==== 月面 グラナダ近郊
月面を『壺』と呼ばれているルナタンクが底部の履帯を使って走っている。とはいえ然程の速さではない。履帯が機体の大きさに比べ非常に小さいため高速を出せないのである。
ルナタンクからは数多くのアンテナが生えている。今回の作戦目的「サイコ波によるバラージ・ジャミング」のために増設されたものだ。
壺を守る様に3機の大型MSがその周囲に立っている。機体各所のトゲが特徴的な機体だ。機体の胸部には2門のメガ粒子砲の発射口が見える。ニュータイプ用MAの開発過程で試作された小型メガ粒子砲を試作MSに搭載したのだが、ビームライフル/バズーカ程の威力は無くザクマシンガンの2倍の威力、という触れ込みだった。ただし、2門装備しているのでMS-09ドムのビームバズーカに対して手数で勝る、というのがフラナガン機関の触れ込みである。
「クスコ・アル少尉、準備はどうか?」壺を指揮するシムス中尉がクスコ・アルに確認する。「オール・オッケーさね。今すぐでも実験とやらを始めてもいいよ」クスコはおよそ上官相手とは思えぬ口調だが、シムス中尉はこの女の口に利き方に文句を言うのは初日で諦めていた。彼女はニュータイプという自分の価値を心得ている。機嫌を損ねれば自分などすぐ更迭されるだろう。そう思わせる迫力がこの元売春婦にはあった。
「では、実験開始だ。サイコ波通信機を起動する」シムスがタッチパネルの起動ボタンを押すとクスコの座るシートの周りに巡らされた何本ものリングが光り始める。脳波の受信装置である。ここで受信された脳波はサイコ・コミュニケーター(サイコミュ)が増幅し、サイコ波として機体外部に発振されるのである。出力を上げてあらゆる周波数帯に発振すれば連邦のニュータイプによる探知と着弾観測を妨害できる、という仕組みである。シムスはフラナガン機関に派遣されていた技術士官であったため、この作戦『ローレライ計画』の心臓部、改造されサイコミュを搭載したルナタンクを指揮しているのである。「通信機起動確認。本日は実験のため最小出力で発振する。クスコ・アル少尉、念じ始めよ」シムスが命ずると何故かクスコは立ち上がり、腰のポーチに隠し持っていたマイクを握って叫び始めた。シムスには「クワwセdrftgyフジゴlp!!!」と何だか未知の言語のようで意味は聞き取れなかった。
「待て!まてまてまて!何をやっている!?」シムスは脳波受信装置の中で何事をかを叫んでいるクスコ・アルを制止した。「なんだい。せっかく気持ちよく歌ってるってのにさぁ」(アレが歌だと言うのか?)シムスは訳が分からなくなったが、「念じればいいんだ。何も歌う必要など無い」と言うと「だから歌ってんじゃないか。アタシのソウルってやつを歌に乗せて連邦軍にぶつけてやるのさ、ちなみにさっきのはグラナダの地下で人気のパンクバンドのナンバーさ。キャラオーキーでアタシの十八番なんだ」と得意顔のクスコ。
(歌!?いや、待てよ。歌に思いを込める、という訳か…)シムスは考え直し、クスコに「分かった。思う存分歌うがいい。ただしちょっと待て。我々は耳栓をするからな」シムスと技術スタッフ達はヘルメットの通信機を切った。シムスが親指を上げ合図すると再びクスコは熱唱を再開した。「姐さんサイコー!!」クスコの隣の席に座ってる筈のレコア・ロンドが歓声を上げる。シムスはもう怒る気はない。それどころか、計測器の示す数字に目を捕られていた。理論値を大きく上回る出力のサイコ波を発振しているのである。(この娘、とんでもない逸材だ…)シムスは感動していた。もう、クスコ・アルの言うことなら何でも聞いてやろうという気になっている。彼女も科学者であった。
「よし。データは取れた。もう止めてくれ」シムスはヘルメットの通信機のスイッチを入れるととクスコに歌うのを止めさせた。クスコは一曲歌って満足したのか今度は素直に引き下がった。「次はレコア・ロンド伍長で実験する。補欠と思わず本気で歌えよ、伍長」シムスはレコアも当然歌うものと決めてかかっていた。「そんじゃ一曲行こうか!」レコアの歌はシムスにはまだ歌と認識できるものであった。ただし、出力はクスコに比べると桁違いに低い。「よし。一旦終了だ。2人とも休憩してくれ」とシムス。レコアは「オシッコ、オシッコ」と言いながらトイレに駆け込んだ。クスコは飲み物のチューブをくわえ「で、実験の方はどうなんだい?」とシムスに聞いてきた。「それを今検証してるのだ。少し待て」シムスはキーボードを叩きモニターの数値を目で追いながら返事した。
「やはり、桁が違う。作戦は成功したも同然だな」シムスはそう結論づけた。「なぁ、シムス中尉さん。レコアの奴にもなんか任務ってのを与えてくんなよ。アタシの補欠でただ横で座ってるんじゃあいつも暇だろうからさ」とクスコは今までより穏やかな口調でシムスに頼んできた。(妹分にも何か功績を積ませよう、という訳か。可愛いところもあるじゃないか)とシムスは思い「いいだろう。ロンド伍長の能力ではジャミングは難しかろうから予備の通信機を載せ、随伴機とのサイコ波通信を担当させる。MS-13ドルメルにも通信機を載せよう。実戦でのサイコ波による指揮管制のテストになるだろう」とシムスは咄嗟にレコアの任務を思いついた。レコア・ロンドは彼女が側にいるとクスコ・アルの能力がアップする、というデータからいわば添え物として参加していたのだが、貴重なニュータイプをただ座らせておくのも勿体ない。この際、サイコ波による味方機との通信テストも併せてやろう、という気になったのだった。
