リストラおじさん、ゴップになる   作:寒原光雪

34 / 51
ニュータイプの出番が多い回であります。
本作品のNT描写は作者の独自解釈でありますので悪しからずご了承ください。


革新の序章

==== サイド6領海線近くの宙域

 

指揮管制艦トリローチャナにランデブーした貨物船からランチが発進し、トリローチャナの

格納庫に着艦する。ランチからはノーマルスーツ姿の数人が降り立ちノーマルスーツのまま

CICへと向かった。

 

「ララァ・スンさん、マリオン・ウェルチさん、クルスト・モーゼス博士をお連れしました」

ダグザ・マックール少尉はこの作戦の司令官、オクスナー・クリフ准将に報告してやっと

この荒唐無稽な作戦が終わったことを実感した。

 

オクスナーは「少尉よくやってくれた。モーゼス博士、地球連邦は貴方を歓迎します。

ご一行にはこの後昼食を取っていただき、午後から今後についてご説明いたします」

とモーゼスと握手しながら言った。モーゼスは「クリフ准将でしたな。今後ともよろしく

お願いします。今回の亡命は人類滅亡を防ぎたい一心でのこと。力を合わせ乗り切って

参りましょう」オクスナーの手を握りながら真剣な顔のモーゼス。オクスナーは

「確かに今次大戦は後の人類史を決定づけるものになるでしょうな」と何も知らされず

に作戦の指揮を執った、という顔をしている。

モーゼスは(この男は同志ではないな)と思い一転愛想笑いをして

「ところで、ジャブローにはいつ行けるのでしょうかな?貴軍のAI開発陣と早く意見を

交換したいのですが」と尋ねる。

オクスナーは「この艦は既に軌道ステーションに向かって航行中です。そこでシャトルに

乗り換え降下ですな。およそ3日ほどでジャブローに到着するでしょう」と答えた。

ジャブローで何が起こるかはモーゼスにが「知らなくていいこと」なのでとぼけている。

 

ララァ・スンは居並ぶ軍人達をよそ目にレヴァン・フウめがけて飛んでいき、眼前に

跪き下を向くと「いと尊き方、やっとお会いできました」と感極まった様子だった。

「ララァ・スンさん、お立ちください。私はレヴァン・フウ、貴女と同質の能力を人為的に

付与された者です。貴女の夢の中に押し入り、尊大な態度を取り命令までした無礼を陳謝

します。だが、貴女達を救うにはこうするしかなかった。どうかそれだけは理解して

欲しいのです」

「レヴァン・フウ様とおっしゃるんですね。フウ様、どうか私のような者に謝らないでください

まし。あなたのような貴人に謝罪されると私のような者はどうしたらいいか困ってしまいます」

ララァはレヴァンの顔を見ないように目線を伏せながら困ると言った。

「ララァさんと呼ばせていただきます。貴女は素晴らしい方だ。どうかご自分を卑下する

のは止めてください」

ララァはしばし目を閉じ何かを感じ取る様子を見せると微笑みながら「では、お望みのままに

します、フウ様」と今度はレヴァンの顔を直に見ながら言った。

レヴァン・フウは少しだけ表情を崩したが、(これで良かったのだろうか…)という懸念は

晴れず、無邪気にララァがこちら側に来たことを喜べなかった。

--------------------------------------------

 

ゴップです。そちらでは新年でしょうか?本年もよろしくお願いいたします。

さて、レヴァン、レヴがララァとマリオン、ついでにモーゼス博士をジャブローに連れてきた。

ララァとマリオンがこちらに着いてすぐ心理カウンセラーがかけつけ、二人にそれぞれ担当が

付いた。担当カウンセラーは予断がないよう同志ではない女性が選ばれた。

 

「おかえりレヴ!それと少尉も頑張ってくれた」私はオフィスに着いたレヴをハグし、

ダグザ君を労った。

私のオーバーな感情表現にレヴは苦笑しつつ「お陰様をもちまして無事帰還できました」と

頭を下げ、ダグザもピシッとした敬礼をしている。

「レヴ、今晩は何を食べたい?キャシーからの命令でね、君から聞き出して報告しなきゃ

ならんのだよ」と私が肩をすくめるとレヴァンは微笑んで「奥様の料理は何でもとても美味しいの

ですが、あえて我儘を言わせていただくならトーフのステーキを」とリクエストしてくれた。

最近はレヴもだいぶ打ち解けて話してくれるようになった。相変わらず遠慮がちではあるが。

 

「そうだ、少尉、今度の週末私の官舎まで来なさい。二人の帰還を祝ってバーベキューと

洒落込もうじゃないか」と私が上機嫌で言うとダグザはえ!?と顔で「自分が閣下のご自宅に、

でありますか?い、いえ、嫌という訳ではありませんが、よろしいので?」ダグザの反応には

訳がある。連邦でバーベキューと言えばアメリカンスタイルである。一家の主人が庭に置いた

グリルで肉を焼くのだ。それも長時間かけて。

何十年も勤め上げた叩き上げならともかく学校を出たばかりの少尉が大将のBBQに招かれる、

というのは緊張するのだろう。「明後日にはバスク君も帰ってくることだし、二人で来なさい。

お土産は君の武勇伝ということで手ぶらでね」とは言ってもバスクはケーキを持ってくるだろう。

(キャシー)(ドロシー)が喜ぶな。妻は私がPXで買ってくる「バスクの悪魔」が大好物だ。

 

その晩、レヴと久しぶりに我が家で夕食を共にした。妻が焼いたトーフステーキを美味そうに

食べるレヴを私と妻はにこにこしながら見入ってしまい、娘に「なに夫婦でにやにやしてんのよ」

とからかわれた。

 

週末は我が家の庭でBBQパーティだ。招待客はバスクとダグザ、オクスナーと部下の二人、私の

スタッフとその家族達である。今日のため昨日の朝から肉の下処理をして、タレに漬け込んだ。

この日は朝早くからグリルに入れ、じっくりと数時間かけて炭で火を入れる。

本格的なのは十何時間も火を入れるのだが、公務があるんでそこまではできない。

まぁ、大会じゃないホームパーティなんでいいでしょう。

 

肉料理はポークにじっくり火を通したプルドポークにローストビーフ、ビールの樽にチキンを

突っ込んで蒸し焼きにするビアチキン、ラム串などバラエティ豊かにした。ほら、宗教上の理由

とかで食べられない肉とかあるじゃないですか。私が務めるコンロの主、ピットマスターを補佐

するベテラン、サートン最先任曹長の意見も取り入れた献立だ。彼の頭脳には統合参謀本部、

メンバー全員の好みが記録されている。

サイドメニューは妻が作ったサラダやマンマ中佐手打ちのピッツァ、娘は焼けた肉を次々と

バーガーにして客に振る舞っている。妻とマンマを中心に奥さん連中の輪ができ、二人で

彼女らの愚痴を聞く会が開かれていた。

 

