== ==月面 エアーズ市からおよそ75km地点のクレーター
ホワイトフォース大隊が陣取ったのはかなり深く直径の大きいクレーターで大隊40機で全周警戒が可能だった。
もちろん、頭だけを稜線から出しての警戒態勢である。マルセラ達本部小隊GM4機は散開せずに警戒している。なにしろ、まともに戦えるのは彼女達だけであるのだ。各個撃破の愚をおかすわけにはいかない。
「敵が見えてきました」カレンがマルセラに報告する。「MSがタイヤで走ってます。パイプで組んだバギーみたいのを装着してますね。やけに速い理由はこれですか。それと、ザクが背中に何か背負ってます。多連装ロケットランチャーのようですが…、これはまずい。敵はこちらのビーム兵器への対抗手段を持ってるようです」
ロケット弾の中身はビーム拡散イオンだろう。敵のMS中隊はビーム撹乱幕を張って突撃を敢行するつもりのようだ。
「小隊各機はバズーカとアサルトライフル装備に切り替えて。第一中隊!目くらましに前方の敵機へビームを発射。狙いなぞ付けなくていい。とにかく撃ちまくれ!!」
マルセラの号令でナイアス・ヒュー准尉率いるホワイトフォース第一中隊が射撃を開始した。狙いを付けずビームライフルの発射速度限界の乱射である。砲身は熱を持ち赤くなっている。
「ビーム!!!」前衛の警告にマレット・サンギーヌ大尉は落ち着き払って「撹乱幕を展開。中隊突撃」と命じた。
中隊の先頭を走るMS-06G、3機の背中から撹乱弾が発射される。打ち尽くしたザクは後ろに下がるどころか、撹乱幕の外側を走ってビームを乱射する『首なし』ベムへの囮となっていた。
隊列から外れたザクに代わって06Gが3機、背中のロケット弾を発射する。二重に撹乱幕を展開したのだ。ロケットを打ち尽くすと、こちらも隊列を外れ、囮となった。
「クロード、相変わらずグール共は士気旺盛のようだな」マレットは皮肉を言ったが、グフに乗るクロード中尉は「今回隊長の思し召しで我ら人間に戻る道が開けました。皆、隊長へのご恩返しに必死なのですよ」と恭しく返す。彼らはマハルのスラム街に住む孤児、あるいは虐待され家を逃げ出した子供であった。地下道で寝起きし、路上で犯罪を含む様々な手段で生計を立てていた。彼らを民警に逮捕させ、設立当初のフラナガン機関送りとしたのがキシリア・ザビと配下のキシリア機関である。
フラナガン博士は最初、共感性を高めることで彼らをニュータイプへと「進化」させようとしたが、成果は芳しくなかった。そこで、逆に共感性を極端に下げる措置を行いどんな残虐行為や裏切りも平気で行える人格を作った。キシリア機関の「
クロード達、屍鬼隊の生き残りは今回の作戦向けにキシリア少将、ケラーネ准将、サンギーヌ大尉に絶対服従するよう調整されていた。
絶対的な忠誠を誓う12名の部下を得てマレット・サンギーヌは大いに満足し、その自尊心はさらに肥大することになった。今回のエアーズ市攻撃が上首尾に終われば、屍鬼達に名字と国民IDを与え、サンギーヌ家で召し抱える、とまで約束したのだ。老臣のユイマン・カーライル中尉はこれを危ぶみ、密かにサンギーヌ家に連絡を取ったが、当主の「好きにさせよ」との命で黙認していた。
そういう訳で屍鬼隊の士気は異常に高い。「人間」に戻れば再調整して貰える、と考えたからだ。実際はそんなことまでマレットは約束していないのだが…。
ただ、クロード中尉だけは(役に立つところを見せれば、あのお坊っちゃんは自分だけを特別扱いするはずだ)と思っていた。そこで、今回の何層もビーム撹乱幕を展開しマレットの真骨頂ともいえる白兵戦距離まで接近する戦術を献策したのである。マレットはこれを採用し、クロードと妹のクローディア少尉には格別の待遇を与えると言った。あくまで口約束だが、気位の高い貴族はそれを守るだろう、とクロードは踏んでいた。
「なんなんだ!?なぜ、撹乱幕の外に出る機体がいるんだ?」マルセラは撹乱幕の向こうにいるザクや敵の新型をバズーカやアサルトライフルで狙いながら、隊列から外れデタラメに走り回っているザク6機に困惑していた。ホワイトフォースは「ビームが効く敵」を狙い撃とうとそちらに火力を集中し、既に2機が撃破されていた。それでも4機は両腕に装備したバズーカやマシンガンを乱射し続けながら走っている。「これは囮ですね。かと言って、狙うを止めたらこちらに突っ込んでくるでしょう」カレン曹長は冷静に分析している。「では、こちらの全力射で先に4機を仕留めては?」というパーカー軍曹の具申に「それこそ、本隊が突っ込んでくる好機を与えるわよ」とマルセラ。「敵の指揮官は両手にシールド持った機体がガードしてます!」とクレア軍曹。
指揮官機、おそらく情報部が掴んだ『ドガ』とかいう新型だろう、は両腕でシールドを持った別の新型、『グフ』とかいうのだろう、が左右に展開し防御していて指揮官機への直撃を防いでいた。
