リストラおじさん、ゴップになる   作:寒原光雪

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ゴップの得意分野、交渉と根回しがメインです。
ボブ・ゴップの家族も登場します。


多数派工作は大事

私はランチミーティングから戻ると早速内線でステファン・ヘボン大佐に連絡を取った

「あ、ヘボン君、 今こっちにこれるかな?折り入って話したいことがあるんだけど」

 

ヘボン大佐は私が率いていた連邦軍の兵站・システム構築を一手に担う資材司令部の上級将校だ。

こと、兵站に関しては仕事のできる男で0083でソロモン(コンペイトウ)の司令官をしていた

が、彼が司令だった頃は物資の欠乏に悩まされたことはなかっただろう。

もっとも、肝心な所で推進材が足りなくなるんだけど。

 

彼は本部付きの幕僚で司令の大将と副司令の中将に兵器の調達に関して提案を行うのが職分だ。

つまり、私が名付け親のBM-01バムを量産するにはまず彼を説得しなくてばならない。

「ギレンの野望」ではゲーム故の抽象化やプレイアビリティのためプレイヤーが命令すれば

即MSの量産に入れるが、宇宙世紀の社会で一、二を争う規模の官僚組織である地球連邦軍では

統合参謀本部議長のゴップといえど、ヒト、モノ、カネを動かすには手続きと事前の根回しが

いる訳だ。

 

なんかせわしないノックと共にヘボンが汗をかきながら部屋に入ってきた。

「ステファン・ヘボン大佐出頭いたしました」内線ではほんの世間話をしよう、くらいの

テンションで話したのに、かなり緊張している。厄介事を押し付けられる、そんな予感でも

してたのだろうか。

 

「閣下がご自分で直接私をお呼びになる時は何か重要な案件を相談される時ですので…」

あ、直接内線しちゃうとマズかったかな。でも、R作戦は大変重要な案件だしね、55億人の命が

かかってるんだから。

 

私は努めて穏やかな口調で「ジオンのモビルスーツ、君はアレどう思う?」と切り出した。

ヘボンは汗を袖で拭いながら「はぁ、あの人型ロボットは衛星要塞向けの建設機械だと

考えます。たしか電力は外部から供給されていると記憶していますが…」

うん、それはモビルワーカーだね、なら建設重機だと思ってもしょうがない。

 

私は口角をちょっと上げて(本人は微笑んでるつもりだ)デスクのディスプレイをヘボンの方に

向けると動画を流し始めた。アダムズがくれたBM-01のプレゼン、そのダイジェスト版だ。

 

「こ、これは…?」ヘボンは宇宙空間を自由に飛行し、巨大なアサルトライフルを発砲する動画に

肝をつぶしたらしい。エルラン少将が中心となって人型兵器を開発しているのは知ってたんだろう

が、ここまで形になってるとは思わなかったんだろう。

 

「一応お聞きいたしますが、これはCGによるフェイクではありませんよね?」

「ああ、現実にBM-01バムは試作機が存在している。あとはこれを生産ラインに乗せ、搭乗員

や整備員を養成し、戦力化するだけで我々もモビルスーツを実戦に投入できる」一番手間のかかる

段階なのだが、そこはヘボン君達資材司令部と人事局、前線部隊に頑張って貰おう。

 

「あ、ちなみに『バム』というペットネームは私の命名だよ」このプロジェクトが私の肝いり

なのを強調する。ヘボンは額から汗(冷や汗だろうか)を流しながら、

「関係各所と揉んで司令部に提案書を提出することになるでしょう…」派閥の親分が持ってきた

胡乱な話をヘボンは反論もせずに別部署の派閥メンバーと一緒に実現に向けて動いてくれると

言う、ありがたいことだ。

あ、そうだ、アレを見せよう。私はヘボンにビームライフルの試験動画を見せた。

 

ヘボンは超小型のメガ粒子砲に興味津々といった表情だ。

「このビーム兵器をさっきのバムでしたか、が運用できるのであれば…」「そう、ジオンの

巡洋艦をパイロット一人で撃破するのも可能だろうね」まぁ、バムはまだコレ撃てないんだけど。

 

するとヘボンはうまい話過ぎると思ったのか警戒する表情を浮かべ

「開発の進捗はいかがなのでしょうか?」と尋ねてきた。「メガ粒子コンデンサーの開発に

苦労したそうだが、来年早々に実用化できるそうだ」

佐藤さん(エルラン)は春って言ってたけど予算と物資が注入されれば一ヶ月くらいは短縮できるでしょ?。

 