バスクはダグザと二人でしきりとレヴァンに肉を勧めている。あまりのしつこさにレヴァンは

苦笑いしながらサラダを食べる手を止めてバーガーをほうばった。

「君達も肉を食べなさい。二人が食べる分を勘定して肉の量を決めたんだからな」と私が

いかにも量を食べそうな二人に肉を勧めると、二人共すごい勢いで肉をほうばり、ビールを

飲んだ。その様子をにこにこしながら見てるレーチェル中尉に私は

「いやぁ、惚れ惚れする食べっぷりだねぇ」と話しかけると「ええ、本当に」とにこやかに

答えるレーチェル。

私は「この後、ダグザをこっちに引きつけとくから、バスクを飲みに誘いたまえ。あの男は君の

ような美人を自分から誘おうなど考えもしないからね。君からアクションしないと」

とお節介を言った。戦争中だからね、何があるか分からんから未練がない生き方をしないきゃ。

レーチェルは「そうですね。今晩は彼を誘ってみます」と言ってくれた。

 

オクスナーは「どうも肉の脂は胃にもたれますな」と言いながらローストビーフやチキンを

おかずにマッシュポテトを何皿も食べてる。君も医官にダイエットするよう言われてたよね。

私が「君、ビールはノンアルのにしたまえ」と言うと、オクスナーはそんな殺生な!という

顔になり、部下2人にからかわれた。ま、何日も眠れなくなるほど心配をかけた報復だよ。

ノンアルコールビールを堪能してくれたまえ。

 

デザートはやはりバスクが持参したバスクチーズケーキとマンマが持ってきたイタリア風の

ドルチェ、ウォーレン大佐が買ってきたアイスクリームだ。甘党の大佐がレコメンドする

スイーツは女性陣や子供たちに人気がある。

 

BBQが終わると私はダグザに「すまんけど、後片付け手伝ってくれないかな?」と頼むとダグザも

気を利かせたのか、「はい、お手伝いします。大尉、お先に寮に帰っていてください」と一緒に

手伝おうとしたバスクを制した。うむ、若いが気がつく男だ。

するとレーチェルがバスクに「大尉、ご迷惑でなければ送っていっていただけません?」と

アルコールで少し赤い顔で言うので、バスクは別の理由で顔を赤くして「は、はい。お送りします!」

と二人で連れ立って帰って行った。やったね。

 

週が明けると私は「地下牢」のモニカ・ハンフリーに隠し部屋から通信を入れた。

モニカはいつものように誰に着せるわけでもない編み物をしている。

 

「やぁ。実はジオンのニュータイプを救出してきてね。君にも彼女らの話すことを聞いて欲しい」

と話しかけると、彼女は目を輝かせ「まぁ!是非聞かせてください!お役に立って見せますわ!」

とやる気を見せた。私はララァとマリオンの供述、一見とりとめないのない話のVTRを見せた。

モニカは「ジオンはサイコミュ兵器の実用化にあと一歩というところまでこぎつけてますね。

ただ、あくまで探知と長距離誘導兵器のFCS、という位置づけで指揮管制への適応は消極的な

ようです。これは軍の編成に関わりますから、上層部というかギレン・ザビの一存で方針転換

する可能性はあります」と話を聞いただけで分析してみせた。

「うん、分析チームの結論と一致したね。ポイントを進呈しよう。それと以前データを見せた

RX-78に搭乗したアムロ・レイ軍曹だが、それらの兵器に対抗できるかね?」これを聞きたくて

このMADに通信を入れたのだ。

モニカは「レイ軍曹の反応速度なら十分に対抗可能ですが、サイコミュを持っていない機体では

探知距離の差で常に敵が先手を取ります。

RX-78が格納庫にいる間に母艦ごと撃沈される恐れはあるでしょう」と澄ました

顔で言う。つまり…

 

「レヴァン・フウを第13独立戦闘団に参加させないと負ける、と言いたいのだね?」

とじろりとモニカを睨めつける私。

「ええ、レヴァンの能力なら敵の先手を打てるでしょう。サイコ波を逆探知するのでより長い

距離でより早く敵のNTを探知できますから」やはり、そうなるか。

私はレヴに戦場に行け、と命じねばならないのか…

「分かった。1ポイント進呈だ。君の食事が少し豪華になる」と私は言い放つと通信を切った。

 

5日後、レヴァンとダグザはサイド7へと赴任していった。私はレヴとハグするとダグザと

握手しながら「くれぐれもレヴを頼むよ、ダグザ君。少佐にもよろしく言っておいてくれ」

とおよそ将官とは思えないおろおろとした有様で頼み込んだ。だって実戦部隊ですよ。いくら

レヴが乗るのがペガサス級といえどビームの直撃とか機関部にバズーカとか食らったら…

私は時間が許す限り二人の乗ったシャトルをモニターしていた。

--------------------------------------------

== サイド7 7バンチ 13独戦司令部

 

ミライ・ヤシマは戦争が始まってすぐにサイド7で軍に志願し、5バンチで4週間の促成士官養成

コースを受講すると非常に高い成績で卒業した。配属先は志望が叶い13独戦となった。

役職は戦術オペレーターと移動司令部となる指揮型ガンタンクのドライバーである。

指揮型ガンタンクは従来のRTX-65の後継として開発されていたが開発が中止されたRTX-440を

ベースにセンサーアレイと強力な通信システムを備えた指揮管制車両である。

主砲を撤去しているが、両腕にミサイルランチャーと90mm対MS機関砲を備え、近距離戦で

自衛する程度の火力は持っていた。

もっとも、ガンタンクが出動するのは要塞ないし、コロニー攻略戦とされ、航海中は旗艦の

ペガサス級ホワイトベースのCICでオペレーターに専念するのだが。

 

13独戦には2名の先任オペレーターがいた。ミユ・タキザワ軍曹とノエル・アンダーソン伍長だ。

タキザワ軍曹は真面目かつ目端の利く性格で促成の新品少尉であるミライの世話を甲斐甲斐しく

焼いてくれてすぐに親しくなれた。士官学校を休学して前線を志願したアンダーソン伍長

のMS戦術に関する知識は指揮官のベッカーズ少佐も一目置く程で、一通りしか習っていない

ミライには絶好の教師だった。軍曹と伍長もミライの大財閥の令嬢らしからぬ飾らぬ性格と

細やかな気遣いにすっかり打ち解け、すぐに名前で呼び合う仲となった。

13独戦はこの3名のうち2名が常に当直に着いている体制をとっている。

 

