リストラおじさん、ゴップになる   作:寒原光雪

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ゴップ達転生者は、信頼できる人物達に自分たちが転生者であることを打ち明けます。
「ガンダム・センチュリー(G.C.)」は歴史の表舞台に登場するのでしょうか?


やっぱり本命はV作戦

妻たちに打ち明けた明くる日、私は議長公室に副官たちの最先任将校ウォーレン大佐、

とにかく無口な男でこれまでの話に出てこなかった。

と、アンナ・ビアンキ(マンマ)中佐、チャーリー・エルヴィン・ベッカーズ大尉、

バスク・オム中尉を呼んでマエバラ少佐、リー大尉と共に我々の身の上を明かした。

 

付き合いの古いウォーレン大佐はいきなり人が変わったかのような私に困惑して

いたそうだが、私が私であることは変わりないのだし、私に対する忠誠は

変わらない、と言った。無口な仕事人はこれからも私のため働いてくれるという、

ありがたいことだ。

 

チャーリー大尉は割とすんなり受け入れてくれたが、彼は別件で説得をしなくて

いけない、これを相談したら彼は私を見限るかもしれんなぁ。気が重い。

 

マンマ中佐はいつもと変わらずにっこり笑って「閣下もマエバラ君、リー君も苦労

なすったのね」と私達を労ってくれた。彼女の変わらなさは本当に救われる気がする、

 

バスク中尉は配属初日私達が完全武装で彼を迎えた理由を知って、恐れおののいた。

自分がジオンの捕虜になり拷問されることより、自分がコロニーに毒ガスを注入する

凶行に及ぶことを一番恐れた。「ぼく、いや自分は見た目通りの本物の怪物になる

ってことでしょうか…」呆然と呟くバスク。

 

私は彼を落ち着かせるため、R作戦によりジオンとの戦争は戦況が異なるだろうと

いうこと、彼さえよければずっとジャブロー勤務が可能なこと、さすればジオンの

捕虜にはならないことを話した。

バスクはひとまずは安心したようだが、自分の中に大量虐殺を行う獣性が眠っている、

と知りずっと両の手のひらを見ている。血塗れの両手を幻視しているのだろうか。

 

マンマ中佐がパンパン!と両手を叩いて「なんか湿っぽくなっちゃいましたわね。

お茶にしましょう、バスク君がチーズケーキ焼いて持って来てくれんたんですのよ。

本場のチーズケーキですよ」と明るくティータイムを宣言する。ひょうきん者の

リー大尉がそいつは見逃せませんねぇ、と言いながら従卒たちとお茶の用意を手伝う。

バスク中尉も私達全員にケーキを切り分けサーブしてくれた。

 

本場のバスクチーズケーキは本当に美味い。マンマ中佐はあっという間に平らげ、

おかわりしている。私は「君ね、私と一緒にダイエットするんじゃなかったかね?」と

とたしなめるとケロっとした顔で「このケーキ本当に(強調した)美味しいんですのよ。

バスクの悪魔ってこのケーキのことですわ。女性のダイエットしようって意思を

根こそぎ奪うんですもの」先程のバスクを気遣ったことを言った。

バスクは気弱な笑いを浮かべ、「中佐のお気に召して光栄です」と弱々しい声で答えた。

私も「バスク中尉、私も君の仕事ぶりに助けられてるよ。君の本当の才能は後方でこそ

発揮できると私は考えている。もっと自分に自信を持ちなさい」と穏やかな口調で言った。

 

ウォーレン大佐は3個めのチーズケーキをほうばりながら「オム中尉、軍人が嫌になったら

退役して店をやるといい。貴官には菓子職人の才能があるのは間違いないしな。

軍人共済会は低金利で開業資金を融資してくれるし、開業コンサルティングもしてくれる」

と軍人以外の生き方もあること、軍はそれを支援する用意があることをバスクに示した。

 

まぁ、数字にメチャクチャ強くて仕事の早い彼を手放すつもりは私にはないがね。

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私はチャーリー大尉だけ残るように指示し、後の者は退出を許可した。

チャーリーは意外そうな顔をしていたが、私とマエバラ、リーの深刻そうな顔を見て

居住まいを正し、「何かお話があるのですね」と言った。

 

私は意を決し合図をすると、リー大尉がG.C.の作ったアムロ・レイのプロモーション・ムービー

を流し始めた。U.C.0079 9月から12/31までの3ヶ月でMSを142機撃墜し、艦船を9隻を撃

沈すること、先の第三艦隊シミュレーションで大暴れした黒いザク3機と青いザクのような

エースたちも次々と彼に討ち取られること、ジオンが間違いなく投入するNT兵に対抗できる

どころか、敵のNT兵を戦わずに投降させられる可能性があること、をそのムービーは解説した。

勿論、アムロ・レイという今年13歳の少年がサイド7の1バンチに実在しているのは確認済みだ。

と、いうか現在も父、テム・レイ同様警護されている。こっそりと、だけど。

 