ヘボンは警戒を緩めると「このビーム兵器、ビームライフルでしたか、に予算を傾斜配分する

必要があると考えます。モビルスーツ開発に異議を唱える向きも突撃挺や攻撃機に搭載できる

メガ粒子砲の開発でしたら同意されるでしょう」

 

「そうだね、これは旧世紀の魚雷や対艦ミサイルのようなゲームチェンジャーになる代物だよ」

GW-01ワルキューレの動画は後日見せることにした、MS量産プロジェクトが動き始める前に

見せるとMSそっちのけでMA量産に注力しそうだし。

 

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翌日、私のオフィスに若い将校がやってきた。「ガンダム・センチュリー」の連絡員として

派遣されてきた男だ。表向きは副官を一人追加することになっている、

 

「コニチワー、ワタシ リー・ホワン イイマス。シャア ト イッショニ ジャブロー オリテ、

ゲキツイサレタ ジオンヘイ オナジナマエネ」いきなり片言の日本語で話しかけてきた

アジア系の将校。

 

私が目をまんまるくしてると、今度は流暢な日本語で「失礼しました。転生者の方と初めて

会う時はこのネタをやるんです。自分はリー・ホワン大尉であります。

リーがファミリーネームです。メッセンジャー・ボーイでも何でも存分にお使いください。

あ、ちなみに前世は台湾人です。日本語はガンダムシリーズで憶えました」

 

昨日一日で感じたことだが、宇宙世紀では日本語話者はだいぶマイノリティなようだ。

私を勧誘したマエバラ君も日本生まれだが、私とは公用語で話している。さっきの微妙な

ギャグが私が宇宙世紀で聞いたはじめての日本語という訳だ。

 

リー大尉はさらに日本語で「閣下には本日午後お時間を頂きたいのです。マエバラ少佐に

閣下のスケジュールは確認しておりますので」と続けた。

ん?誰か高官とミーティングでもするのだろうか。

「実は地球軌道艦隊のコーウェン少将を通じてレビル将軍とティアンム提督にR作戦への協力を

打診していたのですが、話がまとまりそうですので我々のリーダーであるゴップ閣下に御出座

願いたいのであります」

 

レビルとティアンム!連邦の双璧といえる将星だ。二人を一年戦争で失った連邦軍の迷走ぶりは

後のシリーズで嫌というほど描かれている。しかし、第一艦隊司令のレビル将軍と麾下の戦隊司令

ティアンム提督を一緒に口説くというのは何故だろう?

佐藤さん(エルラン)が手間を惜しんだ、ということはなさそうだが…

 

リーは私の表情でなにか察したのか「実は最初はレビル将軍お一人に話をもちかけたのですが、

将軍からティアンム少将の同席を求められたのです」そういえばレビル将軍は元空軍の戦闘機

パイロット、ティアンム提督は元海軍の艦載機パイロット上がりだ。艦載機を主力に据える、

という話に元空母乗りの知見を生かしたい、というところだろうか。

 

「二人に会うのはいいのだけれど、エルラン中将はどう話を持っていくつもりなのかね?」

私は顔見せるだけでいいんだろうけど、佐藤さんはどんなロジックで二人を説得するのだろうか?

すると、リーは自分の携帯端末から私のPCにいくつかのファイルを送ってきた。

将官の端末に直接ファイル送れるとかかなりのセキュリティ権限を持たされてるらしい。

 

「この光景をお二人にはご覧いただきます」と動画を再生した。

それは「THE ORIGIN」で描かれた一週間戦争とルウム戦役の再現だった。ミノフスキー粒子で

データリンクが不能となった連邦艦隊をザクが核兵器で次々撃沈していく。コロニーにザクが

化学兵器を注入し、軌道を離れたコロニーが地球目指して移動を始め都市に落着するところで

動画は終わった。

 

「… 確かにショッキングな内容だが、宇宙世紀の住人には突拍子なさ過ぎて信じて

もらえないのじゃないだろうか?」

私が最初途方に暮れたのもジオンの蛮行を予言しても誰も信じてくれないだろうと思ったからだ。

 

するとリーは真剣な顔になり「事前に我々の同志がジオンのMS開発状況と核弾頭の保有数につ

いてお二人に説明しております。また、コロニーを核パルスエンジンで動かすシミュレーションも

披露いたしました」と私に送ったプレゼンファイルを使って説明してくれた。

 

