==== 2022年 ウクライナ東部上空
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって数ヶ月、スホーイSu-57の編隊がロシア軍が攻勢をかけているウクライナ東部の空を飛んでいた。
対地攻撃任務なのか、翼下には爆弾を数種類懸架していた。
「誘導爆弾が品切れとはな…」Su-57のパイロットは独りごちた。Su-30、Su-35といった「主力機」がウクライナ軍の防空網の前に損耗していしまい、彼らSu-57を装備している親衛飛行隊を前線に投入さざるを得なくなったロシア空軍であった。兵站に大きな問題を抱えているのか、誘導爆弾や対地ミサイルといったスタンドオフ兵器の類は既に使い切ってしまい、Su-57は通常爆弾をウクライナ軍の「軍事施設」に投下すべく翼下に吊るしている。もちろんステルス性能には悪影響しかない。
「ザツ! そろそろ目標地点だ。敵の防空兵器は精々が携帯ミサイルだそうだ。この機体には楽な任務だが、油断はす…!!」編隊長の通話が終わるか終わらないうちに彼の機体が爆発した。
「散開!敵機だ!」先程ぼやいていたパイロットが編隊に散開しての退避を命じた。既に爆弾は切り離して身軽になっている。最新鋭機Su-57が複数機、空戦で撃墜されたとあっては西側メディアに大きく報道されるだろう。それは避けねばならない。
襲来した敵機はMig-29だった。本来ならSu-57に到底太刀打ちできない旧式だ。「レーダーには反応無かったぞ!」僚機の悲鳴に「ヤンキーのAWACSがこっちにニセの情報を流し込んだ!」彼は自分の推理を叫んだ。おそらくはトルコ上空にいるアメリカ空軍のAWACSがSu-57のレーダーを始めとするセンサー群に偽情報を送り込んだのだろう。Mig-29はSu-57の後方に遷移するとミサイルを発射、また1機を撃墜した。
「幽霊…」僚機のつぶやきに「『キエフの幽霊』は宣伝だ!実在しない!」と彼は怒鳴ったが、「幽霊」の実在は別として実際彼らは旧式機に追い立てられているのである。彼が通信機に敵機の襲来を司令部に怒鳴るように報告する間に僚機は撃墜されてしまった。パラシュートが開いたが、地上の敵軍にろくな目に合わされないだろう。
彼は大祖国戦争で撃墜王となった曽祖父から朝鮮、ベトナムに従軍した祖父、アフガンやチェチェンで飛んだ父へと続く戦闘機乗りの家系であった。
誇り高い家系の末裔は捕虜になって動画サイトで晒し者になる気はなかった。
「さぁ、来い!俺はそう簡単に落されんぞ!」だが、彼がスロットルを全開にした途端、Su-57のAL-41F1エンジンが咳き込んだ。「な!?」前線飛行場の整備班は足りない交換部品をSu-30やSu-35の物を流用してしのいで来たが、土壇場でガタが来たようだ。焦る彼の視界にバックミラーに映ったMig-29がミサイルを発射するのが見え、その直後彼の意識は闇に落ちた。
「またあの時の夢か…」ブラン・ブルターク大尉は転生してから度々前世の記憶を夢に見ることがあった。連邦軍のMSパイロットになってからその頻度が増した気がする。
「敵を旧式と侮るな、ということなのかな…」ブランは新型量産機RGM-79S『スーパーGM』を試作段階から乗り開発に携わってきた。
彼はこのGMスナイパーカスタムを後知恵で再現した機体に絶大な信頼を寄せていた。
それこそ前世の愛機Su-57のように。だからこそ、彼の深層意識が警告を発し、それが悪夢という形で現れたのかもしれない。
空母『エンデバー』の仮眠室から出てきたブランに「ブルターク、顔色が悪いが大丈夫か?」と上官である第604MS戦闘団 団長 ユーグ・クーロ少佐が声をかけた。
