==== 月面 アンマン市
「強いサイコ波が観測されたって!?」参謀本部から出張してきたリー・ホワン少佐はコンソールを見つめる技術士官にこう問いかけた。
「はい。先日観測されたものとは桁違いの出力です。しかも、アンマンの方向だけでなく全方位に発信されています」
「もし、ここにニュータイプがいたらどうなるだろうか?」リーは傍らに立つローレン・ナカモトに質問する。
「能力にもよるとは思いますが、耳元で大音響の騒音を鳴らされているようなものです。レヴァン・フウが実施したような精密観測は無理でしょう。ジオンは早速対抗手段を繰り出してきた訳ですな」この元AE. NT研の研究員は感心したような顔をし、リーは心のなかで(クソMADが、楽しそうだな)と悪態をついた。
「では、この妨害サイコ波に対抗する手段は何が考えられる?」リーの問いかけにナカモトは「そうですな。まずはNT要員をサイコ波の暗室に入れて敵の出す騒音から守ります。これだけの出力を長時間発信し続けるのは無理があるでしょうから、敵の発信が止むか、人員交代による出力が低下したタイミングを見計らって観測を行えばよいかと…」この男にしては自信なさそうに答える。
「それだと敵NTが疲れるまでジオンは思うがままに動ける訳だね」とリー。「こちらは待ち受ける側ですから、通常の観測手段で優位に立てるかと…」悔しそうなナカモト。己の研究に限界を突きつけられた顔になっている。(ありゃ、ちょっとやり過ぎたか?)リーは内心冷や汗をかいた。
ナカモトが彼に隠れて人体実験などほぼ無理だが、未だ「強化人間」に拘っている軍内部の分子に接触を図ろうとするかもしれない。「ま、今回は敵に桁外れのNTがいて、ジオンがサイコ波の実用化に成功したことが分かっただけで良しとしよう」リーは紅茶の入ったカップを口に運びながらこう締めた。
「連邦軍のヤン・ウェンリー」と言われるリーに従兵が気をきかせたつもりか紅茶ばかり持ってくるのだ。(本当はエスプレッソが好物なんだけどなぁ)心のなかで嘆くリー・ホワンだった。
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==== アンマンから約200km地点
「『セイレーン作戦』上首尾に運んでいるようだな」ノイエン・ビッター少将は乗機MS-07M-6(指揮管制型)に据え付けられたサイコ波検出器を見てこう言った。「しかし、聞くに耐えん歌ですな。歌詞も何を言っているのやら」ヨハネス・オイゲン大佐はサイコ波からデコードされたクスコ・アル少尉の歌うパンクロックがお気に召さないらしい。「良いではないか。我らを敵の長距離砲撃から守護してくれる魔法の歌なのだからな」ビッターは鷹揚に構えている。「まぁ、そう思えば何か趣があるような気がしてきますな」オイゲンは少しおどけた口調でクスコ・アルの歌を褒めた。
「これで敵のインチキじみた長距離精密射撃はない。派手に動いて連邦軍の目を引きつけねばな」ビッターは麾下の『第一混成旅団』に進軍を命じた。
セントール・オプション、MSの融合炉を動力にする4輪バギー百数十両がアンマンめがけ疾走を開始する。「旅団長、斥候が敵の先鋒と接触したようです」副官の報告にビッターは「一番槍はどこの部隊か?」と尋ねる。「例の『マルコシアス』中隊のようです」と副官「ほう。あの生きのいい若者たちか。私の名で感状を出せ」とビッターは命じた。
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『マルコシアス』中隊は本作戦に備えて3機増員され15機となった。月面を4輪バギーの姿で進む15機。強化されたMS-08ドガのセンサーが中隊規模らしきMS群を捉えた。
中隊長ダグ・シュナイド大尉は「我々が捕捉している敵はお前たちが初めて戦う相手になる。舐めてかかることは許さんが、怯えて訓練通りできんのも許さん。リラックスして戦えばいい」と訓示した。「実戦だぜ!腕が鳴る」ギー・ヘルムート軍曹は相変わらず威勢がいい。ヴィンセント・グライスナー曹長は「敵の『ジム』はビームサーベルを持っている。白兵戦は避けたほうがいいな」と冷静だった。「ヴィンセント、何ビビってんだよ。オレたちのザクは大型の斧を支給されてる。白兵でもジムなんぞに遅れは取らないぜ」とギー。事実、マルコシアスのMS-06Gはハイザックが持っていた大型ヒートホークを装備していた。「確かにヒートホークの出力は上がっているが、ビームサーベルを防げる程じゃないからな。やはり射撃を軸にすべきだ」とヴィンセント。
「ヴィンセントの案で行く。お前ら締めてかかれよ」とシュナイド。彼らは敵の指揮官機に遭遇して驚くことになる。
顔があった。
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特務中隊『Aチーム』を率いるトラヴィス・カークランド大尉は自機RX-79レイスに月面をうさぎ跳びさせていたが、前方に巻き上がるレゴリスと4輪バギーの群れを発見すると、中隊全機に手近なクレーターへ隠れるよう指示した。
「さーてと、レア物の顔付きMSだ。上手いこと釣られてくれよ…」トラヴィスはレイスにいかにも敵機に驚いた動作をさせると一目散に逃亡を始めた。
