リストラおじさん、ゴップになる   作:寒原光雪

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今回の主演はギレン・ザビであります。


独裁者

=== ジオン公国 ズムシティ

 

仰々しいザビ家の宮殿から徒歩圏内に建つ一見普通のオフィスビルがジオン公国総帥府である。

ギレン・ザビは宮殿内部の総帥公邸からこのビルに毎日通勤し、執務を行う。

この日は、ソロモンに陣を構える宇宙攻撃軍司令ドズル・ザビ中将とリモート会議を行っていた。

 

「もはや通商破壊では時は稼げぬ、と言うのだな?」

「然りだ、兄貴。部隊は囮の船団に釣り出され、待ち伏せた敵新型MSによって無視できない

被害を出している。

このまま漫然と作戦を続行すれば貴重な経験を積んだ将兵をむざむざ失いかねん!

作戦中止の裁可を是非!この通りだ!!」ドズルは頭を何度も下げている。

「いいだろう。元々お前もこの作戦で稼げるのはひと月かそこら、と言っておったしな。

よくやった、と言うべきだろう」ギレンはいつもの様に顔色一つ変えずに作戦の中止を裁可した。

「ありがたい!これでソロモンの守りに目処が立った!」ドズルはまた頭を下げた。

 

「ところでドズル、ムサイを改装する際に取り外したコムサイ、あれはどうなったと思う?」

ギレンは弟である攻撃軍司令に一見脈絡のない問を発した。

「そら、アレは熱核ロケットも積んでないしなぁ、輸送艇か何かに使ってるんじゃないのか?」

「地球の大気を突破する為に少なくないコストをかけて作った突入艇ををそんなことの為に使う筈

があるまい。あれらは本来の目的、地球大気圏突入を目指して偽装輸送船の腹の中、今この時も

地球を目指している」

「え!?兄貴、いや総帥、『地球奇襲作戦』なんぞ俺は聞いてないぞ?」

「それはそうだ。この作戦を話すのはお前が最初だからな」ギレンが片眉を上げている。

ドズルは片眉を上げるのは長兄が悪巧みをしている時の癖であったのを思い出した。

30年以上前のこと、兄も自分も子供だった。父デギンが幼かったドズルをあまり強く

叱らないので悪戯の実行犯は大抵ドズルであった。ギレンは立案、次兄サスロがドズルを

言いくるめ実行役に仕立てる役だ。

(兄貴達に言われた通り仕掛けをしたら親父のカツラが釣り上げられたんだよな。

打ち合わせに来たジオン・ダイクンが腹を抱えて大笑いしたんだよなぁ。あれから親父は

頭を剃って今の禿頭になったんだ…)ドズルは『地球奇襲作戦』のことを考えたくないのか、

思い出に現実逃避していた。

 

「ドズル、難問に直面すると気を逸らすのがお前の悪い癖だな」

兄の言葉にはっとなるドズル。「す、すまない。あまりの大事に一瞬気が遠くなった…」

「しかし、総帥、地球を奇襲するとは兵はどこから?」

「ア・バオア・クーで志願者を募り、そこから能力より政治的に信用できる者を選抜した。

降下させられるMSの数は60かそこらだからな、参加するのはコムサイの操縦員含め

総勢200人程度だ」

「60!?そんな数であのジャブローを落とせると思ってるのか兄貴?」

「なぜ、ジャブローを攻撃すると思った?陽動なのだから守りの固い場所を攻める必要は

あるまい。一応、ジャブローへの攻撃手段を用意しているがな」ギレンは再び片眉を上げた。

「奇襲部隊を今更呼び戻すこともできんだろうから作戦自体に反対はせんが、攻撃目標は

どこなのだ?」ギレンは口角を少し上げて

「派手ではあるが、あくまでソロモン防衛の枝作戦だからな。…だよ」

「なるほど、そこならば連邦はショックを受けるだろうな。流石は兄貴、いやさ総帥よ」

ドズルは感心しきりをという顔になり、ギレンは少しだけ表情を崩し「お前が幼い頃、俺が

宿題を見てやるとそんな顔で『さすがはアニキ』と言っておったな…」

「俺はな、兄貴に『喧嘩に強くなりたければ古人の本を読め』と言われて本を読むように

なったんだよ。あの頃はサスロ兄もいて我が家は賑やかだったな…」ドズルは遠い目をした。

 

「なぁ兄貴、キシリアともう少しは仲良うできんのか…」ドズルは視線を落とし

おどおど、といった様子で兄ギレンに今や政敵となった妹との和解を持ちかけた。

「キシリアが『月の王国』などという馬鹿げた夢、いや妄想を捨ててくれれば、な。

グラナダとその周辺から産出する資源をあやつ一人の勝手にさせる訳にはいかん」

ドズルは(やはり…)という顔になり「俺からもあいつに頭を下げるよう言っとく…」

と言い通信画面から消えた。

「ドズルもご苦労なことだな。キシリアが失脚すればあやつの得にこそなれ、損は無い

と言うのに」ギレンは『家族の和』なる曖昧なものを信じている弟を少しだけ哀れんだ。

 

=== ズム・シティ 『トト生理学研究所』

 

ギレン・ザビの次の予定は総帥府でも知る者も少ない最高機密を扱っているこの研究所

の視察だった。親衛隊のSPを研究所周囲の警戒に残し、彼は一人研究所に歩みを進めた。

通された応接室には既に先客がいた。

金髪碧眼の幼い少年がちょこんとソファーに座っている。

 

