リストラおじさん、ゴップになる   作:寒原光雪

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ソロモンといえば、のあの機体が登場です。


ビグ・ザム発進

「まずは敵の端っこにいる中隊に仕掛ける。『ブルースター』連隊ここにありってところを見せるぞ!」

ドアン大尉の激に「おう!」と答える中隊員達、女の声が混じっている。

 

「セルマ、すまんが補充兵の面倒を頼む」ドアンはセルマ・リーベンス曹長機に短距離通信を入れた。

「まかせて、ドアン。あの坊やは殺させないからさ。あと、もう一人の補充兵はどうする?」直通通信だからかセルマは大尉に対する口調ではなく男女の仲にある男に話す口調で語りかけた。

「ラシカ伍長はお守りはいらんだろう。あいつ口調はアレだが、MSの操縦は堅実だからな」「了解、ワイズマン伍長をフォローするわ」

 

グリーンに塗装されたMS-06R2『リックザク2』9機はスラスターを全開にし、味方の通信にあった「新型ジム」に接近していく。

ウォルド・レン中尉が先頭の口火を切った。ビームライフルを発砲したのだ。だが、ビームは容易く敵に回避された。

「やっぱ、正面からじゃ避けられちまうなぁ」AIによるライフルの銃口解析はビームの発射前に回避すること可能にしていた。

 

「俺たちが敵を引き付ける。お前の小隊は敵の横っ腹を突け」ドアン中隊長の指示に直ちに編隊から離れるレン小隊。練度の高さを伺わせる。

「ヴァシリー、ついてこい!」ドアンは本部小隊のヴァシリー・ボッシュ伍長を引き連れ、レールガンを持ったカルカ軍曹機は援護する位置についた。

敵の新型ジムは突撃銃を両手に持って弾幕を張るヴァシリー機の攻撃を左腕に装着した盾で防いでいる。弾幕に紛れドアン機が接近、ジャイアントバズを放つ。ジムは頭のバルカンを発射、バズーカの弾体を迎撃する。弾体の爆発炎を貫いてカルカ機が放ったレールガンの銃弾がジムの頭を破壊した。

「一丁上がり!」カルカ軍曹が叫ぶ。ドアンは(3機がかりでやっと中破といったところか…、手が足りなくなりそうだ)と冷静だった。

 

「損傷機はエンデバーに帰還せよ」B中隊長、ブラン・ブルターク大尉は頭部を失ったGMに後退を指示した。

「よく練られたコンビネーションだ。『幽霊』ほどじゃないが、楽な相手じゃないな…」ブランはAIに敵『新型ザク』の想定性能を15%上乗せするよ指示を出した。

「だが、スーパーGMもタダのGMじゃないからな」ブランは自らの機体に鞭をくれて敵の「角付き」に向かっていった。

 

「手強いな…」ドアンは敵の指揮官機らしきジムに苦戦していた。本部小隊の2機も敵に阻まれ、ドアン機を援護できない。

「!!」ドアンの隙を突いて敵が1機、死角へとすべり込んだ。(まずい!)ドアンは必死で回避しようとするが、振り切れない。敵の頭部センサーが不気味に光った、ように見えた。次の瞬間、そのジムは横合いから飛んできたビームに貫かれ火球となった。

 

「危ないとこでしたね」レン中尉から通信が入る。「助かった!援護を頼むぞ!」ドアンの返信に「任せてください」とレン。

新兵器ビームライフルの威力を目の当たりにして敵ジム編隊の動きが変わった。サザンクロス中隊をこの場に拘束するかのような編隊機動を行っている。

(増援を呼んで数ですり潰す気か…)ドアンは内心の焦りをよそにエグバ・アトラー中尉に「敵は増援を頼みにしてるらしい。貴様の小隊で突破口を開けろ」

と命じた。アトラーは「お安い御用です。セルマの小隊を借ります」と返答し、敵編隊に突貫していった。

 

アトラー率いる6機は敵の2個小隊8機を向こうに回して善戦していた。(これならば、ここは突破できるかもしれん…)ドアンがそう思った瞬間、本部のヤッ・デルマ少佐から「撤退せよ」という命令が入った。「なぜだ!?あと一歩だと言うのに!」実兄かつ直属の上巻である大隊長の理不尽な命令に思わず聞き返すドアン。「カシオペア中隊が壊滅した。オリオン中隊も損害を出している。ぼさぼさしてると袋叩きになるぞ」と兄は冷静に戦況を解説し、弟に帰還せよと重ねて命じた。

 