「ぎゃはは!何だあれ、とんだ見かけだおしじゃねぇか!」ギーは大笑いしている。「バカか!アレは罠に誘い込む手管にきまってるだろ!」とヴィンセント。何か感じるものがあるのかもしれない。「俺もクライスナーに賛成だ。この先には罠が口を開けて待っている。このまま回れ右して司令部に報告するのもありだが、貴様らはどうしたい?」とシュナイド。
「そんなもん、罠に突っ込んで食い破るに決まってるじゃないですか!」とギー。「あれはサイド7で我軍が遭遇した敵の新型に似ていました。ひと当てして性能を確認すべきです」ここまで沈黙を守ってきたセベロ・オズワルド曹長が積極策に出るべし、と具申してきた。A小隊を率いるオズワルドの具申にシュナイドも敵に仕掛ける気になった。
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「中隊長。自分の小隊が先行します」B小隊を率いるヴィンセントの具申に「その根拠は何だ?」とシュナイド。単に功名に逸っているのであれば許可しないつもりだ。
「理由は分かりませんが、どこに敵が潜んでいるのか何となく分かる気がするんです」とヴィンセント。A小隊長オズワルドは「そんな薄弱な根拠で一番槍を譲れるものか!」と反論するが、シュナイドは「貴様の勘に賭けてみるか。先行しろ」とB小隊の先行を認めた。
ヴィンセントは小隊員に敵が潜んでいそうな箇所をマーキングして近距離通信で伝達していった。近い順に小隊の火力を集中させると、クレーターの陰からジムらしきMSが後退するのが見えた。「やったじゃん!ヴィンセント。敵が隠れてたとこを見事的中させたぜ」小隊員のリベリオ・リンケ伍長が歓声を上げる。
3機のジムを撤退させたところで、「ミサイル!!」小隊員のフロイド伍長が警告を発する。「回避!敵ミサイルは誘導弾だ、振り切るぞ!」ヴィンセントの命令で既にセントールを外していた3機のMS-06Gはスラスターを吹かして回避機動を取る。だが、敵ミサイルは複雑な軌跡を描きながらB小隊に迫り、「クソ!被弾した!」リベリオのザクが右肩のシールドに被弾した。「こちらは右肩を吹き飛ばされた。戦闘は困難だ。すまない…」フロイトの被害報告にヴィンセントは即「後退だ!」と命じた。
B小隊がその場を離れてから数秒後、彼らのいた地点に砲弾が殺到する。2種類の砲弾があるのか着弾した時の火花と巻き上げるレゴリスの多さに差があった。
「隠れていたジムも囮、ミサイルと間接砲撃が本命だったんだ…」ヴィンセントは臍を噛んだ。まんまと敵の罠にはまってしまったのに気がついたのだ。
オズワルドのA小隊長小隊、ギーのC小隊もB小隊を支援しようと前進したところをやたらと命中率の高いミサイルと命中はしなかったが、間接砲撃を受け撃破機こそ出さなかったものの、損傷機が出てシュナイドは中隊の後退を命じた。マルコシアスが後退に移ると送り狼のつもりか先程の『顔付き』がクレーターの陰から現れジム共を率いて接近してきた。
「まずいな…。」シュナイドは呟いた。目前の敵は全機胴体に増加装甲を着込んでいる。通用しそうな火力はドガの左腕、シールドの裏に装備した180mm擲弾しかない。それも1発では、ERAだかに防がれ効果は薄いだろう。(いよいよの時は俺がヤツと刺し違えてでもこいつらを逃さんとな…)シュナイドが覚悟を決めると、先頭をゆく「顔付き」のシールドが爆発し、盾は半壊した。
「マルコシアス、聞こえるか?こちら旅団司令部直属特務中隊『ノイジー・フェアリー』キリー・ギャレット少佐だ。後退を支援する」女の声に「マルコシアス隊長、ダグ・シュナイド大尉であります。支援感謝いたします」と反射的に返答した。マルコシアス中隊はセントールオプションをその場に遺棄して後退を始めた。爆破するまでもなく、パイプを組み上げたバギーは敵の砲撃で粉々になっていた。
(ビッター閣下はこの事態を予測されていたのか?それとも彼女らが偶然近くにいたのか?)シュナイドは自機を後ろ向きにジャンプさせながらこんなことを考えていた。
(いや、それとも『ニュータイプ』があの部隊にいるのか?ギャレット少佐はキシリア少将の側近、考えられんことではないな…)シュナイドは慣れ親しんだ筈の戦場がいきなり変わってしまった感触に身震いする思いだった。
「ヘレナ、よくやってくれたわ。敵の新型に初弾命中とは流石ね」ギャレットは傍らのMS-08ドガの肩に手をかけ「お肌のふれあい通信」をした。
ヘレナと呼ばれた女の乗るドガは全体的にスリムなシルエットで頭も小さい。MS-08J『ドガ・イェーガー』と呼ばれる狙撃仕様である。
「隊長には助けて貰った恩があります。それに報いねば…」ヘレナ・ヘーゲル曹長は非合法組織の狙撃手=殺し屋だったが、標的から逆襲され逃げ込んだギャレット家の邸宅で匿われ、暗殺の失敗から組織と標的双方から狙われるヘレナを買い取る形でギャレット家の郎党とした。それを主導したのが若き女当主キリー・ギャレットである。
ヘレナはその恩に忠誠をもって応え、キリーが立ち上げた特務部隊で狙撃手として活躍していた。
「貴女の銃、エレクトロガンはキマイラに選抜されたジャコビアス・ノード大尉が使っていたものよ。ビーム兵器を除けば最良の銃だと思うわ」