勿論、こんなムービーで納得するチャーリーでない事を私は知っている。

彼はチャイルドソルジャーの足抜けと社会への復帰をライフワークにしている男だ。

その彼が如何に大戦果をあげるからと子供の徴兵を是とするはずがない。

 

私はデスクの上で両手を組み合わせ、その後ろに口がくるポーズ(グラサンヒゲ親父のポーズ)

でチャーリー大尉に話しかけた。ここは山田ではなくゴップに徹した方がいい、これから話す

のは道義的に許される筈などないのだから。

「このパイロットが実在するとしたら貴官はどう思う?ベッカーズ大尉」

私は8割方チャーリー大尉が私の副官を辞め転属願いを出すだろう、と思いながら彼に語り

かけた。声も意図的に感情を込めず冷たい声で話す。

 

「まるでエスパーですな、このパイロットは。そして閣下は子供を戦場に送ってでも

仕留めなければならない敵、いや彼でなければ仕留められない敵がいる、とお考えに?」

と感嘆した様子からずばりと私の本音を言い当てるチャーリー、いやベッカーズ大尉。

 

「貴官も視察した演習、あそこで暴れてた色付きの連中、特に凄いスピードで動いてた

赤いのは教導団の猛者達でも手を焼くだろう。戦死者も出るだろうな。だが、『彼』が

RX-78に乗れば勝てる。『彼』こそが我々のジョーカーなんだよ」

 

すると、ベッカーズ大尉は感情を消した指揮官の顔になり、「この少年をMSに乗せる、

パイロットとして徴用することで勝てる。ならば用いるべし、という閣下の判断に

副官である小職が異論を挟む余地はありません」と直立不動で冷徹に返すベッカーズ。

内心では葛藤があってもそれを見せない彼はプロの軍人だ。

 

私はそのプロフェッショナリズムにつけ込み、さらに厚顔無恥な提案をした。

「ベッカーズ大尉、アムロ・レイ君を含むニュータイプ少年兵達だが…貴官が指揮を

取ってはどうかな?」今度は流石のベッカーズ大尉も顔色を変えた。

「閣下、小職は彼、アムロ君の戦いぶりを存じませんし、彼の人となりも存じません。

前世で彼の活躍を知る将校の方が上手く彼を指揮できると愚行します」顔色こそ

少し変わったものの声は冷静なままだ。

 

「それは違うと思うね。我々転生者は予断無しに彼と接することはできない。

我々が知る彼と現実の彼とは齟齬があったとしても、おそらくは気づかずに

彼を頼るだろう。その点、貴官は彼を知らない。貴官が持つ知識と技量で

彼と仲間たちをよく指揮・指導してくれるだろう」と、反論する私。

 

「貴官は私が直接知る将校の中では最も小規模部隊の指揮能力が高い。なにも、師団を

率いろ、というのではない。中隊、精々が大隊規模さ。不安なら下にガンダムの知識が

豊富な者を付けよう。勿論貴官と話が通じるプロをね」グラサンヒゲ親父のポーズを

取りながらさも簡単そうに言う私。

 

「それに、だ。私の意を受けてニュータイプ部隊の指揮官となった君にそうそう異論を

唱える者もおるまい。少年達を世間(ぐんたい)の波風から体を張って守って欲しい。

それに君はテロリストの少年兵を心理的に誘導して組織をいくつも壊滅させた男でもある。

『戦場の児童心理学』で少年兵達の心理ケアも専門家と一緒にやれば可能だろ?」

触られたくない過去を持ち出され片眉をちょっとだけ上げるベッカーズ。

 

彼はテロ組織内部の少年兵と接触、大人達の寝込みを襲って組織を壊滅させる手法で

名を挙げた男だ、悪名だったが。ついた渾名は「傀儡使い(パペットマスター)」、

人形にした子供達を遠隔操作してテロリストを始末する奴、という訳だ。

悪評に「任務だから仕方が無かった」と弁解する者や「任務に邁進した結果」と誇る者も

いる中で、ベッカーズは何も言わず、少年兵支援のNGOに参加して戦場の子供達が社会に

復帰できる手伝いをしている。中には彼を「偽善者」と嘲る者もいるが、彼は意に介さない。

自らの信じるを路をただ邁進する男なのだ。

 

しばらく、目を閉じて何事か考えるベッカーズ。数分後目を開けた彼はこう答えた。

「新構想部隊指揮官、謹んで拝命いたします。ただ、指揮官として要望がございます」

私の方はやっと表情を緩ませ、

「いや、ありがとう!要望は私の力が及ぶ限り何でも叶えよう」

 