「サザンクロス全機、撤退だ!」ドアンの悔しさを滲ませた命令に「兄上に帰ってこい、と言われましたか」とレン。アトラーは「カシオペアかオリオンがやられた、ってとこですな。足を引っ張りやがって」と吐き捨てた。補充兵のダナン・ラシカ伍長は「あとちょっとで敵の新型を食えたってのに物足りませんねぇ」とオープン回線で広言した。「バカか!敵を挑発すんなよ」小隊長ユン・サンホ曹長が慌ててたしなめた。

引き上げていく『新型ザク』を見送るブラン・ブルタークは「ザクとは思えんような性能だったな。夢のお告げってのは馬鹿にならんもんだ…」と呟いた。

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「苦戦しているようだな」ソロモンに一旦帰還したドアンにラル連隊長が話しかけてきた。

「我が中隊は奮戦いたしましたが、カシオペアが壊滅しオリオンが多大な損害を受けて撤退したのであります」背後から話しかけられ咄嗟に敬礼するドアン。ラルは答礼しながら「『風神』『雷神』も損害が大きい。連隊を再編成しなきゃならんな。正面の敵は新設の艦隊らしいが、司令官が切れ者らしい。MS部隊間の連携が取れている。このままでは磨り潰される…」連隊長ラル大佐は思案顔である。

 

「生憎と自分は戦術は不調法でして…。兄ならお役に立てると思うのですが…」ドアンは少々困り顔だが、ラルは笑って「貴様も大尉なのだから少しは勉強すべきだな。もっとも俺は不調法者は好みだがな」とドアンの肩に手を置いて励ました。

 

(この連隊長の下なら俺も部下も笑って死んでいける)ドアンは敬礼しながら覚悟を新たにした。

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==== 第4艦隊旗艦『ムサシ』CIC

 

「要塞前面の防空コンプレックスに砲撃を集中。MSを揚陸させる」司令官エルラン中将の指示で戦艦群がメガ粒子砲を防空火器群に向けて光の奔流を叩きつける。対空砲とミサイルランチャーはその奔流に焼き払われた。

「司令、例の任務隊から要塞に試射をしたい旨の具申が…」幕僚の耳打ちに「却下だ。ヤツが出てくるまで徹底的に秘匿する」と即座に却下するエルラン。

 

第4艦隊が揚陸を実施する要塞前面は無人艦の体当たり攻撃により、要塞砲や対艦ミサイルランチャーを破壊され、今や対空火器群も沈黙しようとしていた。

 

「敵MS部隊は連携が今ひとつ、というところでしたな」航空幕僚がこの面を担当していたジオンMS部隊を品評する。

事実、基幹と思われる2個連隊を第5艦隊が釣り出すと、残りの部隊は連携が取れず第4艦隊に各個撃破されたのだった。

 

「揚陸艦、ソロモンに着底!」オペレーターの報告にCIC内に歓声が上がる。

「まだ、喜ぶのは早い。ジオンのMSはここからが怖いんだ」エルランはあくまで冷静だった。

 

「足のないペガサス級」のような形の揚陸艦がソロモンに着底すると、前面のハッチから火薬式ライフルとバズーカ、ランチャーを装備した要塞攻略用重装甲GM『GMストライカー』が展開し、要塞内部に橋頭堡を築いた。

時折散発的にザクやドムなかにはグフが襲撃してくるが、火力を集中され沈黙させられた。

中にはGMの持つビームスピアに刺し貫かれたMSもいた。

 

「DEAD!一丁上がり!」「萎えるなぁ」「ア!?」「キミさぁ、敵を殺して『死んだ』とか当たり前じゃん」「これは掛け声みてえなもんで別に敵を殺して喜んでるわけじゃねぇっての!」「あー、そう。じゃ、俺の聞こえるとこではそれ止めてね」

 

指揮型ガンタンクで『マッド・ドッグ』アルカナ中尉と他の部隊のエースとのやり取りを聞いていたサキ・デッサウ少佐が「マッド・ドッグ、マンザイしてる暇があったら周辺警戒だ。貴様の100m先の角にザクと思しき敵がいるぞ」と振動センサーで得た情報をアルカナに伝えた。

マッド・ドッグはその名の通り敵の潜む一角に突撃し、躍り出て来たザクを袈裟斬りにした。「DEAD!!」敵を仕留めさらに大声で叫ぶユージ。

 

『コング』ダグ・キーソン中尉と『エイプ』ジャン・ディベビエ中尉のガンキャノンⅡが両肩の240mm砲を連射し、砲弾の炸裂によってGMに肉薄攻撃をかけようとしていたノーマルスーツのMS猟兵を粉砕した。

従軍僧であるキーソンは敵の戦死者に手を合わせた。

 

