リストラおじさん、ゴップになる   作:寒原光雪

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ほぼジオン回です。


ソロモン落城

「私の名はアルテイシア・ソム・ダイクン」

連邦艦隊からの広域放送に映った金髪の少女は落ち着いた口調で自己紹介した。

服装は軍服ではなくスーツ姿である。お仕着せではなく彼女の体型に合わせたオーダーメイドのようで仕立ての良さがうかがえる。

 

「現在『ジオン共和国亡命政府』の代表をつとめています。宇宙要塞ソロモンに籠城する将兵諸氏に申し上げます。『ジオン共和国亡命政府』は諸氏の投降と共和国政府の軍事組織『自由ジオン軍』への参加を要請いたします」要するに降参して幕下に入れ、と言っているのであるが、美少女という他ない容貌のアルテイシアから口から出ると不思議と腹が立たない。

 

「あの幼かったアルテイシア様がこんなにご立派になられて…」ランバ・ラル大佐など目に涙を浮かべ完全に親戚のおじさんである。

傍らに立つタチ中尉も「私もお二人の脱出には一枚噛んでおりまして。アルテイシア様の飼い猫がコンテナの中で鳴いたせいで誤魔化すのに苦労しました」と感慨深げであった。

 

「『ブリティッシュ作戦』によって各サイドへの直接攻撃と地球へのコロニー落としを目論んだザビ家に大義はありません。同胞である宇宙市民を虐殺して何の独立でありましょう。私達、共和国政府はこの戦争を終わらせるためザビ家独裁体制の打破を目指しています。諸氏にはその戦いへの参加を要請いたします。あなた方の故郷が戦火に包まれる事態を避ける為に今立ち上がってほしいのです」一言づつ、はっきりとした発音で語るアルテイシア。

 

「あの黒猫には俺もしょっちゅう引っかかれてなぁ。往生したよ。もう死んでしまったかな」しみじみ幼い頃のアルテイシアを語るラル。

「できるだけ早くアルテイシア様と面会せねばなりませんな。さもなくば先に投降したコンスコン少将に我らは使い潰されますぞ」タチ中尉は自由ジオン軍内部の政治に頭を切り替えていた。彼はブルースター連隊がラル派として自由ジオン軍内部で独自の勢力になるにはトップたるアルテイシアにランバ・ラルという男を思い出して貰い最側近として取り立ててもらうしかない、と考えていた。

 

「既に自由ジオン軍はコンスコン提督麾下の一個艦隊を擁しています。さらに連邦からモビルスーツ『リニア・ザク』の供与を受けています。あとは人です。諸氏の参加によって自由ジオン軍は解放軍としてサイド3に凱旋することも叶いましょう」アルテイシアが画面から消えると今度はチベ改級『レッドバイカウントⅡ』が大映しになった。『リニア・ザク』と呼ばれたMSが艦首から発進している様子が放映されている。

 

発進したMSが編隊を組む早さと正確さを見たヴィッシュ・ドナヒュー少佐は(中々に侮れない練度だな。海兵上がりだそうだが…)自由ジオン軍のMS隊を指揮するシーマ・ガラハウ元中尉はジオン軍でも「裏切り者」として有名であった。マハルコロニーのスラム街にあるというガラハウの実家をメディアが突撃取材したが、近所の住人達に襲撃されほうほうの体で逃げ帰ったという。隊員もマハル出身の荒くれ者揃い、という評判であった。だからこそ、総帥府は彼らにコロニーに毒ガスを散布し住民を鏖殺する任務を与えたのだろう。

 

「俺のこと憶えてるかなぁ。まだお小さかったからなぁ」ラルは今更アルテイシアが自分を忘れてしまった可能性を心配していた。

「おじさん達の感傷もいいですが、投降に関するあれやこれやを実施しませんと。無線で『降参します』って言えば済む話じゃないでしょう」マヤ・コイズミ大尉のツッコミに回想から現実に引き戻されたラルは「そうだな、軍使を立てて連邦軍と接触し、条件を詰めねばならん。さっきの放送に紛れてハモンが送ってきた暗号文によると連邦の先鋒を務めるのはスペースノイドに同情的な将校だそうだ。ドナヒュー、行ってくれるか?」とマヤの夫であるヴィッシュ・ドナヒュー少佐を軍使に指名した。

 

「謹んで軍使の任、拝命したします」生真面目なドナヒュー少佐の生真面目な返答に「うむ。ただ、命は大事にな。銃を突きつけられたら逃げ帰ってこい。ワシヤには命じるまでもないが、貴様は心配でな」とラル。「精々大きな態度で望むのよ。こっちは頼まれたから投降するんだから」とマヤ。「接触する連邦陸戦隊の情報はこれです。道すがら目を通してください」とタチ中尉。

万が一、鹵獲される危険性を考えて予備機のザクででかけるドナヒューを見送りながら「上手くやってくれよ」と呟くラルだった。

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== 数日前 ソロモン宙域

 

ガガウル級駆逐艦「ペルル・ノワール」のブリッジは緊張に包まれていた。艦長レオニー・ベルナール少尉に男が銃を突きつけているのだ。

「あの、これって何の冗談ですかね?ツケが溜まってたのは承知してるんですが、殺されるほど大金じゃないはずですが…」レオニーの声に男の後ろに控えていた細身のノーマルスーツの人物が「ツケの取り立てよ。お金じゃなくてこのフネのチャーター代でチャラにしてあげるわ」と言った。女の声だ。