「久しいな、グレミー」ギレンは少年に声をかけた。彼を知る者ならあり得ないと思う

暖かさを含んだ声だ。声に振り返った少年はギレンの顔を見ると笑顔で駆け寄ってくる。

「おと、いえ、総統閣下!ようこそ研究所へ!」

「グレミー、今日は私を父と呼ぶことを許す。戦争が始まり顔を見せられなかった埋め

合わせだ」

「本当ですか!?ありがとうございます!おとうさま、いえ、父上!」にっこりと笑う

グレミー、ギレンはまたも彼を知る者には想像もできない表情、笑顔を浮かべた。

もっとも、余人が見れば『にたり』と表現する笑顔だったが。

 

「グレミー、勉学に励んでいるか?」

「はい!父上」

ギレンは息子、グレミーのためデギン大の教授を家庭教師としてトト研究所に派遣していた。

勿論、グレミーの身の上は伏せた上だが、総帥府の意向で派遣された教授陣は薄々察している

ようであった。報告によればグレミーは今すぐデギン大に進学できる程の学力があるという。

彼の名目上の祖父であり、製造責任者のアーリフ・トト博士のテストではIQ200以上、身体能力も

5輪メダリストの卵子提供者からの遺伝とトトによる遺伝子操作により8歳児の平均を大きく

上回っている、という。だが、ギレンはグレミーに超人的な能力より「()()()()()()()()()

を求めていた。

 

グレミーの容姿を金髪碧眼にする為、候補者の中から金髪碧眼の女を卵子提供者に選んだ。

提供者は結婚歴が数回あり、王子の母にはふさわしくないので、グレミーを生んだ代理母

をトト博士の養女とし、グレミーの養育を任せている。ギレンの母はドズルを生んですぐ、

事故で亡くなった。キシリアとガルマの母は後添えである。継母も既に世を去っているが、

ギレン達には家政婦のように接していた。人のいいドズルは「そんなに畏まらないでくれ、

母さん」と継母を気遣っていたが、彼女が実母の死ぬ随分前から父と関係を持っているのを知って

いたギレンとサスロは他人行儀で通した。激情家のサスロは「母さんを追い詰めて自殺させた女が

我が家の主人ヅラは許せない」と兄と二人きりの時はこぼしていたが、父デギンのスキャンダルは

一家のためにならないことを知っている弟は人前では沈黙を貫いた。

 

グレミーには母親の愛情を知って育って欲しい。人から愛されるにはまず母から愛されるべきだ。

容姿も自分の様な強面ではなく、(ギレンの審美眼で)美しい容姿をグレミーに与えた。

公国建国期は自分の様な抜きん出た能力の人間が必要だが、ザビ家の王朝が続く為には

世人から愛され慕われる者が必要だ。最も、ガルマの様な惰弱な者では困るが。

 

グレミー・トトはある意味ではギレン・ザビの「なりたかった自分」でもある。

高すぎる知能と厳つい容姿から人に敬わられ、恐れられることはあっても愛されなかった。

彼の正妻も独立運動のスポンサーである企業グループから迎えた政略結婚で、実家をザビ家が

乗っ取った後は行事にも出席させず公邸の管理人として扱っている。

誰からも愛されなかった男は()()()()()()()を継ぐ後継者を誰からも愛される男に育てるべく、

トト研究所を訪ねる時は思いつく限り理想の父親を演じていた。

王子グレミーの人生に陰を射さぬ様にである。忠臣も用意した。グレミーの背後には親衛隊の

軍服姿をした同じ容姿の少年が二人立っている。

 

「ランス、ニー、両名とも役目ご苦労である。お前達の父も忠勤を喜んでいる」と

ギレンはグレミーの護衛を兼ねる側係の少年たちを労った。グレミーは自分が褒められたかの様に

にっこりとし、「父上、二人は本当に僕に尽くしてくれるのです。先日はMSのシミュレーターに

一日中つきあってくれました!」と誇らしげだ。

ギレンは片眉を上げ「ほぉ、MSの操縦をか?で、結果はどうだった?」と興味深そうに聞く。

グレミーは「はい!YMS-09ドムの性能のお陰か、二人の乗るザクを撃墜できました!」

と誇らしげだ。トト博士が「殿下の仰ることは真でございます。殿下はランス、ニー・ギーレン

両名が搭乗するリック・ザクを14回撃墜し、ご自身は両名に一度たりとも撃墜されませんでした。

畏れながら殿下は優れた素質をお持ち、と推察します」とグレミーの能力を報告した。

ランスとニーは「殿下の護衛たる自分達がMS戦で遅れを取るのは如何と思うのですが…」

と苦笑いしているが、主君の操縦員適性の高さに頼もしさを覚えているようだ。

 

ギレンは微笑んでいるつもりか口角を上げ「今度、親衛隊のマンスフィールドを寄越すとしよう。

あれはなかなかの腕の持ち主だからな」と息子のコーチに現役の将校を寄越すと約束した。

「エリック・マンスフィールド少佐をですか!?是非、指導をお願いします!」グレミーは

名高いパイロットから直接指導を受ける期待に目を輝かせている。

「それと、ランスとニーにも是非!」と直臣達の指導もねだった。

「あたりまえだ。二人はお前の元で公国軍の中枢を担って貰う。それには主力たるMS

の操縦にも秀でてなくてはならん。マンスフィールドは任務に忠実な男だ。お前に阿って

手加減する、なぞ考えもしないだろう。奴の訓練は辛いものになるぞ、覚悟しておけ」

とギレンはグレミーを脅かすが、グレミーは「望むところです!」と小さな胸を張った。

愛する息子の勇姿にギレンはまた微笑みを浮かべた。

 