トイレから戻ってきたレコアは「え?アタシ、仕事がもらえるの?やったー!」と無邪気に喜んでいる。「味方機との通信の確保は重要な任務だ。通信機を使い方をレクチャーするから憶えておくように。歌えばいいってものではないぞ」とシムス。「ありがとよ、シムス中尉」クスコも機嫌がいい。(お前の機嫌を取るためさ…)シムスは自嘲した。
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==== 月面 アンマン市郊外 ラヴェル基地
鉱山都市アンマンを防衛するラヴェル基地、月面に降り立つことはなかったが月へ2回の飛行を達成したジェームズ・ラヴェル にちなんで命名された基地にトラヴィス・カークランド大尉は降り立った。早速司令のオフィスに出頭し、着任を報告する。「トラヴィス・カークランド大尉以下特務MS中隊、当基地に着任いたしました」と『月方面軍第1遠征旅団』通称コジマ旅団を率いるコジマ大佐は内心で(また、参謀本部の直属部隊。部隊の定員も申告しないとはな…)とげんなりしていたが、目の前の胡散臭い笑顔を浮かべてる男の素性が分からぬ以上、余計なことは言えない。
「ご苦労。大尉は月は初めてだったな。1/6の重力には慣れたかね?」とコジマ。自分も月に赴任してまず直面したのが重力が地球の1/6しかないことだったからだ。「いやぁ、慣れんもんですなぁ。筋力が落ちるとMS搭乗員としては致命的ですからねぇ。筋トレの毎日ですよ。お手軽に筋肉増強剤打てばいいんでしょうが、肝臓を痛めるんで禁酒しなきゃならんですからなぁ」
とまくしてたてるカークランドにコジマは(インチキ通販番組みたいな話し方だ…)と思ったが、「そうだな。私も酒が飲みたいんで慣れぬ筋トレをしとる。それで、単刀直入に聞くが、君のここでの任務は何かね?月の向こう側で司令官が連邦に忠実なタチバナ中将にすげ替えられたのと関係があるんじゃないか?」コジマは腹芸をやめ、彼の懸案をカークランドに直接聞いてみることにした。
「いやぁ、大佐にはかないませんなぁ。ご推察の通り、自分は参謀本部から旅団の内偵を仰せつかってます。つまり、自分が何か見つけたら監査が入るって訳で」と途端に目の前の男は悪い顔になった。コジマは(こいつ、本性を現したな…)と思いつつ「君の目を節穴にするのに私は何をしたらいいのかね?」とまた直接的に聞いた。カークランドにはその方が話が早いと思ったからだ。
「自分は月でちょっとした捜し物をしてましてね。その調査に便宜をはかっていただきたいんですよ」と悪い顔のまま、にやりと笑うカークランドに(こいつの本当の任務はその捜し物だな)と思ったコジマは「いいだろう。最大限の便宜をはかろうじゃないかね」と答え、カークランドと握手した。
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「中隊集合だ」トラヴィス・カークランド大尉の号令で中隊のMSが集合する。11機のGMに4機のガンキャノンⅡが整列する。彼らを閲兵するトラヴィスの機体には顔があった。
RX-79『レイス』という。ゴップ大将はトラヴィスの部隊編成に併せ専用MSまで与えたのだった。機体の外観は我々の知るスレイヴ・レイスと違い原型が陸戦用ガンダムではなく、この世界のRX-79、つまりRX-78の検品で外された部品で組んだ機体が原型である。頭部はスレイヴ・レイスと同じデザインで指揮官機としてセンサーと通信機能が強化されたMSになっている。武装もRX-79同様のビームライフルを装備していた。
中隊の主力となるGMは各部の装甲が強化され、ふくらはぎの左右にスラスターが追加されている。RGM-79M『ムーンジム』という。外観はRGM-79F「装甲強化型ジム」に似ており、連邦軍が月面都市と鉱山、マス・ドライバーを防衛するため重力下での戦闘を念頭に入れて開発した機体である。重力下を想定した機体でも地球に配備された陸戦型とは機体の冷却と推進材に空気が使えない、という事情から中身はほぼ別物だ。陸戦型は地表でのホバー機能があるが、ムーンジムが月面でホバー機動を行えばあっという間に推進材が尽きる。月面は空気という色々用途があるものが無く、レゴリスという塵はいたるところに存在する機械には過酷な環境だった。そのため、各部の関節はシーリングされている。これは指揮官機レイスも同様である。
