狂った道化師を拾った話。   作:親友気取り。

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供養です


裏路地の道化師。

 冒険者ギルドへ向かう道中、貧民街に近く治安の悪いこの地区ではあまり似つかわしくないものを見てしまった。

 どこかのゴミ捨て場から拾ってきたのであろうボロの木箱を踏み台にして、奇妙な格好をした小汚い少女が廃材でジャグリングをしていた。女子供と見ればすぐに攫われてしまうと言われるような(実際は少ないが)こんな通りで。

 こちらが見ているのに気が付くとぺこりと頭を下げ、にへらと笑いながら軽い身のこなしで宙を舞ったりと他の芸も出してくる。道化の事は分からないが、本来ならこんな所にいるような技量ではないのは分かる。

 

 汗をにじませながら三度頭を下げ、布切れを縫い合わせて作ったらしいカーテンを建物から飛び出ていた釘に引っ掛けて仕切りを作りその不思議な公演に幕を閉じた。

 しばらくカーテンの奥からひらひらと手を振っていたがしばらくしてからそれも引っ込み、入れ替わりでぴょこっとカーテンの下から割れたコップが出てくる。

 奇妙な物を見させてもらった。色々と疑問が残るが、恐らくはどこかの雑技団からあぶれた道化師の物乞いか。銅貨を放り込んでやる。

 あの身のこなしなら人攫いにも対応できるだろうし、この地区でも強く生き残るだろう。

 

 

 

 俺の名前はマックス。冒険者だ。

 冒険者は迷宮の探査や調査、あるいは様々な土地での採取等が主な仕事だが、ただ調べて拾ってだけの仕事ではない。

 行く先々にはモンスターも蔓延っている。それらの任務に就く際には戦闘が避けられないことも多いし、なんなら最初から討伐がメインの依頼もある。

 こんないつ死ぬかか分からない仕事に就くのは一攫千金を夢見た田舎者か、あるいは仕事にあぶれた荒くれ者だけだ。

 

「ようマックス。今日も一人か」

「おはようギルマス。ずいぶんな挨拶だな」

 

 冒険者ギルドの受付へ行くと、珍しくギルマスが表に出ていた。

 

「で、だ。早速冒険者ランクA・“安定の”マックスに依頼があるんだが、ちょっと良いか」

「指定の依頼か? 珍しいな」

「依頼、というよりかはお願いだな」

 

 促されるままに奥の応接間で話を聞く。

 いつもは酒に焼けてにやけているギルマスの表情も、真面目な顔に変わっていた。よっぽどらしい。

 

「今朝届いた知らせなんだが、魔王が復活したとの話が出た」

「魔王?」

「そうだ。800年前に勇者が倒して封印した魔王だ」

「俺はどうすれば良いんだ? 王都に向かえばいいのか?」

 

 今いる町でAランクは俺以外には3人しかいない。Bランクは20人くらいだったはず。他の同じ程度の町と比べて戦力としては多いが、まぁまず魔王の軍勢が攻めてきたら確実に落ちる。

 人類の存亡がかかっているならこんな小さな町は切り捨てて王都に戦力を集め、決戦に備えるだろう。

 

「いいや。実力的にはSに近いあんたでもソロなら王都に向かった所であぶれるだけだ」

「ひでぇ。で、いい加減パーティーを組めと?」

「それも違う。お前さんに釣り合うメンバーがいない」

「じゃあなんだ」

「弟子を取ってもらいたい」

 

 そう言ってギルマスが差し出したのは国からの依頼書だ。拒否ができない。

 軽く目を通せば、Aランク並みとは言わないが高い技量の戦士を揃えるためにBランク以上の者は弟子を一人以上取るようにと書いてあった。

 代官が来ることもあるだろうし、引き取って終わりじゃなくある程度教えなければいけないか。

 面倒くさいが、反逆罪と言われるのも面倒だ。

 

「弟子ねぇ……。返事は?」

「なるべく早く頼む」

 

 ソロAランクの俺の弟子な訳だから、実力がそれなりでなければすぐ視察か何かでバレる。

 かといって元から冒険者の奴を弟子にとっても、活動記録でバレるか言うことを聞かないかで面倒になるだろう。

 他人の力に驕るやつなんか弟子に取る気もさらさらない。

 

「冒険者ではなく、冒険者並みの実力を持ち、かつ俺の邪魔をしない。いるか?」

「無茶を言うな。ある程度はごまかしてやるから」

 

 まぁそうだよな。冒険者としてやっていける実力があるならもう一人立ちしてる。

 