グフは両手に機関砲を内蔵しているらしく、バズーカの弾体を迎撃し、ライフルの射撃はシールドで防いでいる。
(170mm砲を持ってくるんだったわ、あれならシールドごと敵を撃ち抜ける…)とマルセラは思ったが、行軍訓練に持ってくるような装備ではない。
3列目のザクは撹乱弾と煙幕弾を混ぜて発射した。いよいよ、敵は突撃してくるのだろう。マルセラ達本部小隊とホワイトフォース36人は覚悟を決めた。
コナン一等兵なぞ既にヒートマチェットを白熱化させ、白兵戦に備えていた。
「くく、もう間合いに入ったぞ。クレーターの底で怯えるがいい」マレット・サンギーヌは舌なめずりしていた。そして「中隊、吶喊!!」と命じた刹那、「うおおおぉぉぉ!!!」という裂帛の気合と共に左右の盾持ちグフが上方からのビームに貫かれ爆発した。ブレイブ・コッド少佐がオープン回線で吠えながら襲来したのだった。
「上からだと!?」マレットは驚愕した。全く想定していない方向からのビーム射撃だったからだ。続いて次々とMS-06GやMS-07Mにビームが降り注ぎ、中隊は瞬く間に6機が撃破、2機が損傷を負った。セントールオプション、バギーを装着したMSは動きが直線的で狙いを付けやすい。上からならさらにいい的だろう。
「距離を詰めてしまえば撃たなくなるだろう!」マレットは中隊前記にセントールを捨てることを命じようとした。クレーターの中になだれ込んで乱戦になれば狙撃はされまい、という読みである。
命令を出そうとしたその瞬間「特戦隊、後退せよ!援護はこちらでする!」ソンネン少佐の命令が入った。「大隊が通信可能範囲まで進出してきたってのか?」サンギーヌ家の直臣パイパー中尉が声をあげるが、「上空にマゼラアタックを確認」というフローベール中尉の報告に(結局ソンネンは私を信用していなかったのだな…)とマレットのプライドはいたく傷ついたが、「クロード、引き上げだ!残った撹乱弾で傘を作れ」と命じるだけの冷静さも残していた。結局、突如現れた増援に特戦隊は敵大隊との交戦を諦め後退した。
「団長が、教官殿が来てくれた!!」クレーターから歓声が上がった。「団長の気合聞いたか?ジオン共びびって逃げ出しやがった!」ハラダ一等兵のセリフに「クレイ大尉、マニングス大尉、ウッズ大尉の狙撃も凄いですよ。敵は立て続けに4機失いましたから」コナンはより冷静に戦況を見ていたようだ。
「しかし、月面挺で急行するなんて無茶ですよ。いい的になります」とマルセラの苦言に「まさか、空を飛んでくることはしまい、というのが付け目だ」とブレイブ・コッド少佐。
「最も、センサーに引っかかないよう地表すれすれを飛んで来たがな。いざという時のとっときの戦術だったんだがなぁ…」とトッシュ・クレイ大尉。
「これがその『いざという時』だろうが!」と大声を上げるブレイブに歓声で応えるホワイトフォースの子ども達。
「とにかく助かりました」とマルセラ。「うん、君もよく子どもらを指揮して粘った。誰一人見捨てようしなかったのは評価に値する。それにこの防御陣地は中々の出来だ」とブレイブ。
「ありがたくあります!」マルセラは自機に敬礼をさせた。遅れて小隊3機とさらに遅れてホワイトフォース全機が敬礼した。
「うむ!皆、無事でなりよりだ!」とブレイブは豪快に笑った。
(ブレイブをおびき出したことでジオンは戦術目標の過半を達成したな…)トッシュ・クレイは冷静に戦況を見ている。「いやぁ、怪我する子が出なくて良かったです」と横のGMからのんきな声が聞こえてくる。「何割かはアンタの射撃のお陰で助かったんだぜ、ウッズ大尉」トッシュは声の主、ウッズ・オフショーにこう声をかけた。「いやいや、自分のはまぐれ当たりです。トッシュ大尉のの射撃こそお見事でした」とトッシュを持ち上げる。「アンタ、謙虚も行き過ぎると嫌味になるぜ」マニングスが苦言を呈した。「ははは、ついこうなっちゃうんですよね」とウッズは照れ笑いしている。(婿養子ってのも大変なんだな…)トッシュは自身の独身主義への確信をさらに強めた。
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==== ソロモン近傍の宙域
ステルス艦『ノーチラス』はソロモンを取り囲む暗証宙域の外縁に潜んでいた。巧みにジオンの定期パトロールを避け、バルーンを展開してデブリに偽装していた。
「どうかね、リリーの様子は?」艦長のマエバラ中佐は長椅子上のシートに横たわるイース・シェリーナ特務少尉に尋ねた。「リリーはソロモン内部を偵察中。私にも彼女の目を通して見えている…」と答えた。上官に対する口調ではないようだが、乗艦初日にマエバラから「自分達への受け答えはぞんざいな口調でやってくれ。君達の処理能力を敬語なんかに使いたくない」と言われ所謂タメ口で応対しているのだった。