4機のガンキャノンⅡも同様に関節の防塵処理が行われおり、さらに上半身には増加装甲を装着していた。いわゆる重装型というべき機体で、増加試作機をフォン・ブラウンのAE.から参謀本部の命令書をたてに掻っ攫ってきた代物だ。形式番号をRGC-78FAという。全機右腕にはRX-79レイスと同型のビームライフルを持っていた。3機のガンキャノンは左腕にシールドを装着しているが、マーヴィン・ヘリオット中尉の機体は左腕に対MSミサイルランチャーを装着していた。ランチャーには「ボマー」ことヘリオット手製のミサイルを装填している。制式のミサイルより大口径かつ炸薬が多く、感度を上げたセンサーと「ダイバー」が手を入れた追尾アルゴリズムを備えた代物である。彼は月への道中ずっとこのミサイルの設計に没頭し、アンマンの工廠で60発ほど製造したのだった。ボマーのガンキャノンはこのミサイルを3発、腕のランチャーに装填している。「『グレイヴ』の捕物じゃ活躍できなかったからな。せめて戦闘じゃ貢献しないと」とボマー。「フィクサー」ことトラヴィスは「お前さん達のガンキャノンは貴重な直接支援火力だ。アテにしてるぜ」と持ち上げる。(こいつの臆面もなく相手を持ち上げるとこ、嫌いじゃないけどな)と思うが黙っておくボマーだった。
フィクサーのレイスに手を触れ「お肌のふれあい通信」をする機体がある。「ハイヤー」ことエドワード・リー軍曹機である。「あのー、大尉。自分もMSに乗るんですかぁ。俺、できれば整備に回りたいんですけど」軽い若者丸出しの口調丸出しである。「いや、ハイヤー、お前は何かと器用なんで前線に出てもらう。所属は俺の本部小隊だから小隊の指揮はしなくていいし、余裕があれば守ってやるさ」とフィクサー。「余裕があればってなんすか!?ヤバい時は見捨てるんすか!」ハイヤーは抗議するが、フィクサーは「お前、俺がヤバいとこに部隊をみすみす突っ込ませると思ってんのか?」と軽い口調で返すが「アンタとの付き合いは短いけど、油断ならないのは男なのは分かってるっす。自分の目的のためには中隊まるごと犠牲にしそうってこともね」とハイヤー。際どい話なので直通通信しているのだろう。ハイヤーの口調はこの中隊がまともな隊ではないのを感じさせる。元々この男はパブリク突撃艇の操縦手だったが、艇長に誤爆の責任を押し付けられ軍刑務所に収監されていたのである。それをフィクサーが拾いこの部隊に入れたのだが、口八丁手八丁なフィクサーの口調から受ける軽い印象が仮面なのをすぐに見抜いていた。ただ、目的のために部隊を犠牲にする冷酷な男かは分かりかね、こうして話しかけているのである。中隊員達は部隊結成時からいるハイヤーをフィクサーの古馴染みなのだろう、と勝手に思い込み特に咎めなかった。ボマーは「ハイヤーもいまいちアイツを信用できねぇんだろうな」と相棒の人望の無さを再確認していた。
ただ、「ダイバー」ことドリス・ブラント准尉だけは「『お肌のふれあい通信』って言っても装甲にレーザー当てれば盗聴できちゃうのよね」と彼らの会話を盗み聞きしていた。彼女の乗る機体はRTX-440強襲型ガンタンクの改修機でRTX-440Aの型番を与えられていた。元々はRTX-65ガンタンクの後継戦車として開発されていたRTX-440を月面での火力支援用に改造した車両で、アンマンでテストしていたのをフィクサーが搭乗員アリーヌ・ネイズン技術中尉と実験小隊ごとさらってきたのだ。RTX-440Aは中隊へ配備される際にダイバーにより各種センサーの追加、車載コンピューターの強化、各種UAVの運用機能を持たされていた。背中の多連装ロケットMLRSのランチャーはUAVの格納庫になっている。主砲の220mm砲は砲撃モード時には仰角を取ることができ、中隊を間接砲撃で支援するのが任務だった。3両のガンタンクは居並ぶMSから少し離れた位置に停車している。会話を盗聴してほくそ笑むブラントを運転席のネイズン中尉は呆れた、という表情で見ている。この女の盗み見、盗み聞き好きは性癖といえるレベルであり、ネイズンはとうに咎めるのを諦めていた。
「よっし。お前らはこれより特務中隊『Aチーム』として活動してもらう。任務を拒否するようなら軍刑務所に逆戻りだからな。おぼえとけよ」フィクサーはいきなり脅しをかける。なにせ、軍刑務所に収監されていた海千山千の者揃いである。フィクサーは自分をお前らの命運を握っているボスである、と宣言したのだった。
「しつもーん、なんで『Aチーム』なんすかぁ?」ハイヤーが脅しにも臆さないともいえる呑気な口調で質問する。
「黒幕のエライさんに言われて『Aチーム』って付けたんだが、俺もなんだか良く分からん。たしか、昔のドラマかなんからしい」ゴップ大将が「そりゃ、特務中隊の名前は『Aチーム』に決まっとるよ、君」と言うので付けた名だがフィクサーにはいまいちピンとこない。実のところ息子であるヴィンセント・グライスナーを探せれば部隊の名前なぞ何でもいいのだが。
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===== 宇宙要塞ソロモン