 

「マダム、冗談が過ぎますぜ」レオニーに声の主クラウレ・ハモンは「このフネで行ってほしいところがあるのよ。とりあえずはこの座標までね」と携帯端末を見せる。「こりゃ、連邦軍がわんさかいるとこじゃないすか!俺たちに死ねって言うんですか!」驚くレオニー、学徒兵のウエスト上等兵も目を見開いている。

 

「心配はいらないわ。連邦軍から攻撃されないよう識別コードは貰ってるから。あなた達は何も心配いらないのよ。もっとも、一時的に捕虜になるでしょうけど」とハモン。「それでハモンさん、アンタ連邦に亡命するんですかい?」「ま、そんなとこね。向こうに会わなきゃいけない人がいるのよ」「アンタ、ラル大佐以外に男がいたんで?」「女の子よ」「あぁ、生き別れの娘ってやつ」レオニーの足が踏んずけられた。

 

「いってえ!」「罰よ。娘じゃなくて私達の主君となられる姫様。ダイクンの忘れ形見よ」とハモン。「え?ダイクン家ってみんな死んだんじゃなかったんですかい?」とレオニー。一般の国民にとってはダイクン家は過去の存在だった。

 

「アルテイシア様は元捕虜で軍を組織してジオンの解放を目指してらっしゃるのよ。あなた達もそれに参加するの」とハモン。レオニーは開いた口が塞がらない。ウェストも絶望的な顔になった。

 

数時間後、「ペルル・ノワール」は連邦軍第4艦隊と接触した。艦隊司令エルラン中将と面会したハモンは中将がまるで旧知の仲の様に親しげに話すのに面食らったものの、冷淡にされるよりはずっとマシなので調子を合わせていた。

 

「ミス・ハモン、アルテイシア代表とレーザー通信回線を開きます。代表も貴女を懐かしがっておられましたよ」とエルランから聞かされた時は(アルテイシア様は私を憶えていてくださった!)と思わず目頭が熱くなった。

 

回線が開くと美しく成長したアルテイシアが画面に現れた。ハモンはエルランの「やっぱ、セイラさんはきれいだなぁ」という呟きを聞いた。

「お懐かしゅうございます。アルテイシア様、クラウレ・ハモンでございます」「憶えています。サイド3脱出の際には大変世話をかけましたね。また、私を助けてくれるとのことで大変喜んでおります」「もったいないお言葉!ランバ・ラルも喜びましょう」「私もいずれ宇宙に上がるつもりです。直接お会いする機会にも恵まれましょう。母と親しかった貴女を私は身内のように思っています。その時は食事でも共にいたしましょう」とアルテイシア。

 

「アストライアさんの妹分だったんでさしづめ叔母ってとこですかね」傍らに立つクランプの呟きを無視し、ハモンは目頭に涙を浮かべ「お身内とはもったいないお言葉。お目にかかれる日を楽しみにしておりますわ」と返した。

 

通信が切れると早速エルランの幕僚達が寄ってきて「それで、ランバ・ラル大佐麾下の『ブルースター連隊』の規模についてなのですが…」と実務的な話になった。連隊の人間関係、連隊長に付き従う者、抵抗しそうな者の目星はハモンが、連隊の装備、規模についてはクランプが説明した。

 

ここで問題になったのが、連隊は固有の艦艇を持っていない、という点である。作戦ごとに母艦となる艦艇を宇宙艦隊から派遣されてくる体裁とっており、今回は要塞防衛戦なので艦艇は配備されない。ハモン達が連邦艦隊に接触するのに駆逐艦をジャックしたのはそういう理由があった。

 

「連隊には固有の艦艇を配備せねばなりませんな。そうしないとコンスコン提督の艦隊に間借りすることになり、指揮系統の問題が出ます。我々としてはコンスコン少将を自由ジオン軍のトップと素直に認め難い事情もありましてな」とエルラン。「ご配慮、痛み入ります。我々もそのことを憂慮しておりました」とハモン。

 

二人と連邦の幕僚達との打ち合わせはその日の深夜に及んだ。ベルナール少尉とウエスト上等兵は旗艦ムサシの士官食堂に招かれ歓待を受けた後、個室を与えられてご満悦だった。

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==現在、ソロモン宙域

 

重巡洋艦ファルメルのブリッジでシャア・アズナブル中佐は例の放送を見ていた。(アルテイシアが!!)驚愕した顔はマスクに隠れていたが、(連邦のモグラ共が妹を政治のコマにしている…)怒りで歯を食いしばっているのを傍らのオリヴァー・マイ大尉は(中佐、怒ってるな。あんな年端もいかない女の子を矢面に立ててる共和国政府とやらが許せないのかな?)と彼らしい感想をもった。

 

もっともシャアが真に驚愕したのは次の瞬間だった。『私の名前はララァ・スン。フラナガン機関のニュータイプ候補生でした。現在は自由ジオン軍に所属しています。ジオンのニュータイプに語りかけています。投降し、私達と共に戦ってください。ザビ家はニュータイプを兵器としてしか認識しておりません。ニュータイプの人権と未来を掴む戦いにあなたも参加してください』という想い人の声が頭の中に響いたのだ。