『プレジデント』ホーク・ロイザー大尉は通信ケーブル敷設の指揮を取り、工兵から「敷設完了」の報告を受けると即、デッサウ少佐に一報を入れた。

 

「司令、メネシスのデッサウ少佐からです」エルランは要塞最前線にいる指揮官からの通信を受けてやっと少し表情を緩めた。

「通信を確立したか。君を要塞攻略の教導部隊に推薦した甲斐があったというものだ」エルランの称賛にもデッサウ少佐は冷静に「攻撃側は戦場を選べ、戦力を集中できますから。これからが本番です」と答えた。

「君の言うとおりだな。このまま橋頭堡の確保と拡大に専念してくれ」「はっ」

「艦隊全艦に伝達。揚陸艦『サイパン』の着底地点周辺にジオンMSを近づけさせるな」エルランは新たな司令を発した。

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「敵が上陸したか…」ドズル・ザビ中将は苦り切った顔で報告を聞いた。

「カスペン連隊、ブルースター連隊共に敵第5艦隊の攻勢で身動きが取れなくなったところを電撃的に揚陸したようです」ラコック大佐が戦況を解説した。「戦力が足りんな。あんなゲテモノではなく、もう一個大隊でもMSを寄越して貰えれば何とかなったものを…」

ドズルは兄であるギレン総帥の冷淡さを恨みに思うが、表には出さずに「いよいよ大詰めである!各員一層の奮戦を期待する!」と胴間声で兵を励ました。

 

その時、メインスクリーンにドズルの兄、ギレン総帥が現れた。ギレンは「ドズル、苦戦しているようだな」と冷ややかな口調で弟にか語りかける。

「兄貴、いやさ総帥。今更ア・バオア・クーに援軍を求めたりはせんよ。この生命にかえてもソロモンは死守する」とドズルは啖呵を切った。

「お前にここで死なれては俺が困る。総帥からドズル・ザビ中将に命じる。なるべく多くの戦力をもってア・バオア・クーへ転進せよ」

事実上の撤退命令である。「なぜだ!?まだほんの一角に敵が上陸しただけだ!まだソロモンは戦える!」ドズルは反駁するが、ギレンは取り合わず「無理だな。要塞の対艦火力が壊滅した以上、MS部隊がいかに奮戦してもいずれ戦力を磨り潰される。それより、本国から送った新機材で血路を開き、ア・バオア・クーでの決戦に1機でも多くの戦力を温存すべきなのだ」とにべもなかった。

 

「なら、せめて俺が先陣を切って…」「バカを言うものではないな。貴様はソロモンの将兵をア・バオア・クーへ連れて行く、という重大な任務を任せたのだ。真っ先に死んで楽をしようなぞ俺が許さぬ」口調は冷静だが、長年の経験で兄が本気で怒っているのがドズルには分かった。

「総帥直々の命とあれば、従わぬ訳にはいくまい。この上は全力で転進命令を実施するまでだ」

切り替えが早いところも弟の美点のひとつだとギレンは思う。

 

「遺憾ながらソロモンを放棄する!新機材『BZ』を出撃させい!他の予備兵力も全て投入してア・バオア・クーへの血路を開く!」ドズルの胴間声が司令室に響く。ドズルの幕僚達が司令の命令を伝達すべく要塞の四方へと移動を開始した。既に通信が途絶しているブロックが複数あったのである。

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==== ソロモン ブルースター連隊司令部

 

「ア・バオア・クーへの転進とは。いささか見切りが早すぎはせんかな…」ランバ・ラル大佐はドズル中将とは思えぬ諦めの早さに意外さを感じていた。情報将校のタチ中尉が「総帥直々の転進命令とか。総帥府は敵無人艦の突入からソロモンが対艦火力を喪失したと考えているようです。まぁ、ワシヤ少佐のカノジョからの受け売りですがね」と苦笑混じりに撤退命令の内幕を明かす。

「あのお嬢さん総帥府の間者だと思っていたが、ワシヤが手なづけるとはなぁ…」ランバ・ラルは飄々とした将校がMSの操縦以外にも才能を示したのに感心顔だった。

 

「ところで、ハモンから連絡はあったか?」ラルの問いに「はい。首尾は上々とのことです」とタチは即答する。

「さて、我が連隊の行く末を考えねばならんが…」思案顔のラルにタチが声を潜めて「あのヤッ・デルマとかいう少佐は信用できますかな?」と新任の第三大隊長への懸念を示した。

「確かに総司令部なり総帥府なりの意を汲んで我らを監視している可能性はある。ここは俺が顔を突き合わせて説得するしかあるまい」「大丈夫でしょうか…」心配顔のタチにラルは「いざとなれば腰の拳銃にものを言わせるさ」とにやりとした。