「では、先程のムービーではアムロ君がRX-78に乗るきっかけはザク2機による

サイド7奇襲でした。おそらくは彼の親しい人達も大勢亡くなった筈です。現実では

彼に故郷と家族や友人を失う辛さを味あわせたくありません。V作戦の根拠地

サイド7には少なくともMS一個中隊の配備を要望いたします」

「サイド7には艦艇一個戦隊とMS2個中隊、24機の配備が決定しているが、

要請に応え、さらに一個中隊を追加しよう。ただし、その中隊の指揮官は君だ。

ジオンが来ない時は少年達の練習台(アグレッサー)にでもしたまえ」

おそらくアムロのサンドバックだけどな。

 

「あと、ひとつだけ」「なんだね?」「自分のことはチャーリーとお呼びください」

笑みを浮かべるチャーリー。

私は立ち上がり、右手を差し出して「わかった、チャーリー少佐。昇進と栄転おめでとう」

 

こうして栄光の『第13独立MS戦闘団』が誕生した。

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==== ジョブ・ジョン二等兵はサイド4生まれの15歳、来月16歳の誕生日を迎える

新米歩兵である。彼の所属する連邦陸軍 第157歩兵連隊 第1大隊 B中隊 第3小隊は

ウイグル自治州の最大都市ウルムチから300km西方のある農村に本部を構えていた。

 

彼は第3小隊C分隊のシステム兵だった。偵察ドローンを飛ばし、小隊本部との情報リンクを

(できるだけ)保持し、分隊の目、耳、神経となる重要な役割を担う。

 

そのポジションをなぜ15歳の新兵が務めているかといえば、やはりミノフスキー粒子である。

ここら一帯に根を張る反連邦武装勢力もダークウェブのE.コマースサイトを通じて発生機を

手にしていた。ピックアップトラックの荷台に載る程度の小型の物で電波障害が起きるのは

せいぜい10km四方である。だが、戦場は敵が設定できる為、ドローンや情報リンクを駆使

した歩兵戦術は過去のものとなっていた。とはいえ、戦闘が無い場合ドローンは便利な

代物であるのは変わりなく、そこで新兵のジョブにお鉢が回ってきたのであった。

彼が今担当するドローンはかっての手榴弾くらいなら運べる大型のものではなく折りたためば

背嚢(リュック)に収まる小型のマルチコプター型ドローンだった。カメラとマイクがついて

いるので偵察には充分使える。

 

今、彼は手持ちの3基のドローンを飛ばしていた。偵察というよりは分隊長の軍曹に言わせれば

「カナリア」、M粒子の電波妨害が発生すれば空中のドローンは制御を失い墜落する。つまり

敵が近くにいる、という訳だ。

 

「落っことすために飛ばしてるようなもんだよなぁ」とジョブは独り言ちた。するとベテラン

ライフル兵が「落っことしてもオメーの俸給が減るワケじゃねーからじゃんじゃん落っことせ」

と笑う。分隊支援火器(マシンガン)を持った大柄な兵が「お前、宇宙生まれなのになんで陸軍

なんか入ったんだ?宇宙艦隊なら船外活動だのなんだの資格取れて将来役に立つだろうに」

と尋ねた。

「オレ、艦隊の採用試験落ちたんス。宇宙陸戦隊はおっかないから陸軍の方がいいかな、と。

地球にも行ってみたかったし」と答えるジョブ。

「陸戦隊は宇宙服に一発もらったらオダブツだもんなぁ。そりゃ歩兵の方がなんぼかマシだわ」

と別のライフル兵が肩をすくめる。

 

「憧れの地球はどうだ?コロニーじゃ見れない珍しい動物とか虫とか見れただろ?」と擲弾銃(グレネードランチャー)

を構えた伍長が話題に入ってきた。

「ここってパンダいないんスね。でも、ラクダは凄かったっス。あと台所にわくアレ以外の

虫はじめて見ました。地元民が唐揚げにしてオヤツにしてたのは引いたっスけど」

「毒があるやつもいるから気をつけろよ。あと、唐揚げは俺もビールのアテに時々食うぞ。

エビっぽい味だ」

と伍長。彼らはこの地にもう3年駐屯しており、現地の食生活にも慣れていた。

 

ジョブは、うへぇという顔を上空に向けると真剣な顔になり、「M粒子(ミッキーマウス)!」と叫んだ。

上空のドローンは制御を失い、どこかに飛んで行く。

 

警報と同時に散開し、遮蔽物となる家屋や樹木の後ろに位置どる歩兵達。ジョブは農家の軒下で

雑音だらけの通信機に「こちらC分隊(チャーリー)、パパ応答せよ!M粒子発生機を装備した敵と遭遇!