 

「マイヤー、聞こえたか?」咄嗟にシャアは後ろに控えるアンネローゼ・マイヤー曹長に頭に響いた声について問うた。

「はい。女の声、ララァと名乗っています」「そうか。貴様にも聞こえたか…」シャアは仮面の下で殺意をたぎらせた目をしていた。

「声ですか?自分には遠くで誰かなんか言ってる、くらいしか分かりませんが…」小声で呟くエルヴィンにブラウンは「俺は何も聞こえない。君は才能があるのかかも知れないね」と優しげな口調で答えた。英雄にNTの才能があると言われ赤面するキャディラック准尉。

 

「ブラウン、出撃する。グワランの側面を襲う敵を排除せねばな」シャアはレッド・ガードを伴い格納庫へと急いだ。その後をマイ技術大尉が追って行く。

シャアは煮えたぎる殺意を目の前の連邦艦隊にぶつける気であった。

 

モニク・キャディラッ特務大尉は操舵席のドレン大尉に「中佐は普段からあんなに闘志を滾らせている方なのか?」と横柄に問うた。さっきまでシャアに圧倒され、小さくなっていたのがいきなり態度を豹変させた政治将校に辟易しながらもドレンは「普段はもっと冷静ですな。何か腹に据えかねることがあったんでしょうなぁ」と答えた。

 

ファルメルから矢のように飛び出した赤い重MS、MS-09ドムより一回り大きい上MS-14ゲルググ、しかも常識はずれの速度で迫るそれを目にした連邦軍は怯えを見せた。すくなくともフレデリック・ブラウンにはそう感じられた。「マイヤー、キャディラック!敵の崩れた編隊に一撃をかける。ついて来い!」「了解」「はい!!」

 

赤い肩のドムと通常塗装のドム3機はビームバズーカの一撃で3機のジムを落とし、そのままスラスター最大で下に駆け抜けた。ジム編隊が『レッド・ガード』を狙って降下しようとしたところをルロイ・ギリアム少尉が指揮するファルメル隊が襲いかかった。囮のつもりの一斉射撃で2機を撃墜したギリアムは「敵さん、泡を食ってるな。畳み掛けるぞ!」再び戻ってきたレッドガードと連携して残りのジムを撃破する。

 

MS-14は目前の敵を無視するかのようにさらに後方へと飛び去った。

 

「流石は旗艦の中隊だな。いいな、敵MSの排除を優先する。金的に色気を出すなよ!ブランケ中隊、全機突撃!」エリク・ブランケ大尉は麾下の中隊に連邦のMSを集中して狙うよう指示を出した。総旗艦グワランの脅威となるMSを排除しようというのである。

ケンプテンとノルトハウゼンの中隊も敵MS部隊に襲いかかっている。残るケーニヒスベルクのMS中隊はファメル以下の戦隊の直掩を担当していた。

 

グワランにはザビ家の将官の座乗艦だけあってビーム撹乱弾の発射機と対艦ミサイル対策の囮弾や電子兵装など充実している。それでも敵の新型砲艦と思われる長距離ビームに損傷させられたのだが。それだけに乗組員達は汚名返上とばかりに撹乱弾を規定より多く持ち込んでいた。敵艦のメガ粒子砲を今度こそ防ぎ切る気概を持って臨んでいた。だが、MSに撹乱幕の内部に入り込まれ攻撃されると対空機銃だけでは防ぎきれない。シャアに新艦長となった元航海長の中佐は懇願せんばかりに「敵MSを排除していただきたい」と要請した。シャアも艦長以下、幹部が全滅する羽目になったグワランの状況に一抹の後ろめたさがあり、グワランの撤退路の側面の安全を買って出たのだった。

 

「『大砲付き』か。やはり私の狙いは的中したな」シャアのMS-14ゲルググは単騎で敵後方に控える大口径ビーム砲を装備する『大砲付き』GMキャノンの編隊を発見した。赤い重MSが姿を見せると敵の支援型ジムは一瞬怯んだ動きを見せたが、単騎と分かると組織だった動きを見せた。中隊規模のリンク統制射撃で仕留められると判断したのだろう。

 

「AI任せではな!」シャアが愛機に鞭をくれ空戦機動を取りながら接近すると12機の支援型ジムの放つビームは大砲もライフルも空を切った。センサーとFCSをレーザー通信でリンクさせた射撃でもAIの制御を受けるため、データの無いゲルググの機動についてこれないのだった。

 

「そこだ」シャアの射撃は隊長機と思しき機体を正確に貫き爆散させた。リンク統制射撃は各機をレーザー通信でリンクさせるため回避機動をほとんど取れない。そこを突かれたのだった。残った『大砲付き』はリンクを切って各々回避機動を取りながらシャアを包囲しようと動くが、ゲルググの大推力は容易にその裏をかかせ敵中隊はサメに襲われるイワシの群れのように次々と仕留められていった。結局数分の戦いでグワランの最大の脅威といえる大口径ビーム砲を持つ支援型ジムの1個中隊を駆逐したシャア・アズナブルであった。

