最強。その名を冠する男呂布。字は奉先。
彼は何故か自らの屋敷の中、腕組みをして無言で佇んでいた。
「……」
「……わふっ」
犬である。名は赤兎。
奉先の愛馬と同じ名を持つ、彼の妹恋の犬。
ともすれば踏み潰してしまいそうな小さな犬が、奉先の足にまとわりついていた。
「……」
無言でしゃがんだ奉先は、じっと赤兎に視線を向ける。
そしてその小さな体をがしっとわし掴むと、懐から何かを取り出した。
「わふ?」
「……食え」
手にしたのはホカホカの肉まん。
呂奉先。妹ほどでは無いが動物は嫌いでは無かったりする。
「……これはまた意外な一面ですな」
「……ですぞ」
そしてそんな呂布の姿を、物陰から陳宮兄妹(モブ軍師と幼女)。
無論即座に見つかり、ツンデレ属性の付加された呂布においかけられることになる。
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「董卓。その命、俺がもらい受ける」
呂奉先。最強と呼ばれた男。
愛する女を手にするため、策であると知りながらも主である董卓へと牙を剥く。
「おのれ呂布め。わしの酒池肉林の野望を阻もうと言うのか!?」
「そんなものはどうでもいい。俺が望むものはただ一つ。貂蝉だけだ」
巨体を揺らし唾を散らしながら喚く董卓に、奉先は日頃の気性からは考えられない静かな声で言った。
「貂蝉じゃとぉ……どっちのじゃ?」
「……」
聞かれて脳裏に浮かんだのは、麗しき舞姫の姿。
しかし次の瞬間「あらごめんなさいねぇ」という若本ボイスと共にムキムキマッチョな漢女の姿が脳を占拠する。
美麗な舞姫ですら打ち消すインパクト。奉先は脳裏を蹂躙するイメージに顔を怒りに染め、董卓も自分で言って想像してしまったのか醜悪な顔をさらに歪めていた。
「貴様ああぁぁっ!? 貂蝉を汚すな!?」
「わしとて想像すらしたくないわ!?」
「あらん。呂布ちゃんも董卓ちゃんもイケず」
「貴様何故ここにいる!?」
「だってぇ私をめぐって二人が争ってるんですものぉ。私って罪な漢女(ハート」
「うおおおおぉぉっ!?(怒」
「わしの酒池肉林がああぁぁっ!?」
「……ねぇ月。何この有り様」
「……知らない」
「……よね」
「……詠ちゃん」
「何?」
「……もうこんなお家やだ」
「……私だって嫌よ」
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一方呂布(妹)と貂蝉(妹?)。
「さあ恋様。肉まんをお持ちしました」
「……ん」
大皿に肉まんを大量に乗せて現れた貂蝉。
それを見た恋は無表情なまま、しかし目を輝かせると、もきゅもきゅと肉まんをほおばっていく。
「……」
「どうかしましたか?」
しかし不意に口の動きを止めると、じっと貂蝉を見つめ始める。
何事かと首をかしげる貂蝉だったが、恋は肉まんを一つ手に取ると、そっと貂蝉へと手渡した。
「食べる。一緒の方が美味しい」
「まあ。では私もいただきます」
とても兄と並び最強と称された将には見えない少女。そんな彼女の気遣いに、貂蝉は微笑みながら応えた。
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「あ〜ん呂布ちゃんたら激しいんだから。これは私も本気をださなきゃね……ぶるああああぁぁぁぁっ!」
「うおおおおぉぉっ、くたばれ化け物!」
「わしの酒池肉林がああぁぁっ!?」
最強と最凶。何故か始まった戦いは佳境を迎え、董卓の酒池肉林を焦土へと変えていた。
「ねえ月。私が思うに、劉備なら私たちを受け入れてくれると思うの。兄妹そろってお人好しみたいだし」
「確かに優しそうな人たちだったけど、上手くいくかなぁ」
「丁度いい具合に屋敷が崩壊しそうだし、身を隠すチャンスだわ」
「……うん。そうだね詠ちゃん」
一方一周突き抜けて冷静になった月と詠は、着実に亡命プランを進めていた。