「ちくちくほーし……ちくちくほーし……」
いつも騒がしい道化師様が珍しく比較的大人しい。
素材を引っ提げて家へ帰り、それからずっと夜通し裁縫をしていたのだから流石に疲れて当然か。
見るからにしょぼくれた目と明らかに落ちたペースで作業を続けている。
「しかしお前も人間らしい所があったな。疲れたならちゃんと休め」
「いえいえいえいえ、翌日あるいはすぐにも完成できるとご期待あらればお声に答えてなりにょの道化道……」
「誰に期待されたんだ? ちゃんと寝ろ」
「……道化の帽子は……誇りの冠……」
限界だったのかそのまま寝てしまった。
針を針山に刺して事故を防いでる辺りはちゃっかりしてる。
「……みゅぃ……」
三角の尖りが二つ伸びた、パッと見ても道化師のものと分かるそれは手作りではなかなか出来が良い。
外観は出来上がっているので後は装飾だけか。というか刺繍をしてたのか。
器用というか、どこで習ってきたんだか。
「習った、か」
椅子で寝かせるのも悪いので抱えてリゴレーヌの部屋に連れて行く。
久しぶりに訪れたこいつの部屋の中には廃材としか思えない物が多く転がり、子供のおもちゃ箱の中にいるような気分になった。
いつの間にこんな持ち込んだんだといいたい。足の踏み場がないぞ。
ベッドに転がして後にする。
リゴレーヌの出自はあまりはっきりしない。
人形劇の内容は確かにあいつ自身の体験談であるだろう。だが、どこの国でどの立場でといった事ははっきり口にはしていない。
花言葉を知っていたり裁縫を習っていたり、それと料理のひとつをできるのは少なくてもそれなりな家に生まれたのだろう。
それなのに父の嫉妬ひとつで追われて今だ。
「父親ってのはロクな事しねぇ」
リゴレーヌが作りかけていた帽子の刺繍は、今俺達のいるアガ国の紋章らしい。
町中で見かけない事もないがわざわざ採用しているのは出身の関係か? 一応同国の出身ではあるのか。
「だからどうしたって感じだが」
家を捨てざるを得ない状況になり、一座に拾われ、色々あって冒険者になり現在に至る。それだけだ。
恐らくだが昔の名前そのままって事は無いだろう。
もし仮に使者的な奴に突っ込まれても、自信をもって「こいつはリゴレーヌ」とでも言ってやるか。
「おはようございましての御師様おはよう。こんにちは?」
「起きたか」
「ご迷惑、おかけしましてごめんなさい。次々お仕事貯まりの平気?」
「……休みにする予定だったからいい」
「それならば!」
本当は休む予定ではなかったが、こんな状態で戦わせられん。
「遅刻にありまし現在お昼。まだまだ間に合う明日の公演!」
再び裁縫が開始された。
久しぶりに本を読んでいたし、静かにしてくれるのならいい。
「んふふふふふふ、つくつくほーしのちくちくほーし。夏の終わりに針一本、紡いで重ねて色重ね、出来上がりましては国家の紋章アガの国! ですよよですよの愛国心!」
訂正。静かではなかった。
そんなに国に忠誠があるのか?
「裏切り父上以前は優しくいつもいつもも国の為。つくつくほーし尽く尽く
「やっぱりあの人形劇、あれはお前だったんだな」
「あぁー! しまった! 御師様今のはお聞きにならず、むむむ聞いてしまえば戻すしか!」
時戻しはやめろォ!
「ご冗談。流石の道化も大規模やるには時間がなくて。む? 大規模時間を戻す為には大規模準備が必要で? けどけど戻られるばやプラマイゼロゼロ時間はマイナス」
やめろと言っている。
「やりません。御師様やるなと申すはやりません。やりません? やりませぬ」
「時間関連だけはマジで頼むぞ……」
「ぬせままやりやりませんのやまま!」
それは了承したのか? 本当に大丈夫なんだろうな?
俺が気が付いてないだけで既に戻ってるってことは無いよな?
……いや、そんなにできてたらそもそも一座を復活させてるか。そうだよな。
「できました! お次はしゃらしゃら装飾じゃらじゃらじゃん!」
刺繍が終わったらしい。
今度は一緒に買っていたよくわからない小物を取り付けていく。
この辺は派手さを求めるリゴレーヌらしい。細々として集中力のいる刺繍よりも生き生きとあーでもないこーでもないと付けていっている。
しかしあれだな。この調子で衣装も作ったらどうなってしまうんだろう。
衣装にもこの調子で小物を付けていくんだろうし。
「んぺー。やっぱりぱりぱりやめときましょう? 重しは動作の阻害になりまし疎外とします。がちゃがちゃじゃらじゃら目立ちはせども映えはせぬ」
……やめておくのか。
できあがった帽子の二つ特徴的な山はそれぞれ真ん中から緑と紫の二色に分かれている。
自慢げに被ると途中で折れ曲がり、結構なボリュームとなる。
確かに目立つと言えば目立つ。デカイ。
リゴレーヌの頭が倍になったような感じだ。
「完成となれば自慢! 自慢となればニコル! そして猛獣ども!」
くるくる回るのはいいが、三角の先に付いたぼんぼんが遠心力で俺を殴ってるしもう少し離れて欲しい。
「御師様どうです道化の帽子! 自信ですよ? 凄いでしょう!」
「ああ、俺にも自慢はするのな。……上出来じゃないか? 自分で作ったにしては」
「やった!」
回るのをやめたリゴレーヌが玄関へ駆けていく。見せに行くらしい。
「いってきますですよ、はっはー!」
「いってら……ん?」
帽子の色が変わってる。さっきまで緑と紫だったのに今は青と赤になってる。
さっきの刺繍が代わりに見えなくなっているし、あれは魔法陣的な意味合いもあったのか?
……まぁリゴレーヌだし目を離した途端に色が変わる事もあるか。