「ジャコの旦那の銃ですか。当たる訳だ」「あら、大尉を知ってるの?」「ジャコビアス・ノードといえば職業軍人なのに裏社会じゃちょっとした顔ですよ。特にヤミで兵器をさばいてる連中には顔が効きます。裏切り者には必ず制裁を加えるって恐れられてます」「あら、キシリア様はそれも承知で派遣されたのかしら。きっとそうね」と一人で納得しているキリー。
「隊長、ソナーによると敵は後退を開始、後方にいるガンタンクらしきのも後退しています」重ガトリングを肩に装備したザクがソナーによる観測結果を報告する。
「ありがとうミア。私達も司令部に合流しましょう」とキリー。
「あ~あ。連邦の新型、戦ってみたかったな~」グフのパーツを継ぎ接ぎしたようなザクがオープン回線で独り言を言った。連邦軍を挑発しているのだった。
「あのバカ!。少尉、みだりにオープン回線を使うとこちらの位置が敵にバレます」とヘレナが諌めるとMS-06GR、月面高機動型ザクに乗るアルマ・シュティルナー少尉は「だから誘ってるんじゃない。後退中を襲われたんなら応戦せざるを得ないでしょ?旅団の任務は連邦軍と派手に戦って気を引くことなんだから、少しでも敵を引きつけないとね」アルマはぬけぬけと言った。
(ち、だから強化人間ってのは…)ヘレナは内心の苦々しさを抑え「そうでしたか。恐れ入りました」と頭を下げた。
「アルマ。確かに戦闘そのものが旅団の任務だけど、遭遇戦を拡大させるのは上手い手ではないわ。戦う時は万全の準備で臨まないとね」キリーが優しく諭すとアルマは「そうですね!わかりましたキリーさん」と元気よく返事をする。
「少尉!ギャレット少佐とお呼びせよ、と何度言わせる!」バルバラ・ハハリ中尉に叱責されるが、アルマは素知らぬ顔であった。
「いいのよ、バルバラ。アルマはこの部隊のプリマですもの」隊長であるキリーが微笑みながらアルマをかばうのでバルバラは引き下がるしかなかった。
「ローゼもよくマルコシアスの窮地を察知してくれたわ。貴女の能力、頼りにしてるわ」キリーの言葉にアンネローゼ・ローゼンハイン軍曹は顔を紅潮させ「アル、訓練で一緒だった子なんですけど、私の幸運のお守りなんです。その子の悲鳴が聞こえた気がして」と早口でまくしたてる。
「なになに?そのアルってカレシ?」アルマの不躾な質問にローゼは「そういうんじゃないです。幸運のお守りです」と素の顔で答えた。
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「あぶねぇとこだった…」トラヴィスは砕けたシールドを眺めながら胸を撫で下ろしていた。なんの気なしにシールドを持ち上げたら飛来してきた弾丸に盾が砕かれた。
シールドに当たっていなければ頭部を直撃され、最低でも頭部破損でセンサー類が死に、下手すればコックピットに弾の破片が飛び込んできたかもしれない。己の悪運を再確認できた。
「平気かフィクサー?」と尋ねる相棒に「あぁ、悪運ってのは中々無くならんもんだ。それよりボマー、さっきのミサイルは凄かったな」「まぁな。有線ってのは粒子濃度に関わらず誘導できる。ガンキャノンに積まれたAIの演算処理があれば百発百中さ」「結構面白い軌道で飛んでたよな」「よく気がついたな。あれには苦労させられたんだ。ダイバーにも手伝って貰ってアルゴリズムを組んだんだぜ」ボマーは爆発物のことになると何時間でも話してられそうなので、トラヴィスはムーンGMに乗るハイヤー/エドワード・リーに「お前らも中々の逃げっぷりだった」とねぎらいの言葉をかけた。
「俺らが本部小隊ってそろって臆病で逃げるのが得意からなんだったからなんすね」ハイヤーは少々不満げな口調でフィクサー/トラヴィスの狙いを推理した。「そうだ、お前はともかく後の2人は敵前逃亡の前科持ちだからな。『逃げてもいいぞ』っていやぁ、大喜びで逃げると思ったのさ」事実、彼らの逃げっぷりにヴィンセントは見事引っかかり、ボマーのミサイルへの警戒が遅れた。
トラヴィスの3重の罠に敵部隊は見事に嵌り、追撃をかけて捕虜を取るつもりだった。そこに増援が突如現れ、1発で戦況を変えてしまった。あのまま進んでいたらかなりの損害が出ていただろう。
「ダイバー、敵の通信は傍受できたか?」「ええ。敵の増援は『ノイジー・フェアリー』中隊ですって。美人っぽい声だったわね。やる気出た?」ダイバー/ドリス・ブラントの口調に兵達から「うへへ」という笑い声があがる。性犯罪の前科がある者もいるので、女捕虜を取った際は細心の注意がいる、味方撃ちも覚悟せねばならない、とトラヴィスは考えていた。
「まぁ、とにかく俺らの戦術はそこそこ上手く行くことと、敵は特務部隊を景気よく繰り出してくるってことが分かっただけでも収穫だな。コジマ大佐に手土産ができた」トラヴィスは中隊の帰投を命じた。
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==== ソロモン要塞 総司令部
「敵の動きはどうか?」総司令ドズル・ザビ中将はこの日UC.0079 6月24日、18回目となる質問をした。まだ11時を少し回ったところである。
「敵艦隊の位置、1時間前に確認された宙域から殆ど動いていません。『バロール』1号機は敵がMSを出しデブリに取り付かせている様子を撮影しています」参謀の報告に(奇妙な…。レビルは何を企んでいる?)と内心不安になるドズルだったが、猛将たることを周囲から期待されているのを十分に分かっているので、不安は顔に出さない。逆に「やれやれ。連中やる気があるのか?」と肩をすくめて見せた。参謀たちから追従じみた笑い声が起きる。
