なんか仮想戦記っぽいタイトルになりました。
ガンダム・センチュリーのメンバー達やレビルには「ヒト・モノ・カネは俺に任せろ」みたいな
格好いいこと言ったおかげで、私の派閥メンバー達が関係各所を駆けずり回ることになった。
ミーティングの相手が将官だったりすると、私も出席してプレゼンする派閥メンバーの横に
座って時々頷きながら聞き、ミーティングの最後に「そういうことなんで頼みましたよ」と
にこやかにミーティング相手と握手する、というのがここ一週間のルーチンワークだ。
後方部隊のオフィスはまだ固まってるから歩いて数分(ダイエットのため、『動く歩道』)は
使っていない)で着くが、部隊のなかにはオフィスが数キロ先、というところがあるので
私は折りたたみの小さな自転車を買い込み、移動に使っていた。お付きの副官はエレカーで
行ってもらう事が多いが、マエバラ少佐は自転車(オーダーメイドのロードバイクだそうだ)で
護衛を兼ねて並走してくれた。閣下もロードバイクにされたらいいのでは?と言われたが、
まぁ、もっとすっきりした体形になったら検討しよう。「サーカスの自転車に乗るクマ」
という陰口を叩かれながらも娘婿ダニーのオススメ自転車は小さいのにすいすい進む、
アポ先のオフィスに着くと先に着いたエレカに自転車を折りたたんで仕舞う。
ミーティングが終わると自転車を取り出し組み立てて自分のオフィスまで漕いで行く。
なんで、ダイエットする気になったって?そら、人間ドックで色々悪い数値が出たからだよ。
ドクターは降圧剤だのいくつか薬を出してくれたが、「痩せるのが一番ですよ」と言われ、
こうして自転車漕いだり、歩いたりしてる訳だ。
妻のキャシーも私の健康を慮ってオレンジチキンは私の好きなモモ肉ではなく胸肉になった。
幸い彼女は料理上手で、胸肉でもパサパサにならず、相変わらず美味しい。あと、全体的に
薄味になった気がする、塩分控えめというやつだ。晩酌も量を減らし休肝日をもうけた。
リー君に淹れてもらうコーヒーもブラックで飲んでいる。
まぁ、ここところは健康に気を使ってる訳です。肝心なところでまた心臓イカれてあの世行き
は御免被りたいからね。
一週間で2キロ痩せた。たいしたもんだと思っていたら私のトレーナー役の副官から「薄味料理
と晩酌のビールが減ったお陰でしょう」と言われた。要するに水ぶくれの体から少し水が
抜けた、とういうことか、まぁ汗もかいたしね。 彼(護衛兼任の陸軍特殊部隊上がりだ)
からは「トレーニングの効果はこれからです。頑張って続けましょう」と励まされ、定時後に
ジムに連れて行かれ筋トレする羽目になった。トレーニング中めちゃくちゃ励ましてくれる
ので、ついつい頑張りすぎて2日後筋肉痛になった。
そいえばその副官、筋肉体操に出てる植木屋さんに似てる。
ところで、最後の派閥、というより軍閥の長、といえるジーン・コリニー第二艦隊司令を引き込む
のは先に延ばしていた。漏れ聞くR作戦に対する彼の反応はアレルギーそのもの、だという。
そんな時にのこのこでかけて行ったら追い返されれ塩まかれそうだ。
「硬い陣地は迂回せよ」が軍事の定石だ。嫌なことを後回しにしてるんじゃないよ、うん。
なかなか全員のスケジュールが合わず開催できなかったが、マエバラ少佐とリー大尉の
頑張りでスケジュールの調整が付き、旧ゴップ派とガンダム・センチュリーの顔合わせ
を兼ねた懇親会を統合参謀本部ビル近くのホテルで催すことができた。
ホテルといっても軍人共済会が経営してるところなんで、身内同然だ。
従業員も退役した軍人が多いし、支配人は私の士官学校時代の後輩だし、そんなことで
予算な割に豪華なパーティができた。ゴップ派諸君の慰労も兼ねてるしね。
形式は立食パーティなのでいろんなメンバーと話すことができる。と、いうか
私のとこにいろんなメンバーが来て話しては別のとこに行く、という形になった。
