「む……これは……中々……」
アルトリアの名前を確認し、とりあえず一息ついた後。誰かさんのお腹が可愛らしい鳴き声をあげたため、こたつを囲んだまま遅めの夕食となっていた。
「美味いか? て、聞くまでもないか」
「はい。まさか炒めた白米がこれほど美味とは。野菜しか使われておらずサッパリしているというのに、濃い味付けや香ばしさと剥離することなく調和している。これはもはや革命ともいうべき驚愕の発見です」
「ただの炒飯にそんなコメント貰ってむしろお兄さんがビックリだよ」
目を輝かせ炒飯を上品にかっ食らうアルトリアに、ハルヒコはやや呆れつつ自分の炒飯に手をつける。
「お腹空いてたせいかしらね。手早く作ったから結構手抜きなんだけど」
「残り飯だしな。まあ炊きたてだと逆に炒飯にはあわないけど」
一方どこか感心しているユウカナリア。普段の態度からは想像もできないが、料理洗濯掃除まで完璧にこなせる出来る女である(ただしやるとは限らない)。
「この分なら心配無さそうだけど、一応食い終わったらパラケルススの所に行くか」
「げっ、何であんな奴のとこ」
「どんだけ嫌なんだよ」
顔を歪めあからさまに嫌そうな顔をするユウカナリアに呆れるハルヒコ。まあ普段の二人のやり取りを見ていれば、分からなくもないのだが。
「パラケルススというのは?」
「機工魔術士の医者だよ。色々厄介だけど腕は確かだから」
「でもあいつ今日は忙しいみたいよ。久しぶりにアナラゼルラウンドが開いたらしいし」
「あー、そういや木村が行くって言ってたな。なら今は患者でいっぱいか」
「そう、その患者なんだがな」
「は?」
突然三人以外の声が聞こえて、誰のものとも知れない間の抜けた声が響く。
「問題ができたんで、ちょっくら相談に乗ってほしいんだが」
アルトリアの座っていた位置のこたつ布団がめくれあがり、彼女の股の間から生えた骨がのたまった。
あまりにシュールな光景に、リビングの空気が止まる。
「……何ですかこの不埒な骨は」
「ちょ、ギブギブギブ!?」
「意外に冷静だねお嬢さん」
躊躇いなく頭蓋骨を引っこ抜き、掴み上げるアルトリア。骨にヒビが入りミシミシと音が鳴っているが、誰も気にしちゃいない。
「ハルヒコ!? 重ねて問いますが何ですかこの骨は!?」
「パラケルスス。伝説的な錬金術師にして医者にして機工魔術士」
「コレが!?」
「骨の次はコレ扱いかよ!? 酷い嬢ちゃんだ」
「自業自得だろ」
アルトリアにアイアンクローをくらったまま抗議するパラケルスス。しかしハルヒコにも、この骨がちょっと調べれば出てくるあのパラケルススと同一人物とは思えない。
「で、懐かしい登場の仕方だったけど、何しに来たんだオマエ」
「いや、なに、依頼自体も懐かしいもんなんだがな」
カポンと頭蓋骨を体に戻しながら、パラケルススがこたつの中から這い出してくる。
本当に誰が見ても偉大な錬金術師には見えない。
「刃物が幾つかダメになってな、ナイフを何本か都合してほしいんだが」
「またかよ。今渡せるのだと戦闘用のしか無いぞ」
「構わん。体の『硬い』ヤツが居てな。そいつの患部を切り取れりゃ良いんだ」
「アバウトだな」
呆れるハルヒコだが、悪魔の中には人型以外にも動物を混ぜ合わせたキメラのような者までいるのだ。それらに対応できるパラケルススは、大雑把なように見えて適当なのかもしれない。
「それなら幾つか見繕ってすぐ持ってくよ」
「おおスマンな。なら対価はそこの嬢ちゃんの健康診断ってことで良いか?」
「お断りします」
「コラ。我儘言わないの」
警戒心むき出しで距離をとるアルトリアに、ハルヒコがオカンのような口調でたしなめる。
「大丈夫だよ。この骨は信頼はできないけど信用はできるから」
「まあ骨だけど腕は確かよね」
「人格に問題があるということではありませんかこの骨は!?」
「どんだけ骨骨連呼すんのオマエさんたち!?」
あんまりな評価に頭蓋骨が浮く勢いで抗議するパラケルスス。しかし三人ともやはり気にしちゃいない。
「ったく、最近のガキは礼儀を知らねぇ」
「おっ」
不意に室内に風が吹いたと思えば、パラケルススの姿が一瞬隠れる。
「初対面の相手なら最初からそっちで来いよ」
「仕方ねえだろ。あっちが本来の体なんだから」
そして現れたのは、大柄な黒髪の男。着ている法衣が同じでなければ、それが先程までの骨と同一人物とは信じられないだろう。
「ほれ、器具もないしとりあえず軽く診るぞ」
「……は、ハルヒコ」
「いや、そんな顔で見られても。大丈夫だってコレでも医者だから」
不安そうに顔を曇らせ身をこわばらせるアルトリアに、ハルヒコは苦笑いで応じる。
「心配せんでもとって食いやしねえよ。ほれ、口開けてみろ」
観念したらしく大人しくなったアルトリアを、パラケルススは手早く診察していく。パラケルススが大柄でアルトリアが小柄なせいか、子供を診察しているようにすら見える。
「病気は特に無いみたいだが、栄養失調気味か。筋肉の付き方の割りには痩せすぎだな。栄養あるもん食わせとけ」
「消化とか考えなくて大丈夫か?」
「胃腸も特に弱っとらん。しかし見た目からしてそんな食えないだろうから、食事内容には気遣っとけ」
質問に答えながらも触診していくパラケルスス。どうやら特に問題はないらしい。
「記憶喪失の方は何とかならないのか? 衝撃与えれば治るとかいう話も聞くけど」
「阿呆か。電化製品じゃねえんだ。下手すりゃ別の症状が出てくんぞ」
思い付きでハルヒコが言えば、パラケルススはどこか不機嫌そうに返した。
「記憶喪失の原因は色々あるがな、本当に記憶が消えちまう事なんてまず無いんだ。思い出せないだけで、記憶自体は脳味噌にきっちり残っとる」
「じゃあきっかけがあれば思い出せるんだな」
「きっかけがあればな。一生記憶が戻らなかった例もあるし、記憶が戻ったら記憶喪失中の記憶を逆に忘れちまったなんて例もある。場所が場所だけに下手に弄るわけにもいかん。気長に待つんだな」
そう言い終えると、再び風が吹きパラケルススが骨に戻る。
「まあ何か異常でも出たら連れてこい。診察くらいならロハでしてやる」
「おお、サンキューパラケルスス」
用事が終わりこたつから帰る骨。やはりシュールな光景である。
「……竜の属性ねぇ、何もんだあの嬢ちゃん」
こたつに潜り込む寸前に呟かれた言葉。それを聞いた者は居なかった。