私達のルナツー出張はまだ続いている。
教導団視察の次の日は第三艦隊の演習、ただしサイバー空間での机上演習、を視察した。
BM-01バムより早く量産に入ったGW-01ワルキューレは第三艦隊に現在32機が配備されている。
そのBW-01を第三艦隊司令ワイアットは防空、偵察、着弾観測に便利に使っていた。
パイロットはかなり消耗しているのではないか、と彼に尋ねると食事のカロリーを増やし、
パイロットの定員も増やし三直体制を引いている、と答えが帰ってきた。
「これからの戦いは貴官達が主役だ!」と心理面で持ち上げるのを忘れていない、とも言った。
やはり、能力はある男なんだなぁ、ただし、いい事いってもなんか半笑いで言ってるみたいに
見えて印象的には損してる。
そんな事を回想していると、統制官が演習の状況開始を通達する。
想定する戦場はサイド5「ルウム」近海、対抗部隊は想定されるジオン宇宙攻撃艦隊のほぼ
全力だ。戦艦グワランがドズル・ザビ中将の旗艦のようで将旗を掲げている。
マエバラ君によると、グワラン以外はTHE ORIGIN 第5話「激突 ルウム会戦」とほぼ同程度
だそうだ。この想定もガンダム・センチュリーによるものということだ。
ジオンが持てる艦艇ほぼ全てなのに第三艦隊は連邦が宇宙に上げている総戦力の25%に過ぎない。
まだ、MSも配備されてないしね。
宇宙艦艇同士のメガ粒子砲の撃ち合いは第三艦隊の優勢のうちに進んだ。
マゼラン級の主砲を大口径化したのが効いてるようだ。
アニメのルウム会戦ならそろそろシャアをはじめとするMS隊が奇襲をかける頃だな、
と思うと艦隊の周囲を警戒していたGW-01が突然急降下を始めた。
机上演習の会場となったルナツー第二司令室のメインスクリーンにワルキューレと
ザクの戦闘が映し出される。流石双発機、と言うべきか、ワルキューレは一撃離脱を
繰り返している。ビームが一閃、ミサイルが乱れ飛び一航過ごとにに数機のザクが
火の玉に変わる、ザクマシンガンの連射で被弾するワルキューレはいるが、こちらも
正面装甲はBM並に強固であり、被弾にも怯むこと無く一撃して降下、を続けている。
効果がありそうな、ザクバズーカは弾速が遅いロケット弾でこちらは運の悪い機体が
正面から激突する以外は命中しない。
流石に赤いのや黒い3機、青いのには攻撃後の降下時を狙い打たれて、数機が撃墜される。
ザク隊はGWとの戦闘を繰り広げつつ、連邦艦隊に近づいてきた。
連邦艦隊は標的を敵艦からMS隊に変更し、メガ粒子砲を撃ちかける。
碌に回避行動を取らない迂闊なザクや運の悪いザクがメガ粒子の奔流に撃ち抜かれ火球に
変わる。
さらにザク隊が接近すると、いつの間にか艦隊外側に位置取りする小型艦からビームが
伸びる。防空駆逐艦マシュー・ペリー級がマゼラン、サラミスの倍は早い発射速度で
小型の砲塔からメガ粒子を放つ。ザクの回避速度に追随できる程砲塔の旋回速度は速い。
何条かの光線に追いかけられたザクは遂に絡め取られ火球に変わる。
中には頭と四肢をもがれてから胴体を撃ち抜かれ爆発する機体すらあった。
ビームの火線をくぐり抜けたザクをRIM-072「テンプレート」防空ミサイルが襲い
かかる。当然のようにザクは回避するが、その逃げた先にRIM-072は追随する。
ザクは腕のシールドで受ける。流石に一発で撃破、とはいかず。右腕をシールドごと