 

連隊司令部に呼び出された第三大隊長ヤッ・デルマ少佐は連隊長のただならぬ雰囲気に警戒しつつ「ヤッ・デルマ、出頭いたしました」と申告した。

「ご苦労、撤退準備で忙しいところ悪いな。ま、座れ。実は貴官に相談したい件があってな…」とラル連隊長。

 

「まさか…、そんな事になっていたのですか…」ヤッ・デルマはラルの「相談」の中身に心底驚愕してようだった。「そうだ、貴官はこの場で俺を撃ち殺してもいいし、憲兵隊に報告してもいい。だが、俺は止まらん」とラル。腰に手をやっている。

「分かりました。ですが、連隊まるごと、というのは秘密が漏れる恐れがありましょう。ここは離反しそうな者を私がリストアップしてア・バオア・クーに連れて行きます。くれぐれも弟のことお願いします」頭を下げる少佐に「ドアンのことは任せて貰おう。貧乏くじを引かせてすまんな。総帥府から尋問されたら、俺に騙されたと言ってくれ」とランバ・ラル。

「精々間抜けな将校を演じましょう」とデルマ。「ですが、戦場でまみえたら全力で戦いますよ」「望むところだ」

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==== ソロモン第四MS格納庫

 

「我ら『不死小隊(イモータル・プラトゥーン)』の初陣だ。任務は敵艦隊に突撃し、突破口を開く新型MAの護衛。敵MSをMAへ接近を許さないのが役目だ。諸君の働きでア・バオア・クーへの転進の成否がかかっていると言える。各自奮闘せよ」ダリル・ローレンツ少尉の演説にフィッシャー・ネス、ショーン・ミタデラの両曹長は直立不動でピシっとした敬礼で答えた。

「二人はドムの整備を、俺はMAのレズナー中尉のところに行って打ち合わせをしてくる」

 

「よぉ、ダリル」レズナーのいるMA格納庫に行くと巨大なカニのようなMAが立っていた。「レズナー…大尉になられたんですね」

「そうさ。ま、戦死して昇進する分の前渡しみたいなもんだな。精々この『ビグ・ザム』で暴れてみせるぜ」とレズナー。

「しかし、こんな大きくては艦砲の的になりませんでしょうか…」ダリルの懸念に「こいつはIフィールドっていうバリアがあってな、長距離ビームなんぞ屁でもないのさ」と笑うレズナー。すっかりこの巨大なカニが気に入っているようだ。

 

「後怖いのは敵MSの白兵くらいですね」「そいつはお前らを信用してるからな。あの荷物背負ったドムがこいつを護衛してくれるんだろ?」と言われてはダリルも「勿論です。我が小隊全力をあげてビグ・ザムを敵旗艦まで送り届けましょう」と胸を張った。

 

「その意気だぜ。お前さん、小隊を任されてちょっと変わったな」「そうでしょうか?」「ああ、なんか主体性みたいなもんを感じる。前はあの美人博士のリモコンで動くロボットみたいだったがな」「まぁ、そうだったのは否定しません。部下を持って彼らの命に責任を持つ立場になってそれではいけない気がして…」「結構結構、お前さんも一端の将校になったってことだな。でも、例の博士はロボットが勝手に動いて面白くないんじゃないかね?」「ミッチャム博士は新しいデータが取れると歓迎してるみたいです。根っからの科学者なんですよ」吐き捨てるようなダリルの口調に二人の間にただならぬものを感じたのかレズナーは話を切り上げ手にしたタブレットを示して作戦行動の詳細をダリルと詰めた。

打ち合わせが終わるとケリィ・レズナー大尉は「じゃあ、頼んだぜ!」と言い残しMAのコックピットへ飛んでいった。

 

第四格納庫に戻ったダリルは「発進準備完了!」とメカニックの報告を受けながらドム・イモータルのコックピットに滑り込んだ。

すると構内無線で「ビグ・ザム発進!予備機も出撃準備が整ったものから発進!ビグ・ザムを敵第3艦隊旗艦までエスコートせよ!」MAの発進をソロモン中に放送している。既に連邦軍が上陸しているブロックにも流れているだろう。

 

「ご丁寧に新型MAの目標まで放送するとは…」フィッシャーの呆れた声に「陽動の一種だな。これで敵第3艦隊は旗艦の守りを固めざるを得なくなる。それだけ味方の転進を邪魔する敵は減る訳だ」とダリル。「でも、ビグ・ザムと俺らの方に敵が押し寄せるんじゃ…」ショーンが震え声を出した。「それだけ軍功を挙げる機会が増えたと思え!」フィッシャーが活を入れる。

