狂った道化師を拾った話。   作:親友気取り。

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殺意マシマシ盲目メイド。

 敵地偵察なのでリゴレーヌは家に置いてきた。

 この戦いには必要ない。

 

 普通に考えて派手な立ち回りを得意とするあいつに隠密行動なんぞできないと踏んだからだ。

 何かあった際にフォローが追い付かない。

 あいつの過去というか色々な所で関係するしついてきそうな感じがしたのでニコルに留守番の見張りは任せたが、大丈夫だろうか。

 子供相手は慣れている様だが今更不安になってきた。

 

 ……いや、やっぱり大丈夫か。

 いくら瞬間移動が可能とはいえ、今まで見てきた限り短距離のみだ。

 野外だからという理由だけで弓矢を警戒する必要が無いように、極端に離れれば問題ない。

 

 目的地付近に到着し身を隠しつつ歩みを進めていると、途端に開けた場所へ出た。

 ぽっかりと森が開いており、太陽が顔を覗かせ薄紫の花が多く咲き太陽の光を受けて輝いている。

 神聖さも感じるその場所の真ん中に誰かがいた。

 

「……冗談だろ?」

 

 見覚えのあり過ぎるその姿。

 当たり前のように、リゴレーヌが背を向けて立っていた。

 

「お前、家にいたよな?」

 

 声をかけるとゆっくりと振り返り、にへらといつものように笑って手にした花を向ける。

 何を考えているのか普段から分からないが、今回ばかりはより一層意味が分からない。

 幻覚を疑ったが、特に魔法を掛けられた感覚もない。本物か。

 あいつの移動距離には制限がないのか? なんて奴だ。

 

「お忘れ忘れの手土産忘れ、故に今更お渡し願い? いえいえまだまだ間に合い申す。ニコルにお土産半分残し、これを御師様墓前に添えて」

 

 ぐい、と手元の花を押し付けてきた。

 

「言いたいことは何となく分かった。仲間の前に添えて来いって事だろ?」

「そう! この花知ったりは幼年期にて庭師のおじじ。この場所知ったりは過去からの知らせ。故にここまで来たりたり。では!」

 

 花を受け取ると、深々とお辞儀をして横を通り抜け去っていく。

 振り返った時には、もうすでにいなくなっていた。

 視界を外れた瞬間に消え、そして距離の概念は無いらしい。

 

「ったく……」

 

 ここからすぐ近い崖の下、そこには襲われた一座の物であっただろう残骸が転がっていた。

 

「…………」

 

 すでに見かけた盗賊が探りを入れたのか金品や形の残った物は残っていない。

 何かあるとすれば、血に濡れて乾き赤黒く染まった衣服と壊された元が何なのか察しにくい木片の数々。

 周囲に何者の気配がない事を確認してから慎重に近づく。

 

 これでは誤って崖から落ちた程度にしか思えない。

 魔族と言えば変な美学と自信から分かりやすい痕跡を残すものだがそれもない。

 気は引けるが、リゴレーヌに詳しい状況と言わずとも敵の特徴程度を聞いてみれば良かった。

 

「何かあるとしたら崖の上か」

 

 登る所は周辺に無い。

 回り道にはなるが迂回するしか……。

 

「──何者だ」

 

 剣を抜き盾を構える。

 気配がしたのは一瞬だけ。すぐに消えたが、遠くに逃げては無い。身を潜めている。

 噂の魔族なのか人間なのか、その正体は分からないがただ者ではないな。

 

 どう動く? 

 警戒を解いたフリをして誘えればそれでいいが、手練れであればその程度で襲い掛からないだろう。

 

「ここは特別な地。墓荒らしとするのであれば、容赦は致しません。どうか手を引いて頂けませんか?」

 

 聞こえたのは若い女性の声だ。

 どこから聞こえたのかは分からない。俺が警戒している、一瞬感じた方向以外の場所から聞こえた気もする。

 やはり隠密、あるいは暗殺に長けたアサシンの相手か。

 初撃をどうにかして一安心としたいが、まずは話し合いで解決できないか試すか。

 

「俺は冒険者のマックス、ここへは調査で来た。ここの状況が知られればすぐ立ち去ると約束する」

 

 どうだ? 