「うん、ならば仮にコロニー落としは信じてもらえなくてもコロニーをジオン艦艇が

直接砲撃したり、MSがNBC兵器をコロニーに使用する可能性については憂慮してくれる

だろう…」彼らは宇宙で引き起こされる億を越える大虐殺を容認すまい。

「何かいけそうな気がしてきたよ。それで、私は重々しい顔して時々頷いてればいいんだよね?」

 

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今は平時なので演習でも無ければ正規艦隊の司令部もジャブローに置かれている。

ヨハン・イブラヒム・レビルとマクファティ・ティアンム、二人の将星はお世辞にもにこやかとは

言えない面持ちで私と佐藤さん(エルラン)を司令官オフィスで迎えてくれた。

そりゃあ、連邦艦隊がズタボロに負けて市民が大虐殺されるって不吉な予言をしにきたんだから

笑って迎える訳がない。

ついでにこの件に関わっていないと思ってた上官(大将)の私がついてきたのだから。

 

席につくと佐藤さん(エルラン)が本題を切り出した。

オフィスの天井からホロプロジェクターが下りてくる。

「これまで我々は有事に際して連邦艦隊が敗北する可能性についてご説明してきましたが…」

ザクの核バズーカでへし折れるマゼランやサラミスの動画が流れる。二人は既に見ていたようで

表情は変えていない。

 

「次にご覧いただくのは艦隊の敗北で何が引き起こされるか、というシミュレーションです」

そして、ジオンのコロニー潰しのホロ動画が室内に投影される。レビルとティアンムは身じろぎも

せずにその情景を見つめていた。

場面が変わりコロニーが核パルスエンジンで移動を始め大気圏に突入、燃え尽きることなく形を

保ったまま都市に落着したシーンには流石にショックを受けたようだ。

「地球の被害はコロニーが引き起こす衝撃波と地震、津波に留まりません。舞い散った粉塵により

地球環境は寒冷化し、飢餓と疫病でさらに犠牲者が出るでしょう。我々の試算では、最低でも

50億を越える人命が喪われます」

感情が全く感じられない口調で不吉極まる予言をするエルラン。

ティアンムはホロ動画を食い入るように見つめながら「若い頃の災害派遣で大規模災害の被災地

では容易く人が死ぬのを見てきました…」と呟く。

レビルはむうぅ、と唸ると「貴官らにはこの悲劇を回避する手立てがあるということだね?」と

尋ねた。するとエルランは「はい、我々のプロジェクト実現の暁には連邦艦隊は敗北を、市民は

大虐殺を免れることでしょう」とここでは感情を込めて答えた。

 

するとホロ動画が切り替わり、セイバーフィシュがまさに鎧袖一触で爆発するのを他所に

ザクマシンガンの連射をくらったBM-01が何事もなかったように反撃し、ザクを火球に

変える情景が投影される。

シーンが変わり今度はBM-01を引き連れたGW-01がジオン艦隊に襲いかかる。

ビームが走りムサイが、チベが、公国章が描かれたグワジン級が大爆発を起こす。

 

するとレビルが「グレート・デギンを沈めてしまったら公王が降伏文書に署名できなくなるな」

と苦笑いしながら言った。

ティアンムは「さきほどの機動兵器、航続距離はいかほどなのでしょうか?現用機のそれに

倍する航続距離が無ければあのような襲撃は不可能と思いますが」と、生真面目に質問した。

 

するとエルランはやっと表情を少し和らげて「さきほどご覧いただいたモビルスーツと攻撃機は

いずれもミノフスキー・イヨネスコ反応炉を搭載しています。その有り余る程の熱量を利用した

熱核ロケット航宙機なのです。化学燃料ロケットを使用する現用機とは比較になりません」

 

ティアンムは「熱核ロケット…」と呟きながら納得したように頷いた。

「それで、私達に何をしろ、というのかね?」とレビルが尋ねる。

エルランは「まず、第一艦隊にこれら新兵器を配備するよう統合参謀本部に具申して

いただきたいのです」現在のR作戦は情報部の少将が提唱した実験プロジェクト扱いだが、

正規艦隊、しかも表看板たる第一艦隊司令部からのリクエストとなれば参謀本部も真剣に

取り組んでくれるだろう。

 

「次に艦載機搭乗員に我々が用意した操縦適性試験を受けさせ合格者に機種転換を命じて

いただきたい。教官パイロット育成のため教導団を編成する際には人員の派遣も併せて

お願いします」

するとレビルが片目をつぶり冗談めかした口調で「ここにいささか年をとってるが腕利き

パイロットが二人いる。教導団に誘ってくれんかね?」と言うと、ティアンムが(え、私も!?)