「裏面に新たな敵艦隊!前面の敵とほぼ同規模!輸送艦を押し立てて来ています!」オペレーターの報告に「敵はこれを待っておったか!」と口髭の大佐が声を上げる。裏面とはジオン本国とア・バオア・クーへに面した方位であり、ここを遮断されるとソロモンの軍は兵站と退路を絶たれる。
「新たな敵艦隊、何かを放出しています!これは…鏡です!長方形の巨大な鏡が現れました!差し渡し数百メートルある模様!」オペレーターの報告に「『アルキメデス』だ!!総司令、これは連邦の秘密兵器です!放置しておけばソロモンは太陽光に灼かれるでしょう!即時の迎撃を!」と参謀のひとり、実は転生者、が叫ぶ。いわんこっちゃない、という様子で非常に焦燥している。
「まさか鏡の巨大化で制御の難しさを補うとは…。連邦の技術力、恐るべしですな。動かせる艦隊を派遣し、破壊しませんと」もみあげの大佐は件の参謀に詫びるゼスチャーをしながら深刻な口調でドズルへ迎撃を具申した。
「よし!『グワラン』を出せ!ファルメル戦隊も出撃させる!全力を持って敵新兵器を撃破せよ!」ドズルの激に総司令部は活気づき、艦隊各艦、とりわけ旗艦のグワランへの通信量が増した。
(やっと、敵の手の内が見えたか…)ドズルは少し安堵した。
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「急に騒がしくなりましたな」ボブ中尉が第一種戦闘配備を告げる警報に顔を上げ呟いた。クルト准尉も「どうやら敵が新兵器ってのを繰り出してきたようですぜ」とMAのコックピットに流れる基地内通信から得た情報を報告する。「こいつの出番は思ったより早くなるかもしれん。項目78から96まで飛ばして97から行く」ケリィ・レズナー大尉はモビルアーマー『ビグ・ザム』のコックピットで火器管制のボブと副操縦士のクルトにチェックリストを飛ばして出撃を急ぐと宣言した。「ち、管制も一刻も早く出撃準備しろ、とがなり立ててますぜ」クルトは自分たちを死地に追いやろうとする味方に苛立っていた。
いかに重モビルアーマーといえど1機で戦局をひっくり返せると思えない、というのが3人の共通認識だった。既にこのソロモン要塞の地形を利用して味方MSの火力支援をする、とケリィは2人に方針を告げていた。管制官の将校はさっさと出撃して敵ビーム兵装を無力化するIフィールドバリアを生かして艦隊に特攻せよと繰り返していたが、ソロモンに上陸した敵MSを駆逐して逆襲に転じるまでソロモンから離れるつもりはなかった。
「ハサミだけは自分ではなく、大尉が操作なさってください。大尉の腕ならMSに潜り込まれてもやれます」ボブは「ハサミ」の操作をケリィがやれと言う。そう、この『ビグ・ザム』には円盤状の胴体下面にMA-06『ヴァル・ヴァロ』のと同じ形状、サイズはずっと大きい、の2本のハサミをもっていた。そのせいかこの巨大MAは2本脚のカニにみえなくもない。
「俺もビグロで格闘戦なんぞやったことはないが。ま、誰かやるしかないなら俺だな。クルト、そうなったら貴様がこいつを操縦しろ」「へへ、任せてください」がなり立てる管制に対してビグ・ザムを操る3人の士気は高かった。
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====重巡洋艦ファルメル
「我が戦隊も出撃して裏面に展開している『ミラー』を破壊して欲しいそうだ」シャア・アズナブル中佐は肩をすくめて傍らのオリヴァー・マイ技術大尉に語りかけた。
「確かにアレが太陽光を反射させ要塞に焦点を合わせれば熱で甚大な損害を与えるかもしれませんが…」マイは合点がいかない様子だった。
「オリヴァー、君もあのミラーが怪しいと睨んでいるな」シャアは興味深いという顔つきになった。
「はい。望遠だからかもしれませんが、あの巨大ミラーは整然と並んでいますが、焦点を合わせるような動きを見せていません。と、いうより動いていないようです」とマイは正直に所感を述べた。
「あの鏡がブラフだとして、敵は何を狙っていると思う?」「誘き出された艦隊、でしょうか。特に戦艦グワランを狙うと思います。長距離ビームは撹乱幕を展開して防げても対艦ミサイルの飽和攻撃を受ければかの大戦艦といえど…」宇宙攻撃軍の総旗艦であれば値の張る大型対艦ミサイルを大盤振る舞いするだろう。直掩機や僚艦の対空火力をもってしても防ぎきれるかどうか。
「そうなると我が戦隊がやるべきはグワランの直掩か?はたまた、戦艦を狙う敵艦ないし敵MSの駆逐か」考え込むようなシャアのポーズにマイは呆れたように「もう、中佐はどうなさるか決めているのでしょう。命令さえ頂ければ総員奮起するものと思われますが」と返した。
シャアはにやりとしながら「流石は我が友。私は敵艦隊に仕掛けようと思う。戦隊規模の戦力で敵旗艦までたどり着くのは無理だろうが、一撃を加えて敵を混乱させることは出来るだろう。その間にアイスラ少尉の偵察隊が鏡の正体を看破して報告すればグワランは要塞に撤退するだろうな。そういう訳で、フーバー・アイスラ少尉。貴様がこの作戦の肝だ」といきなり戦隊長に名指しされ(お、俺!?)という顔になるアイスラ少尉。ジャニス・ハラウェイ軍曹は「私達偵察隊が主役ですよ!頑張りましょうね!」と無邪気に喜んでおり補充兵のキャリオカ軍曹も「そうっスよ。少尉上手くやってのけたら俺たち英雄ですぜ。ジオン十字章とか貰えるかもしんないス」と景気がいい。