グレミー達が部屋から退出し、自身とトト博士だけになるとギレンは冷酷な独裁者の

顔で「それで、『グレミー親衛隊』の進捗は如何なっている?」と博士に問いただした。

「主に身体能力の強化を目指したIGシリーズはIGゼロがロールアウト、実戦データを基に

数ヶ月以内に量産が可能となるでしょう。ニュータイプ能力の向上を目的としたLPシリーズ

は開発が難航しております。フラナガン機関により多くのデータを収集して貰う必要が

ありますな」と博士は報告した。

「そうか、NT専用機体の開発も時間がかかっている。通常の機体に適応しているIGシリーズ

にリソースを集中し、戦力化を急げ。公国は優秀な搭乗員を必要としている」ギレンは未来の

公国とグレミーの鉾となるLPシリーズの強化人間より盾となるIGシリーズの強化人間の開発を

優先するようトト博士に指示を出した。

 

ギレンが研究所を出ると黒塗りに金でジオン公国章が描かれた6輪の高級車が彼を迎えに門前に

停まった。ジオン国内の自動車メーカーがザビ家の為に開発した最高級エレカである。

もっとも、デザインは地球製の何種類かの高級車を混ぜ合わせた様な代物であった。

ギレンはエレカなのに地球の高級車を真似て内燃機関車のようなフロントグリルを付けた

この車が嫌いだった。スペースノイドが持つ地球文化へのコンプレックスの顕れに思えたからだ。

「何故、エレカにパルテノン神殿のような飾りがいるのだ?」面と向かって納車に来たメーカーの

CEOに聞いてみたことがある。CEOは顔色を真っ青にしながら、バッテリーとブレーキの冷却が

どうのこうのと弁解していた。

 

普段なら総帥公用車には一緒にSPが乗り込むのだが、ギレンは運転手の顔を見ると人払いをし、

一人で車に乗り込んだ。後席にどっかと座ると6輪車がほぼ無音で走り出す。

「久しぶりの親子対面はいかがだったかしら?」運転手、サングラスをかけ金髪をアップに結って

いる女、は後席に座る自らの主君に気安い口調で語りかけた。

「貴様が知ったことではないな。それともあの子が成人するまでこの戦争が続くとでも?」

ギレンは無礼な言い様に顔色一つ変えずに答えた。

 

運転手は嘲るような口調で「それが続いちゃうのよねぇ。ドズルさんちのミネバちゃんと

内戦になるの、正確にはミネバの子守りをやってる女とだけど」

「以前話していた戦争のことか。」

「時は宇宙世紀0088、グレミー君は17歳の立派な若者になってるわ。私の知ってる彼は

トト姓を名乗っていたけど。彼はザビ家の血筋を名乗ってミネバを戴く残党軍相手に

戦争を始めるのよ。もっとも、連邦の特務部隊に殺されちゃうんだけどね!」

ころころと鈴のような笑い声を上げる運転手。

 

ギレンは息子の行く末を聞いても顔色一つ変えず「それは貴様の知る未来だな。

少なくともブリティッシュ作戦が未遂に終わったこの公国の未来ではない。

少なくとも今の連邦が数年で内戦状態になるとは思えん。ここから戦況を盛り返して

我が国が勝てば別だがな。その場合は『残党軍』自体存在せんからどの道グレミーが戦を始める

ことはなくなる」

「あら、公国を勝たせる為にアナタは私を生かしておくのではなくて?」

「勿論勝つつもりだ。お前とカーラ・ミッチャムを生かしておく理由でもある。だが、完全勝利の

目が薄いことは承知している。この上はソロモンとア・バオア・クーで連邦軍に損害を強いて

継戦コストが見合わない、と連邦政府に思わせることを戦争目的に変えるべきだ」

「連邦を屈服させるんじゃなくて、『ザビ家のジオン公国』を残そうって目標に変えるのね。

初戦から負けに負けている今の有様じゃ妥当かもね。私があと一月早く思い出してたら、こうは

なって無かったんだけどね」

「この状況を面白がっているな…」

運転席の秘書官の声が明るいのを聞き流石に声に感情を滲ませるギレン。

セシリア・アイリーンは笑い声を上げて「だって、ゲームって難易度高い方が面白いじゃない。

私達にヌルゲーはお呼びじゃないのよ」と公国の独裁者に啖呵を切った。

「ゲームのチップが貴様達の命だけなら兎も角、公国の興亡もかかっているのだがな」

ギレンも興が乗ったのか、面白がるような口調になった。

「ふふ、それでこそ総帥よ。自分の判断で国が滅びるかなんて独裁者冥利に尽きるでしょ?

