狂った道化師を拾った話。   作:親友気取り。

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35時間かけた回復ドライブの作成に失敗しました。

今週の分が間に合わなかった為、没になった話の供養となります。手抜きで申し訳ありません。


番外編 黒猫義賊

 ある日の道化師。

 リゴレーヌが留守番をしていたとある日。

 その日はマックスもニコルも用事が重なり朝から誰も家にはいなかった。

 

「とぅー」

 

 誰もいない家で何をするか?

 それは当然、道化師としての練習だった。

 普段は当たり前のように奇術を披露し、小ネタを欠かさない天才的な道化師といえど実力に慢心をせず練習は欠かさないのだ。

 

 庭に出した椅子の上に飛び乗って片足で立ち、どこからか取り出した瓶でジャグリング。

 しばらくして1つ増やして、またしばらくしてからもう1つ。

 

「ふむぅー。これでは飽き飽きいつものひとつ覚え、何かばばんと新項目。がっかりさせまじお客さん!」

 

 沢山になった瓶を空に投げ、椅子にどすんと尻餅をつくように勢いよく座り胡座をかく。

 

「むむむぅ。何か指示なきあらずやお題目。応えて見せよう魅せよう道化師魂!」

 

 降ってきた瓶が土に刺さり、軽やかな音を奏でながら最初の一本を基礎に重なっていき細長い塔を作った。

 バランス感覚や投擲精度でどうにもならない問題を越えてるが、満足行かないらしい。

 帽子を瓶のてっぺんから被せ、さも当然のように地面まで到達し塔は回収された。どこへ消えたのかは分からない。

 

「お客さんを飽きさせる……道化にあるまじたらるたや! るせさきあをんさ!」

 

 くるくる回って、横に落ちた。

 まるでリゴレーヌにかかる重力だけが横向きになったように。

 

「重力道化師これも驚き少なくなるなる。ここから繋げてリゴレーヌ!」

 

 本人はそうでもないと振る舞っているが、充分おかしい。

 

「いえいえいえいえ、道化に悲しい事嬉しい事関係なし、ジュシュレ・イーブゥル・プーレッラ?」

 

 意味不明な単語を呟きながらふわりと跳んで、空中でゆっくり回転しながら元の通常の地面へ戻り、そして伸びをひとつ。

 土汚れも気にせず大の字に転がり、にゃーにゃーと駆け寄ってきた猫を持ち上げて微笑む。

 昔とは違い、もう猫に笑わせられても褒美を与える行動はしなくなっていた。

 意識の違いとしては仲間だから楽屋では一緒に笑いあう、と言った風らしい。

 ちなみに勝手に飼っている。お陰でマックスの家周辺は猫だらけの名所と化した。

 

「ふ、ふふふ、ねうねう語らいてはもふの猛獣。()の膝を、胸元を、腕を封じ……顔に乗ることなかれ……」

 

 囲まれて楽しそうにしていたが、流石に顔に乗られては呼吸もままならないので首を振って降ろした。

 

「む?」

 

 わいわいとしていたが、何かに気が付いて体を起こす。

 視線の先には遠くに黒猫が一匹いた。

 

「そは輪に加わらず? 意味は深げに首傾げ?」

 

 黒猫はリゴレーヌを眺めたあと歩き去る。

 ……ように見せて振り返り、着いてこいと言わんばかりに細く鳴いた。

 それを見て追いかけないはずもない。

 リゴレーヌは猫に埋もれて沈みこむように消えて、次の瞬間には黒猫の真横に座っていた。いつもの瞬間移動だ。

 それを見た黒猫は驚きのあまり跳ねて逃げるように走り、道化師はそれを見て笑顔のまま追いかける。

 

 跳んで、跳ねて、猫にしか通れないような狭い道は胸がつっかえて同じ道を通れなかったようだが追いかけ続ける。

 途中で瞬間移動や明らかに重力を無視した速度のふんわりとしたジャンプを挟みながらなものの、全力で走る猫に追い付く人間はとても珍しいだろう。

 本人にとってはそんなもの程度だが。

 

「吾が名は道化師リゴレーヌ。黒猫ねここはなぜゆえ案内? ここいずこなりては未知なる道ゆき謎の家!」

 

 やがてたどり着いたのは一軒の建物。

 僅かな足掛かりを跳んで黒猫が高い位置にある空いた窓から部屋に入り、リゴレーヌは直接跳んで入った。

 

「んむぅ?」

 

 梁の上の狭い隙間に収まったひとりと一匹が見下ろした先には複数の人間がいる。

 それを見てリゴレーヌは──落ちた。

 

「うわぁ!?」

「なんだこのガキ!」

 