シャアも「そうだキャリオカ。任務を成し遂げて帰還すれば私が推薦しよう」と煽り、(偵察機乗りが十字章か。いっちょやったるか!)フーバーもその気になり「アイスラ少尉以下偵察小隊3名、敵ミラーの正体を暴きます!」とビシッと敬礼してジャニスとカリオカを引き連れ颯爽と(彼個人の主観では)格納庫へと飛んでいった。
格納庫には彼らの新しい愛機MS-09E『ドム・レコン』が待っていた。頭部には巨大なレドームを装備している。これもアルベルト・シャハトによる後知恵兵器である。
RMS-119アイザックの性能を再現すべくMS-09をベースに開発したのだ。電子機器やセンサーはUC.0087の水準には及ばなかったが、スラスター推力はオリジナルを上回っていた。
しかも、ペイロードに余裕があるため武装が可能だった。とはいえ、あまり場所を取らない突撃銃StG79と小ぶりなシールドである。シールドには突起があり、打突兵器として使える。
「シャア中佐の言う通りなら、俺達がグワランと艦隊を救うことになる。お前ら気張っていけ。それと絶対死ぬなよ」火球と化すケイトを背中に逃亡した時の惨めさは二度と味わいたくなかった。
「ブランケ大尉、此度はブランケ家のファルメル戦隊加入を歓迎する。お父上は残念だった…」シャアは通信相手エリク・ブランケ大尉に彼の父親、緒戦のコロニー攻撃作戦で捕虜となるのをよしとせず自決したアーダルベルト・ブランケ大佐(自決と敗戦のため昇進せず)を悼んだ。
「父はかの作戦に異議を唱えていました。サイド1ないし、サイド4に戦力を集中させるべし、と言っていたのです。ですが、宇宙攻撃軍参謀本部は全サイドへの攻撃を譲らず総勢8隻という少戦力で敵の待ち受けるサイド1へと赴いたのです…」アーダルベルトの一粒種、エリク・ブランケは無念そのものという表情をした。
「エリク、君が参謀本部ひいては総司令部批判を公言しているのを私は知っている。そのせいで部隊共々難しい立場にあるのもな。だからこそ私は久しぶりにガルマ・ザビ大佐に連絡し、君達を迎える根回しをしたのだよ。ドズル総司令は弟の頼みなら何でも聞いてくれるからな」ガルマ・ザビは「そうか!エリクに敵討ちの機会を与えてくれるのだな?流石は我が友シャア!」とオーバーリアクションで二つ返事してくれた。彼もひとつ下の幼馴染であり、士官学校でも後輩だったエリクを心配していた。ガルマの喜びようを話すシャアにエリクは「そうですか。ガルマ様が自分の身を案じてらしたとは、自らの不明を恥じるばかりです…」と頭を下げた。
「彼は善人だからな。だが、私は悪党だ。君達を迎えたのは魂胆がある。敗戦の将の息子にして司令部批判を憚らない君と君の部隊なら名誉挽回のため必死で戦うだろう。そして、君は戦力分散の愚を痛みをもって知っている。私は轡を並べる戦友には蛮勇よりも狡猾さと裏腹の怯懦を求める。私自身が突撃一本槍の猪武者なのでな」肩をすくめるシャアに「中佐は『敵弾は勇者を避ける』を地でいってらっしゃる。自分はファルメル戦隊に抜擢されたことを名誉に思います。隊の皆も同様です」と敬礼した。
「結構。君の指揮する軽巡は『ハーゲンⅡ』という。戦場で連邦に鹵獲された『ハーゲン』と戦うかもしれんな」唇の端で皮肉な笑いを浮かべるシャア。「それこそ願ったりです。撃沈するさまを御覧ください」とシャアは「意気込みは頼もしいが、中に乗っているのが元戦友だとしたらどうする?」と今度は真顔で質問した。コンスコン艦隊が艦隊ごと寝返った、という情報はサイド6経由でジオンに知れ渡っていた。将兵の家族は肩身の狭い思いをしているという。
「父の後を追わせてやります」エリクは毅然と言い切った。(大佐は兵を救うべく自決したのだろうがな…)シャアはそう思うが、闘志に水を差すこともないと「その意気だ」と激励した。
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==== ルイジアナ級戦艦『サンダラー』CIC
「ここまで思い通りに運ぶとなんか怖いねぇ…」グリーン・ワイアット中将は第三艦隊旗艦『サンダラー』の提督席で紅茶を飲みながら台詞と裏腹の不敵な笑顔を浮かべていた。
「敵は『アルキメデス』情報にまんまと踊らされ、敵艦隊がミラーを破壊するため出撃するようです」幕僚長が敵通信量から解析した敵艦隊の動きを報告した。
「結構なことだ。邪魔しちゃ悪い、ミラーの警備をしている部隊をそれとなく下がらすよう」との指令に幕僚長は「あまり早く下がらせてもタネが割れますしなぁ。難しい加減が必要です」と返す。
「ブレックス・フォーラは正論を吐けば世の中うまくいく、と思ってるおめでたい男だが仕事はできる。任せておけばいいさ」とワイアット。彼はとかく書生論を述べるフォーラ中佐を嫌いではなかった。艦隊司令本人が舌禍で敵を作りやすい質だからか、空気を読まない者は嫌いではない。中佐の率いる部隊には軽巡や駆逐艦、フリゲートの指揮に熟練した艦長たちが揃っていた。
