==== 重巡ファルメル 搭乗員待機室
格納庫内に設置された待機室でシャア・アズナブルはフーバー・アイスラ少尉から
報告を受けていた。
「よく戻ったな。ヨン軍曹は残念だった。彼女の報告のお陰で我々は敵に位置を
掴まれることなくコンスコン艦隊の降伏を知れたのだ」
シャアはフーバーの肩に手を置き労った。少尉は敬礼して何歩か下がった。
今後の方針を決定するのに実際に敵を見てきたフーバーの知見が必要になるので
退出はしない。ジャニス・ハラウェイ軍曹は親友ケイトの戦死に目を伏せている。
「さて、オリヴァー、我々の次にとるべき行動は何だろうな?」シャアは傍らにいる
整備長オリヴァー・マイ技術大尉に問いかけた。
「常識的に言えばアイスラ少尉が持ち帰ったデータをソロモンに届けるべく撤退で
しょうが…」どのみちシャアは敵のNT部隊とひと当てするつもりだろう。マイは
これまでの付き合いからそう考えあえて「常識的」と言った。目の前の仮面の男は
とかく常識からはみ出た存在なのを意識した発言だ。
「それでは、ヨン軍曹の死が無駄になる。我々は敵の新型に奇襲をかける。
敵もコンスコン艦隊を下したすぐ後に奇襲されるとは思うまい」シャアは仮面の
下で不敵に笑いながら敵への奇襲を決めた。
「では、自分は発進の準備を進めます」マイはノーマルスーツのヘルメットをかぶり
格納庫へ飛んだ。シャアもヘルメットをかぶり、愛機のコックピットへと飛んだ。
ブラウンとマイヤーは機体のチェックを済ませ、既に機体のアイドリングを始めている。
フーバーはジャニスと共にMS-06Eに乗り込み、カタパルトへ歩きだしている。
偵察小隊はいち早く想定戦場へ飛び斥候をせねばならない。二人は言わずともケイトの
弔い合戦のつもりだった。
軽巡『ケンプテン』『ノルトハウゼン』からもMS-06Eが発進している。
こうしてファルメル戦隊は宿命の戦いへと踏み出したのだった。
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==== 強襲揚陸艦 ホワイトベース
コンスコンはレッドバイカウントⅡを接収に来た海兵将校に案内されて『木馬』の艦内を
歩いていた。
「手錠はしなくていいのかね?」と尋ねる少将に海兵将校は
「まぁ、閣下が素手で我々を制圧できるとは思いませんし、これから行くCICで待ってる
ベッカーズ少佐はDELTA出身の猛者ですからね。セキュリティに関して心配はしとりませんです」
と半笑いで答えた。
コンスコンは自らの腹を撫でながら「そりゃ、こんな腹した中年が君等をどうこうできると
思っちゃおらんがね…」と呟いた。副官や参謀たちは『木馬』への同行をかなり強硬に願い出た
のだが、コンスコンは単身で行く、と海兵将校に申し出たのだった。
(他の者がいてはしにくい話もあるのでな…)折角生き残ったのに戦争犯罪人として裁かれ、
処刑されては元も子もない。敵艦への出頭はその辺の感触を確かめるねらいもあった。
CICでは艦長はじめ総員の敬礼を受けた。彼らは敵将への敬意を忘れていないようだ。
銃口を向けられなくとも敵意や軽蔑の眼差しくらいは覚悟していたコンスコンはいささか
拍子抜けした。
すると、ハンサムな将校が微笑みながら近づいてきた。「自分はチャールズ・エルヴィン
・ベッカーズ少佐であります。チャーリーとお呼びください閣下」と右手を差し出す
チャーリー。コンスコンはこの時(この男が、あのNT部隊の指揮官か…)と思った。
いの一番に自分に話しかけてきたのと、中隊規模のMS部隊を指揮するのであれば少佐で
あろう、という推測からである。少佐の手を両手で包むように握手したコンスコンは少佐
の手がやけに暖かいのが気になった。
「閣下の侵攻があと10日早かったら我々は練成の終わっていない状態で迎撃せざるを
得なかったでしょう」とチャーリー少佐。
「少し遅かった、ということですかな?」コンスコンは声色に無念を含ませて応じるが、
実際はこれでも無理に無理を重ねて実施された遠征だけに10日早く、というのは
到底無理だと思っている。
「もし、10日前でしたら閣下に降伏を勧告する余裕なぞ無かったでしょう」と真面目な
顔で言うチャーリー。(なんだ、この男「命拾いしたな」と言いたかったのか…)と
コンスコンは少し腹が立ったが、目の前の男が彼と彼の部下たちの命を握っているのは
承知していたので「いや、命拾いしました」愛想笑いを浮かべた。
「それでは閣下、拾った命を有効に生かしてみませんか」とハンサムな少佐は再び微笑みを
浮かべている。コンスコンは「笑みは肉食獣が獲物を前に浮かべる表情である」という
話を思い出した。
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====強襲揚陸艦 ホワイトベース CIC
「リリーとイースは限界ですね」レヴァン・フウはMS中隊を指揮するウィリー・ケンプ大尉に
報告した。ケンプの方が先任だから、とレヴァンは上官に対する態度で望んでいた。
「そんな、形式ばらんでいいのに」とケンプは言うがその辺細かい性格のレヴァンはこだわった。
「それじゃ、次はクロエとゲーツへの支援は無し、ということか。ま、二人共腕は俺より
あるし、なんとかなるさ」とケンプ。「いえ、自分がクロエ嬢達を支援します。Dr.バルトが
用意してくれたシステムもありますし」とレヴァン。「そいつは一安心。当てにするぜ、大尉」
とケンプ。レヴァンは「ただし、リリー程の共感はできません。精度はかなり落ちると思って
ください」と返した。
ケンプは「それでも大違いさ。『赤い彗星』の恐ろしさは前世で見ちゃいるが、体験してない
からなぁ。少しでもこっちに有利なファクターは欲しいところさ」とレヴァンを励ますように
彼の肩に手をおいた。
「大尉、私達オペレーターも全力でパイロットを支援しますから」とミライ。ミユとノエルは
力こぶを作っている。「あぁ、君達も大いに当てにしているよ」とケンプ。
「君達の管制能力を私は大変高く評価しているよ、ミライ少尉」とレヴァン。
「次の戦い、みんな生き残れたら少佐に満漢全席を部隊持ちで行けるように頼むからさ、みんな