第302哨戒中隊長アナベル・ガトー大尉は思わぬ訪問者にいささか驚いていた。「アズナブル中佐…。先日は部下のローレンツに一手ご指導いただき光栄であります!」と訪問者、シャア・アズナブル中佐に敬礼と共にローレンツ少尉との模擬戦の礼を言った。「して、本日お越し頂いたのはいかなる御用で?」といささか時代がかった口調で尋ねるガトーにシャアは「いや、現在新型機の慣らしを行っていてね。貴隊と合同演習をやりたいとこうして参上した次第だよ」とこちらは気軽な口調で答える。「名高い『ファルメル隊』と手合わせ頂けるとは光栄の極み。是非ともお願いします」と破顔するガトー。「我が隊は先日の戦闘で大勢戦死者を出してしまってな。補充兵がどれだけアテになるか査定する模擬戦でもある。大尉には手荒くやって欲しい」とシャア。ファルメルにもMS-09ドムが配備され補充兵も着任している。数だけは揃ったのだが、シャアが見るに個の技量はともかく部隊として戦えるレベルには無い。そこで、ショック療法として熟練部隊として名高い302哨戒中隊と手合わせして今の自分達の実力を思い知らせよう、と思い立ったのだった。勿論自分のゲルググの慣らしも兼ねてだ。アナベル・ガトー大尉の乗るドムなら相手に不足なしである。
「アンネローゼ・マイヤー軍曹であります。よろしく願います」ブラウン准尉に挨拶をする整った顔立ちだが、どこか冷たい印象を与える少女。「マイヤーってことは君が噂のクルトの妹さんかい?」とブラウン。「はい、クリスチャン・マイヤーは我が兄であります」とアンネローゼ。「そうかぁ。君が…」ブラウンは感に堪えないという顔になった。彼女の兄、クルト・マイヤーの死に責任を感じているのだ。(あの時、もう少し早く離脱していれば…)シャア中佐からは「貴様が気に病むことではない」と言われたが、割り切れないものが残った。
「兄は部隊のため殿となって戦死しました。自分には准尉を責める気持ちなどありません」きっぱりと兄の死を割り切っている、と言うアンネローゼにブラウンは「そうか、遺族にそう言って貰えて少し楽になったよ。軍曹、君を『アンネ』と呼んでいいかい?」とブラウン。アンネローゼは「それはお断りします。『マイヤー』とお呼びください」ときっぱりと断った。ブラウンは毒気を抜かれた気分になり(君の妹さんは手強いなぁ、クルト)と心の中で戦友に呼びかけた。
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ソロモン近傍の暗礁宙域でファルメル隊と302中隊との対抗演習が始まった。ファルメル隊はシャア機を含め7機がサイド7の戦闘で生き残っていたので8機補充された。生き残りにもMS-09ドムが支給され、新型機ゲルググ1機、ドム14機の合計15機の陣容となっていた。
対する302中隊だが、この日はMS-09ドム9機とMA-05ビグロ3機で編成されていた。ダリル・ローレンツ少尉はMS-06FRザク・イモータルの調整のため、この演習には参加していない。
ケリィ・レズナー中尉、クルト曹長は本国から送られてきた新型MAの方に行ってしまい、ビグロ小隊は新任のカラハ中尉と補充兵2人が乗ることになった。
「よいか。我が中隊は連隊長の意向で真っ先にMS-09ドムを支給された。対するファルメル隊はシャア中佐の麾下とはいえ、ドムに機種転換して日の浅い者達だ。機体の慣れ、というハンデがある以上無様な戦いはできぬと知れ!」ガトー中隊長は張り切っていた。ケリィがいれば混ぜっ返すところだが、彼の不在で茶々を入れる者なぞいなかった。ガトーのドムは全体的に暗い青で塗装されていた。他のドムは量産機同様、胴体が濃い緑、手足が緑がかったグレーの塗り分けである。
302中隊は青いドムを先頭に3機づつ3つの小隊に別れ赤い新型機を隊長機に仰ぐファルメル隊に突撃した。3機のビグロは予備兵力としてここぞという時投入するため後ろに控えている。
迎え撃つファルメル隊だが、指揮官シャア中佐は「私はガトー大尉と楽しみたいのだ。新任のギリアム少尉以下で残りを対処せよ。3機のビグロがいるのを忘れるな」と指揮を放棄するような指示を出した。名指しされたルロイ・ギリアム少尉は「りょ、了解しました。ルロイ・ギリアム少尉、中隊の指揮を取ります!」と復唱するが、(え、えええ!?俺が指揮するのぉ?)と脳内は?マークで一杯だった。思わずブラウン准尉に「准尉、中佐はいつもこうなのかい?」と直通レーザー通信を入れた程だ。ブラウンは「中佐は単騎で突撃されるので中隊の指揮は自分か戦死したマイヤー少尉が取っておりました」との答えにギリアムは(以前いた将校はよくそれを納得していたな)とも思うが、ブラウンの操縦を見ると実力は部隊No.2の触れ込みは伊達ではなく、着任時ドレン大尉から言われた「ファルメルは実力本位」というのが実感できた。(おそらくは新任の兵達が納得できるよう准尉でなく自分が指揮を取るんだろう。いや、これは中佐のテストなのでは?)と思い直した。この演習でまずい指揮を取れば中佐は即自分から指揮権を取り上げブラウン准尉に渡すだろう。ギリアムは気合を入れ直すつもりで頬を叩こうとしたが、手のひらがヘルメットに当たってしまった。(ヘルメットをしていたことも忘れる程驚いていたんだな…)ギリアムは少し落ち着いた。
