その後は新技への挑戦もなく、リゴレーヌは普段からしてみれば積極的に交戦を仕掛けておかげで少し早めに依頼は終了となった。
別に急ぐことではないと思うが、どうやら道化師様はすぐ町に戻りたいらしくダガーを数本を宙で回しながら帰ろうと提案している。
何か用事でも、それとも珍しくお願い事でもあるのだろうか。
「公演終わりの賃金貯まり、小遣い貯まりのでですよですよ? なんとそれはななんと帽子のめど!」
「そういえば欲しがってたな。良かったじゃないか」
「はい! お山のもこもこカラフル沢山! 目立って道化の象徴なりての誇りになりて!」
「……特にこれ以上狩る必要もないからな。帰るか」
「お聞き入れての感謝に感謝!」
ご機嫌に歌い始めながらジャグリングのダガーを増やし、数えきれないほどを回している。
いつもは多くて10本も行かないというのにこんなできたのか。
「たらったたらったの、たったー。
御師様従事の幾何何日数えておらぬがななんと帽子、そうです道化の帽子が頭にぽーん。
お披露目公演何ににしましょか? 得意の奇術もそれよし挑戦新た、しましょか何にに公演お披露目。
気持ち新たに洗礼名簿、いえいえ三度目名前はあらず。この名その名はリゴレーヌ!
よほど帽子を買える事が嬉しいらしい。歌というにはいつもの喋りなせいで意味不明だが。
「お前、それが終わったら何するんだ?」
「といいますと? ですよ?」
「次の目標は何かって話だ」
「うんむぅ。まだまだこれは始まりなりて。帽子のお次は道化師衣装に小道具たたた。それにそれそれまだまだ山済みなりぞやー」
「そうか」
別に意味のある質問ではなく気になっただけだが、リゴレーヌなりに色々考えてるらしい。
最初に会った頃は滅茶苦茶でその日の暮らしすらといった風だったのに、今や先を見据えるまで余裕ができた。
あの時に手を差し伸べていなければ、いつまでもあの即席の舞台で芸をし続け飢えてとなっていただろう。
もしかしたら今はもうかも知れないと考えると偶には良い事をしてみるもんだと自分への慰めになる。
だが同時に無邪気に俺を慕う顔を見る度に後悔と懺悔の気も出てくる。
当然、それは孤児院へ預けている娘のベリテットの事だ。
もし自分を差し置いて知らない娘を引き取っていると知ったらなんと思うだろうか。
成り行きとはいえ言い訳できないだろう。
……俺のようなやつを親だと認めず見切りを付けてくれていれば嬉しいが。
「御師様またまた暗い顔。笑顔に変えましましょう? 風船爆弾カラフルぼんばー!」
先を歩いていたリゴレーヌが振り返り、ダガーを仕舞うと手から様々な色をした泡を空に向かって飛ばした。
「お前が気にする事じゃないさ。俺の問題だ」
「ですか? ですが言いましょお伝えしましょう。大丈夫!」
「大丈夫、ねぇ……」
何が分かると言いたいが、こいつに怒った所で意味はない。
いいや、無駄な所で勘のいいリゴレーヌだ。孤児院に行ったときに俺が間違えて発したベリテットの名前を覚えていて何か余計な事をしたのかも知れない。
宮廷道化師のような仕事まがいもできるとは前にも考えたが、流石にありえないと思うが。
「どうです綺麗なカラフルばばば。気は晴れまして? しててまれははき」
「……ひとつ聞きたいが」
「なんでしょう?」
「ベリテットとは、会ったのか?」
「んむぅ? その名は記憶にござらんてござりまするが。以前にも口にしており何かか誰か?」
「いや、聞いてみただけだ」
ニコルとは違い、リゴレーヌは聞けばはぐらかしたりせずしっかり答えてくれるから不快感はない。
あいつはな、ニコルはな、絶対に重要な何かを隠してる。
「リゴレーヌはニコルと仲が良いが、何か俺に隠してることは無いか?」
「隠し事とは。んむーむ、色々話はしせりとなれど、何ぞと問われれ分からじなりぞや」
質問がなければ答えられないか。
そうこう話している間にも町へ到着し、まずはとりあえずギルドへ。
そろそろリゴレーヌにも依頼の受け方とかも教えるべきだろうか。一応冒険者で弟子な訳だし。
というか今の所は俺の弟子だが、その内にひとり立ちするのか?
元はと言えば魔王が復活したから人間側の戦力増強の為だし、引き抜きとかもあるのだろうか。
あんまりそこら辺の話はしてなかったし後でギルマスに聞いておこう。
「で、だ。お待ちかねの今回の金だ」
万が一計算間違いで足りなかったら可哀そうなので、気持ち多めに渡しておく。今回くらいは良いだろう。
流石に枚数が枚数なので投げて遊んだりはせず、自分用の袋に銭を詰め込んで満足げに頷いた。
「早速買いに行くのか?」
「善は急げのぜんぜけぜん!」
まだ売ってるのか?
そう思いつつ先を歩くリゴレーヌの背中を追っていくと、辿り着いたのは以前に帽子を見かけた露店ではなく雑貨屋だった。
こんなところに売っているのかと疑問に思っていたら、リゴレーヌを見た店主がにこやかに挨拶をかました。
いつの間にか知り合ってたのか。
「今日はお師匠さんと一緒かい。あー、前に欲しがってた布地だったな」
「はいですそうです小遣い貯まりの欲する材料!」
店主とは話を通していたらしい。すぐに用意がされていく。
「リゴレーヌって裁縫できたのか」
「できますですよよ必要あらればやってのけます。昔に習って役に立つ!」
意外だとは思ったが、そういえば小劇場だのも手作りしてたな。
まさかと思うがこれ道化師の衣装も手作りする気だろうか。
器用だな。
「やりますですよ? 手作り作り。デザイン色々自由にちょきちょきちょっきん! 御師様もお洋服欲す?」
「いやいい。いらない」
「まままましばらく先にはなりそうなりそう。素材もそんなに安くない」
そりゃそうだろうな。
店主の持ってきた布地を張り付くようにして厳選し、原色を数枚選択した。
そこそこの大きさなのでそれなりに値段は張るが、元々多めに見積もってたようで余裕らしい。
余ったお金で針と糸を買い、それでも余ったらしい金で一見すると使いどころのなさそうなアクセサリにもならない小物も購入していく。
残した金を次の予算にするという考えはないのか。
「んふふふふふ、むふふ、ふー!」
「足りたか?」
「最高ですよ! 作りますです完成できます! ですよよこうさいですますつくり!」
大興奮だな。
「また来てくれよーお嬢ちゃん」
「またのち来ますよお次は衣装! 覚悟し沢山ご用意布地!」
「待ってるぜ」
さっそく家に戻るようだ。
気持ちは分かる。俺も子供の頃に始めて剣を握った時、早く使って見たいと無邪気に思ったものだ。
休みを続けるのはあまりよくないが、帽子の完成まではすぐ終わるような簡単な依頼にしておくか。