狂った道化師を拾った話。   作:親友気取り。

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(旧PCの)供養です。
あと、予約失敗により普通に投稿しちゃってたのは申し訳ありません。


震える山

「どちらからでもどうぞ」

 

 軽く杖で地面を叩いたアイーダが呟き構えるわけでなく足を揃えたまま姿勢良く凛と佇んでいる。

 かすかに吹く風に揺れるメイド姿は美しくあるが、その実力は確かでありどこからでも掛かってこいとは言うが下手に踏み込めば一瞬で斬られるだろう。

 相対するニコルはというと、木剣を構えたまま警戒し過ぎてもはや動けていない。

 

「アイーダ姉ねえ剣技はしゅぱぱ! 早き事それ光の如し!」

 

 強さを聞いていたニコルがそれなら折角だからと手合わせを申し込んだそうだが、実力に差がありすぎる。

 以前のリゴレーヌ戦で自分からアクションを起こす必要性を学んでいる筈。それでも動けないのは剣士として相手を見抜く素質があるということか。

 俺の弟子なんかに拘らずもっといい師匠のところに行けば名も残せるだろうに。

 

「どうかされましたか? いつでもどうぞ?」

 

 正直俺もどう打って出ればいいのかわからない。

 アイーダの持ち合わせている特殊能力というか魔法というか、それらが常識から外れてそうだし。最初に会った時は「見ていなければ見られない」とか言って透明化してたし何か絶対隠し持ってる。

 

「……」

 

 じりじりとニコルが音を立てないように側面へ回り込もうと進む。

 それを認識しているだろうアイーダは微動だにしない。

 

「姉ねえ見えぬはホントの事こと。されどしかしか見えてる範囲はそれ以上! 物音ひとつ? いえ反射音! パッシブアクティブ混合ソナー! んなー!」

 

 ソナーってなんだよ。

 

「リゴレーヌ」

「はいな!」

 

 佇んだままのメイド服からひと言名前を呼ばれただけで意味を汲み取り、両人差し指を口の前で交差させて頬を膨らませながら黙った。それだけで意志疎通とれるのか。いいなぁ。

 俺もなぁ、名前呼ぶだけで簡単に指示取れたら凄い楽なのになぁ。

 ぷすーと息を漏らしているリゴレーヌを尻目に視線を戻す。

 

 アイーダは相変わらずだが、ニコルが右手の剣はそのまま左手に小さな楽器を持ち魔力を集中させている。

 そういえば魔法の素質あったんだっけか。まったくそれらしい事をしないから忘れかけてた。

 小さな楽器に何か仕掛けが施されているようには見えない。魔道具でもないただの楽器。

 あんなもの何に使うんだ? 

 

「はっ!」

 

 充分に魔力を込めたそれを投げると同時に、走り出す。

 

「お悔やみ──」

 

 一瞬杖が輝いたと思えば楽器は真っ二つになる。一瞬で斬り捨てた。

 しかし、余裕が消えうせたのはアイーダの方だった。

 

「覚悟!」

 

 魔力の籠った楽器は壊れると同時に喚くような音を掻き鳴らし、アイーダの耳を塞いだのだ。

 ルールのない戦いに、それもどうとでも来いと言われたのでとすれば仕方ないが、ニコルも割とえぐい事をする。

 

「はあぁぁ!」

「ぐ……!」

 

 楽器の効力が残っている間に決着をつけようとしているのだろう。左右にステップを取り、僅かに聞こえているだろう足音での位置情報も渡さないように立ち回りながら猛攻を続ける。

 ほぼ何も分からないであろうアイーダは、たたらを踏みながらも気配に反応し機敏に受け止めているがいつまで持つか。

 

「むすー! んー! んんー!」

「リゴレーヌ」

「んむぅ? むー」

 

 思わぬ劣勢にリゴレーヌが騒ぎ出したので宥めようと思ったが駄目だった。

 ──幾度かの打ち合いの末、ついにニコルが一本を胴に決める。それと同時に、やかましい楽器も静まった。

 

「……見事です。剣士ニコル」

「はぁ……はぁ……はぁ……ありがとう……ございました……」

「まさか耳を塞がれるとは思いませんでしたが、それにしても相手の弱点を突くのは素晴らしい事です」

 

 表情は変わらないが、アイーダの声からは悔しいという感情が滲み出ている。自信があっただけに悔しいのだろう。

 

「姉ねえご無事か無事かやぷー!」

「大丈夫ですよ。リゴレーヌ」

「ぐぬぬぬ……ニコルよ! アイーダ姉ねえの仇!」

「……え、もう一戦ですか……?」

 

 流石に休ませてやれよ。

 

「止めはしないんですね……」

 

 俺が勝てるか怪しいと踏んだアイーダを倒したんだ。今ならリゴレーヌも越えられるよ。

 頑張れニコル。お前なら行けるって。

 

「流石にリゴレーヌさんは無理ですよぉ」

 

 リゴレーヌの方はやる気だぞ。

 

「えぇー……」

 

 

 

 

 

 ・・・・・

 

 

 

 

 

「お子ではなかったのですか?」

「ただの押しかけだ。最近は給仕として雇ってもいるけど」

「そうですか。細かな動き、剣筋も同じと思ったのですが」

「剣は勝手に盗んだんだよ。弟子じゃない」

 

 時間を空けて回復したニコルとリゴレーヌが相対する。

 リゴレーヌのスタイルは少し自分で変更したようで、もはや盾も装備せず両手に木剣を持ちそして構えてもない。

 ニコルの方は最初にあった時から変わりなし。基本に忠実だ。

 

「それでは始め」

「うむ! 今更紹介いらぬと思われしかとて名乗ろう道化師リゴレーヌ! 手合わせ願いたもうぞやー」

「よろしくお願いします」

 

 軽い手合わせならいつもしているもののニコルがリゴレーヌに勝てた事はない。

 ある程度は動きを読めても、結局は動物的な動体視力を持つ道化師に攻撃が当てられないのだ。

 

「あの子は伸びますよ」

「知ってる」

「長所であるしなやかな動きを失わず、豪胆果敢に力強く攻めこむ事のできる思い切りの良さ。有望ですね」

「ならアイーダが弟子に取るか?」

「いいえ。彼女はあなたの剣を目指しているのでしょうしそれはできません」

「……彼女?」

 

 前方に向かって跳びながら後方に回転する謎の跳躍をしながらニコルを蹴ったリゴレーヌが着地し、二転三転飛び回る。

 やはり身軽な道化師に剣は届かない。

 

「ニコルは確かに細身だが女と間違えるのは可哀想だぞ」

「それが一番失礼かも知れませんよ。人にもよりますでしょうが」

 

 ……ん? 

 あれ、待てよ。ニコルって女だったのか? 

 

「ご本人に確認はされましたか?」

「いやわざわざ聞かんだろ」

「決め手は?」

「そら、髪短くてボクボク言ってて」

「では本人からは?」

「一度も──」

 

 ──ボクは女ですよ父さん! 

 

「高鳴った鼓動。心当たりがお有りですね」

「いやいや待て待て」

 

 以前にリゴレーヌの胸元へ落ちた食事を拭いたときに不思議そうな顔もしていたような。

 あれ? 

 まさか、ニコルが隠してる事って? 

 

 素早く動き回るリゴレーヌに食らい付くニコルの様子を、やつの性別を決定付けるその証拠を掴もうと胸元へ視線が向く。

 しかし。

 

「……ダメだ、全然動かなくてわからん」

「お悔やみ申し上げます」

 

 後頭部に強い衝撃が走り、俺は気を失った──

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