「夢見が悪かったようで。体調に不安はありません」と苦笑いし心配ないと片手を上げるブラン。
「君が仕上げたスーパーGMはいい機体だ。その新型機を育てたテストパイロットを迎えられて自分は幸運だった。頼んだぞ」と励ますクーロ少佐にブランは世間話風に「少佐は旧暦21世紀のウクライナ戦争はご存知ですか?」と話題を振った。「そら、知ってるさ。地球連邦成立のきっかけとなった戦争だからな。士官学校でその時代の戦争は何本もレポートを書かされたもんさ。A+を貰ったのもあったな」とクーロ。
「『キーウの幽霊』は実在したと思いますか?」とブラン。連邦軍士官学校の教本に登場する『キーウの幽霊』という名称を使った。「そうだなぁ。プロパガンダのために複数搭乗員の戦果を一緒くたにしたんじゃないかと思ってる」とクーロ。戦場のロマンとは無縁の散文的な性格なのである。
「自分は母方がロシア系でしてね。母方の祖父から聞いた話に曽祖父が幽霊と交戦して撃墜された、というのがあります。なんでも当時最新鋭機のSu-57に乗ってたのに旧式のMig-29に落とされたそうで」と自分の前世を先祖の話として話した。クーロは「へぇ、口伝てやつか。軍大学の研究者が話を聞きたがるだろうな」と感心している。
結局のところ、前世の彼は撃墜された時点では死なず、パラシュートで脱出してウクライナ軍の捕虜になった。後送される間に民間人を情け容赦なく殺戮するロシア陸軍の蛮行に憤慨した彼は義勇軍「自由ロシア軍」に志願し、西側供与のF-16Vに機種転換、ロシア空軍相手に5機撃墜の戦果を上げて一族何人目かの撃墜王になった。ウクライナ人の妻を娶り、ウクライナのハルキウで80年の生涯を終えた。彼は死ぬまで『キーウの幽霊』が自分の運命を切り開いてくれたと信じていた。
(あのMig-29のような一見旧式でも中身は最新鋭、といったMSがジオンにはあるかもしれん…)自由ロシア軍に参加した後、ウ軍のMig-29を見せて貰ったが、西側のアビオニクスと思しき液晶画面だらけのコックピットに唖然とした記憶があった。中にはエンジンまで西側の最新型に換装したのまであったそうだ。
既にMS-09ドムの配備で旧式とされるMS-06ザクだが、中には徹底的に強化した機体があるかもしれない、と前世の彼が警告しているのだろう。
ブラン・ブルタークは今度は油断していなかった。
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==== 巡航戦艦『レッドバイカウントⅡ』CIC
「いいと思わんか?」自由ジオン軍旗艦の提督席に座ったコンスコン少将は特製の通信手席に座る2人の少女兵に視線を向けて傍らの参謀長に語りかける。
「ララァ・スン少尉とマリオン・ウェルチ少尉、こんなに軍服が似合うとは意外でしたなぁ。連邦が特別誂えの軍服を持ってきた時は『特別扱いはいかがななものか』と思ったものですが」と参謀長も提督に同意のようだ。
2人の着ている軍服は色とデザインがジオンのものとは異なっていた。映画「めぐりあい宇宙」に登場したデザインの軍服である。ララァの服は緑、マリオンのは蒼であった。
もっともジオンでは高級将校は軍服は自前で誂えるので思い思いの意匠を凝らしたものを着込んでいるのだが。
「あの服を持ってきた連邦軍のデザイナー氏によれば『前世の記憶』がどうたら言ってましたが…」2人の世話係に任ぜられている女性士官が困惑した口調で報告する。
「あの連中、時々おかしなことを言うからなぁ」コンスコンは連邦の連絡将校団のおかしな言動を思い出していた。どうも連中に「3分」という単語は禁句らしく「180秒」などと言い直していた。
