エチエチブルーファンタジー(嘘)   作:風鈴花山

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ぐへへ

 空を進む一隻の騎空挺、フロンティア号。

 その一室で一人の少女が、二つの人形と話していた。

 

「どぅし……」

「ほうほう……どうしたらいいかわからない。とダヌアは言っている。グレーテルはどう思う?」

「そんなもん、決ってるダロ!あいつに事情を説明して協力してもらえばいいヨ!噂と違ってお人好しみたいなんだからサ!」

「いまぃ……」

「ほうほう……いまいち信用できない。とダヌアは言っている。確かに()()()()()()()()()()()()()()()な」

「そりゃそうだけどヨ……だからっていつまでもこのままじゃ前に進めネェゼ」

 

 暗い部屋で人形に語りかけるドラフの少女、ダヌア。そしてそれに反応する人形、ヘンゼルとグレーテル。

 グレーテルの現状を憂う言葉にダヌアは自分も思うところはあるのか視線を落としてしまう。

 部屋に重苦しい空気が漂うが、そこへ突如として部屋の扉が開かれる。

 

「おーっす!!ドラフ少女、元気にしてるか!?」

「……」

「……んだよこの空気。まぁいいや。飯の時間だ、ほら行くぞ!」

 

 この騎空挺の主であり、『エチエチファンタジー団』の団長である青年。青年が部屋に入ってきたことで部屋の空気が変わるが、表情を変えないダヌア。青年はそんなことは関係ないと言わんばかりにダヌアの手首をつかんで無理矢理外へ連れ出し、目的地である食堂へと連れて行く。

 

「今日の当番はカトルだからうまいぞ!いや、おれとアオイドスが下手って訳じゃないんだけどな?あいつ妙にこういう家事が上手いからな」

「……」

「いやー、カトルがいてマジで助かったわ!おれなんて旅を始めるまで料理なんてしたこと無かったからさ!最初の頃は焦がしてばっかだったからほんと辛かったんだよ!」

「……」

「アオイドスなんかは料理しててもいつのかにかシャウトし始めて料理どころじゃ無くなるしな!いつかは嬢ちゃんの手料理も食べてみたいもんだ!ん?ん!?」

 

 一人で延々としゃべり続ける青年だがダヌアは反応を示さず、青年に引っ張られ続ける。

 そうしている内に二人は食堂に着き、中に入るとそこにはカトルとアオイドスが二人を待っていた。

 

「お、来ましたか。って……また無理矢理連れてきたんですか」

 

 食堂に青年がダヌアを引っ張って連れてきたのに気づいたのかカトルがジト目で青年を見つめる。

 

「おう。やっぱり飯はみんなで一緒に食べるのがいいからな!」

「皆で共に食す。これはバンドと同じだ。皆でパトスを合わし、GIGする。これがエロイドスのヘイブン、と言う訳か」

「あなたは何を言っているんですか……」

 

 アオイドスの言葉をカトルは意味が分からないというふうにうなだれる。

 

「騎空挺の操縦は大丈夫なんですか?」

「自動操縦にしてるからしばらくは大丈夫だ。まわりに浮遊物とか魔物はいなかったからな」

「そうですか」

 

 青年達は話しながら料理の用意してあるテーブルへ近づき、青年はダヌアを席に座らせ、自身も席に座り両手を合わせる。

 

「そんじゃ、いただきます」

 

 青年の言葉に三人が食事を始める。ダヌアも恐る恐るだが食事に手をつける。

 

「……!」

「お、おいしいか!やるなぁカトル。おれの料理じゃ、ぴくりともしなかったんだけどな」

「まぁ、僕は昔から自分で作ってましたらね」

「へー、アオイドスはどう思う」

「いいパトスだ」

「アオイドスもそう思うか!おれも思ってたんだよ!」

「なんで自然に会話が出来ているんですか……」

 

 賑やかに食べ進める青年達を傍目にダヌアも少しずつ食べる。そんなダヌアの影から二つの人形が出てきて青年達の会話に混ざる。

 

「おめぇらほんと飽きないナ!」

「ん、おまえらは確か、ヘンテルとグレーゼル」

「混ぜてんじゃねエ!俺がグレーテルでこっちガ」

「ヘンゼルだ。そろそろ覚えて欲しい」

「悪い悪い。ヘンゼルとグレーテルね。よし覚えた」

「本当カ……?」

 

