魔術師と機工魔術士   作:ガタガタ震えて立向う

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プロローグ

「……何だこれ?」

 

 年の瀬も間近に迫ったある寒い冬の日の事。

 間もなくロンドンに留学するというのに、留学準備にかまけて大掃除を忘れていた遠坂さん。これはまずいと師匠命令で俺を召喚したわけだが、遠坂邸は衛宮の屋敷に負けず劣らず広い上に使われていない部屋が多い。

 埃を払うだけでお日様がお寝むになるであろうその重労働の最中に、俺は奇妙なものを見つけ掃除の手を止めていた。

 

「蓄音機……にしては魔力の残照が……?」

 

 年代物と思われる蓄音機。気になって『解析』してみれば、それは通信機能を持つ魔具だったらしい。

 通信機器も発達した今の時代にはあまりに非効率なそれに、いつの時代のものかと思いを馳せていると――

 

「あら、それお父様が使ってた通信機じゃない」

 

 ――ある意味意外な答えが家主から発せられた。

 

「……遠坂。親父さんは電話を使えなかったのか?」

「んなわけないでしょうが!? ……でもまあ機械の類いはあまり使わなかったわね。お父様は魔術師らしい魔術師だったから」

 

 どうやら魔術使いの俺には分からない、魔術師の拘りというやつらしい。

 遠坂も機械にはなるべく触らないようにしてるみたいだけど、それは単なる機械音痴だしな。遠坂の親父さんも怪しいものだけど。

 

「でも蓄音機だって機械だよな。こういう機械的な魔具って結構あるのか?」

「まさか。魔術は根源――過去に向かう学問よ。未来へ向かってる機械と融合なんて遠回り、よっぽどの物好きじゃなきゃやらないわよ」

 

 なるほど。言われてみれば確かに。

 

「ああ、でも錬金術師は別ね。彼らは学者よりも技術者よりだから、中には機械的な技術を自分の作品に取り入れる人も居るらしいし」

「錬金術か……」

 

 その辺りの話となると、俺にはもうちんぷんかんぷんだ。

 聞きたかった事も聞けたことだし、掃除の続きにとりかかるとしよう。

 

 

「錬金術?」

 

 パラケルススの工房の一室。いつものようにここを訪れ、工房の主と対面の椅子に腰かけたハルヒコは、発せられた言葉に目を瞬かせた。

 一年ほど前から不定期に行われるようになった、パラケルススとの座談会(?)。いつもなら双方の専門分野から見た考えや仮説を話し合うのだが、今日はいささか趣が異なるらしい。

 

「確か唯一物質的な成果を上げた魔術だったか?」

「何だ知ってんのか。おまえ工学はともかく、そっち方面の知識は無いと思ってたんだが」

 

 相変わらず骨格標本が服を着たような姿のパラケルススが、骨だけの顔を器用に動かし不思議そうな顔をする。

 

「大学で近代科学の基礎だとかで習ったぞ」

「マジか。侮れねぇな最近の大学」

 

 何やら感心してるパラケルススに、ハルヒコも苦笑いで応える。ハルヒコ自身も、工学を習いに行って錬金術についての講義を聞かされるとは思っていなかった。

 世の中何がどこで繋がっているか分からないものだ。

 

「まあそれなら話は早いわ。魔術ってのは思想的にも法則的にも近代科学とは相容れないとされてるが、数少ない例外が錬金術なわけだ。俺たち機工魔術士(エンチャンター)も、錬金術師から派生した存在だと言っていい」

「ああ、おまえやフルカネルリも歴史的には錬金術師として名前が残ってるもんな」

 

 目の前の骨……パラケルススは、錬金術を医学に用いた人物としてかなり有名だったりする。

 同時に人格に問題があり、当時の他の医者やら権力者に喧嘩を売りまくっていたりするのだが、それについては割愛する。

 

「錬金術から科学に移行したように、錬金術師から機工魔術士へと変化したのか」

「全ての錬金術師がそうなったわけじゃねえさ。機工魔術士(俺ら)が科学を受け入れて前に進んだのとは逆に、科学と決別して魔術という神秘と共に過去を目指す連中も居た」

「過去?」

 

 ハルヒコが言葉の真意が掴めず聞き返せば、パラケルススは煙草を一息吹かし、どこか怠そうに口を開く。

 

「魔術師って連中はな、根源という『全ての始まり』を目指してんだ」

「全ての始まり?」

「そ。全ての始まりにして原因である故に、全ての結果を導き出せる究極の知識みたいなもんだ」

「……ラプラスの悪魔みたいな話か? でも原因と結果の絶対性はカオス理論とかで否定されたはずだ」

「だから『魔術』なんじゃねえか。近代科学で否定されたからって、神秘的な意味で間違ってるとは限らないんだ。実際その根源とやらに辿り着いた魔術師だっているわけだしな」

「……ふむ」

 

 魔術がどのような存在かハルヒコには分からないが、前提条件や法則そのものが科学とは異なるということだろうかと一応納得する。

 機工魔術士としては新参のハルヒコには、そういったオカルトじみた知識が乏しく、どうにも判断がつかない。

 

「でも何でいきなりそんな話を?」

「まあ何となくだな。強いて言うならおまえも機工魔術士になってそれなりに経ったし、かち合ったらヤバい連中の事を教えとこうかなと」

「ヤバいのかよ」

 

 うんざりといった表情を隠そうともせず胡乱な目を向けるハルヒコ。それにパラケルススはカタカタと頭蓋骨を鳴らして笑い返す。

 

「カカッ。魔術師ってのは目的のためには手段を選ばん。秘匿のためなら一般人の記憶を弄るのは当たり前。場合によっちゃ躊躇いなく殺す」

「何でどこもかしこも解決方法が物騒なんだよ」

 

 以前自身の……フルカネルリの工房が荒らされた時の事を思い出す。

 医者であるパラケルススのように開かれた工房はまだしも、フルカネルリのような閉じられた工房に侵入することは機工魔術士にとって禁忌にあたる。侵入された機工魔術士は、情報漏洩と再犯の防止もかねて、犯人を殺さなければならない。

 理由を知れば理解はできる。だが現代日本で育ち未だ未成年であるハルヒコには、常識的にも倫理的にも納得できない世界だ。

 

「価値観が中世で止まってるような連中なんだよ。まあアメリカと日本を拠点にしてりゃまず会わんだろうが、絶対とは言い切れんな」

「アメリカは分かるけど、日本にも居るのか?」

「ああ。自国の文化を残しながら節操なく異文化取り込むけったいな国だからな。魔術師だって入り込んどる」

「存在がけったいなおまえに言われたくないわ」

 

 ともあれ、魔術師という連中とは関わらない方が良いらしい。

 しかし今日の話を忘れ始めた数ヶ月後。ハルヒコはとある魔術師と深く関わることになる。

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