もがれたそのザクは後退していった。他の072を被弾したザクは一撃で撃破される
ことはないが手足を損傷し、072はミッションキル(任務阻止)に成功したようだ。
さらに接近するザクには100mmCIWSと防空ドローン「ボール」が作り出す
文字通りの弾幕が展開される。この劣化ウランの暴風雨を掻い潜ってバズーカの
射点にまで着けたのは両手の指で数える程度だろうか。それでもその少数は
おそらくは核弾頭でマゼランやサラミスを圧し折るように撃沈していく。
専用カラーの連中は1機で2隻、3隻と沈めていった。
やはりMSに懐に入られると艦艇は為す術がなくなるなぁ。
弾を撃ち尽くしたのかザクは引き上げ、その頃にはメガ粒子砲で火力支援
していたジオン艦隊も撤退していた。
偵察機GW-01Eが敵の戦域からの撤退を確認したところで状況終了が
告げられた。
ジオン艦隊はコロニーを直接攻撃できず、演習は第三艦隊の勝利、
第三艦隊の被害はマゼラン級10、サラミス級18、駆逐艦20、GW10撃墜、
12が損傷(うち6機が全損)だった。
演習後、ワイアットは肩をすくめて「昨日のMS教導団の演習でも思いましたが、
対艦攻撃機としてのMSはいやはや大したものですな。あの色付きとかツノ付きは
向こうの教導団パイロットでしょうか。ウチにも早く教導団から教官を寄越
して欲しいものです」と、天気の話でもする感じで感想を述べた。
「BM-01配備後は新しい戦術を閣下にご披露することをお約束しましょう」
とも言っていたが。
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====ここより物語はしばしボブ・ゴップの視点を離れる。
ウィリアム(ウィリー)・ケンプは米空軍のF-35A ライトニング IIのパイロットだった。
基地で疫病の感染者が発生し、自宅待機中に退屈した彼はバイクで官舎を飛び出し、
運転を誤って道路からバイクごとダイブする羽目になった。
目を覚まし、ここは天国かと思ったら、そこは片田舎の納屋だった。
そこには軽飛行機が駐機してあり、干し草のブロックもしまってあったので、農家の
納屋らしいという推測が付いたのだ。納屋から出るとそこは一面の牧草地で、牛が
草を食み、視界の中には自宅らしい家屋以外建物は見当たらなあかったので片田舎
と判断したのだ。この風景は彼に郷里アーカンソー州の伯父の農園を思い起こさせた。
ただし、ポケットに入ってるスマートフォンには「May 15th 0070 」と表示されていた。
AEとかいう会社のロゴが入ったスマホの中にはこちらの彼の趣味らしい航空雑誌が
電子書籍として入っている。興味にかられ読んでみると「地球連邦軍の新型戦闘機
フライマンタ」という見出しにキングコブラの出来損ないのような飛行機の写真が
掲載されている。こんな形なのに最高速度はマッハ3.6も出るのだという。
機種としては海軍のF/A-18のような戦闘攻撃機らしい。
うっすらと思い出したこの世界の記憶を辿り、自室に帰ると地球連邦空軍士官学校
の合格通知が机に置いてある。「惑星連邦の宇宙艦隊じゃなくて良かったぜ。
FAXみてえに電送されなくて済むからな」と独り言ちた。
U.C.0077 10月、ウィリー・ケンプは連邦空軍中尉として、「キングコブラの
出来損ない」フライマンタでアフリカ大陸上空を飛んでいた。
勿論遊覧飛行ではないので武装している。自動追尾型30mm機関砲、3連装多目的