アナタはこの世界で一番豪華なゲームをやってるんだから楽しまなくちゃ」セシリアはギレンを

焚きつけるようなことを言った。

(この物の怪と話すと口が軽くなるな)ギレン・ザビは運転席の女、セシリア・アイリーンが

職務に忠実な秘書官から今のようになった夜を思い出していた。

 

セシリア・アイリーンはいい秘書官だった。ギレンの行動を先回りして気を回し、それでいて

いつも一歩引いて彼の気に障ることが一切ない。総帥の夜伽を務めるのも秘書官の仕事であるが、

ベッドの彼女は慎ましく、それもギレンの好みだった。

その夜もギレンの下で慎ましく喘ぎ主人が果てた後は彼の好みの通り呆然とベッドに横たわって

いたが、ギレンがシャワーを浴びて寝室に戻ると女はベッドに腰掛け細巻きの煙草を吸っていた。

ギレンは秘書官の変貌ぶりに内心驚きながらも「公邸は全面禁煙だ。それを知らぬお前では

あるまい」といつもの表情と口調でセシリアに話しかけた。

 

「ギレン・ザビ、アナタこのままじゃ死ぬわよ」セシリアは公国の独裁者を前にしても全く臆する

ことなく、不吉な予言をする。

ギレンは流石に「口が過ぎるな。ん?セシリアは私を『閣下』と呼ぶはずだが、お前は誰だ?」

何者かがセシリア・アイリーンに成り代わった、そんな感触があった。

「私はセシリア・アイリーンよ。でも、アナタのお気に入りの秘書官はもういない。

私が目覚めたから」

「どういうことなのだ?」ギレンはSPを呼ぼうかと考えたが、彼の政治的動物の勘がこの女の話を

聞けと言っていた。

「私はこの戦争の結末を知ってる。過程は異なってもジオンは敗北してアナタは死ぬわ。

私の知ってるのだと後ろからキシリアに射殺されるわね、ア・バオア・クーで」相変わらず

細巻きを吸いながらセシリアはまた不吉な予言をした。極め付きに不吉な予言を。ギレンは片眉を

上げ「『言い逃れは親衛隊の尋問官にしろ』と言いたいが、幸い私の予定は5時間後まで無い。

貴様の戯言を聞いてやろう。貴様の処遇はそれを聞いて決める」と言った。

ギレンはセシリアの顔をした女が本当に成り代わっているのか、秘書官がストレスで一時的に

錯乱しているのか確かめたかった。

どちらにしてもここで親衛隊に処理させるのは損失だと何故か思ったのだった。

 

女の語る『一年戦争』の有様は一聞、奇想天外に思えた。だが、キシリアの手引で捕虜となった

レビルが脱出し、軍事的な大勝利を戦争の勝利には繋げられず、さらに妹はマ・クベ中将を抱き

込んで己の息がかかった軍を地球に降ろす、というのはいかにもあれの考えそうなことだ、

とギレンは思った。

(地球でしか産出しない資源は化石燃料を含め多い。その大部分をキシリアが握るとなれば…)

あの妹はその為に何でもするだろう、たとえ国を売るような真似でも。

 

ガルマが功を焦り戦死したこともありそうなことだと思った。

ジャブロー奇襲作戦を妹の腰巾着、ガルシアが敢行した、というのは意外であったが、敵の罠に

掛かって戦死するのはこれも、ありそうなことだと思った。しかし、折角占領した北米を喪う

原因になるのは看過できない。女の知る自分は何故、親衛隊を降下させなかったのだろうか。

妹の意を受けてオデッサの資源地帯を占領したマ・クベが己の謀が逆手に取られて敗れる、

というのもいかにもありそうなことだ。自分が下した命令に反してMSで特攻する、と

いうのは意外だったが。

 

ソロモンを敵の新兵器で焼かれドズルが試作MAでティアンム艦隊を襲撃し提督を討ち取った、

というのはドズルにしてありそうな話だと思った。そのドズルを連邦の試作MSを駆る少年兵

が討ち取ったところは話が出来すぎだと思ったが。しかし、試作MA1機を送りつけてよし、とした

自分の采配には疑問が残る。本国に秘密兵器を用意していたなら、なおさら敵艦隊の遅滞を図って

増援を出すべきではないか。

 

父デギンを巻き込む形で秘密兵器を発射したのも疑問だ。そもそも父をグレートデギンで発進させた

のがあり得ない失策だ。さらにはキシリアを武装させたまま司令室に入れ、挙げ句には父殺しを

妹に自白するとは自分は何を考えていたのだろう。結局ア・バオア・クーの指揮権を奪った妹も

反乱を起こした兵に射殺されるそうだが、ザビ家一党を失って本国やペズンの兵力を残したままの

敗戦を迎えるのならまだ妹が残って指揮を執っていた方がマシだ。

 

女はこれら自分のおかしな采配の理由を話したが、それこそが奇想天外なものだった。

なんと、これは全て女が見たアニメシリーズやコミックだと言うのだ。

1年間、50数話あった筈のストーリーがスポンサーの玩具会社の都合で43話になったと言われ、

流石に空いた口が塞がらなかった。自分の生涯がそんなことの為に無理やり終わらされたとは。

最も女によると、どの道ジオンは敗北する予定だったのだそうだが。負けるにしても負け方が

あるだろう。本国に残った兵力はアステロイドベルトに逃れ、そこで続編に登場するジオン

残党軍となるそうだ。『宇宙戦艦ヤマト』のように最初の放送では話が途中で終わったが、

人気が出て続編が次々作られたそうだ。少年時代の彼はデスラーが部下に大規模な反乱を起こされ

最後には何かぶつぶつ言いながら自国の民を大量虐殺しようとするのを見て「こんな為政者は

俺の目指すものとは違う」と思ったものだが、大差ない人生を送る羽目になると言われた。

 