みたいな顔でレビルを見た。

レビル将軍がパイロット徽章のために年数十時間ジャブロー上空と宇宙(そら)を飛んでいる

のは有名な話だ。ティアンム提督は既に返上したらしいが。

 

「冗談はさておき、ウチの艦戦と艦攻のパイロットは全員適性試験を受けさせよう。

ルナツーの基地司令部には私から話を通しておく」そういえばルナツーの基地司令、

ワッケインではない別人、はレビル派だった。

駐留艦隊のワイアットはこっちが口説け、ということだろう。

 

ここで佐藤さんがこちらをちらっと見たので、私は口角を上げて

(あくまで本人は微笑んでるつもりだ)

「第一艦隊が我々の同志になっていただけるのは本当にありがたい。今日は世界の命運が

変わる日となるだろうね」と右手を差し出しながら言った。

レビルは力強く私の手を握って「閣下に後方を守っていただけるなら第一艦隊はご期待に沿うべく

全力を尽くします」と(アンタがどれだけ予算と物資を寄越すかにかかってるぞ)といいたげに眼光

鋭く語った。痛っ、レビル将軍の握力すごい。きっとパイロット徽章保持のため筋トレに励んでる

だろう。腹筋バキバキなのかな。

 

------ゴップとエルランが司令官オフィスを退出した後レビルは

「またパイロットの時代になりそうだな、マック」と悪戯でも持ちかけるようにティアンムに

語りかけた。

「ええ、砲術士官がでかい顔で艦内をのし歩く時代は終わりますね」とまんざらでも

なさそうな顔で答えるティアンム。

「そういや、私のF-51と君のF-54でのDACT(異機種間空戦訓練)は私の7勝3敗だったかな?」

とレビルが軽口で返すと

「いえ、私の6勝4敗のはずですが」とティアンムが苦笑しながら答える。

二人の間で何度も繰り返されたやりとりなのだろう。

 

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私はオフィスに帰る途中ちょっとした疑問を佐藤さんに投げかけた。

「今、気がついたんだけど、動画で暴れてたの、アレMS-06サクⅡでしたね?

まだ実機がないはずの機体を何で知ってるんだ?と後で不審に思われないでしょうかねぇ…」

未来知識を不審に思われて失敗するのはループものでありそうな展開だし。

「実はジオニック社内の同志からMS-06の要求仕様だけは掴んでいるのです。

それにあの動画は単に原作の場面をただCG化したのではなく数百回のシミュレーションの

結果なのですよ」と佐藤さんは胸を張って答えた。

 

 

オフィスに戻り自分のデスクの座るとリー大尉がコーヒーを持ってきて

「明日の1300 ワイアット中将とアポが取れました。こちらにいらっしゃるそうです」

と告げた。リー君仕事早いなぁ。午後一というのもガンダム・センチュリーの幕僚から

ブリーフィングを受ける時間があるから有り難い。

私はコーヒーを飲みながら「そうだ、リー君高い紅茶用意してくれんかね。私は全然詳しく

ないから銘柄とか任せるよ」と頼んだ。グリーン・ワイアットといえば紅茶だよねぇ。

 

リー君に何杯かコーヒーをおかわりしつつ書類を片付け、この日は定時に上がった。

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「おかえりなさいボブ(ロバートの愛称)」と官舎(地下要塞なのに贅沢にも一軒家だ)に帰ると

妻のキャサリン キャシーがにこやかに迎えてくれた。体形の方もカエルみたいな(ゴップ)と違って

すらりとした体形の上品な女性だ。

新婚当時は「美女と野獣」とよく言われたものだ。パーティで妻を紹介したら上官から

「お嬢さん、君の王子様はいつカエルから王子に戻るんだね?」と嫌味を言われたことがある。

当時はだいぶ痩せてたのでガマガエルではなくアマガエルくらいだったけど。

妻は微笑みながら「ボブは出会った時から王子様でしたわ」と言ってくれたものだ。

 

「今日はひとつ大きな案件が片付いてね、いつもより早く帰れたよ。

それに今日はドロシーとダニーが夕飯を食べにくるしね」

娘夫婦は別の官舎に住んでいるのだが、月に何度か一緒に夕食を共にしている。

 