「敵はドムに慣熟しているが、数はこちらが14と多い。ビグロが仕掛けてくる暇を与えるな!ブラウンとマイヤーのペアは予備とするから自分の小隊の後ろへ」司令部に押し付けられたのではなく、シャアが候補の中から選抜しただけあってギリアム少尉の指揮には卒がなかった。
アンネローゼ・マイヤーとペアになったフレデリック・ブラウンは「その塗装、兄さんのと同じだね」と通信を入れる。「自分が着任した際に整備長マイ大尉が肩を赤く塗ってしまったのです。自分は全面白が好みだったのですが」と冷たく答えた。「整備長は自分達が一兵卒の時から大変良くしてくださったんだ。兄さんの戦死を悲しんでくださったんだよ」とブラウン。マイヤーは「そうですか。後でお礼を言っておきます。准尉とペアで運用されるのであれば同じ塗装にも意味はあるのでしょう」と答えた。(とことんドライだなぁ…)と少し気圧されているブラウンにシャアから「マイヤー軍曹は機関の訓練生だった。ニュータイプということだ。普通の人間と感性が違うのは当然と思え」と通信が入り。「はい!」と咄嗟に答えたが、(中佐は自分の考えてることが分かるんだろうか?)とも思うブラウンだった。
赤い新型機がガトー機目掛けまっしぐらに突進してくる。302中隊はガトー以下9機が一斉射撃するが、新型は嘲笑うかのように易易と回避していく。右手に握ったライフルからビームが放たれた。威嚇のつもりなのか被弾した機体はない。「ビームライフルを装備しているのか…」ガトーは一瞬唖然としたが、ビームライフル装備機ならまずトップエースに支給されるだろうと思い、隊に次々と指示を出し態勢を立て直そうとした。ところが、新型は離脱し、ガトー機を指差し「こちらに来い」という仕草をした。
「ご指名とあれば一騎打ちに応じるしかなかろう!」ガトーは武者震いをしつつ赤いMSに向けて吶喊した。
「乗ってきたか。アナベル・ガトー、中々面白い男だ」シャアは仮面の下でにやりとした。ガトー機は背中に小型のランドセルを背負った指揮官型だ。だが、頭にブレードアンテナは立てていない。「あの角はドムに似合わんと思っていたが、ガトーも同じ意見のようだな」シャアはまたにやりとするとビームライフルを放った。「!!!」ガトーは奥歯を食いしばるとビームライフルの銃口がこちらに向く一瞬前に機体を横滑りさせた。その一瞬後、ビームが通り過ぎる。強烈な横Gに耐えたガトーはお返しとばかりにビームバズーカを放つ。赤いMSは悠々といった風情でこれを回避した。
「あの新型機、ローレンツの報告より動きがいいようだ。シャア中佐とて慣熟が必要だった、ということか」おそらくこの演習も慣らしの一環なのだろう。ガトーとてただの練習台になるつもりは無い。己の技量を全てぶつけ、番狂わせを起こしてやる気満々であった。
「流石はガトー大尉。ローレンツ少尉より動きに無駄がない」シャアはゲルググの慣熟訓練にガトーを選んだのが正解だったとほくそ笑んだ。ローレンツ少尉の駆るザクは正直シャアには期待外れだった。開発した狂人のいう「不死」には程遠い、少々小回りの効くMA程度の機体だった。機体の特殊なシステム故か反応速度には見るべきものがあったが、それに振り回されている印象があった。対して目の前の青いドムは最小の動きでシャアの射撃を回避している。まだゲルググの操縦を完全にマスターしていないシャアはいささか大きな噴射で回避しなければならないのと対照的だ。「こうでなくてはな。私の糧となって貰うぞ、アナベル・ガトー」シャアはゲルググに更に鞭を入れいくつかの空戦機動をミックスしながら青いドムを追う。
「シャア中佐、ここまでの怪物だったとはな!」ガトーは改めてジオンのトップエースの実力に驚愕していた。新型とはいえ昨日今日乗ったばかりの機体でここまでの機動性を発揮するとは。
『赤い彗星』の実力を思い知らされた感がある。とはいえ、ガトーが乗っているのも現在の主力機ドムの指揮官型MS-09Sである。「新型なにするものぞ!!」自分に気合を入れるガトーであった。
ルロイ・ギリアム少尉が指揮するファルメル隊14機は3機小隊4個とブラウン・マイヤーのペアで構成されていた。中隊長代理を仰せつかったギリアムは「302哨戒中隊、やはり練度が高い…」目の前の対抗部隊がかなり熟練度の高いフォーメーションを組んでいるのを見て唸った。数が多いとはいえ現状では烏合の衆に等しいファルメル隊では手に負えないかもしれない。指揮を取るのがシャア中佐ならともかく、小隊長を勤めたことがある、といった経歴の自分では尚更だ。(これは早々にブラウン准尉を投入する必要があるな…)名高い『レッド・ガード』塗装の2機のドムにレーザー通信を入れる。「ブラウン准尉、302をどう見た?」と。「次席のアダムスキー中尉、よく隊を掌握しているようです。これは手強いですよ」とブラウンも強敵と見ているようでギリアムは安心した。「頼めるか、准尉」とギリアムが言うか言わぬかのうちにもう1機のドムを連れて突撃する肩の赤いドム。ギリアムは残った機体に援護射撃を命じる。