私の頭上にはチカチカ光を発する超小型ドローンが飛び、会場のどこからでも
私がどこにいるか分かるようになっている。
自立式だから、誰かパーティそっちのけで操作してるとかないよ、うん。
話題は古参が若い人を親分の前に連れてくるのが多い、お目見えというところか。
「軍人の節度をはみ出さない程度に楽しんでくれたまえ」的なことを口角を上げて
(しつこいが微笑んでるつもりだ)若い人達に意識して穏やかな口調で話しかける。
前世の若い人達が、うぇ~い!的なテンションで盛り上がる職場の飲み会は正直
苦痛だったが、軍人さんというのは酒席でもちゃんとしてるものなのだなぁ。
アムロの実家で飲んだくれてた連中は空前の大虐殺と大敗北で心が折れたんだろう、
と今のゴップな私は思うのだ。
私のとこへ来る列をなんとか捌くと、やっと
彼もグラスを片手にガンダム・センチュリーのメンバーや旧ゴップ派の
メンバーと話していたが、私の周りの人垣が途切れてのを見計らってこっちに
来てくれた。
「みんな打ち解けてくれているようで嬉しいね」ゴップ派の人間がいるので佐藤さんに
話しかけるようにはいかない。私は大将にして軍の顕官、彼は少将にして情報部次長
なのだ。
「はい。閣下のご高配、有難くあります」と慇懃に頭を下げるエルラン。
こっちを方をチラ見みてるゴップ派の幹部たちが視界に入る。彼らから見たらエルランは
一派を引き連れてきたとはいえ派閥の新参者だ。一挙一動を鵜の目鷹の目で注目している。
なにしろ技術や戦術に関しては保守的だった
新型艦だの言い出したのだ。ヘボン君をはじめとする後方部署のメンバーは大変多忙な日々を
送ってもらうことになった。エルランを「親分におかしなことを吹き込む山師」と思ってるかも
しれない。
私は囁くような声で「みんな貴方の粗を探そうと必死なようだ」と日本語で言った。
姿勢と顔の表情はそのままで、だ。どうもこういう場所でも「ここだけの話」をできるよう
ゴップが身につけた特技らしい。前線向きじゃないってだけでこいつも立派なチートキャラ
だなぁ。
ようですなぁ。まぁ、しかたありませんが。彼らには『D day』を迎えれば分かってくれる、
と思っとります」とこっちは公用語で返す。そう、全てはU.C.0079 01 03の破局を回避する為
なのだ。ここ最近の激務のせいか資材司令部ビル喫煙スペースでぐったりながら死んだ魚の目で
葉巻(彼の数少ない道楽だ)を吹かしてるヘボン君もきっと分かってくれる。
懇親会が終わり、飲み(話し)足りないメンバーは親しい者同士で二次会に流れていく。
私は最上階のバーに
きていた。アダムス大尉は明日早くに会議があると帰った。
会場からついてきたホテルの支配人は私達を個室に通してくれた。
この部屋は盗聴対策済みで、表向きじゃない話をする時によく使う。
「お疲れ様でした!」私が乾杯の音頭を取るとみなグラスを掲げる。
「佐藤さんには不愉快な思いをさせてしまって申し訳ない…」と頭を下げると、
「いやいや、そんなことありませんって山田さん」と佐藤さん、続けて
「これでわだかまりが無くなるなどとは思ってませんが、山田さんのお仲間の
何人かは私が情報部で手に入れたデータを携帯(端末)で見せながらR計画に
ついて直接説明できました。実り多い集まりだったと思います」と逆に頭を下げられた。
「そう思って貰えるとうれしいですよ、本当に」私が少しほっとした表情になると
「飲みましょう!山田さん」と佐藤さんが陽気にグラスを空にする。
彼が飲んでるのはヴェスパー、F91の脇に付いてるアレじゃなくイアン・フレミングが
考案し、彼の主人公ジェームス・ボンド中佐が愛飲するカクテルだ。
名前の由来は初代のボンドガールの名前だったそうだ。
情報部ではこれかウォッカ入りのマティーニが定番なのだそうだ。