女の知る宇宙世紀の歴史は連邦が自壊した後のUC.169まで語られ、その後舞台と役者を変え

様々なストーリーが作られたのだという。

しかし、宇宙世紀の遥か未来に人が人を食う地獄の歴史を辿る、というのは到底容認できない。

そこまで落ちぶれるくらいなら、人類は滅びるべきだろうと思う。

 

しかも、ここまで聞いた話はどうやらMSの模型を売る為のマーケティングなのだそうだ。

そこにこの話が一人の女の妄想なのでは無く大勢の人間が関わったことをギレンに確信させた。

何故なら女はセシリアが知らない筈の試作MSの名前と形式番号を諳んじて見せたからだ。

ギレンはお気に入りとはいえ秘書官に全ての機密を見せはしない。MS-10の開発が伸びて

MS-14になる、というのは報告を受けていない。

「新種のモビルスーツを生み出す為に紡がれる世界…。なんとも奇妙で醜怪なものであるな」

5時間近く聞かされた話の感想はそれに尽きた。

世界が虚構である、と知らされた物語の登場人物は何をすればいいだろう?

女は「私達をアナタの元に送り込んだ機械仕掛けの神様の思惑はアナタが運命を覆すとこに

あると私は思うのよね。まだ諦めるには早い盤面よ」とギレンを唆すような顔つきで

煽り立てる。

 

「よかろう。貴様はこのまま私の秘書官とする。あと、私達というからには貴様のような者が

まだいるという訳だろう。そいつのことを話せ」ギレンはこの物のぷ怪のような女を側に置くこと

にした。女の話はとても余人には話せるものではない。キシリアが聞きつけたら「総帥は

錯乱された」と騒ぎ出すだろう。まともに聞いてくれるのはファンタジーが好きなガルマくらい

だろうか。「てんせい、とか言ったか…」弟が晩餐で喋った話に出てきた記憶がある。

主人公が死んで都合のいい世界に生まれ変わるとかだったか?

(この世界はこの女の都合がいい世界とでもいうのか。たまったものではないな)

いっそのこと、ガルマに全部打ち明けて相談しようか、と一瞬思ったがガルマに知られれば

ジオンの全国民に知られると思い直した。

 

その後、カーラ・ミッチャムを紹介されて彼女のグロテスクな計画を認可した。

最も、義肢の開発プロジェクトとして計画は進んでいたが。

義肢の性能は従来品を大きく上回り傷痍兵を戦力化できる見通しが立ったのでギレンはそれを

不問にした。プロジェクトの成果物『イモータル・ザク』の性能は図抜けており、彼は

YMS-09を改造する許可を出した。

 

「私とアナタは共犯者の関係だけど、前みたいに私を抱く?」舌なめずりしながら後席のギレンを

誘惑するセシリアの顔に独裁者の背筋が凍った。

「それだけは勘弁だな。貴様の性欲発散は他の男を相手にするがいい。俺の私生活に構うな」

物の怪となったセシリアはあくまで公国運営のビジネス・パートナーであり、二度と抱く気には

ならなかった。「ふふ、ならカーラみたいに可愛い男の子食べちゃおうかしら」総帥直々に男漁り

を許可された秘書官は総帥府に着くまで始終上機嫌だった。

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== 宇宙要塞ソロモン

 

ヘルベルト・フォン・カスペン大佐は『カスペン戦闘連隊』麾下、第302哨戒中隊の面々を

呼び本国から転任してきた新隊員を紹介した。

「ダリル・ローレンツ少尉である。皆も存じておろうが、新型機開発の為、自らの両腕を公国に

捧げた天晴な愛国者である。少尉は302哨戒中隊に配属となる。ガトー、頼んだぞ」とダリルを

アナベル・ガトー大尉以下302中隊の面々に紹介した。

 

「ダリル・ローレンツ少尉、君の戦いぶりは見せて貰った。相手がならず者が操縦するザクとて

初めての実戦で6対1の劣勢を容易く覆した戦いぶりは見事の一言だ。ここでは私をはじめ

頼れる味方がいる。もう君一人で戦う必要はない。我々を頼ってほしい」とガトー中隊長は

17歳という年の割には歴戦の古参兵のような雰囲気を纏うローレンツ少尉の肩に手を置いて

親しげに語りかけた。ガトー自身、ローレンツの愛国精神と新型機の試験で見せた戦い振りに

感銘を受けており、カスペンから内示を受けた時は大変喜んだ。

 

ダリルは「ダリル・ローレンツ少尉であります、。英雄ガトー大尉の下で公国に奉仕できることを

誇りに思います。よろしく願います」と撃墜王を前にしても落ち着いて着任の挨拶をした。

おそらくカーラと知り合い腕を切られる前の彼なら緊張してろくに喋ることすらできなかった

もしれない。だが、初めて恋をして、その恋人に手酷く裏切られた経験は彼の精神を強靭なものに

変えていた。既に6人を殺した経験も大いに関係していたが。

 