頼んだぜ」とケンプ。「大尉、それフラグですよ」とノエル。
あ、いっけね!というウインクに舌を出すポーズをしたケンプに「ちょっと気持ち悪いですね」
とミユ。
「うちの女性陣は辛辣なんだよな。ところでイースは大丈夫なのかい?」とレヴァンに
妹イースの状態を尋ねるケンプ。「疲れて眠っているだけです。Dr.アルヴィースの見立てでは
1日寝れば全快するそうです」とレヴァン。「なら、よかった。心配して大尉に聞いてくれって
ヤツがいてね。直に聞きゃいいものを」と肩をすくめるケンプ。
レヴァンは「え!?それってイオ少尉ですか?」と驚いた様子でケンプに詰め寄った。
アムロとは念話以外にもやり取りをしているし、フレンドリーなカイ、真面目なハヤトとは
結構会話をしている。ゲーツはリリー達の兄、ということでレヴァンに懐いているし、
ウモンもゲーツの影響で親しかった。彼らなら直にレヴァンに聞いてくるだろう。
ジョブやダンクは軍人として、レヴァンを士官として敬意を払っている。
女性陣は先程イースを心配して様子を見に来た。
そんななかでイオ・フレミング少尉だけは隔意があった。レヴァン自身はゴップから聞いていた
『サンダーボルト』の話から因縁だろう、と気にしていなかったが。
しかし、彼がイースに手を出そうというなら話は別だ。兄としては大富豪のプレイボーイから
妹を守らねばならぬ。
レヴァンは普段浮かべているアルカイックスマイルをかなぐり捨ててケンプに詰め寄っていた。
「い、いや、ま、そうだけどさ…。ヤツも純粋に部隊の仲間を心配してる感じで大尉が考えてる
ようなアレじゃないから。穏便にね…」ケンプはレヴァンの剣幕に宥めるような口調でとりなす。
この部隊のアムロと並んで最重要人物とされているレヴァン・フウを敵に回してはイオの軍務が
愉快なモノになることはないだろう。
軽く見えても部下のことを考えているのがウィリー・ケンプという男だった。
「失礼しました。彼には感謝していた、と伝えてください」レヴァンは冷静さを取り戻して
頭を下げた。「いやぁ、俺も誤解されるような物言いしちゃって悪かったよ」とケンプ。
レヴァンが怒りを収めてくれたのでほっとしている。
その時、レヴァンは何かに気づいた顔になり、「ミライ少尉、警報を!」と命じた。
ミライが目の前のキーボードを叩くとホワイトベースに警報音が響き渡り、艦内照明が
赤くなった。
「敵が来たんだな?」「ええ。偵察機ですが、さほど間を置かずに『赤い彗星』が来る
でしょう。中隊全機にスタンバイを」「よしきた!」ウィリー・ケンプは格納庫へ急いだ。
既にチャーリー少佐からレヴァンが敵機を感知し次第中隊を発進させる旨の命令を受けている。
格納庫では、アムロをはじめ搭乗員が警報と共にコックピットに飛び、ウィリーが格納庫に
到着した時点で既に先鋒のアムロはカタパルトに乗って発進の命令を待っていた。
純白の2号機は使い捨てのブースター2本と増槽2本を装着している。
ホワイトベースに乗り込んでいたアダムス技術少佐が格納庫にあった増槽に化学式
ロケットを接続するアダプターを製作し即席のブースターを作り上げたのだった。
13独戦、というよりRX-78初の実戦をモニターしていた技術少佐は有り合わせの物資で
RX-78-2を素早く戦場に投入できるブースターをちゃちゃっと製作したのである。
イオのRX-78Lは帰投後肩のビームランチャーに不具合が見つかり、一時的に撤去したため
重量バランスの調整をするため出撃が遅れそうだ。ジョブとダンク、ウモンの機体は
イオ機の整備が終わり次第何時でも発進できる準備をしている。
第2小隊は既に全機スタンバイして、カタパルトに並んでいる。
第1小隊各機も既にスタンバイし、カイに「遅いっスよ大尉!」と怒られた。
「アムロ、前方進路クリア」ミライがカタパルトの軸線上に障害物がないことを告げる。
これでいつもで発進できる。
「発進!敵の偵察機を潰してくれ!」ウィリーはヘルメット内通信でアムロに指令を出す。
2号機によってまずは敵の目を排除するつもりだ。
「アムロ、2号機行きまぁすっ!」カタパルトから射出された白いMSはブースターに点火し
尾を引く流星となった。
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ザク偵察型8機からなる偵察中隊は軽巡ケンプテンのレンチェフ中尉が指揮していた。
ケイト・ヨンに輪をかけた宇宙市民至上主義者でこの戦争を「2つの種族の生存競争」と捉え
地球人の絶滅を吹聴するイカレ野郎、がフーバーの人物評だ。
「11時の方向、敵機。1機だ。ノルトハウゼン隊はここに留まってデータを取れ、俺達は
先行する」レンチェフの命令にフーバーは「敵が1機ってことは単独でドム中隊に仕掛けた
怪物です!退避を具申します!」と異を唱えた。敵のNT部隊でも飛び切りのヤバい奴が
白いMSだ。フーバーの小動物的勘はそう告げていた。
「退避だと?ニュータイプ部隊とやらを目の当たりにして怖気づいたか。怖いならついて来なくて
かまわんぞ。我がケンプテン隊が敵の母艦を発見するからな」レンチェフはフーバーの具申を
退け、スラスターを全開にした。
その直後、敵機がビームを放ちレンチェフ機を貫き、爆散させる。
「退避だ!退避!!このままじゃ全滅して戦隊は目潰しされる!」フーバーは怒鳴り、
ジャニス機と共に回避機動を取りながら退避行動を取った。
敵機、白いMSはさらにビームを放ちケンプテン隊のMS-06Eを火球に変えていく。
(まずい、このままじゃ俺たちもケイトの後を追うことになるぞ…)フーバーは脇や
背中に盛大に冷や汗をかいた。白いMSはデータを取るため包囲する機動をした為逃げ
遅れたノルトハウゼン隊のMS-06Eを次々と撃墜し、フーバーとジャニス機を追う動きを見せる。
フェイントを交えながら2機を追い詰める白いMS。フーバーとジャニスは悲鳴を上げた。
フーバーが(もぉ、だめだぁ)と思ったその時、「アイスラ少尉、待たせたな」という
通信と共に白いMSに弾幕が降り注ぐ。赤いザクが戦場に現れたのだ。
「!?」ふいをういた筈の突撃銃の弾幕を敵機は回避するか左腕のシールドで防いで