「提督、美少女を見て鼻の下を伸ばして貰っては困りますなぁ」険のある女の声にコンスコンと参謀長は我に返る。声の主は自由ジオン軍のMS部隊『第一MS戦闘団』の指揮官シーマ・ガラハウ少佐だった。彼女も特製の軍服に身を包み、口元を扇で隠している。
嫌な奴に見つかった、という態度を隠しもせずコンスコンは「ガラハウ少佐か。鼻の下を伸ばしていた訳ではない。今作戦では彼女達の活躍こそ我々の作戦目標だからな。それを考えていたのだよ」としれっと言いのけた。
服装のせいか31という実年齢より老けて見える女将校は「へぇ。自分には軍服姿の美少女に見とれてた様に見えましたが」と嫌味を止めない。
(こいつは連邦軍、なによりアルテイシア様の覚えがめでたい。これ以上言い争ってもな…)コンスコンは方針を変えておもねるような口調で
「ところで、少佐。連邦から支給された『リニア・ザク』なる機体はどんな感じだね。ビーム兵器を装備しているそうだが」連邦軍支給の新型ザクの性能を尋ねた。
「中々にご機嫌なMSですな。それについちゃ制御ソフトを書いたエンジニアが閣下にご挨拶したいそうで…」とシーマ。
「ほぉ、よかろう」とコンスコン。連邦も高く評価しているFZM-01の制御ソフトを書いた技術者はジオンからの亡命者、という話はコンスコンの耳にも入っている。
「メイ・カーウィンと申します」とこれまた特別仕立ての軍服を着た少女が現れた時はさしものコンスコンも唖然としたが。
「まだ子供ではないか…」シーマにどうなっているのだ、という視線を向けるコンスコンにシーマは「勝手にこのフネに乗り込んできちまいましてねぇ。今回の作戦じゃどうせ後方ですから置いとこうかと」と悪びれる風もない。
「私はまだ14でございますし、閣下が危惧されるのも最もなこと。ここは私の仕事ぶりをご覧いただきましょう」と恭しく頭を下げながら挑戦的な態度のメイ。
コンスコンは再びシーマにどうなっているのだ、という視線を向けた。シーマは扇で口元を隠しながら「このお嬢さん、大言壮語するだけあって腕は中々のものでしてね。先日の連邦軍との対抗演習の後、早速リニア・ザクのソフトを改良しちましてね。2%弱ですが旋回性能が上がってます」と報告した。
航空参謀が手にしたタブレットでガラハウ機らしきリニア・ザクの機動を解説したが、どうやら本当に性能が上がってるらしい。コンスコンは「いや、見た目で侮ったつもりは無かったが。ミス・カーウィン、すまなかったな」と素直に頭を下げた。カーウィン家がダイクン派の大物であることを思い出したからだ。目の前の少女もアルテイシア代表の側近のひとりなのだろう。
(新聞の星占いでは女難のおそれあり、とは言ってなかったがなぁ…)と厄介な女性陣に囲まれた提督はこっそりため息をついた。
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==== 連合艦隊旗艦『ルイジアナ』CIC
「『トンネル』全て開通です」幕僚長の報告に総司令ヨハン・イブラヒム・レビル大将は重々しく頷き、「
デブリに突入した宇宙船群の内訳はサラミス級軽巡からペリー級駆逐艦、レパント級フリゲートの他、コロンブス級や民間船まで混じっていたが、そのほとんどがどこか破損した損傷艦で、残りは旧式艦であった。
「レーザー回線良好。全艦順調にソロモンへ向かっています」オペレーターの報告に幕僚長は「1000近い無人艦の誘導、上手くいってますな」とつぶやく。
「問題はトンネルを出て散開してからだな。ソロモンに命中するのはもちろんだが、狙った地点に当たらねばソロモンの表面に穴を穿つだけになる」レビルは表情を緩めていなかった。
==== ソロモン要塞 総司令部