 普通に会話をし出す青年と人形達に困惑するダヌア。その様子を見てヘンゼルがダヌアに語りかける。

 

「この通り彼は無害だ。名前ぐらいは言ってもいいんじゃ無いか?」

「まあまあ、そんな無理に聞き出すようなことじゃねーよ。ゆっくり、そのうち言ってくれたらそれでいいだろ」

「とかいってもう半年経っていますよね」

「うぐっ……!」

 

 カトルの鋭い突っ込みに言葉に詰まる青年。

 カトルの言った通りダヌアが青年達の騎空挺に乗ってから半年が経っている。

 

「あれからもう半年経ってんのかー、早いなあ」

「時が経つのは一瞬だ。だから俺は全空をヘイブンさせるんだ。この一瞬を忘れないように」

「もうそれを歌詞にしたらどうです?」

 

 アオイドスの物言いにカトルが呆れたように返す

 するとアオイドスは天啓を得たとばかりに目を見開き、カトルの方へ向く。

 

「良いアイデアだ。そうだ、俺のこのパトスをダイレクトに届けると言う方法もあるのか。盲点だった。そうと決れば早速作らねば!」

 

 アオイドスは一瞬でご飯を食し、そして席を立つ。

 

「ありがとう、君のおかげで新しい曲が出来そうだ。良ければ共に作らないか?」

「ええ……」

 

 アオイドスの提案にカトルは心底嫌そうな顔をする。

 

「いいじゃん、曲作るなんて滅多に出来ないから良い経験になると思うぞ」

「あなた絶対面白がってますよね……」

「そういやアオイドス、カトルも曲作るんだったら芸名はどうすんだ?」

 

 青年の言葉にアオイドスは逡巡し、そして。

 

「チイサイドス」

「は?一体何が小さいんですか?」

「ぶふっ!お似合いじゃんチイサイドス!」

「あ?」

「そうやってすぐキレるところが小さいんだよ、チ・イ・サ・イ・ド・ス」

 

 カトルをからかう話題を見つけすぐにカトルを煽り散らかす青年。思わず青年に手が出かけるカトルだったがダヌアがいるからか、怒りをすんでの所で抑えるカトル。

 

「後で覚えておいて下さいよエロイドスさん」

「楽しみにしとくわチイサイドス」

 

 アオイドスに続きカトルも手早く食事を終わらせ、食器を片付けてアオイドスと共に食堂から出て行く。

 その様子を見てダヌアは本当にこの人達は大丈夫なのだろうかとおもいながら、ちびちびと食べ進めるのであった。

 

 

 

 

「で、何か言うことは?」

「ごべんなざい……」

 

 フロンティア号の甲板ではボロボロになりながら倒れ伏す青年とその姿を冷めた目で見下ろすカトルがいた。

 カトルは青年の言葉を聞き、それで気が済んだのか拳を納め、青年を立ち上がらせる。

 

「いてて……もうちょっと手加減してくれないわけ?」

「あなたが弱すぎるんでしょう。もっと鍛え直したらどうです?」

「カトルが強すぎるんだって」

 

 軽口を叩きながら体を動かす青年。青年は軽くストレッチをして乱れた衣服を整えたところでカトルが口を開く。

 

「剣のような近接武器じゃなくて弓や銃のような遠距離武器を使ってみたらどうですか?」

「あー、それな。考えたんだけど銃を完璧に使えるわけじゃ無いからさ。だったらまだましな剣で良いかなって」

「でも魔物討伐の依頼を受けたときあなたまで前に来るとやり辛いんですよね。だからあなたには後ろで援護して欲しいんですよ。銃だったら連携の形は知ってるんで少しはお手伝いできますよ」

「ほーん、まあ考えとくわ」

 

 青年は今後のスタイルについてを頭の片隅に置いておき、操舵室へ向かう。船内に行こうとした青年をカトルが引き留める。

 

「で、アウギュステまではあとどのくらいですか」

「ああ。それなんだけどさ、少し寄りたい島があるんだよ」

「寄りたい島?」

「シェロさんから依頼を頼まれててな。まあ依頼つってもお使い程度のものなんだけど、領主に書状を届けて欲しいんだと」

「そうでしたか」

 

 そこでカトルは青年に片手を挙げながら背を向け見張り台へ上っていく。

 

「島に着くまでは見張り台にいますよ」

「おう」

 

 見張り台へ行くカトルに返事をして、青年も操舵室へと向かう。

 