着替えを終えてリビングに下りていくとインターフォンが鳴った。娘夫婦が到着したようだ。

妻がドアを開けた途端、(ドロシー)が「ママただいま!」と妻をハグした。

ドロシーの後ろでワインの瓶を下げた娘婿のダニエル(ダニー)が「いつもすいません、

お義父さん(ボブ)」と軽く頭を下げる。HUDを兼ねたメガネ(ミノ粉撒かれたら

使えなくなるだろうなぁ)をかけた長身で知性を感じさせる印象の青年だ。

大変優秀なSEで娘と共に軍のシステム軍団に引き抜いた時はプロジェクトリーダーの大佐は縁故

採用に苦い顔だったが、一月もすると彼を「システム軍団に欠かせない逸材」と絶賛した。

 

妻と娘がキッチンで夕飯を用意する間、私とダニーはチーズをつまみに彼が持ってきたワインを

飲んでいた。たわいない世間話をした後、娘婿は真剣な顔になり「お義父さん(ボブ)

軍は何事か大きなプロジェクトを進めてるんですか?いえ、ジャブローおよびルナツー工廠に

大量の物資を送る命令が出ましてね。これ一回ならともかく、今後もこのレベルで物資の移送が

あるなら発注/輸送(ロジスティクス)システムのパラメータを設定し直す必要があります」と尋ねてきた。

 

物資は軍が資源を掘り出す訳もなく、原料や部品の多くを民間に発注する。輸送も平時であれば

民間に委託することも多い。私の「功績」にはその発注/輸送(ロジスティクス)システムに高度AIを大幅に導入し、

調達コストの削減と業務効率化を果たした、というのがあるらしい、なんか実感ないけど凄かったんだな、私。

ダニーは私の指揮下で作られたシステムのメンテナンスとアップデートを担当している。

この手のシステムはちゃんと動いてるのが当たり前とされる。生産現場からの要求をシステムAIが

捌き切れず部隊への納品が遅れれば大問題になるだろう。彼が動向を知りたいのも無理はない。

 

「ダニー、資材に関しては量の桁がひとつ上がる想定で設定してくれ。それとシステム軍団から

兵器開発部門に何人か異動ないし出向してもらうことになると司令のハワード少将に伝えて

おいてくれないか」と頼んだ。元部下のシステム軍団司令の女性少将の顔を思い出しながら

「また、グレースの眉間のシワが増えるなぁ」と独りごちた。部下が減らされて喜ぶシステム管理部長など宇宙世紀にもいない。

 

仕事の話が終わるのを見計らったように妻と娘がテーブルに料理を並べる。メインは私の好物

ローストビーフとオレンジチキンだ。マーマレード味の鶏肉は日本人としてちょっと引いて

しまったが、口に入れると実に美味かった。前世の記憶を取り戻しても、味の好みは変わら

ないようだ。

 

ダニーは部下でもあるドロシーにワインを注ぎながら「明日から忙しくなるようだから、

スタミナを付けないとね」と肉料理を勧めた。ドロシーはうへぇ、という顔をすると

「ねぇ、パパ。後方部隊のオフィスにも艦隊のフネみたいに疲労回復の酸素カプセルが

いると思うんだけど」と私に予算要求してきた。私は曖昧に笑い「職場の福利厚生は

重要だからね、相談しておくよ」と答えた。ヘボン君に頼むことが増えたな。

内部が与圧されたカプセル状のベッドならノーマルスーツを納入してる会社が艦艇向けに

納品してたはずだ、アナハイムの子会社だったと記憶している。

 

R作戦はとにかく時間を金で買うプロジェクトだ。グループ企業を含めると地球圏最大の

生産能力を持つアナハイム・エレクトロニクスに大量発注することになり、彼らを肥え

太らすことだろう。ジオンから発注も入ってるはずで、バムの部品がザクシリーズと

似通ってることにすぐ気づくだろうなぁ。まぁ、連邦軍とジオンは対応する事業部が違うし、

事業部長達は互いに役員の椅子を巡ってしのぎを削るライバル同士だから情報を流さない

かもしれない。ボブ・ゴップという男は民間企業の人間関係まで記憶しているのか、と

山田だった私は転生した自分に感心した。

 