戦闘団の主兵力たるMS部隊の少年兵達も親しみのおける「お姉さん」であるミライに懐き、特に

ウモン軍曹は司令部のオペレーター席の近くに用もないのに居てミユに「あなたねぇ、搭乗員は

待機室にいなきゃ駄目でしょ?」と説教される始末だった。するとミライが気の毒になるほど

しょぼんととして待機所に帰るウモンだったが、いつの間にかまた、ミライ達の近くに今度は

ゲーツ伍長を連れて来てミユが買ってきた菓子を食べていた。

 

今度はノエルが2歳年下の上官に「軍曹、搭乗員は訓練の無い時でも己を高めるべく自主トレー

ニングに励むべきです。コバヤシ軍曹を見習ってジムに行くべきでは?」と苦言を呈したが、

ウモンは「いや、コイツがさぁ、腹が減ったって言うから」とゲーツをヘッドロックして

弁解し、ゲーツに「オメェが菓子食い放題のとこがある、っていったんじゃねぇか!」と

反論された。ミライはしょうがないわねぇ、という顔になりながら「ねぇウモン、チャーリー

少佐の訓練メニューをこなしてるだけではアムロ達には到底追いつかないわ。

あなただって一度は模擬戦で勝ちたいでしょ?」と少年の負けん気を刺激した。

 

するとゲーツが「そうだぜ、ウモン。俺たちはこんなとこで油売ってる暇なんかねぇんだ。

このまんまセンパイ達に1勝もできなきゃ、ここを追い出されるかもしれねぇ…」と焦りを

滲ませた。ウモンとゲーツは13独戦に着任して1ヶ月、模擬戦で敗北しまくっていた。

野生動物の勘を持ったゲーツ的には怪物アムロが群れのリーダー、カイとジョブが2位

グループ、ハヤトとダンクがそれに続くという認識だった。彼らに一度も勝てない自分と

ウモンは群れの最下位である。そのせいかゲーツはアムロ達を「センパイ」と呼んでいた。

自分の乗るRX-79と78の性能差かと思いウィリー大尉の1号機に乗せてもらったが、自分用

に調整された79程の性能が出せず惨敗に終わった。

ウィリー大尉は「まだ君達は育ち盛りで身体が出来上がってない。まずは体作りからだな」

とゲーツとウモンの食事を増やし、筋トレをさせた。

 

ゲーツはMSに乗る時間を増やしたがったが、ウモンの方は「あの感覚さえ思い出せれば

アムロ先輩相手だっていい勝負できるんだけどなぁ」と焦っていなかった。

「何度も聞いたよ、それ。スローモーションに見えるんだろ?ただの錯覚だっての!」ゲーツは

取り合わなかったが、アムロはウモンの言うことに耳を傾け、大人達、特にナカモトとバルトは

「ニュータイプは現実をそう認識するのか…」と熱心にウモンの話を聞いていた。

ゲーツは(待遇を良くするためにホラ吹いてんだろ)と思っていたが。

 

そうこうするとミユから連絡を受けたか、ジョブ・ジョン曹長が「おらー、ガキども行くぜ。

シミュレーターでしごいてやっからよ」と迎えに来た。ゲーツは「願いますセンパイ!」とやる気

を見せたが、ウモンは「えー、しょうがないっスね」と嫌々着いて行った。

その様子を見てミライは「あの子達、まだ中学生のはずなのに…」と独りごちるとノエルは

「でも、彼らはことMS戦に置いては大人に倍する能力を持っています。遊ばせておく余裕は

連邦には無いんです」と苦言を呈された。父親をハッテ沖海戦で亡くしているノエルにそう

言われてはミライは何も言い返せない。できるのはため息をつくくらいであった。

--------------------------------------------

== サイド6 パルダコロニー

 

フラナガン機関は急遽ジオン本国への移転が決まり、職員総出で作業に追われていた。

既に被験者は全員、迎えに来た軽巡に搭乗すべくベイブロックへと移動している。

そのバスの最後尾の席でふんぞり返りながらクスコ・アルは「どうやら、ララァとマリオンが

攫われたってのは本当だね。あの親父が二人を手土産に連邦に寝返ったんだろうさ」

彼女はNTを目の敵にするモーゼスを当然に嫌っていた。すると妹分のレコア・ロンドが

「あのクソ親父、前から連邦に通じてたみたいですよ」と、どこかで聞きつけた噂を話した。

 

「アタシ、ここんとこ夜頭痛くてさぁ…」とミハル・ラトキエが関係ない愚痴をこぼすとレコアは

「ミハルねえさんは過労ですよ。新型機だか何だか知らないけど根を詰めすぎなんですって」と

返す。レコアは機関の新入り二人をなにくれと世話を焼いてくれたミハルに恩義を感じ

「ねえさん」と呼ぶようになっていた。

ミハルは笑いながら「でも、新型機が完成すれば成績が下の子が何人か助かるんだよ。

ここで頑張らなきゃいつ頑張るんだい」と返してレコアは「本当にねえさんはお人好しなんです

ねぇ…」と呆れさせた。

 

クスコは「でもミハル、あんたが潰れちまったら弟と妹はどんな目に合わされると思うのさ。

ちっとは自分をかわいがりなよ」とストリートでのサバイバル経験からアドバイスするが、

ミハルは「NTだかになったお陰であの子らのことも他人と思えなくなっちまってね。今更

見捨てられないんだよ…」としみじみした口調で返した。

「ちぇ、しょうがねぇからあんたも込みでアタシが面倒見てやるよ。月じゃ『クスコ姐さん』

ってちっとは名が通ってたんだ。フラナガンに掛け合って処分だかはナシにしてやるから

安心しな、ミハル」と胸を張った。レコアは「あのゼロとかいう無愛想にも手伝わせましょうよ。

姐さんのテクニックならいちころですって」といやらしく笑う。

 

クスコは肩をすくませ「ヤロウ、アタシがコナかけても相手にしやしないんだよ。ホモなんじゃ

ないのかね」と誘惑しても相手にされなかったと言った。

「ニルスとかいう陰気な軍人はアタシがトイレに連れ込んで胸触らせてやったら真っ赤になって

間食のケーキ分けてくれましたよ」とレコアは得意げに戦果を報告した。

ミハルは「あんた達、ちっとは自分を大切にしなよ」と苦言を呈するがクスコは「生憎アタシらの

貞操なんてもんはとっくに売っぱらっちまってね」と相手にしない。二人の身の上を知っている

ミハルには何も言い返せなかった。

 

少し前の席に座っていたニルス・テオレルは(僕のこと、喋ってる…)と憂鬱だった。

いつものようにマリーと話していたら、あのレコアとかいう柄の悪い少女にトイレに連れ込まれ

ほぼ無理やり胸を触らされ、それをネタに脅されてケーキを巻き上げられた。

(あいつ、秘密にするって言ったのに…。酷いよね、マリー)ニルスは再び脳内彼女との

会話に没入していった。

 

