「ニコルの孤児院で?」
「はいですそうですニコルの家です。大好評です道化の演技!」
「迷惑かけてないだろうな」
「いやふふ心配無用」
新しく持たせたダガーの扱いを見る為に適当な依頼で森に向かいつつ昨日の事を聞いてみたら、リゴレーヌはニコルのいる孤児院で食べて来たらしい。
学んできたとはいえ道化師ぶろうとしてテーブルマナーが滅茶苦茶な奴の飛び入り参加なんて迷惑だっただろう。後でいつもより少し多めに寄付して詫びなければ。
「いえいえいえいえ知っておりますマナーの基本。今までわざとですとよ道化の派手による」
「後でニコルに聞くからな」
「驚きますよ? 真面目な道化! んんん? 今までが真面目でない? いつも真面目な道化道!」
やけに自信満々だな。
確かにワザと崩しているとは言うが、だからといって急にまじめにしようとした所で限度がある。
というかそれに道化の演技が好評と言ってる時点で何かやらかしてる。
やはり寄付は多めにするべきだ。
「今は良いか。帰ってから話そう」
「はいさいのははい!」
返事も元気だな。
一応師匠の立場であるので叱る時はしっかりと言わねばなるまい。
小手の位置を直すとダガーを取り出し、いつものようにジャグリングを開始。
5つに増やしたそれを宙で回しながら歩いているが別に止めない。
リゴレーヌの視野の広さ、戦闘能力は知っているしこれがこいつの戦闘スタイルだとすれば変える必要はないからな。
諦めたともいう。
前に持たせていたサーベルはジャグリングに適してないと思っていたのかやっていなかったし、そのおかげで増えていなかったからすぐダメにしていた。
しかし新しく用意したダガーはできると判断したのか増やしてくれたので刃こぼれの心配もないだろう。
投げて良し、斬りかかって良し。最初からこっちにしておけばよかった。
「索敵能力は流石だな。やるか?」
「任されされされではではででは、御覧に入れます道化の奇術。本日公演なんでしょう?」
草むらから顔を覗かせたオークと目があう。
最近はもう魔物を倒すことに抵抗はなく、細かい指示を出さずとも動いてくれるので楽だ。
「本日お見せいたしまするはこの道化師リゴレーヌの新たな奇術。それは時間を操りなりて」
は? 時間?
マジかこいつ。
「んふふふおとっとそれでは分からぬか? それもそのはず初の試み初舞台。刮目拝見驚きなれよ、口伝宣伝千里を駆けるは充分内容驚きなれよ!」
口上を無視して接近したオークが棍棒を振り回してきているが、まるで意に返さずといったように全ていなしながら続ける。
「まずはお手本基本のナイフ投げ!」
跳んで相手の頭を踏みつけてさらに高く跳び、太陽を背に空中で身を翻しながらダガーが放たれた。
両肩に一本ずつ当て、背後に着地したリゴレーヌの手元に残りの三本が落ちてきてジャグリングを再開する。
ここまではまだいつも通りだがどうするつもりだ?
どう時間を操るというのだろうか。
俺の事を無視して背後へ向き直ったオークが足を鳴らして怒りを露わにする。
それでも慌てず涼しい顔をしながら残ったダガー全てをオークの足元へ投げた。
地面に刺さっただけのように見えるが、なぜか足が固定されたかのようにオークはもがいている。
「行きますよ? ご覧あれ! 道化の奇術は時戻し!」
その前に地面に投げたナイフと動けなくなったオークについて説明して欲しい。
「わんとぅーさんしー、せーのっ!」
振る手に合わせて、オークと地面に刺さっていたダガーがひとりでに動いて抜け、そして飛びリゴレーヌの手元に帰ってきた。
時戻しと言われれば確かに投げたものが戻っているが、あまりパッとはしないな。
派手ではないし分かりにくい。
……どうやって手元に戻したのかについてを放棄して芸としての採点を付けている辺り俺も毒されたな。
「んむぅ。確かにあまり派手にもなく分かりにくきは華やかさもなく。残念なりぞや。そは失敗」
芸を諦めたのか眉間に一本差して止めを刺した。
実戦という観点で見れば投げたものを拾わず回収できるというのは良いと思うが、手持ちの残数を増やすという常識外れの方法で解決できるリゴレーヌにとっては不要なものだろう。
それよりもオークの足止めをしていたあれの方が役に立つと思う。
あれは何なんだ?
「何と問われぞ影縫いにございましょう? ぬいぬい」
「いやあたり前のように言うな。なんだそれ」
聞いた事がないぞ。
「御師様はお聞きになられた事ならずに?」
「ああ知らない。説明してくれ」
「影縫いとは! とはいぬかげげ! わん!」
一本ダガーを取り出し、俺の足元へ放った。
なるほど。実践してくれるのなら……。
あれ? 待て、足が動かん。何したお前。
地面に足の裏がくっついてるかのように動けん。
おい。
「モノ動かねば影動かぬ故に、影動かねばモノ動かず。故に影縫い呼び足りふぞふぞ」
「待て待て待て待て、戦いという目で見ろ。足が動かない剣士とか戦場じゃ死んだも同然だぞ」
「でももでもでもお客さんには全く伝わらない!」
さっきの“時戻し”で俺の足元からダガーを回収したリゴレーヌがジャグリングでまた増やし、草むらへ数本放った。
それと同時に鳴き声がして、がさがさと魔物がもがく音が聞こえる。
姿は見えないが声からしてまたオークだろう。何かいるのは知ってたがまたお前か。
「新芸開発今回失敗、御師様アイデアあられば欲す」
「もう少しあいつについてなんか触れてやれよ」
無視されてるオークがかわいそうだ。俺がナイフを投げて倒す。
「あと倒したと思っても生きてる場合がある。気を緩める前にしっかりと確認を――」
リゴレーヌが倒した近くの地面を転がってる奴を蹴って転がし、気が付いた。
最初に確か両肩へダガーを刺さしていたと思うが、こいつからは傷がなくなっている。
時戻しの名の通り、ダガーを戻したと同時に傷も治したのか。
……いや、まさか時間が本当に戻って治ったのか?
脳天に突き刺さったままになっている締めの一本。これを時戻しでリゴレーヌが回収したらどうなる……?
まさか、まさかとは思うが生き返ったりしないだろうな。
…………。
「あ、それ忘れてました」
気が付かれた!
急いで引き抜き血を払い渡してやる。
「うげげ、御師様乱暴酷いなり」
「……時戻しは封印だ」
「ええー。片付け楽になり申すというに!」
「それでもだ! 絶対使うな!」
何が起こるか分からん!
リゴレーヌなら、死者蘇生とかの万が一をやりかねん!
簡単なリゴレーヌ構文の作り方!
「昨日は雨が降りましたが、今日は良い天気ですね」
まずは無理やり昭和文学のようにします。
軽く語尾を変え、少し間違ってる位が丁度良いです。
「昨日は雨が降り申したりけど、今日は良い天気なりぞや」
次にリズムに乗せます。
意味の伝わりやすさより語呂重視にします。
「昨日は雨降り申したり、けれど本日良い天気なり」
これで完成です。
ぜひ日常的にお使いください。
私は仕事のメールでリゴレーヌ語を使用してしまいました(事故報告)