「冒険者志望の孤児でも引き取って、ある程度仕込んで依頼に同行させる。これくらいならやってくれるか?」

「考えとくよ。一応また夜に来るから候補がいれば教えてくれ」

 

 弟子を取るにしても、俺の受けられる依頼ってB以上なんだよな。Aランクになると下位ランクの依頼が取れなくなる。

 初心者……それも、冒険者になりたいと喚く子供なら言うことも聞かず相手との力量も分からず突っ込んで死ぬのがオチだ。

 となればしばらく依頼も受けず講座に指南をする事になる。気が進まない。

 なんならさっき見かけたあの道化師の少女でも引き取った方がマシかもな。

 

 冒険者ギルドで適当な依頼を受けて町から出た。

 この町に高ランクの冒険者が多い理由の一つに、町の外に広がり迷宮が点在している魔の森の存在がある。

 迷宮が多ければ町へ来てしまう魔物も多くなるので、町を守るために強い冒険者は多くいるのだ。

 

「はっ、よっと」

 

 魔法を使うコボルトの眉間を投げナイフで貫き倒し、正面のスケルトンを盾で殴りひるませてから蹴り飛ばし、左にいたオークの首を斬りつける。

 連携を取るとはいっても魔物。恐れず大胆にいけば意外と楽。

 俺はソロだから投げナイフとか色々持って戦うが、これが2人パーティーになるだけでもだいぶ楽になるだろう。

 俺がそうしないのは、単純に関係作りが苦手というかうまくできそうにないからだ。

 

「弟子ねぇ」

 

 背後から迫っていたスケルトンを返す刃で斬り伏せる。

 近くにいられては俺が自由に動けない。邪魔になるし後衛にしようか。

 弓は離れすぎて何かあった時俺のサポートが追い付かない。後衛というより中距離? あー、魔法剣士とか良いかもな。

 ただまぁ、魔法剣士は適性が必要だし自分には才能のある特別な人間と傲ったやつが多い気がする。

 

「一応候補を聞いて、マシなのを選ぶか」

 

 人間関係なんて面倒だ。

 ともかく弟子なんて俺の邪魔をしなければいい。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 

 

「マスター、りんご酒」

「あいよ。どうした、ひどく沈んでるじゃないか」

「まぁ色々あるのさ」

 

 裏通りにあるいつもの酒場。こじんまりしているいい所だ。

 結局あのあとに候補を聞いてみたが、どれもピンとくる奴はいなかった。

 やる気があるのは良い、だが、どいつもやる気があり過ぎる。何が「よろしくお願いします!」だ。堅苦しくてやってらんねぇ。

 

「……なんだ。俺の顔が何か変か」

「最近来なかったが、見ないうちにマスターの愛想笑いも型についたんじゃないか?」

「ああ。おかげさまでね」

 

 マスターが肩を竦める。

 何か面倒な客でも来るようにでもなってしまったのだろうか。

 静かな飲み場だから好きだったが、騒がしくされちゃたまらん。

 

「違う違う。──そうだな、丁度そろそろか」

 

 手招きされ裏口へ案内される。

 日の暮れた薄暗い普通の裏路地だと思ったが、そこには野良猫に混じり今朝見たあの道化師の少女がいた。

 こちらに気が付いた少女はぺこりと頭を下げると、足元の猫を踏まないようにステップを踏みながら空き瓶のジャグリングを披露する。

 やはりというか、器用だ。

 

 一通りを終えるとマスターが愛想笑いを浮かべ、扉の傍に置いていた腐りかけの果物や生ごみが入った箱をゴミの集約場へ置く。

 短い公演を終えた少女はにへらと笑い、ぺこぺこと頭を何度も下げていた。

 

 

「──あれは?」

 

 店に戻り聞く。

 マスターの愛想笑いが良くなった理由は、あの少女に向けてのものだった。

 ただ、ゴミを捨てるだけなら笑みを浮かべる理由もない。

 聞いてみるとため息とともに教えてくれた。

 

「結構前の話だ。ゴミを捨てるために扉を開けたらあの子がいてな。ゴミを漁られちゃかなわんと思ってゴミを引っ込めようとしてら、そしたら慌ててさっきみたく芸を披露してな。芸の質と恰好がちぐはぐで笑っちゃったよ」

「確かに、質は高いな」

「物乞いに負けたと思ったよ。そのままゴミを捨ててやった。自由に漁ってくれってな」

 

 それから毎日来るようになったと。

 