 

久しぶりの充実した狩りに高揚感を憶えつつシャアはいかにして連邦の手の内にあるララァ・スンを救出するかを考えていた。

「ララァの口調は薬物などで無理やり言わされているものではなかった…。自分の意志で『自由ジオン軍』とかいう反乱軍に加わっているのか?まさかな」彼の記憶にあるララァはそこまで主体性を持った女性ではなかった。きっと連邦軍に言いくるめられているのだろう。

許せるものではなかった。

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==ソロモン裏面

 

ダリル・ローレンツ少尉の『不死小隊(イモータル・プラトゥーン)』はMAビグ・ザムの後方を扼す敵MS2個中隊目掛けて吶喊した。

ダリルは自機のみならず小隊の2機のドム・イモータルに回避機動を取らせショーンは例によって悲鳴を上げ、フィッシャーは歯を食いしばって耐えた。

ジェネレーターの強化によりチャージ時間を短縮したビームバズーカは一射ごとにジム編隊を小隊ごとに爆散させ、距離が詰まるとマニュピレーターに装備させた突撃銃、MSファウスト、バズーカの斉射でまた小隊ごと消し飛ばした。

 

一航過で敵のジム9機を仕留めた不死小隊は次の襲撃でさらに9機を撃墜、残った機体はビグ・ザムの全周囲ビーム砲の餌食になった。

「助かったぜダリル!この調子で頼んだ!」ケリィからの通信に「やっと公国のお役に立てました」とドムに敬礼させるダリル。

「お役どころじゃない。敵の通信がいきなり増大したそうだ。敵はだいぶ泡を食ってるぞ」とケリィ。「我々には構わず大尉達は敵旗艦へ急いでください」とダリル。「了解だ。なんなら足に捕まってくか?」ケリィの冗談にダリルは「我々がビグ・ザムに取り付き推力を追加して敵に仕掛けるのもアリですね」と答えた。

 

「決まりだ。それじゃ3機で囲む様にビグ・ザムに取り付いてスラスターを吹かしてくれ」とケリィ。ドム・イモータル3機分の推力を得て突進するビグ・ザム。

(ひょっとして、イケるんじゃないか?)ケリィ・レズナー大尉はこの特攻作戦の天秤が成功側に傾くのを感じていた。

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==戦艦グワラン 仮設ブリッジ

 

「おのれ小癪な!あんな小娘を矢面に立たせおって!おそらくはバイヤー辺りの画策であろうが…」グワランでも宣伝放送は受信できたが、ドズル・ザビの反応は少女の陰に隠れる売国奴共許すまじ、というものだった。カイザス・M・バイヤーは2年前にサイド6を通じて連邦への亡命を果たしたダイクン派の政治家である。彼とその同志が連邦に取り入り「ジオン共和国政府」なるものを立ち上げ、コンスコン少将もそれに同調し「自由ジオン軍」を名乗っているのだろう。

 

おそらくはア・バオア・クーでも放送は受信できているだろうから兄、ギレン総帥の知るところになっている筈だが何も言ってこないところから兄は黙殺を決め込むことにしたようだ。

 

「しかし、アルテイシア・ダイクンとは。ダイクン家には男子もいたはずですが…」「何年か前、偽名でジオンに入国を図ったがキリシア機関に始末されたそうだ」ラコックの呟きに面白くもなさそうな口調で返すドズル。当時は年端もいかない子供を、と思ったがこのような事態となっては妹の独断もあながち責められないと思う。

 

「側面の連邦艦隊はファルメル戦隊の襲撃により艦載機を失い後退したようです」オペレーターの報告にドズルの顔が明るくなる。

「シャアがやりよったか!ビグ・ザムはどうか?」「指揮官レズナー大尉によれば敵旗艦を目指し進撃中とのこと」「よぉし!」ドズルは拳を掌に叩きつけた。

「先鋒のカスペン戦闘連隊より入電。『ワレ、テキトカイテキセリ』」「後はカスペンが進路をこじ開けてくれればア・バオア・クーへの道が拓ける。捲土重来の機会が巡ってくるというものだ!」ドズルは負け戦にも関わらず意気軒昂だった。宣伝放送も彼の戦意を掻き立てただけのようだった。

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== ソロモン裏側の宙域

 

「歴戦の第302哨戒中隊と轡を並べ戦えること、光栄に存じます」白いドムからの通信に青いドムは「こちらこそ、ハッテと通商破壊作戦の勇者『白狼のマツナガ』と共に戦えること光栄に思う」ガトー、マツナガ両名は同じ大尉であるが、ガトーが先任のためマツナガは下手に出ていた。

「まずは302が先鋒として切り込み敵陣に穴を開ける、貴君はその穴をグワランの通過まで確保を頼みたい」「了解であります。ご武運を」「ありがとう。貴君もな」分かれる2機のドム。

 

「さて、まずは先手を打って相手を飲んでかからねばな。ボブ、ビグロのメガ粒子砲を最大出力で放て」「そうしますと冷却と再チャージに数分いただきますが?」「構わん。放て!」ガトーの号令で3機のビグロの機首から光の奔流が迸った。

 