敵は名高き『レッド・ガード』を押し立てて来た。一人戦死した、と聞いていたがその妹とやらが赴任してきて『赤い彗星』は自分の親衛隊に抜擢したらしい。アダムスキーは噂が真実であったことを知った。ゲイリー准尉が「中尉、やつらの動き即席でありませんな」と2機の動きを舌を巻く。不慣れなペアとは思えぬコンビネーションで援護射撃のビームを背負って302中隊に迫る赤い肩のドム2機の動きを見て中隊に動揺が走る。彼らはガトーやローレンツと模擬戦を繰り返すうちに絶対勝てない相手がいることを知ってしまった。故にこちらに迫撃する2機のドムが中隊長や黄色いザクと同種の雰囲気を纏っているのも感じることができた。とはいえ、流石に熟練兵の集団だけあって動揺が動きに現れることはなく、まずは8機の全力を持ってレッド・ガードを討ち取るべく彼らを包囲するフォーメーションを取っていた。ゲイリーとカリウス曹長の本部小隊は2機で囮を担当していた。
「なに!?」ゲイリーはレッド・ガードの1機が自分達に見向きもせず一見見当外れの方向、真上にビームバズーカを発射したのを見た。しかも、ノールックで、である。その一瞬後、1機が撃墜判定を受けたとオープン回線で報告が入る。すると、その赤い肩のドムは急上昇し彼らの真上に遷移した小隊を目掛けて突進した。
「自分についてきてください」マイヤーから有無を言わせぬ口調で通信が入り彼女が急上昇するとブラウンは何かを察したかのように「以後、君が指揮を取れ。自分はそれに従う」と返答し、マイヤー機を追った。マイヤーは通信機のスイッチを2回入れる動作で「了解」と告げた。本来なら上官には許されない無作法であるが、ブラウンは咎める気にならなかった。(それどころじゃないんだ…)ブラウンにも憶えのある、口を利く間すら惜しいゾーンに彼女は入っているのだ。上を取った1機をノールックの射撃で仕留めた後、マイヤー機は急上昇して残りの2機も瞬く間に仕留めた。彼らの上を取っていた兵たちも決してノービスではなかったが、マイヤーの機動はその何枚も上を行っていたのだ。ブラウンはマイヤーの後ろで援護につとめた。歴戦の彼であってもマイヤーの天王星ロケットのリミッターが外れているかのような動きについていくのは厳しいGに耐えながらのものになった。一方で天王星ロケットはリミッターを外して稼働すると爆発の危険性がある、とマイ大尉から聞いていたので気が気でなかった。「天王星ロケットの安全マージン内です」とマイヤーから言われ(やっぱり俺の考えが読めるのか…)と一瞬思うブラウンだったが、「了解、ついて行って大丈夫という訳だな」と更に新しい愛機に鞭を入れた。
アダムスキーはフォーメーションの上編に位置していた第2小隊が瞬く間に全滅するのを見てビグロを呼び寄せ編隊を組み直すことにした。MA-05のMSと隔絶した加速力と火力ならまだ逆転の目はあると踏んだのである。カラハ中尉率いるビグロ小隊も戦況を見ていたため、すぐにレッドガードに仕掛けることができた。
「モビルアーマーだ!」ブラウンがマイヤーに注意を促す。「固定式のビーム砲に直線的な動きしかできない敵です。私を捉えることはできない」マイヤーは言い放つと大口径ビームを回避し、ビグロの死角になる下面に周り、ビーム・バズーカで先頭の1機を撃墜した。ブラウンもこれに倣いMAの下を取って撃破し、マイヤーはその間に最後の1機に格闘戦を仕掛け、両側から襲いかかる爪をすり抜けて仕留めていた。実戦ならヒートサーベルがモノアイに突き刺さったことだろう。
「突撃!敵は数が少ない、乱戦に持ち込め」ギリアムは中隊の残余12機をアダムスキー達5機に突っ込ませた。流石は歴戦の302中隊と言うべきか、ファルメル隊は6機が撃墜されたが、302中隊は壊滅した。アダムスキーは「抜かったな…。中隊長に顔向けできん」と項垂れたが、ゲイリーの「中尉、中隊長の一騎打ちを見物しに行きますか」との言に「そうだな、ありゃ噂のニュータイプってやつだろう。中隊長の戦いぶりを若いもん達に見せとくか」と気を取り直した。(噂のニュータイプがいるのが事前に分かっていれば対策の立てようもあったが、あれは怪物だな…)中隊の切り札ビグロを易易と片付けたレッドガードの列機、あれこそがファルメル隊の秘密兵器だったのだろう。敵に回ると非常に厄介だったが、ソロモン防衛戦では味方である。心強いと言えなくもない。
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シャアとガトーの一騎打ちは白兵戦の間合いになっていた。距離を取っての撃ち合いでは、ビームバズーカはライフルに狙いの正確さと発射速度で劣る。白兵戦なら赤いMSがビームサーベルを使うとはいえ、技量でなんとかなると踏んでガトー機が接近してきたのである。シャアも白兵戦に応じるようで左手に光の剣を握らせ待ち構えていた。