「何が見えてる?」マエバラの問いに「ドッキングベイ、砲台、大型の対艦ミサイル。まだ、例のMAは見つけていない。まだ組み立て中なのかも…」イースはしんどそうだ。マエバラは内心の動揺を抑えつつ「ドッキングベイはいくつかな?艦艇が通れる物だけで構わない」とさらに質問を重ねた。
「大きいのは3つ。表にふたつ、裏にひとつ。正確には掘り起こしたのが3つね。塞がったままで工事中なのが結構あるわ」とイース。質量弾攻撃により、塞がっているドッキングベイがかなりあるらしい。
「それだけわかれば大丈夫だ。後はAIがリリーの見た映像を解析する。君たちは休んでいてくれ」とマエバラが言い終わる前にイースは寝息を立てていた。「この距離で、こう障害物が多いと結構しんどいわね」と疲れた口調のリリー。「ご苦労さま。食堂に行って燃料、甘いものでも入れてくれ」とマエバラ。「その前に私も寝る。疲れたわ」とリリーは目を閉じた。マエバラは従兵に毛布をふたつ用意させた。
「リリーとイースは無事任務を成し遂げた様です。今は眠っています」ホワイトベースのCICで心底ほっとした表情のレヴァン・フウ特務少佐がチャーリー中佐に報告する。「君もご苦労だったな。さぞかし心配だっただろう?ゴップ閣下の気持ちも少しは理解できたのではないかな」と笑顔のチャーリー。「はい。待つ身というのは辛いものなのですね。閣下にご心痛をお掛けし、謝罪したい気分です」とレヴ。「閣下は謝罪なんか求めちゃいないさ。君達が無事帰還することこそ望んでいらっしゃる」とチャーリー。レヴは微笑みを浮かべ「そうでしたね」と言うが内心では(次に赴くソロモンの兵達にもこうして身を案じている者達がいるのだ…)と自分が能力を罪深いことに使っているのでは、という思いを強くした。
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==== ソロモン第2格納庫
「将兵諸君!遠距離偵察衛星が連邦の艦隊行動をキャッチした。目標はこのソロモン要塞だ。いよいよ決戦である!我ら公国の御楯は決死の覚悟でこの国難に臨まなくてはならない!征くぞ貴様ら!!連邦軍相手にジオン宇宙攻撃軍ここにあり!と声高らかに勝鬨を上げようぞ!!」ソロモン要塞司令にして攻撃軍総司令ドズル・ザビの演説は最後の方はほとんど吠えるといったものになった。腕を振り上げているポーズと相まってドラミングをしているゴリラに見えなくもない。
演壇を降りたドズルにペットボトルを手にしたラコック大佐が駆け寄り「お見事な演説でした。将兵は閣下のお言葉にさぞ奮い立つでしょう」と演説を称賛した。
「フン!慣れぬ演説なぞするから原稿の最後の下りが頭から飛んでしまわったわ!適当に吠えておいたがな。やはりギレン兄、総帥は大したものだと思ったぞ」と少し照れているドズル。あの咆哮は演説原稿を忘れてしまったかららしい。演台のプロンプターの存在も頭から飛んでしまったようだ。「何をおっしゃいますか。閣下の咆哮を聞いて将兵は大いに奮い立ったのですぞ」口髭のラコックとは別の大佐がドズルを持ち上げる。もみあげの長い少将が「さよう、あれこそが総帥には真似できぬ閣下の真骨頂」とうなずいている。
「抜かせ。それより、防衛計画だ。情報部は何か掴んだようだな?」ドズルは部下の追従を取り合わず、重力ブロックの通路をのしのし歩きながら作戦会議を始めた。
「はい、暗号名『アルキメデス』なる固有名詞が度々連邦軍の通信に登場します」と情報将校。「まさか、巨大な鏡でも用意してこのソロモンを炙ろうというのはありますまいな」と口髭大佐が半笑いで応じるともみあげ少将が「まさか、いかに連邦軍とはいえそこまで分かりやすい暗号名なぞ使うまいよ。第一、ソロモンを攻撃するには数キロ平米におよぶ鏡の列が必要だが、どうやってM粒子環境下で制御するのかね」と異論を唱えた。実のところ、参謀部の転生者が密かにその可能性を示唆していたのでが、その度に「制御の不可能性」に言及され却下された経緯がある。
「うむ。おそらくは欺瞞情報の類であろうよ。同じ苦労なら、コロニーで使う太陽電池でも運んできて超大型のレーザー砲かメガ粒子砲を使うだろう」
軍事的には極々常識人であるドズルは『アルキメデス』を欺瞞情報と断じた。
「本国が送ってきた『拠点防衛用モビルアーマー』とやらは組み上がったのか?」ドズルの問いにラコックが「現在機密保持のため、最深部の工作室で組み立て作業を行っております。明日には訓練を始められるかと」と即座に答える。「フン!あんな3人がかりで動かす巨大兵器よりMS一個中隊でも寄越せばいいものを。ア・バオア・クーの総帥親衛隊はやはり動かんのか?」口髭が「デラーズ大佐はかの要塞は本土防衛の最終線であり、奇襲の可能性がある以上一兵たりとも寄越せない、と申しております」と忌々しそうに報告した。「まぁ、奴の立場ではそう言う他あるまい。総帥の許しなくばMSの1機も送ることはできんだから」ドズルは総統親衛隊の組織的な欠陥、極端な上意下達型で現場の裁量が著しく小さい、を日々憂いていたのでデラーズに同情的だった。