「敵艦デブリ帯より出現!」オペレーターの報告に即、「要塞砲、放て!」と命じるドズル。大口径ビームを浴び『トンネル』を先頭で抜けてきた艦が爆散する。歓声が上がるが、第2射は拡散してしまう。「先頭艦は撹乱弾を仕込んでいたようです」参謀の報告に「対艦ミサイルを放て!」とドズルは腕を組んだまま命じる。「敵艦、人が乗っている動きではありませんな…」もみあげ大佐のつぶやきに「無人艦による特攻ですかな」口ひげ大佐が応じる。
「いかにもありそうな手だが…」裏側の『アルキメデス』に比べると常識的な攻城手段にドズルは少し安心した。おそらく裏側の陽動なのだろう。
だが、「敵艦、続々と出現!既に100を越えています!」オペレーターの報告にドズルの顔が強張った。
「こちらが本命なのか?連邦の物量恐るべし…」士気に関わるので小声でつぶやいた筈が傍らのラコックには聞こえたようで、すかさずうんと濃く淹れたコーヒーを差し出された。
==== 重巡ファルメル 格納庫
「中佐、『ゲター』は途中で廃棄して構いません!」マイ整備長はゲルググの足元の宇宙艇を指差し途中で捨てて構わないとヘルメット通信を入れた。
『ゲター』は技術本部が開発したMSの航続距離を延長するサブ・フライトシステムである。レーザーロケットで稼働し、熱核ロケットより遥かに低コストかつ化学ロケットより大推力のいいとこ取りな代物である。レーザーの電力はMSから取り、推進材は熱核ロケット同様に液体水素を用いるのが兵站上の最大の利点だ。
「要するにブースターだからな。全機、聞いた通りだ。戦闘前にゲタは脱いでおけ」とシャアが命じると「履いたままではマナーに反しますからね」と、ブラウンが返す。ギリアム少尉は(流石はレッド・ガード、シャア中佐相手に冗談言ってるよ…)と感心していた。マイヤーは目を閉じ瞑想している。
艦橋下のトラスにブースターを装着したファルメルは同じくブースターを装着した軽巡4隻を引き連れソロモンのベイ・ブロックを飛び出すと矢の様に敵艦隊(連邦第三艦隊)目掛け飛んでいった。『ミラー』を無視するかのような戦隊機動に虚を突かれた連邦艦隊はリアクションが一息遅れ、ファルメル戦隊が艦載機を発進させたのに対し左端に位置する戦隊は直掩機を向かわせるのがやっとだった。対してファルメル戦隊のMSはスラスターに『ゲター』で加速していたので容易く敵戦隊に取り付くことができた。
「動きが悪いな」シャアはつぶやくとビームライフルで先頭を行くジムを撃ち抜く。赤い塗装の未確認機がバズーカより明らかに細いビームを放ったことに連邦の編隊に動揺の色が見えた。「貰った」マイヤーがつぶやきと同時にビームバズーカが1本のビームでジムとモビルポッドを撃ち抜いた。「いけ!」ブラウンもビームバズーカを放ち回り込む機動を見せたジムを撃ち抜く。
突出したシャアの小隊3機を直掩のジム編隊が包囲する動きを見せたところにロバート・ギリアムが指揮するファルメル隊9機が矢じりの隊形で突入する。
「うおぉりゃあぁ!!」ビームバズーカと突撃銃を撃ちまくりながらジム編隊に突っ込むギリアム機。その射撃を回避したジムが列機の狙いすましたビームに捉えられる。直掩機が突破された頃にはマゼラン3隻とサラミス9隻、護衛空母と護衛の駆逐艦からなる戦隊にシャア小隊は到達していた。
「沈め!」ビームライフルの3連射を動力部に食らった戦艦が火球と化す。「そこ」マイヤーのビームを受けた戦艦がCICを撃ち抜かれたのだろうか、対空砲火が弱まり、次の射撃を動力部に受け撃沈される。「勇敢だな!」味方の対空砲火を物ともせず突っ込んできたジムを突撃銃の一連射で撃破するとビームバズーカでサラミスをへし折るブラウン。最初の突撃で連邦軍は戦艦2隻、巡洋艦1隻を失った。