「うおおぉ!!」裂帛の気合のもとガトーはヒートサーベルを打ち込む。演習のはずなのに白熱化させていた。だが、必殺の一撃はビームサーベルに受け止められ、盛大に火花が散る。「ぬぅ!」ガトーは唸りを上げるが次の瞬間、ヒートサーベルが折れ曲がるのを見た。ビームの出力にヒートサーベルの発する磁場が耐えられなくなり、遂には切断されたのだった。
ガトーは赤いMSに光の剣を突きつけられ「まいった!」と言わざるを得なかった。
「世話をかけたな、ガトー大尉」シャア・アズナブルの労うような口調に「ご指南ありがたくあります。最後のヒートサーベルではビームサーベルに対抗し得ない、というのは得難い戦訓です」とガトー。「君が手加減せずにサーベルを白熱化させて打ち込んでくれたからだ、アナベル。私のことはシャアと呼んでくれ」とシャア。「アナベル」と呼ばれたガトーは「では、シャア中佐とお呼びしましょう」と返した。赤いMSが差し出す手をドムに握らせ握手をしている。
「やはり演習とはいえスリルが無いとな。私もこのゲルググにいい体験を積ませることができた」「この新型は『ゲルググ』というのですか。いや、こうしてまざまざと見るとドムより大きいですなぁ」とガトーは新型をじっくり観察する機会に恵まれ感心している。「いずれは君にも支給されるだろう。こいつがドムの配備から日を置かず完成したのも、ツイマッドがジオニックに全面協力したからだと聞く」とシャア。ガトーは「おぉ!挙国一致が成ったのでありますか!機動軍からも援軍が来ましたし、今度こそ連邦軍を痛撃できましょう!」と感動しているようだ。
(センチメンタルな男だ…)とシャアは思うが、味方として働かせるには都合がいいとも思う。ソロモンのMS搭乗員のトップといえるカスペン大佐とは良好な関係を保っておくに限る。大佐の腹心ガトー大尉と仲良くなっておくに越したことはない。
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「中隊長、面目ございません。惨敗いたしました…」頭を下げるアダムスキーにガトーは「私も中佐の挑発に乗って指揮を放り出してしまった。すまぬ」と部下達に頭を下げカリウス達を慌てさせた。
「中佐、ファルメル隊、第302哨戒中隊に勝利したしました!」対象的にシャアに胸をはるギリアム少尉に「大負けに負けさせて根性を叩き直すつもりだったが」と皮肉な笑いを浮かべるシャア。(ルロイ・ギリアム、拾い物かもしれん…)と若い少尉の評価を少し上げた。「レッド・ガード、特にマイヤー軍曹の働きは見事でありました。敵に突撃した勢いで瞬く間に敵小隊を撃破、増援のビグロ3機を一蹴したのであります!」とマイヤー軍曹の戦果に興奮気味のギリアム。ブラウンも「今回の演習、マイヤーの査定も兼ねていたのですね。その意味では120点と言えるでしょう」と太鼓判を押す。「なにを言うか。貴様もビグロを1機仕留めたのだろう」と冷やかす口調のシャアに「自分はマイヤーの真似をしてビグロの砲撃を掻い潜り下に潜り込んだだけです。ニュータイプ兵士の恐ろしさを思い知りました」とブラウン。「それこそ、なにを言うか、だな。貴様は既にサイド7でニュータイプに遭遇し、戦ったではないか」今度は真剣な口調のシャアに「では、クルトを討ったのは…」と、はっとなるブラウン。「あぁ、間違いなくニュータイプだな。私と戦った白い二本角も同様だろう。既に連邦にはNT部隊が存在するのだ、ブラウン」とシャア。ギリアムは固唾を飲んでいる。マイヤー軍曹のような兵が中隊規模でいるとなれば、コンスコン艦隊が降伏に追い込まれ、ファルメル戦隊が大打撃を被ったのも納得がいく。
話し合っている3人にマイ大尉が近づき「中佐!ゲルググはまだ慣らし中なんですよ!間接のバリも取れてないのに全力で振り回すのはやめてくださいよ!」とシャアにゲルググの扱いを抗議した。「スマンな、オリヴァー。名高いアナベル・ガトー大尉相手とあって、ついつい熱くなってな」と苦笑いするシャア。(中佐にあんな剣幕で文句言える整備長スゲエ…)ギリアムはマイ大尉の度胸に感じ入ったようだ。
「連隊長、ファルメル隊と302中隊の対抗戦見ました?シャア中佐、見慣れないMSで戦ってましたよ。新型ですかねぇ?」ワシヤ大尉は相変わらずの口調だったのでソロモンに来てピリピリすることが多かったランバ・ラルは少しほっとした。「貴様の呑気な口調はこういう時局だとありがたいもんだと思うよ」連隊長の思わぬ褒め言葉に怪訝な顔のワシヤ。「いや、貴様にはそのままでいろ、ということだ。模擬戦は俺も見てたが、中佐以外にも際立った動きを見せた兵がいたな」「あ、それはどうやら戦死したマイヤー少尉の妹らしいです。なんでも例の機関で訓練されてたそうで」と情報通なところを見せるワシヤ。「ドズル閣下もサイド7の戦闘でニュータイプの有用性にやっと気づいたということか。遅すぎ、少なすぎ、にならねばいいがな…」ラルは現状を憂いていた。