「その点、キシリア少将は協力的ですなぁ。『キマイラ戦闘団』連隊規模のMS部隊と新型機動巡からなる有力な援軍を寄越してくれました」ともみあげ。
「うむ。ジョニー・ライデン大尉はハッテ会戦でも助っ人に来てくれた頼もしき男よ。『黒い三連星』も今度こそレビルを仕留めると息巻いているそうだな」とドズルは少し機嫌がよくなった。『キマイラ戦闘団』の参謀長ケルビン大佐の異常な程高いテンションには少し引いていたが。
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連邦艦隊接近の報を受け、第302哨戒中隊は暗礁宙域をパトロールしていた。連邦軍が長距離偵察機を飛ばしてくる可能性があったからだ。
パトロール開始早々ゲイリー准尉が「敵の偵察ドローンを発見!」と報告してきた。アナベル・ガトー大尉は「無人機か!やはり有人機でこのソロモンを覗こうという勇者はおらんのだな。して、敵のドローン、どの程度の規模か?」と聞くとゲイリーは「それが、なんというか玩具の様な外観で…」と口を濁し映像を送ってきた。
「なんだこれは!?」映像は市販のペットロボット『ハロ』そのものであった。AE.子会社が販売し、ジオン本国でも流通している玩具である。
「大尉、外見に騙さませんように」と次席のアダムスキー中尉が忠告してきた。「アレは見た目通りの性能ではないと?」「はい、鹵獲してみればはっきりするでしょうが、中身は軍用規格の歴とした偵察ドローンかと。自分は工場に勤めていたことがありますが、射出成形は金型さえあれば、3Dプリンターに比べ圧倒的にコストが低いのです。安く上げた外装に偵察機器を収めばら撒き小さい分制限される性能は数で補う、という戦術かと。我が軍が外見で騙されれば一石二鳥という訳です」「なるほど、連邦らしい姑息な手だ。アダムスキー礼を言う」とガトー。
「大尉!この宙域は200を超えるドローンが撒かれています!」とカリウス曹長が緊迫した口調で報告してきた。「なんだと!?そんな数をいつの間に…」「しかも、こいつらはまだ生きています。微弱ですが電波を観測しました」ゲイリーの報告にガトーは「ええい!粒子環境下で作動する無人機をこれだけの数投入したというのか!小癪な!」ガトーは人をバカにした様な連邦の戦術にイライラしてきたが、カリウスにドローンを鹵獲するよう命じた。幸いドローンには自爆機能は無いらしくカリウスは指に仕込まれたトリモチランチャーを使って10を越すドローンを捕まえた。
「焼き払え!」ガトーは中隊全機に拡散モードでビームバズーカを発射するよう命じた。宙域を薙ぎ払うよう放たれたビームでかなりの数のドローンを駆除したようだが、「かなり要塞に近い宙域でこれだ。この奥にはさらに多くの無人機が潜んでいよう。連邦の物量侮れぬな…」ハッテ会戦に続き連邦軍にまた一枚上をいかれたことに臍を噛むガトーだった。
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「起きたのかい?リリアーナ」ヒデト・ワシヤ大尉はベッドに横たわる彼の「恋人」リリアーナ・フローベル少尉に優しく語りかけた。二人がこのような関係になったそもそものきっかけは「リリアーナ・フローベル」という名前が偽名であることにワシヤが気がついたからだった。
リリアーナを自室に呼び出したワシヤは「キシリア少将の側近サンギーヌ家にフローベール家という家臣の家があってね。次女のリリアは現在月に出征している。貴族の令嬢になりすます気だったのかもしれないけどねぇ。彼女の写真はSNSに山程上がってるから君じゃないことはすぐに分かったよ。危ない橋だが、国民IDデーターベースに不正アクセスして君の名前、顔、唾液から採取したDNAで検索してもヒットしなかった。君は誰なんだ?」と険しい顔で総帥府の報道官を問い詰めた。リリアーナは弁解もせず、いきなりワシヤの唇を奪い唇を絡めてきた。
「なんだい?色仕掛けで見逃して貰おうって魂胆じゃないよね」ワシヤは冷静に返す。リリアーナは「そうよ。私を貴方の彼女にして欲しいのよ。私は役に立つ女よ。適当な偽名を考えた私の上司よりずっとね」と悪びれる様子もない。
「ほぉ、聞かせてもらおうか」ワシヤは興味深い、といった顔になった。「つまらない話なら君は『事故』にあってもらう」と脅すことも忘れずに。
「私は報道官、しかも総帥府のだからこの要塞の至るところに出没して話を聞いたり撮影したりできる。取材を断られたら、押し問答のどさくさに盗聴器やカメラを仕込む訓練だって受けてるのよ」とリリアーナ。殺す、と脅されているのに顔色一つ変えていない。「君は度胸があるな。それに君の能力に興味が出た。お試しで恋人になってみるかな。よろしくハニー」と笑顔に豹変したワシヤが手をふる。「よろしくね、ダーリン。ちなみに私の本名は…」とリリアーナが言いかけると「ストップ。それはいいや。本名を知ると情がうつる」とワシヤ。顔は笑顔のままだ。