食事が終わり自分たちの官舎に帰る娘夫婦を見送った後、私は妻に相談を持ちかけた。

「キャシー、心理的に交渉相手を威圧できる表情をしてみたいんで、ひとつ

アドバイスをくれないかな…」

前世の山田次郎はとにかく波風立てないよう過ごし、部下にも機嫌を伺うような態度で

接してきた。もしかすると妻にもそう接してきたのかもしれない。

だが、今度は55億の人命がかかっている、強引さや強かさは必須だ。

妻はちょっと困った顔をしながら「心理カウンセラーの職業倫理的には

いけないことなんでしょうけど…」と言いながら、その晩は「ドスが効いた顔」

の練習に付き合ってくれた。

 

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その白くなりかかった髪の男は連邦軍よりジオンか銀英伝の帝国軍服が似合い

そうな貴族的な風貌をしていた。

なんかにやけた口元を除いて、だが。

 

グリーン・ワイアット、ブリテン島の貴族、子爵の末裔である。なんとなく口元が半笑い

の軽薄そうな顔つきのせいで誤解されているが、その実力は本物だ。宇宙軍の生え抜き

で、艦艇が核分裂炉を積んでレーザー砲を主砲としていた時代から砲術士官として

キャリアを積んでいる。軍大学ではいくつか論文も書いたそうだ。

当然のように大口径メガ粒子砲を搭載した宇宙戦艦を愛し、もって主力とすべし、が

持論だ。ミノフスキー粒子についてはミノフスキー・イヨネスコ反応炉の完成までは

「山師が売り込むエセ科学」と斬り捨て、防衛隊から改変されたジオン軍がミノフスキー

粒子利用に積極的なのも「素人集団がプロに張り合うため、オカルトに縋っているのでしょう」と嘲笑していた。

彼本人がゴップにそう言ったのを憶えている。

 

政治的には地球至上主義者だ。宇宙軍の生え抜きとはいっても、全員が宇宙居住者に好意的という

訳ではない。

武装した偽装貨物船を使う宇宙海賊やテロリストと戦ってきた経験からコロニーに住む者を

法と秩序を軽んじる無法者、と嫌う者も一定数いる。

意外にも、彼らは月面居住者(ルナリアン)をコロニー居住者よりマシと思っているらしい。

コロニーよりずっと早く、コロニー建設の資源の採掘や加工の必要から、植民が始まったためか

ルナリアンはコロニーの住人よりずっと上品らしい。数は少ないが、連邦議会の議席も持っている

のも関係しているのかもしれない。

まぁ、そのルナリアンにすら参政権を認めるな!が信条のジーン・コリニー中将よりは極端では

ないので、レビル派とコリニー派の中間派閥の長といったところだろうか。

 

一通りの挨拶を済まし、従卒が持ってきた紅茶の香りを褒めるとワイアットは澄ました顔で

こう切り出した。

「最近の閣下は一部過激派将校と交流があるようですな。まぁ、自分は誹謗中傷の類と思って

おりますが…」

この男は上官相手にも平気で皮肉を言うことで知られていた。一部の宇宙軍士官には「上に物申す

硬骨漢」と彼を慕う者もいる。

 

「だいたい、予算と資材を投じギレンの玩具の兵隊を我々が作る必要などないでしょう」

「最近は弟のドズルの方が夢中なようだよ。ギレンが打ち切ろうとした計画を首を賭けて続行

させたらしい」

するとワイアットは「あぁ、彼は稚気に富んだ人物ですからな」と笑っている。

「幼稚な奴だ」と言ってる訳だ。

まぁ、肩からでかいトゲ生やした軍服を着てる男をそう評するのは分かる。

けど、70年代のアニメじゃアレは普通だったんだよ。

 

「そのブリキの兵隊だが、艦艇と同じ反応炉と熱核ロケットで動くそうだよ。陸戦隊に

配備されたRCX-76ガンキャノンも動力は反応炉だ」

敢えて陸軍ではなく(宇宙軍)陸戦隊と言った。身内もMSを使っている、と強調した

かった訳だ。

「まぁ、月面都市や衛星要塞の占領には使えるでしょうな」あくまで揚陸戦用の

補助兵力だと彼は主張している。

 

「結論はこれを見てからでもいいのじゃないのかね?」とBM-01ホロ動画を

ワイアットに見せる。

「ジオンのYMS-03をモデルに開発した代物でね、今年中の制式化が可能だ。

原型はジオンでも、我が方が持つ陸戦兵器のノウハウが活かされてるから、

ジオンのMSと撃ち合いになれば我がBM-01が優位に立てるだろう。

まぁ、艦隊をギレンのブリキの兵隊から守る用心棒といったところかな。

貴官も見たと思うが『ジオンの秘密兵器モビルスーツは連邦艦隊を撃滅できる』

と主張する動画(軍内部のイントラネットに公開されている)、ああならない為の

手段のひとつと思って欲しい」

 