フルチャージのメガ粒子砲は前方のマゼラン級1隻、サラミス級2隻を直撃、3隻はへし折れ、その1瞬後火球と化した。

「中隊、突撃!」ガトーの号令でMS-09ドム9機が前方のジム編隊めがけ突撃する。

製造工場の違いか、様々なデザインの頭部を持つジム達が迎撃に動くが、先頭の青いドムにはビームはかすりもしない。「うおぉぉぉ!」ガトーの裂帛に気合と共に放たれたビームバズーカはジムを狙い違わずに貫き、火球へと変えた。列機のゲイリー准尉とカリウス曹長も共同でジム1機を仕留めた。

 

中隊の残り6機も3機で1機を狙う戦術でジム2機を撃墜、白兵戦の間合いまで詰めたガトー機はすれ違いざまにジムの胴体を切って捨てた。カリウスは左腕のハードポイントに装着したMSファウストを直撃させ、ゲイリーの突きがジムのコックピットを貫いた。

 

アダムスキー中尉の小隊は左手の突撃銃の集中射でジム1機を撃墜、1機は頭を吹き飛ばされ後退した。第三小隊の3機のドムも左手に装備した突撃銃やランチャーで2機を撃破、後退させた。

 

一度の襲撃で敵ジム中隊を退けた302中隊はさらに前進、無人機と思しき敵モビルポッドを無視して次のジム編隊へと襲いかかる。次の敵は練度が高いのか、中隊も無傷とはいかず1機が左手を損傷したが、後退せずにそのまま戦闘を続行した。結局、次のジム中隊も数分も持たずに壊滅させた。

 

「おお!あれぞ『大砲つき』!あれこそが最優先目標ぞ!中隊、なんとしても眼前の敵を逃がすな!」ガトーの気合に一つの意志を持った戦闘機械と化した302中隊。勝ち戦に奢った連邦の『大砲つき』GMキャノンは敵ではなかった。みるみるうちに数を減らし、逃亡を図るがスラスターを全開にしたMS-09からは逃れられなかった。

 

敵の最優先目標を撃破し、一息ついたガトー機のコックピットにボブ中尉からの悲鳴じみた通信が入った。

「中隊長!敵MSの襲撃を受け小隊はビグロ1機を失いました!我が機も列機も損傷を負っています!救援願います!」

「ボブ!しばし持ちこたえろ!」ガトーは背中のランドセルのスラスターまで全開にしてビグロ小隊が待機している宙域に急いだ。中隊各機が後に続く。

 

ガトーが駆けつけるとビグロは敵の高機動型を思しき大型のブースターを背負ったジム編隊に襲われていた。1機のビグロは必死で回避するも腕を1本無くしてAMBACが満足にできない。結局ガトーの目前で爆発した。ボブ中尉機も必死で応戦するが、ビグロをあざ笑うかの様に敵MS編隊はMAの死角から攻撃を繰り返し、ボブ機もスラスターに損害を負った。

 

「キサマらあぁ!!」ガトーは外周を警戒していた敵の高機動型にビームバズーカ撃ち込み爆散させ、そのまま距離を詰めてMAを襲撃している敵機の後方から突撃銃を3点射、ブースターの誘爆に巻きこれた敵機はそのまま流れて行った。

敵の高機動型10機はいきなり現れたガトー機に慌てることなく、スラスターを全開にして距離を取り、ガトー機を包囲する動きを見せた。ガトーは目前の敵が侮れぬ練度を持っているのを見て取った。

 

どうもガトーのMS-09Sよりも敵は大推力らしく、ガトーが近寄れば後退し、死角に位置した敵が距離を詰めて撃ってくる、という戦術を取っていた。

推力に勝る敵に距離を詰めることができず、ガトー機の進退は極まったかに見えた。だが、ガトー機が前方のペアを追いかけようとした所を狙った敵のペアは突然振り返った青いドムのビームバズーカと突撃銃の連射を浴びた。2機をいっぺんに撃墜したその数瞬後、囮のペアが猛然と突っ込んできたところを躱す青いドム。すれ違いざまにヒートサーベルでブースターに斬撃を加え、逃れようと機動を取る1機をビームバズーカで仕留めた。

 

中隊の半分、6機を失った敵の高機動型はそのまま後退して行った。「ボブ、大事ないか?」ガトーの通信に「ビグロはもう駄目のようです。ここに置いていってください」とボブ。ビグロから脱出し、近くの残骸に身を潜めた。「すまん。後で必ず回収する」青いドムはビームバズーカのカートリッジを交換し、左手にMSファウストを持たせて飛び去った。その後を302中隊の残余が追いかける。「ご武運を」ボブに見送られ302中隊は飛び去った。

 

この日の戦闘で第302哨戒中隊はジム50余機を撃墜破し、みごと戦艦グワランとソロモンを脱出した艦隊の撤退路をこじ開けた。アナベル・ガトー大尉はドズル・ザビ総司令より柏葉剣付ジオン十字勲章を授与され少佐になった。

 

連邦軍は彼の青いドムとそれに付き従う302中隊を「ソロモンの悪夢」と呼び恐怖した。勝ち戦に一息ついたところを襲われ、実体以上の恐怖感を持ったのだった。

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== 空母『ドロス』格納庫

 