ミサイルランチャー、さらに500ポンド誘導爆弾を8発搭載している。
これを「反地球連邦武装勢力」とやらにお見舞いするのだが、彼のヘルメット
UHD(ヘッドアップ・ディスプレイ)は出鱈目な表示を繰り返し、無線には
僚機の悲鳴がこだまする。
彼は前世でAmazonやNetflix、YouTubeでガンダムシリーズを視聴していたお陰で
これが「ミノフスキー粒子」とやらの仕業なのを知っていた。
「WBでオスカー&マーカーが見てたのはレーダー画面じゃねぇのかよ!F◯◯◯!」
彼は4文字言葉を連発しながら、機体を急降下させ、ほぼ目測で爆弾とミサイルを
ばら撒き急上昇する。爆弾やミサイルは直撃こそしないものの、装甲車や武装トラック
数台を爆風で周囲の敵兵ごと吹き飛ばし、生き残った敵兵がMANPADS(携帯対空ミサイル)を
彼の機体目掛けて発射するが、全て明後日の方向に飛び去った。
「例の粒子はチップもオシャカにするんだぜ。ジオン野郎、取説にそんなことも
書いてやがらねぇのか」彼、ウィリー・ケンプは毒づいた。
「にしても、M粒子発生機をゲリラに毛の生えたような連中が持ってるとはな」
やはり2年後に大戦争は起こるらしい。このまま空軍に居たらコロニー落としか、
ジオンの降下作戦で自分は死ぬだろう。暗澹たる気持ちでダカール郊外の基地に帰還すると、
レーダーを背負ったデブロックAWACS機の機長、たしか中佐、が話しかけてきた。
「貴様はミノフスキー粒子の効果を知っていたな?」と尋ねるので「まぁ、だいたいは…
実際に体験したのは初めてですがね」と答えると「前は何人だった?俺はアメリカ、元マリーンだ」
と胸を張った。うぇ、海兵かよ、と内心思いつつ相手は上官なので、「アメリカ、空軍でした」
と答えると「ようこそ宇宙世紀へケンプ中尉。我々は君を歓迎する」と握手を求められた。
これがウィリー・ケンプのガンダム・センチュリーに加入した経緯である。
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恥ずかしながら帰って参りました(昭和モノマネ)ゴップです。
ルナツー出張から懐かしき穴ぐら、ジャブローに帰ってきた。
ヘボン君のとこから私の副官に戻ったバスク中尉には出張前にガンダム・センチュリー:G.C.
(略しましたよ)を含むゴップ派メンバーの勤務状況を纏めるよう指示をしておいたが、予想
どおり、というか予想外に酷い。若いメンバーは徹夜で2日連勤はあたりまえ、2徹、3徹する
者までいる…
彼のレポートには余録としてヘボン君の葉巻消費量が記載されていた。バスクを寄越してから
有為に本数が減ってる。まさかバスクが自分の能力を示すために記録したのではあるまい、
おそらく私の独り言を聞いていたのだろう。ヘボン君の肺と心臓はひとまず救われたの
だろうか。
しかし、このままでは過労で殉職者が出てしまう、なんとかしないとなぁ。
私は旧ゴップ派幹部全員を昼食に誘った。前の私はランチミーティングを自分から提案したことは
ないらしく、皆訝しげな顔をして私が手配した(バスクが全員の好みを調べ発注した)ランチ
ボックスを前に座っている。
「皆、よく集まってくれたね。実は話しておきたいことがあってね」と言うと顔のクマがだいぶ
薄くなった(ついでに毛髪も薄くなった)ヘボン君が「R作戦の進捗の遅れでしょうか?
