彼女の後ろには窓が黒塗りのバンが迫り、少女の側に行くとスライドドアから手が伸び彼女を掴む
とバンの中に引きづりこんだ。
「!!!」悲鳴を上げクスコの配下達は逃げようとするが、バン数台が彼女たちを取り囲んだ。
その中の一台から、トレンチコートにハットを被りサングラスをかけた男が下りてきた。
「私はジオン軍のキリング中佐だ。クスコ・アル、我々にご同行願おう。君の友達達の運命は君の
態度次第だ」と男は言い放ち、背後の制服姿の男達にレコア他、クスコの配下達を捕らえさせた。
「この様子じゃ他の妹分もアンタらに捕まってんだろ?観念するしかないね」クスコ・アルは
両手を上げキリングの方へ歩いていった。
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仲秋の候、皆様いかがお過ごしでしょうか?ゴップです。
先程のレヴァンとオクスナー・クリフとのやりとりだが、レヴァンの奇想天外といっていい作戦
計画を猛烈にプッシュしたのがオクスナーだった。
私はこんなことが上手くいくのだろうか、と懐疑的だったが、オクスナー君は「自分が指揮すれば
99%上手くいく」と請け合い、指揮官に立候補までした。正直の所、ガンダム知識が役に立ちそう
に無い作戦なので、指揮官の人選に苦労していた。ちなみにリー君は「無理です無理です。ララァ
を誘拐とか」あっさり辞退していた。そこに人格はともかく能力は私の派閥でも随一の男が立候補
してくれたので、彼に任すしかなかった。気は進まないけどね。
しかし、レヴァンが彼の悪い影響を受けなければいいんだけどなぁ。
「しかし、ここもすっかり寂しくなりましたな」ウォーレン大佐が呟く。
バスク大尉が若い副官達と一緒にサイド7に出張中で私のオフィスは秘書官のレーチェル中尉と、
私を含めウォーレンやマンマ・ビアンキに古株の従兵など年寄りしかいない。
時々情報部からリー君が遊びに来るけどね。
「バスク君、ちゃんと食べてるかしら…」マンマ中佐はバスクがちゃんと食事を取っているか
心配らしい。確かに彼って仕事に夢中になると時々食事を忘れるとこあるしねぇ。
「貴女も心配よね、レーチェル」マンマはウインクしながらレーチェル中尉に話を振った。
普段はクールなメガネ美人の顔がたちまち赤くなる。
いや、いいもの見させて貰ったよ。
そんなほっこりしたティータイムを過ごしていたら「お寛ぎの所、失礼いたします。閣下、
お時間です」と従兵の最先任曹長が私を迎えに来た。普段は総司令部でベテラン同士
固まって茶を飲んでる彼も皆出払って人手不足なので、細かいことをやって貰っている。
「そうだったな。レディをお待たせしてはまずい。それじゃ出かけるとするか」
私はとある女性と待ち合わせをしているのだ。
「これはこれは。いや女性はメイクと服装で変わるものだねぇ」私の前には髪をアップに
にして、スーツを着たシーマ・ガラハウがいた。
「閣下がご存知なのは、ほぼスッピンな上に泣いたせいでどろどろになった顔でしょう?
私だってちゃんと化粧すれば見れる顔なんですよ」と彼女は言うが、見れるどころではない
妖艶なご婦人である。通りかかる将兵が(ゴップ大将、真っ昼間から愛人と待ち合わせかよ)
という顔をしている。目の前の美女が動画に出てた女捕虜とは誰も思わない様だ。
そうでなければ困るんだけど。
目的地に向かう車中、シーマは私に話しかけてきた。「大将、私等の新しい身元はいつ頂け
るんです?なにせ私があのビデオに出たお陰で部隊の連中も捕虜収容所にいれなくなりまして。
新しい身元貰って再就職なりしないと食っていけません」と困った、という顔をして彼女と
部下達の窮状を訴えた。
「そのことなら、君達にはもっといいものを用意した」私は彼女に視線を向けずに淡々と
話した。美人の顔見ながら話すと顔が赤くなってしまうかもしれない。
私達を乗せた装甲リムジンは軍病院に着いた。今日、シーマ・ガラハウに会わせる相手は
ここにいるのだ。
「閣下、私に会わせたいってお人は入院患者なんですか?」シーマは怪訝そうだ。
「正確には違う。まぁ、着いてきたまえ」とポーカーフェイスというかカエル顔のまま
歩いていく。ある病室の前まで来ると、ドアをノックしてドアを開けた。病室は個室、そのうえ
控えの間まである。控えの間では中年女性が私達を迎えてくれた。
「ミズ・クレア、プリンセスはいらっしゃるかな?」私は彼女の主人の所在を尋ねると、
「はい、旦那様がお休みになり、お嬢様はお側にいらっしゃりたいと…」との返事。
シーマは胡乱げな顔をしている。「今日はプリンセスに会わせたい者がいてね、入らせて
貰うよ」と侍女に愛想笑いしながら病室のドアを開けた。
「あら、ゴップ大将閣下。仰って頂ければ参上致しましたのに…」と病室のベッドの傍らには
金髪の美少女が座っていた。
「シーマ・ガラハウ、紹介しよう。アルテイシア・ソム・ダイクン嬢だ」
もしかしたらこの時私はドヤ顔をしていたかもしれない。
31話でした。
今回登場の『セントール』オプションですが、元ネタは「機甲天使ガブリエル」に登場した
「軽陸戦ユニット」です。パワードスーツが小型のパイプバギーを装着している、という
絵でして。未だに脳に焼き付いていまして登場と相成りました。
構想段階ではマルコシアス隊は月面をホバーしていたんですが、「真空の月でホバーする
のは推進材が足りなくなるのでは…」と思いバギーをMSにくっつけることにしました。
マゼラトップ改造戦闘機はマゼラアタックをまっとうな戦車にすると余るなあ、と考え
ひねり出した物です。
今回登場のクスコ・アルですが、何人かいるヒロインの中のひとりになります。
とうとう登場したセイラさん、しかも非常にヤバいオリジン セイラさんです。
彼女は本作品なりの「戦争の終わらせ方」に関わっていくことになります。