ゼロ・ムラサメは目を閉じながら(フラナガンは俺を人間に戻す技術も意思も無いらしい。

ジオン本国で他所に行くしか無いな)と今後の立ち回りをシミュレートしていた。

--------------------------------------------

== サイド4

 

喪服姿の男女と礼装姿の軍人がホールに集まっている。葬儀のようだ。会場には故人が好きだった

カントリー&ウエスタンが流れている。

「ちぇ、しみったれた曲だ…」イオ・フレミングは毒づいていた。今日は彼の父親、フレミング

インダストリーCEOの葬儀であった。先日突然倒れ、意識を取り戻すこと無く逝ってしまった。

 

「セイス小父さん、いえクラークCTOによれば改良されたレオがまたザクに散々な目に遭わされて

悪態を付きながらバーボンをあおってたそうよ。怒鳴ってたらいきなり倒れたって」

と姉のキャシー。

彼女は昨日の緊急役員会でクラークとDr.J、他の役員の支持を得てCEOに就任していた。

 

「あのクソブリキ人形、親の仇になっちまったか。だから俺は親父にMS開発なんて止めとけと

言ったんだ。そんな簡単なモンじゃないってな。だけど、あのクソジジイがなんとかモノに

しちまうもんだから…」と葬儀に顔を見せないDr.Jを罵るイオ。キャシーは「博士にあたっても

しょうがないでしょ。それよりレオは生産をストップしたわ。戦闘MS事業は整理して特許は

ともかく売れる物は全部お隣りに売る。以降ウチは作業用MS事業に注力します。

アンタも非番の時は宣伝に協力しなさいよね。エースなんでしょ」と今後の社の方針を

株の何十%かを保有する大株主でもあるイオに告げた。

 

「えー!?『Hi、今日はウチの最新作を紹介するよ!』とか言いながら作業用のブサイク

なのを動かしてみせるのかよ。やだなぁ」イオは気が乗らないが、キャシーは

「作業用機械のお陰でアンタは贅沢してあのクソヒコーキまで飛ばせたんじゃないの。少しは

感謝しなさいよ、お坊ちゃん」と取り合わない。「ジオンもウチはともかく他所のコロニーを

少しは壊してくれれば、建て替え需要があったのに…」と、酷いことを言う新CEOの姉にイオが

「他人にそんなこと言うんじゃねぇぞ。株価に響くぜ」と小声で警告する。

「アンタだから言ったのよ。あとの愚痴はJおじいちゃんに聞いて貰うわ」とキャシー。

彼女はJを祖父のように慕っていた。Jの方も孫のように彼女を可愛がり、ムーア同胞団の軍服など

彼女の趣味に合うようデザインした過去がある。

 

「でも、俺サイド7に転任するからしばらくこっち帰ってこれねぇわ」イオはさらっと言うが

「アンタこそ、それって軍機じゃないの?」とキャシーは少し焦りながら弟を問いただした。

「まぁな。姉ちゃんだから言ったんだ。AE.の牙城に潜入して来るぜ!」とサムズアップする

イオ。すると下士官の礼装姿の少女が「イオ少尉、ワイアット司令がお悔やみ

をと…」とイオを呼びに来た。「AA、了解だ。姉さん、少し外す」とイオが去ると

キャシーに声をかける者がいた。

 

「まぁ、シャルンホルスト!父は生前、自分に何かあれば貴方を頼るよう言って

おりましたのよ!実業家としての貴方を父は尊敬しておりましたから…」と隣の

サイドからの弔問客に応対した。

「マイッツァーはお元気?え、お子さんが?念願の初孫ですわね!」と親の葬儀とは

思えないテンションでサイド1の王と話し込むサイド4の新女王。

「えぇ、レオの事業は御社に譲渡しようかと。条件面は息子さんと詰めてますわ、えぇ、

ではそのように…」

 

イオ・フレミングは弔辞なのか皮肉なのかよく分からないワイアット中将の言うことを

直立不動で聞きながらも、周囲に気を払っていた。父の死をきっかけにフレミング家の

支配体制を覆そうと画策している者が居ないか、反乱の兆候がないか、聞き耳を立てていた。

王家に生まれた者の習性とも言える。(まぁ、姉ちゃんはともかく俺は地球でレシプロ機飛ばして

暮らせりゃ、それでいいんだけどね…)一方でイオは放蕩息子でもあった。

--------------------------------------------

== 航路から数万キロ離れたとある宙域

 

「これが最後の補給か…」偽装貨物船の船長は独りごちた。船に推進材を補給したパゾクが

離れて行く。偽装貨物船はその貨物室にコムサイ突入艇を8機搭載している。5隻の貨物船で

都合40機のコムサイを搭載していた。今回の奇襲作戦を成功させるべく、表向きはサイド6

を目指している筈の船団はその遥か手前で航路を外れ、連邦軍やサイド6警備隊に見つからぬ

よう、不経済な進路を取ってここまで来た。

 

船団が地球周回軌道に達するとカーゴベイを開きコムサイを降下させる。

コムサイはそれぞれ2機のザクを収納し、80機が降下する予定である。全機降下次第、

船団は投降信号を発して連邦軍に投降する手はずになっていた。

連邦軍はその建前から非武装の輸送船を攻撃しないだろうし、船長はじめ今回の奇襲作戦に

参加した将兵の供述を取るため投降は受け入れられるだろう。

捕虜になったら欺瞞情報を混ぜた供述をする手はずだ。本当のことも言うので敵情報部は

精査に時間を取られるだろう。

 

「あの海のものとも山のものともつかない試作機、どこまでやれるものか…」船長は

船団の最後尾につけている球型タンクを備えた偽装タンカーを一瞥して独りごちた。

--------------------------------------------

== サイド2鎮守府

 

「納得できません!」501戦闘団 団長マスター・ピース・レイヤー中佐が画面の向こうにいる

第1艦隊司令、レビル大将に食って掛かっていた。直属の上官、ホーキンス大佐では埒が

明かないと思い、「ハッテ沖海戦の英雄」という自身の評判まで使ってレビルに直訴に及んだの

である。

 

「まぁ、604から異動してきたばかりのカジマ大尉を転出させよ、というのに納得がいかん

のも分かる。今回の人事、統合参謀本部の意向で私も心から同意できるものではない」

レビルは命の恩人でもあるレイヤーの抗議に自分も参謀本部のやり口に異論がある、と

返した。

 