我々としましても全力を尽くしておるのですが…」とすまなそうな顔をする。
私はいやいや違う、というポーズで「いや、そうじゃないんだ。私は君達の超過勤務を
気にしてるんだよ。確かに新機軸の兵器を量産、戦力化するのは並大抵の仕事ではない。
君達には無茶を強いてきた責任を感じているんだ。ステファン、君、いい年なのに徹夜を
繰り返してそうじゃないか、すまなかった。他のみんなも過酷な勤務を強いてすまなかった」
と頭を下げる私。皆、慌てている。
「頭を上げてください、閣下。我々もエルラン少将のところの若手が作った例の動画を見て、
R作戦が連邦、いや人類の興廃を決する、という決意で勤務に励んでまいりました。
全員我が身を投げ打つ覚悟なのです」とステファン・ヘボン大佐がメガネの奥で燃える目をして
決意を語る。
「いや、それではいけないんだ!0079 1月に起こるジオンの奇襲を撃退してそこで戦争は
終わらないし、ジオンとの戦争に勝利した後も連邦軍も世界も続いていくんだ。
そこには君達がいなくちゃいけない。連邦軍を背負って立つ将官でも、退役して企業務めや
起業してもいい、政治家になってもいいだろう。
どうか、休暇を取ってくれ、無茶な勤務はしないでくれ。これは命令ではなく友人と
してのお願いだ。君達の誰かを喪えば、私はととても悲しい思いをするだろう。今更身勝手な
お願いだが、頼む!」と頭を下げるとヘボン君が何か憑き物が落ちた顔になり
「了解しました。私も明日から3日間休暇を取ります。他の者も適宜休みを取ります。
どうかご安心ください。しかし、変わられましたな、閣下。前の閣下なら一人ひとり個別に
『休暇を取り給え』の一言だけ仰られたはずです」と言う。
良かった、次はG.C.のみんなか。彼らはある強烈な思いの元に結集している集団だ、簡単に
説得はできないだろう。
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G.C.を含むゴップ派SNSにバスクが撮影した先のランチミーティングと似たような内容の
動画を流しておいた。
若手の中には掲示板に「感激しました!」と書き込みをする者もいれば、「そうは言っても
もっと人が増えないと無理です」と冷めた反応もある。一応匿名掲示板なので皆本音で
書き込んでいるのだろう。まぁ、私の機密レベルだと氏名、所属まで丸見えになるんだけど。
私は娘夫婦が夕飯を食べに来た際に最も労務管理が進んでいるシステム軍団の実情を聞いてみた。
娘婿のダニーは各人が使う端末に勤務が連続8時間を越えると(端末の対人センサーで
勤務実態が判るらしい)休憩を取るようアラートが出る、と説明してくれたが、娘のドロシーは
「みんなそんなアラートなんか無視してるわ。そうじゃなきゃ納品日に間に合わないもの。
でも、私達のグループじゃ私が一人ひとりのデスク回ってスタッフをほぼ無理やり『今から30分
デスクに帰ってくるな、携帯端末もデスクに置いといて』って休憩させてるの。
そうしないと効率が落ちるし、病欠すれば数日、無理して休み取らなかったら数ヶ月ロス、
下手したら一生を棒に振るって前の職場で思い知ったから」と割と深刻な顔で言った。
「階級社会ってこういうとき命令できるから楽よね」と肩をすくめた。
娘が以前言っていた「みんなキラキラして働いてる」ネット企業の実情も似たようなものか。
キラキラ云々は娘なりの強がりだったのだろう。
水曜の5時には全員仕事を止めてピザとビールで乾杯、という習わしもキリのいいところ
じゃなくても休憩を取らせる知恵なのだろうなぁ。
妻は娘が民間勤めの間ずっと心配していたが、心理カウンセラーの業界じゃ「ITはブラック」
が常識だったんだろうな。
その晩、私は書斎でギレン・ザビの演説を見ていた。ジオン公国の公式チャンネルがあって
そこにアップされてる物だ。
この世界のギレンは銀河万丈氏のバリトンボイスではなく、彼の父に言わせると尻尾の主、
アドルフ・ヒトラーを彷彿とさせるいささか甲高い声だ。
しょっちゅう噛むし、言い間違いもする。だが、その辺りも含めてライブ感というか現実感
というか熱のようなものを感じさせる演説だった。
ただし、内容は月並みな人種主義だ。肌の色ではなく、住んでいる場所を自分たちの優秀さ
の根拠としているだけの話だ。
「宇宙に暮らす我々は
連邦は我々に支配権を寄越せ」というアレだ。