みせた。直撃は一発もない。シャアは唇を舐め「ほぅ、連邦の新型はかなりの性能だな」
と感心してみせた。
「少佐!敵は普通じゃありません!用心してください!」フーバーの切迫した通信に
「あぁ、既に用心してるさ」と返すシャア。
事実、MS-06Sの全性能を発揮しているが、眼前の白いMSを落とせるイメージが浮かばない。
脳内シュミュレーションでは何度も撃墜されている。
(せめて、シールドだけでも破壊せんと仕留められんな)シャアは突撃銃をジャアント・バズ
に持ち替えロケット弾を連射した。ここで白いMSはさらに高い運動性を見せた。
背中と両足のスラスターを全開にし未来位置を狙ったロケット弾を全て回避したのだ。
本体を直撃できなくともシールドに命中すれば、という狙いで放ったのだが。
「突撃銃は躱すまでもない、と言うのか!」シャアは驚愕した。突撃銃ではシールドを
貫徹できないと踏んで敵は性能を隠していたのだ。シャア専用機は特別に先日補給された
劣化ウラン弾を装填している。その貴重な劣化ウランの弾丸をもってしても敵機のシールド
は貫徹できない。おそらく、胴体を直撃しても正面装甲には効かない可能性が高い。
シャアは「白いヤツ」がただならぬ敵なのを改めて感じていた。
「少佐!敵の増援です!中隊規模、10機を越える数です!」フーバーの悲鳴にも似た報告に
「こちらも増援が来た。もっとも3倍の数がいても勝てるかは分からんがな…」とシャア。
この男が部下に弱音を吐くのは初めてだった。
「ブラウン、マイヤー。貴様らは敵中隊に当たれ。白いのは私の獲物だ」とレッド・ガード
の2機に指示を出す。両肩を赤く染めたリック・ザクが巡洋艦3隻分のザク27機を連れて
後方の敵MS中隊に向かった。ブラウンとマイヤーは士官パイロットを差し置き、ファルメル
戦隊のMS各隊への指揮権を与えられていた。単騎で仕掛けることが多い仮面の戦隊長は
最初の部下である2人の下士官に士官を指揮させているのである。
実力本位のファルメル戦隊らしい措置だが、兵の中には「功名さえ挙げてしまえば」と
いう空気が蔓延していた。
「いずれ2人の指揮で戦うことになると思ったが、思ったより早かったな」デニム軍曹は
MS-06F-4のコックピットで呟いた。
「デニム小隊は重ガトリングで敵の先頭を行く小隊を撃て」ブラウンの命令に「了解!
派手にばら撒きやすぜ!」と答えるデニム。
新兵のジーン伍長が「かー!ブラウン曹長かっけー!」と新型機を前に落ち着いた様子の
曹長を褒め称える。スレンダー伍長は「シャア少佐が手こずる敵に勝てるんでしょうか…」
と気弱なことを言う。デニムは「お前が勝つんじゃねぇ。俺たちが勝つんだ!」と部下を
励ました。デニム小隊の3機は重ガトリングを敵の先頭を進む4機に向け弾幕を放った。
敵機、なにやらやたら装甲を貼り付けたMSは鈍重そうな見た目とは裏腹に弾幕を軽々と躱す。
その重MSは右腕の連装ビーム砲をこちらに向けた。
「まずい!」デニム機は回避機動を取るが、機動が遅れたジーン機が敵のビームに貫かれる。
悲鳴を上げる間もなくジーンのザクは火の玉になった。
「わぁぁぁ!」スレンダーは悲鳴を上げながら弾を撒き散らしている。狼狽えながらも足を
止めていないのはファルメル戦隊の教え「足を止める時は死ぬ時」というのを忠実に守って
いるからであろう。
だが、緑色の重MSは狼狽え弾などは意に介さず、デニム機へ向かってくる。
「おのれ!重火器を持つ機体から潰す気か。受けて立ってやる!」デニムは覚悟を決め、
重MSと刺し違えは無理でも何かしら損傷させる気で足を止め弾幕を展開した。
ガトリングの砲身が焼き切れるのではないかと思うほどの発射速度だ。
だが、重MSは左腕の小さめのシールドを向けると弾幕は消しゴムをかけたかのように消えて
しまった。
「アクティブ装甲…」呆然とするデニム軍曹のザクにビームが突き刺さる。
「デニム軍曹!うわっ!!」スレンダー伍長のザクは背後から忍び寄った暗い赤のMS
に胴体を両断された。
ファルメル隊の重火器小隊が分と持たずに全滅したことにブラウンとマイヤーは戦慄したが、
敵の隊長機らしき動きを見せる重MSを狙うが、やたらに銃身の長いビームライフルを持つ
黒いMSが放つビームでろくに照準できず有効弾を与えられない。
(デニム軍曹…)ブラウンは親切にしてくれた上に自分たちの出世を喜んでくれた下士官
を失い喪失感を味わったが、場数を踏んだおかげか逆上はしていなかった。
だが、重MSは全く動きを鈍らせていない。白兵戦で仕留めようとするが、これは暗赤と灰色
のMSが邪魔をして近づくことができなかった。
さらに遠距離ビームがケンプテン隊のザクを次次と火の玉に変えていく。
距離を詰めようと突撃するノルトハウゼン隊は新たに現れた高機動型MSに打ち据えられ
壊滅状態になった。
「ブラウン!助けてくれ!がぁっ!!」ファルメル第2小隊長の中尉が悲鳴と共に散華する。
「マイヤー曹長!助け…」ファルメルのザクは敵のビーム兵器の前に次々と倒れていく。
敵の指揮官機と思しき重MSはマイヤーの放つジャアントバズの直撃コースに乗ったロケット弾を
頭のバルカンで撃ち抜き防ぐ真似までしてみせた。余程高性能な火器管制システムを載せてる
らしい。突撃銃が効かない重MSに唯一ダメージを与えられそうな兵装だったのだが。
(マズイぞ、このままじゃ…)ブラウンは内心の焦りを隠して生き残りに退避を指示した。
シャアからは戦況不利ならば撤退せよ、と命じられていたのである。
歴戦のレッド・ガード2機がかりでも異常にタフな敵指揮官機を仕留められないまま、
損害だけが増えていき、特に小隊長レベルの士官、下士官に被害が続出していた。
ブラウン機と生き残り各機はありったけの閃光弾を四方に発射して後退する。
ブラウンは比較的安全と思われるルートに生き残りを先導して行った。
「!!!」殿を勤めていたマイヤーのリック・ザクがビームに貫かれ火球と化した。
「クルト!!」ブラウンは相棒の死に一瞬、マイヤーを狙撃した黒いMSに突撃しようと
思ったが、自分がそれをしたら生き残り全員が死ぬことになる、と思い直し、閃光弾を