「アナタって本当にイカすわ…。本当に好きになっちゃうかも」とリリアーナ。「でも、なんでアナタが来たの?ラル連隊長に報告すれば簡単だったんじゃない?」とリリアーナが聞くとワシヤは「連隊長にはハモンさんっていう恋人がいるし、ドナヒュー大尉は新婚さんだ。君を始末しなきゃいけない可能性を考えたら俺が行くしかないな、と思っただけさ。二人に女を殺させるのはちょっとね…」と一瞬虚無を感じさせる表情になった。
「素敵!!」リリアーナはワシヤをベッドに押し倒した。
行為に及んだ日の午後からリリアーナ・フローベル少尉はワシヤの指示で他の部隊や主計部に探りを入れた。ブルースター連隊が他の部隊の装備や充足状況に異常に詳しかったタネがこれである。「ヒデト、アナタの指示って具体的で的確な上にアタシが持ってきた情報の分析も的を射てる気がするわ。アナタ優秀なスパイよね。少なくとも私の上司よりは。ねぇ、鞍替えしない?親衛隊に入れば大佐や将軍も夢じゃないわよ」と最近化粧が濃くなったリリアーナが蠱惑的な声でワシヤに転属をすすめる。
「俺はこの連隊が気に入ってる。ランバ・ラル大佐に惚れてるし、ドナヒュー大尉は親友と言っていい間柄だしな。総統の顔色を伺うのが仕事の親衛隊なんぞ御免こうむるよ」いつもの笑顔のまま、剣呑なセリフを吐くワシヤに「私が密告しないって自信があるのね」とリリアーナ。「ああ、いざとなったら戦闘のどさくさで君に戦死して貰えばいいだけだ。それで、俺は連邦に投降すれば親衛隊も追ってこれないからな」とワシヤ。「今のアナタの表情好きよ。空っぽの感じが。その隙間をアタシで埋めつ尽くしてやろうって気になる」と蠱惑的な表情のリリアーナに「怖いなぁ。あんま人の内側を覗かない方がいいよ」と笑顔に戻ったワシヤ。「あら、アナタが私を覗き返しくるなら歓迎よ」と微笑う女に「いや、無貌の怪物かもしれないよ」と虚無の表情になって返事をする男。女は少し身震いした。
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==== サイド1 宙域
第13独立戦闘団はペガサス級強襲揚陸艦『ホワイトベース』を旗艦に両側面のMS格納庫を大型化したサラミス級ブロック60が4隻、艦の底に無人型モビルポッド リ・ガードを1機搭載しているマシュー・カルブレイス・ペリー級ブロック30が12隻で構成されていた。これら新鋭艦で構成された戦隊は否応なく目を引き、サイド1鎮守府に入港した際にはホワイトベース(WB)を囲むような球形の人だかりができた。
WBの2代目艦長に就任したエイバー・シナプス大佐は前任者パオロ・カシアス大佐を見舞った時の会話を思い出していた。
「貴官に13独戦で上手くやる秘訣を教えよう。スクールバスの運転手に徹することだ。WBはNT部隊の少年兵を乗せるスクールバスと心得え、クラスの担任であるベッカーズ中佐の要請には最優先で答えること。MS中隊長のケンプ少佐はスポーツクラブのコーチといった立ち位置か。彼の目の前で『修正』をやろうものならひと悶着起こるので気をつけるように。君が連れてくる部下達にも徹底してくれ。それと、レヴァン・フウ特務少佐、彼こそが軍の最高機密にして13独戦の秘密兵器だ。彼はあらゆるレーダーやセンサーより先に敵を発見し、その規模や力量まで判る、という能力を持っている。彼が警告を出したら素直に警戒態勢を取ることだ」と時々胃のあたりを押さえながらアドバイスしてくれた。
サイド7を出港してからルナ2を経由し、ここサイド1までの航海でシナプスはこの言葉に偽りも誇張も無いことがわかった。フウ特務少佐が頷くと戦術オペレーター、クランとダブリン両軍曹がほっとした表情になって「進路クリア」と言うのを背中越しに何度も見ていた。昨日など、敵の長距離偵察機を察知したフウ少佐が「あれは形が違います。新型ではないでしょうか」という進言でベッカーズ中佐はレイ准尉に捕獲を命じ、ジオンの新型無人偵察機を鹵獲したことがあった。フウの言う通り敵偵察機は新型の大口径光学センサーを積んでおり、彼の進言、というより予言が正しいことが証明された。
(私はとんでもない部隊に配属されたのかもしれん…)とも思うシナプスだったが、健康には自信があったので艦長の任務には不安はなかった。むしろ、(いい運転手に徹すれば艦隊を預けられる地位にいけるかもしれない)とチャンスと捉えていた。ただ、週イチで健康診断をしに来て軍医を呆れさせたが。
