「人間……にしては力が大きい。悪魔とはちゃうし機工魔術士ともちゃう。お兄さん何?」
「……え?」
僅かに見開かれたオッドアイに見つめられ、俺は言葉につまった。
何か魔術を行使した気配は無かったのに、普通の人間でないと見抜かれた。機工魔術士(エンチャンター)という聞き慣れない言葉といい、混乱の極みにあると言っていい。
「俺は……」
「ちょい待ち!」
「はい!?」
それでも何とか警戒を解こうと口を開きかければ、何やら板のようなものを取り出した少女に遮られた。
「反応あり。ネイヴィそこ動くな!」
そして何やら咆哮すると、いつの間にか右手に装着されていた小手のようなものを岩壁に突きつける。
その小手にはよく見れば背中側に杭のようなものが装着されていた。
「――ファイア!」
「なっ!?」
そして少女がかけ声を発すると同時、言葉通りに僅かな火を散らしながら、小手に備え付けられた杭が岩壁に打ち付けられる。
それはどれほどの威力だったのか、岩壁に穴を穿つだけではあきたらず、爆破でもされたような勢いで岩壁を吹き飛ばし、人一人なら簡単に通れるほどの大穴があいている。
「……パイルバンカー?」
「あ、九重もおんなじ反応しよった。でも叶……作った本人はあくまで削岩機や言よったで」
パチクリと不思議そうな顔で言う少女。
その叶さんとやらには、削岩機の定義についてよく話し合いたいところだ。今のは削岩ではなく破砕とか発破とかの方が当てはまっていると思う。
「いったーい。何なのよもう!」
「え? と、遠坂!?」
聞き慣れた声がしたので今しがた粉砕された壁だった場所に駆け寄れば、そこには砕けた石を頭からかぶった遠坂が居た。
「無事か遠坂!?」
「士郎? ……アンタ何私の許可なく居なくなってるのよ!?」
俺に気付くなり、体にかかった砂を払いながらガァーと叫ぶ遠坂さん。
どうやら俺には迷子になる権利もないらしい。
「あれ? ネイヴィの反応があったんやけど」
「こっちだマナ」
首をかしげる少女に、低い男の声が応じる。
「カラス?」
見れば首輪をつけた烏が、ひょいと瓦礫を飛び越えてヨチヨチと少女のそばに歩み寄っていた。
しかしつかの間、辺りに強烈な旋風が吹き荒れると、烏が一瞬で変成する。
「マナ。奴らに近づくな」
現れたのは、黒い外套を纏った鋭い目付きの男。その大柄な体に隠すように、少女を背に庇っている。
首には先程の烏のものと同じ首輪。どうやら先程烏が話していたのは幻聴ではなく、正体はこの男だったらしい。
「ちょっと、どないしたんネイヴィ?」
「奴らは魔術師だ」
そう言ってこちらを見据える男の目には、少女に何かあれば容赦しないと、むき出しの殺意がありありと見てとれた。
しかし遠坂はそんな殺意に怯みもせず、髪をかきあげると不遜な目を向けて言う。
「そういうアンタたちは悪魔とエンチャンターね。まさか人類の敵対者に会うとはね」
「え? 機工魔術士って人類の敵なん?」
「発想が魔女狩りの時代と変わらん。相変わらず頭に蜘蛛の巣がはっているな魔術師は」
「アンタ(悪魔)に言われたかないわよ!?」
何やら言い争い始める遠坂と悪魔。どちらかと言うと突っかかってると見えなくもない。
「落ち着けよ遠坂。俺には何がなんだが分からない。そのエンチャンターってのは危険なのか?」
「……エンチャンターっていうのはね、悪魔と契約し隷属した人間のことよ」
「え? そうなん?」
「今はそうでもない。何百年も前の話だ」
なんか遠坂が話す度に否定されてるんだが。そのせいか目の前のあかいあくまがプルプルと震えている。
「だぁーっ! 仕方ないでしょ! エンチャンターってのは存在からして悪魔寄りで、人間側には直接関わってこないのよ! というか関わってきたら技術バランスが崩れるわ!?」
「あー、九重のお姉さんも言よったなあ。機工魔術士の技術は特殊すぎて人間側には還元できんて」
どうやら意見の一致をみたらしく、叫ぶ遠坂と納得する少女。
「あー、要は悪魔寄りの人間ってことだよな。それの何処が危険なんだ?」
「……は?」
お前は何を言っているんだという目を向けてくる遠坂。何か間違ったか俺?
「悪魔って言っても、中には人間に肩入れしすぎて堕天した元天使とか神様も居るよな。そうでなくても、必ずしも人類に敵対的では無いんじゃないか?」
「アンタ……いえ、そうよね。日本人って基本そういう考え方よね」
何やら納得し、眉間を押さえながら頷く遠坂。
「はあ、確かに信用はできなくてもわざわざ敵対する意味も無かったわね。ごめんなさいね」
「あ、いえこちらこそ。ほら、ネイヴィも謝り」
「何故俺が謝らなければならない?」
頭を下げあう二人と、直立したままの悪魔。俺は何も悪くないと言わんばかりだ。いやまあ確かに警戒はしても敵対しようとは思ってなかったみたいだが。
「良いから謝らんかい阿呆!」
「ヘブッ!?」
しかし少女は悪魔のそんな態度が気にくわなかったのか、右手の小手で悪魔の頭をどついた。それはもう容赦なく。
「もう、ごめんなー。この阿呆体も態度もでこうて」
「あ、ああ……」
そして崩れ落ちて結果的に土下座状態になった悪魔を踏み抜き抉る少女。何か心なしか恍惚としてる悪魔。
少なくとも悪魔に隷属はしてない。そう確信するには十分な光景だった。
この作品の木村さんは、二年経ってそれなりにスキルアップしています。
どういう方向に向かっているのかは作中で。