「そうです!団の発足以来、一貫して自分はカジマが必要だと言ってきました。それがやっと

叶って彼のU中隊を迎えることができたんです。大尉も中隊も最近やっとウチに馴染んできた。

それを『新兵器の開発に使うから寄越せ』はないでしょう!あと、後任のアイルワード

はロクに実戦経験も無い士官でしょう。ウチじゃ中隊長はおろか小隊長も務まりませんよ!」

普段は冷静沈着なレイヤーの荒れ様にレビルは驚いたようだ。

その後ろに控えるホーキンスは艦隊司令に食って掛かる部下の剣幕に冷や汗が止まらない。

 

「君の気持ちはよく分かった。しかしだね、私としてもただ『カジマ大尉は出せません』と

ゴップ大将に言う訳にいかんことも理解して欲しい。何か対案はあるのかね?」レビルはなんとか

レイヤーを宥めようとしてユウ・カジマを諦めるよう参謀本部を納得させる対案を出せ、と

言った。

 

「クレア・キルマー中尉が志願してくれました。彼女がカジマ大尉に代わりサイド7へ行きます。

カジマ程ではありませんが、我が戦闘団随一の腕を誇る女性パイロットですよ」

「戦闘団随一って君のとこはあと3人くらいしか女パイロットおらんじゃないか」レビルは顔を

しかめるが、レイヤーは「それに彼女は積極的にコミュニケーションを取る性格で口下手の

カジマよりテストパイロットに適性がある、と自分は考えます」と澄ました顔で言う。

レビルは「君の開戦時からの実績を鑑み、具申を聞き入れることとしよう。ゴップ大将には

私から言っておく。この話はこれで終わりだ。実はこの後飛行訓練で機体を格納庫に待たせ

てるんだよ」レビルは新型機GW-02に早く乗りたくてしょうがないらしい。

 

「感謝します、司令」「ああ、この借りはソロモンで働いて返してくれ給えよ、じゃ」通信が

切れるとレイヤーはガッツポーズを取った。この日、レイヤー中佐はカジマ大尉とキルマー中尉

をバーに誘った。特に貧乏くじを引かせる形になったキルマーと話したかった。

その晩、カジマはずっと黙ってグラスを傾け、レイヤーはキルマーに十数回頭を下げた。

キルマーは笑いながら「例の部隊、少年兵ばっかりだって噂ですよ。私、年下好みなんです」

と冗談を言うと上官二人が(え!?)という顔をしたので「冗談ですって冗談!」と慌てて

打ち消した。レイヤーは苦笑しながらも「手は出さんで欲しいが、向こうではケンプ大尉と

よく相談して子供たちが軍内部で上手くやっていけるよう指導してくれ」とアドバイスした。

「私に指導ができるかは疑問ですが、全力を尽くします」クレア・キルマーは答える。

ユウ・カジマは一度だけ、「すまない、クレア…」とだけ言って黙々と飲んでいた。

--------------------------------------------

== サイド7

 

クレア・キルマー中尉とイオ・フレミング少尉、アリシア・アルバート軍曹の3名が加わり、

13独戦のMS中隊は11機編成となった。中隊長ウィリー・ケンプ大尉が率いる本部小隊に

カイ・シデンとハヤト・コバヤシ、第2小隊はキルマー中尉が率いアリシアとウモン・サモン、

ゲーツ・キャパが、イオが率いる第3小隊はジョブ・ジョンとダンクが、第4小隊はアムロ単騎で

小隊を編成している。

 

「3、4、3、1の4個小隊とはなんか座りが悪いですね」イオ少尉は連邦のセオリーから外れる

編成に違和感を感じたが、クレア中尉から「だけど、小隊の数が多い方が手数は増える。小隊長の

腕の見せ所よ」と発破をかけられ「そうですね。やって見せますよ」とやる気を見せた。

 

中隊長ウィリー大尉は「ソロモン戦までにあと何人か『素質のある』搭乗員が加わる予定だ。

少尉もうかうかしてるとホワイトベースでお留守番になるかもしれんぜ」といつものドヤ顔で

イオを脅かした。

 

イオは「今のとこ、自分は最下位ですからね。精進します」と彼にしてはしおらしい。

新加入の3人は洗礼として古株との模擬戦を行ったが、クレアはアムロにこそ秒殺されたものの

ウィリーやカイ、ハヤト、ジョブ相手に善戦し、ダンクとウモン、ゲーツに勝利していた。

アリシアもウモンに勝利し、ゲーツとはライフルのEパックを使い切って引き分け、イオだけが

全員に敗北し、ウモンとゲーツに初勝利をプレゼントする羽目になった。彼自身はジョブと互角

と思っていたので大層ショックを受けることとなった。

とはいえ、士官が少年兵の前でキレて見せる訳にもいかず「はは、君たち強いんだネ…」と気弱に

笑ってシャワールームに向かったイオだったが、一人になると「糞ったれ!!」と壁を殴った。

 

馴染みのジョブと人のいいダンクは「小隊長、小隊長」と自分を持ち上げてくれるが、カイなど

は「あの人、大企業の御曹司なんだってサ、なーんかスカしてるよな。ミライ少尉はもっと大きい

会社のご令嬢だってのに偉ぶらないのによ」と陰口を叩いてるそうだ。

ジョブが「もうちょっと愛想よく振る舞った方がいいスよ少尉。あんたが教えてくれたこと

でしょうが」と同僚の陰口を教えアドバイスしてくれたのだ。

 

「ニュータイプ部隊」に抜擢されたと張り切って来たがいいが、一緒に来た学徒兵のアリシア

より腕がない、と判定されイオ・フレミングのプライドはいたく傷ついた。

そのアリシアは女性の上官クレアに懐き「中尉、中尉」となにかとつきまっている。もっとも

同じ小隊のウモンも一緒にクレアにつきまとってるのだが。

 

生まれの良さと能力の高さ、人当たりのよさで切り抜けて来たイオにとっては人生初の逆境と

言えるかもしれない。「コーネリアスがいてくれたら…、クローディアの声が聞きてぇ…」

夜、ベッドの中で思わず弱音が漏れた。姉が言う通り自分は甘ったれたお坊ちゃんだった。

だが、このままでは終わらない。

「ここをクビになったらワイアット提督に何時間皮肉言われるか分からんしな」

嫌味な高級軍人の顔を思い浮かべなにくそと奮起するイオだった。

 

ウィリーはここに来た当初の凹んだ様子からだいぶ士官らしい顔になったイオを「ま、母艦に

待機になっても見目麗しいお嬢さん達と一緒だからそんなに悲観せんでもいい」とからかった。

イオは「いや、万一ミライ少尉と出来ちまったら、シュウ・ヤシマのイアイギリで首を落とされ

ちまいます。実家にも迷惑がかかりますし」と際どいジョークで返した。

パーティで顔見知りになっていたミライが13独戦の士官になっていたのは仰天したが、

父親のシュウ・ヤシマまでサイド7にいるのを知った時は(なんなんだよ、ここは。伏魔殿か…)

