「あ、ハルヒコお帰……」
「親方ー! 地面から女の子が!?」
「空じゃ無くて地面から!? どうなったの!? 生えた!?」
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「拾ったなら拾ったって言いなさいよ」
「いや、ついノリで」
少女の手当てや着替えなどを終え、下着姿同然の薄着の女性が寝室から出てくる。
女性の名はユウカナリア。ハルヒコが力を継承したフルカネルリと契約していた悪魔であり、ハルヒコの工房の管理者でもある。
今では人間と変わらないほどに弱体化しているが、フルカネルリと出会う前は名前を聞くだけで悪魔が震え上がるヤンキーだったらしい。
もっとも今では興味を持ったものに何でも挑戦する好奇心旺盛な暇人だが。
「それで、大丈夫だったのか?」
「怪我とかは無かったわよ。病気してる感じも無かったし」
ハルヒコの問いに、ユウカナリアは座布団を引っ張り出し座りながら答える。
「まあ少し痩せぎみみたいね。胸も小さかったし」
「そういう情報は言わんでよろしい」
相変わらずのデリカシーの無さに、ハルヒコは若干焦りながら返す。
「あと蜘蛛に襲われかけただけあって、見た限りでは処女……」
「だから言わんでいいっちゅーに!?」
「……あの」
セクハラに何故か男が恥じらうという謎応酬をしていると、控えめに割り込む声がする。
「あ、起き……」
二人が視線を向けた先には、金髪の小柄な少女。しかしその姿を見てハルヒコとユウカナリアは言葉を失った。
固まって動かない二人を、少女の目が――赤と青のオッドアイが不思議そうに見つめていた。
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機工魔術士の特徴の一つにオッドアイがある。
詳しい原理は不明だが、機工魔術士は普通の人間よりも両目の機能が拡張されており、常人には見えないものが見える。その力と共に宿るのが、赤と青のオッドアイだ。
故に、ハルヒコと同じオッドアイを持つ少女もまた機工魔術士のはずなのだが、その確信は得られずにいた。
「……覚えてない?」
オッドアイの事が無くとも少女に素性を聞くのは当然。しかし少女は、自身の身の上を何一つ語ることができなかった。
「はい。アメリカやボストンといった国名や地名に聞き覚えはあるのですが、私自身の事となると……」
「まあ記憶喪失っていうのはエピソード記憶の方だけ消える場合が多いけど。知識とかは残ってるんだよな?」
「はい。物の名前などは問題なく……いえ、この『こたつ』というものは思い出せません」
「いや、そりゃ多分最初から知らないから」
日本の誇る冬のリーサルウェポンに入り、ふとんをポフポフと叩きながら言う少女。
凛とした生真面目に見える表情とは不釣り合いで、なんとも妙な組み合わせだ。
「何か些細なことでも思い出せないか? せめて名前とか」
「名前……申し訳ありません。自分の事となるとさっぱり……」
「いや、無理なら良いんだ」
「……そうです! 確かセイバーと呼ばれていた気が!」
「間違いなく気のせいだろそれ!?」
世界広しといえど、そんなある意味カッコいい名前は無いだろうとハルヒコがつっこむ。少なくとも女の子の名前とは思えない。
「えー……、えーと……そ、そうです。私の名は……アルトリア……ペンドラゴン?」
「大仰なファミリーネームだなオイ!?」
ペンドラゴン、竜の頭といえば、彼の騎士王アーサーの父であるユーサー王の称号である。これまたあり得ないだろうとハルヒコは否定する。
「まあとりあえずアルトリアと呼ぶとして」
「……納得いきません」
苦心して思い出した名前を否定され、拗ねたように眉を寄せる少女アルトリア。
その様子を見てハルヒコもユウカナリアも可愛いと思ったが、言うとさらに拗ねるのが目に見えているため口をつぐんだ。
「家が分かれば送って終わる話だったんだけどな……」
「かと言って警察に預けるのもね。もし契約してる悪魔が居て、そいつが人間界のルールを無視するようなやつだったら、間違いなく騒ぎになるわよ」
悪魔には基本的に人間の常識が通じない。ユウカナリアのように人間に親い価値観の悪魔もいるが、それは長く人間界に居て馴染んだ稀有な例だ。
彼らは人間の事情など考慮してくれない。目をつけた人間を、周囲の目も気にせず追いかけ回す悪魔も居た。
ネイヴィとか。
「機工魔術士(エンチャンター)……悪魔と契約し魔具を作成する人間ですか。私にそのような事ができるとは思えないのですが」
「まあスキルが無くても、単に気に入ったから契約したがる悪魔も居るしなぁ」
ネイヴィとか。
「まあうちに居てもらうのが一番か」
「よろしいのですか?」
あまりにあっさりとしたハルヒコの様子に、アルトリアは意外そうに目を見開いた。
「行くあても無いだろ? この寒空の下に放り出すわけにもなあ……」
「ご迷惑では……」
「大丈夫。もう既に大迷惑な居候が居るから」
「そうそう……って私か!?」
アハハと笑うハルヒコにつっこむユウカナリア。
その様をアルトリアはきょとんと呆気にとられたように見ていたが、やがてじゃれあい始める二人を見てクスリと笑った。