やっぱりスパイは酒に強くないと駄目なのだろうか。
その意味じゃ佐藤さん、なりきってるなぁ。まぁ、悪人顔な彼が飲んでるといかにも
悪だくみしてるように見えるんだけど。
酒が回ったのか、目の周りが赤くなった佐藤さんはウッディ大尉の方を見ると
「実は彼と初対面の時、明確な殺意を持った目で見られましてねぇ~」と言うと、
ウッディは「あの時はすいませんでした!」土下座でもしそうなテンションで謝る。
「でも、閣下、いや佐藤さんが転生者とは知らなくて、『マチルダ中尉の仇!』と思って
睨んじゃったんですよ。横にいたアダムスが慌てて取りなしてくれなかったらどうなって
いたことか。当時はまだマチルダとは知り合ってなかったんですけどね」とウッディ。
あ、やっぱりマチルダ中尉といい仲なのか、こいつ。まぁ、私も私生活は恵まれてると
思うので爆発しろ!とかシャアズゴに潰されろ!とか言わない。
「そういえば、ウッディ君は前世何をしてた人?」と私がたずねると
「石田、という日本人で護衛艦も造ってる会社で設計部門にいました。大学出たてで
下っ端も下っ端です」と恥ずかしそうにいう。ほ~、あの新型艦郡は前世の経験が活かされて
るのかぁ。と感心してると、ウッディこと石田君は少し寂しそうな顔になり、
「実は前世についてだんだん記憶が薄れてきてるんです。ぼく、いえ私が前世を思い出した
のは中学生の時です。それで、自分が何が出来るか、と思った時に造船関係で連邦軍を強化
しようと思い軍の奨学金で大学の工学部を出て軍の技術本部に志願したんです。高校生の頃は
前世の記憶がかなり鮮明で宇宙世紀のCADソフトに触れてもすぐ使えるようになったんですが、
最近は自分の下の名前がなんだったからすら思い出せなくなってます…」と語った。
リーも「実は僕も似たようなもので、リアルは断片的な映像の記憶しか残っていません。
でも、台北の街の風景はどんどん忘れていくのに自分が組んだガンプラだけは鮮明に
憶えてるんですよ。それと画面の中のガンダムシリーズの記憶ですね」
マエバラ君も「自分が憶えているのは陸上自衛隊の記憶ですね。防大の授業や訓練、
任官した後のことですとか。災害派遣に出てましたので、被災地の映像は頭に焼き付いてます。
それとガンダムをはじめとするアニメや漫画ですね。ミリタリーもの漫画が好きでした。
私生活については自分の名前や肉親についてももう…」
するとリーも「僕も徴兵で受けた訓練や座学は憶えてます」と補足した。
佐藤さんが「そういう
怪しくなっています。ただ、ガンダムの記憶だけはやけに鮮明なんですよ。宇宙世紀以外の
アナザーシリーズもです。私が最後に見たOOの記憶もかなり鮮明に残ってます。
TVの画面の外、自分の部屋の光景とか年々ぼやけていって今では画面の外は真っ白です。
それとヤマトとかマクロス、ボトムスやバイファムといったメカものアニメは憶えてますね。
おそらくはD day回避に必要な知識だけが残っているのだと思います」
そうなのか、いずれは私も前の妻や娘のことも忘れてしまうのだろうか…。
「まぁ、これからのために生きろ、っていうこの世界の神様かなんかの計らいかもしれませんよ」
と慰めるように言ったが、無神経だったろうか。
すると佐藤さんが「いかん、いかん。話が湿っぽくなりました。山田さんの言う通りです。
これからの人生が大切なんです。なにせ我々はこの先の時代にも責任を負ってるのですからな!」
そうだ、宇宙世紀が血に塗れ、悲劇が再生産され、遂には人肉食を制度化する野蛮に落ちる
まさしく黒歴史となるかの分岐点にいるのだ、今の私達は…
私はすっかり湿っぽくなった場の空気を変えようと、
「そういや、私をガンダム・センチュリーに誘ってくれたのがマエバラ君だったり、佐藤さんの
身の上、ウッディ君やアダムス君のプレゼン見て、なんか既視感あるなぁと思ってたら、