盛大にばら撒きながら母艦とのランデブーポイントへ急いだ。
シャア・アズナブルの脳は敵の『白いヤツ』との対戦にその能力の殆どを割いていた。
時折入る部下の悲鳴も殆ど意識していない。
そこまでせねば、彼のMS-06Sはビームライフルの餌食となっていただろう。
敵MSとの機動性の差はなんともし難く、白兵戦の間合いにまで近づけなかった。
「オリヴァーに礼を言わねばならんな!」
マイ大尉が新しく搭載した敵の照準レーザーを妨害するガス発生装置もビームの回避
に大いに役に立った。ただ、ガス放出中はこちらの照準レーザーも使えないうえに
ガスの量が限られており、使い所が難しかった。こちらの射撃では白い敵MSに
有効打を与えられない、と判断したシャアは回避に重きを置くためこの装置を
使い始めたのだった。その効果はめざましく敵がライフルを向けても撃たずに
ひっこめる、ということが再三あった。
だが、シャアの性格的に逃げの一手というのは癪に障る。
「チッ!」何度舌打ちしたことか。元々短気な彼だが、戦闘中ここまで舌打ちが
多いことはなかった。大抵彼が事前に想定して通り戦況が進んでいたからだ。
だが、目前の『白いヤツ』は彼の想定を超えた機動性と堅牢さを見せ、火力は
想定通りだったが、何の慰めにもなりはしなかった。
敵は光の剣を光らせたまま放り投げた。
一瞬、シャアの意識がそちらに行くが、直ぐに敵MSに向かい直す。
「私にフェイントとはやってくれる!」吐き捨てると、こんどは視界の端に
バズーカが映る。
「舐められたものだな!」シャアは突撃銃とジャイアントバズを両手に持ち敵に向け
撃ち放つがこれは回避される。
次の瞬間、コックピットに警報が鳴り響く。ロケット弾がこちらに向かって来ていた。
回避不能と判断し、左肩で受ける。
HEAT弾頭のメタルジェットはスパイクアーマーを貫き、左肩を完全に破壊した。
「ちぃ!引き時か!」シャアは閃光弾を四方に放つと離脱した。
「ブラウンは生き残りをまとめて下がったか。このMSではヤツには勝てんな…」
あの片眼鏡に新型MSを用意させることを決めたシャアだった。
====
アムロはレヴァンが感知した偵察型ザクの編隊を発見すると、先頭を行く角が生えた
指揮官機を狙撃した。
「敵MS撃破」Lisaの報告に頷くと後続機を続いて狙撃する。
次にRX-78-2を包囲する動きを見せる偵察型を狙い、これを撃破する。
「近づき過ぎだよ」ポツリと言うアムロ。余りに無能すぎる敵は彼を苛立たせる。
残った2機は巧みな回避機動を取って度々彼の射線から逃れた。
「いいぞ…」サディスティックな感情からではなく、純粋に良い動きを見せる
敵機を称賛していた。
彼らを追い詰めたと思った瞬間、アムロは『敵』を察知した。
速い、凄まじく速いMSがこちらに向かっている。
赤いザク、おそらく『赤い彗星』だろう。
敵のトップエースはジオンのプロパガンダ映像に頻繁に登場するのでアムロも
その存在を知っていた。隊の女子達はマスクで顔が隠れているのに「イケメン」
と敵のエースを持て囃していた。
アムロは敵の容姿には興味がない。興味はあくまで目前のMSの性能とパイロットの
技量にあった。
「こいつ、普通のザクとは違うぞ。Lisa、データは取ってるな?」アムロは赤いザクの
機動性に舌を巻きAIにデータ収集を確認した。
「はい。全センサーを動員して記録を取っています。ですが、解析は母艦で他のAIと
接続しませんと」珍しく長いセリフだが、アムロは「いいさ。今は記録だけで」
とAIとの会話を打ち切った。
敵のMSはアムロが射線に捉えた、と思った瞬間に素早く動いて狙いから外れた。
何かガスを放出して照準レーザーが阻害され使えなくなった。
他のザクのように容易に癖を掴み仕留められないかもしれない、と思ったアムロは
左手で背中のビームサーベルを抜いて放り投げた。
赤いザクは一瞬、ビームサーベルを気にした動きをしたが直ぐにアムロの狙いを外す
回避機動を取った。
「やっぱり、目がいいや」アムロは唇を舐めた。
アムロは「Lisa、アレをやる」と言うなり腰に付けたバズーカを放り捨てた。
赤いザクはアムロの思惑通り、バズーカを無視してアムロの射撃を警戒しながら
両手に握ったマシンガンとバズーカを撃ってきた。
「かかった!」放り投げたバズーカはケーブルが繋がっており、バズーカのセンサーが
敵機を捉えるとLisaが最善のタイミングで弾体を発射した。
敵機、赤いザクは左肩で弾体を受け、左肩はスパイクアーマーごと弾け飛んだ。
次の瞬間、敵は閃光弾を放ち離脱した。
「結局仕留められなかったなぁ。今日逃したら次はもっと強いMSに乗ってくるだろうな」
と呟く。対G性能に優れた特製シートでも体にかかる負荷は大きく、追撃は無理そうだ。
「Lisa、バズーカの発射タイミングはよかった」とアムロはAIをほめる。
「お褒めに預かり光栄ですマスター・アムロ」とAIは機械的な合成音で礼を言った。
====
「アムロが赤い彗星と接敵した。こっちは邪魔が入らんよう援護だ!」ウィリーは
中隊に命じると第1小隊を率いて大型のガトリングガンを持つザク小隊へ向かった。
敵はウィリーにガトリングガンを向け弾幕を張るが、「見た目より素早いんだぜ!」と
FA-78は全弾回避して見せた。
躱すと同時に「カイ!こっちはいいから敵の指揮をしてる高機動型を狙え!」と指示を
出す。カイは「ウス!」と返事するとふくらはぎにブースターを付けた2機の高機動型
を狙ってビームライフルを放つ。
意外と素早いFA-78に苛立ったのか、敵の1機が足を止めて射撃を始めた。
「ありゃ、新兵だな…」ウィリーはすかさずダブルビームライフルを放ちこれを火球に
変える。
敵小隊のもう1機は恐慌状態なのか、ろくに狙いを付けぬままガトリングを乱射し、
小隊長らしい機体はFA-78と刺し違えるつもりなのか、足を止めてこちらに
弾幕を放つ。
「ちっ!」ウィリーが舌打ちと共に左腕のシールドを差し出し「Aアーマー!」
と叫ぶとシールドに仕込まれた電磁装甲が起動し、電磁力の反発で飛来する弾丸を
四方に散らした。
敵は呆然と立ちすくんでおり、ダブル・ビーム・ライフルのいい的となった。