と思ったものだ。

 

今日は中隊総出の演習である。中隊規模まで数が増えたので、対外試合を解禁して他の部隊とも

模擬戦を行うようになった。今日の相手はマット・ヒーリィ()()が指揮するRGM-79実験中隊と

サイド7警備隊の同じくRGM-79中隊、単純に数で言えば13独戦の倍の数だ。

しかしながら、ケンプは中隊の全戦力で戦う気はなかった。アムロが参戦したら秒で演習が

終わってしまうかもしれない。今回はクレアとイオの指揮能力を査定する意味合いもあった。

「クレア、イオ、今日は第2、第3小隊がメインで戦う。2人がピンチになったらアムロ君が助けに

来るが、GM2個中隊くらいなんとかしてくれよ」と発破をかけた。2人とも「了解!」と景気よく

返事したものの、イオはまだ少し不安があった。

 

「JJ、実戦なら君に指揮を任せるとこだが、今日は俺の試験らしい。俺の指揮で戦ってくれ。

ダンクも頼む」「演習だから死にゃしないんだし、バーン!といきましょうよ」とジョブ。

「そうッスよ。少尉はもっと自信持った方がいいッス」とダンク。

イオは「そうだな、負けたって死にゃしない。いっちょ派手に機動して全弾発射といくか!」

と自身を奮い立たせるように気勢を上げた。

 

第3小隊は小隊長イオの乗るRX-78試作6号機、ジョブの乗る5号機、ダンクのRX-79 3号機の

編成だが、イオの赴任と共に各機ともGW-02『ガウォーク』の熱核ロケットをランドセル横に

搭載し、『RX-78L』と『RX-79L』となった。AE.のルセット・オデビー技師が中心となって

設計されたバリエーションで非公式には『ガンダムランサー』と呼ばれている。

もっともBM-01Lと異なり、主砲は右腕に装備した連装ビームライフルであり、その姿は長槍を

構えた騎士には見えない。背中の大型ロケットがBM-01L『ランサー』を想起させるだろう。

ルセットはBM-01Lに搭乗していたジョブとダンクから詳しく戦闘について聞き取りを行い、

設計に反映させた。お陰でジョブとダンクにとっては以前の愛機を思わせる乗り味ながら、

それを何回りも上の能力を持つ機体となった。もっともイオにとっては首が痛くなるような

Gが常にかかるとんでもない怪物マシンに感じられたが。

実のところ、最初の模擬戦で全敗したのはRX-78Lの性能に振り回されたからだ、と思っている。

士官が負けを機体のせいにするのは格好がつかないので黙ってたが。

 

第3小隊はその大推力が可能とする重武装を活かし切込みをかけるのが主任務である。

切り込みをかけ敵の陣形が崩れたところを本部小隊と第2小隊、そして第4小隊のアムロが戦果を

拡大する。その後、一度離脱した第3小隊は再度突貫をかけ残敵を追撃する。

敵の戦力によってはイオの機体がSFSとなってアムロのRX-78-2を運搬し一緒に切り込む戦法を

取ることもある。そのためイオのRX-78-6は大型の増槽を装備していた。

 

第3小隊の3機は各部のスラスターを全開にして敵編隊の側面に回り込んだ。対する実験中隊は

腕に覚えのある搭乗員ぞろいで、巨大なロケットを背負う「敵機」に狼狽えることなくビーム

カービンを向けた。だが、想定以上の推力を発揮する3機に照準が追い付かない。3機ともまっすぐ

飛んでいる訳ではなく、巧妙に回避機動を織り込んでいるからだ。

 

ヒーリィは「さすがはナナハチ。ジオンMA並みの推力であの戦闘機動とはな」と呟くと

実験中隊12機総出で3機にあたることとした。

GM12機が前方に位置取った瞬間、イオは「今だ!全弾斉射(ロックンロール)!」と叫ぶ。

2機のRX-78LとRX-79Lがビームライフルと機体各所に装備されたミサイルを発射した、

演習なのであくまで発射した体だが。

すると、ヒーリィ機のコックピットに中隊各員からの被害報告が殺到する。

先程の一斉射でGM6機が戦闘不能となり、2機が被弾していた。

「火力もMA並じゃないか…」驚嘆するヒーリィ。

次の瞬間、警備中隊から被害報告があがる。クレア中尉の指揮する第2小隊の射撃で

1個小隊が撃破されたらしい。

 

クレア・キルマー中尉の指揮する第2小隊は隊長機のRX-78 試作7号機、ウモンのRX-79 4号機、

ゲーツの5号機、アリシアの6号機で編成されている。元はユウ・カジマが搭乗する予定だった

ガンダム7号機は蒼い塗装が施され、長砲身のビームライフルを携行している。RX-79 3機も

ジェネレーターの強化を受け同様のライフルを携行していた。機体はそれぞれセンサーと通信

機能を強化されていた。

大型のライフルを持っているのは第2小隊の主任務が他の小隊の援護であったからだ。

援護が主任務とは言え、足を止めて狙い撃つのではなく、戦闘機動を取りながらの狙撃である。

BM-02D型とG型のように2機1組で狙撃するのではなく1機で索敵・観測と狙撃をこなせる

RX-78とRX-79だから出来る芸当といえた。RX-78D、RX-79Dと仮の型番を与えられた

機体は戦闘機動を取りながら大出力のレーザー通信で小隊4機によるリンク統制射撃を

可能としていた。

この演習でも自機と僚機の観測結果とAIの演算結果をやり取りしながらの射撃で警備隊の

GMを駆逐していった。

 

連邦軍の最高機密を守る警備隊のメンバーは厳しい選抜を経ており、決して弱兵ではない。

しかも、最新の量産機RGM-79に搭乗しており、倍の数の敵機と戦っても負けないと中隊長以下

自負があった。ところが、自分達が警護している筈の13独戦はとんでもない怪物揃いだった。

次の斉射でまた小隊が撃破され、警備中隊は逃げ廻った挙げ句に第5斉射で全機撃破された。

 

ヒーリィは白いRX-78が今まで彼が見たことも無い機動を見せながら何故か攻撃をかけてこない

のを訝しみながら、無視する訳にもいかずにいたが、結局大型ロケットを背負った敵機に追い立て

られ、実験中隊も全機撃破された。

 

