私の兄者がこんなに強いはずがない   作:ガタガタ震えて立向う

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・普段使わない漢字を使いまくるので頭が痛くなってくる
・曹操様に仕えたい
・二度もガッした! 親父にもぶたれたこと無いのに!?


たまに優しくされると辛い

 未だ曹操の下に居る関羽兄妹。その片割れの関雲長は、夏侯元譲と剣を交えていた。

 

「ハアッ!」

「ふぬ!」

 

 一進一退。激しく剣をぶつけ合いながら動き回る様は、さながら舞踏の如し。

 その舞いも終わりを迎え、両者の刃は同時に相手の首元で止まる。

 

「見事ね」

「ああ。特に夏侯惇の気は鋭い。今にも雲長を斬ってしまいそうだ」

 

 華琳と孟徳の賛辞に、雲長は無言で頭を下げ、元譲は視線をそらした。

 実際元譲は雲長を隙あらば斬るつもりでいた……わけがない。

 

 ある日元譲は主二人から命令を受けた。

 

「愛紗をものにするには、やはり雲長が邪魔ね」

「うむ……夏侯惇よ。雲長を斬るのだ!」

「そこの色情魔共……いや、もういい」

 

 実は雲長が気に食わず、因縁つけて始末しようかなと考えていたのだが、むしろその命令で斬る気が失せた。

 国を支えるものが私情で動いて良いはずがない。

 主二人が暴走するせいで、元譲の常識には磨きがかかっていた。

 

「雲長! 次は私が相手だー! おまえを倒せばお二人から可愛がってもらえ……」

 

 そして妹の春蘭は相変わらずアホの子だった。

 

「元譲殿。相手をお願いできるだろうか」

 

 対して雲長の妹は基本的に常識人であった。

 

「……おまえは俺が疎ましく無いのか?」

「ん、何故だ? 元譲殿は武人としても公人としても好ましい人柄だと思うが」

「……」

 

 

 

「雲長……妹を交換しないか?」

「断る」

 

 

「しかし惇兄も少し肩の力を抜けば良いのになあ」

 

 夏侯淵。字は妙才。

 主やら妹やらに振り回されまくっている従兄弟とは違い、持ち前の要領のよさとおおらかさで上手く立ち回っていたりする。

 

「何を言う妙才。兄者はああやって真面目くさって周囲に振り回された困り顔が可愛いんじゃないか」

 

 対して妹の夏侯秋蘭は、今日も可愛い兄者&姉者ウォッチングに余念がなかった。

 

「……おまえね。惇姉はともかく惇兄を可愛いって、妹ながら将来が心配になってくるぜ」

「あの渋い可愛さが分からないとは、妙才もまだまだだな」

「渋いと可愛いは普通同居しねえだろうよ」

 

 そうでもない。

 そしてそんな話をしているうちに、二人の近くに張コウがやってくる。

 

「おや、これは夏侯淵将軍。お二人とも相変わらずお美しい……!」

「私はともかく妙才が美しいとは、どういう審眼美だ」

「自分で言うな。そんでおまえが言うな」

 

 そう言っては見るが、妙才自身も己を美しいと評する張コウの美的センスには疑問を抱いている。

 スマートとは言い難く、顔も髭面でどちらかといえばおっさん顔だろう。

 渋いとかかっこいいならまだ分からなくないが、美しいとはどう見ても思えない。

 

「それは仕方がありません。妙才将軍の美は常人には理解されがたいものですから」

「常人に理解できない美って意味あんのか?」

「飛べない豚に意味はあるのでしょうか」

「混ぜんな。というか誰が豚だコラ」

 

 夏侯妙才。傍観者に徹しようにも、周りが濃すぎてつっこまずにはいられなかった。

 

 

「まったく、孟徳様も華琳様も困ったものですね」

「……稟か」

 元譲が振り返った先には、眼鏡をかけた黒髪の女性郭嘉――字は稟が居た。

 関羽(特に愛紗)に並みならぬ執着を見せ、周囲を引っ掻き回す主二人に、彼女も憂慮しているらしい。

 

「いや、曹操殿たちのお気持ちも分からないでもないよ。何せ愛紗殿はあの通り魅力的な女性だからね」

「出ましたね変態」

 

 しかし彼女の兄、郭奉孝は逆らしい。その奉孝に向かい、稟は軽蔑の視線を向ける。

 

「愛しの兄に向かって変態とは、これが噂に聞く反抗期というものだろうか」

「双子の兄相手に反抗期もありますか。大体愛しくなど思ったことはありません」

「おや? これは悲しい。私はいつの間にそこまで妹に嫌われてしまったのだろうか。他人に自慢できるほど優秀な兄だと自負していたのだけどね」

「飲む、打つ、買うの駄目人間要素を網羅しといて何を言っているのですか!?」

 

 飄々とした態度を崩さない兄に、稟爆発せり。

 

「貴殿が何と呼ばれているか知っていますか? 不良軍師ですよ? むしろ郭嘉=不良軍師などという認識が広がり私まで誤解をされる始末!」

「それは酷いね。稟は私と違ってむっつりだが身持ちは堅いというのに」

「誰がむっつりですか!?」

 

 顔を真っ赤にして吼える稟。あと一押しでいろんな意味で限界を越えそうだが、流石兄というべきか奉孝もギリギリで加減しているらしい。

 

「まったく、貴殿の妹などで無ければ良かったものを」

「奇遇だね。私も稟が妹で無ければと何度も思ったよ」

「……え?」

 

 予想外の言葉に稟は身をこわばらせた。

 口では何を言っても、稟は血の繋がった兄を嫌ってはいなかった。むしろ兄だからこそ、更正してほしくて口煩くなってしまっていたのだ。

 だというのに、売り言葉に買い言葉とはいえ、兄に妹である自分を否定され、稟はショックを受けた。

 

「稟はこんなに魅力的な女性だというのに、血の繋がりがあるせいで手を出せないからね。本当に、妹でなければ真っ先に口説き落としていたのだけど」

「……」

 

 誤解だった。そう安堵する間もなく兄に軽く抱き締められ、稟は限界を越えた。

 

「おや、気絶してしまったか。相変わらず初だね稟は。凄い鼻血だ」

「……」

 

 噴水のように吹き出す稟の鼻血。それを見ながら元譲は思った。

 うちにマトモな人間は居ないのかと。

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