 時折、アオイドスのシャウトを響かせながら騎空挺、フロンティア号は今日も青年達を乗せ、空を走る。

 

 

 

 

「──はい、確かに確認しました。届けて下さりありがとうございます」

「いえ、依頼なので当然ですよ。それでは私はこれで」

 

 青年達は目的の島へと着き、領主の屋敷へと向かった青年は預かっていた書状を領主へと渡した。

 無事、依頼を達成した青年はそのまま領主のいる部屋から出ようとするが、不意に引き留められる。

 

「ああ、すいません。少しお待ち下さい」

「はい?」

「いえ、あなたの顔をどこかで見た気が……」

「……」

 

 青年の顔を見てうーんと唸る領主を見て肝を冷やす。ふと青年は事前にカトルから言われた言葉を思い出す。

 

『あなたは様々な噂が立っており少々有名です。ですが噂がありすぎることでそれが逆にあなたを隠れさせています。様々な情報がありすぎてどれがあなたなのか分からない状態です。ですからすぐにはバレないと思いますが危険だと思ったらすぐに逃げて下さい。あなただってここでも追われたくは無いでしょう?』

 

 青年の頬を一筋の汗が流れ、心臓は鼓動を速くさせる。

 

「いえっ!今回が初対面だったかと思いますっ、それではっ!」

「ええ!?」

 

 速くこの空間から逃げ出したかった青年は領主の疑問に答え、あっという間に部屋から出て行き、屋敷を後にする。

 

「行ってしまいましたか……。依頼はしっかり果たして頂いたみたいですしシェロカルテ殿の紹介だから気にする必要は無いか……?」

 

 領主は自分の疑問を捨てようとするが、そこで一つ聞いていなかったことを思い出す。

 

「そういえば騎空団名を聞いていませんでしたね……」

 

 

 

 

 屋敷から飛び出した青年は外で待機していたカトルとダヌアの二人と合流し、そのまま街へと繰り出す。

 

「ふーっ、危なかった」

「気づかれなかったんですね」

「ああ。でももうちょっとで気づかれそうだったからとっさに逃げ出して良かったよ」

「男性の領主で良かったですね。男性にはあなたは驚異だと思われていないんでそこまで知られていませんから」

「……?」

 

 青年は安心したのか一息つく。ダヌアはいまいち状況が分かっていないのか首をかしげる。

 その様子を見てカトルがダヌアに答える。

 

「この人が馬鹿やっていてそれがバレるとちょっとまずいんですよ」

「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは」

「好みの女性を見つけたら気持ち悪い笑みを浮かべながら声をかけるのは馬鹿ですよ」

「……」

「ちょっとカトル、人聞きの悪いことを……って嬢ちゃん!?引かないで!?」

 

 ダヌアは青年から少し離れ、カトルの背に隠れる。

 するとグレーテルが笑いながら青年の前に出てくる。

 

「はははっ!オメェそんなことやってんのカ!」

「やってねぇよ!いや、やってるけどそんなヘンな顔はしてない、はず……」

 

 青年は否定するがこれまでの経験から自信が無くなり、言葉が尻すぼみになる。

 そこへヘンゼルが疑問に思っていたのか青年とカトルに聞く。

 

「空に出回っている彼に関する噂は本当なのか?」

「さあ、噂についてはわかりませんね。ただ、僕がわかっているのは彼がお調子者の変態で、軟派な人で、救いようのない馬鹿と言うことです」

「言い過ぎじゃね……?まあ俺からも言えることは無いな。そもそも噂ってのもそんなに詳しくないからな」

 

 青年達は話しながら街中を歩いて行くと、街の広場で人だかりか出来ているのを見つける。

 青年達は気になって人だかりへと近づいていくとそこには──。

 

『Ahhhhh────っ!!』

「うおおおっ!!」

「アオイドス様ーっ!!」

「アオイドスのゲリラライブが見られるなんて!!」

「俺もヘイブンしてくれー!!」

 

 アオイドスを中心に、アオイドスに熱い声援を投げかける彼のファン達がいた。

 

「うっわぁ……アオイドスすげぇな」

「何をやっているんですかあの人は……」

 

 アオイドスのシャウトとそれに呼応するように大きくなっていく声援は地鳴りのように響き地面を震わせ、人だかりを大きくしていった。

 

「……っ」

「ん?あー、ちょっと別の場所に行くか」

 