「俺はケリィ・レズナー中尉。お前さんの機体、ザク・イモータルだったか。あれはリック・ザク

より推力がでかいから、俺のMA小隊に入ってくれ。

ビグロは推力は大きいが小回りが効かなくてな。俺たちに付いてこれる護衛機が欲しかったんだ。

お前さんには前線に慣れるまで俺とクルトの護衛を頼むよ。

17じゃなかったら飲みに行きたいとこだが、ガトー隊長はその辺煩くてなぁ」

「少尉、レズナー中尉はこの通り一見不真面目に見えるが、実は熱血漢で頼りになる男だ。

実戦では彼の指示に従えば生還できるだろう」

「よしてくれよ隊長。背中がむず痒い」ケリィがまぜっかえすとガトーは「いや、私は本当に

そう思っているのだ、ケリィ。ビグロ小隊がいるから中隊は向後の憂いなく戦えるのだ」

と大真面目に返す。

 

ケリィは苦笑して「真面目くさってこういうこと言う隊長だ。少尉もこのノリに早いとこ

慣れといた方がいい」とダリルに中隊で上手くやっていくコツを伝授した。

「質問をして宜しいでしょうか、中隊長」とダリルは質問の許可を求めた。

ガトーが許可すると「先程中隊長は『後顧の憂いなく』と仰いましたが、ビグロは

先鋒ではないのでしょうか?」とダリル。

「ビグロ小隊は中隊の予備兵力だ。攻め時や戦友が危機に陥った時に機動性と火力を発揮する。

いわば切り札だ」とガトー。ケリィは肩をすくめて「うちの隊長は切り札を温存しておく性格

じゃなくてな、お陰で忙しい」とまた混ぜっ返した。ガトーは「そういう訳なので、少尉も

護衛任務と言っても前に出ることが増える。覚悟しておくように」とダリルに訓示をした。

 

微笑ましいという顔で302中隊の様子を見ていたカスペンが「貴様達も少尉と新型機の実力を

身を持って知りたいのではないかな?少尉の慣らしも兼ねて一つ模擬戦でもやってはどうか」

とザク・イモータルと模擬戦をするよう()()()

ガトーは敬礼し「承りました。302哨戒中隊、これより演習を実施します」と復唱すると格納

デッキへと急いだ。中隊員達も整然と続いていく。ダリルは後に続きながら(かなり練度の

高い部隊だ。ガトー大尉、指揮官としてもかなりの実力の持ち主だな…)と思う。

もっとも、抜け目ないカーラが彼を飼い殺して戦果を挙げさせない指揮官の下に付ける筈がない。

総帥府に強力なコネを持っているのを散々見せらた。だからザク・イモータルが赫々たる戦果を

挙げる戦場へ送り込むに違いない。

 

ソロモン空域でも連邦の質量爆弾の残骸が浮かぶ暗礁空域の近くにザク・イモータルはいた。

現在の機体はMS-06R1Aリック・ザクを原型にリユース・イメージング・デバイス(RID)を

搭載し、ダリルの思い通りというか身体が覚えた動きをする。

外見上はリック・ザクに大型ブースターとウェポンベイを増設し、バーニアと火器をてんこ盛り

にした姿だ。核融合炉も背中に増設しており、MS-09用のビームバズーカすら搭載できる。

今日は演習である為、実体弾の火器のみを装備していたが。

 

小隊長のビグロがダリルに近づき「ローレンツ、悪いがお前一人でガトー率いる9機とやって

みせてくれ。おエライさん達がお前の実力を見たいって話なんでな」と少しすまなそうに

1対9の模擬戦を行うようダリルに命じる。

ダリルは冷静に「了解。ダリル・ローレンツ、第302哨戒中隊と模擬戦に入ります」

と復唱し、ブースターを点火すると暗礁空域へ飛んだ。

 

「さて、あの見た目では小回りは効くまい、と思うが…」ガトーは暗礁空域に中隊を伏させ、

自身はダリルをおびき寄せるようにデブリのひとつにザクを立たせていた。

黄色と黒、という警戒色の塗装がされた大型のMSがデブリをすり抜けるように飛行してくる。

「ほぅ、中々の運動性だ。宇宙(そら)でも性能を発揮できると見える」ガトーは感嘆の声を

上げると本部小隊を残した6機にザク・イモータルを襲撃するよう命じた。

 

ダリルのセンサーが6機のザクがこちらを包囲する陣形で迫るのを()()()

(噴射炎はリック・ザク、数は6。塗装からしてガトー隊長はまだ来ない)

戦況を判断するとダリルは身体の各所にあるバーニアから派手に噴射炎を吐いて空戦機動を取る。

生身ならモニターに映る情景が吹っ飛んで見えるような速度で機動を取るダリル。

だが、今の彼なら身体各所のセンサー類でまるでスローモーションかのようにじっくりと

周囲の状況を見ることができた。

 

ガトーは302中隊の手練達がザク・イモータルの機動に付いていけずに翻弄されるのを見た。

次の瞬間、暗い青で塗装されたリック・ザクを駆って戦闘空域へと飛び出していた。

カリウスとゲイリー准尉がガトーに続く。だが、ガトー達本部小隊が到着した時には

既に6機が撃墜判定を受けていた。

「抜かった!甘く見ていた訳では断じて無いが!」ガトーは吐き捨てると黄色のザクへ

迫撃する。推力で勝る筈のザクは敢えてガトーの接近を許した。

「白兵戦能力を見せると言うか!面白い!!」烈帛の気合と共にヒートホークを白熱化せずに

振り下ろす。

黄色いザクは腕を動かさずにヒートホークを背中に装備したマニピュレーターで受け止めた。

衝撃で受け止めた隠し腕は破壊されるが、ザクの装備する火器が青いザクへ向けられる。

ガトーは緊急推力で離脱した。

 