 

「これ以上場を荒すなと申したいのです。足音一つ、匂い一つ増やして欲しくありません」

「何があったか、何に襲われたかを知りたいだけだ」

「そうですか」

 

 殺気が強まる。

 足跡や匂いと言っていたがどうしてそこまでして──

 

「──お悔やみ申し上げます」

 

 無意識の内に反応した腕が、盾が、相手の一撃をすんでで止めた。

 

「おや?」

 

 どこから接近したのかも分からないが、何という踏み込みだ。

 レイピアのような細さをした繊細な剣を振り抜いた相手は、この場と状況に似合わないメイド服の少女。

 俺が今まで見た中で一番早い、それこそ神速とも取れる一撃を放った相手は防がれた事を疑問に思ったのかとぼけた声を出して飛び退き距離を置いた。

 

「自信はあったのですが、やはり少し鈍りましたね」

「いいや、とんでもなく素晴らしい腕だ」

 

 少女はくるりと剣を回して鞘に納めると、杖のような一本の棒になる。

 メイド姿で杖に偽装した暗殺具を持ち先ほどの斬撃を持つとは、とても恐ろしい。

 もしどこかの屋敷で出会い狙われたなら疑いなく斬られていた。

 不意を突けるのであればランクSの化け物連中相手も恐らく葬れる。

 

 追撃をしなかったことから素早い一撃に特化しているのだろうが、何を隠し持っているか分からないし戦って勝てるかの判断は付かない。この後も考えれば戦闘は避けたい所だ。

 話し合いは無理そうだしハッタリしかない。

 怖いが、相手の要求に効果的であれば……。

 

「戦ってもいいが、その方が余計に荒れるぞ」

 

 沈黙。

 眉一つぴくりとも表情を動かさない少女が何を考えているのか分からないが、やがてため息をついた。

 

「これ以上荒されてしまうのは本意ではありません。……貴方も悪い人ではないようですし、引きましょう」

 

 斬る前にその判断をして欲しかったが。

 

「先の見えない盲目の身ゆえに、言葉のみで判断が付かないのです。無礼をお許しください」

 

 盲目? 目が見えていないのか。

 ハンデ有りでこれとは、恐ろしいやつめ。

 

「それで、お前はこの事故の関係者か? 何があったか知っているのなら聞いておきたい」

 

 メイド姿の少女は杖で地面を探り、先程俺も見つけていた血染めの布切れを見つけると拾い上げ確かめるように慎重に触っていく。

 

「恐らく唯一の生き残りですよ。息を潜め危機を脱したのです」

「なに?」

 

 まさかリゴレーヌの知り合いか? 

 

「気配とは視線によるものです。相手を見ていなければ、相手に見られないのですよ。一度視線を断てば隠れるのは簡単でして、それで恥ずかしながら落ち延びました」

「……この雑技団には、常識外れしかいないのか?」

 

 じゃあさっき俺が見付けられなかったのは、そもそも姿が見えてなかったということか? 

 行動思考がおかしいだけで能力はとんでもないリゴレーヌに、隠密の仕方がおかしいメイド服の少女。

 こんな連中がただ逃げるしかなくなる状況とは、相手が恐ろしい。

 

「常識外れ、とは我々を知っておられるのですか?」

「恐らくお前の知り合いだ。自前の奇術で生き延びたらしい。詳しいことを聞かせてくれるのなら会わせても良いが」

「そうですか。……あの状況で逃れられる奇術とは、道化師の彼女の事ですね」

「それだけで分かるのか?」

「脱出奇術は得意としていましたから」

 

 少女は手にしてきた血染めの布を置く。

 その横に俺は持っていた薄紫の花を添えて置いた。

 

「その匂いは、“追憶”ですか」

 

 匂いでどの花か分かるのか。

 

「ここで何があった?」

「正直な所、分かりかねます。騒がしさに耳を塞がれ、魔獣の類いがいた位しか知り得ませんでしたから」

「情報感謝する。もう少し探りを入れたいし、会っていくなら少し待ってくれないか」

 

 少女の方を向けば、既に立ち去ろうとしていた。

 

「会っていかないのか?」

「仲間を見捨ておめおめ逃げ出したとなれば、怨みも相当なものでしょう。私が無事を祝うことなどできよう筈がありません」

「……そうか」

 

 状況は違うが気持ちは分かる。

 実力を持ち期待されればその分失望も大きい。

 そしてそれが取り返しの付かないものであれば、お前のせいだと指をさされる。

 リゴレーヌがそれをするとは思えないが、手のひらとはいつでもくるりと回せるものだ。

 

「またどこかでお会いいたしましょう。何か手伝えることであればおっしゃってください」

「悪いが、パーティーは組まない主義でね。情報交換は良いが馴れ合う気はない」

「……成る程、似た過去がありましたか」

 

 見通したかのように言い残し、盲目とは思えない真っ直ぐな足取りで森へ消えていった。

 せめて名前くらいは聞いておいた方が良かったかも知れないが、どうせリゴレーヌには伝えないことだ。別によかったか。

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