 ダヌアは聞いたことも見たことも無いような大声と人だかりに驚いてしまい、それに気づいた青年がダヌアの手を引きながら他の場所へと移動した。

 

「俺が何もしなくてもアオイドスが騒動起こすんじゃね?」

「……あれはもう無視で良いでしょう」

 

 おもしろそうに肩を揺らしながらそう言う青年に、カトルは騒動を起こさないようにするのは諦めたのか、投げやりに言った。

 

 青年達はアオイドスのいた広場から離れ、適当な通りを歩いていた。

 

「ん?君は……」

「はい?」

 

 近くの店から出てきた女性が、青年達とすれ違う際、カトルに声をかける。

 

「お、おおおお、おい。カトル誰だよ知り合いか?」

「いや、彼女のような女性は少なくとも僕の記憶にはないですが」

 

 青年は女性の容姿に惹かれたのか、カトルに女性のことを聞くがカトルは知らないと答える。

 女性は青みを帯びた銀髪を膝の当たりまで伸ばしており、特徴的な大きなバッグを肩に提げていた。

 

「そのマント、十天衆の……」

「へぇ、知っているんですね」

「当然だろう。空を股にかける騎空団、十天衆。その圧倒的な強さは全空の脅威とされるほどのものという」

 

 女性は何かを思い出すかのように十天衆を語る。

 その様子を見たカトルが何かを感づいたのか問いを投げる。

 

「十天衆と何か因縁でも?」

「ああ、少し、な……」

 

 女性は空を見上げ、何かを悔いるような表情をする。

 しかし、すぐに切り替えたのかカトルに向き直る。

 

「急にすまなかったな。まさかこんなところで十天衆と出会うとはな」

「いえ、こちらこそあなたと出会えて良かったです。最近は十天衆の名を軽んじる人が多くて」

 

 カトルはそう言いながら青年をギロりと睨むが、その視線を青年は下手くそな口笛を吹きながら受け流す。

 女性はその様子に苦笑して青年の方へと向く。

 

「君もすまなかったな、時間を取らせ、て……」

 

 女性の言葉は青年の顔を見ると、その言葉を途中で句切ってしまい、青年に指を指す。

 

「ま、まさか君はあのえ、えち、『エチエチファンタジー団』団長か!?」

「あ、はい」

 

 顔を赤らめながらそう言うに青年は思わず肯定してしまい、カトルはあからさまに面倒な顔をする。ダヌアはどうしたら良いか分からず、事の成り行きを見守る。

 

「まさか実在するとは……!」

「え、俺空想上の人物だと思われてたの?」

「当たり前だ!あれほどの噂、ただの与太話だと思うだろう!」

 

 女性は一歩引き、身構えるようにして青年を観察する。

 

「くそ、どうする?星晶獣すら逃げ出すというその力、この場での戦闘は避けたい。だがそうやすやすと見逃してくれるか……?」

「あ、あのー?」

 

 青年が困ったように声をかけるが女性は思考を続けており青年の声が届いていない。青年は助けを求めるようにカトルへ視線を向ける。

 

「はぁ、わかりましたよ。面倒ごとは避けたいですしね」

 

 カトルは仕方なく、本当に仕方なく青年の頼みを聞き入れ、青年と女性の間に割って入る。

 

「すいません、聞こえていますか?」

「こんななんの覇気もないような男が噂の人物とは……。いや、実力を隠しているのか?ククル、それに銃工房の方々は何とかして逃がさなければ……!」

「おい聞いてんのかクソババア」

「ババ……!?私はまだ27歳だ!」

 

 カトルの言葉に女性が反応してカミングアウト、そこで我にかえったようで、カトルへと声をかける。

 

「あ、ああすまない。少し考え込んでいたみたいだ。……聞きたいのだがなぜ十天衆である君が彼と共に行動を?」

「なぜ、と言われても成り行きでとしか言えませんが、そうですね。とりあえず誤解だけは解いておきたいので」

 

 そう言うとカトルは青年の服を引っ張り無理矢理横に並び立たせる。

 

「噂については僕も知っています。ですがこの馬鹿丸出しの顔を世に曝け出しているような人が噂通りのことをするような人に見えますか?」

「あ、あの、頭叩かないで……」

 

 カトルは青年の頭をガンガンと叩きながら説明する。青年はそれを止めてくれと言おうとするが、自分が原因であるため強く言えないでいる。

 

