魔術師と機工魔術士   作:ガタガタ震えて立向う

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少女との出会い1

 日本と変わらない日差しに目を細めながら空を見れば、太陽は中天を通りすぎ僅かに傾き始めていた。

 

「もう昼か。遠坂ちゃんと飯食ってるかな」

 

 頼りになる師であり、同時にどこか抜けた所のある同い年の少女を思い、俺は知らずため息をついていた。

 ロンドンは時計塔。魔術協会の総本山とされるその場所に、俺のような見習い以下のへっぽこ(あかいあくま評)が居るのは、師である遠坂のおかげに他ならない。

 高校を卒業すると同時に冬木を離れる事は考えていた。

 正義の味方になる。切嗣と、あいつとの思い出を嘘にしないために、確たる目標もないのに飛び出そうとしていた俺。しかしそれを止めたのが遠坂だった。

 俺の実力不足と展望の甘さと計画性の無さを容赦なく指摘し、凹ませ、最終的にはロンドン行きに同意させられていた。

 

「……ま、俺は俺のできる事をやるだけだな」

 

 聖杯戦争が終わってからも魔術の修練を続け、自分が目指すべき道は分かり始めている。

 ならば後は目標へ向かい努力するだけだ。

 

 そうやって自分の意思の再確認をしているうちに、いつの間にか遠坂に与えられた研究室の前まで来ていた。

 さて、また研究に没頭して食事を忘れたりしていないだろうか。

 

「遠坂ー。お昼一緒に」

「よっしゃ! 完璧!」

 

 食べないかと続けようとした言葉は、遠坂の気合の入った雄叫びと、異様な光景に遮られた。

 地下に作られた研究室。その一角から剥き出しの岩壁で構成された洞窟が続いていた。

 

「……なんでさ!?」

 

 

「……つまりこれは異界と道を繋ぐ魔具の効果なんだな」

 

 久しぶりに訪れた部屋の壁が遥か彼方までぶち抜かれていたというサプライズは、どうやら遠坂の研究の成果の一貫だったらしい。

 見れば確かに、研究室の壁と洞窟の岩壁の境目あたりに、赤い宝石細工のようなものが置かれていた。

 

「そうよ。アナラザセルとかいう悪魔の領域らしいんだけど……あら、このベーコン中々いけるわね」

 

 説明しながらも俺が作ったサンドイッチをパクつき、優雅に紅茶を飲む遠坂さん。

 何故悪魔の領域と自分の研究室をぶち抜いといて、そんなにリラックスできるのか。いつその悪魔がこちらにやってくるのかと、ヒヤヒヤしている俺が馬鹿みたいだ。

 

「成功したんなら、早く閉じないのか? 開けっ放しじゃ危ないだろ」

 

 悪魔がこんにちはしたらどうするつもりなのやら。まあ既に「あかいあくま」なら目の前にいらっしゃるのだが。

 

「何言ってるの。まだ探索もしてないじゃない」

 

 おまえは何を言っているんだ。

 

「……探索するのか?」

「当たり前じゃない。悪魔の領域ってのがどんなものなのか興味があるし、何よりそこには魔石があるらしいのよ」

「魔石?」

 

 魔石というとアレだろうか。身につけると魔法が使えたり、召喚獣が飛び出したりするのだろうか。

 

「悪魔を召喚できるのもあるらしいわよ。まあ私の狙いはエネルギーの結晶体の方だけどね」

 

 口に出したら遠坂に怒られるだろうなと思ってたら、瓢箪から駒だった。

 

「つまり宝石の代わりが欲しいんだな遠坂は」

「勿論。魔力がこもった石なんて、宝石魔術の使い手たる私のためにあるような代物じゃない」

 

 どうやらヤル気満々らしい遠坂。いつも宝石代がバカになら無いって愚痴っていたし、魔石があると分かれば多少危険でも手を出さずにはいられないらしい。

「はあ、俺も付いてくから無茶はしないでくれよ」

「あったりまえじゃない。あ、今回は悪魔相手だから、投影使っても良いわよ」

 

 投影魔術。魔術師としてはへっぽこな俺が唯一得意とする、魔力でレプリカを作り出す魔術。

 もっとも俺の投影魔術は異常で、他の魔術師に知られたら研究のために脳髄をホルマリン漬けにされかねない代物だ。

 故に遠坂からは投影禁止令が出されていたのだが、人の事情なんて関係ない悪魔ならば気にする必要も無いという事らしい。

 

「と言われてもな。悪魔相手に使えるような武器なんて、心当たりがないぞ」

 

 カリバーンは流石にやりすぎだろう。何より高ランクの宝具であるカリバーンは俺には過ぎた投影であり負担が大きすぎる。 かといって、宝具でもないただの剣では悪魔に通用するか怪しい。何かそれなりの強さで負担も少ない、手頃な武器は無いだろうか。