ああ、コレ『紺碧の艦隊』だと思ったんです。あれも戦艦大和止めっちゃたりしてたでしょ」と
話題を振ると、「ああ、『紺碧の艦隊』憶えてます!私が仮に高野五十六だとしたら山田さんは
さしずめ大高弥三郎ですな!」と「ははっ!奇想ですなぁ!」なテンションな佐藤さん。
「いや、私はあんなカリスマ性ないですよ」と照れる私。
若手3人は『紺碧』をはじめとする艦隊シリーズ知らないのか話題についていけないらしい。
「マエバラ君は前世で仮想戦記は読んでなかったの?ミリタリーもの好きでしょ」と聞くと
「ええ、『シュバルツシュマーケン』で内田弘樹は何冊か、そこから佐藤大輔の本は何冊か
読んでましたね。
山田さんがいった『こんぺきのかんたい』というのはアニメ版らしい震電のような機体が
B-29を迎撃してる映像だけがおぼろげに…」なんと!富嶽号を指揮するもう一人の主役と
同じ名なのに『紺碧の艦隊』を知らないのか。まぁ、90年代の作品だからね、しょうがないね。
あと震電みたいなのは蒼莱だね、57mm砲積んでるんだよ。
佐藤さんも「マエバラ君に『君が指揮するフネは富嶽号と名付けよう』と言ったら
『なんすか、それ』って顔されまして、スベリたおしたなぁ、と思いましたよ」と笑ってる。
なんか場が和やかになった。ありがとう荒巻先生。
その後は転生者同士でしか話せない前世の「あれ憶えてる?」という話題で盛りがった。
その数日後、私は第二艦隊司令官ジーン・コリニー中将のオフィスをアポ無しで訪ねた。
その日の午後は彼の予定が空いてるのを確認したうえでだ。
コリニーは(コイツ、ナニしに来た?)という顔をしながら口では
「閣下、ご用があるのでしたら、自分が伺いましたのに」といけしゃあしゃあと言った。
私はさっさとオフィスのソファーに座ると、「実は貴官にいい話をもってきたんだ」と
切り出した。
コリニーは私の正面に座ると「例のブリキ人形のことですかな?」と不快感も露わに言った。
彼は当然私がそのブリキ人形の量産を推進してるのも知ってる筈で、なんというかコイツこんな
性格でよく中将にまで出世できたな、と思う程だ。
ジーン・コリニー、出身はスコットランド(宇宙世紀ではイギリスの一部ではなく単独で
連邦加盟国)のグラスゴー、ルーツのせいかワイアットとは仲が悪く「没落貴族の成れの果て」
とか陰口を叩いてる。
元海軍の原潜乗りで、反連邦軍事勢力相手に盛大に巡航ミサイル(AGM-045『バード』)を
お見舞いしてたのが自慢だ。流石に通常弾頭だったそうだが。
彼のオフィスには最初の乗艦、潜水艦ヴィクトリアスの模型が飾ってある。
「あのパニック映画の出来損ないは拝見しましたが、仮にギレンがあのようなことを目論んで
いるのなら、査察団を送り込み、それを拒否、あるいは化学兵器を発見したら宣戦してサイド3を
全面核攻撃してやればいいのですよ。コロニーは逃げられませんからな、ミノフスキー粒子関係
なしに旧世紀からの在庫でも充分でしょう」
なんか極端なこと言い出したぞ。この発想がジャミトフとティターンズに継承されるのだろうな。
こいつには手加減は無用なようだ…
私は下からねめつけるようにな目つきでコリニーを睨み(
「貴官は次の世紀が宇宙市民と地球市民が最後の一人まで殺し合う歴史がお望みかね?」と
口調は穏やかに尋ねた。
視界の片隅でコリニーの首筋に冷や汗が一筋流れるのが見える。ん?めっちゃ強面で勇ましいこと
を言うが、受けに回ると弱いのか?、と思っていると秘書官の女性将校が目を輝かせてた。
彼女の脳内で私達はどんな格好をさせられてるのか…
「圧倒的な力を目にすれば不逞の輩もなりを潜めるでしょう…」と少し声のトーンを落として
反論するコリニー。
「『いつ自分たちもジオンの様に
思えば、恐怖から持てる力全てを使って地球を攻撃するだろうな。
私には宇宙の民が地球を直接攻撃する手段など両手の指では足りんくらい思いつくがね。