「これを見せんが為の敢えての白兵!面白いではないかぁ!」ガトー達本部小隊は黄色いザク

を手慣れたフォーメーションで包囲し、3機とも激しい空戦機動を取って迫る。

既に新しい部下の実力を査定することより眼前のザクから撃墜認定を勝ち取ることに集中して

いた。

 

「うぉ!?」黄色いザクの背後を取ったゲイリーのリック・ザクが背中に装備されたバズーカ

の直撃判定を受けた。まるで背中に目がついているような全く予備動作が無い射撃だった。

「ぬ!?カリウス!」ガトーは声を上げると黄色いザクへ飛ぶ。回避軌道を織り込んだ螺旋状の

軌道で。「右脚部に被弾!」カリウスから報告が入るが脳の片隅で処理し、黄色いザクの一挙一

投足をも逃すまいと五感を研ぎ澄ます。小隊での機動とは全く別次元のAMBAC機動とスラスター

の噴射を実行し、ガトー機は黄色いザクを追った。彼奴はまるでガトーをあざ笑うかのように

するするとガトーの連撃を躱していく。

カリウス機を置き去りに2機のザクは激しい空戦を繰り広げる。ガトー機のコックピットに

アクチュエーターとスラスターの加熱を告げる警告が鳴り響く。

その時「そこまで!!」という胴間声がコックピットに轟いた。

 

「ドズル閣下!?」ガトーは我に返ると自機の慣性を打ち消し、停止した。

黄色いザクは停止し、まるで頭を垂れるかのような姿勢を取っている。

「まるで謝罪するかのようだな。ダリル・ローレンツ、若いが世過ぎの術を心得ていると

見える…」ガトーの頭の片隅では先程までの敵機が敗北を認めたかのような姿勢を取っている

のに快感を覚えたのだが、「ローレンツ。そのような真似はしなくいい。君が勝った」と部下に

勝利したことを告げた。ダリルは「了解。中隊長、自分のことはダリル、とお呼びください。

ローレンツと呼ばれると自分のことだと処理するのに寸刻がかかってしまいます」と冷静に

返事した。

「処理するのに、とは。君は面白い男だな」荒い息を悟られぬよう努めて平静に話すガトー。

 

「いや!面白いものを見せて貰った!両名とも天晴である!!」2人の視界に深い緑に金色の

縁取りがされたザクが入った。「これは閣下。恐縮であります!」ガトーは自機に敬礼させた。

黄色いザクも敬礼し、ガトー機の後ろに下がる。

「はっはっは!ザク・イモータル、総帥の仰る通り驚きの性能である。ローレンツ少尉、

貴官の操縦も見ものであったぞ!」ドズルは大笑しながらダリルを褒め称えた。

ダリルは「痛み入ります。これも公国の技術力あってのものであります」と謙遜して見せた。

 

「若い者が殊勝過ぎるのは気味が悪い。もっとクソ生意気なところを見せても俺はキシリアの

ように咎め立てせんぞ!」ダリルが突撃機動軍出身なのを知っているドズルはダリルの態度を

あちらの風潮なのだろう、と思いこちらは少々の増長も強ければ良しとすると言ったが、

ダリルは「頭が低いのは生来の性格でございます。何卒ご容赦を」とさらに謙遜する。

その様子にガトーは接触回線を通じて「ドズル閣下の仰るとおり勝ち誇って良い」と言おう

と思ったが、灰色のザクが「閣下。そのように若者を苛めんで下さりますよう」と貴族的な

仕草でドズルの前に進み出た。

 

「カスペン!どうだ?貴様の部下は頼りになるであろうが!」ドズルは笑いながら胴間声で

麾下の連隊長を褒め称えた。カスペン大佐は「閣下にここまでの戦力をお預け頂き、このカスペン

恐悦至極に存じます」と貴族的に畏まる大佐。「しかしながら、ここまでの戦力を任された

以上、負けは許されませんな。次の戦では一命を賭して望みましょうぞ」と次の戦闘、

おそらくはソロモン防衛戦への意気込みを主に示した。

「意気込みや良し。だが、勝手に死ぬのは許可せんからな。残った手足を失っても帰還せよ。

幸い今はローレンツ少尉のように傷痍軍人も活躍する術があるからな!いや、失言だったか、

許せ…」とドズルのザクは頭を下げた。「いえ、閣下の仰る通りであります。両足を失った

自分がこうして公国に身を捧げられるのは喜びに耐えません」と敬礼するダリル。

「そうか、すまんな…」ドズルも人の親である。少年が自らの両腕を祖国に捧げて嬉しい、

と言うのは痛ましい。

この模擬戦の後、ドズルは第302哨戒中隊に感状を出した。新兵器ザク・イモータルの

性能を演習で十全に発揮させ軍の士気を向上させたが為である。加えて増配も行った。

せめてローレンツ少尉には腹いっぱい食って欲しい。自分にはこれくらいしかできない、

とため息をつくドズルであった。

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== サイド6

 