そこで、ワイアットは彼に加減の難しい『ミラー』の警備を任せたのである。
「警備部隊、ミサイルフリゲートなど小艦艇を中心に後退を開始しました。旗艦『モンブラン』は踏みとどまっています」とオペレーターの報告に幕僚長にウインクするワイアット。
「しかし、上手いこと『グワラン』を誘き出せても『ビッグキャノン』が当たらねば撃沈はかないませんな。超々遠距離射撃になりますが…」幕僚長はミサイル艇の大量投入による飽和攻撃を支持していた。対して司令であるワイアットは大鑑巨砲のロマンを捨てきれていない男だった。第三艦隊は第五艦隊からマクロス級5番艦『セブン』を調達し、3番艦『フロンティア』との2隻体制となり、さらに第二艦隊から派遣されている2番艦『メガロード』の指揮もワイアットが取っているためマクロス級砲艦3隻で大戦艦『グワラン』を狙撃する作戦である。その距離およそ2万kmにおよぶ超長距離狙撃である。ワイアットは旗艦サンダラーの指揮管制能力をもってすれば艦隊各艦の観測結果を集計し、グワランの正確な位置を掴むことができると考えていた。
「ドズル・ザビはさぞかし驚くだろう。なにせセンサー有効範囲の遥か外から狙撃されるのだからな」カップ片手に笑みが浮かべるワイアットだった。
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===== 連合艦隊旗艦『ルイジアナ』CIC
サイド1方面からソロモンを目指していた第一、第五艦隊からなる連合艦隊は未だソロモン周囲のデブリ宙域に留まっていた。旗艦ルイジアナには総勢200近い大小各種の艦艇からの情報の結節点になっていた。ルイジアナのCICは正にデータの洪水という有様でオペレーターや通信幕僚達が必死の形相で整理に追われていた。しかし、総司令ヨハン・イブラヒム・レビル大将は従兵にとびきり濃いコーヒーを入れさせ豆の香りを楽しむ余裕があった。傍らの幕僚長が(将軍のヒゲ、すこし色がついてる…)と思ってるとは知らずに。「デブリの撤去作業の進捗はどうだね?」今回の攻城戦のために用意された作戦のため、デブリ宙域にいくつかの通路を作る必要があり、連合艦隊のMSは一部の例外を除いて爆破作業に駆り出されていた。
「しかし、敵要塞砲から艦隊を守るためとはいえ、デブリを撒き過ぎましたな」幕僚長の感想にレビルは「ソロモンやア・バオア・クーがデブリで埋まればジオンが和平に応じるかもしれない、という楽観論者が政府にいたのだ。我々連邦軍はあくまで文民統制の下にあるのだから致し方あるまい。それにこれだけのデブリが密集している宙域があるおかげで今回の作戦も成り立っているとも言えるな」レビルはデブリの撤去に少々骨が折れても全面質量弾攻撃『ペイ・バック』作戦は意味があったと考えていた。ジオンにコロニー落としを断念させるだけでも十分な効果だ、とも思う。
「『トンネル』が一本開通しました」通信幕僚の報告に「なんとかオンタイムで作戦が進められそうです」と胸を撫で下ろす幕僚長。「全てのトンネルが一斉に開通せねばならない、というものでもないしな。安全第一で作業を進めてくれたまえよ」とレビル。戦闘の前段階の事故で損害を出したくない、というのが本音だ。
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第一艦隊に編入された強襲揚陸艦『ホワイトベース』MS格納庫の待機室では第13独立戦闘団の搭乗員達が待機していた。臨戦配備中だが、2度の実戦をくぐり抜けた彼らはリラックスしていた。GW中隊の搭乗員達は揃って喫煙ブースに籠もっている。タバコを嗜まないリュウ・ホセイ准尉だけが待機室に残っていた。
「しっかし、俺らだけこんなとこでコーヒー啜ってていいんすかねぇ…」カイ・シデンは何か後ろめたいような顔をしてこう言った。他の艦艇のMSはほぼ総出でデブリの撤去作業に駆り出されているのだ。後ろめたい気がしてならなかった。「お、スキあらばサボろうってカイ君も成長したね~。な~に、ジオンが押し寄せて来たら俺達は食事もコクピットの中で済ますことになるんだから今はこれでいいのさ」と中隊長のウィリーはリラックスしている。
アムロはタブレットとにらめっこで戦術シミュレーションを組んでいる。ジョブ・ジョンとダンクはハヤトやウモンと雑談し、アリシアは携帯端末のゲームに夢中、フレッドは堂々と居眠りし、クロエもフネを漕いでいる。ゲーツはアムロの席の後ろに立ちアムロのシミュレーションを熱心に眺めていた。要するに思い思いに過ごしているのである。クレアは溜まっていた書類を片付けていて、イオは格納庫で親友のコーネリアスにつきあい整備に立ち会っていた。
イオ中尉がリズムを取りながら待機室に戻って来た。ヘッドホンを装着している。「中隊長、次の出撃ですが、BGMにこれオープン回線流しませんか?俺達13独戦が来たってジオン共に教えてやるんですよ。これは俺が作曲した曲でこのフネからメンバー募って収録したから著作権はクリアですよ」テーブルに置かれた携帯スピーカーからはジャズ、宇宙世紀に入り再興の兆しを見せているジャンルが流れている。