MS100機を運用可能な大空母ドロスの格納庫は巨大MA『ブラウ・ブロ』を腹に収めてもまだ余裕があった。MAの脇には月面でルナ・タンクを護衛したMS-13『ドルメル』が7機出撃前の点検をしていた。

 

「私にこのブラウ・ブロが扱えるだろうか…」シャリア・ブル大尉の呟きに機関士席に座る技術士官が「大尉のNT能力なら十分オールレンジ攻撃が可能です。VRシミュレーションを思い出してください」とシャリアの能力に太鼓判を押した。

 

操縦席に座る小柄なノーマルスーツが「今回の任務はドロス前方の敵戦力の有無を確認する偵察任務です。探知能力に長けたこの機体向きの任務といえるでしょう」と冷静な声で語る。その横の砲手席に座るノーマルスーツが「それにこの機体にはIフィールド・バリアが装備されています。敵の遠距離ビームに撃たれても損傷を負うことはないかと」先程の声と同一人物に聞こえる声だ。

 

「ありがとう、アリシア、ベルダ。不慣れな私を気遣ってくれているのだね」シャリアは同じ声の少女達をそれぞれの名前で呼んだ。彼女らは『トト生理学研究所』が生産する強化人間『イングリッドシリーズ』の第一ロット第1号と2号である。既に実戦配備されている第0号同様に「イングリッド1」「イングリッド2」と呼ばれ現在「イングリッド9」までがシャリア・ブル大尉麾下のニュータイプ部隊に配備されていた。

 

彼女らの指揮官となったシャリア・ブルが最初にしたことは彼女らに固有の名前を与えることだった。「君たちは機械ではなく人間なのだから『第何号』と呼ぶよりそれぞれの名前で呼びたい。これは私のわがままかも知れないが堪えてくれ」と1号から順にAからIまで9人の名前を命名したのだった。

例えば1号を「アリシア」2号を「ベルダ」3号を「カーラ」といった具合である。

 

イングリッド達は特に感慨も無さそうに「指揮官殿がそう望まれるのであれば」と素直に名前で呼ぶのを許した。もっともシャリアが命令するまで互いを名前で呼ばず「1」とか「8」とか番号で呼んでいたのだが。

 

ブラウ・ブロコックピットの中央に位置するリングの中央の席に特殊なヘルメットを被ったシャリアは目を閉じ気持ちを落ち着かせる瞑想を始めた。木星への航海中退屈しのぎのつもりで始めた瞑想だが、もしかするとこの習慣のおかげで現在自分はこの新兵器のコックピットに座っているのかも知れない、と思うシャリアだった。「いかんな。つい雑念が交じる。心を落ち着かせねば、見えるものも見えなくなる」独りごちる大尉。

 

甲板士官が「前方クリア」を告げ、ブラウ・ブロはその巨体からは信じれない程静かに空母から発進した。

ある程度距離を取ったところでメインスラスターに点火、これまた巨体とは裏腹の加速度でドロスから離れていく。「護衛」のMS-13はブラウ・ブロの機体各所に設けられたドッキングポートに合体している。最初は手すりに捕まる方式だったのだが、シャリアが「それでは戦闘機動をしたら振り落としてしまう」と難色を示し、ドッキングポートを設けさせたのだった。これにより、MS-13ドルメルは母機から推進材の補給を受けることが可能となり戦闘時間が大幅に伸びた。

 

 

1時間ほどの飛行は何事も無かったのだが、暗礁空域に差し掛かった時シャリア・ブルの脳内に稲妻が走った。

「待てよ。この先に敵の意思を感じる…。ただ時間が経っている、伏兵ではなく機雷の類か…」木星への航海でも宇宙海賊の仕掛けた宇宙機雷は大きな脅威だった。機雷の破壊力自体は大したことなくとも、爆発の光は敵を呼び寄せる。航海中何度も彼は宇宙機雷の存在を感知し、掃海作業を行わせ爆発を未然に防いできた。機雷自体は単なる爆弾だが、それを仕掛けた人間の悪意のようなものがこびり付いていてこれを感知できるようだった。

 

「カミラ、ドリス、エリーゼ、済まないが前方宙域に機雷もしくは偵察ドローンが敷設されている。掃海を頼む」ブラウ・ブロから3機のドルメルが切り離され暗礁へと飛んでいく。数分後カミラ機より通信が入る。

 

「指揮官殿の仰る通り敵偵察ドローンを発見。トリモチで数機を確保しましたが、宙域には百近い数が撒かれているようです」「うん。やはりな…。ドロスに通信『これより先は敵の罠なり、現宙域で待機せよ』以上だ」通信士席の技術士官が慌てて暗号文を組みドロスに送信した。

 

「どのようなドローンなのか母艦に帰ってからでないと分からんが、秘密兵器をむざむざ敵の目に晒すこともないだろう。ここでソロモン艦隊を待とうと思う」

シャリア・ブルの方針に二人の少女も技術士官達も異を唱えなかった。

 

2時間後、先頭を行く戦艦グワランを察知したブラウブロだったが、前方宙域で全方位にレーザーを感知した。すわ、照準レーザーかと思ったが、通信用らしい。グワランをはじめとするソロモン艦隊がア・バオア・クーへの航路のおよそ半分というところで連邦軍に現在の座標を察知された。すかさずグワランから白いドムが飛び出し、ついで青いドムが飛び出し周辺を警戒している。