別にコロニーじゃなくてもその材料になる資源衛星を落とせばいい。
中は大半が空気のコロニーより中身の詰まった岩の方が被害は遥かに大きい。
宇宙船に核廃棄物や化学廃棄物を満載して落す手もあるな。
それと月のマスドライバー施設とレーザー発振器なら推進機を必要とせずに大質量を地球に
落とせる。サイド全てと月面の全面攻撃があれば一ヶ月かそこらで地球は舞い上がった粉塵と
活発化した火山の噴煙で氷河期に逆戻りだろう。汚染された海と大地を抱えてね」
長らく戦略兵器(当然質量爆弾も含まれる)に関わってきたコリニーはおそらく自分も想定した
だろう情景を想像したのか気圧されたような顔になった。
私は肩を竦めると「経済界にとっても宇宙は大きな市場だ。そんなバカをやる軍を放っておく
はずがないだろうね。ここジャブローが戦場になるかもしれんよ?」と今度は飄々と大規模
テロ、というより内戦を匂わす。私の知る宇宙世紀で起きた戦争だ。
実際にコリニーの弟子たちに抵抗したのはアナハイムや地球の企業から資金が
出ていた組織だし、ルオ商会の様なMSを装備した私兵を持つ企業すらあった。
「大体、私企業がそんな力を持つ現状こそがおかしいのですよ。奴らは政府の目の届か
ない宇宙で好き勝手をやっておるのです。ジオンの独立宣言とやらもアナハイムの
マッチポンプなのではないかと、自分は考えておるのです」けしからん!と腕を組み
目を閉じるコリニー。
おそらくは単なる陰謀論とは言えないのが宇宙世紀なのだが…
「ま、仮にジオンに査察を要求して開戦となっても貴官はその前線に立たないから心配しないで
ほしい」と私は両手を広げ心配するな、というポーズをする。当然煽っている。
憮然とするコリニー。彼は自分が第二艦隊司令官から転出する内示を一週間前に受けた。
なのに、後任の長官が誰なのかも、次に自分がどこに行くかも未だ知らされていない。
おかげで引き継ぎもできず所在なくオフィスにいるしかなかった訳だ。
まぁ、あんだけ敵をつくっておいて今まで正規艦隊司令のポストを取り上げられなかった
のは軍の事なかれ主義のお陰だな。
私はにこやかに(見様によってはにたぁ、と)笑い「貴官は来月一日を持って統合参謀本部
参事官として勤務してもらうことになった。参謀本部としても心強いよ」と昇進を祝うような
口調で言うとコリニーの顔が今度は青くなった。
参事官というポストは時代や国、組織によって違うが、連邦軍では退役間近の将官が就く
実権のない窓際ポストだ。オフィスも統合参謀本部ビルではなくビル街の外れの小さなビル、
別名:養老院、に置かれている。そこで退役までの日々を過ごすことになる。
別に毎日出勤する必要はないので、多くの者は第二の人生の準備を始めることになる。
再就職先を探す者、起業の準備をする者(何故か飲食業が多い)、政治家を目指し
故郷で運動を始める者、など様々だ。
「まぁ、長期休暇を取って故郷のスコッドランドに行ってもいいかもしれんね。
スカパ・フローには君の若い頃の知り合いがたくさんいるのではないかね。
思い出話に花を咲かせるのも良いだろう…」
実のところ、人事院はコリニーから第二艦隊を取り上げるのと同時に参事官の
ポストを内示するつもりだったのだが、私がそれを止めていた。
窓際ポスト行きを回避するため彼が派閥を動かしたり、付き合いのある政治家に
縋ったりする時間を奪ったのだ。
彼はいつの間にか大迂回した私に退路を塞がれた形になった訳だねぇ。
コリニーは「閣下、自分の行く末をご心配いただき有難くありますが、そんな
ご用でいらしたのではないでしょう」と流石に自分の立場を弁え、本題は
窓際ポストからもっとマシな異動先を餌にした取引だろう、気付いたようだ。
遅かったねぇ。自分が包囲下にあるのを今更認識したとして、出来るのは白旗を
上げる位じゃないのかね?