 

「その意気や良し!!」胴間声がコックピットに響く。ダリルが見下ろすとノーマルスーツを着た巨人が格納庫の床に仁王立ちしていた。「総司令閣下。機上のご無礼をお許しください」ドム・イモータルからの通信にドズル・ザビ中将は「よいよい。貴様らの激励に来たのだ。俺の秘蔵っ子達よ、ビグ・ザムの援護を頼んだぞ!」と3機の不死のドムに語りかけるドズル。3機は総司令に敬礼をして発進ハッチに歩いて行った。

「生きて帰ってくるのだぞ…」ドズルは生還が困難な任務に向かう3人を心の中で激励した。

 

「閣下!『グワラン』発進準備が完了いたしました」ラコックがドズルに旗艦の発進が可能になったと報告した。

「しかし、艦橋はまだ仮設です。閣下が座乗されるには…」ラコックの懸念に「くどい!その話は既に決着したであろう。グワジン級をア・バオア・クーまで持っていくのも俺に課せられた任務のひとつだ」とドズル。

「そこまで仰るのであればもう申しません。しかし、自分もグワランに乗艦いたします」「貴様には艦隊のひとつも任せるつもりだったが…」「いいえ、自分は閣下の副官のつもりであります。最後までお供します」こうなったラコックはテコでも動かないのをドズルも承知していたので「勝手にせい!」と言うとドズル・ザビ中将は艦艇ドッグの方へ飛んでいった。

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「さて、護衛はついてきてるか?」ケリィの問いにクルトは「新兵が多くて編隊を組むのもままならないようです。実質護衛はあのドム3機だけでしょうな」と苦り切った口調で報告する。総予備の筈の護衛機の実態は前線に出せない未熟練者の集団であった。事実、ザクを中心としたした護衛機の集団は崩れた編隊で必死についてきてるようだった。

 

「例のドム3機はぴったり本機の死角に位置取ってます。ダリル少尉はもちろん二人の曹長も中々の腕ですな」ボブが「不死小隊」の技量に感心している。「それじゃ、敵艦隊に突貫するとするか。Iフィールドの出力はいけるな?」「出力安定。少々のビームなんぞ跳ね返しますぜ」クルトが今度は弾んだ口調で報告する。「結構。主砲はどうだ?」砲撃手のボブは「主砲、全方位ビーム砲共にオール・グリーン。試射しますか?」「止めとく。ただでさえ短いコイツの稼働時間を削ることはない」「そうですなぁ」

 

ビグ・ザム最大の弱点、ビームに高い耐性を持つIフィールドバリアと大口径メガ粒子砲をドライブする大出力のジェネレーター、その反動ともいえる膨大な排熱を処理しきれず稼働時間に15分というリミットがあるのである。これが事実上の特攻作戦である所以だった。

 

操縦する3人も生還は考えいていない。既に戦死の前渡しで昇進していた。戦死すれば遺族に年金が入るだろう。別れた妻子のいるボブと老母を抱えたクルトには有り難い。ケリィも国に肉親はいなかったが、馴染みの娼婦と籍を入れて年金の受取人にしていた。それをいかがなものか、と言うガトーに「俺が死ぬのを願ってる女がいるってのは生きる張り合いになるってもんだ」と澄ました顔で言う。そういう男であった。

 

「敵が来ましたぜ。ざっと一個中隊、15,6ってとこですか」長距離センサーを見ていたクルトの報告にボブが「主砲を拡散モードで撃てば一掃できます」と具申する。「やれ!」ケリィーの合図と共に前面の主砲から拡散メガ粒子が放たれ、前方のジム編隊に投網をかけるように光の奔流がなだれ込んだ。10機程度が光の奔流に消え、残ったジムも機体から煙を発して後退していった。

「ヒュー!」クルトが口笛を吹く。「コンデンサ、正常に稼働中。いけます」ボブの報告の声も明るい。

 

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「ええい!口惜しい!戦友が死を賭して敵艦隊に特攻をかけようというのに自分はおめおめ撤退とは!」アナベル・ガトー大尉の嘆きに隻腕の連隊長が「ガトーよ。ドズル閣下は貴様の腕を見込んで旗艦グワランの護衛の任を与えたのだ。軍人たるもの任務を選り好みするものではない」と彼を叱責した。

 