一年戦争を知っている者にしたら「なら何故同じ宇宙の住人を大虐殺したのだ」
と問い詰めたくなるだろう。
ギレンの演説にはコメントできない仕様になっているが、SNSには転生者なのか、彼が計画し
実行した大虐殺を予言するような書き込みもあった。
だいたいは「ハイハイ、医者行け頭のだぞ」と返されてるが。自分が連邦軍大将などいう
歴とした権力者ではなく市井の一市民として生まれ変わっていたら、どれほどの焦燥と
無力感を感じ、それでも何とかしないと、という使命感から一人でも多くの人に破局を
知らせるべくSNSに書き込むのではないか、と思った。
予言の書き込みからはそれらが伝わってくる。
同時にそのその焦りと強烈な使命感はG.C.の同志達からも時々伝わってくるものだった。
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今や昼食時など私的に使える時間ではなく、組織横断のプロジェクト会議としておおっぴらに
ガンダム・センチュリー(G.C.)のミーティングが開催できる。
私が招集したのは1000人を越えるジャブロー勤務の同志ほぼ全員、会場は大学の講堂
のような階段状のホール、ジャブロー最大の会議室だ。
実質的リーダーの
話し始めた。
「こんにちは。皆さんにはお忙しい中、時間を取って貰って申し訳ない。
どうしても言いたいことがあって、佐藤さんに無理を言って皆さんを集めてもらいました。
皆さんは私も含めて『機動戦士ガンダム』がフィクションとして存在する世界からおそらく
は亡くなることでこの宇宙世紀の世界へ生まれ変わった人々です。生まれ変わった上に
『ガンダム』のストーリーや設定の記憶を持ったままなのになにか超越者、神のような
存在の意思を感じた方も多いでしょう。『自分が転生したのはD dayに喪われる55億の
命を救うため神が宇宙世紀世界に召喚したのだ』とね。
その『神の意志』みたいなモノに突き動かされたようにR計画の立案と遂行に励んでこられた
のだと思います。
でもね、カミサマとやらの意思はともかく、あなた方は人間なんです。
誰かを自分を犠牲にしても救わなきゃならない、なんて思うのは『
っていうんですよ。私のこの世界の細君に言わせると学術用語じゃないらしいんですけどね。
誰かを助けることで『自分は幸せだ、自分には価値がある』と思う、いわば思い込みなんですよ。
正直前世の私は不遇の内に死にました。職を失ったその夜に胸の耐え難い痛みの中意識を失い
この世界に来たんです。同じような境遇の方も多かったのでは思っています。私の副官、
マエバラさんは過労死、リーさんは病死です。エルランである佐藤さんは不慮の事故で
亡くなりました。
私はね、不幸な前世であればある程、この世界では幸せになるべきなんじゃないかと
思うんですよ。そりゃあ、人類を救うのは大切な使命でしょう、それはわかります。
でもね、あなた方の一生と引き換えにすべきではない、と思うんです。
カミサマにしたら私達はゲームのコマで、失敗したらリセットボタンを押せばいい、
くらいに思ってるかもしれません、事実佐藤さんは二週目なわけで。
コマが潰れりゃ、また前の世界から死んだ奴を引っ張ってくりゃいい、と思ってるんでしょう。
私はふざけるな!と言いたい!こっちは腹も減るし、眠くなるし、疲れりゃ作業効率だって
落ちる人間なんだ!もしかしたら、この世界は連中が作った仮想空間で、我々の前世の
記憶だって彼らが作った設定なのかも、と思うことは時々あるんです。
が、自分が生きてきた生涯がフレーバーテキストだった、なんて冗談じゃない。
あちらに残してきた家族や親しい人たちがただの文字列であっていいはずがない。
私はね、この残酷な戦乱続きで最後は人が人を食うようになる宇宙世紀をね、ここから
変えるだけじゃなく、私達一人ひとりが幸せになることがこの世界を作ったクソッタレな
誰かさんの鼻をあかすことになる、と思うんですよ。
もしかしたら、そいつの頭はツルッパゲかもしれませんがね。(ここで会場に笑いが起きた)
とにかくです、0079 01 03まで我々の誰一人欠けることなくギレンの野望をぶっ潰しましょう!!
だから、過労で心身を病むとか死んでしまうのはナシにしましょうよ!
奴の野望を砕くのは我々全員だ! だから我々全員が大事なんです。キリのいいところじゃなくても
休みましょう!暇な日だって次の日に繋がる重要な日なんです!