現在地点は…」と応援を呼んだ。「パパ」は小隊本部のコールサインで小隊長が叩き上げで

年かさの少尉なのが由来だ。ちなみにA分隊のサインは「アンジー」B分隊は「ボブ」である。

 

「パパだ。みんなでそっち行くからいい子で待ってろよ、坊主!」と小隊長が応答する。

ジョブは「小隊総力で応援に来るそうです!」と分隊長に叫んだ。

 

散発的にだが、銃弾が村に飛んでくる。住民たちは既に強制移住させられ村は無人だった。

敵の銃声を聞き、グレランの伍長が「この音はジオンの無反動ライフルじゃねぇのか?」と訝る。

古式ゆかしいAKではなく連邦軍制式のボディアーマーを貫通する9mm口径のアサルトライフル、

反動制御機能のお陰で子供でも楽々と振り回せる、が値段もそれなりに張る代物でこんな田舎軍閥

がそうそう揃えられる物ではない。分隊長の軍曹は「連中が輸出できんのは人間くれぇだな…。

アヘンは合成麻薬に押されて大して売れねぇし」と顔を顰める。

 

分隊のライフルの中から精度がいい銃を選んで使っている選抜射手(マークスマン)の伍長が

農家の屋根に機関銃を据えて撃ちまくる敵を撃ち落とし「こいつら妙に装備がいいぞ!」と

分隊に警告する。

 

待ち伏せする形になったC分隊を攻めあぐねた敵は増援に武装ピックアップトラック(テクニカル)を投入した。

重機関銃を荷台に据えたトラックが中国語らしい鬨の声と共に村に突入した、と同時にロケット弾

数発がトラックのボンネットやフロントガラスに突き刺さる。第3小隊の応援が到着したようだ。

敵も応援を呼んだのか、荷台に今度は歩兵を乗せたトラックが村に突入した。

 

敵との銃撃戦は小隊長が応援に呼んだ歩兵戦闘車の60mm機関砲によるバースト射撃がM粒子

発生機を積んだピックアップを粉々にし、砲撃や航空支援を恐れた敵が撤退して終わった。

ジョブの警報が早かったためか、分隊は戦死者無し、負傷者無しで済んだ。

 

分隊の古参兵達は今日のヒーロー、15歳の新兵の肩を抱き、褒め称えた。

分隊長は彼の背中をバンバン叩き「よくやった!」と声をかけた。

 

その夜、ジョブ・ジョンは小隊長に呼ばれそのまま中隊本部に連れて行かれた。

中隊長の大尉は「ジョブ・ジョン二等兵、貴様、BM適格試験を受けてみんか?」とジョブに

尋ねた。「いやな、上からカンのいい奴は全員適格試験を受けさせろ、と言われててな。

中隊からBMパイロットが出れば俺の鼻も高い、もちろん小隊や分隊の皆もな」とNo.とは言え

ない雰囲気を醸し出していた。小隊長は「な~に、落っこちたらここに帰ってくりゃいいんだ。

でも、首尾よくロボット乗りになったら足元に気をつけてくれよな、俺たちを踏んづけちまわない

ようによ」と励ましてくれた。

 

分隊の宿舎に帰ると分隊長が「どうだった?」と興奮した様子で尋ねてきた。

ジョブは「なんかBMの試験受けろ、とか言われました。小隊長はロボットとか言ってました

けど、俺、ガンキャノンに乗れるんですかね?」と答えると、分隊長は彼の背中をバンバン叩き

「バッカ、お前、宇宙だよ、宇宙軍に転属になるんだ。陸軍のガンキャノン乗りも軒並み

宇宙に転属になってる。バムとかいう巨大ロボットに乗るんだ貴様は!」とまた、背中をバンバン

叩かれた。その晩、第3小隊挙げてのどんちゃん騒ぎとなり、ジョブは小隊長の許可で初めて

ビールを飲んだ。顔を赤くしてすぐ寝てしまったが。肩を担がれ宿舎に運ばれていく

ジョブ・ジョンの背中に分隊長は「帰ってくんなよな…」と声をかけた。

 