残った1機は背後に忍び寄ったハヤトがビームサーベルで両断した。
「何とかしのげたな…。お陰でコンデンサが空っぽだぜ」電磁装甲は融合炉の
電力をコンデンサに溜め、使用時に一気に吐き出すような仕組みでそう
何回もは使えなかった。
「最近、音声入力嫌がらなくなったわね」AI:Litaがからかうような口調で
ウィリーに話しかける。
「画面上のボタン視認して押す、よりずっと早いからな。最初はロボットアニメみたい
でヤだったけどさ」とウィリー。
「ハヤト、やったわね!」AI:Lanaが割と大げさに称賛するのをハヤトは顔を赤らめ
ながら「この塗装、目立たなくていいよね。僕は近寄ってなんぼって感じだから
こっそり近づけるのはいいよ」
4号機は宇宙の暗黒に溶け込む暗赤色の塗装を施されている。
シャア専用機の鮮やかな赤とは違う赤である。
カイの3号機は何度かビームを放つが、高機動ザクは高い運動性を発揮して射線に
捉えさせなかった。
とはいえ、無駄撃ちではなく、2機の肩を赤く塗ったザクは攻撃に集中できないようだ。
攻撃しようという動きを見せるたびにカイがビームライフルを向けるため、回避に専念せざるを
得なかったからだ。
第2小隊と第3小隊の射撃で敵の数を打ち減らすと、高機動ザクは後退する動きを見せ、1機が
生き残りを先導して行った。
「この時を待ってたぜ」カイは舌舐めずりをして殿となり、孤立した高機動ザクに狙いを定めた。
互いにかばい合う機動を取ればこそ狙い撃てなかったが、1機になってしまえば狙いが付く。
ビームは見事ザクの胴体を撃ち抜き機体は爆散する。
その瞬間、カイは敵の悲鳴が聞こえた気がし、AI:Lolaに「なぁ、あの敵、オープン回線
開いてなかったか?」と確認した。
「あの敵から電波は発進されてなかったわね。最後まで回避機動してたから諦めて『サヨナラ』
なんて打電してる気配は無かったわ」AIには悲鳴が聞こえなかったようだ。
(もしかして、これってレヴァン大尉の言ってるアレなわけ?俺もニュータイプとかに
なっちまうのかねぇ…)首を捻るカイ。
====
第2小隊のクロエとゲーツは正面のディスプレイに映るアイコンにレティクルを持っていき
射撃ボタンを押す、という作業を半ば反射的に行っていた。
最初第2小隊の眼前に9機いたザクはみるみる数を減らしていき。投降した2機を除いて全滅した。
2人は敵の断末魔を聞かぬよう、心を閉ざして射撃を続けていた。
「一方的に打ち勝ってるわね」クレア・キルマー中尉は援護と言うよりザクをクロエ達の前に
追い立てる射撃をアリシアと続けながら独白した。
「あの子達、大丈夫でしょうか?通信入れてみては?」とアリシアが2機から尋常ならざる
ものを感じクレアに具申するが、「邪魔するのも気が引けて…」と中尉はそれを退けた。
(レヴァン大尉に遠慮してるのね)アリシアも察して引き下がった。
NT同士の交感、というものに入っていけないもどかしさを感じていた2人だった。
「遅れちまったが、ちょうどいいタイミングで戦場についた。あの9機を横合いから
ぶん殴るぞ!」イオ少尉は第3小隊に突撃しようとする敵への攻撃を指示した。
「ヒャッハー!撃ち放題だぜ!」ジョブが半ば意図的にはしゃいで応えると「やっちゃい
ましょうや!」ダンクも普段の気弱さはどこへやらの強気である。ただ1人ウモンは
冷静に「了解」とだけ答えた。脳が例のスローモーションモードに入っているらしく、
受け答えがそっけない。ただ、こうなった時のウモンは部隊で一番アムロに近くなるのを
イオは心得ており「頼んだぜ、小隊のエース殿」と持ち上げた。
結局、ウモンが3機、イオ達3人が1機づつ仕留め、生き残った3機は撤退した。
第2小隊は残った9機を狙い初撃で4機を撃墜、クロエとゲーツは2射目でも撃墜し、
残った3機は閃光弾をばら撒いて撤退する。
追撃をかけようとするクロエとゲーツにクレアが「そこまでよ!無理しないで。
2人共よく戦ったわ、そうですよね大尉?」と母艦にいるレヴァン・フウに同意を
求める。「そうだよ、2人とも頑張った。偉いぞ」とレヴァンが優しく語りかけると
2機は糸が切れたように動作を停止した。「大丈夫?気とか失ってない?」とアリシア
が慌てて通信を入れたほど唐突に止まった。
「いや、戦闘中は気にならなったけど、キツイっす…」ゲーツは音を上げている。
体中の筋肉が痛い。高G機動をしながら狙撃を行う、という戦闘スタイルは身体への
負荷が非常に高い。まだ成長途中の14歳には過酷であった。
クロエ機からは息遣いが通信に入ってくるので失神はしてないようだ。
「2小隊、帰還します。よろし?」とクレアはウィリーに許可を求めるというより
ほぼ勝手に帰還コースに乗った。
「おぉ、お疲れさん。イオ、遅刻したから殿な」とウィリー。まだ、敵がいるなら
レヴァンが感知するはずだが、NT専用機の類ならそれをすり抜けるかもしれない。
味方の帰艦を援護する任務にイオ達第3小隊が就いた。
「ウモン、またスコア上げったすね。ダブルエースじゃないすか」ダンクは可愛い
後輩ウモンがスコアを上げて嬉しいようだ。素の状態に戻ったウモンは
「いやぁ、センパイの援護射撃のお陰っすよ~。俺の目の前に敵を追い立てくれた
お陰っす」と照れている。
「うちの小隊にも立派なニュータイプがいて俺も鼻が高い。個人的に車1台分くらい
ボーナスやりたいとこだが、それをやると軍規違反になっちまうからなぁ」とイオ。
「出た!少尉の金持ちギャグ!」とジョブ。
2人はこんな掛け合いを出来るほど打ち解けていた。
ウモンは今日初めて声を上げて笑った。
(やっこさん、だいぶ緊張してたんだな…)イオはまだ幼いといっていい部下に苦労
させているのを感じ、少し気が引けたが「ヤツも男だ。いらん心配だな」と口に出して
気を取り直した。本質的には楽観主義者なのであった。
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==== 重巡ファルメル CIC
「マイヤーは戦死したか…」母艦に帰ったシャアは戦果確認、というより部隊の生き残りの
確認のためCICへと急ぎ、そこでブラウンからマイヤーが戦死したことを報告された。