フラナガン機関の研究施設はサイド6のパルダコロニーに置かれていた。

中立コロニーに機密度の高い施設を置いていたのは必要な人材=検体を確保する都合であった。

機関の研究所には地球各地やコロニー、月面都市から集められた検体、子供たちが所属していたが

その中で屈指のNT能力を示していた検体、マリオン・ウェルチの保護者兼主任研究員である

クルスト・モーゼスは焦りを募らせていた。

 

機関に新しい検体、しかも極めつけに能力の高い者が入ってきたからだ。ゼロ・ムラサメ、地球の

ムラサメ研究所が唯一開発に成功した強化人間零号。月面グラナダでその能力を活用しストリート

チルドレンを束ねていたクスコ・アル、既に実戦経験を持つニルス・テオレル。

3人は入ってすぐに行われた能力試験で非常に高い成績を上げたのだ。

ゼロは即時実戦投入が可能なレベル、クスコは妹分を自称するレコア・ロンドと共に試験に

臨むと特に高い能力を発揮した。ニルスはMS操縦技能で一部ゼロを上回る成績を上げた。

このままでは彼の検体、マリオン・ウェルチの立場が危うくなる。

 

さらにモーゼスは自身の研究テーマ「対NT用戦闘システム」の開発を所長であるフラナガン博士

直々に停止させられた。「貴重な検体を危険に晒すリスクは犯せない」と言われのだ。

彼のEXAMシステムがマリオンを危険に晒している、という告発があったようだ。

彼はチームの研究スタッフの顔を思い浮かべながら「人類の裏切り者」を心の中で探していた。

だが、そうしたところで窓際研究員となった彼に何の権限がある訳でもない。

私をマリオンの飼育係とでもフラナガンは思っているだろう、と歯噛みする毎日を送っていたが、

ある日彼の携帯端末に記憶にない差出人のメールが入り彼の鬱屈した日々は終わりを告げた。

そのメールには連邦軍の軍用AIの技術資料が置かれたURLと共にと彼の亡命を歓迎する、という

文面が書かれていたからだ。連邦軍のAIは彼の構想を具体化できるだけの性能を持っていた。

恐らく連邦軍にも彼と同じように新人類の脅威を感じている分子がいるに違いない、彼らは

私とEXAMを必要としているのだ、とモーゼスは考え文面にあった亡命のチャンスを待った。

 

メールを受け取った5日後、被験者ララァがいきなり「マリオン、モーゼス博士と一緒に散歩に

行きたい」と言い出し、モーゼスは驚きながらも亡命のチャンスが来たとばかりに賛成し、散歩に

同行した。

護衛兼監視役を大勢引き連れ散歩に出かけること4日が過ぎ、もしかして本当にララァは散歩に

行きたいだけなのでは?と思い始めたモーゼスだったが、路上で黒塗りのバンが歩道に突っ込んで

くるのを見て(遂にその時が来た!)と手を上げて「こっちだ!」と叫ぼうとした瞬間、

背中に拳銃を突きつけられ「声を出すな」と言われた。振り向こうとすると「後ろを向くな」と

言われ銃口が背中にめり込む。モーゼスは凍りついたように硬直した。

いきなり立ち止まったモーゼスの様子にマリオンが振り向くとバンが背後に停止し、車内から

伸びた手が彼女を引き込んだ。ララァはそのまま車に乗り込み、走ってバンに乗り込もうとした

モーゼスは「走るな」と背後の男に言われ歩いてバンに乗り込んだ。

 

「やれやれ。少々手荒くはないかね?」とバンの車内でボヤくモーゼス。彼に拳銃を突きつけた

男は一緒にバンに乗り込んでいたが、表情を変えずに「博士は自発的にではなく拉致された、と

ジオンに思わせる必要があったのです」と言われ「そうだな、うん。蒙昧なジオンにはそう思わせ

ておけばいい。その隙に私は研究を完成させよう」とモーゼスは納得した。

ダグザは(何か調子のいい男だな)と思いながらも初めての工作任務を完遂できそうで

胸を撫で下ろしていた。




あけましておめでとうございます。
年末に33話を書き進めていましたが、結局年を越してしまいました。

今回の主人公ギレン・ザビですが、本人に転生する話は別としてほぼ舞台装置みたいな
扱いなので、今作では少しこすってみようと思いました。
セシリア・アイリーンはジオン側の転生者として暗躍させるにはもってこいの役柄と思い
登場させた次第です。
ギレンがセシリアの言うことをあっさり信じるのも転生モノあるある、ということで
ひとつお願いしますw

こちらも新登場のグレミー・トトですが、今作ではギレンと親子としております。
金髪碧眼とザビ家にいない風貌なのはギレンの意向が働いてそうなった、という
設定にしております。キシリアも小説版で「金髪の男と結婚して、キャスバルや
アルテイシアのような子供を生みたい」とか10代の頃に空想してた、という
描写があり、仲の悪い兄妹ですが、美男美女の基準が同じような気がします。

もう1人の転生者カーラ・ミッチャムの作品、ザク・イモータルとダリルは前線に配属
されます。エースのガトーすら手こずらせる性能を発揮したダリルですが、ガトーは
追い詰められたとこから滅茶苦茶に強い気がするので模擬戦はダリルの勝利に終わった
訳ではないと作者は思っています。

ララァとマリオン、ついでにモーゼス博士の亡命は成功しそうですが、首尾は
次回となります。

ここのところ投稿ペースが落ちてしまいました。今年は少しペースを上げていきたいと
思っております。今後ともよろしくお願いいたします。
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