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「おい、ヤザン。あのスフィンクスみてえなフネに例のNT部隊が乗ってるそうだぜ」テネス・A・ユング大尉が入港しようとするWBを見つけ、傍らのGM SEPの肩に手をかけ「お肌のふれあい通信」をしてきた。「アレがそうか。ピカピカ真っ白で目立ってしゃあないが、そこが狙い目なんだろうな」ヤザンは面白くなさそうにWBの外装を分析した。「誘蛾灯の役どころか。さしずめ俺らは群がって来た蛾を狙うコウモリってとこだな」テネスは面白そうだ。WBをはじめとする13独戦が第一艦隊に配属、つまりテネスとヤザンが所属する501戦闘団と轡を並べることは既にレイヤー中佐から聞き及んでいた。さらに艦隊旗艦『ルイジアナ』の護衛が主任務だという。
最初、ヤザンは「け!俺たちは用済みってことか…」と吐き捨てたが、レイヤーは「いや、お前たちY中隊には引き続き旗艦の護衛をしてもらう。ただ、より攻勢寄りに旗艦に近づこうとする敵を掃討してくれ。要するに13独戦のNTが感知した敵を狩るのが任務、ということだな」と指令をくだした。
「ハンター任務、謹んでお受けします」テネス大尉が真面目くさって敬礼するとヤザンもぴしっとした敬礼をして「また黒いのが来るかもしれませんからな。今度こそ叩き落としてやります」と意気込んでいた。
「NT部隊サンよ、精々、食いでのある虫を引きつけてくれよ」とヤザンは舌なめずりをした。
鎮守府のMSハンガーに帰還すると人だかりができていた。「お、なんだなんだ?」と物見高いテネスが見に飛んでいくと「おいヤザン!例のナナハチがずらっと並んでるぞ!早くこっちこい!」と手招きしている。「なんだよ、モーターショウかなんかのつもりかよ…」とヤザンがぶつくさ言いながら飛んでいくと、そこにはヤザンのRGM-79 SEPに似た純白の機体や重装甲に身を包んだ機体、巨大なスラスターを背中に付けた機体まで様々なRX-78と角のないRX-79総勢12機が並んでいた。
「顔があるなぁ」とテネスが独白すると「部品点数が増えて稼働率が下がりそうだな」とヤザンは散文的な感想を述べた。「あの肩がでかいのがお前のGMのひな形じゃないかのか」というテネスに「あの白いのはジオンの赤いヤツを追っ払ったらしいな。さらに改良したってワケか…」ヤザンは途端に剣呑な目つきになった。脳内であの白いRX-78と戦っているのかもしれない。
「お久しぶりです!テネス大尉、ヤザン中尉!」突然二人の背後から声がかかる。ヤザンが振り向くと「貴様、ジョブジョンか!久しぶりだな。元気でやっとるか?」と笑いながら声をかけてきたジョブ・ジョンの背中をばんばん叩いた。「中尉のご指導のおかげであそこにならんでるナナハチ乗りになれました。あの、でかいスラスター付けた灰色のやつです」とプロパガンダ動画に出演した青灰色のRX-78Lを指差した。
「へ~、ジョブ君、宣伝放送に出るくらい腕を上げたのかぁ。スコアはどんくらい稼いだんだ?」とテネス。「開戦時と合わせて9機くらいっすかね。小隊にNTがいるおかげで楽させてもらってます」と愛想笑いするジョブ。「9機とは大したモンだ。で、NT兵ってのはどんなヤツだ?年がら年中ザゼンでも組んでるのか?」ヤザンが聞くと「14歳で普段はWAVEにじゃれついてるガキですけど、実戦になると人が変わります。なんでも敵がスローモーションで見えるようで」と少し声を潜めるジョブ。
「ほぉ、面白そうだな。一丁模擬戦でも申し込むかな」とヤザン。「なんか順番待ちらしいぞ、レイヤー団長そこんとこはおっとりしてるんで、ウチは最後の方だってよ」とテネス。「け!」と面白くなさそうなヤザンに声をかける者がいた。
「あの、ヤザン・ゲーブル中尉ですか?」白いパイロットスーツを着た少年兵だ。「あ、アムロ。この人が『ジェボーダンの野獣』ことヤザン・ゲーブル中尉だ。俺の師匠なんだぜ!」とジョブ・ジョンが有名人と知り合いだとドヤ顔をする。「貴様を弟子にしたつもりはなかったがな、で、貴様は?」「アムロ・レイ准尉です。よろしくお願いします」と敬礼する少年。「アムロ…それじゃ、あのでかい肩のナナハチに乗ってるのは貴様か?」ヤザンが聞くとアムロは「そうです。出港ギリギリで組み上がって、ここまでの航海中に調整しました」と少し声のトーンが上がるアムロ。
「どうも俺の愛機はその機体の弟らしい、一丁兄弟対決としゃれこまんか?」とヤザンが挑発すると、「え?僕はいいですけど、偉い人に怒られないでしょうか?」とアムロ。13独戦に共同演習の申し込みが殺到しているのを知っていたからだ。「構わん。こっちには戦果ってヤツがあってな。便利な呪文みてえなもんで、大抵の横紙破りは通る」と少しドヤ顔のヤザン。
「そうですか。僕も中尉の噂は存じてます。是非対戦をお願いします」とアムロ。ジョブ・ジョンとテネス・ユングは面白そうな顔をしている。「おい、賭けるか?俺はお前のとこの白いのにビール1ケースだ」「俺ら飲めないっすから賭けになんないっすよ。それに俺もアムロに賭けるし」とジョブ。
白いRX-78 SEPと灰色でシールドにでかでかと野獣のペイントと『The Beast』の文字が描かれたRGM-79L SEPとが鎮守府近くの『壁』内部で向き合っている。