「イイっずね~。クソダサジオン歌謡なんぞ聞いてるジオンの芋どもカッコイイ登場BGMにさぞビビリますぜ」カイがヒヒヒといやらしい笑いを浮かべる。ジオン歌謡とはZ-POPとも呼ばれる旧暦1970~80年代のポップ・ミュージックを復刻した曲調の音楽である。政治的なメッセージを込めた曲は親衛隊の検閲を通りにくい、という国内事情もあり歌詞が無難なラブソングばかりのなのが特徴といえ連邦軍将兵からは「ダサい音楽」とされていた。
「そうかな、私Z-POP嫌いじゃないわよ。連邦の歌手って、なんか意識高くないといけないみたいな感じじゃない。去年のクリスマスにサイド6に集まって歌ってたようなのとか。ジオンの曲ってなんか素朴じゃない?逆にああいうのこそ反戦歌になると思う。それに宣伝放送の『波よ聞いてくれ』でよく掛かるのよ」とクレア大尉。
『波よ聞いてくれ』は表の宣伝放送DJジャクリーンの裏、余った帯域で自称細々と放送されている同じく女性DJによる宣伝放送である。初回はいきなり恋人の士官を射殺してMPに逮捕される、というラジオドラマが放送されるという破天荒ぶりだが、DJミナレ・コナのキャラクターが両軍の女性から支持されて捕虜収容所の待遇改善を訴える女性捕虜達から当該番組の所内での放送が挙げられていたほどだ。「大尉もアレ聞いてるんですね!私も好きなんです!」アリシアが同調する。
「え~、俺も聞いたことあるけど、ああいう自称サバサバ系駄目だわ」ジョブ・ジョンがダメ出しすると「アンタはジャクリーン聞いて、〇〇〇こすってな!」スレッガー中隊から聞いたのか下品な兵隊口調で返すアリシアにクレアが「AA、クロエが真似したら困るからそういうのは駄目よ」と諌めるとしゅんとして「すいません…」となるアリシア。「へへ、怒られてやんの」と舌を出すJJを睨むAA。
ウィリーは(なんかジュニア・ハイの教室みてえだなぁ)と思いながらも「まぁ、俺もサックスで参加してるし、リュウ准尉もドラムで参加してる曲だからな。中隊長権限で許可するぞ」と許可した。「へぇ、リュウさんドラム叩けたんですね」ハヤトが感心していると「前の艦でさ、メンバー足りないからお前やれって上官から言われて練習したんだよ」と照れるリュウ。
「お前さんはブルースハープも中々のもんだし、次の曲はそれをフィーチャーしてみるかな。『ジオン兵の挽歌』って感じでさ」とリュウを持ち上げるイオ。
「こんな感じですかね」と一節ハーモニカを鳴らすリュウ。「かー、渋いっすね!」すかさず持ち上げるカイ。
ウモンは「は~、こういうの出来るとモテそう…」と呟きながらPXでハーモニカを買おうと決心していた。ゲーツも(これが吹けたらクロエ喜ぶかな…)と思っている。
アムロだけは我関せず、という顔でタブレットを操作していた。
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13独戦団長、チャールズ・エルヴィン・ベッカーズ中佐が待機室にレヴァンとシェリーナ姉妹を引き連れて入室するとウィリーが「
「GW中隊の紳士たちは一名を除いて喫煙ブースでお楽しみのようだな。後で君から伝言してくれたまえ」とウィリーにスレッガーへ伝えろと指示するチャーリー。
「本作戦は我々の檜舞台とも言える戦場である。諸君はフウ特務大尉とシェリーナ特務准尉達の支援のもと実力を存分に発揮して欲しい。と、ここまでは建前だ。ここからは私の告白を皆に聞いて欲しい。私は強化人間だ…」団長の衝撃的な告白に全員が衝撃を受けた顔になる。特にレヴァンはショックを受けたようだ。
「強化人間といってもニュータイプの概念が現れる前だから心肺機能と筋力の強化手術くらいのものだがね。DELTAへの転属を条件に新品少尉だった私は有頂天で被験者となった。それがもたらす事態が想像できなかった。私のような『改造人間』が反地球連邦組織相手の戦場に現れると、敵は民間に流出した技術を誘拐したり買ってきた子供たちに応用して『改造人間』を作り出し、戦場へ投入した。稚拙な戦術で用いられたから私達には通用しなかったが、「普通の兵隊」には絶大な威力を発揮して連邦陸軍は損害を被ることになった。私達強化兵達は最初、戦友達のために敵の強化兵を狩り続けた。私には敵の強化兵は同じ人間という意識はなく兵器を相手にしている、と思い戦っていた」
「だが、ある時一人の強化兵を捕虜にして考えが変わった。彼は怯えた子供だった。生まれた村が焼かれ誘拐され、手術を受けたのだ。しかも、手術のせいで余命いくばくもない、という有様だった。軍は敵の非人道性を喧伝するために彼を『治療』して人間に戻そうとした。私はそのプロジェクトに参加して捕虜、グムンバという名前だった、を医官達と協力して彼の治療にあたったが、甲斐なく彼は息をひきとった。その時から私は敵の強化兵を救うことが私個人のミッションになった。軍の上層部からDELTAの上官から言われたのでもない、私個人が自身に課した任務だ。周囲からは『偽善』と言われた。『同類相憐れむ』ともね。幸い軍内部にも理解者が少しづつ増えてきた。私の妻はその当時知り合った精神医だ、一緒に強化手術という理不尽に見舞われた少年兵をカウンセリングしてきたんだ」