「彼とは出会って一年以上経ちますが噂通りの人物ではありませんよ。そもそも十天衆である僕が着いています。万が一、噂通りのことをしようとしても僕が止めますよ」

「む、そうか……君がそこまで言うのであればそうなんだろうな……」

 

 女性はカトルの言葉を飲み込み、青年は噂通りの人物では無いと考えを改め、青年の方へと向き、謝罪する。

 

「すまない。私ともあろう者が噂に踊らされ、真実を見抜けないとは。本当にすまなかった」

「あ、いや別にいいっすよ。おれにも悪いところがあるみたいなんで」

「悪いところか?」

「カトルが、彼がそう言ってるんでそうらしいっすけど。それよりお姉さん。一つ良いですか?」

「む、何だ?」

 

 カトルのおかげで場の雰囲気が元に戻ったおかげで、青年は元の目的を思い出し、己の目的を果たす。

 

「い、いやー、その、もし良かったら、このあと一緒に、ご飯でもどうかなって、ぐへへへへ……」

 

 瞬間、場の雰囲気が凍り付いた。

 

 女性は青年の言葉にあっけにとられるが、青年の下卑た笑みと汚らしい笑い声を聞いて先ほどの考えは正しかったのかと考える。

 

「なぁ、君は──」

「だからテメェは馬鹿で屑で能無しなんだよっ!!俺がせっかく誤解を解いてやったてのにどうしてテメェはそこまで馬鹿をさらせるんだよ!会ったときからそうだったけどな、本当にテメェは救いようのない馬鹿だなぁ!!そんなんだからいつまで経っても噂が消えねぇんだよ!!」

 

 女性の声はカトルの怒声でかき消された。女性だけで無くダヌアもカトルの豹変に萎縮してしまう。

 青年もここまで怒られたのは初めてなのか縮こまってしまっている。

 

「ご、ごめんって……。おれが悪かったから……」

「本当に反省してんのかテメェは!いつもそうだ、テメェが起こす騒動に団員でもない俺が尻ぬぐいさせられる!!テメェが起こした騒動ならテメェが片付けやがれ!」

「そこまでにしてはどうだろうか。周囲からも注目されて……」

「ああん!?ババアは黙ってろ!!」

「」

 

 青年どころか女性にまで当たり始めるカトルはもうともる気配が無く収拾がつかなくなってきている。通りを歩く一般人もカトルの怒声に思わず足を止め、小さな人だかりが出来てしまっている。

 そこへ、カトルのマントをダヌアが弱々しい力で引っ張る。

 

「ゃめ……」

「止めてあげて。と言っているぞ」

「ああ!?」

 

 ダヌアがカトルを止めようとし声をかけ、ヘンゼルがダヌアの言葉を伝えるが、カトルは反射的にダヌアを睨み付けてしまう。

 

「ひっ……」

「なっ……!ぐ、ぐぅ……」

 

 カトルの睨みにダヌアが驚いてしまい、目に涙を浮かべている顔が目に入り、頭が一瞬冷静になる。そこで、ようやく自分たちが注目を浴びていることに気付く。

 

「あーくそっ、こっちに来て下さい!」

 

 カトルは周囲からの注目を避けるため青年達を路地裏へと連れて行く。

 

「……すいません。少し言い過ぎました」

 

 ダヌアを見て、怒りを抑えたカトルを見て青年は胸をなで下ろすと同時にこれからはダヌアと一緒に行動すればカトルに怒られねーじゃん(笑)、とほくそ笑んだ。

 当然、カトルも青年の悪巧みを見抜いたようで、青年を睨み付ける。

 

「ですが!今後このようなことはないように。あなたが醜態をさらすことで団員の底が知れてしまいますよ」

「うっ……はい……」

 

 釘を刺された青年はカトルの鋭い視線に身を縮めてしまう。

 そこへ、さらにダヌアが追い打ちをかける。

 

「ぁれ……やめ……」

「ほうほう……あれは気持ち悪いからやめてくれ。と言っているぞ」

「ぐはっ……!」

 

 ダヌアにも一刀両断された青年は灰になって消えたい、と呟きながら地面に手をつく。女の子からの口撃は効くようである。

 その様子を傍目にカトルは巻き込んでしまった女性の方へ向く。

 

「あなたも巻き込んでしまってすみま……何やっているんですか」

「私は……ババアじゃ……27歳……いや、ババアなのか……?」

 

 壁偽を預け、うずくまってうわごとのように呟く女性を怪訝な様子でカトルは見つめる。

 