 

シャリア・ブルはドルメル全機を切り離し、整列させグワランに通信を開始した。

「こちらは親衛隊ニュータイプ部隊のブラウ・ブロ。シャリア・ブル大尉であります。空母ドロスと共にお迎えに上がりました」

「おお!出迎え大儀である!俺の名は名乗らんでも知っていような。ドズル・ザビである。その砲艦は随分と船足が速いのだな。ドロスを置いてきたのか?」

「この機体は新型のモビルアーマーであります。ニュータイプ専用の火器と装備を備えております」

「そうか!総帥もニュータイプの有用性に気づかれたようだな!ソロモンでは機動軍の奇襲をたった1機のニュータイプに阻止された。貴様のような強者が居てくれれば心強い」「恐れながら、自分はつい最近まで木星船団所属で実戦の経験はございませんが…」「よいよい。兄、総帥が認めた男なら俺は信用するぞ!」「誠に恐れ多いことであります」「がはは。やはり親衛隊はしゃちほこばっておるのぉ。ま、これからよろしく頼む!」「ははっ」シャリア・ブルが頭を下げるとブラウ・ブロの機首が下を向き頭を垂れたようになった。ほぼ同時に7機のドルメルが頭を下げる。

 

この様子を見ていた白いドムのシン・マツナガ大尉は「あの新型MS、まるで一つの意思で動いているようだ。得体の知れぬモノを感じる…」と呟いた。

青いドムのガトーは「わが軍のニュータイプ部隊か!これで連邦ニュータイプの跳梁跋扈を食い止めてくれようぞ!」と盛り上がっていた。

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==ソロモン内部

 

軍使ビッシュ・ドナヒューが連邦軍上陸部隊の先鋒『メネシス』中隊のサキ・デッサウ少佐と接触した30分後、ランバ・ラル大佐指揮下のブルースター連隊は正式に連邦軍に投降した。

 

「取り敢えずは一段落だな」ラルが大儀そうに首の辺りをさすっていると、オープン回線で「もうゴングかよ?レフェリーは、ここにはいねぇんだよ!」という男の声が響いた。「こちら『プレジデント』『チャンプ』が暴走を始めた!俺は後ろから襲われ機体をかく座しちまって動けん!」とデッサウ少佐のガンタンクに通信が入った。

デッサウ少佐はランバ・ラルのMS-07グフに通信を入れ「申し訳ありません。兵が反乱を起こしました。すぐに鎮圧しますのが、連隊各機の自衛戦闘を私の権限で許可します」と頭を下げた。

 

「まぁ、気の立っている兵もおりましょう。だが、さっきの放送は『顔つき』の新型機からのものでしたな。かなり剣呑な雰囲気でしたが、搭乗してるのは確か元ボクシングのチャンピオンでしたか」「はい。議会筋からの強い推薦だったのですが、突っぱねるべきでした」ひたすら頭を下げるデッサウにラルは「彼もジオンと一戦せねば収まらんのでしょう。私と鉾を交えれば満足してくれかもしれませんな」と左手のシールドと一体になったガトリングを持ち上げた。

 

「そんな…大佐を危険に晒しては私は任務を果たせません。どうかお考え直しください」「私とて部下の生命に責任を負っております。折角永らえた命を失うようなことはあってはならんです」とラル。既に存在を誇示するかのように四方に通信レーザーを発振している機体めがけ歩き始めた。「連隊長!自分が行きます!」ドナヒューが慌てて止めるが、ラルは「そんなザクでどうしようというのだ?ドムに乗り換えてるいる間に何人死ぬか。俺が行かねばならんのだ」とにべもない。

 

デッサウ少佐は「では、護衛を我が中隊から出します『マッドドッグ』スパルタン03と04を連れて大佐の護衛につけ!」と命じた。極秘回線で「大佐が危うくなったらお前が見を呈してカバーしろ」と命じるを忘れなかった。

「DEAD!!」と返事するユージ・アルカナ中尉を「ほぅ、生きのいいのが連邦にもいるのだな」と感心した口調のラル。「アルカナ中尉、私が許可するまで手は出さんでくれ」と後方を歩くGMスパルタンに頭を下げるグフ。大佐から頭を下げられ慌てるアルカナだが、「了解しました。でも、危なくなったら遠慮無く介入しますぜ」と断りを入れた。

 

「俺はランバ・ラル大佐!この連隊を預かっている。連邦の反乱兵、俺と戦え。部下に手を出すのは許さんぞ!」とこちらもオープン回線で吠えた。

「大佐とは驚いた。『青い巨星』の二つ名を持つアンタなら相手にとって不足無しだぜ」「決まりだな。次の角を曲がったらゴングだ」ラルのグフはソロモンの通路を走り始めた。追いかけようとするスパルタン03と04に腕を出して制止するマッドドッグ。「手を出すなって言われたろうがよ」とアルカナは静観の構えだった。

 