 

「アサシンの物干し竿は洞窟で使うには長すぎるし、ライダーの短剣は扱いが難しそうだしなあ」

「ならアーチャーの使ってた剣は? あれならランクは低くても宝具だし、今の士郎なら負担も少ないと思うんだけど」

「……アイツか」

 

 敢えて考えないようにしていた選択肢を提示してくる遠坂。

 確かにアーチャーの干将・莫耶ならば負担は少ない。だがどうにも、あのサーヴァントには苦手意識があり積極的に投影しようとは思えないのだ。

 

「まあ贅沢は言えないか。――投影、開始(トレース・オン)」

 

 自己暗示の呪文と共に、瞼を閉じ己の世界に意識を埋没させる。

 脳裏に浮かべるは、赤い騎士が手にした黒と白の双剣。

 その存在を解析、理解、再現するために、記憶の中にあるそれを深く深く覗き込む。

 

「――投影、完了(トレース・オフ)」

 

 工程を終え瞼を開けば、両手には確かな形をした双剣が収まっていた。

 アイツが持っていたそれに比べれば、ハリボテみたいにスカスカな出来だが、それでも実用には足るだろう。

 

「他はへっぽこなのに、相変わらず投影だけは反則じみてるわね」

 

 いつの間にかそばに居た遠坂が、干将を指先でつつきながら呆れたように言う。

 

「他の魔術もこれくらい上手くできたら良いんだけどなぁ」

 

 愚痴半分に言いながら、妙に手に馴染む干将・莫耶へと目を向ける。

 

 この剣の使い手だったあのサーヴァントの事を、聖杯戦争が終わった後も幾度も考えた。

 セイバーを知っていた様子もあり、遠坂はアーサー王ゆかりの騎士なのではないかと推測していたが、果たしてそんな英霊が干将・莫耶を宝具とするだろうか。

 もっと話してみたかったと思う反面、話せば間違いなくいがみ合うことになっていただろうという妙な確信がある。

 遠坂と共闘するという意味では、あまり深く関わらなかったのは正解だったのかもしれない。

 

「武器は良し。後は幾つか護符でも仕込んどくかな」

「そうね。一応言っとくけど、もう『鞘』は無いんだから、聖杯戦争のときみたいな無茶はしないでよね」

 

 応と頷いてはみたものの、遠坂に危険が及べばその約束は間違いなく破棄されるだろう。

 そんな事態にならなければ良いなと、怪我よりも遠坂の説教に怯える俺だった。

 

 

「ハルヒコ。おまえ最近町中で広域サーチでもかけたか?」

「……は?」

 

 アメリカ某所、某工科大学。

 アメリカでもそれなりに有名なその大学に在籍するハルヒコは、いつも通りに学生の本分を果たしていた。

 しかし午後からの講義が休講。あいた時間を有効活用しようと、カフェでノートPCを開きレポート作成に勤しんでいたのだが、いつの間にか対面に座りコーヒーを啜っていたホクトに訳のわからない質問をされた。

 

「何で町中でサーチすんだよ。大体今の俺は、町丸ごとサーチするほど力は残ってねえし」

 

 機工魔術士は、悪魔と契約しその力の一部を譲り受けることにより機工魔術士となる。

 故に機工魔術士は悪魔の能力の一部を人の身で扱う事ができる。しかしハルヒコは若手世代の機工魔術士らしいというべきか、魔具は作っても悪魔の力は必要に迫られない限りは使わない。

 そもそも何かするときは自力で何とかしようと思い、そちらを使おうという発想が中々出てこないのだ。

 

「そっか。そうだよな」

「……?」

 

 一人納得するホクトに、ハルヒコは訝しむ。

 

 九重ホクト。

 かつてハルヒコと敵対した機工魔術士であり、共通の敵と対し共闘した青年だ。

 出会った当初は主義主張の違いからぶつかり合い、殺し合い寸前までいった仲だが、今ではお互いに認め合いそれなりに良好な関係を築いている。

 何より、一度道を踏み間違えたとはいえ、九重ホクトという青年はハルヒコと比べても能力が高い人間なのだ。アメリカ留学にあたり彼の姉ともどもに世話になり、凄いやつだと再認識させられたのが大きいかもしれない。

 

「何だよ。何か気になることでもあったのか?」

「いや、最近感覚の端になんか引っかかるというか。俺にはサーチするほどの力も残ってないから、勘違いだとは思うんだが」

 

 そう言いながら、ホクトは片目を覆う眼帯を……彼が機工魔術士で無くなった証を撫でる。

 

「ふーん。まあ俺も気を付けとく。もしかしたら、はぐれ悪魔でもいるかもしれないしな」

「ああ。頼む」

 

 真剣な顔で言うホクトに、ハルヒコは違和感を覚えた。

 まるで何かが起こることを予想している。そんな風に思える顔だった。

 

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