「あの、どうされました?」

「そうか、私はもうババア……え、あ、いや、何でも無いんだ。ははは」

 

 カトルに気付いた女性は笑ってごまかし、カトルもそれ以上追求しなかった。話がさらにこじれることが目に見えていたからだ。

 

「団長さん。大丈夫ですか」

「心に開いた穴は戻らない。だが、新たに得た世界もある。そうか、これがヘイブンか……!」

「それ、あなたが言うとうざいだけなんで止めて下さい」

 

 カトルの突き放すような言葉に青年は口を尖らせ、カトルと軽口を言い合う。そこへ女性が申し訳なさそうに割って入る。

 

「先ほどはみっともない姿を見せてすまなかった」

「もういいんですか?」

「ああ。しかし、そうか……君が、十天衆か」

 

 女性はカトルの気遣う言葉に大丈夫だと言い、そしてカトルのマントを見て物思いにふける。

 

 

──本当に、凄まじいな

 

──これが君の言っていた……

 

──化け物の、力……

 

 

「……これも巡り合わせ、か」

「ん?どったの」

 

 女性の自身に言い聞かせるように言った言葉は青年達には届かなかった。

よし、と女性は呟き、青年に頭を下げる。

 

「どうか私を君の騎空団に入れてもらえないだろうか」

「いいよ」

「いや早すぎません?もうちょっと考えて発言を……」

「いいじゃん。そもそもおれたち人数少ないからな、人は多い方が良いだろ」

「はぁ……もういいです、好きにして下さい」

 

 女性の頼みをあっさりと聞いた青年に呆れるカトルだがいつものことかと思い、青年の決定に従う。

 

「私の名はシルヴァだ。これから宜しく頼む、団長、カトル、そしてドラフのお嬢さん」

 

 改めて自己紹介をした彼女、シルヴァは、さて、と一息つき自身の目的を明かす。

 

「私の旅の目的は十天衆、ソーンと勝負を挑むためだ」

「へー」

「なるほど……」

「……」

 

 シルヴァの決意に満ちた言葉に青年はぴんとこないがカトルは納得した表情を、ダヌアは女性を()()()()で見ていた。

 

 

「だから、私の銃の整備をしたい。少し時間がかかるがいいだろうか?」

 

 シルヴァはそう言い、自身の肩にかけていたバッグを少し開け、銃を見せる。

 

「まぁ、そういうことなら。こっちも仲間がGIGしていてまだ終わってないと思うから丁度良かった」

「GIG……?時間があるのなら見ていくか?飽きないと思うが」

「うーん、まあすること無いしなー。カトルと嬢ちゃんもいいか?」

「僕は構いませんが。ついでにあなたの銃を見繕ってもらったらどうです?」

「ああ、それもそうだな。シルヴァはいいか?」

「それぐらいなら問題ない」

「おっけー、嬢ちゃんはどうする?」

 

 青年はダヌアに軽く言葉をかけるが、反対にダヌアは重く、深く思考を沈めていた。

 

(私は……何がしたいの?)

 

 

──自分は一体何をしたいのだろうか

 

──父を殺され、母を殺され……兄を殺され

 

──ヘンゼルとグレーテルとふらふらと生きていたら恐ろしい人と出会って

 

──他足助手くれた青年に無理矢理着いてきて

 

──でも青年の仲間に怖がってばかりで行動が出来なくて

 

──ずっと青年の優しさに甘えてばかりで

 

──目の前の女性は決意を決めて、あの人の仲間になったというのに

 

──怖がってばかりの自分じゃそんなことは出来ない

 

 

 

『だからっていつまでもこのままじゃ前に進めネェゼ』

 

 

 

「……ぁの……!」

「ん?ヘンゼル、嬢ちゃん今なんて言ったんだ」

「……」

「?」

 

 ダヌアの言葉を聞き取れなかった青年はダヌアのそばにいるヘンゼルに聞くがヘンゼルは口を開かず静観を貫いている。青年は不思議に思うが、次のダヌアの言葉を待つ。

 

「だぬぁ……」

「──え?」

「”ダヌア”……なまぇ……」

「なま、え……そうか、そうか!嬢ちゃんはダヌアちゃんっていうのか!」

「ぅ……」

 

 嬉しそうにダヌアの名前を呼ぶ青年にダヌアも青年の呼びにこくりと頷く。

 