翌週、ウルムチでテストを受けたジョブ・ジョンは即日一階級昇進して一等兵になり、そのまま

シャトルに乗せられ宇宙に連れて行かれた。3日間輸送船で過ごし、ルナツーに到着すると、

「MS特技兵」として、訓練を受けることとなった。

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オッス!オラ、ゴップ! …失礼しました、ゴップです。

現在宇宙世紀0078 1月、私はジャブローの外れ「THE ORIGIN」でジオンのガルシア少将が

落ちた落とし穴の辺りで、BM-02量産型のデモンストレーションを見ていた。

量産型BM-02は「ビルドファイターズ」のやられメカ、モックを単純化してさらに生産性を

高めたようなMSだ。頭部は固定されており、横360°、縦180°の2本の溝、モノアイレールが

掘られている。そこをモノアイが結構な速さで移動するのは割とキモい。

手足が太いからか、BM-01バムでは露出していた動力パイプはこの機体では内部に収納されて

いる。

 

会議でBM-02のペットネームを名付けて欲しい、と頼まれた私は即座に、Battle Enhanced

Manipulator(戦闘拡張型マニュピレーター)、略してBEM(ベム)と名付けた。

この姿にはコレ以外の名前が思いつかない。

 

ジオン水泳部の従兄弟のようなベムだが、その真価は右手に握られたビームライフルにある。

BM-02ベムこそ、この世界初のビーム兵器を標準装備したMSなのだ。

早速、ビームライフルの試射が始まる。RX-78のライフル、ボーワXBR-M79-07Gのような

「ズッ!キュゥゥゥゥン~!」という音ではなくビームスプレーガン、ボーワ BR-M79C-1の

ような「パシューン!」といういささか気の抜けた音だが、発せられたビームは標的として

置かれたガンキャノンの正面装甲をみごと貫いた。

 

設計主任のアダムス少佐(彼もBM-02完成で昇進した)が「このボーワBR-M78Aの特徴は

エネルギーCAPを脱着式、つまりビームマガジンを取り替え可能な点にあります。つまり、

マガジンを複数携帯することで継戦能力がBM-01の数倍に達するのです」とドヤ顔で語った。

いやドヤ顔許されるよ、このビームライフルは。

 

するとヘボン大佐が私の耳元で「BM-02の量産なのですが、積んでいる反応炉が高級品、

元々は78向けに試作されたモノですので、なのとエネルギーCAPの機密保持の観点

からも当分はジャブローとルナツー工廠のみでの生産となります…」と済まなそうに

話した。

 

そりゃ、そうだ。BM-02にビーム兵器を稼働させるため反応炉だけはRX-78向けに

試作された炉をディチューンした物を搭載している。納期優先で各部が簡略化

されてるとはいえ、希少金属などの部材や組み立てに高度な技術を要するのに

変わりない。サプライチェーンを考えると当分はジャブローとルナツーで

生産するしかあるまい。

 

しかし、BM-02があらゆる意味で仮想敵MS-06に勝る機体であれば、エネルギーCAP

の技術がジオンに渡るのを承知でコロニーや月面で生産を始める必要がある。

パイロットの質は選りすぐりのジオンに対してこちらは総動員体制だ、いくら

性能で勝っても1対1では勝ち目は薄いだろう。ドズル・ザビの至言「戦いは数だよ

兄貴」に従いこちらは数の暴力に物を言わせるしかない。

 

私の目論見としては、約半年後の今年7月からBM-01の生産ラインを全て02に

切り替えるつもりだ。その頃にはV作戦で開発される数々の新兵器がチャーリー少佐の

元戦力化されるだろうからだ。勿論その主力はRX-78「ガンダム」だ。

 

Iフィールドモーターの開発責任者、モスク・ハン博士とAE.のテム・レイ開発部長を

アダムスが引き合わせ、RX-78の駆動部は最初からマグネット・コーティングが施されている。

勿論、そのままでは普通のパイロットには扱いが難しいのでパイロット支援AIを導入し、

操縦者の技量や好みに合わせた動作を実現する…計画だ。

まだその実物見てないんですよ。あくまで計画。

 

この支援AIは言わば1stの「学習型コンピューター」にあたる物で、テストパイロットの

操作をディープラーニングして、不慣れなパイロットでも一通りの戦闘機動が可能となり、

熟練した者なら、テストパイロットの機動を再現できるかもしれない。

 

そう、私はRX-78、そのパイロット支援AIの教育係としてアムロ・レイやサイド7の

少年たちを登用しようと計画している。まずは臨時雇用の軍属としてアルバイト気分で

MSを操縦して貰い、アムロ・レイ(A・R)タイプのAIが完成し、それに制御された

RX-78に乗ったユウ・カジマやヤザン・ゲーブル達TOPGUN達が、黒い三連星、

ランバ・ラルやジョニー・ライデンらを撃墜してくれればよし、そうならなかった場合は

遺憾ながらアムロ・レイには軍人になって貰う他ないだろう。どのみち赤いのは彼じゃ

ないと手に負えそうもない。特に「THE ORIGIN」の彗星は強烈な輝きを誇っているし。

 