お願いします!自分を大切にしてください!」
と、頭を下げたところで、私の一席は終わった。
連邦軍統合参謀本部議長ロバート・ゴップ大将では無く冴えない中年男山田次郎の言葉で
語るため同志を「あなた方」と呼び、敬語で話した。山田次郎なのでしょっちゅう演説中に
噛むし、言い間違いも多い。でも、ギレンの演説同様の現実感、のようなものを感じて貰えた
のではないかと思う。佐藤さんには「皆の過労が心配なので少し話したい」としか話して
いなかったのだが、涙ぐんでいた。彼こそこの中で一番、無力感と焦燥、使命感を感じてきた
男ではないか。佐藤さんにこそ幸せな人生を送って欲しい。
会場はシンとした雰囲気に包まれたが、佐藤さんが「山田さんの願いを現実とする為、
我々は何をすべきか?」と問いかけると次々にアイデアが提案された。
結論として、軍内部の転生者や民間の転生者を探すプロジェクトを正式に発足すること、
同志達が自分の信頼できる人間に前世のガンダム知識を話し、協力を仰ぐことが
話し合われた。
その晩、妻と娘夫婦に私は件の動画を見せ、自分は一度21世紀の日本で死んで宇宙世紀
に生まれ変わったこと、宇宙世紀の歴史が前世の「ガンダムシリーズ」と呼ばれるアニメ
シリーズやコミック、ゲームや小説のストーリーと酷似していること、なぜかなのか
今年の5月にそれを突如思い出したこと、ボブ・ゴップとしての記憶もちゃんとあること、
例の動画は自分と同じ境遇の者達が大勢いて彼らが制作したもの、このままでは2年後、
U.C.0079の1月3日に動画と同じことが起きて55億の人命が喪われる、だが、ジャブローは
無事なので君達は安全だ、私と同志達はこの悲劇を防ぐべく戦っている、と一気にまくし立てた。
家族には私が発狂した、と思われるかもと恐る恐る様子を覗うと
私を無言でハグし、
呆然としている。娘婿のダニーは「R作戦とは
と深刻な顔で言った。
ここ5ヶ月の私が以前と様子が違っていることや今まで付き合いの無い者たちと何事かを進めて
いることは家族は気がついていたようだ。
ヤマダジロウという見知らぬ異邦人ではなく、それまでのロバートゴップが送ってきた堅実な
人生で培った絆が彼らを信用させたのだろう。理屈でなく感情で私はそう判断した。
夫、父、舅は大ボラや妄想、冗談を真面目な顔で言う男ではない、と彼らは思ったのだろう。
ありがたいことだ。私は幸せな男だ、あんな演説をぶった奴が幸せでよかった、と本当に思う。
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====なお、この日、U.C.077 10月某日にゴップが秘密結社「ガンダム・センチネル」の
会員を前に語ったとされる演説は、50年後のU.C.127において音声記録公開を求める研究者が
連邦政府を相手取り起こされた裁判が連邦最高裁で審理中である。
この演説は「転生者の関与がジオン大戦の趨勢を決めた」とする、歴史家の一派
「リインカネーション」論者達にとって一級史料と目されている。
U.C.100に発行された匿名将校による回想録で存在が知られ、情報公開法に基づき
公開請求を受けた連邦政府はU.C.117に記録文書を公開したが、核心部分は黒塗りされていた。
かの演説は部下に超過勤務を避けるよう訴えた演説、がU.C.127時点の政府公式見解である。
本作はフィクションであり、実在の演出家、脚本家、漫画家、ゲームデザイナーとは関係ありません(断言)
ワイアット艦隊の机上演習、ケンプ中尉の登場、ブラックな職場環境に危機感を抱く
ゴップ:山田次郎の演説と言うか説得、という構成でお送りしまた。
ウィリー・ケンブはおそらく「TOPGUN マーベリック」の予告でも見てバイクで
走り出したんでしょう。
所謂転生モノで快適な職場環境志向なのは作者の知る限りでは元人事部のデグレチャフ少佐くらいなんですが、転生した主人公のアイデアを異世界で実現すべく必死で頑張ってる
人たちがいるんだろうな、というのが今回の構想となりました。
次回はスミス海の戦いまでたどり着けると良いな、思っております。