「申し訳ありません。ですが、自分は無念なのであります。我が中隊が護衛すればケリィ達の生還率も多少なりとも上がるのではないかと」「貴様の気持ちも分かる。だが、ビグ・ザムの護衛には『不死小隊』がついている。ローレンツの腕前は貴様もよく存じておろう。ドズル閣下はいたずらに部下に死を強いる方ではない。事実、操縦する3名には脱出ないし、投降することすら許可されたのだ」と今度は諭すような口調のカスペン大佐。

 

「そうでしたな。シャア中佐相手にあそこまで戦えたローレンツであればレズナー達も心強いでしょう」

「そうだ。戦争とは1人の勇士がいれば勝てるものではないが、時代はMSだ。突出した技量の持ち主が戦局を動かすことはあり得るのだ」とカスペン。『キマイラ戦闘団』の乾坤一擲の策が敵の1機のMSによって頓挫したことは彼も知っていた。その直後に敵の攻勢が激しくなり、ジオンはソロモンを失おうとしている。

 

カスペンはガトーに似たようなことをやれ、と言っているのである。

「連隊長のおっしゃる通りです。第302哨戒中隊はグワランの護衛に全力を尽くします!」ガトーはピシッとした敬礼を決めて愛機に飛んでいった。

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== 機動巡洋艦『キマイラ』

 

「黒い三連星が全滅…。たった1機のMS相手にか?」帰還したチェスター大尉は母艦『マダガスカル』には戻らず戦闘団の旗艦キマイラに出頭していた。その報告を受け、参謀長ケルビン大佐は愕然としていた。チェスターのによれば敵MSの搭乗員はニュータイプの可能性が高いらしい。「戦術をひっくり返す個の力とはな。どうやら従来の軍事常識が通用しない中世に戻ったような戦を我々はしている、ということか…」ケルビンは未だ口の中にぶつぶつ言っていた。考え事をしている時のこの男の癖であった。

 

「グラナダへ帰還すべきでしょう。不幸中の幸いというか我がMS隊は未だ過半の兵力が無事ですが、まごまごしていていたら敵中に孤立しかねない」MS隊指揮官ガーフィールド少佐は撤退を主張する。帰還していたライデン大尉も「少佐に賛成します。上手いこと敵艦隊の間隙をつけばろくな戦闘も無しに月に帰れますよ」と賛同している。

 

戦闘団の指揮官シュレッサー少将の「帰れるうちに帰ろう」との一言で『キマイラ戦闘団』のグラナダ帰還が決定した。

機動巡とブースター付き軽巡からなる艦隊はソロモン宇宙攻撃軍司令部に無断で戦線を離脱しようとしていた。

帰還できずにア・バオア・クーにつれていかれては堪らないからである。

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== ソロモン 教導団『メネシス』

 

「『チャンプ』が出撃させろ、だと?」移動司令部であるガンタンクの指揮所でデッサウ少佐はオペレーターに聞き返した。

ユージ・アルカナ中尉と並んで部隊の問題児、というより腫れ物の『チャンプ』ことブライアン・ホーク中尉が出撃させろ、と言ってきたのだそうだ。

 

「よお、少佐。俺を発進させな。なんなら揚陸艦のハッチを蹴破って外に出たっていいんだぜ」ホークの声が指揮所に響く。

「仕方ないか…。ホーク中尉、出撃を許可する。ただし、現場の指揮官ロイザー大尉の指示を仰ぐこと。我々は軍隊でゴロツキとは違うのだからな。軍規こそが我々とゴロツキを分かつものなのだ」とデッサウ少佐。「HaHaHa、俺もストリートで暴れてたチンピラのつもりじゃないぜ。インテリのアンタに言われんでも軍を志願した時からそのことは承知してる。ただし、『プレジデント』が俺の戦死怖さに前に出さなかったらその限りじゃないがね」と元地球圏ジュニアミドル級統一チャンピオンは言い放った。

そして、殆ど飛び出す勢いで専用機RX-79BHで出撃した。

(やれやれ、政府筋もとんでもない厄介者を押し付けてくれたものだ…)デッサウはメガネを外し目頭を揉んだ。

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== ソロモン総司令部

 

撤退の準備に大わらわの総司令部にランバ・ラル大佐はドズル中将を訪ねていた。

「なに!?貴様の連隊が殿を務めるのか?」ドズルは主力であるブルースター連隊が殿を、というランバ・ラルの申し出に困惑していた。「貴様にはカスペンと連携して立ちふさがる敵を排除して欲しかったのだが」

 