「ブランケ中隊、全機突撃!」エリク・ブランケ大尉の号令で一斉に敵戦隊に突撃する『ハーゲンⅡ』のドム9機。敵護衛空母が吐き出すジムやリガードを蹴散らし、立ちはだかる駆逐艦を小隊ごとの突撃銃の集中射で沈め、遂には護衛空母と防空戦の指揮を取っていた軽巡を沈める殊勲を上げた。「エリク、ブランケ隊は我が隊より動きがいい」シャアの通信に「はい!更に励みます!!」と大声で答えるエリク。ブランケ家の郎党達から「おう!」という鬨の声が上がる。
「エリク、逸り過ぎないで」小隊員のタチアナ・デーア中尉から短距離通信が入る。心配する幼なじみの言葉にいささか苛立つエリク。「ここで逸らずしていつ逸ると言うのだ!」「中隊!次の目標に向かうぞ!」ブランケ隊は今まで「干されて」いた鬱憤を晴らすかのように戦場で躍動していた。
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ドム・レコン3機はファルメル本隊が連邦艦隊に殴り込むのを他所に『ミラー』目掛け飛行していた。
偵察小隊を指揮するフーバー・アイスラ少尉は「急げ!俺たちにグワランの浮沈がかかってるんだ!」と小隊員、ハラウェイ軍曹とキャリオカ軍曹に活を入れた。
「護衛のジムが湧いて来たっス!」キャリオカが警告する。『ミラー』の護衛戦力は拍子抜けする程の小勢だったが、護衛空母が1隻おり、そこから12機のジムが発進してきたのだった。
「戦おうとするな!目眩ましビーム発射!」小隊は胸に装備された拡散ビーム投射器からまばゆい拡散ビームを放ち、まともにビームを浴びた先頭のジムが棒立ちになる。フーバーはほぼ機械的に突撃銃を連射し、一連射を浴びたそのジムは火を噴き出し流れていった。
「やったっすね!」キャリオカの歓声に「んなことはいい!目標に急ぐぞ!」フーバーは一撃の後、小隊の方向を変えて『ミラー』に急いだ。目標の最も左に位置した鏡のさらに左上の角である。原型のMS-09より強化され『ゲター』の推力まで追加されたMS-09Eの速度にジムはついていけず距離が開いていった。
小隊は遂に鏡に到達した。早速、センサーで端の姿勢制御バーニアをスキャンするフーバー。
「やっぱりな!『ミラー』のバーニア、ありゃバルーンだ。『ミラー、ダミーナリ』」レーザーで暗号電を最大出力で発信するとドム・レコン3機は尻に帆をかけてソロモンへ後退して行った。
====『サンダラー』CIC
「あの頭の膨れたドムはやっぱり偵察機だったねぇ」ワイアット中将は「あ~あ」という顔になりながら「グワランの位置をマクロス級に転送、大戦艦がソロモンに引き返す前に狙撃だ」と指令を発した。旗艦サンダラーのCICは艦隊各艦や遥か後方のマクロス級3隻との通信で騒がしくなる。
==== 『グワラン』艦橋
「やはり鏡はダミーであったか!180度回頭!」艦長をドズルから任されている大佐は大戦艦に回れ右を命じていた。随伴艦(改チベ級3、ムサイ級6)も合わせて回頭を始めている。回頭中に連邦艦隊に襲いかかられると厄介なことになる(特にムサイ級は)が、敵は仕掛けてこなかった。
「ふん!アテが外れたか!」と艦長が毒づいたその時、艦橋にビームの直撃を受け、彼は蒸発した。
大戦艦グワランの艦橋を掠めてそこを蒸発させたビームと同時に2本のビームが飛来し、改チベを1隻、ムサイ2隻を撃沈した。
首脳部を一瞬にして失った大戦艦はそれでも練度の高い乗員達により、ソロモンへ後退することができた。
これを見てワイアット中将は再び「あ~あ」という顔になった。
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「鏡はグワランをおびき出す罠であったとはな…」ドズルは顎をさすりながら煙を吹き出しながらよろよろとソロモンへ後退するグワランを眺めていた。