あと、TOPGUNっていうのはMS教導団の通称で、そこの出身者の教官パイロットも含めて

こう呼ばれる。まだ、MSは実戦投入されてないんでエースパイロットはいませんからねぇ。

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私はオフィスに戻るとすっかり紅茶党になったリー大尉の淹れた紅茶とバスク中尉が

焼いてきたスコーンでティータイムとしゃれこんでいた。

リー・ホワンはアシスタントの女性下士官から「大尉ってヤン・ウェンリーにちょっと

似てますよね」と言われてその気になってるらしい。紅茶党になったのもそのせいだ。

マンマ中佐によると「彼女、フレデリカにちょっと似てるんですよねぇ」と鼻の下を

伸ばしまくって惚気けてたそうだ。

 

「みんな幸せになろうよ!」と演説ぶった手前、私には何も言えないので、マンマ中佐

にはセクハラ事案にならないように大尉に釘を差してくれと頼んでおいた。

 

ヤマトやスタートレックがあるように、宇宙世紀にも「銀河英雄伝説」もフィクション

として存在する。宇宙世紀70年代に放送されたU.C.銀英伝は原作を知っている者からすれば

ドン引きする内容で、まず独裁政権の帝国に民主主義を掲げる自惑星同盟が負けるのは

政治的によろしくないので、ヤン率いる同盟軍がラインハルト率いる帝国軍を堂々たる

艦隊決戦で破り帝都フェザーンで未亡人となった皇后ヒルダに城下の盟を結ばせる結末に

なっている。

 

ヤンの口癖は「私は肉体労働に耐えられない虚弱体質でね、帝国に負けて奴隷とか農奴に

されたら死んでしまうだろう、だから彼らには絶対負けないのさ」だ。

自由惑星同盟政府は逆の意味でこんな政治家いねぇだろ、というような聖人君子揃いで、

ヨブ・トリューニヒトなぞヤン・ウェンリー最大の理解者にして戦後ヤンを大統領に押し上げる

役どころだ。ジェシカが「政治家の子弟を戦場へ!」って演説したら議員の子供や孫が列を

なして志願する世界だぞ。

 

それに、我々の知る銀英伝では地球連邦は悪逆の限りを尽くした挙げ句に地下本部が

水攻めにあって壊滅するのだが、U.C.版ではばっさり割愛され、銀河連邦を軍事クーデターで

倒した大帝ルドルフ・ゴールドバーグが銀河帝国を興した、となっている。

あくまで選挙ではなく武力で、民衆に罪なし、なのがミソらしい。

一方でアーレ・ハイネセンらの「長征一万光年」はやたら詳しく(1シーズン、26話かけて)

描かれており、プロモーションで氷でできた宇宙船を実際に飛ばしたそうだ。

 

ボブ・ゴップには当時高校生だった娘、ラインハルトとキルヒアイスがお目当てだった

らしい、と一緒に時々見ていた記憶がある。実際に結婚したのは二人とは似ても似つかない

ダニー・アトキンソンだったのは理想と現実、というやつだな。

 

リー君は「自分が知ってるヤン・ウェンリーとは似ても似つかないんですけど、こっちの方

が男前なんで嬉しいですね」とにやけている。まぁ、原作のヤンの台詞を一々再現されると

ちょっと困るのでU.C.版のヤンを演じてくれたまえ。

 

一息ついて、人事局から提出されたレポートと読むと、その内容に私は驚愕した。

MS搭乗員の32%が20歳未満!? 15歳以下の搭乗員も全体の8%に及ぶだと!?

チャーリー少佐とのシリアスなやり取りが茶番だよ、これは!

 

レポートを読み進めると、陸海空、そして宇宙軍は搭乗員以外の職種でも「勘の優れた者」

に適性テストを受けさせる通達を出したが、ベテランを引き抜かれると困るのか新兵ばかり

がテストを受け合格し、MS特技兵として訓練を受けているらしい。

 

適格テストの実技はVRによる操縦シミュレーションで、私も試しにやってみたが、

3分持たずに3D酔いでダウンした。特殊部隊出身のチャーリー少佐すらパスできかった

テストなので、そんな簡単なものではないのだが… 

10代のMS特技兵にはコロニー生まれが有為に多い、というレポートにギレンの人種論は

ともかく、ニュータイプの実在を信じそうになる。

 

15歳以下の特技兵の中にはVRゲームでスカウトされた中高生もいるのだという。

高収入のプロゲーマーはとても軍の俸給ではスカウトできないので、ネットで中高生を

勧誘したらしい。おい、保安基準とかどうなってんだ?と言いたいが、私もアムロ達を

スカウトしようと目論んでるので何も言えない。

 