「連隊長、MS-09転換訓練の報告に参りました」とドナヒュー大尉がラルのオフィスに出頭した。「ご苦労。ところで大尉は『ニュータイプ』をどう思う?」連隊長ラル大佐にいきなりそんなことを聞かれ、困惑するドナヒューだが、「自分も先程の演習を拝見しましたが、確かに一人際立った動きを見せる兵がいました。あれがニュータイプとやらであれば、戦術レベルでは大きな影響があると考えます。ですが、人間ならメシを食いますし、寝る時間だってあるでしょう。戦略レベルで優位に立てば負けはしないかと」と答えた。(もっとも、ソロモンまで押し返された現状は戦略レベルで負けてる、と言えるが…)と内心では思っていたが。
「確かにそうだな。しかし、コンスコン艦隊やファルメル戦隊の惨敗は連邦のニュータイプが実戦投入されている証拠だ。あのプロパガンダ映像に出てくる『二本角』に乗ってるのがそうだろう。コンスコン艦隊は大隊規模のMSを擁していたのに、敵の一個中隊に蹴散らされたという。これが大隊、連隊、師団の規模で投入されたら、と思うとな…」ランバ・ラルの憂いはさらに深くなった。「どうなんですかねぇ。そんな規模でニュータイプみたいな特殊な兵士が養成できるでしょうか?投薬やら手術やらでそれを再現する実験は我が国の機関でも上手くいってないそうですし…」ワシヤは楽観的だった。「しかし、貴様の耳はいくつあるのだ?やたら良く聞こえるようだな」ラルはこの軽い大尉の事情通ぶりに感心した。「自分も補給やなんかでソロモンの主計とやり合う際に大尉の情報に助けられてますよ。妻も『やたらソロモンの内情に明るい将校がいるのね』とあきれ、いや感心してました」とドナヒュー。どこの中隊がこの新装備を支給された。どこの大隊は定員を充足している。といった情報はなにかと物資をケチろうとする要塞側との交渉に役立った。ラルが「通商破壊で時間を稼いだ兵たちにメシも食わせんのか!ソロモンは!」と怒鳴った後にワシヤが揉み手で主計と交渉する、というのが連隊の常套手段である。ドナヒューは(ヤクザみたいだな)と思わなくもないが、部下達に満足な補給が与えられるので黙っている。
「しかし『ブルースター連隊』というのはどうにもな。確かに俺の機体は青いが…」ランバ・ラル大佐はドズル中将直々に命名した通商破壊部隊を再編した連隊の名前に合点がいかない様子だった。ラルが乗っていたザクや今乗っているドムの塗装にちなんでいるのだと中将は言っていた。「だったらシャア中佐の部隊は『レッド・コメット戦隊』とかになりますよねぇ。ヒーロー番組みたいな名前ですけど」ワシヤが調子を合わせる。「大尉もそう思うか。大体、あの人のネーミングセンスは何かズレとるんだよなぁ」総帥親衛隊か突撃機動軍なら聞き咎められそうな上官批判を実力があれば公然とできるのが宇宙攻撃軍であった。他の軍から「野武士の集団」と言われる所以である。
「まぁ、連隊の名前はともかく中将は装備に関しては優遇してくれてますよ。中隊長以上にはMS-09Sが支給されてますしね」とドナヒュー。「本来ならモビルアーマーも欲しいところですが、アレはパイロットに高い耐G特性を要求しますからねぇ。他の連隊でも3機小隊ごとに分散配備されてるようで」と事情通のワシヤ。「ビグロの火力と機動性は確かに欲しいが、あの『スキウレ』とかいう自走砲が何台か配備されてたろう。火力だけならあれでも遜色あるまい」ラルは記憶の中からMSが操作する浮き砲台を掘り起こした。「各大隊毎に3門が支援火力として配備されてます」とドナヒュー。ラルが「あれ」とか「それ」とか言うと、即具体的な数字を挙げてくれるドナヒューはラルにとってありがたい存在だった。「今更、特殊なパイロットの要るビグロよりスキウレの数を増やした方が良いかもしれん」と連隊長は要塞司令部にスキウレの増派を要求することにした。早速ドナヒューとワシヤはその要求を通すべく動き出していた。
両軍といいつつ、ほぼジオン側の描写になってしまいました。
「フィクサー」ことトラヴィス率いる「Aチーム」ですが、今後もちょこちょこ出演させるつもりです。狂言回しとして便利なんです、トラヴィスみたいなキャラは。
遂に前線に投入されたクスコとレコアですが、次回以降で護衛のドルメルのパイロットも登場させる予定です。歌によるサイコ波ジャミングというのはこの物語の発想当時から考えていたアイデアです。クスコは別の機体に乗り換えても歌う予定です。
シャアvs.ガトーですが、『Ζ』以降シャアが過小評価されてる感があるので本作ではやけくそに強いです。天パ君がさらにやけくそなだけで。
NTパイロット、マイヤーは『ジオンの再興』など近藤和久氏の漫画にフレデリック・ブラウンと共によく登場する女性パイロットです。現在連載中の『ジオンの再興 レムナント・ワン』にもゲードライに乗って活躍してますね。ファーストネームの表記がなかったようなので「アンネローゼ」という名前をつけました。
「アムロを殺した男」ルロイ・ギリアムも登場させました。彼には戦場でのシャアの言動にツッコミを入れる役目をして貰う予定です。
今回はほぼ漫才みたいになってしまったラル率いる「ブルースター連隊」ですが、活躍は次回以降ということで。
最後に、豪雨の被害に遭われた皆様にお見舞い申し上げます。
2023.9.8 一部修正