『アルキメデス』の計略に引っかかった参謀は小さくなっている。「案ずるな。貴様のせいではない。あんな鏡がわいて出ればグワランを出さざるをえん。それより、後退の指揮を取っている者にジオン十字章を。鏡の正体を看破した偵察隊にもだ!」ドズルは部下を慰めつつ、殊勲を上げた者への叙勲を指示した。
「グワランを狙撃した遠距離ビームが直接ソロモンを狙うこともあるのでは…」ともみあげが大佐が危惧を口にする。
「アレが砲艦のものであれば、エネルギーチャージに時間を要するはずだ。あと1時間程度はビームは飛んで来るまい」ドズルは冷静だ。
「正面の無人艦群!阻止できません!!」オペレーターの悲鳴じみた報告に「艦艇は既に退避し、MSは発進しておる!無人艦の10や20でソロモンは落ちんわ!!」ドズルが胴間声で吠える。「総員、衝撃に備えろ!!」体格からは意外な程の大声でラコック大佐が警告を発する。ソロモン内部に連続した衝撃が走った。
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==== 『ルイジアナ』CIC
「『レスボス』ソロモン要塞ベイ・ブロックに命中!」「『スルガ』要塞砲を直撃!要塞砲撃破!」「輸送艦3281、ミサイルコンプックスに命中!誘爆を確認!」
『
「第五艦隊『オハイオ』より入電!『アナグラヨリイデテ、ゼンシンスベシ』」
「不躾な…」顔をしかめる幕僚長を他所に初めて微笑んだレビルは前進を意味する手を前に振る動作で艦隊を進ませた。
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==== ソロモン前方の宙域
「ええい!敵の無人艦、何隻いるのだ!」アナベル・ガトー大尉と第302哨戒中隊はソロモンへ突入をはかる連邦軍の無人艦を迎撃していた。
既にガトーは20を超える無人艦を粉砕している。ビームバズーカの嵩張るEパックは使い切り、ジャイアントバズの弾体も尽きようとしていた。
「突撃銃ではベクトルを変えられても沈めるのは難しい。ここは一旦引きべきか…」補給のためデポに指定されている補給艦への帰投を決めたが、無人艦は未だソロモンへ殺到していた。「おのれ!この屈辱は敵MSに晴らさせてもらう!」要塞戦の本番は敵がMSを繰り出してからになろう。
ヘルベルト・フォン・カスペン大佐は「カスペン戦闘連隊」の移動司令部、改チベ級『アトミラール・シェーア』のCICで迎撃計画を参謀達と練っていた。
「敵無人艦特攻でソロモンの迎撃機構は使い物にならぬ。ソロモン正面は我が連隊とブルースター連隊で支えねばならぬな…」ソロモンの被害は敵無人艦の砲台やランチャーを狙い撃つかの如き特攻で甚大な被害を受けた。開戦直後の質量弾攻撃を受けた時より被害は大きいかもしれない。
(恐るべきは連邦の偵察能力だが、もしや例の新人類を用いたのか…)カスペンの背筋に寒気が走った。「新人類」の能力の前には旧人類の戦術など何ほどがあろうか。結局彼は「考えても詮無きことは考えぬことだな」こう呟き、傍らの参謀から「なにか?」と怪訝な顔で聞き返され「独り言である」と重々しく言うハメになった。
「カスペン連隊長、ヒデト・ワシヤ大尉、出頭いたしました」ピシッと敬礼するブルースター連隊からの使者に「大儀である!早速だが、敵が迫ってる故、打ち合わせに入ろう」エースパイロットの来訪にカスペンはラル大佐が連携を重視していると知りカスペンは張り切っていた。