「アレはよくあるやたらでかい文字を流しながらジオンの脅威を喧伝する動画

とは作りが違うと思っておりましたが…」

「あぁ、私のスタッフが観測気球のつもりで流したものだ」と、『それも私だ』

みたいなテンションで言うと、ワイアットはいささか呆れた表情を浮かべ

「閣下とあろう方が酔狂なことですなぁ」と呟いた。さっきの台詞で私がエルランから

依頼されて彼を説得しているのではなく、エルラン派が私の傘下に入った、と

理解したようだ。

 

私はその呟きを聞かなかった風に「我が方にはジオンが保有していない兵器もある」

とGW-01ワルキューレのホロ動画を見せた。

MSに比べればまだ既存の宇宙機に近い見た目のGW-01の反応は悪くない。

「この機体メガ粒子砲を搭載していますな。パブリクの後継突撃艇としてなら有

望なのではないでしょうか。しかし、GW-01でしたか、コレを量産して艦隊防空に

使えば良いと思いますが」とあまり熱の無い口調でワイアットが感想を述べる。

 

「この機体は大型でマゼランやサラミスでは扱いが難しい。おそらくは艦底に

ぶら下げて戦場に行くことになるな。それにこれは推力は大きいが小回りが利かなくてね。

より小型のBMが艦隊直掩と護衛を担う艦戦、GWが艦攻の役割を担うと私のスタッフは

考えている」

私は意図してMS(モビルスーツ)ではなく、BMと言っている。

敵の新兵器の模倣ではなく、あくまで我が方の新兵器という意味合いを込めて、だ。

 

「それにBMだけに艦隊防空を任せる訳ではないんだ」とマシュー・ペリー級の

プロモーション動画を見せたが、ワイアットは「この機動性と火力、特に誘導

ミサイルは水雷戦隊でも組んでジオン艦隊の襲撃任務に就かせる方が活かせる

のではありませんか…」とあまり反応が良くない。

 

そこで、私は対ワイアット用の切り札を切った。「これはこの計画の一部なのだがね…」

案の定ワイアットは目を見張っている。

室内には巨大な砲身にエンジンを付けた代物のホログラムが浮かんいる。特徴は

その大きさだ。物差しとして置かれているマゼラン*1の二周りは大きい。

 

「砲身の先端まで含めると全長500mになる。ジオンの秘密兵器、決戦砲の対抗兵器として

考案された超大型砲艦といったフネだが、衛星要塞戦でも活躍するだろう」

それはガンダム・センチュリーが建造を計画している超大型艦だった。

ハイメガ粒子砲を再現しようと試作された超長砲身メガ粒子砲に機関部、3000mm

望遠鏡を搭載した砲戦艦橋を取り付けた外観で、メガライダーを全長500mまで拡大

したモノと言えばイメージしていただけるだろうか。

 

ワイアットにホロプロジェクターのコントローラーを貸すと彼はホロ画像を回転させ

たり細部をズームしたり、内部構造を確認したりしてる。

切り札、というだけあってコレだけはただのホログラムではなく、CADデータへのリンクも

貼って全てを曝け出している。今頃ガンダム・センチュリーのメンバー達は私のオフィスから

サーバーへのアクセスを感知して喜んでいるだろう。魚が針に食いついたからだ。

 

ワイアットの顔はさっきドズルを幼稚とけなしておきながら新しい玩具を貰った少年の

ようになっていた。

「そのフネは『マクロス』級、というんだ」「マクロス?どんな謂れがあるのでしょう?」

この世界の旧世紀に「機動戦士ガンダム」というコンテンツが無かったように

「超時空要塞マクロス」も存在しない。

「なに、艦名から艦種の見当がつかないようにネグロス島をもじってつけたのさ」と

私はしたり顔で説明する。連邦では伝統で戦艦は州や国名、有名な地名から、重巡なら都市、

軽巡なら島や河川にちなんで艦名は決められる。

 