「そこで最初に言ったいい話なんだがね」私はまぁ、慌てなさんなという素振りで
「君の艦隊勇退を一年伸ばそうか、と思っていてね。君も提督で退役した方が後々
に役立つだろ?」私はこの男が退役後政界に進出するつもりなのを掴んでいた。
その時には現役提督からパラシュート候補になった方が有利だろう。
第二艦隊でよほど嫌われていなければ、将兵や関係部署、取引のある企業が
彼の票田となる。
「それと引き換えに‥R作戦ですかな」と、まいったと言わんばかりのコリニー。
「ああ、参謀本部へ採用の上申、搭乗員や陸戦隊員、さらに志願者に操縦適性試験、
あとは教導団への選抜適格者の派遣、といったところだね」と、微笑む私。
ね、お安いでしょう、とTV通販のMCみたいな感じで言うと。
「まぁ、その程度でしたら…」と思ってたよりずっと条件が緩いのに安心した
顔のコリニー。
実のところ、第二艦隊の幕僚とか全取っ替えするんだけどね、と私は内心ほくそ笑んだ。
来年、0078の年末までに新戦術に対応した艦隊にしなくてはならないからだ。
コリニーが今後、人事をはじめ艦隊運営で私に異議を唱えれば即解任する手はずになっている。
その時の弾、彼のスキャンダルも掴んでいるのだ。
実のところ、コロニーの住人を「あの缶詰に入ったオイルサーディン共」と彼が言ってるを
隠し撮りした動画だったりするけど。「缶詰」というのはコロニー住人に対する侮蔑語で
コロニー出身も多い連邦軍ではタブー視されている言葉だ。ネットに放流したらさぞかし派手に
燃えるだろうねぇ。
普段は軍の批判などめったにしない大手メディアも軍高官、しかもコロニー防衛の任に就く
者の暴言を非難するキャンペーンを張るだろう。
念を入れて「コリニー中将、大将として退役できるよう言動には気を付けて欲しい。
正規艦隊司令が差別発言で更迭など、軍の権威に関わる」と顔を引き締めて釘を差した。
もっとも、もう動画はあるんだけどね。
お飾りとなった艦隊司令をトップにいただく最保守派は別のトップを据えるか、
分派することになるだろう。実のところ、地球生まれと言っても団結している訳ではない。
コリニーとワイアットのように過去の因縁から反目し合うことも多いのだ。
宇宙市民を見下す、この一点によってのみ一致しているのが現在のコリニー派だ。
おそらく資材司令部の兵站部にいるジャミトフ大佐あたりが最大の分派ボスになるだろう
なぁ。ティターンズの前身って連中だ。サイド3への化学兵器注入とか具申してきそう。
ジーン・コリニーという難敵を片付けても新たな敵の予感に私は気が重くなった。
ジオンに勝ちました、内戦始まりました、はシャレにならない、ぶち壊しだ。
なんとかゴップは連邦軍の大派閥攻略を成し遂げたようです。
コリニーにはゴップの持てる根回し力を全解放して追い詰めてます。
次の話からR作戦スタートですが、そろそろ戦闘シーン入れたいなぁ、と。
THE ORIGINのスミス海以外にもギレンとかキシリアが反連邦組織に色々流して
煽ったりしてるんじゃないかなぁ、と考えてますので。
ジオン(サイド3)に核攻撃ですが、感想を頂いた方のアイデアです。
ゴップに酷評させる形になり、申し訳ないですが、彼らの最終目的は一年戦争の
できるだけ穏便な終戦なのでサイド3のコロニーへ直接攻撃だけはしないのです。
若き日のジーンさんがぶっ放したSLCMの元ネタはゴッドフェニックス号の
バードミサイルです。