「ブルースターが鉄床、我らが鉄槌となり、敵MS編隊を殲滅しようと思うが、大尉はいかがか?」カスペンの提案に(結局、美味しいところを持ってく訳かぁ…)とワシヤは内心げんなりするが、顔には出さず「流石はカスペン連隊長、我が連隊にはスキウレ自走メガ粒子砲が1個中隊分あります。デブリ帯の地形を活かせば貴連隊が攻勢に出るまで持ちこたえてみせましょう」と胸を張った。
カスペンは「皆、聞いたか?『旋風』の頼もしき言葉を!ラル大佐はよい部下をお持ちだ」と居並ぶ参謀や将校を前にハイテンションでワシヤを褒め称えるので、あまり自己評価が高くないワシヤは面映ゆい思いだった。カスペン連隊との打ち合わせは連隊長を他所に冷静な参謀達と彼が連れてきたブルースター連隊の参謀が実務面の細かい調整まですり合わせが出来たので(もしかしたら、上手いことソロモン防衛が成るのではないか…)と思うようになった。連隊に帰る際にカスペンより高級な酒を何本か拝領し、機嫌よく帰隊できたワシヤだった。ラル連隊長はカスペンの寄越した酒に「高い酒だな。もっともハモンの店秘蔵のには敵わんがな」と張り合っていたが。
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==== 強襲揚陸艦『ホワイトベース』
「ガキどものいる前じゃ訊かなかったんですがね。例の「
「君達には知ってもらう必要があったな」とチャーリー。「団長は必要であれば、あのガキ達に死ね、と言わにゃならん立場だ、俺なら御免こうむりますが、アンタはそこから逃げてない。大したモンですよ。地球に降りたら俺のマスタングでぶっ飛ばしましょうや。20世紀モノのV8積んでんですよ」スレッガーは己が見込んだ上官をドライブに誘う癖があった。その意味でチャールズ・エルヴィン・ベッカーズという男は彼の眼鏡に叶ったらしい。
「内燃機関車か。そいつはゴキゲンだな。地球に降下したら是非お願いしよう」チャーリーは気を持ち直したのか、普段の笑みをたたえた顔になった。
「え?スレッガー、アンタ内燃機関車持ってんの?スゲーな!」ウィリーは素直に感心している。「カイも内燃機関大好きだからさ、きっと乗りたがるぜ」
「あぁ、アイツは若いのにモノが分かってる。乗せてやるさ。もちろんアンタもな」とスレッガーは内燃機関、ディーゼルエンジンのチューンに一家言あるカイ・シデンも愛車に乗せるとうけおった。
「もしかして、アムロは貴方を通して今の会話聞いてないかしら」心配そうなクレアにレヴァンは「大丈夫です。私とてその程度の社会性はあります」と微笑んだ。
==== 空母『エンタープライズ』格納庫
501MS戦闘団『ホワイト・ディンゴ』総勢54機が整列している。
情報幕僚レオン・リーフェイ大尉の「
レイヤーは通信機のスイッチを入れると「楽にしてくれ。いよいよソロモン攻略だ。我々は連合艦隊旗艦『ルイジアナ』の防衛が主任務だ。いわば盾だが、連邦最高の強度を誇る盾だと自分は考えている。最高の盾で敵の矛を砕きまくってやろう」「そういや『黒い三連星』とやらがまた挑んでくるらしいですな。懲りない奴らだ」マクシミリアン・バーガー大尉の軽口に主に彼らを撃退したJ中隊を中心に笑いが起こる。
「敵は突撃機動軍の助っ人だけじゃないぞ。我々が担当するソロモン正面には歴戦の2個連隊が展開している。宇宙攻撃軍のオールスターが勢ぞろいだ。楽な戦いにならんことだけは保証する」レイヤーは弛緩した空気を再び締めるべく訓示を垂れる。「特に新規加入のU中隊には期待している。頼んだぞ、カジマ」と蒼く塗られたRGM-79DO 『ジム・ドミナンス』の方に自機の首を向けた。ジム・ドミナンスは頷いた動作を見せ、隣の緑のジム・ドミナンスから「ま~た、ユウちゃんたら無愛想なんだから。サムズアップくらいしたらどうなんさ」とフィリップ・ヒューズ中尉の通信が入り、皆を笑わせた。カジマとヒューズ、2人でU中隊の雰囲気を形作っているといってよかった。