事実上の「連邦軍最強」を決める試合に各艦の内火艇やランチが多数押し寄せ、MP塗装のGMが交通整理に出動する騒ぎとなった。
「ウチのユウちゃんを差し置いて『最強』たぁ、随分な話じゃあないの」フィリップ・ヒューズ中尉が不敵な笑みを浮かべ士官食堂に投影されたホログラムを眺めていると「俺は肩書には興味がない」とユウ・カジマ大尉は相変わらず無愛想な口調で返す。サマナ・フュリス少尉が「Y中隊を通じてレイヤー少佐がレビル司令長官に『試合で採ったデータでRGM-79のAIをアップデートできる』と具申したそうです。レビル将軍は元戦闘機パイロットなんで、こういうの大好きですからすぐ許可が下りたそうですよ」と聞き及んだ噂を開帳する。「あの白ピカのフネにはナナハチやGMのAI開発したスーパーすんごい技術士官が乗ってるって話だ。明日には俺らのGMもちびっとは強くなるかもな」とヒューズ。「AIの更新中にジオンの奇襲を受けるとピンチですね」とフュリス。「ジオンにそんな度胸のある奴なんざいねぇだろう。今頃、ソロモンの奥で震えてんだろ」とヒューズ。
「ソロモンには『赤い彗星』を始め名だたるエースが詰めている。月からも援軍が来たそうだ。俺がハッテで戦った赤黒のMSも確認されてる」とカジマがこの男にしては長いセリフを吐いた。「お、珍しくやる気出してるじゃあないの」とヒューズはおもしろそうな顔になった。
「じゃ、いくぜ」「どうぞ」2機はほぼ同時に戦闘機動を取った。「やけに追加兵装が多い…。なんのつもりだ?」ヤザンは敵機が肩の上や腰、脹脛にミサイルポッドや機関砲らしき銃身が付いたガンポッドを装備していた。「数撃ちゃ当たるってこか?」とヤザンは訝しんだが、サイド7ではライフルとサーベルだけ、という軽装だったはずだ。(何を企んでいる…)ヤザンの脳内でアラームが鳴り出した。
RX-78、ナナハチは突然装備したミサイルポッドやガンポッドを切り離した。各ポッドにはバーニアが仕込まれていたようで、相対するGMを囲うように動きを取って、ミサイルや銃弾を吐き出した。いずれもペイント弾だが。しかし、遠隔操作の砲台にやられるヤザンではなく、易易と回避する。
「殺気の無い相手にやられるかよ。舐めてやがるのか…」ヤザンは舌打ちをしたが、砲台に気を取られてる間にヤザンのGMは不利な位置に追い込まれていた。
デブリが密集し、自由な機動が取りにくい場所に誘導されていたようだ。「さっきのは勢子ってことか。野獣退治の策は用意済みって訳だな」ヤザンは乾いた舌を舐めた。白いナナハチはヤザンの死角を突くようにデブリの影から出没してはビームを放ってくる。ヤザンは回避するが、一発撃つごとにナナハチの射撃は回避が難しくなっていく。「ちっ!」ヤザンは閃光弾をありったけ使用して罠から逃れ、ナナハチと距離を取った。追ってくる白い機体にビームカービンを連射し、左手にビームピストルを握らせて全力射撃をするが、ヤザンには余裕綽々と敵は回避しているように見えた。
「こっちが野獣ならヤツはドラゴンってとこだな…。正真正銘のバケモンだぜ」ヤザンは脳をトップギアに入れフル回転させる。
RGM-79L SEPの機動が鋭さを更に増していく。だが、RX-78-2 SEPはGMの機動に合わせるように機動性を増してきた。
流石のヤザンの顔にも焦りの色が浮かぶ。だが、今まで味わったことのない劣勢にヤザンは背骨に電気が走るような快感を覚えていた。
白いMSの射撃をギリギリのところ、何発かは大型化された肩を掠めた、でビームを躱していたGM。だが、コックピットに突然の警報が鳴り響く。その一瞬後、GMはフレーム剥き出し脚部後面にペイント弾を食らった。
「なんだと!?」ヤザンは心底驚愕した。後部カメラの映像にはケーブルが外れAIが死んだと判断したガンポッドが映っていた。
「どうやって狙いを付けた?」と独白するヤザンに「予めプログラムしておいたんです。センサーが中尉の機体が捉えたら発砲するように」アムロ准尉の声だ。
「要するにブービートラップの前に誘き出された訳だな。降参だ、准尉。片足で貴様の射撃を躱せる気がしねぇ」ヤザンは手を上げた。
「すっげぇぞ!アムロ!『ジェボーダンの野獣』を罠にハメやがった!!」ジョブ・ジョンはガッツポーズを取った。テネスは広い額を押さえ「やれやれ、大したもんだ。ヤザンが罠に気づかなくなるほどに追い詰めるとはなぁ…」と素直に感心している。
