弟子なんか取る気もなくプロフィールの確認を怠った事、勝手に俺が少年だと思い込んでいた事。
そして何より、女だと思い込み教えられても信じ切れずリゴレーヌと身体の一点を見比べてしまった事。
思いっきり後頭部をぶん殴られた事に対し文句は言えない。アイーダがまさか拳を使ってくるとは思いもよらなかったが。
「すまん」
「──いいですよもう。むしろ男風に振舞ってたのはボクも悪いですし」
曰く女だとバレたくなかったのだとか。
わざわざ男装していた理由については口ごもっていたので深くは聞かなかったが、まぁだいたいあれだ。舐められたくないとかそんな感じだろうどうせ。
ニコルが半分悪い気がしてきたもののそこはわざわざ言うまい。
ちなみに模擬戦の結果はやはりリゴレーヌの勝利だったようだ。
戦いなので奇術を自ら封じつつも身軽な動きで翻弄し、アイーダの居合を真似た一閃で盾を弾き飛ばしたらしい。
前にもアイーダの真似はしていたが、ニコルによるとよりキレが増してアイーダに近づいたそう。
「暗殺術をそう簡単に身に着けられると困るのですが」
さらっと言ってるがそう簡単に暗殺術を人に向けてるアイーダもどうなんだ?
「私はこれしか芸がないので」
危険を通り越して殺しに来てるようにしか思えない。
というかニコルと戦った時にさりげなく手持ちの仕込み杖使ってたし。
手作りできる簡単な物とはいえ真っ二つにしてたぞ、ニコルの楽器。
アイーダには見えないだろうが断面図が滑らかすぎる。
「楽器なりて!」
ずっと頭に両人差し指を当てて唸りながら揺れていた道化師が急に帽子のぼんぼんを発光させながら両手を挙げた。
「どうしたいきなり」
「この道化師リゴレーヌに足りぬものとは賑やかやかやにぎにぎ、足りぬぬがっしゃーん!」
充分賑やかだろお前。
「一芸覚えては足りぬぞ道化の奇術の枠組み囚われず! エレクトリカルソロパレード!」
そう言ってぼんぼんをより輝かせながら、帽子が七色に輝きだす。
流石に魔法だろうがどうなってるんだそれ。
というか前から気になってたがそのぼんぼんは何の素材を使ってるんだ。光らせてる今もそうだが、いつでも常に薄ぼんやり光ってるぞそれ。
「蓄光ぼんぼん帽子の先に? 御師様師様はこれをぼんぼんを称す? なりて! は、擬音!」
「じゃあ正式名称はなんなんだよそれ」
「ぼんぼん」
「当たってんじゃねぇか!」
突っ込みを入れると満足したのかリゴレーヌはけらけらと笑いながらポーズを決めて見ていた(片方は聞いていた)二人に向き直る。
しまった、無意識に道化師の舞台に立ってしまった。
「仲良いですね」
「良い事です」
ニコルは少し口を尖らせて皮肉交じりに、アイーダは微笑ましく軽く拍手を送る。
やめろお前ら。おっさんをからかうな。
「でもでもでもでも、御師様以前とお変わりなりてはまるまるまんまる!」
「お前だってこっちが理解できる言葉で喋ってくれるようになったじゃないか」
「元より言語は統一なりぞては変わりなく? そう変わらず。変わりては御師様の理解知識」
「悪かったな薄学で」
「そはつまりこのリゴレーヌめがニュー御師様!? 称えよ道化師回れよ世界!」
「お前が師匠とか地獄か?」
「ネオカオス!」
「自覚あんのかよ」
道化帽子を外して口を観客(偶然通りかかった冒険者)に向けた。
当然おひねりは飛んでこなかったが、代わりにニコルとアイーダが拍手を送る。
……二階から俺達のやり取りを酒のつまみにしてた連中が銅貨を投げ入れた。見世物じゃねぇぞ。
「見世物ですぞよ道化師舞台!」
「いいぞー! リゴレーヌちゃん、可愛いぞー!」
「拍手喝采調子を揃えてぱちぱちお声! 10を投げられ好評感謝! ありがとうございまして!」
あ、もうこれ道化師モードだ。帽子を被り直すとどこからかひとりでに転がってきた樽に飛び乗って自分のダガーを投げてジャグリングを始める。
二階にいる観客が見やすいように派手に、大げさに。
「さり気なく名前呼ばれてたけどいつの間にファンなんてできたんだ?」
「一人称が自分の名前ですし、それでは?」
「あー」
リゴレーヌが自分を呼ぶときは“リゴレーヌ”、“道化師”、あるいは“
前二つが舞台に立つ宣伝とすれば素は“吾”なんだろうけどそれはそれで珍しい。ニコルが“ボク”なのは理由はあるし納得するが、吾輩でもなく“吾”って。
「ふ、ふふふ。道化のふるまい目的記憶。つまりは二度と忘れぬ特徴持たせ。ゆえにゆえゆえなりぞて理由!」
樽から落ちた。
「もが! もがもがもが? ももも!」
硬い地面をもろともせず頭から突き刺さって逆さになった道化師はさておき、そろそろ腹が減ったな。
「何か作りますか?」
「お前も疲れてるだろ。適当な店にでも入るか」
「ごちそうさまです」
「奢ってもらう気まんまんだなおい。当然そうだが」
「……リゴレーヌの座標がおかしくないですか?」
地面に半分埋まってばたばたと荒ぶっている道化師にアイーダが困惑しているが、それに付き合っていたらキリない。ニコルも慣れたものでスルーして会話してくれた。
ほっといても満足すれば追いかけてくるだろう。
「おわーっ! バグレーヌがえらいことに!」
「いてっ」
荒ぶりまくって質量を無視して伸びた帽子がばちばちと当たって痛いんだが。
見ればいつの間にか樽の中に収まり手足を伸ばしているリゴレーヌが樽ごと転げ回りながら帽子を振り回してる。
なんだあれどうなってんだ。
「たーるっ! たる! わはは、これぞタルレーヌ!」
「大丈夫ですか?」
近づいたアイーダが樽部分のみを斬り捨てた。手元が見えなかったがそれもそれですごいな。
「アイーダ姉ねえ助かり申し。御師様ニコルは薄情なりて!」
「狼少年という逸話もあります。程々に」
「ふむむむ普段がやり過ぎた? 反省反省」
もしかして本当にダメな感じだったのか?
全然余裕な感じだったが。
「と、いう芸!」
「分かりにくいですよ」
「いげういと?」
「はい」
それ会話できてるのか?
「では行きましょう」
「おなかペコペコペコレーヌ! リゴレとバグレとタルレとペコレ! ェーヌ!」
「何か食べたいものはありますか?」
「姉ねえお任せ御師様任せ!」
「……だそうです」
店の指定はないと。
流石長年付き合っているだけあってリゴレーヌとの会話自体がスムーズ過ぎる。