狂った道化師を拾った話。   作:親友気取り。

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ニコルとリゴレーヌ。

 普段は夕刻からお邪魔しているのですが、今日は朝からマックスさんの家に来ています。

 というのもマックスさんは指定の依頼で家を空けるので、その間リゴレーヌさんの見守りをして欲しいからだそうです。

 確かに今までの行動を見る限りなんとなくふらふらとどこかへ行ってしまいそうですが……。

 玄関で厳重ににへらと笑うリゴレーヌさんに言いつけてから、最後にボクへため息交じりに頼んだと言い残し依頼へ出かけて行きました。

 

 

 

 横に立っているリゴレーヌさんの方を見ると、不思議そうな顔でボクを見ます。

 何も考えてなさそうに見えて、その実はたぶんボクの正体と言うか、抱えてる問題を見通してなお見逃す考えの持ち主。

 地頭が悪くないというのは同じ意見ですが、何をするのか分からないのはその通りな訳で。

 

「今日は何をし何を為そう? 道化の練習ほほいのほい。右から左へそいそいややっさそいやっさ、ニコルもどうですジャグリング!」

「それもいいですけど、今日は街の案内とかどうですか? お散歩に」

「むむ? この道化に街の案内を?」

「はい。たぶんですけど、リゴレーヌさんってマックスさんに付いて行くしか街を歩いてない気がして」

 

 万が一迷子になったりしたらマックスさんも心配するだろうし。

 迷子……なるかな。

 ふらふら歩いていつの間にか帰ってくるとか、あるいは家の中にいつの間にか戻ってそう……。

 リゴレーヌさんを連れてとりあえず家を出たけれど、そう考えれば案内は別に必要ない気がしてきました。

 孤児院の子達みたいな対応の仕方だったかも。

 

「そういえばリゴレーヌさんって、どこの生まれですか? 全然分からなくて」

 

 路地裏で見つけた、昔は旅の一座に在籍していたというのは知っているのだけど、それ以前が気になって聞いてみます。

 ボクのいる孤児院には様々な地方の子供が来るので肌や髪の色や言葉の訛りでどこの生まれか分かるのだけれども、リゴレーヌさんの場合本当にどこか分からない。

 全体的に色彩の薄い感じは北方の地方だろうとは思う。だけど、それにしては訛りがないというか……。

 いや、喋り方が独特過ぎて訛りが分からないのですけれど。

 

「我は旅する一座の一員、追加公演希望なりてのななりてなりて?」

「えーっと」

「準備台本用意の不用意! しまったすぐには話せない」

「あの、言いたくなければ別に……」

「そのの言葉はななんと御師様そっくりそのまま生き写し!」

「あ、ありがとう……」

「生まれ故郷は分からじ分からずいずこへどこへ。しかし公演ならればできる!」

 

 結局どこの生まれかは分かりませんでした。

 追加公演って言うのがちょっと分からないけど。いつ最初の公演をしたんでしょうか。

 というかそもそも何の公演ですか……。

 

 大通りを歩きまず案内したのは、ボクもたまに来る雑貨屋さんだ。

 品揃えは少し悪いけど、店主は優しいし悪いお店じゃない。

 

「こんにちは」

「ん? おお、ニコルの坊主じゃねぇか」

「坊主はやめてくださいって」

「ははは! それと、そっちの見慣れねぇ子は新顔か?」

 

 話を降られたリゴレーヌさんはぺこりと深々と頭を下げて自己紹介をする。

 

「元は道化師なりぞて今は冒険者。しかししかとて道化師の矜持を忘れべからず。そんな我が名はリゴレーヌ」

「あ、ああ、リゴレーヌね。……変な子だなまた」

「変と言われて笑ってワハハ。それこそ道化の道化道」

「また濃いやつだな……。ま、いい。ニコルと同じ孤児院なら大丈夫だ、安心して過去は捨てると良い」

「過去は捨てずに道化師人生!」

「それと、この人は孤児院じゃなくてマックスさんが弟子に取ったんです」

「……あー、うん。悪い、なんかもう訳分かんねぇな……」

 

 店主さんを困惑させる結果になってしまいました。

 

「ふむむふむふむ雑貨は雑なり。帽子は無くて? なるべく派手さな派手な帽!」

「派手な帽子? 流石にねぇな……」

「なれば三色様々布地! 道化に必要帽子を作ろう!」

「リゴレーヌさんってお裁縫もできるんですか?」

「それが必要とあらばご用意いたします」

「用意って、お裁縫の道具から?」

「いえいえそれには及ばず」

 

 お店の奥から出された布地の方へふらふらと歩いて行く。

 ボクはそもそも言葉が通じなかったりとかの子供の世話もすることもあるので慣れているけれど、マックスさんがこういうのらりくらりとした話に付き合っているというのが意外に思えました。