「なぁ、もしかしてあの子の名前を知らずに連れていたのか?」

「こちらにもいろいろありましてね。今度また話しますよ、あなたには感謝していますし」

「感謝?」

 

 カトルの感謝、と言う言葉にシルヴァは疑問を持ち、聞き返す。

 するとカトルはこれまでの出来事を懐かしむように語る。

 

「ええ。半年程、ある事件が起きてあの子を連れて旅をするようになったんですよ。ですが名前を言うどころか、なかなか口を開いてくれなかったんですよ。本当に少しですが話すようになったのもごく最近なんですよ」

「それは……それでどうして私に感謝を?」

「名前を言わないということはぼくたちを信用していないということ。あの人は信頼を得ようと躍起になっていましたがなかなか上手くいきませんでした。本能のところ、僕もあの人があの子にひたすら話しかけてるのは結構キてたんです。ですが今、あの子は名前を言った。おそらく、あなたの言葉に揺るがされたんでしょう」

「そうなのか?」

「はい。まぁあなたの言葉はきっかけに過ぎないでしょうが、そのきっかけをぼくたちは与えられずにいた。だから感謝しているんです」

「……そうか」

 

 シルヴァは理由を聞き、ほほえましそうな目で青年とダヌアのやりとりを眺めた。

 

「ダヌアちゃん!」

「ん……」

「ダヌアちゃん!」

「ん……」

 

 青年がダヌアの名前を呼び、それにダヌアが頷くだけ、というものだったが二人の姿がシルヴァにはまぶしく見えた。

 

(私もいつか、ソーンと……)

 

 未だに、名前を呼び続け、それに頷いている青年とダヌアにグレーテルがうずうずした様子で声をかけた。

 

「なぁなぁ、仲良くすンのもいいけどよォ。お前、なンか言うことあるンじゃねェカ?」

「ああ、私もそう思う」

「言うことって……」

 

 

『もし、あの子が名前を君に伝えたら言って欲しい言葉があるんだ』

『なんだ?』

『”──”っ、あンまりこういうまねはしたくねェけど、頼ム』

『……その言葉な』

 

『俺も言おうと思ってた』

 

 

「そうだな、あれを言わなきゃなんねえな!」

 

 グレーテルの言葉にヘンゼルも同調し、青年に目線を送る。すると青年も合点がいったのかダヌアにある言葉をかける。

 

 

「ダヌア!俺と来い!仲間になれ!」

 

 

 青年の言葉は普通の人が聞けば上から目線で、馬鹿丸出しの言葉だが、ダヌアにはその言葉が心に響いた。

 

 

「ん……!」

 




青年
主人公。19歳。15歳の時に故郷の島を一人で飛び出して騎空団を立ち上げた。考えなしの馬鹿。恵まれた顔が言動のせいでマイナスに振り切っている。女性に対して目が無い。ただし年上のみ。ダヌアに対して興奮しないのもそのせい。
現在、団員は6人。うち2人が別行動している。そこに団長である青年の意思はない

カトル
えっち。2年前、青年とは因縁があって衝突し、それ以降は青年に着いてきている。団員では無い。たまに故郷に帰るため、別行動することがある。ちなみに因縁というのはカトルがふっかけただけで特にシリアスなものではない。青年のことをよく罵倒しているが、つきあいも長くなんだかんだ信頼している。

アオイドス
平原で気を失っていたところを青年に助けられ、それ以降青年の騎空団に所属している。2人目の仲間であり、『エチエチファンタジー団』古参。青年の性格上、いろいろな島に行くため、島に行くごとにゲリラライブを行っているといつの間にか有名になる。今では様々なイベントに呼ばれたり、ワンマンライブを行ったりすることが多いためよく別行動する。

ダヌア
 半年前、とある事件に遭い、その際青年に助けられる。その後、青年の騎空挺に忍び込みいつの間にか部屋を与えられ、普通に住んでいる。半年前の事件で、とある人物から与えられた恐怖におびえる。その後、いろいろ考えるものの事件の渦中にいた青年の騎空挺に忍び込み、それから考えることにした。半年前の事件にまだけりをつけてはいないが仲間を得たことで立ち向かう勇気を持てた。

シルヴァ
 27歳。十天衆のソーンとの決着をつけるため入団。青年の団を選んだのは直感。青年に食事を誘われたとき、あまりの汚さに引くが、若い子から誘われてほんの少しだけ、ほんの、少しだけ、嬉しかった。

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