なるべく週刊で投稿できるように致します。
日も暮れ始め訪れたニコルが手際よく料理のする音を背景に、暇を持て余したリゴレーヌが何もない筈のテーブルの下から当たり前のように続々と何かの木材を取り出し始めた。
何かの部品らしいそれを組み立てていくと、どうやら人形劇の舞台らしい。
ただ、しっかりとした造りというよりも手作り感溢れる少しボロい感じだ。自分で作ったのだろうか。
「ご用意しました。用意です。ご用意容易でありません? いえいえ観客いるならば!」
「何をするんだ?」
「要望なりての公演です! なぜ? いやはやみなま で言うまいまい。御師様ニコルに多勢に皆様、公演望みとあらればなるまで」
最後に取り出した木箱からは人形がいくつか出てきた。その中には前にも出したことのある糸吊り人形もある。
それらどれも手作り感溢れる、お世辞にも綺麗とは言い難いものだ。
「リゴレーヌさんがまた何かするんですか?」
「知らん。……まぁ、暇つぶしにはなるだろ」
にしてもいつ作ったのだろうか。そんなものを作れるのなら、自分で帽子も用意できそうなものだが。
「ごほん! ごほほんうぇっほん! んっんー!」
目を通した書類を置き、暇になったので催しに付き合ってやることにした。
そんな俺の観客席に座った様子に満足したのか、いつもの笑みを浮かべ舞台に人形を立たせた。
「よしっ。始まり始まり、どんどんぱふどっかんどん。
今日まで皆様お待ちどう、お伝えしますは一つのお話。
それは今から大昔、いや数年でした? いえ10年です? まままそこはさてとて重要ならず、大事大事はその中身。
何の話でございましょうて? んふふふ興味を引かればこちらの土俵、慌てず慌てずお聞きください。
それはある日ある時ある国の、齢一桁ひとりの少女。
生まれ悲しき血筋の故に、石壁の外を見たこと無きないありません。そんな彼女のお話です。
やんちゃなるかなその少女、生まれ恵まれ血筋の為に、なんとなんとのななんとまさかに年少されど才能開花! 親と他従者その諸々自慢をばばん!」
灰色の背景の中、少女人形が立て板の人間へ様々な魔法を披露している。
……仕掛けや演出ではなく、本当に小規模の魔法を発動している。
当然だが魔法の制御とはとても難しい。それも繊細となれば。
目の前のリゴレーヌは造作もなくやってのけているが。
「ある日ある日のある某日。才に嫉妬はありました。あった! あって、しまった!
そう! なんとまさかの父でした! 妬み、裏切り……」
自らの子供の才能に嫉妬する親の話か。
もし俺の子供に才があったのなら、俺はどうしただろう。わからないな。
「……」
「どうした?」
リゴレーヌには珍しく、芸の途中だというのに手が止まった。
できた料理を運んできたニコルも不思議に思ったらしく首をかしげている。
「あののあのあのお開きです。なぜ故それ故アドリブ得意なれど、台本ありきの劇場それにはアドリブなくて」
「まあ、なんにせよ食事ができたから中断させる予定だったがな」
「なんとフォローはありがたい! すまなくすまないまた次回」
完全に小道具のひとつの化している開いた袋を人形劇の舞台に被せると、当たり前のように全て無くなった。
訳の分からない技術と魔法を持つリゴレーヌであっても、やはり人間だ。たまには狙っていない失敗くらいある。
というか、ちょっとくらいの失敗がなければ逆に不気味だ。
「しかし、嫉妬ねぇ」
「ボクはちょっと嫉妬しちゃいますね」
「自分の座る弟子の椅子を横取りされたからか?」
「違いますよ」
どうだか。
「本当です。というのも、実はボクも色んな魔法を使えるんですよ」
「それは初耳だな。魔法使いにでもなればいいだろう?」
「母の魔法を継ぎはしたいですけど、父の剣も継ぎたいんです」
「……そうか」
だったら親に弟子入りすればいいとは言いたかったが、それをせず孤児院に在籍しているという事はそういうことなのだろう。
弟子にはしたくないが、そういう事情をちらつかせられると揺らいでしまう。
「ん? んんん? ああっ!」
身体が真横を向くほどに傾げていたリゴレーヌが声を上げた。
「今度は何だ」
とは聞いたもののまともな答えが返ってくるとは思えない。
事実その通りで、口笛を鳴らすような素ぶりで見事に知らんぷりをされた。
何なんだいったい。
「御師様自ら気が付かなければ、これはこういう問題です。こちら道化師仲介なれど、流石さすさす弁えましょう? そう!」
俺が何か見逃してるってのか?
リゴレーヌを見て、ニコルを見て、訳が分からん。
ニコルが亡くなっただろう両親を継いで戦おうとしてる以上に別に何もないだろう。
だが、思考も常識も訳が分からないリゴレーヌではあるが、勘は悪くないと見ている。
自身の容姿に無頓着だったり道化一辺倒な所はあるが、仲を取り持とうとしたりギルマスとの会話の際に沈黙していたりなど妙な所で気は回る。
気には留めておくか。
「……まるで宮廷道化師のようだな」
普段からおかしな口調と行動をするので怒られない、言ってしまえば相手が君主であろうと何であろうと自由な発言を許されている宮廷道化師。
その立場を利用して申し上げにくい世論や助言を行い、あるいは道化師らしく相手と共通の話を作る為の“道化”を演じて仲介もする。
トランプのジョーカーに道化師が描かれている通り、上手く利用すれば利にはなるが活用できなければ不益となる存在だ。
「お気付きなられのなられられ? 及びとあられば道化の仕事!」
「できればもう少し落ち着いて行動しては欲しいがな」
「楽しみさせようリゴレーヌ。それはなぜかと道化の仕事」
「いや頼むから店に入る時は静かにしてくれ」
それと食べ方だ食べ方。
口に食い物入れたまま喋るから胸元にぼろぼろこぼしてるぞ。
普通にその汚い食べ方を何とかしてくれ。
「もう。リゴレーヌさん、あとフォークの持ち方また戻ってますよ」
「あれま申し訳なしななしなし!」
「ちょっ」
こぼした物を払って拭いてをしてる間に礼を言いまた食べかすをまき散らしてる。
目を覆いたくなるし、相手が知った仲のニコルとはいえもう少しリゴレーヌは身体を気にした方が良いと思う。
というか、ニコルもなぜ気にしてないんだ。孤児院の手伝いをしてるらしいしもう慣れてるのか?
「えっ。まあ、慣れてはいますけど。えっ」
なぜそこまで不思議そうな顔をするんだ。
ともかく、リゴレーヌが成長しないというかなんかアレだから胸元くらいは自分にやらせてくれ。
「あのー……。マックスさん、もしかしてボクの事……」
なんだ。
「あ、いえ、やっぱいいです」
なんなんだよ。
さっきのリゴレーヌの意味深な言葉といい、ニコルになんか秘密でもあるのか。
無いとは思うが。
というか、秘密があるようには思えない。
「んむぅ。御師様まさかの愚鈍なり?」
「お前それとんでもなく失礼な言い方だからな?」