狂った道化師を拾った話。   作:親友気取り。

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行儀

「あは? わぁーは!」

「ふふふ。リゴレッタも喜んでいますね」

 

 リゴレーヌの腕の中で似た名を与えられた鶏が逃げようと奮闘するが、するりするりと蛇使いの芸のように見事に遊ばれていた。

 どう見ても喜んではいない。むしろ暴れてる。

 

「ふえっへんふふふ、くすぐったい」

 

 顔を埋められている鶏のリゴレッタはとても嫌がり、翼を広げて抵抗した。

 アイーダはそれを無表情ながらも微笑ましく見守っているが、ここは飲食店だ。あまりペットを持ち込まない方がいいのではないだろうか。

 

「むぅー、御師様師様は厳しかしかしか」

「我儘を言ってはいけませんよ。申し訳ございません」

「さらばらはらりリゴレッタ。()はらわいつでもリゴレーヌ……」

 

 とても寂し気に呟いて鶏を道化帽子へ収納した。

 

「また出禁にされないか不安ですね……」

「これでも以前に比べたらマシになったんだし大丈夫だろ」

「本当ですか?」

 

 不安げに尋ねるニコルが指さすリゴレーヌの帽子は、中で何かがうごめいていた。

 何か、と聞くまでもなくさっきの鶏なんだろうけど。

 いつもの瞬間移動で家に飛ばさず名残惜し過ぎて隠し持ってやがる。

 

「リゴレーヌ」

「そはなんぞや?」

「帽子の中を見せてみろ」

「やなり」

 

 首を横に振って嫌がる。

 

「それ取ってみって。絶対なんかいるから」

「なんもなし。おらぬは無しにもリゴレッタ!」

「いやほらなんか動いてるって」

 

 内側で存在を主張する鶏が帽子に穴を開ける勢いで暴れてるんだが。

 

「えいっ」

 

 後ろに回り込んでたニコルが帽子を引っ掴んで取った。

 

「あ、あれ?」

「ほららほらほら何もおらぬや」

 

 道化帽子の中には何もいなかった。

 リゴレーヌの頭には勿論として帽子の中にも。

 

「リゴレーヌに変な疑いを持つのはおやめください」

「え、これ俺達が悪いのか?」

「マックスさん……」

「おいニコルなんでお前がそっち側なんだよ」

「疑い疑われはひどいなり」

 

 帽子が元に戻るとやはり中で何か暴れている。二つ山の帽子だったのがぼこぼこなんか伸びまくってる。

 恐らく帽子を外した一瞬だけどこかへ移動させてたんだろうけど、鶏のリゴレッタが不遇で仕方ない。

 

 先ほど注文していた料理が人数分運ばれてきてようやく食事となる。

 よくやく食事となるが、運んできた店員がもの凄い目で見てたぞ。

 

「リゴレーヌは猫と会話できますが、鳥の言葉は分かりませんか?」

 

 この場にいる誰よりも姿勢礼儀の正しいアイーダがふと尋ねる。

 当たり前のように言ってるが前提である猫と会話の時点で何かおかしい。

 しかし、動物と会話をするというのは心当たりがある。

 アイーダのいた屋敷へ行ったときにリゴレッタを追いかけたリゴレーヌは、まるで言葉がわかってるかのように話していた。

 心を読む、とは違うだろうがまだ隠し芸があるのかこの道化師は。

 

「うむ! 道化師その名はリゴレーヌ、心通わせ一芸成功なられやなれや!」

「流石です。では、リゴレッタが何か要求しているものは分かりませんでしょうか?」

 

 帽子の中から鶏を取り出すと、顔を近づけてみる。やっぱり帽子の中にいるじゃないか鶏。

 リゴレッタが嘴で抵抗するがミリで避けられた。

 

「“自由が欲しい”とは申す」

「……自由、ですか」

「むむむいリゴレッタやレッタ、自由とはなんぞや? そは自由を知りうるなりてか?」

 

 鶏に哲学を問うな。

 

「では好みの食事でも。私が用意したものはあまり好まないようですので」

 

 そういって自分の食事から唐揚げを分け与えているが、食事云々というか共食いは流石にしないだろう。

 ぐいっと口元へ近づけるがやはり食べない。というか鶏らしからぬ程の顔芸で拒否している。

 それを見てリゴレーヌは新たな芸を発見したと喜んでいるが、どう見てもリゴレッタの方は喜んでいない。

 似ているのは名前だけでリゴレッタも道化師被害者の会に入会できるな。

 

「穀物が食べたいと申す? 好み嫌いは仕方あるまし!」

 

 アイーダの持っていた唐揚げをぱくりとリゴレーヌが食べた。

 

「ふもふも」

「ふふ、リゴレーヌはお好きなようですね」

「あむ! アイーダ姉ねえ敬い申す!」

 

 ちなみにアイーダは手で食べさせようとしていたので現在その手ごと食べられている。

 

「アイーダさんって本当にお姉さんって感じですよね」

「まとめ役って感じだな。そして道化馬鹿のストッパーでもある」

「ボク達には一切制御できなかったリゴレーヌさんがあんな簡単に……」

「お前も疲れてたんだな……」

 

 一応は給仕の他にリゴレーヌへの作法教授も含めて雇っていたのでニコルも道化空間にやられていた。

 ちなみに作法や知識はリゴレーヌの方が詳しい。道化のおふざけで全く無視されているが。

 元サーカス団員のふたりはふたりで盛り上がってるので俺達は俺達で話をしよう。

 どうなんだ、最近は。殆ど教えてないというかほぼ給仕の専門と化してるけど。

 

「一回だけ、一回だけですよ?」

「何が」

「もの凄いまともというか、急にきちっとしてくれたんです。恰好はいつものままなのに、まるで別人みたいで……。ボク必要ないじゃないですかぁ」

「まぁ食事作法は必要ないかもな。だけどな、俺にお前は必要だよ」

 

 主に俺の心労を分け与える存在として。

 

「ほ、本当ですか?」

「ああ。なんだかんだ言って悪かった。お前がいなきゃ今頃……」

 

 とっくに発狂していた。

 

「マックスさん……」

 

 ニコルが凄い感動しているが、横に視線をそらしてみろ。

 

「見よこの道化師鶏芸ーっ!」

「あああ、リゴレーヌさん座ってください!」

 

 近くの空いたテーブルに立ち鶏を自由自在に操る道化師様が芸を披露している。

 止めるのは任せたぞ。

 

「この店ももう終わりか……」

「マックスさん諦めないでください!?」

 

 いやもう無理でしょ。この店の客と店員の視線と、ああもう言い逃れできない。

 アイーダはどうして止めなかったんだ?

 

「……すー……」

「寝てるし」

 

 いつの間に寝たんだこのメイド服は。

 

「なるほど。誰にも注目されてなかったのが堪えたのか」

「分析してないで止めてくださいよぅ!」

「お呼び呼びびび? なんぞやお二人!」

「飯食ったら帰るぞ」

「はいな!」

 

 席に着いたリゴレーヌはアイーダのメイド服からエプロン部分をするりと奪うと装着し、行儀よく食事に手を付ける。

 普段のふるまい、先ほどの落ち着きのなさはどこへ行ったのか。同一人物かも怪しいほどの美しさもある正しさだ。

 

 ……まぁ、ずれたことをして突っ込みを貰いたいネタフリなんだろうけど。

 というか人の物を取っておいて礼儀も何もないが。

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