「残念でなりません…」最近めっきり大人びてきたブラウンが涙を堪えている。
「奴は私の死ぬな、という最初の命令に背いた。けしからん男だ…」シャアも最初の部下の
1人を失い、大きな喪失感を覚えていた。あそこまで練り上げた部下をむざむざ散らす羽目に
陥ったのは自分の失策故である。マイヤー以外の戦死者も全てそうだ。
「認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを…」
シャアは奥歯を噛み締め、座った目つきでこう言い放った。自分を許せないのだ。
自らの力を過信して未知の新型機に挑んで返り討ちにあい、搭乗員の殆どを失った。
戦隊のMS戦力はファルメルがシャアとブラウンを含めた7機、ケンプテンは全滅、
ノルトハウゼンが3機である。
(だが、今は自分を責めて悦に入る贅沢をしている時ではないな)こう思い直すと男は仮面の
下に無念を閉じ込め、平静な顔で「オリヴァー、補用機を組み立ててくれ。各艦にも同様の指示を
出す。予備の搭乗員は実戦経験の無い者もいる。ソロモンまで敵と遭遇せんで済むといいが」
3隻の巡洋艦は最大戦速で宙域を離脱した。
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====ホワイトベース CIC
「なんとかなりました…」艦長やホワイトベースの幹部達と戦況を見守っていたチャーリーは
敵の撤退を見届けて心底ほっとした口調でこう言った。
「この大戦果は少佐の想定通りのものではないのですか?」ブライトが意外そうな顔で尋ねる。
「相手が『赤い彗星のシャア』だからね。正直ここまで上手くいくとは思っていなかった。
アムロ・レイ軍曹の能力を過小評価していたようだ」真面目な顔で応えるチャーリー。
艦長はじめ13独戦以外の軍人が大勢いるため「軍曹」とアムロを階級で呼んだ。
チャーリーとしては部隊の「スペードのエース」とも言うべきアムロを連邦軍にお披露目した日
でもある。アダムス技術少佐などもう有頂天になり、「V作戦R&Dセンター」に通信を入れ、
テム・レイと何やら興奮した口調で話し込んでいた。
「しかし、一個艦隊とMS大隊に壊滅的な打撃を与え、その後トップエースの率いるMS中隊の
襲撃を退け、損害無しとは…」ホワイトベースの副長は感心する、というより少し引いていた。
それ程までに13独戦の戦いぶりは一方的であったのである。
(よくない兆候だな…)チャーリーは副長はじめ幹部士官の反応からNTを危険視する動きに
繋がりかねないものを見て取った。
「ゴ、ゴホッ!ゴホッ、ガフ…」キャプテンシートに座るパオロ・カシアス艦長が突然咳き込み
始めた。血を吐いている。ブライトは血相を変え「艦長!お気を確かに!衛生兵!艦長が
喀血された!」と怒鳴り、副長はじめ士官たちもキャプテンシートを取り囲んだ。
パオロ艦長は宇宙用の担架(医療カプセル)に収容され医務室に運ばれた。
ホワイトベースが入港し次第、サイド7の軍病院に移送されることになった。
ブライトはこの間ずっとパオロ艦長に付き添い、老大佐が意識を失わないよう話しかけて
いた。
艦長が血を吐いて倒れた、という話は格納庫の待機室まで届き、ウィリーは「艦長の容態に
ついては少佐が聞いてくることになってる。憶測を吹聴するのは禁止だ」と彼にしては
非常にシリアスな口調でこう命じた。
クレア中尉「私達とはあまり接点がなかったカシアス艦長だけど、今回の戦果はあの方の
準備と素早い判断のお陰よ。病状が深刻でないのを祈りましょう」と呼びかけた。
報告を受けに待機室に来ていたレヴァン大尉は瞑目、合掌して経を唱えている。
いつもなら軽口を叩くカイも(艦長さんに心配かけちまったんだろうな…)と神妙な
顔つきである。ゲーツはナイン・バルトに「大丈夫なのかよ?」と聞いているが、
「いや、私は臨床医学は専門外だから…」と答えるバルトに「役にたたねーな!」と
当たっている。
そんな中でアムロだけが先程の戦闘データをRX-78のAI達と検討に入っていた。
ハヤトはアムロの態度に「アムロは艦長が心配じゃないのかい?」と少し憤慨していたが、
「僕が心配すれば艦長の容態が良くなるのかい?」と返され、ぐぬぬ、となった。
「この場合はアムロ君が正しい。俺らは俺らのできることをしよう」とウィリーは
本日の戦闘の検討会を始めた。普段は少し斜に構えてた態度のイオ少尉も真面目な顔で
戦闘データの検討を行っている。(今日はたまたま運が良かっただけだ…)自分も部下、
小隊は1人も欠けることなく帰艦できたが、次もこういくとは限るまい。
彼は操縦の腕で小隊員達に劣るなら、指揮能力をつけることで役に立とうと考えた。
ジョブ・ジョン曹長もそんな小隊長を補佐しようと盛んに発言している。
ダンクはウモンの話す「敵がゆっくり動くのが見えたんで、ビャーと行って、ダダって感じで
撃ったんですけど」という抽象的な供述を彼になりに咀嚼し、自分が目撃した実際の戦闘から
「ウモンは常に敵の何手か先を読んでるようっす。数撃ちゃ当たる式のミサイルを殆ど命中
させてたっすから」と発言した。イオは「それについちゃ俺も感じた。NTってのはそんな風に
戦場が見えてるってことだな」ジョブは「レヴァン大尉やアムロ君と話してもらった方がいいかも
しれませんね。俺達じゃウモンと感覚を共有できない」と深刻な顔で発言する。
「そんな!曹長、俺をハブらないでくださいよ~」ウモンが悲しそうな顔で抗議するのを
「別にお前をハブろうって訳じゃない。お前にはカウンセラーが必要ってことだよ」とジョブはウモンの頭をつかんで髪をぐでゃぐしゃにした。
「そうっすよ。誰もウモンをハブろうなんて言ってないすよ」とダンクも頷いている。
イオは真面目くさった顔で「お前さんが成人なら、一杯奢るせ、って言うとこだが、未成年に飲ましたら懲罰くらっちまうしなぁ。
ウモン・サモン軍曹、クレア中尉達が甘いもの食べに行くときは同行を許可する」と言った後、「今日はお疲れさん」とウモンの
肩に手を置いて優しい表情をした。
「小隊長は付いてきてくれないんすか?」ウモンがこう聞くと「俺、甘いもん苦手でなぁ。生クリームとか胸焼けすんのよ」とげんなりした表情をするイオ。
