狂った道化師を拾った話。   作:親友気取り。

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道化師、心配す。

 迂回して崖の上に来てみたが、やはり何者の気配もなかった。

 先ほどのような隠密に長け過ぎている相手だと流石に俺も気が付けないが、ここの様子を見るに大丈夫だろう。

 というのも、見つけた痕跡が明らかに魔物……それも魔獣がつけたような物だったからだ。

 地面を抉った荒々しい巨大な爪痕。ドラゴンではないが、それにしたって大きい。

 

「意味が分からないな」

 

 最初に会った時リゴレーヌが話していたのは、「笑わせないと殺された」という事。

 そんな判断ができるのは人間に違いないとして勝手に賊だと想定していたが、これを見る限り訳が違う。

 だがだからといって理性を持つ魔獣というのも聞いたことがないし、魔族にしてもそんな痕跡はない。

 魔獣使いという線で考えても飼い主はなんだという話になる。飼い慣らせるようなサイズではない。

 

「ロクな情報もないか」

 

 敵もなし。正体に繋がる痕跡も殆どなし。

 

「さっきのメイド服がいるような連中が全滅ねぇ……」

 

 戦闘を本職とはしていないにしてもただでやられる訳がなさそうな集団。

 Sランクの冒険者すらも葬れるであろう剣技を持つメイド服が、隠密に徹して抵抗もせず逃げ出した相手。

 

「……それくらいやばい相手がいるってだけで充分か」

 

 リゴレーヌにどれくらい強い奴が身内にいたのか聞いておこう。

 一座を襲撃したのみで他に動きがない不気味さもあり場合によっては町が危ないかも知れん。

 

「帰るか」

 

 

 

 

 

 日も落ちて暗くなってきた頃、ようやく町へ戻ってこれた。

 道中で何もなかったと言えば嘘になるが、何があったと言われても数回魔物に絡まれた程度。報告するまででもないが、一応遭遇し倒したことは伝えなければいけないのが面倒くさい。

 ギルドへの報告は簡素に行い、詳細は明日で良いだろう。

 

「お帰りしました御師様無事に。怪我無くいえいえ盾に傷」

 

 初めから付いてきていたんじゃないかと思うくらい自然に、いつの間にか俺の後ろにリゴレーヌがいた。

 ギルドの中にはいなかった。とすればギルドを出たすぐ横にいたのか? 

 いや、神出鬼没なこいつの事だ。もしかしたら俺と一緒に扉から出てきたのかも知れない。どうやったのかは知らないが。

 俺も簡単には後ろを取られない自信はあるし、それだ。いつもの瞬間移動だ。

 年齢で衰えたせいじゃない。まだ俺は現役の筈。まだ大丈夫。たぶん。

 

「ニコルはどうした?」

「置いてきました」

「無慈悲だな……」

 

 恐らく家にいただろうから、リゴレーヌが急にいなくなり慌てたニコルの顔が浮かぶ。

 家へ帰る道中、俺の横へ並んだ。

 

「昼過ぎ日も暮れ心配でして。心配でした。でしたよ? 御師様、またいなくなる」

「怖かったのか?」

「みんな、死んだ。殺された、よ? みんな」

「……そうか」

 

 引き取ってから今日までなんだかんだ常に一緒に行動をしていた。

 それが今日になって急に離れての行動で、しかも向かった先は自身の人生が一転した現場。心配にもなるか。

 

「俺も人間だし絶対死なないとは約束できないが、なるべく死なないように立ち回るさ」

「そうです? そうです?」

 

 期待はされたくない。裏切ってしまった時の失望が大きくなる。

 だが、しおらしいリゴレーヌを見て突き放す事も出来なかった。

 

「そうだ。偶然だがお前の知り合いらしい奴にあったぞ。生き残りらしい」

「生き残り! お仲間仲間、生き残り!」

 

 ごまかすように出た言葉にリゴレーヌが食いつく。

 

「名前は聞きそびれたが、とんでもない奴だったぞ。仕込み杖を持った盲目の奴に心当たりはないか?」

「アイーダ姉!?」

「姉妹だったのか。全然似てないが」

「いえいえ腹減り放浪リゴレーヌ、見つけて拾いて姉代わり! 姉ねえ生きてて嬉しの嬉し! 今いずこ?」

「お前の話をしたら、逃げ出したのを恨んでるだろうと所在までは聞けなかった。メイド服着てたしどっかの屋敷で働いているんだろうが」

「あ、それ趣味です」

 

 あのメイド服って趣味なのか!? 

 

「演目は剣武。服はひらひら。綺麗で褒めたら着てました」

「聞きたいんだが、お前のいた一座はあんなとんでも連中ばかりなのか?」

「んむぅ。一芸特化の尖りはいっぱい。いつもどこでも大人気! どっかんどっかん笑いと感動お届けします」

 

 そうじゃなくて、戦える人材はいたのかと聞きたい。

 アイーダやリゴレーヌが目立ってとんでもないのか、それとも他にも強い奴はいたのか。

 

「むむむぅ? 戦いなりぞて」

「道中で魔物とかに会ったら、誰が戦ってたんだって話だ」

「なるほど! 他には誰か? 鞭使いのツバキヒメ、演奏のナブコド? うんむぅ、意外と少ない」

「そいつらはアイーダよりも強いのか?」

「戦いメインに添えてはおらず。けれども全員負け知らず。けれども皆……」

 

 鞭使いは分かるが、演奏ってなんだ。何をするんだ。

 ともかく、立ち向かっていたのは当時戦っていなかったリゴレーヌと逃げていたアイーダを除いたその二人か。

 具体的な強さはともかく、アイーダ並みという事は大抵の敵ではない。

 

「場合によっちゃ仇討ちに参加する事になる」

「なんと!」

「お前は相手を見てるんだろう? どんな奴だった」

「どんなと申されましても、お客さんは沢山でした。けれどもけれど、大きな一つの影もあり」

「大きいか」

 

 それが地面に爪痕を残した魔獣か。

 お客さんが沢山、というのは人間並の敵が沢山いたという事で良いのか? 

 

「そう! けれどもけれど、皆々様方けむくじゃら」

「……獣人?」

「それとも少し違うよな? なんだか虚ろで歪で綺麗じゃない」

 

 分からないな。

 ──いや、まさかと思うがキメラの類か? 

 魔王軍の中には実験好きな魔族の存在がいたと聞いたことがある。魔王復活に合わせてそいつが動き、実験をしていたとなれば……。

 少し厄介だな。

 

「明日まとめてギルマスに詳細を伝えるが、来るか?」

「やりましょう仇討ち! 今は道化で冒険者、先立った仲間に成長した姿を見せ無念を晴らそう!」

 

 空回りにならないといいが、公演となれば失敗はせずかつアドリブも効くこいつの事だ。思っているような心配は必要ないのかも知れない。

 

 

「リゴレーヌさぁーん!」

 

 

 話もひと段落着いた頃、遠くからニコルが走ってきた。

 走り回っていたらしくものすごく息を切らせている。

 

「リゴレーヌ」

「なんでござりましょう?」

「今度から緊急時以外はちゃんと人に言ってから席を外すように」

「分かり申した!」

 

 普段からニコルには厳しく言っているが、流石に可哀そうに思えた。




まさかすぐにバレるとは思いませんでしたが、アイーダさんはタイトルの情報量が多過ぎる例の短編からのゲストとなります。
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