「要塞正面に陣取る敵戦力に対応せねば我が軍は挟み撃ちになりましょう。この上は我が連隊主力でソロモンに籠城し、敵戦力の足止めをしようと思います。ご認可を賜りたく」とラル。「捨て駒にするには余りに惜しい戦力なのだが…」気が進まないドズルに「何も全員で籠城する訳ではありませんぞ。選抜した精鋭をア・バオア・クーに送るつもりです。おそらく一個大隊程度を抽出できるでしょう。ヤッ・デルマ少佐に指揮を取らせます」とラル。

 

「籠城中に閣下が首尾よくア・バオア・クーの戦力と邂逅できればソロモン奪回の目処も立ちましょう。我らはそれまで動力炉に爆弾を仕掛け不退転の覚悟で望みます。動力炉が吹き飛べば上陸した敵MSや陸戦隊は大損害をこうむるでしょう。それが怖くて敵は力攻めはしてこないはずです」とラル。

この男にしては多弁なことにドズルには引っかかったが、撤退の準備に忙殺されていている最中なので結局ラルに殿を任せることにした。

 

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「どうでした?」ヴィッシュ・ドナヒュー少佐の問にラルは「殿を任された。俺が動力炉を人質に籠城すると言ったら、目を白黒させてぞ」と不敵に笑った。「実は連隊長に客人なんですが、それが隊員の保護者と名乗ってまして…」とドナヒューは少し困り顔で言った。

 

「大佐、自分は総督府のモニク・キャデラック特務大尉であります」と折り目正しい敬礼をして総統親衛隊の軍服を着た女将校がドナヒューを押しのける勢いでラルに話しかけてきた。

ラルは一瞬(総統府に嗅ぎ付けられたか)と冷や汗を流したが、キャデラックは「話は自分の弟、エルヴィン・キャデラック准尉についてです。かの者は我がキャデラック家の嫡男、生還の見込みがない任務に就かせる訳にはいきません!どうしてもと仰るなら自分が弟の代わりにMSに乗りましょう」と食って掛かる勢いであった。

 

「そこまで申されるなら、エルヴィン・キャデラック准尉は今回の作戦から外しましょう。しかし、困ったことになった。既にヤッ・デルマ少佐が指揮する部隊はソロモンを離れていましてな…」困り顔のラルにモニクは「それなら、心配ご無用です。シャア中佐の『ファルメル』に便乗する手配を済ませていますので」と胸を張っている。(結局自分も逃げるんじゃないか)とラルは呆れ顔だが、親衛隊の女将校はそのまま連れてこられた弟の腕を取って連行しようとしている。

 

「れんたいちょ~」エルヴィン・キャデラックは捨てられた子犬のような顔でラルに「ここに置いてくれ」と潤んだ目で訴えたが、「キャデラック准尉、貴君はまだ若い。あたら命を散らすものではない」と諭され、しゅんとなって姉に連れて行かれた。

「いや、あの特務大尉が現れた時はひやひやしました」とドナヒュー。「あんなナチの尻尾が嗅ぎ付けてたら事故にあってもらえばいいのよ」ドナヒュー夫人、マヤ・コイズミが得意の毒舌をはいた。彼女は連邦のソロモンに来襲する一週間前にブルースター連隊の参謀として本国から呼び寄せられていた。

 

「ビッシュよ、お前の細君はお前より度胸あるな」となかば冷やかすような口調のラルにも「ミス・ハモンをいつまでミスのままにしとくんです?長過ぎる春にも程ってもんがありますよ」と彼女の舌鋒が向けられ彼を閉口させた。

「まぁ、まぁ。ところでマヤさん、ご実家の方は大丈夫ですか?」と話題を変えたワシヤに「私って実家からなかば勘当状態だから大丈夫なの。それに主計科将校は絶対必要でしょ?」と澄ました顔である。

 

「各部隊の配置完了。総司令部の回線を使わせて貰ったお陰で思ったより早く済みましたね」

ワシヤの副官格に収まったフローベル少尉の報告にラルは「うむ。思ったより早かったな。後は撤退出来なかった部隊と連絡をつける必要があるが…」とまた思案顔になった。

 

「それについては自分に任せてください」ワシヤがいつもの飄々とした調子で請け負った。「お前の交渉力を侮る気はないが、敵中に孤立している各部隊にたどり着くのも骨だぞ。その上で気の立ってる連中の説得までするのは」ラルの心配顔に、「いやぁ、これなるフローベル嬢にザビ家専用通路の位置を探らせてましてね。元々はここに総司令の家族を呼び寄せる予定だったそうで、いざという時の避難路を用意してたようですね」と種明かしをした。

「では、機会を待つとするか。連隊各隊に通達。現地点で待機せよ」ランバ・ラル大佐が指令を発した。

 