「あいつなりにプライドがあるらしくてな、道化らしく誰かを笑わせないと褒美を受け取らないらしい」

「笑ってやらないと食わないのか。じゃあ放ってゴミ捨てたらいいじゃねぇか」

「……情がうつっちまったんだろうなぁ」

 

 しかし引き取ることはできない。

 住民として登録されていない人物を匿うというのは、犯罪者を招き入れたと解釈されても言い逃れできないからだ。

 マスターにできるのはあくまでゴミを捨てたら食べられたという()()。それ以上入れ込めば何か言われても仕方ない。

 

「あんたも大変だな」

「マックスほどじゃねぇ。お前さんもパーティーに入らないかと言われ続けてるんだろ?」

「今は弟子を取れって言われてるさ。それも、国から」

「お互い難儀だねぇ」

「だな」

 

 店を出て少し裏路地を覗くと、座り込んだ少女がりんごをちまちまと小さい口で一生懸命に食べていた。

 足にすり寄ってくる猫を撫でて口がにやけていることに気が付くと、大げさにしまったという顔をしてから持っていたりんごの欠片を与えてやる。

 人を笑わせたらその褒美に食べ物が貰える。逆に笑わせられたら、食べ物を与える。

 見ていると胸を締め付けられるような光景に、気が付けば俺は歩み寄り声をかけていた。

 

「お前、名前は?」

「──名前、お名前?」

「お前の」

「じぇ、の、とす、リゴレーヌ!」

 

 それは名前なのか? 

 おおよそ人に付ける名前とは思えない。

 何か舞台の名前をそのまま覚えてしまっているのだろうか。

 

「そう名前です。リゴレーヌの名前だよ」

 

 少し喋り方がぎこちない。それでも礼儀はしっかりしているようで、ピンと背を張り目を合わせる。

 思ったより背は低いな。……胸はあるが。

 

「家はあるのか?」

「家? お家? 壊れました、ばらばらになりました。リゴレーヌは唯一の生き残り」

「生き残り?」

 

 器用にりんごの芯を指先でくるくると回しながら教えてくれる。

 行儀が良いのは一瞬で、基本的に落ち着きのない方らしい。

 

「リゴレーヌは旅の一座でした。旅の途中にお客さんがきました。お客さん、笑わせないと殺された。から、笑わせたよ? そしたら、最後まで残った。ました。めでたしめでたし」

「なるほどね」

 

 どうやって町に来たのかは知らないが、盗賊か山賊に襲われた時に相手を客だとでも思ったのだろう。いつものように芸を披露したらその滑稽さから情けをかけられたというところだろうか。

 しかし旅の一座か。確かこの町に来るって予定だったのが事故でこれなくなったらしいが、もしかしてそれだろうか。

 結構有名どころだったらしいが……。

 考えに耽り思わず少女を睨みつける形になってしまうと、少女は慌てて下がりぺこりと頭を下げ、瓶を幾つか手に取って宙に放り投げた。

 

「待て。俺はお前を殺す気はない」

「今は? 後は?」

 

 少し歪んでいるとは思ったが、そうか。恐らくだが元々はこんな性格でも口調でもなかったはずだ。

 事情も色々あり歪んでしまったのだろう。

 誰かを笑わせないと明日を生きられないと思ってしまうほどに。

 

「冒険者になる気はあるか?」

 

 だから俺は、無意識に手を差し伸べていた。

 多少強引ではあるが、弟子にすれば衣食住を保証する保護者として振舞える。

 ギルマスに話を通せば何とかしてくれるだろう。

 身元の分かっている盗賊に襲われた旅人であれば、保護すると申請して通らないことはない。

 ……まあ、本当に強引が過ぎてぎりぎりを攻めてはいるが。

 

「リゴレーヌは道化師です。永遠の」

「知ってるさ。冒険者のジョブ……役割の一つに道化師がある。お前は道化師として戦場に立って、役に立つ。魔物を倒して皆を笑顔にする。どうだ?」

「道化師は、道化師? 冒険者?」

 

 だが、リゴレーヌの方は意味が分からないといった風だ。

 考えることを放棄してるようにも見える。

 

「俺が決めた。今日からお前は俺の弟子だ。話を通すからついて来い」

「はい師匠!」

 

 一方的に告げれば断る気もなく、素直に師匠呼びするしついてきた。

 気が重い。今更になってどうして拾ってしまったのだろうと後悔している。

 俺もお人よしだ。同情でこんな面倒な事を引き入れて。

 

 だが、

 

「悪い気はしないな」

 

 冒険者として役に立つかは不明だが、こうして俺の弟子は決まった。

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