「R計画の予算が承認されれば、マクロス級は4隻建造されることになる。新規に編成される

第三艦隊にも1隻配備するつもりだよ。司令官の君へのささやかな贈り物だ」

いきなり正規艦隊の司令官にしてやる、と言われ図太いワイアットも驚いた顔をしている。

ルナツー艦隊を基幹として第三艦隊を編成する話は知っていたが、司令官には先任の中将が

就任する、と思っていたらしい。

「君ならマクロス級をどう運用する?主砲は再チャージに時間がかかるから実のところ艦隊戦

には向かない、と思うのだが…」といたずらっぽい顔でワイアットに問いかけると、彼は目を

輝かせながら「いえ、そんなことはないでしょう。出力を最小限で放ち、観測することで陣形を

組んだ艦隊を狙い撃てるでしょう。GWでしたか、あれを観測機として載せているようですし」と

鼻息荒く語った。

 

「まぁ、あれだ。BMはマクロス級を含む君の艦隊を害虫から守る農業用ドローンくらいに

思ってくれたまえ。獅子もスズメバチ数匹に刺されればアナフィラキシー・ショックで死ぬことも

あるからね。なに、艦載機の運用は詳しい幕僚を付けるからその者に丸投げでもすればいい」

 

「それに、ヤマトにも七色星団会戦だったか…空母戦があっただろ?」ガンダム・センチュリーは

ワイアットがその少年時代、何度めかのリメイク版「宇宙戦艦ヤマト」の大ファンだったことを

掴んでいた。寄宿舎の自室に『地球連邦軍ワイアット艦隊』と銘打ったプレート(職人の手作り

らしい)とプラモを並べ悦に入ってたそうだ。

宇宙世紀にリメイクされたヤマトは世情を反映してか、ヤマト単艦でイスカンダルを目指すのでは

なく連邦加盟国が持ち寄った艦で結成された連合艦隊で24万8千光年の遠征に挑んだ。

当然宇宙空母(コスモキャットという戦闘機を積んでたそうだ)も随行しており、七色星団会戦は

エンタープライズをはじめとする空母4隻の機動部隊がオキタ司令長官の指揮のもと、ドメル麾下

のガミラス航空艦隊と空母戦を戦うエピソードだ。連合艦隊は空母「レキシントン」を喪うも

ガミラス空母を全艦撃沈し、ドメル艦隊に大損害を与えた、とダイジェストを見ながら説明を

受けた。午前中にワイアットの個人データと共にヤマトの知識もブリーフィングを受けた。

もっとも詳しい感じだと知識の不備を指摘されそうなので、ずっと昔に見たことあるが

うろ覚えという設定で臨んでいる。

21世紀のヤマトと同じなのは粗筋くらい、という程違うんだよねUC.ヤマト。

3シーズン、75話とか見てる時間無かったし…

 

連邦軍、特に宇宙軍にはこちらも何度かリメイクされてるスタートレックと並んで、

ヤマトヲタが多い。ワイアット派も元々は若き日のワイアットが先輩士官から

引き継いだヤマトファンのサークルだったそうだ。

七色星団会戦を持ち出されたワイアットは「私、あの会戦は偵察機にドメル艦隊の

座標送らせてヤマトが波動砲撃てばレディ・レックスは助かったと思うんですがねぇ」

とちょっと口を尖らせて言った。あ、これ厄介なヲタだ。

 

話が脱線しかかるも、艦隊司令官ポストとマクロス級と引き換えに

グリーン・ワイアットも私達に同調してくれることになった。

彼にはマクロス級で「僕が考えた宇宙戦艦ヤマト」を存分にやって貰おう。

 

*1
この物語ではMS IGLOOの設定 327mを採用しています




ヒロイン(50歳)登場です。
レビル&ティアンム コンビ、紅茶おじさん(ヤマトヲタ)が仲間になりました。

感想で「ワイアットはMSの重要性を認識していた」というご指摘を頂きましたが、
この物語ではルウム戦役でその認識に至るはずだった、という設定です。

マクロス級は開戦後に登場する予定でしたが、ワイアットを説得する材料として
早めに登場しました。

ワイアット=ヤマトヲタは、脳裏にピロリロリン♪の効果音と共に少年時代の彼が
メカコレを並べてる映像が浮かんだのでアドリブで書き足しました。

文中、「士官」「将校」の表記は艦隊勤務の尉官以上が士官、それ以外の
尉官以上が将校、のつもりで書いています。

次回はゴリゴリの保守派、ジーン・コリニーを説得します。
強面のコリニー提督を山田ことゴップは説得できるでしょうか?
それとも、こっちも強面の佐藤ことエルランが出張ってくるのか?
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