「兄上と別れを言わなくてよかったんですか?」ウォルド・レン中尉の言に「お互い子供じゃない。それにお互い湿っぽいが苦手でな」とククルス・ドアンは苦笑いしながら答えた。「しかし、アトラー中尉がア・バオア・クーに行ったのは痛かったですな。少佐たっての希望とはいえ」「兄貴も向こうで大隊を再編成しなきゃならん。基幹隊員は必要だからな。エクバも自分の中隊を持ってもよさそうな頃合いだ。俺は良かったと思ってるよ」とドアン。

補充兵のバーナード・ワイズマン伍長は「俺もダナンみたいにア・バオア・クー行きを志願すれば良かったなぁ…」とボヤいている。

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==重巡『ファルメル」

「さて、政治将校殿、本当にア・バオア・クーで下船してくれるのかね?」シャア中佐が皮肉を含んだ質問を発すると政治将校、モニクキャデラック特務大尉は「ええ。ファルメル戦隊の監査は小官の任務ではありませんので。あくまで便乗者としてお扱いください。ただ、これなるエルヴィン・キャデラック准尉をア・バオア・クーまで中佐の幕下に置いてください。弟に中佐のお手並みを学ばせたいのです」と弟を紹介した。エルヴィン少年は祖国の英雄と相見え感激の面持ちである。

 

「エルヴィン准尉、君のスコアはいかほどかな?」との問に「モビルポッドが5機、ジムが3機であります!」と踵を打ち鳴らし直立不動の姿勢で答えた。「ほぅ、エースという訳か。では、ブラウンの小隊に組み込むとしよう。問題ないな、ブラウン」「ええ、勿論であります。よろしくキャデラック准尉」握手を求めてきたフレデリック・ブラウン准尉の手を両手で握るエルヴィン。二人の英雄に見えた僥倖に先程までふくれ面をしていたことも忘れ、姉に感謝していた。

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==ソロモン裏面

 

「敵がこいつを避けてるのか、全然出てきませんよ。不死小隊に斥候に行かせますか?」センサーの画面を見ているクルトが不審げに敵がビグ・ザムの前方から消えたのを不審がっている。

「まさか、この機体の性能が連邦に漏れているのでしょうか?」とボブが不安げなのをよそにレズナー大尉は「こいつにMSのビームライフルが通用しないのが知られたとしても関係ないな。俺たちは敵第三艦隊旗艦『サンダー』だかいうフネめがけて突進するだけさ」と彼らしい楽観主義で答えた。

 

その時、近くを飛んでいたダリルのドム・イモータルから通信が入る。「敵MS2個中隊と思しき敵がビグ・ザムの後方から接近しています」と。「すまんがダリル、いっちょ片付けてくれるか?ビームは効かんとしてもバズーカをケツに食らうとな」レズナーの要請に「了解しました」と答え、ビグ・ザムの後方から敵めがけ3機のドムが飛んでいった。

 

「2個中隊といや20と少しでしょう。3機のドムで排除できるでしょうか?」ボブの不安に「まぁ、大丈夫だろうが、万が一ってこともある。今のうちにCIWSの試射を済ませておけ」とレズナーは命じた。

このMAは近接防空用にザクの重ガトリングを流用したCIWS(近接防空システム)下面に4基、上面に3基備えている。

「さーて、敵さんがコイツのことを知ってたとして、どんな手を打ってくるかな」レズナーは独りごちた。

 

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ビグ・ザムが敵第三艦隊と接敵しようかという頃、ブルースター連隊の幹部たちは指令所にいた。

「予定ならそろそろの筈だが…」ラルが腕時計を確かめていると前方の敵艦隊から大出力の電波およびレーザー通信がソロモンに向け発信された。

「始まったか」ラルがつぶやくと画面上に金髪の少女が現れた。

 

「私の名はアルテイシア・ソム・ダイクン」少女は名乗った。

 




49話をおおくりしました。今までにないほど難産な回になりました。

これも「タクティクス・オウガ リボーン」が悪いんや。「死者の宮殿」が姉ちゃんのスターライトで一発クリア
できなくなったえらく時間がかかりました。あと、レベルキャップとアイテムの弱体化はなんとかいして欲しいものです。

今回は殆どジオン側の描写で終わりました。
ソロモンと言えばのビグ・ザムは出撃し、ダリルと不死小隊が初陣を飾ることになりました。
次回で大活躍する予定です。

数少ない連邦側のメネシスですが、原作のキャラに加えて劇中でコルテスと呼ばれたキャラの元ネタ
ブライアン・ホークを登場させました。声がガトーと被りますね。

さて、最後に現れたアルテイシア・ダイクンは何を語るでしょうか?
次回は今回より早く投下したいと思っています。
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