ダンクが「しょうがないっね。俺がウモンの保護者として同行するっす」と胸を張った。
「テメーは俺と一緒に報告書の作成だぞ。サボろうとするんじゃねー」とジョブに小突かれる。
「クロエ、調子はどう?どこか痛いところあるかしら?」クレア・キルマー中尉は部下のクロエ・クローチェ伍長にこう尋ねた。
クロエはリクライニングシートに横になり、血圧計や脳波計を付けられている。
Dr.アルヴィースは「彼女は血圧こそ戦闘の興奮で高めですが、脳波レベルも安定しています。中尉の心配されるようなことはないでしょう」と落ち着いた口調で話す。
まるで患者の家族に容態を説明する主治医のような口調で。
「レヴ大尉の言いつけ通り、死人の声はシャットアウトしてましたから、俺らは平気っすよ」
ゲーツ・キャパ伍長がことさら明るい口調で心配いらない、と言うと
「ガサツなアンタと繊細なクロエを一緒くたにしないでくれるぅ」とアリシア・アルバート軍曹が口を尖らせて言うと
「俺はガサツじゃなくてタフなんだよ!クロエを守るのは俺だからな」とゲーツが抗議をいれる。
クロエもだいぶ疲れた様子だが、微笑みを第2小隊の仲間たちに向けた。
「ひとまずは安心ってとこね。みんな頑張ったわ、クロエが回復したら約束通り甘いモノ食べに
行きましょう」とクレア。「やった!」とアリシア。「えー、俺アムロ先輩に戦果報告したいんすけど」と大人ぶりたいゲーツに
「ダーメ!こういう時は小隊一丸になって行動すんのよ」とアリシア。
(私はいい下士官を部下に持ったわ。ありがとうアリシア…)と思うクレアだった。
「で、アムロ君『赤い彗星』の実力はどんなもんだった?」AIとの検討会が終わった頃合いで
ウィリーは皆が聞きたいことを尋ねた。
「あの赤いザクは特別製ですね。装甲材やモノコックフレームはおそらくチタン製です。ハイパー
スチールでは限界まで肉抜きして軽量化してもあの機動は無理です。シールドにあの敵が撃った
侵徹体が突き刺さってましたが、材質は劣化ウランでした。おそらくはコロニー内部のビルに
設置されたバラストを流用したのだろう、とのことです。あと、あのシャアとかいうパイロット、
スラスターの使い方が独特でした。軍では『3倍の速さ』って噂してるそうですが、3倍は大げさ
でも3割程度は普通のザクを上回ってると思います。パイロットはその推力を全く無駄に使って
ないのが凄かったですね」とアムロ。一度の戦闘でMS-06Sの性能をかなり掴んだようだった。
「でもさぁ、そんな凄い機体でもビーム持ってねぇじゃん。『78』の敵じゃないって」と
カイが異論を唱える。
ハヤトも「アムロは赤いザクを追い詰めてた様に見えたけど、事実左肩を破壊してたし」
とカイに同調した。
フレッドは「敵を侮るのは感心しねぇな。アムロだから追っ払えたんだ。俺達を狙って来た
らどうなるか分からんぜ」と敵の力量を高く評価している。
「先任曹長の言う通りだ。シャア・アズナブル少佐、侮れない強敵だな。次もまたザクに
乗ってくるとは限らん。特別製の『スカート付き』を仕立てて襲ってくるかもしれんの
だからな」ウィリーもフレッドに賛成した。今回鹵獲した敵の新型機、そのチューンアップ
機をシャアが乗ってきたらこんなに楽にはいかないだろう。中隊から犠牲者を出すかもしれない。
今回の戦いはレヴァンやリリーとイースの管制下で戦えたが、ジオンも対策を講じてくるだろう。
「こんな楽な戦闘は今回限りと思う方が無難だな。我々はさらに練度を高めて、次の
戦いに備える必要がある。死なないためにな…」ウィリーはシリアスな口調で中隊全員に聞こえるように訓示した。
クレアとイオ、士官達は頷いてる。レヴァンは手を合わせ「私と妹達が全力で支援します。敵に先手を取られる可能性を限りなくゼロに近づけますよ」と宣言した。
「電子戦、この場合は能力戦か、こういうのはイタチごっこになりがちなんで、大尉もその辺は理解してくれ。ジオンにもNT研究機関はあるだろうし、大尉に匹敵する能力の
持ち主がいないとは断言できない訳だからさ」とウィリー。少し柔らかい表情になり、いつもの調子が戻ってきたようだ。
「中隊長が気を抜いていないようで安心した。弛んでいたら基地の周りをランニングさせて活を入れるつもりだったが」
チャーリー少佐が搭乗員待機室に入ってきた。彼も少し柔らかい表情になっている。
「艦長は医務室でCTを撮ったが、胃に大きな潰瘍ができていた。我々はカシアス大佐に甘え過ぎていたようだ。大佐はこのまま退任となり、新任の艦長が赴任することになった。
部隊として次の艦長とはより円滑なコミュニケーションを取ることにする。ブライト中尉は引き続き連絡将校をやって貰う。君達も仲良くな」とチャーリー。
「まぁ、あの後中尉には色々奢って貰いましたし、仲は良好ですよ」とカイ。
「あの中尉、俺のとこにスコッチ持ってきましてね。友好的ですよ」とフレッド。
「曹長、強面っスから」とカイ。フレッドはにやりとして「あの中尉サンは軍隊ってもんをよく知ってるぜ。下士官を抱き込んどけば大体うまくいくもんさ」と返した。
「ブライト中尉って、ミライ少尉に馴れ馴れしくし過ぎじゃないですかぁ。なんか見え見えなんですけど」とアリシア。
クレアは内心同意しながらも「中尉に言ったら駄目よ。士官に失礼だわ」とたしなめた。
ウィリーは面白そうな顔になり「へぇ、ブライト・ノア中尉はそうなのかー。でも、シュウ・ヤシマ大佐は強敵だぜ。なにせイアイとかいう抜刀術の使い手だからな。下手すりゃクビになるな、物理的にな」
と大げさに肩をすくめる。
「あ、僕、動画サイトでヤシマCEOのイアイ見たことあります。目にも留まらぬって
感じで藁の束をばっさりと両断してました」とめっきり武道マニアとなったハヤト。
「そういや、俺達がオペレーター席に遊びに行くといつもあの中尉さんいるな。やっぱそう
なのかね、ゲーツ」とウモンは傍らのゲーツに尋ねる。
「な、なんで俺に聞くんだよ。関係ねぇじゃねぇか」と動揺するゲーツ。
「いや、同じ恋する男子なら分かると思ってさぁ」といやらしい目つきのウモン。
「おいおい、あんま最年少をいびんじゃねぇぞ、ウモン」とジョブが止めに入る。