青く塗装されたMS-07は通路の角目掛けスモーク・ディチャージャーを一斉発射した。

「小細工とは残念だなぁ~」『顔つき』RX-79BHは煙幕の中に猛然と突っ込むと左手に握ったアサルトライフルを連射した。

「まぁ、そう言うな」グフは見当違いの方向に飛ぶ銃弾のお返しとばかりにシールドに装備した180mm3連グレネードを全弾発射した。

煙幕を突き破って飛んでくるグレネードを躱せないと踏んだのか左腕のシールドで受けるRX-79。時差をつけて飛来する擲弾は初弾で爆発反応装甲を作動させ2発目、3発目でシールドを破壊した。「腕の荷物を下ろせてせいせいしたぜ!」RX-79は両手にビームサーベルを握らせて突撃する。次の瞬間、慌ててバックステップする。

 

だが、蛇のような何かがRX-79BHの足元から伸びてきて左腕に巻き付き、白熱化した。

「なんだと!」左腕を焼き切られ、目を剥くブライアン・ホーク中尉。「これはヒートロッドという武器だ。使い方に癖があるんで一部の機体しか装備しとらん」グフは通路に仁王立ちになると左腕に装備したシールドガトリングを切り離した。「こちらも飛び道具はなしだ。白兵戦を楽しもうじゃないかね」と右手に握ったヒートサーベルを白熱化させた。「念のため言っておくが、サーベルを使っていると鞭は使えんから安心して斬り掛かってくるがいい」左手の人差し指をくいくいと動かし敵機を挑発するグフ。

 

「テメェ!ぶっ殺してやる!!」ホークの咆哮と共にビームサーベルを光らせ猛然と迫るRX-79。ビームサーベルを振り下ろすRX-79の斬撃を躱し、下段に構えたサーベルを振り上げ、RX-79の首を刈った。メインモニターが死に「何だと!?」と喚くホーク。

次の瞬間、振り下ろされたヒートサーベルに右手を斬り落とされる。攻撃手段を失い狼狽するホーク。「クソが!!」残った攻撃手段、蹴りをかまそうと脚を振り上げた次の瞬間、身体に強烈な痺れをおぼえた。例の鞭が今度は脚に絡みつき電撃を発したのだった。

 

強烈な痺れ、電撃を感じた次の瞬間、コックピット内部の照明がぜんぶ消えた。同時に機体が後ろ向きに倒れる。

「機体の電装が全部死んだのか!?」真っ暗なコックピットで狼狽するホーク。必死で機体の再起動をはかるが、ゴン、ゴンと衝撃と共にコックピットハッチが何か硬いものでこづかれている音が響く。今度こそブライアン・ホークは久方ぶりに悲鳴を上げた。このまま真っ暗なコックピットの中でサーベルか鞭に焼き切られる恐怖に震え上がった。

 

悲鳴を上げ目を見開いていると突然明るくなった。コックピットハッチが外部から開けられたらしい。

ホークは自分にライフルを向ける連邦軍制式パイロットスーツを見て「助かった!」と声を上げた。

「怪我はないかね、チャンピオン」そう声をかける青いひとつ目の巨人を目にして「うわあぁ!くるな!くるな!」ブライアン・ホークは巨人の視線から逃れるようにシートの後ろに隠れ身体を丸めている。

 

「ブライアン・ホーク、抗命と上官を後ろから撃ったアンタを拘束する」コックピットに入ってくるアルカナ中尉に「早くここから連れて行ってくれ!刑務所でもどこでも行くからアイツの手の届かない所に連れて行ってくれ!」と懇願するホーク。

「やれやれ。少々灸を据え過ぎたか」元プロボクシングのチャンピオンと聞いて覚悟を決めて戦闘に臨んだラルだったが、機体の性能、自身の反射と運動神経に頼り過ぎた相手に拍子抜けの思いだった。

 

 

「どうやら連隊長、連邦のチャンピオンに圧勝したみたいだね」ザビ家用の秘密通路をムーバーで移動するワシヤとフローベル。通信を傍受していたらいきなり延長戦を主張する連邦軍の狂人とそれを鎮圧に向かうランバ・ラル大佐、という状況に「!?!?」といった二人だったが、大佐が見事狂人を鎮圧したことをドナヒューからの通信で知り、一安心といったところだった。

 

「孤立してる部隊とはあらかた連絡がついたし、少なくとも要塞内部での戦闘は終結みたいね」「そうだね、ハニー」「ムリヤ、ムリヤ・パゾムよ」「なんだい?」「私の本名。郷里のブリュタールには10歳の妹がいるわ」「知りたくなかったなぁ。本名とか家族とか」「あら、これから自由ジオン軍とかに参加するんだから私は総帥府のスパイじゃなくなるのよ」「まだ分からん、というのが俺の正直な感想かな」

 

「そう、これからの働きで貴方の信用を勝ち取るしかない訳ね。とりあえず破壊されてなかったデータをサルベージしてきたわ」チップを手品のような手付きで掌に広げるリリアーナことムリヤ。ワシヤは苦笑しながらも「頼りになるね。これからもよろしく頼むよハニー」と恋人をねぎらった。

 




取り敢えず、というかソロモン要塞攻略戦は終了です。
次回はビグ・ザム対連邦第三艦隊の戦いがメインになるでしょう。

連邦軍はビグ・ザム対策にいくつか策を用意しているようですが、いかなることになるやら。
ご期待ください。

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