「ジオンのNT兵器はアレを完全遠隔操作でやれるそうですが…」と501戦闘団団長マスター・P・レイヤー少佐が独立第13戦闘団団長チャールズ・エルヴィン・ベッカーズ中佐に問いかける。「そうです。しかも、遠隔砲台が搭載しているのはメガ粒子砲ですよ。アムロ・レイ准尉はじめ我が中隊のMSパイロットはジオンのNT部隊と対抗する為に結成され、日夜訓練に励んでいるのです」チャーリーはアムロが卓越した力を見せたからこそ謙虚な態度を取った。(反感はなるべき買わない方があの子達の為にもなる)と思っているからだ。未だ交戦していないジオンのニュータイプ兵だが、ガンダム・センチュリー(GC)は前世知識でその猛威を知っており、その脅威を喧伝してきた。ジオンNT兵の幻影が将兵の脳内で大きくなればなるほど連邦のNT部隊である13独戦への膨大な予算と資材の投下を容認する空気が強くなる。
だが、「ニュータイプ」という種全体への反感に転換されるのはまずい。それは人種戦争の火種だからだ。13独戦のNTパイロット達はあくまでヒーローでなくてなはらない。(アムロがもうちょっと朗らかな性格なら、私の苦労は半減するのだが…)と思わないでもないチャーリーだが、徹底的に合理主義に徹するアムロの態度にプロフェッショナルとして共感もできるので彼に「愛想よくしたまえ」とは言えなかった。
「面白い戦いができた。アムロ・レイ、ヤザン・ゲーブルだ。戦場ではよろしく頼む」ヤザンは手を差し出した。アムロは強面の将校の手を一瞬躊躇した後に握った。
「ウチのアムロ准尉の実力を堪能していただけたようでなによりだ」とドヤ顔をしながら登場するウィリー・ケンプ少佐。
「准尉の操縦技術は確かに卓越してますが、本当にえげつないのは戦術眼ですな。自分は何重もの罠に嵌め込まれました。なぁ、今日のシチュエーション、シミュレーションはしたのか?」ヤザンの問いに「脳内では無数に、艦内のシミュレーターでは数百回。今日のシステムを組んでからは50回くらいですね。名高い中尉ですから入念に準備してきました」とアムロ。「執念深いこって…」と肩をすくめるヤザン。「そうだ、彼の本当の強さは年がら年中ナナハチでの戦闘を考えてるとこだ。俺も最初こそ勝てたものの10日と持たずにコテンパンさ」とまたドヤ顔をするウィリー。「随分と嬉しそうに負けた話をされますな」とテネスが皮肉っぽく言うと「そりゃ、そうさ。アムロの評価は直接の上官である俺の評価に繋がるからな」とウィリー。
「中隊長には『思いついたことは何でもやってみよう!』と発破をかけられてます。資材も優先的に用意してて貰えますし、ありがたいですよ」とアムロ。ウィリーはほら見ろ、という顔になった。(俺も大概ヤザン頼りだが、こいつの臆面のなさはすげえな…)テネスは呆れ半分、感心半分といった顔をしている。
「だが、実戦じゃ准尉の知らない、連邦がデータを持ってない力を持った敵が出てくるかもしれんぜ、そういうのはどうするんだ?」ヤザンが興味深そうに尋ねると「そういう敵が出てきたら勝ち筋が見えるまで粘るしかないですね。遠隔砲台は殺意が飛んでくるしょうから避けられそうですが、物凄く強い無人機とか出てきたら反応速度と機体の強度頼りで避け続けるしかないでしょう」ガンダムSEPの推力とAMBAC機動には文句はないが、アムロが一番評価しているのは補強された機体フレームの強度だった。アムロの反応速度で振り回してもなお、安全マージンを残してるフレーム強度こそ命を預けるに相応しいと思っている。
「准尉に1発撃たれる度に寿命が何秒か磨り減る思いがしたぜ」とニヤリと笑うヤザン。「そんな大げさですよ」と苦笑するアムロ。ウィリーがドヤ顔でふんぞり返っているのを呆れ顔で眺めるジョブ・ジョン。
「ユウだったら、あの坊やとどう戦う?」ヒューズの問いに「正直分からん。彼のプレッシャーを真正面から浴びて何もできないまま負けるかもしれん」カジマは額に汗をかいている。「ヤザンの奴はその鈍感力のお陰であそこまで粘れたってワケだな」ヒューズはお手上げのポーズを取った。
この模擬試合以降、13独戦へ「レイ准尉抜きで共同演習を」という申し込みが殺到した。大隊規模の部隊がアムロ一人に殲滅され得ると演習にならない、と指揮官達は考えたのだった。もっとも、アムロ抜きでも対抗部隊はクロエとゲーツ、ウモンといったメンバーにこてんぱんにされたのだが。
なんとか今年中に投稿することができました。この世界ではソロモン攻防戦は12月ではないのですが。
月面の戦闘からスタートしましたが、屍鬼隊の数が9機では少なすぎると考え、12機に増やしました。前話も改訂しております。アムロとテムの下りも改訂しています。
シェリーナ姉妹の透視によりソロモン要塞はかなり覗かれましたが、肝心のアレは最深部で組み立て中なので視えなかった、という設定です。
暗礁宙域に撒かれたハロ型ドローンですが、刃が飛ぶ出して人を襲うことはありません。
漫画版∀のハロバグ怖かったですね。
お気楽キャラのワシヤ君がハードボイルドなとこがある、という設定は割と初期から考えてました。
アムロ対ヤザンですが、アムロに軍配が上がりました。天パ君は本作最強キャラなので、後ろからギリアム君に撃たれる前にカウンターで撃ち落とす気がします。
それでは、皆様良いお年をお迎えください。来年はいい年になりますように。