「やりましたね!小隊長。やっぱバーと撃ちまくるのが正解だったでしょ?」ジョブが勝どき

を上げる。「少尉、最初の斉射で3機仕留めたッスよ。あと『ロックンロール!』ってのカッコ

よかったッス」ダンクもイオの腕に感心したようだ。「二人共、ありがとう。君等のお陰で俺の

面目も立ったよ」イオは自分の射撃が自己評価より随分と高くなったことに驚いていた。

「ま、人外なアムロ君はともかく、カイやハヤトだって501でも604でも、どこ行っても

エース級ですからね。その連中にこてんぱんにされても、普通かちょっと上くらいの相手なら

こんなもんスよ、少尉」ジョブは中隊長ウィリー大尉の声色をマネる。

「お~い、ヒーリィ大尉は『GMを知り尽くした男』って有名人なんだぜ。普通よりちょっと上

はキツすぎだろ」とイオ。

「でも、随分と簡単に勝てちゃった気がして正直拍子抜けスね」とダンク。

 

「RGM-79には更なる改良が必要だ」マット・ヒィーリー大尉はそう結論付けた。

今日の演習では積極的に動かなかったが、ケンプ大尉のRX-78は増加装甲を装着し、武装が

強化されていた。増加装甲はおそらく対ビームERAだろう。ビームカービンの直撃を何発かは

耐えるかもしれない。

黒い2番機はステルス塗装なのか、光学やIRセンサーで捉えにくく遂にその外形がはっきしない

ままで、モニターには「RX-78?」という表示のままだった。3号機は赤黒い宇宙では視認しづらい

塗装だったが、戦闘に参加せずどんな機能があるのか分からないままだった。胴体部に増加

装甲が装着されていたが。

 

戦闘に参加した第2小隊の機体は全て遠距離射撃を前提としたチューンがされていたようだった。

センサーの差かAIの差かその両方なのか、警備隊はなす術なく数度の斉射で全滅してしまった。

GMの搭載AIが今日の戦訓でアップデートされたから実戦ではここまで脆くないと思いたいが。

 

自分の実験中隊はもっと戦えると思っていた。しかし、12機がかりで3機に一方的に狩られた

のは事実だ。大推力の噴射炎に惑わされ、彼らが細かく軌道を変えながら飛んでるのに気づけ

無かった自分の落ち度だろう。隊員たちもオート制御に頼らずフルマニュアルで戦える程GMを

知り尽くしているが、格上を相手にすると存外脆い、というのがヒーリィの分析だった。

「今日遭遇したナナハチのバリエーション、アダムス少佐にRGMで再現する旨具申しよう」

負けてそこから戦訓を得るのも実験中隊の任務である。

 

演習の打ち上げでウィリー中隊長は搭乗員全員とオペーレーターを1バンチのステーキハウス

へ連れていった。少年少女達は今日の自分の戦果を声高に語りながら肉にかぶりついた。

士官たちはビールで乾杯しながら「中尉、少尉も今日はご苦労だった。ま、クレアは心配して

なかったが、イオはまだ吹っ切れて無かったようで少し心配だったんだ。それが杞憂に終わった

ようで俺は満足してる」中隊長の講評は高評価だったようだ。

「ジョブが『突っ込んでってバーン!と行け』ってアドバイスしてくれました。古参の下士官

ってのはありがたいモンですね。色々遠慮せずに直言してくれますし、本当に助かってます」と

イオ。

 

「ウモンとゲーツは機体と部隊の戦術に慣れようと真面目に訓練に励んでます。正直ここまで

やれる子達とは思いませんでした。アリシア軍曹は飲み込みがとにかく早くて2人のコーチ役

まで買って出てくれるので助かってます」とクレア。

声を聞きつけたのかアリシアが「中尉、私のこと助かってるって言いましたよね!やった!

中尉に褒められちゃった!」と大喜びしていると、傍らのジョブが「先任の下士官が当たり前に

することができてるってだけだよ、食い逃げ女」と皮肉を言った。以前、ジョブがクッキーで

ナンパしようとしたのはアリシアのようだ。

「何よ!ナンパ男!クッキー食われたくらいでガタガタ言っちゃってさ!イオ少尉みたく

鷹揚に構えなさいっての!」とアリシアが反撃する。

 

イオは「おいおい、ムーア生まれ同士仲良くやってくれよ。俺が隊内の潤滑油になっってくれって

団長に言われたんだからさ」と苦笑いしながら止めに入る。

ウィリーは「俺は訓練計画の策定と戦闘指揮で手一杯だ。少尉には期待してるぜ」とタコスを

ビールで流し込みながら肘でイオをつついた。

クレアとアリシアはミライ達オペレーターと何事か話している。どうやらPXで売っていない

コスメを買いに行く算段のようだ。ウモンが「オレ、ついてっていいですか?」と鼻の下を

伸ばしているとカイに首根っこを捕まれ「テメーは肉食えっての!身体作るのだって俸給のうち

だかんな」と口にステーキを押し込む。するとアムロが「中尉、僕もこの後買い物に行きたいので

、一緒にいいですか?」と同行を申し出た。するとミライが「中尉、アムロと一緒に歩くと不思議

とトラブルに出会さないんですよ。まるで予知でもできるみたいに」とアムロの特殊技能を披露

すると「嫌だなぁ、ミライ少尉。僕はそんなことできませんよ。厄介事の匂いみたいのがなんと

なく感じられるだけですよ」とアムロ。

カイは(そーいうのをエスパーって言うんじゃねぇの?)と思ったが、アムロをエスパー呼ばわり

すると機嫌が悪くなるので黙っていた。

ゲーツは「さっすがアムロセンパイ!ウモン、女性をエスコートする時はこうやって誘うんだぜ」

とドヤ顔をしている。部隊最年少の彼はすっかりアムロに心酔し、「アムロセンパイ一の舎弟」

を自認している。さっきまでアムロを見習って黙々と肉を平らげていたのだが、センパイの能力の

話題に口を挟んできたのだった。

 

ウモンは「何でアムロさんじゃなくてお前が偉そうにしてんだよ」と口を尖らせ、ハヤトに

「口は肉を食うために動かす。僕らは食べて背を伸ばさなきゃならないんだからな」

と再び口に肉を放り込まれた。

ゲーツは女性陣というよりアムロにくっついて行きたそうだったが、

「ゲーツ君はそろそろ寮に帰らないとな。ジョブ、ダンク、頼めるか?」と最年少を寮に送って

行くよう指示する。カイも「こっからは大人の時間みてえだから帰んぞ、ハヤト。ウモンを寮まで

連行だ」とまだ女性陣に着いて行きたがったウモンをハヤトが羽交い締めにして連れて行った。

 

ウィリーはイオと差し向かいの席に座り「実は貴様とサシで飲んでみたかったんだよ。

ジョブもカイも気が利く子でね」とバーボンの瓶をイオのグラスに傾ける。

「自分もです中隊長。何故、自分がこの部隊に選抜されたのか分からないんですよ。

正直のところ操縦の腕は少年兵達に及ばない。指揮能力も今日の演習は機体の性能で

勝てましたが、さほどのもんじゃない、と思ってます」イオは正直に腹の中のものを吐き出した。

 