ここまで語るとチャーリーはMS中隊の少年兵を見つめ「当時最新の医学で治療された強化兵達は精神の平衡を取り戻し、余命も延長することができた。社会復帰できた者もいた。ごく一部だったが…。この時、軍や一部企業は治療を通じて人間を強化するデータを大量に手に入れた。クロエやゲーツになされた措置の一部はこの時代に確立したものだ。そして、レヴァンやシェリーナ姉妹に施された措置はその技術の発展型といえる。私は、私達は善行をしたつもりで君たちに地獄を見せてきたのだ。本当にすまない…」頭を下げるチャーリーにレヴァンは亡くなった被験者達に黙祷を捧げ「中佐、貴方は十分苦しみました。私には貴方を断罪する資格などありはしない。リリーとイースもそうでしょう。ゲーツやクロエはどうだね?」と2人に問いかけると「志願したってんなら俺も一緒だよ。ニタ研のリクルーターから逃げることだって出来た。俺は食うために着いてったんだ、いや、です」とゲーツ。クロエは「私はお母さんが死んでお父さんが私を研究所につれてきた。私は毎日食事が食べられて時々おやつも食べられるから逃げなかった、自分の意思って意味では中佐と同じ」と表情を変えずに言う。
チャーリーは顔をしかめ「二人ともそれは『自分の意思』ではない。君達はそうせざるを得ない立場に置かれていたんだ…」と絞り出すような声で反論した。
「レヴァンやリリーとイースは生まれた理由が被検体、という人類の業を背負わされている。ニュータイプの力を手にれた君達がオールドタイプ、旧人類を糾弾しても私には『許してくれ』としか言えない。そんな私だからゴップ閣下はこの部隊の指揮を任せてくれたのだと思う。この戦争に何か意味があるとしたら、君達の居場所をこの悪しき世界に作るための戦争だと私は思う。愚かな大人達は君達が優位を示さない限り居場所を用意しない。便利に使い潰すだけだろう。だが、私達この部隊の将校は皆、君達を全力で守ろう。それで構わんよな?ウィリー・ケンプ、クレア・キルマー、イオ・フレミング」団長の問いかけにウィリーは「今更ですぜ、団長。俺は最初からそのつもりだ」と返事し、クレアは「私も微力を尽くします。501のレイヤー団長には貸しがありますから」と断固たる口調で、イオは「俺の持ってるコネやら金やら総動員で役に立ってみせますよ」と胸を張った。「3人とも、ありがとう」とチャーリーは頭を下げた。
レヴァンは何か吹っ切れた顔になり「今まで自分の能力を戦場で発揮するのが少し後ろめたい思いがありました。ですが、もう躊躇しません。ゴップ閣下が仰ったことを思い出したのです。
この世界が残酷なのは否定できない、だが、それを構成しているのは意思の疎通が可能な人間なのだと。私はこの力をもって世界に私たちの居場所を作ります。皆様にはお付き合い願いたい」と頭を下げた。
「あれ、僕たちは『私たち』の勘定に入ってないんですか?」アムロがキョトンとした顔で尋ねる。「そうだった…。ゲーツやクロエだけじゃない君たちも『私たち』の一員だ。その力でジオンだけではない、連邦の中にもいる彼ら、敵ではない、と対話する機会を作って欲しい」レヴァンは満面の笑みを浮かべ、アムロの手を握った。「僕が出来るのはMSを落として戦果を挙げるくらいですけど、レヴァン大尉の役に立ってみせますよ」と力強く握り返した。握手する2人の肩を抱き泣き笑いの表情を浮かべるチャーリー。「チキショウ、こういうのに弱いんだよな俺」とウィリーも涙を浮かべ、クレアは拍手をしている。イオは卓上のスピーカーから戦争映画のBGMを流し場を盛り上げた。いつの間にか来ていたマチルダやミライ、ミユとノエルも拍手をしたり、涙を浮かべたりしていた。
「なになに?いつの間にボクちゃんたち抜きで盛り上がってんのさー。水臭いですぜ、団長」とスレッガーが中隊を引き連れ待機室に現れる。
「すまなかったな、大尉。レヴ、今日は大いに飲みたい気分なんだが、ジオンの奇襲はあり得るかね?」とチャーリー。レヴァンは頭を振ると「よし!飲むぞ!」とウィリー。「俺たちも飲んでいいすかね?」とカイ。「ノンアルビールなら許可する」とウィリー。「だが、酔っ払ったヤツがカイのグラスに本物を注いでも事故だよな」とスレッガー。「事故は起きるものだ」とチャーリー。
クレアとマチルダは「男って、こうなのよねぇ」と笑みを浮かべ肩をすくめている。ウモンは「えー!ビールって苦いじゃん。あんまうれしくないなー」とこぼし、ゲーツに「ガキだなぁ。戦友の絆ってやつだぜ」とからかわれた。フレッドは「まぁ、作戦中に飲めるんなら俺は文句はないな。ハヤト、一杯飲んでみるか?」とスパーリングパートナーを誘い「いえ、僕は未成年ですし…」と遠慮するハヤトにリュウが「お前さん、固いよなぁ。先任曹長の言うことは聞いとくのが軍隊生活のコツだぜ」とひじでハヤトの頭を小突いた。
リリーとイースはクロエと手を取り合い見つめ合いながら「がんばろうね」と交感していた。
第13独立戦闘団はこうしてひとつのチームとなった。
ソロモン攻略戦の開始であります。ソーラ・システムのダミーでジオン艦隊をおびき出し超長距離狙撃で撃滅を図る連邦軍。シャアはそれを阻止できるでしょうか。エリク・ブランケとその家臣たちも参戦です。
月面では突撃機動軍の攻勢防御作戦が進行中です。「ノイジー・フェアリー」は部隊規模が大きくなり中隊として登場しました。今後もローゼなど他のスピンオフから女性パイロットを引っ張ってこようと思ってます。
13独戦を率いるチャーリーの過去が明かされました。彼はニュータイプが確認される前の時代の強化人間、としてみました。