「ブライト中尉は受け入れられている、と思っていいのかな?中隊長」とチャーリー少佐が
傍らのウィリーに聞くと「やっこさんとは何度か飲んでますが、思ったほど頭も固くないですし、
悪い男じゃないですよ。あの後から搭乗員以外の兵下士官にも丁寧に接してますしね。
整備のバシット軍曹はいきなり紳士的な態度取られて怪訝な顔してましたが。
おそらくWAVEに紳士的に接してミライ少尉への点数稼ぎしてるんでしょう」と苦笑している。
「まぁ、我々とは文化が違う艦隊から来たんだ。彼なりに考えて馴染もうとしているのだろう。
レヴァン大尉とも良好な関係を築けているようだしな」とチャーリー。
意外なことにブライト中尉はレヴァン大尉と仲がいい。ミライ少尉の直接の上官、ということもあるが、荒っぽい搭乗員達に比して物静かな大尉はつきあいやすいのかもしれない。
レヴァンから瞑想の仕方や中国茶の淹れ方をレクチャーして貰うと自室から上等な紅茶を持参してレヴァンとオペレーター達に振る舞ったりしていた。
もっとも本命はミライで「この紅茶、美味しいですね」というミライの感想に嬉しそうにしているのをチャーリーは何度か目撃していた。
(カシアス艦長が倒れたことに責任を感じていないといいのだが…)勝ち戦で自由ジオン軍構想にも目処が付いたからか、連絡将校を気遣う余裕が生まれたチャーリーだった。
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====サイド7近くの宙域
レッド・バイカウントⅡから発進した4隻の特殊潜入艇はサイド7宙域まで侵入を果たしていた。
1隻あたり1個歩兵分隊、12人が乗り込んでいる。
特殊潜入艇は歩兵をコロニーや小惑星要塞に潜入させる目的で開発され、初期加速に切り離し式の
ブースターを用い、減速と姿勢制御には低温のガスを用いるため赤外線探知に引っかかりにくい。
レーダーに映りづらい形状で電波を吸収する塗装を施されているのでM粒子が薄いところでも
ステルス性を保っている。
その代わり、火器の類は一切装備していない。とにかく潜入に特化した宇宙艇で「見つかったら
終わりの棺桶」と兵達から言われているが、クワラン曹長は「こんなちっぽけな船体に積める代物
じゃMSに歯が立たねぇ。隠れるのに限るさ」と潜入艇を評価していた。
「なぁ。ギャルの野郎戦果上げたかねぇ」と傍らのソル伍長に語りかける。ギャルとは彼らと
つるんでいるMS搭乗員の軍曹である。新型機MS-09ドムを与えられ有頂天になっていた。
「あの人、張り切ってましたからね。傍目にも新型に馴染んでましたし、1機くらいは
スコア上げてるじゃないですかね」といつもの冷静な口調で答えるソル。
ギャルは実戦で早々に片足を吹き飛ばされて後退したため命を拾っていた。
運の強い男なのだろう。
「通信管制してるから戦況が分かんねぇなぁ。作戦中止してくんねぇかなぁ」クワランは
今回の作戦は無茶だと思っている。4隻で運べるのは歩兵1個小隊である。視認できないが、
軽巡からも潜入艇は発進している。
とはいえ、合計しても歩兵1個中隊の戦力である。たったこれっぽっちの戦力でコロニーを
占領などできない。
破壊工作を行うにしても、脱出の手段がない片道特攻ともいえる作戦である。
一応、破壊工作の後には投降するべし、と言われていたが連邦軍が投降を認めないことも
あり得る。生還の見込みは薄かった。
そんな感じで分隊の士気は低い。小隊長が乗っている潜入艇でも似たようなものだろう。
叩き上げの少尉である小隊長は「俺たちゃ使う捨てのコマさ」とクワラン達に公言していた。
なにせ、敵の開発拠点を叩く任務なのに臨時編成の陸戦隊なのである。
軍は生還の見込みが低い作戦に特殊部隊を投入するつもりはないようだ。
「コンスコン艦隊、投降セリ!」
通信機にオープン回線で怒鳴る女の声が入る。
「おいおい、マジかよ」クワランは呆れていた。なんか景気のいい演説をして自分達を死地に
送り込んだコンスコン少将が降参したのだという。
「ギャル軍曹大丈夫でしょうか?」ソルは知り合いの心配をしている。
艦隊が降伏したのであれば艦載機は無事であるまい。
ドム部隊は大きな損害を受けた筈だ。
「あいつより俺らの命を心配しないとな。潜入艇を送り出したのがバレるからな。
今頃、捜索のMSが出てるかもしれねぇ。おい、カメラには何か映ってるか?」とディスプレイの
前に陣取る兵に敵を視認していないか確認するクワラン。
「まだ、敵は映ってないスね。もっともなにせちっちゃいカメラですし、視界も狭い代物ですから
死角から接近してるかもしれませんけど…」と兵は自信なさげに答える。
「ま、御大将が降参したんだ。俺らだけ降参しちゃいかん、とはなるまいよ。派手に投降信号
打ってこのまま進もうぜ」とクワラン。小隊長に確認せずに投降を決めた。
小隊長が投降を許さなくても武器を持たない潜入艇にはクワラン達を阻止できない。
もっとも、やる気がなかった小隊長はクワランの信号発信のすぐ後に投降信号を打電した。
4隻の特殊潜入艇は駆けつけた敵MSに拿捕された。
ヒーリィ大尉と名乗ったジムの搭乗員は「君達と戦わずに済んでほっとしている。
非武装の宇宙艇を攻撃したくはないんでね」と嬉しそうにお肌のふれあい通信を入れてきた。
「自分としても大尉に握り潰されずに済んでほっとしてます」とクワランは答えた。
まず、最初に12万UAありがとうございます。
アムロ対シャアの第一ラウンドはアムロに判定勝ちといったところでしょうか。
シャアはシャハト技術本部長に新しいMSを要求するようです。
果たして次は「シャア専用ドム」が登場するのか、ご期待ください。
ところで、「閃光のハサウェイ」ヒットしているようですね。
ガンダムサーガを知らない層も見に行ってるようです。
作者も見てきましたが、音響システムが違うのか、戦闘シーンでは腹に
響くような重低音が劇場のかしこから鳴り、MSの足元で逃げ惑ってるかの
ような感覚を味わいました。
MSの市街戦の予定はありませんが、何かしら生かせると思っています。
では、この先もご愛顧いただけますようお願い申し上げます。