この時代は宇宙開発が一段落つき、コロニーの建設事業は殆ど無くなり、さらに70代、

80代になってもホワイトカラーは引退せず働き続けるため若年層の失業率は高い。

特にコロニーは大気循環機構使用料、通称:空気税のため老人も働き続けるので地球の

同年代に比べ数%高い有様だ。高校を出ても働き口が無さそうなので、軍に雇って

貰えるなら親も文句は言わないらしい。流石に議員の娘をスカウトしてしまったケース

は親から抗議される前にお引取り願ったそうだが… 

 

未成年、中には15歳以下を軍人にするなど、21世紀ならメディアが黙っていない

所業だが、連邦成立時から連邦軍はメディアに広報(物理)を度々使ってきた歴史が

あり、規模の大小を問わずメディアは軍に弱い。

経済的にも軍需企業は被服、糧食など、重工系に限らず幅広い分野に及ぶので、軍の

批判はスポンサー受けが非常に悪い。ネットの世界でも、数百万のフォロワーを持つ

アカウントは法人化していることが多いため、メディアと同様な弱みを持つ。

 

フォロワーの少ないアカウントや著名人が作った捨てアカウントで時たま流行する

書き込みがあるが、今度はSNSの運営会社が削除する。軍は学校の卒業シーズンに

求人広告を大量に出稿してくれるお得意さんなのだ。

軍や政府の批判はアングラと言われる多くは不正アクセスでどこかのサーバーや

家電ネットワークの中で作成、運営される小規模な掲示板、ということになる。

 

ちなみにダークウェブで政治宣伝をすると発信元を突き止められて制裁されるそうだ。

ここは、あくまで市場、書生論なら表のネットでやれ、ということらしい。

 

割とディストピアだなぁ、宇宙世紀。

 

私はせめてもの対策として、体力検定のボーダーラインを上げ、パスしない者は

後方部署への転属や対空ドローン ボールのオペレーターに転属させる旨の通達を

出した。

戦場では体力の無い者から戦死する、という統計データがボブ・ゴップという男の

脳には刻まれている。前世では、私の死も統計データとしてどこかに纏められているの

だろう。「1人の死は悲劇だが、100万人の死は統計上の数字に過ぎない」

今の私は到底同意できない言葉だ。ギレンの同類になるのだけは御免こうむる。

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官舎に帰るといつもと変わらない様子で妻は出迎えてくれた。

夕食を済ませ、二人で晩酌している時、私は気がかりだったことを妻に聞いてみた。

「キャシー、『リン・カイフン協会』の方は大丈夫なのかい?」

 

リン・カイフンとは反連邦組織の少年兵で、連邦軍に保護されたものの社会に馴染めず

自ら命を絶った少年だ。協会は、この悲劇をきっかけに設立された少年兵の社会復帰を

支援するNGOだ。NGOは基本的に個人の寄付で運営されるため、メディア企業のような

経済的な弱みはない。実は報道NGO、というのも存在するが、報道に反連邦の色合いが

強すぎる、と判断される、と代表者が違法薬物の過剰摂取や乱交パーティの最中心不全を

起こして死亡したりする。つくづくディストピアだ。

 

話を戻すと、妻は「私もベッカーズさんと一緒に協会を辞めたの。ボブのせいじゃないわ、

協会のみんなも『ゴップ大将とあなたは別の人間だ』と言ってくれたけど、けじめというか、

私が納得できなくて…」という。協会は早い段階で今回のパイロット採用計画の内実を

掴んでいたらしい。人事局か実戦部隊に協力者がいるのか?

流石にチャーリー少佐じゃないとは思うが。

 

妻はワインのせいか感情のタガが外れたのだろうか、ぽろぽろと涙を流している。

「ダメね… 泣きたいのは戦場に送られる子供達の母親なのに、娘はジャブローにいる

私が泣いてるなんて。世間知らずの令夫人ってところね」と無理に笑顔を作っている。

私は妻や娘夫婦に全部打ち明けてしまったことを後悔していた。

知らなければ、彼女は私の所業に憤慨することができたのだ。だが、知ってしまったが

故に彼女は自分を共犯者だとみなすようになってしまった。

 

カマリア・レイは恐らく私を許さないだろうな…、と思いながら私は妻の肩を抱き、

「君は何も悪くない。悪いのは私さ」と慰めにもならないことを言う。

「でも、理由があることだわ… 55億もの人命を救うのでしょう?」と私の

瞳を見つめる(キャシー)

「喪われるのは人命だけじゃない、生き残った半分の人たちも人生を狂わされ、おかしく

なり、遂には人類社会そのものが狂っていくのさ。

ジオンが敗れた後に現れた虐殺者は『ギレンのやったことに比べれば大したことはない』

『これは必要な犠牲だ』と思っていただろう。

現に中学校(ジュニア・ハイ)の生徒を動員する私も『これは必要な犠牲だ』だと

思ってるのさ、度し難いね」私はカエルのような面をさらに顰めて呟いた。

 