 落ちた、というより自ら降りた。

 それもそのはずで、黒猫が案内した先ではひとりの子供をふたりの大人が取り囲み脅すようにしていたのだから。

 子供には獣の耳が生えていて、一目に獣人とわかる。

 囲まれていた理由はわからないが、ただ事ではない。

 

「こちら道化師リゴレーヌ! 飛び入り舞台のお邪魔虫? いえ道化師!」

「な、なにいってんだ……?」

「なんでもいいからついでに捕まえちまえ!」

「へい!」

 

 捕まえる。良い言葉ではない。

 踊るようにくるくる回って伸ばされた手を避けて、リゴレーヌは男の足を払い転ばせる。

 

「非道な悪事は見逃し許さぬと、ニコルがそういうそういった? いう! そは悪事?」

 

 答えはナイフだった。

 しかしやはりリゴレーヌには当たらない。

 紙一重でかわし、そういう演目なのかとすら思える。

 

「お客さんさんお客さん、この者らは悪人たるや?」

「……?」

「悪人たられば成敗いたすがしなきゃにゃならぬ!」

「……」

 

 獣人の子供は喋らない。

 喋らないというより、喋れない。口は開けども声にはならないのだ。

 だがリゴレーヌは心でも読んだかのように頷くと手を叩いた。

 

「見せたりまするは悪人成敗道化師リゴレーヌ! の、奇術!」

 

 手にした帽子のふちを掴んで広げ、

 

「いただきます! となー!」

 

 男二人を飲み込んだ。

 

「ふ、ふふふ、ふふふふふ……」

 

 先程までナイフを振り回していた大人二人を一瞬で消し去ったリゴレーヌは不気味に笑い、それを見て獣人の子供もその横へ来ていた黒猫もドン引きしていた。

 くるくると帽子を回して頭に被り、未だに現れない二人の事など忘れたかのように話しかける。

 

「うにゅうい。言葉話せずとも気持ちわかりて。怖いは怖い、もう大丈夫!」

「……」

 

 恐怖の対象はリゴレーヌの方では?

 微妙に通じていない。

 

「ふむふむ。黒猫はそう申すか」

 

 子供は置いておき、ここまで道案内をしてくれた黒猫の方に聞く。

 こちらはなぜかスムーズに会話ができるらしい。

 

「うむぅ。語り申せぬ獣人たらるは人にあらずて愛玩奴隷、そこそこ値段ともうされる……」

「……」

「なれば! 喋れば良き!」

「……」

 

 ぶんぶんと子供が首をふる。

 それができないから苦労をしてるんだと。

 リゴレーヌは気にせず手を伸ばす。

 子供の獣人はもう分かって諦めていた。今ここを切り抜けても、喋れない流暢に話せる自分に行く宛はないのだと。

 

「行く宛なきとはその理由はなんぞや?」

「どうせ……え? あれ?」

 

 目をぱちくりさせながら困惑する。

 

「吾は何もしておらずしてなく。元よりそうであらればそうであろう!」

 

 リゴレーヌが元気よく話す。

 それに対して子供も拙く喋りかけるが言葉は続かない。

 実は流暢に話せるが今まであまり会話をしてこなかったので言葉に詰まっているのだろう。

 

「黒猫とその主よ、何しても良きと自由を履き違える事なかれ! さもなくば悪党成敗いたす! よせいあをわへー!」

 

 深々と頭を下げてリゴレーヌが帽子に吸い込まれるように消えて、帽子も消えた。

 

「ぐわぁ!?」「うおっ!」

「で、出てきた……」

 

 一拍おいて、外へ通じる扉が開いて消されていた男達が帰ってきた。

 状況は分かっていないようだが、とてつもない恐怖を体験したらしい。ここが元いた家だと認識するやいなや逃げ去る。

 

 全てにおいて置いてけぼりの子供は、喋れるようになったことを不思議になりつつ相棒の黒猫を撫でる。

 確かにこれでもう“密猟”される危険はなく自由の身となった訳だが、家もない貧民の出であるがゆえに行く宛もない。

 

「にゃう」

 

 黒猫が鳴いて、去った男が落としたナイフを教えてくれる。

 

「悪人、成敗……」

 

 唯一の取り柄として、今回は運がなかったが基本は逃げて生きてきた。身体能力や勘には自信がある。

 義賊ならば。もしかしたら。

 

 ナイフを拾って適当な紐でくくりつけ外へ出る。

 目に焼き付いた道化師の軽やかなステップ、そして悪を倒し正義に生きるその姿勢。

 

「やろっか」

「にゃう」

 

 黒猫と獣人の子供。

 リゴレーヌが偶然助けたそのコンビが少しずつ名を馳せていくのは、またいつか。

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