狂った道化師を拾った話。   作:親友気取り。

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『何人も語ることなし』

 

「劇ー、劇ー」

 

 元の口調に戻ったリゴレーヌがふんふんと鼻を鳴らしながら歌っていた。

 舞台の準備はもう整い、残りは年少の子供達の衣装合わせ位なものらしい。袖というか後ろの建物からニコルがあたふたと走り回ってるのが見える。ああも普通の恰好をしていれば流石に年相応の少女に……いやなんか男っぽいなやっぱ。

 再び居眠りを開始したアイーダが足をぱたつかせるリゴレーヌに合わせて揺れ、長閑なものだ。

 

「ん」

 

 長閑だと口にすれば平穏もすぐ崩れるのだろうか?

 ご機嫌だったリゴレーヌの雰囲気が変わった。その原因は言わずと分かる。

 

「知り合いでも来たか?」

「いいえ」

 

 縁も過去も切り捨て他人と割り切っても記憶が消えるわけではないし、一応人間であるリゴレーヌもすっぱり切り替えられるわけでもない。

 彼が、例の父親が現れたのだろう。

 才能に嫉妬した、人気を奪われた、将来地位すら奪われるかもしれない……身勝手なそれだけで愛娘の人生を狂わせた、いいや愛娘というほど愛していたのかも怪しいクソ親父。

 会ったこともないのに散々な言いようだと批判されようが、俺の評価はそれだ。

 

「……」

「どうした()()()()()

「いいえ」

 

 とはいうが、こちらがいくら「こいつはリゴレーヌ」としらを切ったところでじっくり顔を見られてしまえば隠し通せない。リゴレーヌの動揺もひどすぎる。

 だったらもう顔も隠してしまうか。

 クソダサマスクを被せ、パピヨンマスクを装備させ、ついでと悪戯心に眠っているアイーダからメイドカチューシャを奪ってつけて、出来上がったのはお祭りに浮かれた子供。

 ゴチャつき過ぎて意味不明なシルエットだが。

 

 そんなこんなをしていると、こつん、こつん、とやけに大きく聞こえる足音が耳に届いた。

 雑多な町中とはいえ、まっすぐこちらへ向かってくる気配位分かる。

 

「祭りは楽しいか?」

「いいえ。……あ、いや、うむ……うん!」

 

 俺は冒険者、安定のマックス。その名は安定して依頼を達成するとは別に、その気になればいかな事でも誤魔化せる面の厚さを出せる事にもある。

 動揺せずにいつもの雰囲気を安定して出し、つまりは交渉も得意だという事だ。

 ……最近はペースを乱しまくる連中だらけでそんな感じの欠片も出せてないが。

 本来の俺はな、戦いだけじゃなくて悪だくみも得意だったんだよ。誰も信じてくれそうにないが手回しも得意だったんだよ。てかパーティーで誰もやってくれなかったんだよそういう細かいの。

 リゴレーヌのいうこの世界を見ているであろう観客とかに言い訳をしていると、目の前で男が立ち止まった。

 

 コートを羽織った、顔は少しやつれているように見える中年だ。

 服装は整えているがとても宮廷道化師のような服装ではない。地味な普通な感じだ。

 道化師だからといって普段からそんな恰好をしているわけでもないのだろうけど。

 

「やあこんにちは」

「何か用か?」

「ええ、少し娘を探していまして」

 

 にやりと嫌な事に最近よく見る笑い方と似た顔をしながら俺の隣を──仮装しているリゴレーヌを見た。

 リゴレーヌの方はそれに気が付いているのかいないのか、ゆらゆらと揺れるのみで何も語ることはない。

 今はそれでいい。俺が相手をしよう。

 

「大人を真似して自分の事を(われ)と呼んでしまうような変わった子でして。名前はヘンリエッタというのですがね?」

「悪いが聞いたことないな」

「そうですか」

 

 残念ながら一人称を我としている少女も、そんな名前も聞いたことがない。

 その気になれば出せる顔の厚さも出す必要がなさそうな位簡単な質問だ。

 想定内ではあるが。

 

「知らないとは残念でした。ではこれにて失礼します」

 

 俺の内面を見透かしたかのように気味悪く笑った男が背を向けて去っていく。

 あまりにもあっさりと諦めて去ったので腹を疑ってしまうが、しかしあれがリゴレーヌの父親か。

 まさかと思うがあいつもリゴレーヌと同じくこの世界が舞台云々とかして来ないだろうな。恐ろしい。

 

 男の背中が見えなくなりもうこちらの会話も絶対に聞こえないであろう程時間を開けて。

 眠っていた筈のアイーダが杖を手にしてついに動いた。

 

「さて、消し去りますか」

「待て」

「私の技術は闇へ還す為にあります」

 

 暗殺を回りくどく言うな。

 相手はあくまでどっかの国王お仕えの宮廷道化師。つまりは名有りのお偉いさん。

 そして今日ここへ来たのは恐らく視察。

 視察中に不審な死を遂げれば俺達というか、国際問題になりかねん。

 

「ご安心を。死体すら残さなければいいのでしょう?」

 

 聞いてたか? やめろと言ってるんだ。

 

「肉片全て粉微塵に斬り刻み血しぶきを上げる間もなく蒸発霧散させますので」

 

 殺意が高すぎる。

 

「……お、おしさま……」

 

 アイーダを宥めていたら押し黙っていたリゴレーヌが小さく呟いた。

 色々盛り付けられているので小声になってよくわからないがどうした。

 見ればぐらんぐらんと揺れている。

 

「これ……息苦しく思ふ……」

 

 カチューシャをアイーダに返し、パピヨンマスクとクソダサ仮面を外してやる。

 

「ぷはっ。着け方間違い……空気無く……」

「それは、すまん」

 

 急いで雑に付けたせいで酸欠気味らしい。

 だが誤魔化せたんだしいいだろう。いつもの理不尽の仕返しだ。

 

「不安は絶えませんが、向こうから何もしなければこちらからすることもないでしょう」

「さっきまで殺しに行こうとしていたやつの言う事か? ……だが、まあそうだな」

 

 自身と関係のない所で平穏に暮らしている娘をわざわざ探しに来たのは気になるがな。

 似た姿を見かけて思うところあって探したか、あるいは何の目的があったか。

 どこからか取り出した水を飲むリゴレーヌを見ると、視線に気が付いたのかこちらを見上げた。

 大人の事情に子供を巻き込むなと説教垂れてやりたいが、俺も娘をほっぽった立場上言える口でもない。

 誤魔化すようにでかい帽子越しに雑に頭を撫でる。重心が不安定な帽子がぐらぐらと振動した。

 

()(われ)はここにありても吾のみここにいて、(あわ)れなるかな会われなし。心情不明の信条不明、かの者またもや手出しの恐れ」

「……また来るってか?」

「この町巻き込むなられば吾も容赦せぬ。アイーダ姉ねは手出し不要」

「そうですか?」

 

 あ、これ本気で消し去るやつか。

 リゴレーヌが本気で戦うところは見てみたいが、絶対に思ってるようなことにならない。

 そしてアイーダも止められなければやはり殺しに向かっていたかもしれない。

 

 何にせよ町を巻き込むことにならなければいいがな。

 

「って言うと、なんか起こりそうだな……」

 

 目先の舞台上には孤児院の子供たちが並ぶ。

 ようやく始まりらしい。

 

「……遅れてる」

 

 隣のリゴレーヌが小さく呟いた。

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