子供を生贄に捧げ、多くの人を救う、など古代人の発想だろう。宇宙に巨大構造物を建設し、

数十億を移送できる文明人の発想ではない。

だが、シャア・アズナブルという現在19歳の天才少年、士官学校の成績や彼の言動、なにより

「暁の蜂起」の作戦立案能力と指揮能力からG.C.はこの世界の彼も「赤い彗星」になるべくして

なる存在で、「大人の兵隊」では彼に敵わない、と分析していた。

アムロ・レイという鬼札だけが赤い彗星を地に落とせるのだ、と。

 

実のところ私が参加する以前、シャア=キャスバル・ダイクンを暗殺する作戦がG.C.の組織内部

でも極秘裏に実行されたが、尽く失敗したという。中には子供キャスバルを殺しにマス氏の邸宅に

侵入しようとしたところキシリア機関の工作員と鉢合わせになり、一人生き残った同志も装備を

全部なくしキャスバルに返り討ちにされる、という原作を再現してしまったこともあったそうだ。

佐藤さん(エルラン)は「歴史の修正力、というやつでしょうか…」と言っていたが、おそらくは

私達をこの世界に呼んだ存在が定めたルールなのだろう。

ザビ家もサスロを除いて暗殺に失敗していることから、原作キャラクターの死を年単位で

早めることは不可能らしい。

 

このゲームはあくまで『一年戦争の惨禍を阻止せよ』が勝利条件のSLGなようだ。

MSや新型艦の開発は順調過ぎる位順調だからね。

 

この夜の一週間後、私はジャブローに近いカラカス市にある、『リン・カイフン協会』の

本部を公務として訪問した。

軍服姿の私を魔王を見るような目でみるメンバーを他所に紳士的に対応しれくれた代表の

精神科医に、私は戦後必ず必要となる未成年パイロット達の社会復帰プログラムへ民間NGO

の参加や協力を求めた。要するに『リン・カイフン協会』が民間協力者達の窓口になってくれ、

ついでに取り纏めをしてくれ、という依頼だ。

勿論経費は公金から支出されるし、手付け、というか取り敢えずの経費として私がすぐ動かせる

額の小切手も持参した。

「そういうのをマッチポンプって言うんだ!!」と若い男が大声を上げるが代表は彼を制し、

「そのお話、喜んでお引き受けします。当然、サイド3もプログラムの対象地域ですね?」と

念を押された。敵味方別け隔てなく、いいじゃないですか。

 

別れ際、代表は握手をしながら「今回のお話はキャシー、奥様の口添えで?」と聞いた。

私は「妻と友人の影響でしょうな」と今はサイド7にいるチャーリーを思って答えた。

 




シリアスな話になってしまいました。
「チャイルドソルジャーの社会復帰」というのは現実にも存在する問題ですので、
中々書いてて辛いものがありました。

今回の話は「このゴップならアムロやカミーユが戦場に行かなくて済みそうです」
という感想を頂いたのですが、最初からアムロ達を出すつもりだった作者としては
「何の説明もなしにアムロをガンダムに乗せちゃいかんよな」と考え書いたものです。
他所の子を前線に送って自分の娘は無敵要塞勤務とまるで銀英伝に出てくる緑ガ丘提督
みたいっスね(毒)。

ジョブ・ジョン二等兵とC分隊の戦友たちは一緒に戦う大人達は必ずしも少年兵の
存在を是としていない、という感じで描写してます。
Vガンのワタリー・ギラのように「こんな事をしていると、皆おかしくなってしまうぞ」
と涙を流す程ではないですが。

劇中のヤバい連邦の体制はザビ家みたいな独裁を支持する大衆が存在するには、
という逆算で生まれたものです。
UC.銀英伝のアレな内容からヤバさを感じていただけたら幸いです。

なお、チャーリー・ベッカーズは一見爽やか系マッチョですが、中身は『OBSOLETE』EP5のザーヒルみたいなヤバい奴です。
ザーヒルも祖国に帰ったら慈善事業してるかもしれないですし。

「リン・カイフン協会」は最初「チャン・ウーヘイ協会」だったのですが、
そのまんま過ぎなのでカイフンになりました。

結局スミス海までたどり着けなかったのですが、次回では、と思っています。

5/25 ウォーレン大佐関連の記述を修正。ノイエ銀英伝見てたらおもむろにワーレン提督話し初めて「こいつしゃべったっけ!?」と慌ててググったらアイゼナッハと間違えてた
ことに気づきました…
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