「正直に言うと貴様は13独戦で一番下手な搭乗員だ。指揮能力もジョブ曹長のお陰でなんとか

格好ついてる程度だな。だけどな、貴様は伸びしろはあると俺は思ってる。チャーリー少佐だって

そう思ってるし、統合参謀本部もそうだ。上は青田買いのつもりで貴様をスカウトしたのさ。

腐らず訓練と演習を続けてれば、そこそこの腕と指揮能力が手に入るさ。俺の言う『そこそこ』

はかなりレベルが高いのは貴様も今日の演習で感じただろ?」とウィリー。

 

「ご期待に添えるよう全力を尽くします。ですが、もっと適任者がいたんじゃないかって

気持ちは付きまといます…」とグラスに視線を落とすイオ。

ウィリーは「俺だってそうさ。どういう訳か空軍のフライマンタ乗りがスカウトされて

RX-78なんてバカ高い機体を宛てがわれてよ、部下はみんな俺よりMSを上手く操れると来た。

でも、あの子らはみんないい子でな。俺の言うことを素直に聞いてくれる。この子等を

死なす訳にゃいかねぇ、と思うと頑張れるのさ。ジオンだけじゃなく軍内部にも

この部隊を『危険なミュータント部隊』と思ってる連中がいて『対NT兵器』なんてのを構想

してるらしい。そいつらとも()()()()()は戦わなきゃならんのだ。その為にゃ貴様

の実家だって利用させて貰うぞ、イオ・フレミング」ウィリーは真剣な眼差しでイオに自分の

信念を語る。

 

「そういうことなら大きな顔して居座ることにします。金なら手持ちの株を現金化すれば

そこそこあります。まぁ、統合参謀本部と繋がってるこの部隊ならそんな端金は必要ない

でしょうが」にやりと笑うイオ。生来のふてぶてしさが戻ってきたようだ。

「ま、貴様に期待するのは金じゃなくてコネだな。サイド1のブッホとか、月面都市の

名家とかの。貴様、ブッホジャンクの社長と幼馴染だろ?」

「俺に作業ポッドの操縦教えてくれたのは誰あろうマイッツァー・ロナですよ」とイオ。

 

「じゃあ、いざという時、ヤシマ家のニンジャとバーナムとかいうPMCも戦力として

計算できる訳だな」と悪い顔のウィリー。

実のところチャーリーとウィリーはシュウ・ヤシマに「ガンダム・センチュリー」の

実態を含め、全てを話し協力を要請した。

「まさかゴップ大将にそんな秘密があったとは驚きですが、ここ数年の連邦軍の急激とも

言える再編の理由が分かりました。センパイがしきりと私に企業買収を勧めた訳もね。

いいでしょう、ヤシマはその『ガンダムセンチュリー』に全賭けしましょう。既に貴方

がたにミライを預けていますから。それを盟約の証としてさせていただきます」と彼に

とって最も大事な娘を人質にする、と言った。

チャーリーは「貴方の判断次第でミライ少尉を害することはありません。第一ゴップ閣下が

許しませんよ」と微笑んだ。シュウは(この男はいざとなれば私の首を取りに来るの

だろう…)と思いながらも「娘をお願いします」と頭を下げた。

 

「まぁ、バーナムは金次第でビッグ・ブッホの裁可なしで動かせますから、便利ですよ。

なんならムーア警察の対テロ部隊をこっちに警備会社として派遣する手もあります。

ウチの部隊はMS戦闘は苦手ですが、生身での荒事ならまぁまぁの練度ですよ」とイオ。

「その対価はRX計画のデータだな?ま、その辺のことは俺じゃ判断つかんからチャーリー

少佐と話してくれや」とウィリー。

「クレアともこういう話はしたんだが、こういう関係は貴様の方が詳しかろうって

ことになってな。こうしてサシで飲んでる訳だ」

「俺を共犯者に仕立てたいワケですか…」肩をすくめるイオ。

「貴様もジョブ達に情が移ってるだろ?故郷の子らの為にノブレス・オブリージュって

のを発揮してくれよ、王子様」とグラスを傾けながらウィリーは頭を下げた。

「分かりましたよ。でも、実は俺、姉と仲悪いんですよ。どうしましょう?」とイオが言うと、

ウィリーは「頭を下げなきゃならん時はどんな相手にも頭を下げるのが男ってもんだぜ」

とドヤ顔で言った。

--------------------------------------------

 

ダグザ少尉がレヴの副官としてサイド7に赴任してしまい、私の副官ポストが一つ空いた。

派閥ボスの副官というのは派閥内派閥のパワーゲームの舞台となり、結局はオクスナーが

推薦する新品少尉、しかも戦時なので繰り上げ卒業、という本物の任官ホヤホヤの者が赴任する

ことになった。

 

「パウロ・ホセ・ゴンザレス少尉だったかな?」私が尋ねるとバスクは「そうです。士官学校は

ヨーロッパの名門ナイメーヘン士官学校卒ですね。座学・実技共にトップクラス、MS操縦適性も

持っていますね」と新しい副官のプロフィールを教えてくれた。MS操縦技能は副官任務にゃ

もったいない気がするけどねぇ。

 

そうこうしてると、私のオフィスに入室の許可を求める者が来た。私が許可すると軍服をきっちり

と着込み、髪を綺麗に整えた折り目正しそうな青年将校が入ってきた。その男は敬礼をしながら

こう言った「パプティマス・シロッコ少尉であります。よろしく願います」と。

え、えええ!? シ、シロッコぉ!?




今年2回めの投稿ですが、書き始めたのは今年ですので実質今年最初の投稿になります。
お陰様を持ちまして本作も10万UAに達しようとしております。ありがとうございます。

今回はNT成分多めになりました。最後の最後でヤバいのが登場しましたが、
何が起こるのでしょうか。

ゴップ家のBBQパーティは完全にNetflix「アメリカン・バーベキュー」の影響ですね。
「巨大バーガー、ど~ん!バケツみたなコーラ、ど~ん!」っていうアメリカ料理とは
また違った繊細な食文化があるのを教えてくれるリアリティ・ショーです。
ネトフリが見られる環境の方にお勧めします。

劇中のWB隊にあたる第13独立戦闘団に新しいメンバーが加入しました。
「戦慄のブルー」コミック版で大幅に出番の増えたクレア・キルマーと
「サンダーボルト」からイオ・フレミングとアリシア・アルバートです。
既に覚醒を始めているNT揃いの部隊で一番下手、と言われてしまうイオですが、
ここから巻き返すのでしょうか?

次回は戦闘シーンを入れたいと思っております。ご期待ください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。