 人付き合いを人一倍恐れているあの人が。

 

「ふーむふむむ、ふむんがふむむ」

「どうだお嬢ちゃん」

「派手さは申し分なし。大きさヨシ。ならればなれば、作りよろう!」

「おお、お眼鏡にかなって何よりだ」

 

 気分が良くなったのか両手を上げて跳ねまわるリゴレーヌさん。

 そしてその胸元をなるべく見ないようにしつつ、けど視線がバレバレな店主さん。

 

「いや、ニコルさん、その、違くてね?」

 

 言いたいことは分かりますし本能と言われれば仕方ないですが、もう少し……。

 店主さんを睨んでいたら、突然跳ねまわっていたリゴレーヌさんの動きが止まりました。

 背を向けていた布地に身体を逸らせて顔を向けて、値段を見て落胆し崩れる。

 

「しまった。お金がほとほと足りぬぞホトトギス。キープ!」

「あ、あいよリゴレーヌちゃん。その内買いに来てくれ」

「それはありがとうございます、なら値引いといてください」

「雑な交渉っていうか、ニコ坊やっぱ怒ってるよな!?」

 

 坊主はやめてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お次は次はどこでしょう? こちら町の真ん中ど真ん中」

 

 その後も町を案内して回って、最後に訪れたのはリゴレーヌさんも言った通り町の中心に近い所。

 道を間違えた訳ではない。少し本当に良いのかと迷ったけれど、それでもここは来なければと思い来ました。

 

「んむぅ。墓石並びて騒がし申し訳なく」

 

 教会の横に作られた墓地へ入って、流石に声を静めたリゴレーヌさんと歩みを進めて。

 辿り着いたのはこじんまりとしつつも手入れのしっかり行き届いている墓石。

 ここに収まっているのは、ボクの母親です。

 

「ニコルの母とな魔法の師?」

「はい。とても凄い魔法使いだったと聞いてます」

 

 ボクが生まれてしばらくしてから起きた大規模な魔物の襲撃──スタンピードが起きた際、まだ子供だったボクを守って戦い、そして命を落としてしまいました。

 当時の記憶は殆ど無いのですが、その命が尽きる直前まで戦っていた光景はしっかりと覚えています。

 

「して、なぜ魔法を使わず剣を?」

 

 横に立つリゴレーヌさんの目は真剣だ。そして、鋭い。

 やっぱりごまかせません。

 

「母の言い残した、父の剣が人を守るに値すると証明して欲しい……という言葉です」

 

 最期の瞬間、母は自身が亡くなった後を案じてその言葉をボクに託しました。

 父に自分が死んだ責任を負わせないでくれと。

 

「やはりそう? しかしそう」

「ええ。だから、父の剣を、技を引き継ぎたいんです」

 

 ただその直後に父は、ボクの事を孤児院に預けて姿を消してしまっていました。

 当時からそれなりに名の知れていた冒険者ではあったので背中を追うのは簡単でしたけど、直接会おうとすればまたどこかへ行ってしまうだろうし、どう接触していこうかというのはとても悩みましたが。 

 

 納得したようにリゴレーヌさんは一つ頷くと、いつものにへらとした顔に戻って墓石に向かい頭を下げる。

 そうしてから「失礼」といい残して消えました。

 まぎれもなく、ボクの目の前で瞬きする一瞬で消えました。

 

「えぇ……」

 

 今までは何か仕切りで視界から外れている間に消えていましたが、今回は瞬きするだけでいなくなってます。

 やはり勝てません。どう勝てと。初めて会った時やその後も勝負を挑みましたが、本気でこの能力を戦いに活かされたらどうなってしまうのでしょう。

 

 しばらくして後ろからがさりと音がして、振り返ると戻ってきていました。

 端から見ている人がいればどう出現したのか聞いてみたいです。

 というよりも、リゴレーヌさん本人の視点がどうやっているのか知りたいです。

 

「持ってきましたお花を一輪。二輪、三輪ひとつの束! これをどこでと申します? お花畑を知っています」

「えっと、今集めてきたんですか?」

「はい。町の向こうの森の向こう、川の向こうの崖の下」

 

 リゴレーヌさんの手には、確かに薄紫の花が握られていました。

 どこかで採取してきたらしいのですが、一瞬でそこまで移動したんですか……? 

 

「この花仏花に合いません? お花言葉は追憶なりて、お似合いでしょう? たぶんそう」

「……そうですね」

 

 お供えするには少し寂しいですが、博識な事に花言葉を知っていました。

 追憶という言葉は、確かに似合っています。

 

 受け取って一つ添えられていた花束の横に並べます。

 

「帰りましょうか。マックスさんにここにいることを知られたら、たぶん怒られるでしょうから」

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