狂った道化師を拾った話。   作:親友気取り。

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食事事情。

 店に入り椅子に座らせても、パンを目の前にしてもきょろきょろと周りを見渡しているリゴレーヌには状況が一切伝わらなかったらしい。

 

「メシだ、メシ。お前の」

「おややや、リゴレーヌは笑わない食事でしょう? まだですですだま。公演は行っておりません」

「人を笑わせなきゃ食わないってか」

「そう師に教えられたので。おや、でも今は師匠はあなた様でしょうでしたかな? ふむむ」

「今の師匠は俺だ。食っていいっつったら食え」

「分かりました!」

 

 そう言って躊躇いなくかぶりつく。

 もし俺は公演をしないと言えば餓死するまで食べるつもりもなかったのだろうか。

 

「むぐ……。流石にお水は飲みましょうですよ、します飲みます。倒れるなんてもったいない」

「お前の中の常識が知りたいよ、俺とは全く別な所で生きてる」

「それもそのはず他人です。まさかリゴレーヌが2人? いえいえどちらか偽物です、当ててみましょうトリックです」

 

 両手を合わせて開くと、中から人形が出てきた。

 リゴレーヌの左手の指の動きに合わせて動き、ぺこりとお辞儀をする。

 道化師の格好をさせているし、これが偽物のつもりだろう。

 

「おやっや、ややや。残念! こっちは偽物です」

「あ、おい!」

 

 人形を持っていたリゴレーヌが急に力を抜いて、椅子から転げ落ちる。

 慌てて席を立つと、もうどこにもいない。

 

「じゃんっ」

 

 声がしてテーブルの上を見ると、糸吊り人形がひとりでに動いて両手を広げていた。

 

「おい、まさかこれがお前だって言うんじゃないだろうな」

 

 問いかけると、人形も力が抜けてへたりこむ。

 

「正解はこっちでぇす!」

 

 何かに釣り上げられたかのように、目の前の席へリゴレーヌが地面から戻ってきた。

 動きもそうであるが、今の瞬間は一体その肉体をどこへ消し去っていたのか。

 というかそもそもその人形もどこから出したのか。

 

「……食事の時くらい静かに食え」

「あらま、あらままらあらま。怒られてしまい申した」

 

 今日のナイフ投げといい、魔法の才能でもあるのか?

 王宮の魔術師でも透明になる魔法や複製する魔法なんてものはできないと聞くし……。

 

「焦る事はないか」

「?」

 

 例えとんでもない大天才だとしても、それを活かせる思考はしてない。

 リゴレーヌは道化師として何かをしようと無意識に力を使っているだけだ。

 幼少期に偶々魔法を使えたからといってそれが天才だという保証はないという話もある。

 

「そういえば、お前はどうして道化師を始めたんだ?」

「ふん?」

「答えたくないならいいんだが」

 

 そう聞けばリゴレーヌには珍しく少し悩んだ顔をしたので、先に止めておく。

 

「道化師とは仮面で素顔を隠したものなんです。おいそれと話す事ではない」

「理由はともかく、少なくても事件でも起こしてなきゃいいさ」

 

 

 

 

 

 

 その帰り道、家へ向かっている途中で突然リゴレーヌが「あっ」といい足を止めた。

 

「どうした?」

「んーん、ふっふー。ところでリゴレーヌは今日の公演があります。ありました。あれま」

「公演?」

 

 別にそういった話は聞いていなかったが。

 というかそもそも、雑技団は解散したんじゃなかったか。

 

「猛獣の世話もあります。こればっかりは譲れない」

「待て、猛獣ってなんだ」

 

 隠れてどこかに虎でも飼ってたのか?

 もしかして俺はとんでもない奴を弟子にとっちまったのか。

 いや、もう戻れん。

 

「……案内してくれ」

「人はそれを楽屋裏と言います。言いました? 違う気も。ではこちらへ。ちらへではら」

 

 奇妙な言い回しをする小さな背中を追って迷路のような裏路地を進むと、俺でも見覚えのある場所に辿り着いた。

 俺が初めてリゴレーヌを見たあの一角だ。

 

「今日の公演についてくるものは尻尾を立てよー」

「猛獣って、猫の事か」

「良いでしょう良いでしょう?」

 

 声をかける……と言うよりも姿を見せただけですり寄り、屋根に乗っていたのが頭に飛び乗るくらいには懐かれている。

 

「って事は、それでマスターの所か」

「そうですそうです。観客にいた御師様がリゴレーヌを引き抜いたあの場です」

 

 ちらりとカーテンから覗くリゴレーヌの生活スペースを見れば、芸に使ったであろう小道具の数々が見えた。

 他には替えの服や寝るスペースも見えないし、楽屋と居住スペースは別なのだろうか?

 移動した先はやはりマスターの酒場だったので、途中で別れて俺は店内へ行く。

 俺は道化師でもないし客席へ行くと言えばひらひらと手を振ってくれた。

 

「マスター、ちょいと話があるんだが」

「知ってるよマックス。あの子を弟子に取ったんだな」

 

 席に着くと同時にマスターがサービスとして一杯くれる。

 

「常識のない奴だ。まだしばらくは事あるごとにここの裏手に来るだろうが……」

「ああ、いいのさ。いつの間にふらっと消えられたらと心配で堪らなかったところだ。マックスが引き取ってみてくれるのなら安心だ」

「……正直、俺もどう接したらいいのかわからんがな」

「子供もいないんだ。手探りでしょうがないさ」

 

 さて、と締めてマスターが裏手へ向かう。

 公演の時間だ。

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