「最後に連合艦隊司令長官レビル大将から訓示を頂く。総員傾聴するように」レイヤーが言うとホロプロジェクタが起動し、レビル大将の上半身が現れた。
「501、いや、ホワイト・ディンゴの勇士諸君。サイド2では君達に命を救われた。礼を言おう。また、君達の力が必要とされている。総旗艦ルイジアナは本作戦の総司令部と言っていい。敵は最精鋭をこのルイジアナに当ててくるだろう。健闘、いや必勝を期待する」訓示を締めくくったレビルに居並ぶGM54機が敬礼した。
==== 空母『エンデバー』格納庫
604MS戦闘団『セモベンテ』総勢53機が整列していた。団長ユーグ・クーロ少佐のRGM-79Sから「あ~、そのままでいいんで聞いてくれ。我々604は第五艦隊ひいては連合艦隊の最先鋒を担うこととなった。任務は敵機動兵器の掃討、要するにソロモン宙域に飛んでる敵を見つけて片っ端から落とすのが任務だ。分かりやすいだろう?新米ほやほやの俺のために501のレイヤー少佐が譲ってくれた任務だとツァリアーノ大佐が言ってた」ここで笑いが起きた。クーロの口調から真面目な彼が困った顔をしながら言っているのが容易に想像がついたからだ。元604団長のツァリアーノ大佐のべらんめえ口調も。
「艦隊指令のベーダー提督が是非諸君を激励したいと仰っている。拝聴するように」クーロの話が終わるか終わらない内に顔の傷のある男のホロが現れた。
「今やってる作業を進めながら聞いてくれ。ここは敵のホームスタジアムだからな。様々な罠を用意して諸君を待ち受けているだろう。諸君は経験に裏付けられた知恵と直感、ついでに勇気を発揮して切り抜けてくれ。『死ぬな』と無理を言うつもりはないが、なるべく帰還して戦訓を持ち帰ってくれ。傷痍軍人となってもツァリアーノの様に幕僚となって奉職する道もある」カメラが横に振られるとにやりと笑う隻眼の士官が映った。
「とにかくだ。戦友達の為、ジオン共をなるべく多く撃墜してくれ。俺が言いたいのは以上だ」敬礼するバーダー。
53機のGMが一斉に敬礼した。
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==== ソロモン デブリ帯近くの宙域
割り当てられた哨戒宙域を飛ぶホワイトディンゴJ中隊の前に黒く塗装されたジオンのMA『ビグロ』が現れた。光学センサーはMAの腹にMSが貼り付いている様子を捉えた。
「敵さん、こっちのMSとGWの組み合わせを真似たようだぜ」中隊長テネス・A・ユング大尉の感想に「MSはなんか必死でMAにしがみついてる感じだ。ありゃ、ジョイント部分の強度が足りてねぇな。おそらくは泥縄ででっち上げたシロモノだ」とヤザン・ゲーブル中尉は敵が俄仕込みなのを見切ったようだ。
「とはいえ、こんなとこまでわざわざ来る黒いのといやあ…」とユング機が身構える。ヤザン機を除く中隊が迎撃フォーメーションを組んだ。
「『黒い3連星』本当に懲りねえ奴らだ」ヤザンは乾いた唇を舐めた。
腹にドムを抱えたビグロが距離を詰めてくる。回避するつもりはなさそうだ。
ソロモン攻防戦、2ラウンド目をお送りしました。
今回はソロモン周辺の描写を中心にお送りしました。
冒頭のウクライナでの戦闘は時流にのった感じですが、ブラン・ブルタークが前世でロシア人という設定を活かすなら今だ、とばかりに書き上げました。
そういえば、『ククルス・ドアンの島』が公開になってますね。
無料配信されている冒頭には我が主人公ゴップさんがなんかツボみたいな艦橋のフネに乗って登場しますね。マ・クベとのやりとりは狸と狐の化かし合いといった感じでした。